「や、やったーっ、血威布の大勝利じゃーっ!!」
「ああ、相手の考えを読み切っての完全勝利だ」
勝利に沸き返る町田塾陣営に、傷ついた血威布が帰り着く。
「やったな」
「うむ・・・だが噂に聞く堕悪様名の実力が、『あの程度』とは思えん。
次の戦いは、さらに厳しいものになるだろう」
「そうだな・・・」
「なんてやつだ、自分の仲間を・・・」
「敗者には死を、か・・・。
だが、『それだけではない何か』を感じたな」
「それよりも、あの剣・・・」
「うむ、あれこそまさに、伝説といわれた一文字流斬奸剣」
「まだ使い手が残っていたとは・・・」
かつてLv64幽鬼テンドウが、組の用心棒として雇っていた謎の 二号生筆頭から習った剣術が始めとされる。最初はあらゆるも のを切断する剛剣だったものが、悪魔であるテンドウの独自の 改良により、斬ったものの存在を消滅させる、魔剣へと変化し た。その威力は比類なく、防ぐのが大変困難とされるが、放出 される魔力があまりに強いため狙いがさだまらず、安定性に欠 けた。そのため多くの剣士に敬遠され、使い手は稀であるとい う。 その反面、テンドウの名は剣術の祖として広く伝わった。現在 日本で普及している剣道が、彼の名から取ったものであること は言うまでもない。 民明書房刊『ヤクザと剣術 その起源』より |
「斬奸剣だか斬岩剣だか知らんが、今度こそわしの出番じゃー っ!!」
「な、なにをーっ、俺の出番だ!!」
「・・・相手は実態が深く知られていない未知の剣。しかし、それが武具であることには変わらない。
ここは俺の出番だ」
「お、お前は、弓月(ゆみつき)ーっ!!」
「はっ!!」
身軽に跳んだ弓月は、一瞬にして闘場に降り立つ。
「町田きってのアイテム破壊のスペシャリスト、弓月・・・」
「ああ、奴の前ではいかなるアイテムも無力と化す」
「ふっ、ひさしぶりに奴の東海流弓術が見れそうだぜ」
「おかしい・・・弓月にしては、攻撃が単調すぎる。
あれでは少し腕に覚えのあるものなら、造作もなくかわせる」
「いや・・・弓月はあの矢を当てようとしているのではない。
もとより、ただ射るだけでは当てられないのは、弓月が一番よくわかっているはずだ」
「なに、それでは」
「ああ・・・弓月は、『かわし方を覚えている』」
「や、やったーっ!! ついに弓月がとらえたぜーっ!!」
「うむ、恐るべきは東海流弓術の技の冴えよ」
平安時代よりつたわる伝統ある弓術である。その始祖である、 Lv12鬼女の亜稚江理(あちぇり)は数々の奥義を生み出し、中で も三連貫は同時に三つのアイテムを破壊した上に、そのあまり の速さゆえ消費する魔具根対斗(まぐねたいと)が20だけであっ たという。さらに魔弓を使用するため常に破魔矢が補充され、 矢玉が尽きることはなかったという。 なお、現在では洋弓をアーチェリーと呼ぶが、その語源が亜稚 江理であることはあまりに有名である。 民明書房刊『魔弓と書いてマユミと読む』より |
「ど、どういうことだ、斬奸剣の正体って? 弓月はなにを言ってるんだ?」
「わからん・・・だがやはり、奴の斬奸剣には何か秘密があるようだ。
弓月は無意味なハッタリなど言う男ではない」