【タイトル】424
【 名前 】あるサークルの情景(1)
【 日付 】2000/09/07 17:26
頭が痛い。原因は分かっている、寝不足だからだ。
なのに、目の前にいる彼女はどうしても私を眠らせてくれない。
「・・・・だからさ、50万円な訳よ。それで、将来が買えるなら安いと思わない?」
書き下ろしだけで60ページ、昔の原稿の書き直しやらなにやらが山程。
総ページ数200ページの同人誌を生み出すのは並大抵の事では無かった。
覚悟はしていたつもりだが、随分甘かった。
「さっきも言ったけどさ、ばれる心配はぜーんぜん無い訳よ。相手はプロなわけだし、アタシの魅力でがっちり捕まえるから、問題は無いわけ。」
印刷所の締め切りを2日も破って入稿して、ふらつきながら帰ってきて、布団に潜り込んだのが、今日の夕方の6時。今は夜の11時、まだ5時間しか眠っていない。
「だからね・・・・・って、和美!あんた聞いてるの!?」
私が疲れ切っている事位、考えればわかるでしょう?
なんで、酒臭い息を吐く人間に文句を言われなきゃならないんだろう?
「あ、うん。聞いてる。御免、頭がまだ回ってなくて・・・・・。」
「ちょっと、しっかりしてよ。私達の未来がかかっているのよ!?」
なにを大袈裟な。
「いい?ちゃんと聞いててよ??今日、友達と飲みに行ったらさ、初めて行ったバーでさ、ちょっとソレモノっぽい男の人とお知り合いになったのよ。でね、あたし達のサークルの苦境について話したらさ、いわゆるプロの人を紹介してくれるっていうのよ!
わかる?プロよ、プロ。本物の暴力のプロよ。ゴルゴ13みたいなヤツ!!」
え・・・・・?
「そんな人を雇って・・・・・何するの?」
「決まってるじゃないの!あたし達を妨害するサークル”Zig”の連中に制裁を食らわせるのよ。天誅って言う方があってるかしらね!!」
「・・・・・。こ、殺すとか、怪我をさせるっていうの?」
「馬鹿ねえ。あたしだってそこまで鬼じゃないわよ。大体あんな連中、殺す価値も無いわ。頼むのは最後のコミケに本が届かないようにしてもらうだけよ。印刷所の機械をいじってもらうなり、本を運ぶ車に細工をするなりね。」
それが意味する事を本当にわかってるんだろうか?
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【タイトル】426
【 名前 】あるサークルの情景(2)
【 日付 】2000/09/07 17:28
「あたしが仕入れた情報に因れば、向うもうちと同じく分厚い総集編+書き下ろしを作って、コミケ後に名前を残せるように企んでるらしいわ。まったく、どこまでウチの真似をすれば済むんだか!!とにかく、このジャンルで不動のトップを確保しておく為にはやつらには消えてもらわなきゃならない訳よ。」
「いくらなんでもそんな・・・・。」
相手のサークルはうちのライバルと言ってもいい。うちのサークルは2年前くらいから本格的に大手の仲間入りをしたのだが、向うも同時期に大手と呼ばれる様になった。
一年前にジャンルを移動した時も、示し合わせたように同じジャンルに移ってきた。今は、カップリングが逆という事もあって、京子は蛇蝎の如く嫌っている。
あたしだって、あんまり好きではない。
「Onlyの主催の件もあるし、今ここで風下に立ったら2度と勝てないわよ!?
あんた、それでもいいの!?」
でも、コミケなのに。これが最後のコミケなのに。
「でも、最後のコミケなのよ!?あたし、そんな卑怯な事できない!!」
「何、馬鹿を言ってんのよ!最後だから、やるんじゃないの!!それとも、あんた3年前のアレをもう一回繰り返すつもり!?」
あ・・・・・・・。
「あの時のコトをもう忘れたわけ!?」
思考が止まる。記憶がフラッシュバックする。
3年前のコミケ。ちょっと売れてきて、いい気になって知り合いに煽られるままに大増刷をかけた。それまでの既刊も軒並み再版した。
でも、結果は惨敗だった。
ジャンルの衰退と重なったのもあった。天狗になって絵が荒れていたのかもしれない。
新刊は半分も売れなかった。既刊も殆ど出なかった。後に残ったのは、莫大な在庫と借金と親の怒りと他のサークルの嘲りだけ。
仲間は・・・・・仲間だと思っていた人達は次々と離れていった。
それが一番つらかった。
あの時、京子が居なければ、あたしは首を吊る以外に無かったかもしれない。
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【タイトル】427
【 名前 】あるサークルの情景(3)
【 日付 】2000/09/07 17:59
「ねえ、和美。」
京子が小さくなって震え出した私をやさしく抱きしめる。
「和美がいい子だっていうのは、よーく判ってるわ。でもね、世の中には何をやっても勝たなけりゃならない、何をしても許されるって事があるわけよ。で、あたし達にとっては今がその時なわけ。」
「・・・・・・うん。」
恐ろしい事にあの悪夢はサークルを続ける限り、常に起りうるのだ。
私がどれだけ頑張っても、それを上回るサークルが現れれば。
たったそれだけの事で。
「大した事じゃない無いのよ。向こうにしたって、最後のコミケで売る事が出来ないっていうだけで、通販で売るとか他の即売会に出すとか、幾らでも印刷代を取り返す事はできるんだから。ただ、ほんのちょーーっと、あたし達が有利になるように物事を変えてもらうだけなわけよ。」
「・・・・・・うん。」 別に誰も困らないんならば。
「50万円出せば、誰も困らせないであたし達が幸せになれるわけ、わかる?」
「・・・・・・うん。京子の言う通りだと思う・・・・・・。」
誰も困らないんなら、あたしが幸せになってもいいじゃない。
「ハイ」 京子が手を出した。
あたしはノロノロと机の引き出しから、先日入金された原稿料の入った茶封筒を取り出して、彼女の掌の上に載せた。確か、70万円位は残っている筈だ。
京子は封筒の中身を確認し、ニタリと笑った。
その瞬間、私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
私は今、取り返しのつかない事をしようとしているのではないだろうか。
「ちょっと、多いけど必要経費として使わせて貰うわね。後は私に任せて頂戴。和美は何も心配しなくていいわ。いざとなったら、あたしが自分の体を使ってでも相手を繋ぎ止めるから!」
「うん、御免ね。面倒な事させちゃって。」
「任せなさいって。和美はいい同人誌を創ってくれればいいのよ。後の面倒はあたしが全部引き受けるから。」
「うん。全部、京子に任せるから。お願い。」
まかしといて、大丈夫だからと言いながら京子は出ていった。
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【タイトル】428
【 名前 】あるサークルの情景(4)
【 日付 】2000/09/07 18:08
彼女が部屋から出ていった後、マンションの正面で聞きなれた車のエンジン音が微かに聞こえた。
京子はその足で交渉に行ったのだろうか?
布団の上に座り込んだまま、私はぼんやりと考え続けた。
70万円。今の私にとっても、決して小さな金額ではない。
でも、それだけであの時のような思いをしなくて済むのなら安いものだ。
あの・・・・・砂を噛むような惨めさを味わう事に比べたら。
「誰も困らないんだから。京子がそう言ったんだから。私が悪い訳じゃないんだから。」
そう呟いて、布団に潜り込みながら、私はその日、自分の中で何かが決定的に変わってしまった事を感じていた。
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後日、コミケが本当に色んな意味で”終わった”時、私は京子からの誘惑に負けてしまった事を一生後悔し続ける事になる。
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【タイトル】544
【 名前 】百円ライター(1)
【 日付 】2000/09/12 20:02
彼はただのチンピラだった。
ただの半端者のろくでなしだった。
父親は100%純粋なアル中だった。母親は彼が10歳の時にどこかに行ったきり、二度と戻ってこなかった。
まあ、”あんたさえ居なければ!!”というヒステリックな金切り声を聞かなくて済むのだから、清々したというのが正直なところではあったが。
勉強が出来るわけはなかったし、喧嘩も弱かった。やられそうになるとナイフを持ち出して暴れるので、舐められはしなかったがそのうち誰からも相手にされなくなった。
学校を飛び出して、仕事に就いてみたがどれも長続きしなかった。
なにをやるにしても、根性が無さすぎた。
町をうろついている内に、ヤクザの兄貴に拾われたがいつまで経っても下っ端の下っ端でしかなかった。
まあ、ヤクザであろうとなかろうと、無能な奴に盃を卸してくれる程、世の中は甘くないというだけの話だったのだが。
顔立ちだけは、まあまあだったので、スケコマシで食っていけるかとも思ったが、一ヶ月もすれば大抵の女から見放された。底の浅さはすぐに判るものだ。
要は本当に使えない正真正銘のチンピラだった。
他の何かには成りようもなかった。
でも一番の問題は、彼自身がその事に全く気付いていない事だった。
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【タイトル】545
【 名前 】百円ライター(2)
【 日付 】2000/09/12 20:03
きっかけはよく行くバーのカウンターで知り合った女だった。
丁度、兄貴のパシリでガサ入れを避ける為に、バーのマスターにハジキを預けに来たところだった。
マスターが外していた為に、運良くロハで酒にありついていたら、隣のスツールに腰を下ろした二人組みの女だった。
カタギの女が怖い物見たさで入って来た、そんな感じだった。
口説こうとしたが、なかなか靡かなかったので腰に差していたハジキを見せてやった。
こういう店に来るカタギの女が危険な香り、暴力の匂いにメロメロになるのを、彼は経験上よく知っていた。
だが、拳銃を見たもう一人の女が声を潜めてこう言った。
”汚い仕事をしてくれる人間を知らないか?”
同人とかサークルとか・・・・・今一つ会話の中身は判らなかったが、だれかを陥れたいので、そっちの人間に繋ぎを取りたいのだという事は判った。
”俺がやる”と言ってしまったのは、正直、口が滑ったに過ぎない。
昼に事務所のテレビで見たヤクザ映画が頭にあったせいかもしれない。
でも、女が目を輝かせるのを見たら”俺はプロだ。今までに何回もヤバイ仕事をキメてる”と言ってしまった。
こうなったら、もう後には引けなかった。
それまでに見たヤクザ映画や兄貴達から聞いた話をちゃんぽんにして女に聞かせると、女はいちいち感心して、尊敬の眼差しで自分の事を見てくれた。
いい気分だった。
最初に粉を掛けていた女は完全に引きまくっていたが、もう気にもならなかった。
”契約金は50万円。こういう話だから、全額前払いだ。”と言うと女は二つ返事で承諾し、一時間ほど席を外すと金の入った封筒を持って戻ってきた。
本当に50万円入っていた。
彼が二月は遊んで暮らせる額だった。
女をホテルに連れ込んでやった後は、もう完全に暴力のプロになりきっていた。
もちろん、彼の頭の中だけの事でしかなかったが。
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【タイトル】546
【 名前 】百円ライター(3)
【 日付 】2000/09/12 20:04
”ある印刷所から出る、バリカン便のトラックが事故に遭うようにして欲しい”
それがその女の依頼だった。
女が言ったように、走行中のトラックの前輪を拳銃で撃ち抜く、なんて真似が出来る訳はなかったから、何か他の手を考えなければならない。
人死にが出るのは避けたい、などと言われたような気もしたが・・・・・何、要は事故が起ればいいのだ。手段についてはとやかく言うまい。
ふと、一つの方法が彼の脳裏に思い浮かんだ。昔、盗難車両の改造を専門に行う、その筋の自動車修理工場でこき使われていた時に、教えられた方法だった。
確実性など全く無い、運と偶然に頼り切ったやり方だったが、彼にそのような点につい
て考えを巡らせる能力など、端から存在しなかった。
何も考えず、嬉々として彼は実行に移した。
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彼のとった方法は単純極まりないものだった。
彼は依頼主の女から聞いた印刷工場に出向いて、同人誌の発送が開始されるまでじっと待った。そして、運送会社のトラックがやってきて、本の積み込みを始めたトラックの中から、細工が簡単そうな、一番古臭いトラックの下に潜り込み、前輪ブレーキのオイルホースに小さな穴を空けた。たった、それだけだった。
もちろん、穴の大きさも空けた位置も適当だった。
確かに、ブレーキオイルの油圧が下がって、ブレーキが効かなくなれば事故は起こる。
だが、本来ならば精々、ブレーキが効かずに軽い追突事故を起こすのが関の山だろう。
よほど、不幸な偶然が重ならない限りは・・・・・・。
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【タイトル】547
【 名前 】百円ライター(4)
【 日付 】2000/09/12 20:05
結論から言おう。
大事故が起った。
トラックは数合わせの為に運送会社の奥から引っ張り出されたポンコツだった。
ブレーキの異常を知らせる警報の類は元々付いてすらいなかったし、最初からあちこちに故障を抱えていた。
ドライバーはベテランだったが、ここ数日の激務に疲れ切っていた。
その為、高速に乗るまでブレーキの効きが段々悪くなっている事にドライバーは気付けなかった。そして、高速に乗った直後、このトラックに対して無理矢理追い越しを掛けた馬鹿がいた。
正に最悪のタイミングだった。
トラックはいきなり飛び出してきたセダン車を避ける為に急ブレーキを踏み込んだ。
その日の朝に降った雪で濡れた路面、首都高速の抉れたアスファルト、同人誌の過積載でずれた重心位置、そして止めに急ハンドルと急ブレーキ。悪い条件は重なっていたが、これだけならば、熟練したドライバーは対処可能であっただろう。
ブレーキさえ、まともに効いていれば。
前輪のブレーキは右側だけに掛かった。ブレーキオイルの油圧が下がりきった左前輪側のブレーキはドライバーの要求に応える術を持たなかった。
・・・・・破局が起った。
トラックは右前輪を軸に半回転しながら滑っていき、割り込んだセダン車に左側面から激突、横転した。直後を走っていた二台目と三台目のトラックがそこに突っ込み、更に二台の一般車両が衝突、大破。仕上げを行った。
なんとか、難を逃れた四台目以降のトラックの運転手と同乗していた印刷会社の人間は悲惨な事故現場、そこに散らばった同人誌を呆然と見つめるしかなかった。
死者二名、重軽傷者八名。
首都高でも滅多に無い大事故だった。
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【タイトル】548
【 名前 】百円ライター(5)
【 日付 】2000/09/12 20:07
自分の部屋に戻っていた男はTV中継でその事故を見た。
冬の晴れ間、弱々しい太陽の下で横転しているトラックは確かに彼が手を出したあのトラックだった。
彼は狂喜乱舞した。
人生の中で、初めて彼が何かを成し遂げた瞬間だった。
”俺はもう、チンピラじゃない。でかい事をやれた。”
そう思える事が嬉しかった。
”祝杯を挙げよう”
そう思った彼は報酬の50万円を握り締めて、街へ飛び出した。
浴びるほど酒を飲んで、この素晴らしい日を祝いたかった。
・・・・・そして、二度と太陽を目にする事は無かった。
完全に泥酔した彼は、他の組の地回りと諍いを起こし、大立ち回りをした挙げ句、歩道橋の上から落ちて死んだ。
まさに、チンピラにふさわしい末路だった。
彼は、同人や印刷会社に関する知識など皆無だった。
そして、プロならば必ず行う筈の下調べなど、全く行わなかった。
当然、同人誌の印刷を行う印刷会社が狭い地域に固まっている事も知らなかったし、そういった会社が28日になると一斉に同人誌の発送を始める事など知らなかった。
彼が細工したトラックは、目標の会社に隣接した全く違う会社に来たものだった。
散らばり、炎上した同人誌は配置の関係上、一日目に回された複数の男性向け大手サークルの物が数多く含まれていた。
トラック三台分の同人誌が喪失した結果、これらのサークルは軒並み新刊販売数の減少を余儀なくされた。(最も被害の大きかったサークルは、持ち込み予定部数3000に対して手持ちで持ち込んだ100部のみとなった)
これに、男性向けを主に扱っていた大手同人印刷会社の夜逃げによる混乱も加わり、一日目の男性向け大手サークルは開場後わずか一時間で軒並み完売、という惨状を呈する事になる。
この事は、予想外の冊数減少と見込める収益の減額に慌てた転売屋達のあせりを呼び、更に、混乱を目の当たりにする事になった東館館内担当の強硬論への傾斜を促進させる事になった。
これらは共に、二日目に発生した混乱の一因となるのである。
結局のところ、彼は依頼を果たせないまま死んだ。
彼は自分の行いが最終的に何を起こしたのかを知らないまま死んだ。
何も知らないで死ねたのは、ある意味幸せだったのかもしれないが・・・・・。
彼は最後まで、チンピラ以外の何者にもなれなかったようである。
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【タイトル】585
【 名前 】百円ライター@幕間劇
【 日付 】2000/09/13 21:13:01
28日 PM1:00 某印刷会社
ジリリリリーーン
ジリリリリーーン
「ったく、誰もいないのかよ。ハイハイハイハイ!」
ガチャッ。
「ハイ。お世話になっております。○○印刷です。
え、あ、はい。あ、この間はどうも。はい、営業の柿崎です。
いやいや、どうもどうも。御無沙汰してます。
いや、レボの時もなんとかなったとお聞きしてますんで。はい。」
「ええ。今日は私も駆り出されてるんですよ。まあ、こういう時期ですからもう猫の手も借りたいような状況で、ハハハ、ええ。」
「で、今日はどういった御用件で・・・・・、え?いや、すいませんが、正月明け以降のお話でしたら、また日を改めてお願いしたいんですが。
正直、今はそれどころじゃありませんので。
え?違う??」
「はあ!?今から、冬コミの新刊を!?いや、ちょっとそれは。一体、何が?
あ、事故ですか。新刊が。ええ。ああ、そういえば首都高の事故は聞いてますけどうちは方向的に逆ですんで。はい。」
「ああ。手持ち分しかないんで、二日目に委託で出すと・・・・・。
ええ。いや、お話はわかるんですけどねえ。いや、お気の毒だとは思うんですけど。
まあ、御存知の通りウチも今日明日はもう一杯一杯まで仕事が入ってまして。
今回は特殊印刷も多いですから、ハイ、ええ、最後のコミケですからねえ。」
「いや、大口のお客様はいつでもありがたいんですけどね。ええ、わかります。
いや、しかしですね。うちも信用というものがありますし簡単にそんな事を出来るもんじゃないんですよ。それにですね、言いにくいんですけどウチはお宅さまにはコミケ以外の時しか御注文頂いてない訳でして。ええ。」
「小口のお客様にもねえ。長年、使って頂いてるところも多い訳ですから。はい?
いや、今後の事をお約束頂いても、コミケが終わった後はウチとしましてもなんとも言えないですから・・・。」
「ええ、申し訳ありませんがそういう事ですので、すいませんが・・・・・・はい?
倍額!?いや、わかりますけど金額のお話じゃあないんですよ。いや、確かにウチも苦しいですけどね。
え?違う?3倍!?
規程料金の3倍出す・・・・・。あの・・・・・あ、特急料金も含めて3倍ですか!?
あーーー・・・・・・・・・、いや、ええ、そうですね、はい。
ええ、いや、はい、わかります。
ええ・・・・・、ええ・・・・・、まあ、そうですけどね。」
「ああ・・・・・っと、わ・・っかりました。はい。社長には一応話だけでも。ええ。
はい?あ、これから、こちらに?
あ、即金ですか。ああ、用意できる?ああ、なるほど。はい・・・はい。」
「ええ、じゃあ、お待ちしてますんで。いや、絶対とはお約束できませんけど。
あ、今会場の方ですか。じゃあ・・・・・あ、車ですか。では、30分くらいですかね。
いやあ、うーん。」
「えーっとですね。じゃあ、すいませんがちょっと裏口の方に回って頂いて・・・・・。
ああ、私が立ってますから、はい。
いや、もし、他のお客さんとかち合うと、いや、ハハハハハ・・・・・。
はい、わかりました。はい、ではお待ちしてますんで。
遅れるようならば御連絡下さい。はい、では。」
ガチャン
「おいおい、まったく。本気かよ・・・・・。あ、おい、誰か。
現場に行って、主任を呼んできてくれ。話があるからって。」
ピポパポ、パペポピ。
トゥルルルル、トゥルルルル。
「あ、もしもし。申し訳ございません。奥様でいらっしゃいますか。
柿崎ですが。はい、すいません。
・・・・・・・・・・。
あ、社長。お休みのところ、申し訳ありません。
いえ、昼勤の人間に問題があった訳では。
ええ、ほぼスケジュール通りです。はい。」
「それでですね、今ちょっと、大きなオファーがありまして、いえ、明後日までに。
ええ、・・・・・ええ。わかってます。
ただ、金額がかなり大きいんで。4000部、特急料金で3倍払うと。
ええ、男性向けですから。しかも、即金の全額前払いでということで。
はい。ちょっと、私では判断が。はい。」
「とりあえず、30分後にはこちらに来るという事ですので、社長に来て頂けませんと。
ええ、現場の方には変わる可能性があるとだけ言っておきます。
はい、判りました。お待ちしております。
は?・・・・・いやあ、奴らはオタクですから。
自分の所為で他人が迷惑を被る事について、痛痒を感じるような連中じゃあありませんよ。」
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