第3話「ルミのモデル初仕事」

「はーい、ルミちゃん笑ってー。いいね、その笑顔。」
カメラマンが話しかける。
緑が茂る南国の園に一人の美少女がいた。
ビキニ1枚をまとい、美しい肌を露出させて魅力的なポーズをとる。
といってもここはスタジオの中。
季節柄日本に外での南国ロケはできない。
もっともグラビア写真なので場所などどうでもよかった。

「こんな感じ?」

ルミは微笑む。
カメラマンの様々な要求をこなしていく様は素人とは思えない。
プロダクションの女社長の目は輝いていた。

「この娘、いけるわ。」
「よし、ラスト1枚。」
カシャッ
「はい、終わり。」
「お疲れ様でしたー。」
「お疲れ。」
スタッフが声を掛け合う。

撮影が一通り終わった。
ルミは着替えるため更衣室へ向かう。
その通路でさっきのカメラマンとすれ違う。

「ルミちゃん、今日はよかったよー、今度飲みにいかない?」
「駄目ですぅー。そういうの事務所を通してください。」
「かたいなー、業界をこれから渡っていくんだ。少々のことぐらいは融通を利かせてくれないと・・。」
「駄目です!」
「僕と知り合いになっていると局と繋がりが出来て、色んな番組に出れるよ。」
カメラマンは下心見え見えだ。
そしてルミの手を握る。
ルミはそれを振り払い、そして足を踏んだ。
「いてっなにを・・・。」
そう言いかけたとき、ルミは顔を寄せて、
「あんたがどんなコネを持っているか知らないけど、あたいは媚びて生きていくのが大嫌いなんだ。
しつこいと痛い目を見るぞ。」
にらみを効かせる。
カメラマンたじろぐ。
「く、覚えていろ。僕を怒らせたら・・・。」
そういって立ち去る。
負け犬の遠吠えのようだった。
「ルミちゃん、どうしたの?着替えないの?」
「はーい、いますぐ。」

更衣室に入り、鍵をしめた。
部屋には1人だけ。
ルミは魔法の呪文を唱えた。
そして一瞬まばゆい光が包む。
光が消えると、そこにはルミではなく少女がいた。

「藍ちゃん、お疲れ様。」

バックの中から犬のぬいぐるみが出てくる。
「ポチ、あらあたしったらまたこんな所に・・。」
少女は辺りを見回した。
恋ヶ窪藍としては初めての場所だからだ。
「本当に覚えていないんだね。」
「確か、デパートのトイレに行ったまでは覚えているんだけど・・。」
「とにかくお仕事終わったんだ。帰ろう。」
「そうなの?終わったんだ。」

藍は荷物をまとめてドアを開けようととする。
もちろんポチはバックに入れる。

「ちょっとまって、外に誰かいないか注意して。」
「うん。」
ドアを少し開けて外をうかがう。
「誰もいないよ・・。」
そのまま部屋を後にした。
出口を探してさまよい歩く。
途中でスタッフとすれ違うが誰も気にも止めない。
ようやくビルの出口から出ようとすると、目の前には女性が立っていた。

「恋ヶ窪・・藍ちゃんだったね。」
「あ、その・・・。」
「島田よ。忘れちゃったの?」
「いいえ、こんにちは。」

この女性はさっきスタジオ内にいたプロダクションの女社長である。

「こんにちは。ルミちゃん見なかったかしら。」
「えっルミさんですか?」
「そうよ。一緒に来てたんでしょ?」
「それは、その・・急用があるからって先に・・。」
「そうなの。大事な連絡があるのに・・。」
「連絡ならあたしが伝えます。」
「そう?じゃ、あとで私の事務所まで電話をかけるようにいってね。電話番号は知っているはずだから。」
「はい。」

そういって階段を上がっていった。
藍は胸をなでおろす。

「驚いた・・・。」
「はやく外に出た方がいいぞ。」
「しっ聞こえちゃう。」

周りには誰もいなかったが用心を越したことにはない。
なにしろしゃべるぬいぐるみが見つかったら大変だからだ。

扉を開けて外に出ると、そこは人通りの多い道路であった。
たまにショッピングにくる街。

「ここだったんだ・・・。」

普段なにげなく歩いていたところに撮影用のスタジオがある。
その手の人しか知らない場所だ。
もっとも藍はたった今からその手の人の仲間になったのだが。
藍は時計を見た。

「いっけなーい。遅れちゃう・・・。」

藍は駅に向かって走った。
駅前には見覚えのある女の子が二人。

「おそーい、待ち合わせ時間はすぎているぞ。」
髪の長い女の子は少し強い口調でいった。
「理沙ちゃん、5分ぐらいいいじゃない。」
そう止めに入ったのは野方春美である。
そして髪の長い女の子は高尾理沙。
二人とも藍のクラスメイトである。
今日は3人でショッピングの約束だったのだ。

「ごめん、ちょっと急用があったので・・。」
「気にしないでいいのよ。さあ行きましょう。」
「野方さんは甘い。この子はね、いつも・・・。」
「はいはい。」
春美は理沙の背中を押す。
「ちょっとー。」
「あはは・・。」

藍は冷や汗をかいた。
今まで秘密のお仕事をしてたなんて言えない。

アクセサリー店、洋服店、クレープ屋・・・あちこちいって日が暮れるころには自宅の近くに
帰っていた。

「じゃ、私はここで。」
「私はこっちだから。」
「理沙ちゃん、春美ちゃんまたね。」
「ばいばい。」

3人は手を振ってわかれる。
藍は自宅に戻り、まっすぐ自分の部屋に直行した。

「ふう、疲れた。」

床に置いたバックが暴れ出す。

「いっけなーい。忘れてた。」

慌ててバックを開ける。
「ひどいよー。苦しかったんだから。」
「ごめん、ぬいぐるみでも苦しいんだ。」
「当然だよ。ぬいぐるみといっても、これは仮初めの姿で本当は・・・。」
「本当はなに?」
「なんだっけ?」

ポチは首をかしげる。

「もう肝心なこと覚えてないのね。」
「うぐぐ・・しょうがないよ、呪いをかけられたんだから・・。おまけに頭貫通するし。」
頭のバンソウコは矢が刺さっていた跡である。
矢のせいで記憶の一部が飛んだらしい。

「もうしょうがないな・・。」

藍はバックの中から荷物を取り出す。
その中に1枚の写真が出てくる。

「これ・・。」
「あ、それ、今日の仕事の・・。」
「モデルやってたんだ。綺麗。」
「自分の変身した姿を見て誉める?」
「だってこれ、自分って気がしないもん。それにモデルって憧れていたんだー。」
「そうかねぇ・・あっそうだ。女社長に電話するんじゃなかったっけ?」
「忘れてた。電話しなくちゃ。」
藍は受話器を取る。
「ちょっとまった。今の姿で話してどうする。変身しなくちゃ。」
「そうだね。」
藍は変身する。
そして電話で用件を済ませて・・・。

「どうだったの?」

また藍に戻っていた。
「本当に記憶がないんだね。」
「だってしょうがないじゃない。それにそのためにポチがいるんでしょ。」
「うーんと、かいつまんで説明すると、来週にTV収録の仕事があるんだって、それの打ち合わせで明日会いたいって。」
「テレビ?」
「そう、ドラマにちょい役になるかもって。」
「それって凄いよ。あたしテレビに出ちゃうんだ。」
「藍ちゃんが出るんじゃなくてルミの方。」
「それでも凄いよ。うふふ・・もう今晩寝られないかも・・。」

藍は枕を抱きかかえてベットでごろんごろんしている。

「モデルもテレビもいいけど、本来の使命は・・・。」

藍は上の空だった。
その目は夢見る少女である。

つづく。

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