【タイトル】232
【 名前 】三文文士@「緊急アピール」
【 日付 】2000/08/28 06:27

マンガを描くこと、小説や評論を書くこと、本を作ること。そこには、表現するという悦び、物を語るという目的があります。物語る力は人間の最大の力であり、同時に自己と他者をつなぐ社会的行為でもあります。人間は、自分の外に「世界」に目を向け、知り、それを記録するという意志によって、世界を豊かに成長させてきたのです。そして、コミケットはその物語を後世に伝える装置としての役割を場を提供することで果たす運動体として長年機能してきました。 
大田区区民会館に始まり、東京ビッグサイトに至る二十余年の道程は、時に険しく 時に余りに厳しいものではありましたが、コミケットは、サークル、一般参加者と同じスタンスによって歩むという信念をもって活動してきたつもりです。あまりに巨大になり、参加者の意識が多様化する中にあっても、その「信」だけはつらぬくという意志を我々は持ちつづけてきたつもりでした。しかし、時代が変わる中で、我々自体の変化の速度が十分でなかったということは認識しなければならない事実であるようです。 

ここに、発表します。 
次回、コミケット59の開催をもって、コミケット準備会は、当分活動を休止します。これは、表現の地平を求めて挑戦しつづけてきた準備会の新たな方向性を見出すために、現在の時間に追いかけられて進めているルーティンワークを一度すべて止め、我々自身が我々自身を見直すために、どうしても必要とされる休息を確保するためのものです。 

出来うる限りの自由な表現と自由な出会い、そして、それを求める人の動きは止めることができません。それは人間の本能であるからです。より多くの物語を創り、そして受け止めようとする人々がいる限り、コミケットは存在し続けなくてはなりません。しかしながら、場の拡大を無制限に続けてきた結果、現れた問題は、あまりに巨大でまた余りに多岐にわたります。もちろん、場であるコミケットがそれを解決しようとするのは、もしかすると不遜なことかもしれません。しかし、その解決を模索しなければ、もはやその持続・存在すら確保ができない状態となったのです。 

「2001年コミケットの旅」が潰えるわけではありません。今一度余分な脂肪、溜まってしまった澱を取り去り、運動体としての機能を活性化させて、私達は戻ってくるつもりです。自分が自分らしく自分であることで、そして他者にもそれを認めることで、それをつなぐ表現を進めていくことで、ヒエラルキーも戦争すらもやがてなくなっていくかもしれない。「約束の地」を求めての長い長い歩みの間の、一時の休息をどうか見守って欲しい。そして、空白の間、皆さんにも様々なことを考えて欲しいのです。(米)
.

【タイトル】205
【 名前 】三文文士
【 日付 】2000/08/26 05:48

かつての聖地は、冬独特の気候とあいまって、荒涼とした印象を周囲に放っていた。 
そう、ここは晴海、東京国際見本市会場跡地である。 

その前に、何人かのコート姿があった。 
「変わってしまったねぇ、晴海も」 
「夏草や…ってやつか」 
「うちらが出会ったのって、いつだったっけ」 
「第二次晴海時代だよ。そのあと、すぐ幕張ってころ」 
「あのころの混対は面白かったなぁ。みんな現場にいて、手の届くところにいたも 
の。今じゃさぁ」 
「いまさら愚痴るなさんな、もう最後なんよ。うちらに次はないんよ」 
おかっぱ頭の女の一言が、一同に沈黙をもたらした。 

コミックマーケット準備会は今回をもって、解散する。 
あちこちで、存続だの後継だの名目をつけて、後釜と利権を狙う策謀が行われては 
いるものの、歴戦の混雑対応スタッフだった彼らの長年の居場所がなくなることに 
は変わりがなかった。 

やがて、彼らは、彼らの青春の代名詞でもあったかつての聖地にむけて、一列に整 
列した。 
「気をつけ」 
一番右側の背の低い童顔だが、妙に眼光の鋭い男が号令をかけた。 
「我らが心のふるさと、東京・晴海国際見本市会場。どうか我々に困難に立ち向か 
う勇気と力をお与えください。危難を避ける知恵と幸運をお与えください。そして、 
最後のコミックマーケットを暖かくお見守りください。  敬礼!!」 

彼らは、一斉に頭を垂れた。しばらくののち、顔を上げた彼らの表情には、なにか 
決然としたものが浮かんでいた。彼らは、今回323の列と準備会館内担当の最後 
の名誉と赫赫たる武勲をかけて闘うこととなる。彼らの前に待ち受ける運命を、こ 
のとき、彼らは知らない。 

#旧混雑対応系で、今でもこういう聖地への礼拝をしているスタッフがいるそうな。 
赤茫々でも、一番最後の晴海で、こういうことをやったスタッフがいたそうだよ。
.
【タイトル】247
【 名前 】三文文士
【 日付 】2000/08/28 12:58

ごめん、拙かった。 
訂正点1:第三段落 
ここに、以下のことを参加者の皆さんに報告しなければなりません。これが、私た 
ちにとって、大変つらく、苦渋に満ちた結論であったことも、お伝えすることに、 
意味があると思います。 
次回、コミケット59の開催をもって、コミケット準備会は、当分活動を休止しま 
す。これは、表現の地平を求めて挑戦しつづけてきた準備会の新たな方向性を見出 
すために、現在の時間に追いたてられるように進めているルーティンワークを一度 
すべて止め、我々自身が我々自身を見直すために、どうしても必要とされる休息を 
確保するためのものです。 

#代表は、過去どんな重大事件に関しても「発表」というタームを使ったことがあ 
りませんでした。 

あと、「存続・存在すら確保」を「存続と存在すら確保」に訂正します。代表は 
ナカグロを使わない人なので。 

これ書きたくなって、過去のアピールとかカタログとか全部ひっくり返して、よ 
みましたが、文章自体の煩雑さはともかく、第3期晴海から、ずーっとコミケッ 
トは変わらなくてはならないというメッセージが出されていますね。今回ほど露 
骨ではなかったですが。また、問題は、変わるために、何をしてきたかなんです 
が。 

キーワードは過去の文章からひっこぬきましたので、代表の言葉っぽく仕上がっ 
ていると思います。一文章の長さと全体の構成も毎回こんなもんでしょう。 
緊急アピールだともう少し長いかな。
.
【タイトル】289
【 名前 】三文文士
【 日付 】2000/08/30 14:13:27

../test/read.cgi?bbs=doujin&key=966795175&st=278&to=278&nofirst=true >>278 
原典を挙げたほうが良いんですか。 
じゃあ、上げておきます。 
コミックマーケットカタログ45〜57 
コミケットアピール45〜57 

あと、ワンピースの海賊王の言葉。 
フライングキッズの曲。こんなところかな。
.
【タイトル】347
【 名前 】三文文士
【 日付 】2000/09/05 16:18

えっと、参考文献として 
三崎尚人氏の同人誌文化総合研究所のBBS過去ログを使用しました。 

あと、ここのサーヤ様スレッド。
.
【タイトル】381
【 名前 】三文文士
【 日付 】2000/09/06 11:35

となると、準備会は、今まで溜め込んできた内部留保を一気に吐き出し、コミケット 
59を参加者に対する強烈な教訓とするために、内部に攻撃的な対抗手段をとる準備 
をした(警備会社をまきこんだ形での)部隊を編制するわけね。 

で、それが血塗られた惨劇を巻き起こすのかな。 
スタッフ内の内部抗争と、それにまつわる悲喜劇もからむだろうから、これからの 
展開はそういった形になっていくわけか。 

まぁ、想像力さえあれば、なんとでも話は作れるし、つなげることも変えることも 
解釈することもできるから、別にいいんじゃないかな。マルチエンディングでもい 
いと思うよ。僕は制約が多いほど燃えるねぇ。 

あと、他の即売会業者ないし団体はどう動くんだろう。 
正直、コミケットの「休止」は、赤BBとか、スタジオUにとっては、かなりの大 
問題となると思うんだよね。だって、全体市場規模の縮小につながることは確実に 
なるからさ。
.
【タイトル】443
【 名前 】三文文士
【 日付 】2000/09/08 06:12

シュンシュンシュン…。 
ストーブに掛けられたやかんの沸騰する音がいつまでも響いている。 
そんな木枯らし吹き荒れる厳寒の夜。 

コミケット準備会の中堅スタッフ2人がアパートで向き合って話をしていた。 
手にはなにやら指揮系統をあらわす線と責任者の名前が満載された紙。 
コタツの上にはカセットコンロと缶ビールがふたつ。 

「しかし、安い野菜でもこうして食べると結構食えるもんだねぇ」 
「でしょ? ダシきちんととって、薄い醤油味つけて、あとは適当に野菜でも肉で 
も魚でも。今の季節、あたしゃ、こんなもんばっか食べてる」 
「健康で文化的な生活ってわけだ」 
「まぁね。これで、コミケの打ち合わせしてなければもっと良かっただろうなって」 
お互い良い歳した自分の身の上を思って溜息ひとつ。 

やがて、土鍋は空になり、二人は話し込み始めた。 
「受付販売のお姉さまがたは、相変わらずの顔ぶれ。館内も入れ替えなし。公共地 
区も入口も別に代わり映えしないわね」 
「今更、何を変えようがないだろうが」 
「んなこともないでしょ。システムを変えるのは無理でも、首すげかえるのは簡単 
だもの。それが稼動するかどうかはまた別問題だけどさ」 
「しかし、ひびきちゃんってかわいいなぁ」 
「じゃじゃ馬読みたいなら貸したげるから、今だけは話に付き合いなさい」 
「すんません」 

「ところでさ、何? この総本部接遇担当って」 
「ああ、ううんと、つまり、その、あんた、聞いてないの?」 
「誰から? 何を?」 
「じゃあ、知る資格はないってことだわ。気にしなくていいよ」 
「あ、お前、そんな言い方ってないだろ。何年の付き合いだと思ってるんだ」 
「えっと、あたしが第41期生だから…」 
「マジメに答えられてもやっぱり困るんだけど」 
「ニード・トゥ・ノウの原則って、あんたが教えてくれた言葉だったと思うけど?」 
「今更、俺とお前の仲じゃん。それとも、地区長補佐殿にこのようなことをお聞き 
するのは、ホール長補佐としては、分を弁えない振る舞いでしょうか」 
「多分、知らないほうが幸せに生活できると思うんだけどな。あたし、この件でい 
ろんなことやっていて、2週間前から胃が痛いの」 
「俺は結構ためらいなく、禁断の実をかじって、あとで後悔するのが好きなんだよ」 
「………………。秘密は守ってもらうわよ」 
台所にたって、カルーアを作り、飲みながら話す。 
「つまり、私達の楽しいカーニヴァルに、さーや様が来ちゃうのよ」 
男のほうが飲みかけたビールを吹き出す。 
「まじで?!」 
「だから、聞かないほうが幸せだっていったのに」
.
【タイトル】492
【 名前 】三文文士@喧騒を支える食卓
【 日付 】2000/09/09 23:50

シイゼリア有明店にて 
「ちょい、来週の週間発注基準量、ちゃんと変えたね? 計画今週比2000人アッ 
プだよ」 
「あ…、失礼しました。忘れてました」 
「頼むよ、俺が全部チェックしているわけにはいかんのだからさ」 
「でも、店長、どうするんです? また、3日間地獄ですよ。女の子達は回転しな 
いし。そこがきついんだよな」 
「大丈夫、今回は本社応援、地区応援が来る。地区長と、正社員が5名、応援で入 
ること考えると、なんとかなるさ。食材と道具さえ揃えておけばね」 

インペリアルホストカフェテリア 
「さぁて、来週はコミケだからね」 
「もうやだですよ。あのオタクたちの相手するの」 
「んなこといわない、相手はお客様。オタクかどうかは関係ないの!」 
「でもなぁ…」 
「支配人、本部からお電話です」 
「はい、お電話代わりました。支配人です。ええ、お世話になっております。はい、 
え、ああああ、そうなんですか。あらまぁ、そんなことに。はいはい。分かりまし 
た。失礼します」 
「支配人、顔色悪いですよ」 
「まずい、総料理長臨店があると」 
「ええっ、コミケの最中にですか。無理ですよ! 絶対マニュアル守れませんよ」 
「守れなきゃ殺されんだよ、守るんだ!」 

発信:ゴスト業態企画担当 
発行承認:GT業態企画リーダー 
宛:首都圏第3GT事業部(東京23地区担当) 
  首都圏第4GT事業部(東京多摩地区担当) 
  首都圏第5GT事業部(神奈川横浜・川崎担当) 
  首都圏第6GT事業部(神奈川横浜・川崎担当) 
  首都圏第7GT事業部(千葉県北西部担当) 
  首都圏第8GT事業部(埼玉南部担当)    
以上の事業部に所属の全店 および当該地域所在の直轄店マネジャー 

件名:コミケットカタログ59掲載割引チラシの対応に関する件 

 2000年12月29日、30日の両日、東京都江東区有明の東京ビッグサイト 
において、コミックマーケット59が開催されます。 
 当社は、当該イベントに対し、広告を掲載しております。 
 内容は、目玉焼きハンバーグ50円割引券、ドリンクバー50円割引券、デザ− 
ト50円割引券です。 
 当該イベントは、総入場数50万人を超えるイベントであり、過去の統計からも 
特に20代男女の入店数が通常比最大で29%(平均16%)増加するという分析 
が得られています。 
 また、割引券の回収率も極めて高く(4%)、商品管理上、特に留意が必要です 
ので、通知します。 

 なお、他のお客さまの快適な食空間を維持する必要があるとの観点から、お客さ 
まの以下の行動は、可能な限り制止し、必要であれば、退店をもとめることも視野 
に入れてください(昨年度は全店で31件発生し、うち12件が本部クレーム) 
・女性の裸体など扇情的な画像を店内で閲覧すること 
・ノートパソコンでチャット(電子環境上の文字列による会話)を始めること 
・アニメ・マンガなどの登場人物の扮装をして入店すること 
・大量の書籍を持ち込み、整理・発送作業を行うこと 
・大声で、通常公衆の面前ではとりあげないような話題の会話をすること 
以上、疑問は、本部営業本部GT業態企画室まで。 

#外食企業の対応を想像したものです。 
#多分、言葉は変です。本業の方、つっこまないでください。 
#何人かの友達から取材し、通知ももらってきてもらいました。面白いね、内部文書。
.
【タイトル】491
【 名前 】三文文士@喧騒を支える群像
【 日付 】2000/09/09 23:48

「所長、とりあえず、各部署との最終調整終わりましたぁ」 
「おう、お疲れさん。で、最終的な体制は?」 
「はい、東東京主管、西東京主管、南東京主管、新東京主管の4支店から、昨年の 
日程にあわせて休暇を取った人間をピックアップしまして、業務命令出してもらい 
ました。50名程度になりますね」 
「ふぅむ、人事部にあとでお礼しておかないとな」 
「人材開発企画室で、前から創ってあった資料らしいですよ」 
「へぇ、そりゃ手回しのいいこった」 
日本最大の宅配業者、大和運輸(だいわうんゆ)有明営業所。 
骨に染み渡るような寒さの中、緑のユニフォームに身を包んだ2人がお茶をすすり 
ながら、最後の確認をしている。 

「しかし、経営戦略開発部からの要請とはいえ、急でしたね」 
「ああ、前からあった構想ではあるらしいんだがね。ことは夏と冬の2回だけでは 
ない。毎週日曜日には都内のどこかでコミックがらみのイベントがあるんだそうだ。 
その発着規模は、月1万個じゃきかんのだ。しかし、この市場の70%は営業政策 
的に先行された大日本通運が抑えてる。これからの若年者人口を有効に大和の顧客 
としていくには、この手の市場でも取りこぼしできないのだとさ」 
「仕分けは、東東京ベースから、ベテランのバイトを20名回してもらいます。一 
応、発着は東東京ベースからということに」 
「まぁ、そうだろうな」 

「で、一応出陣式やります。今回は三つ巴の競争ですからね。主管支店長からも、 
絶対に負けるな、ミケネコダイワの名誉にかけて、バリカン便に完勝してこいとの 
お言葉を頂いてますし」 
「社訓の唱和でもやるのか?」 
「それもいいかもしれませんなぁ。一つ、大和は人なり、一つ、運送事業は委託者 
の意思の延長と知るべし、一つ、礼節を重んずべし」 
「今更、いわれんでも暗唱しとるよ。俺は、これを20年も唱えてんだ」 
所長は、細かい部分まで確認を済ませると、主任を帰らせた。 
(これで実績あげて、なんとか支社に戻りたいもんだ) 

この所長の思いはかなえられることになる。東京支社総務部付として。1週間。 
その後、彼は、転職活動を始めなくてはならなかった。 
汚名を負って。 

#大規模な人間の活動は、それだけで、大規模な経済効果を生み出す。 
#まして、巨大な物流を必要とするなら、なおのこと。 
#なお、このSSは、実在する某超巨大運送会社から組織の名前をお借りしており 
#ますが、中身は全然関係ありません。事故通報とかいわれてびくっとしないよう 
#に(笑)
.
【タイトル】345
【 名前 】三文文士@儀典担当の物語
【 日付 】2000/09/05 14:26

シュンシュンシュン…。 
ストーブに掛けられたやかんの沸騰する音がいつまでも響いている。 
そんな夜。 
コミケット準備会の中堅どころ2人がアパートで向き合って話をしている。 
手にはなにやら指揮系統をあらわす線と責任者の名前が満載された紙。 

「ふぅん、受付販売のお姉さま方は、まぁいつもどうりちんたら仕事するだろうか 
ら、まぁ、どうでもいいとしてだ。ところで、何? この総本部儀典担当って」 
「ああ、ううんと、つまり、今回、開会式をやるんだ」 
「はぁ?? 寝言? どこでやったって、コミケット全体の人々がみえるわけでは 
ないし、大体そういう儀式とか虚礼は準備会がもっとも嫌ってきたところじゃない 
かよ。今更何を言っているの」 
「しかし状況が変わったんだ」 
「どう変わったというのよ」 
「……。僕の一存で話すんだ。秘密は守ってもらうよ」 
台所にたって、カルピスを作り、飲みながら話す。 
「1週間前のことだが、宮内庁筋から打診があった。紀宮内親王殿下は、もともと 
各国の映像文化に極めて強い興味をお持ちであり、その関係の研究も行われておら 
れるところであるが、この度、日本の映像文化の発展に極めて強い影響を与えてき 
たコミックマーケットが終わるに際して、今後の見聞を広めるため、コミックマー 
ケットをご訪問されることを希望されておられる。公式な訪問とするかは、御準備 
会の自由であるが、説明を行う人間はつけていただきたいと」 
「………。で、冬だ1番エロ本祭りに来ちゃう訳?我らが愛すべき紀宮内親王殿下 
は」 
「別にエロ本ばかりがあるわけではない。サークルの全体比率からすれば」 
「ふん、そんな一般参加者むけのおためごかしで誤魔化すなよ。市場占有率から考 
えれば圧倒的な勢力さ」 
「まぁ、それはどーでもいいとして、で、準備会も対応せざるをえなくなった。何 
しろ、最後の祭りだ。華やかに狂えるのもいいだろうって話になったわけで」 
「誰だ、星界なんかにはまっているのは」 
「それもどーでもいいとして、だから、今回は9時45分から放送で開会式を行う。 
外の電光掲示板とかは、それを映す。で、お言葉をたまわり、開場宣言をやってい 
ただくことになった」 
「よくベルさんが納得したよな」 
「それもかなりどーでもいいとして、これは当日まで一応秘密だ。警備の都合上、 
そうすることがどうしても必要になる。皇室からむだけで、まぁ、警備の手間が増 
えること増えること。でも、その分、警察も部隊出してくれるからね。助かるとも 
言えるわな」 
「どーりで。儀典担当の配属者、これみんな、配置責任者ばっかだもんな。少女向 
創作、FC少年、歴史…、ふんふん、さすがにギャルゲ―と男性向け創作はないか 
な。あったら、それは世の中終りだろうしなぁ」 
「それでかぁ、やっと話がわかったよ。今回やけにどこも姿勢が強硬なんだよ。徹 
夜組対策は本気でやるって言っているし、大手サークルの扱いについても販売停止 
辞さずとか言っているし」 
「そうだ、すべては混乱を避けるために行われている一連の処置となる。どうせ、 
最後だしな」 
「で、お前はどうするの。一応大学助手で就職決まったんだろ? どこか、準備会 
の後継狙っているとこ行くかい?」 
「ううん、これから博士号請求論文で忙しくなるしな。それに俺は、コミケットの 
理念を信じているし、代表に対する忠誠心もある。たとえ実情が理想と乖離してい 
たとしても、それだけは変わらん。だから、多分、終わってしまったコミケット、 
あるいは、代表が退かれた形での準備会にも参画はしない。つまり、俺にとっては 
これが最後のコミケットというわけさ。一応、うちのサークルもひとりでやってい 
る替え歌サークルだし、暖簾をおろすのは難しくないんだ」 

三鷹の夜は静かにふけていった。
.
【タイトル】512
【 名前 】三文文士@遠すぎた有明
【 日付 】2000/09/11 18:44

「そんな、あんまりだ…」 
男は力なくつぶやき、その場に立ち尽くした。 
時は厳寒、場所は札幌空港。 

「現在、大雪のため、全離発着を見合わせています。復旧の見込みはいまのところ 
明らかにできません。お急ぎのところ、大変ご迷惑をおかけしております。復旧ま 
で、今しばらくお待ちください。                札幌空港長」 
ついさっきまで各ラインの美しいマークが映し出されていた離発着時刻表が次々と 
暗転、代わって映し出された文面に周囲は言葉を失っている。 

カウンターには「空港閉鎖に伴い、受付を一時中止いたします」という看板が出さ 
れ、中の職員は、ダンボールをカートに積んで引いている妙齢の女性たちにかこま 
れて、泣きそうになりながら、説明を続けている。 
「飛ぶことはできないんですか。これくらいの雪で!!」 
「お言葉ですが、私どもが提供する一番のサービスはお客様の絶対安全でございま 
す。安全基準をこえた降雪の中、飛行機が飛ぶことはございません。なにぶん、天 
候の問題でございますので、天候の回復をお待ちくださいませ」 
なおも何事か言い立てようとする女性を周りが「やめなよ」と抑える。 
やがて、彼女らは抱き合うと、声を震わせて泣き出した。 

(なるほど、彼女らもお仲間か) 
男は、静かに降り積もる雪を恨めしく眺めながら、その声を聞いていた。 
彼は、準備会スタッフだった。この10年というもの、すべてのコミケの前日設営 
に携わってきたのが彼の誇りだった。そして、最後、この最後の最後になって、彼 
の記録は潰えようとしている。 

目の前が暗くなる思いを抑えて、前日設営部先遣隊本部に電話をする。 
「ああ、本当に申し訳ないけど。ま、管理機能は僕が北海道転勤になった時点で、 
引き継ぎ終わらせてあるから、特に問題ないと思うけど。大丈夫だよな。……うん 
うん、大丈夫だよ、お前ならきっと出来るって。わかんないことは、上にも下にも 
優秀な人間いるんだから、聞いてさ。俺一人いなくなったって、人足が一人いなく 
なっただけだと思えって。ああ、最後の、最後のコミケを造るんだ、失敗は許され 
んぞ。でも、俺はお前を信じてるよ。打ち合わせも何度となくやっただろ。大丈夫 
だから。やっちまったって、どうせ最後なんだ。俺と一緒に頭下げてまわればいい 
だけのことだよ」 
しばらくうなずいて、相手の言うことに耳を傾ける。 
「うん、ああ、ありがとう。まぁ、しょうがないことだよ。天気には勝てんさ。お 
前がそういってくれるのは、本当に嬉しいよ。ありがとうな。うん、前日設営総統 
括によろしく。本当に残念に思っているって、あと、長い間ありがとうございまし 
たって、前日設営スタッフであったことを誇りに思っているって伝えてくれ」 
何事かまだ耳元では声が続いていたが、彼は電話を切った。 

やがて、広いラウンジに嗚咽の和音が響きわたった。
.
【タイトル】344
【 名前 】三文文士@ちょいとしたメモ
【 日付 】2000/09/05 14:26

主題:終わるコミケット−同人誌市場黄昏の時代− 
個人的副題:一人の男と、八つのホールと、そこに集ったすべての仲間の長い物語 
1:物語の方向性としては、「なんとか無事に終わらせようとスタッフは試みた 
が、その思いは報われなかった」という方向性を強く示唆している。 
2:代表が終了を提案したことは既に描かれているものの、その引き金となった事 
件ないし理由については、いまだ描かれていない。 
3:天候は雪。気温はきわめて低い。徹夜組に対する何らかの対抗行動がとられた 
可能性が高い。一般入場は雨導線。搬入はおそらく雨フォーメーション。 
4:最期のコミケットにふさわしい最期の大事件は描かれていない。それが、32 
3による可能性は高い。 
5:後継イベント争いについても、いくつかが名乗りをあげていることは描写され 
ているものの、いまだ物語は明確でない。 

まだまだいくらでも描くことあるぞ、少しでも多くの表現を創ろうとし、それを求 
める人々がいる限りコミケットは本質的には終わらない。ネバーエンディングスト 
ーリーというか、ビューティフルドリーマーというかはともかくとして、ね。
.
【タイトル】378
【 名前 】三文文士@スタッフたちの愛唱歌
【 日付 】2000/09/06 10:43

本を買いたい♪ 

大きな鞄抱え カタログ手に持って 荒れ狂う人に揉まれ 今すぐ本を買いたい 
天国じゃなくても 楽園じゃなくても 本に出会えた幸せ 感じて本を買いたい 

何一つ良いことなかった このコミケ 外周で大声 張り上げ切れる 
本部に帰っても 気力は戻らない カタログチェックも無駄に とても本は買えない 

何一つ良いことなかった このコミケ 沈み行く夕陽に 涙あふれる 
スタッフたることを 不幸にも感じる かっこ悪くたって良い 本を本を買いたい 

天国じゃなくても 楽園じゃなくても 本に出会えた幸せ 感じて本を買いたい 
天国じゃなくても 楽園じゃなくても コミケ来た幸せ 感じて本を買いたい 
本を本を買いたい
.
【タイトル】379
【 名前 】三文文士@あと言い訳
【 日付 】2000/09/06 10:48

えっと、前回出したSSを撤回します。 
ストーリーの整合性上、あれでは都合が悪いので、都合のよい形にした 
修正版を近いうちに出させていただきます。 

まぁ、未熟者のやることと思ってくださいまし。
.
【タイトル】444
【 名前 】三文文士@「好奇心は猫を…」
【 日付 】2000/09/08 06:16

「………。で、冬だ1番エロ本祭りに来ちゃう訳? 我らが内親王殿下は」 
「別にエロ本ばかりじゃないわ。サークルの全体比率からすれば」 
「ふん、そんな一般参加者むけのおためごかしで誤魔化すなよ。市場占有率から考 
えれば圧倒的な勢力さ」 
「そりゃ、歴史出身のあたしに対する挑戦と解釈していいわけ?」 
「俺だって、文芸だよ。客観的な分析ととらえてくれぃ」 
「じゃあ、それはいいとして、非公式だけど、オファーが来たのよ。で、「行って 
いいか?」って。別に普通の格好していれば、馴染みまくっちゃって分からないと 
は思うんだけど、ああいうやんごとなき方には、一応きちんと人をつけるのが礼儀 
らしくてさ」 
「華やかに狂える話だな、ええ、おい。まさに最後の祭りに相応しい」 
「最近は、星界なんだ」 
「それはどーでもいいとして、だからかぁ、やっと話がつながったよ。今回やけに 
どこも姿勢が強硬なんだよ。徹夜組対策はかなり思い切った作戦に出るって言って 
いるし、大手サークルの扱いについても販売停止辞さずとか言っているし」 
「うん、最後ってこともあるしね。こうなっちゃえば、警察だって、消防だって、 
都だって、協会だって、止めようがないわよ。明日を考えないなら、過激にもなる 
わよ、みんなストレスたまり放題なんだからさ。 
で、接遇担当だけど、一応統括は、変な酋長さんが兼務。で、下に仕切り担当の統 
括補佐1名と、配置担当者。ご進講しなくちゃいけないらしくてね」 
「はぁ、ぶったまげた。すげえことも起きるもんだ。しかし大変だね、そりゃ。ど 
ーせ、その絡みなんでしょ、君も。ご同情申し上げるよ」 
「は? 同情の必要なんかないわよ。一蓮托生になってもらうから」 
「…ちょっと待て、ごめん、猛烈に後悔してる。聞かなかったことにさせてくれ」 
「もう遅い。警告はしたはずだし。好奇心は猫を殺すのよ」 

その場で携帯取り出し、電話を始める女と、頭を抱えてうずくまる男。
明大前の夜は静かに更けていった。
.
【タイトル】185
【 名前 】三文文士@「ごあいさつ」 <sanmon@lycos.ne.jp>
【 日付 】2000/10/05 12:17

この冬のコミックマーケット59は、すでに緊急アピールでもお知らせしたとおり、久しぶりの「次の開催が決まっていない」コミケットとなりました。コミックマーケット準備会は、時代が変わろうとしていく中で、参加者が変わっていく中で、器であるコミケットの運営そのものを変えていくための多少のお時間をいただくことなります。 

今まで24年にわたって、紆余曲折しながらも、運営しつづけてきたコミケット。それが一時とはいえ、休止することには一抹の寂しさも禁じえません。思えば、あの今はなき消防会館から、大田区産業会館、川崎市民プラザ、横浜産業貿易ホール、TRC、幕張メッセとさまざまな会場を使用してきましたが、やはり我々にとって特に思いが深いのは、晴海・東京国際見本市会場と、有明・東京ビッグサイトでしょう。マンガ、アニメ、オタク、コスプレ…長年にわたり流布されてきたマイナスイメージを跳ね返し、プラスに変えていくための我々の闘いにとって、この2つの会場はやはり別格の意味がありました。 

コミケットとは何か、これをもう一度確認していくとするなら、それは、表現を伝え受け止めることにより自らを豊かなものにしていこうとする、主に紙を核媒体とした交流の場です。そして、コミケットは、それを維持し、拡大させていくことによって、世界の中に、その価値観を定着させていこうとする意思をも持っています。 

24年もの長い間、この一時だけ現れる解放区を維持するために、どれだけの力が注がれているか、私達は参加者の皆さんに伝達していく努力を特にしませんでした。 
それは、あくまでコミケットの主体は参加者の皆々様であって、それを支える裏方が前面にでるのは相応しくないという発想であり、また、その努力は、解放区の同志である皆さんが、コミケットの歴史を引き継ぐ中で当然に分かっていてくれているであろうという一種の甘えによるものでもありました。 

私達はつねにコミケットは存続の不安の中にあるといってきました。しかし、この危機感が十分に参加者の皆さんに届いていたか。今から思えば、ここに一つの鍵があったのではないかと思えてなりません。今秋に起きたある同人誌即売会における痛ましい事故は、私達にも痛切な思いを抱かせずにはおきませんでした。今回の休止が、参加者の皆さんに、同人誌とは、表現とは、あるいは、権利とは、自由とは、責任とはといったことについて、ちょっとでも考えていただけるきっかけになると信じています。 

それでは、また、再びお会いするその日まで、ごきげんよう。      (米)


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