「や、やったーっ、血威布の大勝利じゃーっ!!」

「ああ、相手の考えを読み切っての完全勝利だ」

勝利に沸き返る町田塾陣営に、傷ついた血威布が帰り着く。

「やったな」

「うむ・・・だが噂に聞く堕悪様名の実力が、『あの程度』とは思えん。
次の戦いは、さらに厳しいものになるだろう」

「そうだな・・・」






「す、すまねえ、油断しちまった・・・」

堕悪様名陣営に帰った大巣(生きてた)が、力尽きてへたり込む。

その前に一人の男が立った。

油断だと・・・?
まだわからんのか。貴様では到底かなわぬ相手だということが」

「そ、そんなことはいってもよ・・・次こそは、次はあんな奴に遅れは」

「愚かな。堕悪様名の掟を忘れたのか? 貴様に次はない

言って、男が剣を抜く。その男の背丈ほどもある、長大な剛剣だ。大巣の顔が青ざめる。

「ま、待ってくれ。もう一度、あと一度だけチャンスを・・・」

「そうやって、次があると考えているから、甘さが生じるのだ。
それがわからぬ男に用はない」

「た、助けてくれ!! お願いだ!! もう、し〇り萌えとか書か ないから!!

問答無用!!

剛剣が、うなりをあげながら振り降ろされる。

誰がメ〇ラーだあああああっっっ!!!

ぎゃあああああああッッッ!!

無残に断ち切られる大巣。それはもう、書いてて辛くなるぐら いに。

「・・・一文字流斬奸剣この世に斬れぬものはなし」

言うなり、斬られた大巣の身体が、虚空に溶け入るようにして 消える。

男は抜き身の剣をひっさげたまま、闘場へと下りた。

「わしの名は太刀剣(たちけん)。来るがいい、町田塾の戦士たちよ。
だが、先程の未熟者と一緒にしないことだ。・・・死ぬことになる」






「なんてやつだ、自分の仲間を・・・」

「敗者には死を、か・・・。
だが、『それだけではない何か』を感じたな」

「それよりも、あの剣・・・」

「うむ、あれこそまさに、伝説といわれた一文字流斬奸剣

「まだ使い手が残っていたとは・・・」




一文字流斬奸剣・・・


かつてLv64幽鬼テンドウが、組の用心棒として雇っていた謎の
二号生筆頭から習った剣術が始めとされる。最初はあらゆるも
のを切断する剛剣だったものが、悪魔であるテンドウの独自の
改良により、斬ったものの存在を消滅させる、魔剣へと変化し
た。その威力は比類なく、防ぐのが大変困難とされるが、放出
される魔力があまりに強いため狙いがさだまらず、安定性に欠
けた。そのため多くの剣士に敬遠され、使い手は稀であるとい
う。
その反面、テンドウの名は剣術の祖として広く伝わった。現在
日本で普及している剣道が、彼の名から取ったものであること
は言うまでもない。

民明書房刊『ヤクザと剣術  その起源』より





「斬奸剣だか斬岩剣だか知らんが、今度こそわしの出番じゃー っ!!」

「な、なにをーっ、俺の出番だ!!」

「・・・相手は実態が深く知られていない未知の剣。しかし、それが武具であることには変わらない。
ここは俺の出番だ」

「お、お前は、弓月(ゆみつき)ーっ!!

はっ!!

身軽に跳んだ弓月は、一瞬にして闘場に降り立つ。

「町田きってのアイテム破壊のスペシャリスト、弓月・・・」

「ああ、奴の前ではいかなるアイテムも無力と化す

「ふっ、ひさしぶりに奴の東海流弓術が見れそうだぜ」






「俺の名は、弓月。貴様の対戦相手だ」

「・・・斬奸剣の威力を知りつつ戦いを挑む以上、少しは腕に覚えがありそうだな。
それが過信でないことを祈るばかりだが」

「確かに、知っている。
・・・わからんのか? だからこそ、きたのだ」

「なんだと?」

「斬奸剣は、確かに一撃必殺の無双の剛剣・・・

だが、その扱いは難しく、熟練者でも対象に当てるのは至難の業だと聞く。

最高の威力も、当たらなければ無力に等しい」

「・・・・・・フッフフフ・・・ワーッハハハハハ!!
なるほどな、少しは武具に精通しているようだ。
だが、甘い。このわしは厳しい修行の末に、この斬奸剣を制御することに成功したのだ!!

なにっ!?

いくぞ!!

太刀剣が走る。斬奸剣が打ち振られ、吠えた。

一文字流斬奸剣!!

「むうっ!!」

横薙ぎの一撃を、弓月は辛うじて跳んでかわす。

「まだまだあっ!!」

さらに逆袈裟の斬撃。これも紙一重でかわす。

「ば、馬鹿なっ

確かに、太刀剣は斬奸剣を完全に操っていた。伝え聞く不正確 さなど、微塵もない。

弓月は一度大きく跳んで、間合いを取った。

「フッフフフ、これでわかったか。我が完成された剣に隙はない。剣の乱れを期待するのは諦めるのだな」

「・・・なるほど、よくわかった。
ならば、こちらも本気にならざるを得まい。
見せてやろう、我が東海流弓術の奥義を」

弓月は、背中の弓を手に取った。すると自動的に、矢筒に矢が補充される。

「ほう、その弓は魔弓か」

「その通りだ。そして貴様も武器使いなら、知っていよう。その天敵たる破魔矢の存在を」

「なるほどな、破魔矢でこの斬奸剣を破壊しようというわけか。
だが、わしは体術にも自信があってな。見事、当てることができるかな?」

「自分で確かめるんだな。
はっ!!

弓月がつがえた矢を解き放つ。

すさまじいスピードで進むそれを、しかし太刀剣は軽々とかわす。

「フッフフフ、この程度か?」

はっ!!

答えず、弓月は矢を放つ。だがまた、太刀剣は余裕をもってかわした。

さらに数本の矢を放つが、太刀剣にはかすりもしない。






「おかしい・・・弓月にしては、攻撃が単調すぎる
あれでは少し腕に覚えのあるものなら、造作もなくかわせる」

「いや・・・弓月はあの矢を当てようとしているのではない。
もとより、ただ射るだけでは当てられないのは、弓月が一番よくわかっているはずだ」

「なに、それでは」

「ああ・・・弓月は、『かわし方を覚えている』






「どうした? もう終わりか?

動きを止めた弓月に、太刀剣が嘲弄の声をかけた。

弓月は、フッと笑う。

「ああ、もう終わりだ。『もう、覚えた』

なに?

行くぞ!!

弓月が再び矢を放つ。

「これがどうしたというのだ? こんなもの、こうして簡単に・・・
なにっ!?

一の矢をかわした太刀剣。しかし、そのかわした先に二の矢が飛んできている。
それをなんとかかわしても、そこにまた矢が飛んでくる。後はその繰り返しだ。

「き、貴様・・・!!?」

「わかったか? さきほどまでの攻撃は、貴様の回避行動のくせを見抜くためにやっていたこと。
東海流弓術の極意は、無尽蔵の矢玉を活かした戦術にこそある」

くっ!!

必死にかわす太刀剣。しかし、長大な斬奸剣を、無数の矢から守るのは容易ではない。

「そこだ、東海流奥義三連貫!!

弓月三本の矢を同時に放つ。余裕のなくなっていた太刀剣は、とうとう斬奸剣矢を当てられてしまった






「や、やったーっ!! ついに弓月がとらえたぜーっ!!」

「うむ、恐るべきは東海流弓術の技の冴えよ」




東海流弓術・・・


平安時代よりつたわる伝統ある弓術である。その始祖である、
Lv12鬼女の亜稚江理(あちぇり)は数々の奥義を生み出し、中で
も三連貫は同時に三つのアイテムを破壊した上に、そのあまり
の速さゆえ消費する魔具根対斗(まぐねたいと)が20だけであっ
たという。さらに魔弓を使用するため常に破魔矢が補充され、
矢玉が尽きることはなかったという。
なお、現在では洋弓をアーチェリーと呼ぶが、その語源が亜稚
江理であることはあまりに有名である。

民明書房刊『魔弓と書いてマユミと読む』より





斬奸剣を失った貴様に、もう勝ち目はあるまい。
ここで負けを認めるのなら、命は助けてやろう」

「・・・勝ち目がないだと? 貴様の目は節穴か。
よーく、わしの剣を見てみるがいい」

「・・・なっ、馬鹿なっ、これは・・・?

斬奸剣に突き刺さった破魔矢。

しかし、砕け散ったのは、破魔矢の方だった。

「フッフフフ、貴様は茶番につきあっていたというわけだ。
剣士である以上、わしとて当然、破魔矢を警戒する。
だからわしの斬奸剣には、不意時軽画亜戸(ふぃじかるがあど)が施してあ るのだ」

くっ・・・!!

計算外の出来事に、弓月は歯噛みする。

しかし同時に、疑問が生まれた。

(馬鹿な・・・斬奸剣の膨大な魔力だけでも制御困難だというのに、別の術など施していれば、人間に扱えるはずがない
なにか・・・なにか、秘密があるはずだ)

「・・・これでわかっただろう。破魔矢などいくら撃っても、無駄なこと。この斬奸剣は壊せはせん。
さあ、おとなしく覚悟を決めるのだ」

太刀剣が正眼に構え、走った。破魔矢を警戒する必要がないため、真っ正面からの攻撃だ。
そして弓月にはそれに対抗する手段がない。

(これまでか・・・)

諦めかけた弓月。しかしその寸前、『あるもの』が目に入った。

(あれは!!)

気づくと同時、弓月は跳び、斬撃をかわしていた。

「貴様・・・往生際が悪いぞ。破魔矢が効かない以上、貴様に勝機はない。
おとなしく、我が剣を受けよ」

「果たしてそうかな? ・・・見切ったぞ、斬奸剣の正体を」

なにいっ!?






「ど、どういうことだ、斬奸剣の正体って? 弓月はなにを言ってるんだ?」

「わからん・・・だがやはり、奴の斬奸剣には何か秘密があるようだ。
弓月は無意味なハッタリなど言う男ではない」






「・・・くだらん冗談だ。お前にわしを倒すことなどできはしない。
破魔矢しか持たぬお前に、何ができるというのだ」

東海流弓術を甘くみないことだ。
結局、お前はその破魔矢に敗北するのだからな」

「ほざけーっ、今度こそ一刀両断にしてくれるわーっ!!

突進する太刀剣。その動きをじっと見つめ、弓月は微動だにしない。

剣の間合いになり、横薙ぎの一撃が来て、はじめて弓月は跳んだ。

「今こそみせてやろう、東海流弓術の真の恐ろしさを」

空中で身をひねりながら、矢をつがえる。狙うはごく小さな、ただ一点

東海流弓術極奥義・纏劾針点(てんがいしんてん)!!(注:1)

放たれた矢は正確に、ある一点をとらえた。

斬奸剣ではなく、太刀剣の拳のある一点を

「き、貴様・・・!!

太刀剣の顔が驚愕にゆがむ。

破魔矢によって砕かれたのは、指輪だった。

「それこそが貴様の斬奸剣の秘密・・・我寧車輪具(がねいしゃりんぐ)だ。
厳しい修行などではない、単にその指輪の力を借りて斬奸剣を制御していたにすぎなかったのだな」

くっ・・・

剣を持つ太刀剣の手が震える。それは決して怒りからくるものだけではなかった。

「そして指輪の力を失った今、剣は暴走をはじめる

「う、うおおおおっ!?

いままでコントロールされていた魔力が一気に噴き出し、太刀剣はめくら滅法に剣を振り回しはじめた。

否、振り回されているのは、太刀剣の方だった。

「暴走した剣を手放すこともできないお前は、もはや格好の標的
・・・ところで、弓矢というのは、人も射ることができるのを知っているか?」

「や、やめろ、ひいいいいいっっ

非情に響く弦の音。鏃は太刀剣の胸ぐらを深々と突き刺した。



つづく

注:1 字は変換の都合で若干違っています。

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