「よっしゃーっ、これでわしらの二連勝じゃーっ!!」

「さすがは弓月だ。まさか、破魔矢を武器として使うとは」

「ああ。味方ながら、全く恐ろしい奴だぜ」

「ワッハハハ、見ろ堕悪様名の連中を。みんな青い顔して固まってやがるぜ!!」




「ば、馬鹿な。あの太刀剣までもが・・・」

「信じられん。奴らはいったい何者なのだ?」

「もはや、負けは許されん。次こそは、どんな手でも使って奴らに勝たねばならん」

「ウム。我ら堕悪様名が、あのような聞かぬ名の若造どもに負けたなど、あってはならぬこと」

「・・・ふがいない奴らよ。あの程度の相手に、このオレ自らが出向かなければならんとはな」

底冷えするような低い声に、一同が振り返る。

しゅ、首領ーっ!!

堕悪様名の一団が二つに別れて整列。その中を、首領と呼ばれた男がゆっくりと進む。

「もう、貴様らごときに任せてはおけん。このオレの手で、奴らに引導をわたしてやろう」

闘場に進む首領を、堕悪様名たちは固唾をのんで見守る。

首領お怒りだ・・・」

「うむ・・・こうなっては、わしらもただでは済むまい」

「だが、それはあの町田塾の連中とて同じ」

「ああ・・・首領『絶対に負けない』お方だからな」






「見ろ。闘場に次の対戦者があらわれたぞ」

「ワッハハハ、なんじゃ、あいつはーっ!? 棺桶なんぞ引きずって戦う気かーっ!?」

「あれなら、いつ死んでも大丈夫ってか!? 用意のいいやつじゃないか、えーっ!?」

「・・・ま、まさか、あれは」

「どうした、弓月。そんな青い顔をして」

「噂に聞いた事があるのだ。棺桶を使って戦う、いまだ無敗の恐るべき戦術を・・・」

「なに?」






「町田塾の戦士たちよ。我は堕悪様名の首領、暁(あかつき)である。諸君らの善戦、まずは褒めておこう。

しかしそれも、不甲斐ない部下どもの失態ゆえのこと。我が前において、そのような期待は抱かぬことだ。

さあ、我と戦う者は誰か!!






「とうとう首領のお出ましか・・・」

堕悪様名を束ねている男だ。只者ではあるまい」

「ならば、俺たちは誰がいく?」

「・・・乾坤一擲、といったところか。ここは大将戦で決着をつけさせてもらおう」

「ま、毬壱ーっ(まりいち)!!

首領自らが出向いた以上、背水の覚悟に違いない。同じ大将として、俺はそれに応えなければならない」

「ああ、お前なら誰も文句はない」

町田塾一号生筆頭の力を見せてやれーっ!」

「お前の手で勝負を決めてくれ」

「ああ・・・俺はいままでに倒れていった仲間たちのためにも、負けるわけにはいかない。

達区(たっく)、只緒(ただお)、番(ばん)・・・。みんな、いいやつらだった。

あいつらの血にかけて、俺は勝つ!!」






二人は、十歩ほどの距離をおいて対峙した。

「ほう、貴様が対戦相手か」

町田塾一号生筆頭毬壱!!

「ふむ、貴様相当できるな・・・構えを見ればわかる。それもあらゆる状況に対応できるタイプの万能型の様名と見た・・・。

だが、残念なことだ。それではオレには勝てない。絶対にな」

「なに・・・?」

「なぜなら、貴様はすでに、オレの術中にはまっているのだよ。

さあ、かかってくるがいい。そして己が無力を知るのだ」

は特に構えるでもなく、立っていた。一見スキだらけに見えるが、だからこそ逆に余裕を感じさせる。

毬壱は言い知れぬ不気味さを感じた。

「ふふふ、慎重だな。まあ、無理もない。これは大将戦この勝負に勝った方が優勝なのだからな」

「!!」






「おお、さすがは首領

「さりげなく今までの敗戦をチャラにした」

「うむ、味方である我らが反感を覚えるほど卑劣っぷりだ」

「もはや首領の勝利は動くまい」






思わぬ発言に動揺する毬壱。このままでは仲間たちの勝利が無駄になるが、さりとて指摘すれば「勝てる自信がないのか」と反撃されるのは目に見えている。

(・・・どのみち倒さなければならない相手だ)

そう自分を納得させて、構える。相変わらずは微動だにしない。ともあれ、相手の戦法が不明なままでは迂闊には動けない。

まずは牽制をこころみる。

「食らえ、頼斗素麻津射(らいとすまっしゃあ)!!

白い光球が暁めがけ飛ぶ。しかしそれは命中する直前、虚空にかき消えた。

なにっ!?

「ふ、どうした。遠慮はいらん。もっと攻めてくるがいい」

「くっ・・・魔具根対斗墓無(まぐねたいとぼむ)!!」

毬壱の魔力を込めたそれもしかし、効果を発揮することなく消滅する。

「ば、馬鹿な、これは・・・」

「フッフフフ。その程度の攻撃では、このオレに傷一つ負わせることはできんぞ」

毬壱が攻撃している間、一歩たりとも動いてはいない。ただ余裕の表情でたたずむばかりだ。

「ならば、直接攻めるまで!!」

手刀で攻撃を試みる毬壱。しかし、相手の不気味さを警戒してか、腰が引け気味だった。幾度かは命中するが、やはりがダメージを受けた様子はない。

「き、貴様はいったい・・・」

「フッ、恐ろしいか? 自分の攻め手がことごとく失われていくのが。お前がもがき苦しむのをもう少し見ていても良いが、この大武会の興を削ぐのは本意ではない。種明かしをしてやろうではないか。オレの回りをよく見るがいい

なに?

言われて毬壱は、周囲を注視する。よく見れば、の前、右、左の箇所に1枚ずつカードが置かれていた。

「あれは・・・」

「見ているがいい・・・我が前方に怨霊カメラマン、我が右手に陰陽師、我が左手に死屍累々はあっ!!

の気合一閃、3枚のカードから悪魔が出現する。

「これぞ堕悪様名最終決戦奥義『噂封殺陣(うわさふうさつじん)』!!






「な、なんなんじゃ、あれはーっ!!?」

血威布、お前なら知っているだろう、なんなんだ、あれは!?」

「うむ・・・あれこそは、あらゆる様名から忌避されている戦術の最たるものだ。

魔法、道具など、相手の戦力を完全に封じてから、相手をなぶり殺すのだ」

「そ、それじゃ、毬壱は・・・」

「苦戦はまぬがれまい。だが、わからないのは術者の攻撃手段だ。

噂による封印は強力なもので、対戦相手はもとより、自分にまで影響をおよぼす。

条件が同じ中で、奴はいったい何をするというのか・・・?」






「フッフフフ・・・。噂の力によって、貴様の攻撃手段はことごとく封鎖した。もはや、勝つ手段はないものと思え」

絶望に突き落とす宣告のつもりだったが、毬壱はすでに平静を取り戻していた。

「ふっ、俺はそうは思わん。確かにこの戦法は恐るべきものだが、弱点がないわけではない」

「なんだと?」

「貴様が噂による場を制圧する能力を持つように、俺は我が守護神たるマリシテンの力によって、ライトカオス属性の悪魔たちの能力をこの身に宿すことができるのだ。それを今から見せてやろう」

毬壱が両手を複雑にからみあわせ、印を結ぶ。

「こ・・・これは」

天空から、闘場を震わすほどの力が降り注ぐのが、誰の目にもわかった。その力を毬壱は一身に集める。やがてそれは、人の形を取って、あらわれ出でた。

「手の内を明かしたのは、失敗だったな。見るがいい、ヤマの降臨を!!

赤ら顔の巨神が顕現する。その能力、『閻魔法廷』により、噂の効力が霧散した。

「もらった!!」

毬壱御津弩帆土(ごっどはんど)を発動。拳をかたどった魔力が、めがけて飛ぶ。あたかも波〇拳のように。

「ふっ」

だがしかし、やはり魔法は効果を及ぼすことはなかった。届く直前に、何もなかったかのようにかき消えた。

なにっ!?

動揺する毬壱に対し、は依然、余裕の表情を崩さなかった。

「馬鹿な、噂の効力はなくなったはず・・・。いったい何が起きたというのだ」

「フッフフフ。ヤマの召喚で勝ったつもりだったのか? あいにくだが、我が封殺陣は、そのような底の浅いものではない。

見るがいい、これこそが我が奥義の完成形よ」

の背後で、棺桶がゆっくりと浮き上がった。それを取り囲むようにして、3枚のカードが回転していた。

「ま、まさか・・・」

「気づいたようだな、あれがただの棺桶ではないことに。

そう、あれこそが我が最終奥義・・・喪斗六躯(もとろっく)だ!!




喪斗六躯・・・


それこそは、すべての様名を恐怖に陥れた、凶悪無比の戦術で
ある。その対戦相手は一切の攻撃を無力化され、ただ苦悶のう
ちに死んでゆく他なかったという。
にも関わらずこの戦術が広まっていないのは、使いこなすため
には創始者であるの強力な手札増強が不可欠なためで、ほと
んどの様名は、成功することなく、その道をあきらめたという。
なお余談ではあるが、『暁ママのモトロック』という曲で
CDデビュー。ミリオンヒットを記録している。

民明書房刊『高速を吸いよせる手』より





喪斗の棺桶がわずかに開いて、中から巨大な鎌を持った手があらわれる。

「この喪斗死神の鎌は、狩った相手の命を瞬時に奪う。それがどんなに高い生命力を持っていてもだ。

毬壱、貴様ならばしばらくはこの鎌から逃れることはできようが、体力が無限にあるわけではあるまい。いずれ狩られ、その命を落とすことになる」

言いおわらぬうちに、鎌が大きく振られる。卓越した体術を持つ毬壱はなんなくかわすが、その絶望的な状況のためか、動きに精彩がなかった。






「くそーっ、いったいどうすりゃいいんだ!! このままじゃあ、毬壱に勝ち目がねえ!!」

「さすがに堕悪様名の首領を名乗るだけのことはある・・・。一分の隙もない戦術だ」

「おそらく・・・毬壱はこうなることを予測していたのだろう」

「なに、どういうことだ?」

「戦いが始まる前に、毬壱からこれを預かったのだ」

取り出された一抱えほどもある布包み。中からあらわれたのは、一体の仏像だった。

「これは・・・毬壱が大事にしていた、144分の1マリシテンフィギュア!!

「みんなも知っての通り、これは毬壱亡き師匠から託されたもので、あいつが命と同じくらい大切にしていたものだ。

なぜこれを預けたのか・・・俺は恐ろしくて、それを聞くことができなかった」

「じゃあ、毬壱は死ぬつもりで戦いにいったっていうのか!?」

「ああ・・・彼はが闘場にあらわれた時点で、無事では済まないことを本能的に悟ったのだろう。昔から、勘のいい奴だったからな。

だが、勘違いしないでほしい。決してあいつは、犬死にするために戦いに赴いたんじゃない。刺し違える気で・・・絶対にあのだけは倒す覚悟で向かったんだ。そうすれば、後は俺たちがなんとかしてくれる。それだけを信じて、戦おうとしたんだ。

あいつは・・・そういう奴なんだ」






闘場では、の一方的な攻撃が続いていた。死神の鎌は大振りが目立ち、毬壱はそのことごとくを見切っていた。しかし、の言葉通り、少しずつ毬壱の体力は削られていた。

「いつまでそうして逃げ回っているつもりだ? 勝ち目がない以上、おとなしく我が軍門に下れ。土下座して命乞いをするのなら、助けてやらんこともないぞ」

優越感からだろう、は鎌の攻撃を止めた。

毬壱が、ふっと息をはく。

貴様のような外道に屈するぐらいなら、俺は死を選ぶ

ならば死ね

「戦いに明け暮れる日々の中で生きる以上、覚悟はできている。だが、ただでは死なん。貴様も道連れだ

「ほざくな。この期に及んで、何ができるというのだ」

「我が守護神の眷属の中で、最強の神・・・シヴァ。破壊と再生を司るこの神の力の前では、いかなる手段も無力だ」

「き、貴様・・・よもや、形素渡魯不意(かたすとろふい)を使う気なのか!?

「それ以外に貴様を倒す方法はあるまい?」




形素渡魯不意・・・


終末の笛と同じ力を持つ、禁断の奥義である。
それがもたらすものは完全なる無。術者の命すら例外ではなく、
発動したが最後、浄化の光はすべてを消し去ってしまう。
その効果範囲をしぼることは可能だが、術者を中心にして発動
するため、使った者は必ず命を落としたという。
現代で使われている『かたしちゃう』という言葉は、形素渡魯
不意しちゃうの略語であることは、今更言うまでもない。

民明書房刊『終末の過ごしかた』より





正気か!? お前も死ぬんだぞ!?

「覚悟はできている・・・と言ったはずだ」

毬壱が印を結んだ。先程ヤマを降臨させた時よりもはるかに強い力が、大気に満ちる。闘場の外には、雷光が降り注いだ。

「や、やめろ!! 死んでまでして得る勝利に、なんの意味がある!?

「貴様も堕悪様名の首領なら、おとなしく腹をくくれ。この戦いの終止符を汚すことのないように」

三面六臂の姿で降臨した神は、すべての者を畏怖させた。神々しさと荒々しさ、相反する神気に当てられ、誰もが動きを失った。ただ一人、毬壱をのぞいて。

彼はゆっくりと振り向いて、仲間の姿をその目に焼き付けた。

それで満足だった。迷いはすでにない。

・・・形素渡魯不意

破壊の言葉を、静かにつむぐ。一瞬にして闘場が光に包まれた。

一切を無に帰す浄化の光。が、喪斗が輝きに飲まれて消える。

そして毬壱も。











光が消えると、闘場は跡形もなく消えていた。

結局勝負を決めたのは、運でも実力でもなく、ただ覚悟の差だった。







・・・どこか遠くで、声が聞こえた気がした。

なにもない闇の中。ただそれだけが自分をつなぎ止めている。

自分の知っている声。しかし、誰の声かは思い出せない。

声がだんだんと近づいている。どこか懐かしい声。そうだ、あれは・・・仲間の声だ。自分を呼ぶ声だ。

浮上する感覚の中で、闇の中の意識が飛ぶ。

その時、仲間の声に混じって、師匠の声を聞いた気がした。






「う・・・」

うっすらと目を開けると、別れたはずの仲間の顔があった。一つとして涙に濡れていない顔はなかった。

「ま、毬壱ーっ!!

抱き起こされてようやく、自分が生きている事に気づいた。と同時に、戦っていたことを思い出す。

「俺は・・・勝ったのか?」

答えはなかった。しかし、否定しないことが答えだった。

「ならなぜ、俺は生きているんだ?」

「それに関しては、師匠に感謝するんだな」

差し出された見覚えのある布包みの中に、粉々に砕けた何かの破片があった。毬壱は、すぐにそれがマリシテンの仏像だったのだと気づいた。

「お前の師匠の形見・・・これは、ただの像じゃなかった。

守軽符堂留(すけいぷどおる)だったんだよ」

「そうか・・・そうだったのか」

いまさらながらに、毬壱は気づいた。師匠は自分の性格を見越して、それを託したのだということを。

「立てるか?」

「ああ・・・だいじょうぶだ。行こう」







町田塾は優勝し、長かった大会はその幕を閉じた。

こうして戦いは終わった。


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