「よっしゃーっ、これでわしらの二連勝じゃーっ!!」
「さすがは弓月だ。まさか、破魔矢を武器として使うとは」
「ああ。味方ながら、全く恐ろしい奴だぜ」
「ワッハハハ、見ろ堕悪様名の連中を。みんな青い顔して固まってやがるぜ!!」
「見ろ。闘場に次の対戦者があらわれたぞ」
「ワッハハハ、なんじゃ、あいつはーっ!? 棺桶なんぞ引きずって戦う気かーっ!?」
「あれなら、いつ死んでも大丈夫ってか!? 用意のいいやつじゃないか、えーっ!?」
「・・・ま、まさか、あれは」
「どうした、弓月。そんな青い顔をして」
「噂に聞いた事があるのだ。棺桶を使って戦う、いまだ無敗の恐るべき戦術を・・・」
「なに?」
「とうとう首領のお出ましか・・・」
「堕悪様名を束ねている男だ。只者ではあるまい」
「ならば、俺たちは誰がいく?」
「・・・乾坤一擲、といったところか。ここは大将戦で決着をつけさせてもらおう」
「ま、毬壱ーっ(まりいち)!!」
「首領自らが出向いた以上、背水の覚悟に違いない。同じ大将として、俺はそれに応えなければならない」
「ああ、お前なら誰も文句はない」
「町田塾一号生筆頭の力を見せてやれーっ!」
「お前の手で勝負を決めてくれ」
「ああ・・・俺はいままでに倒れていった仲間たちのためにも、負けるわけにはいかない。
達区(たっく)、只緒(ただお)、番(ばん)・・・。みんな、いいやつらだった。
あいつらの血にかけて、俺は勝つ!!」
「な、なんなんじゃ、あれはーっ!!?」
「血威布、お前なら知っているだろう、なんなんだ、あれは!?」
「うむ・・・あれこそは、あらゆる様名から忌避されている戦術の最たるものだ。
魔法、道具など、相手の戦力を完全に封じてから、相手をなぶり殺すのだ」
「そ、それじゃ、毬壱は・・・」
「苦戦はまぬがれまい。だが、わからないのは術者の攻撃手段だ。
噂による封印は強力なもので、対戦相手はもとより、自分にまで影響をおよぼす。
条件が同じ中で、奴はいったい何をするというのか・・・?」
それこそは、すべての様名を恐怖に陥れた、凶悪無比の戦術で ある。その対戦相手は一切の攻撃を無力化され、ただ苦悶のう ちに死んでゆく他なかったという。 にも関わらずこの戦術が広まっていないのは、使いこなすため には創始者である暁の強力な手札増強が不可欠なためで、ほと んどの様名は、成功することなく、その道をあきらめたという。 なお余談ではあるが、暁は『暁ママのモトロック』という曲で CDデビュー。ミリオンヒットを記録している。 民明書房刊『高速を吸いよせる手』より |
「くそーっ、いったいどうすりゃいいんだ!! このままじゃあ、毬壱に勝ち目がねえ!!」
「さすがに堕悪様名の首領を名乗るだけのことはある・・・。一分の隙もない戦術だ」
「おそらく・・・毬壱はこうなることを予測していたのだろう」
「なに、どういうことだ?」
「戦いが始まる前に、毬壱からこれを預かったのだ」
取り出された一抱えほどもある布包み。中からあらわれたのは、一体の仏像だった。
「これは・・・毬壱が大事にしていた、144分の1マリシテンフィギュア!!」
「みんなも知っての通り、これは毬壱が亡き師匠から託されたもので、あいつが命と同じくらい大切にしていたものだ。
なぜこれを預けたのか・・・俺は恐ろしくて、それを聞くことができなかった」
「じゃあ、毬壱は死ぬつもりで戦いにいったっていうのか!?」
「ああ・・・彼は暁が闘場にあらわれた時点で、無事では済まないことを本能的に悟ったのだろう。昔から、勘のいい奴だったからな。
だが、勘違いしないでほしい。決してあいつは、犬死にするために戦いに赴いたんじゃない。刺し違える気で・・・絶対にあの暁だけは倒す覚悟で向かったんだ。そうすれば、後は俺たちがなんとかしてくれる。それだけを信じて、戦おうとしたんだ。
あいつは・・・そういう奴なんだ」
終末の笛と同じ力を持つ、禁断の奥義である。 それがもたらすものは完全なる無。術者の命すら例外ではなく、 発動したが最後、浄化の光はすべてを消し去ってしまう。 その効果範囲をしぼることは可能だが、術者を中心にして発動 するため、使った者は必ず命を落としたという。 現代で使われている『かたしちゃう』という言葉は、形素渡魯 不意しちゃうの略語であることは、今更言うまでもない。 民明書房刊『終末の過ごしかた』より |
「う・・・」
うっすらと目を開けると、別れたはずの仲間の顔があった。一つとして涙に濡れていない顔はなかった。
「ま、毬壱ーっ!!」
抱き起こされてようやく、自分が生きている事に気づいた。と同時に、戦っていたことを思い出す。
「俺は・・・勝ったのか?」
答えはなかった。しかし、否定しないことが答えだった。
「ならなぜ、俺は生きているんだ?」
「それに関しては、師匠に感謝するんだな」
差し出された見覚えのある布包みの中に、粉々に砕けた何かの破片があった。毬壱は、すぐにそれがマリシテンの仏像だったのだと気づいた。
「お前の師匠の形見・・・これは、ただの像じゃなかった。
守軽符堂留(すけいぷどおる)だったんだよ」
「そうか・・・そうだったのか」
いまさらながらに、毬壱は気づいた。師匠は自分の性格を見越して、それを託したのだということを。
「立てるか?」
「ああ・・・だいじょうぶだ。行こう」