【タイトル】91
【 名前 】コミックマーケット73
【 日付 】2000/08/22 23:23:09
第二章 『Revolution_No.9』
二千年十二月二十九日午前零時二分
オマエモナ準備会専用倉庫
「君達が、今日ここに集まってくれたことに、私は深い感謝をしたい」
暗い倉庫。明かりは裸電球一つ。積み重ねられた本の上に立つ男。その
前に整列する赤と黒の服に身を包んだ男達。
「これから始まる戦いは、おそらく今までで最も激しい戦いになる
。運の悪い奴は死ぬだろう。私は君達に強制はしたくない。この作
戦を遂行しても、我々には何の利益も無いだろう」
男はそこで言葉を切る。俯いて溜息をもらす。
「正直言って、無謀な作戦だ。奴等は二千人。こちらは五百人。強
制はしない。今ここでこの作戦に参加したくない者は、この場を去
っても私は責めない」
誰も動かない。沈黙。また溜息。
「ありがとう。君達のような人がいなければ、オマエモナもここま
で成長することはなかっただろう」
男が姿勢を正す。
「なすべきことは!!」
「棚木に氏を!!」
「邪魔者は!!」
「逝ってよし!!」
倉庫内に響く歓声。そして熱気。
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【タイトル】110
【 名前 】コミックマーケット73
【 日付 】2000/08/23 01:30
二千十二年十二月二十九日午前五時四十二分
JR赤羽駅 車椅子用トイレ内
「ぅむ・・・うん・・・はぁ・・・」
鼻に突っ込んでいるのが一ドル札ではなくちぎった宣伝ペーパーな
のが笑うところ。
「ニードル貸せよ」
投げつける。
「オイ!アブねえだろ!」
「そうだな」
俺は俺が着ているTシャツほどに全知全能。このふざけたチャンコ
ロTシャツほど慈愛に満ちあふれている。ふうむ、悪くない。
「オイ!コレはテメエが使った奴じゃねえか!」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
辿り着く。会いたかったピエロが囁く。
「日野?おい、日野?」
「何だよ」
「・・・ここは?」
「ジェェェイアァァッル赤羽駅カタワ用ワシントンクラブ」
「俺達はここからどこへ行く?」
「コッミックッマッケット」
「何をしに?」
俺は俺が着ているTシャツほどに全知全能。このふざけたチャンコ
ロTシャツほど慈愛に満ちあふれている。
「・・・コピーアンドペースト」
「オーケーオーケー」
そして俺は荒らし。その使命は荒らすこと。それ、のみ。
「逝こうや相棒」
余韻に浸っている神保の肩を抱いてトイレを出る。
そう、俺は、荒らし。
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【タイトル】202
【 名前 】コミックマーケット73
【 日付 】2000/08/26 02:04
二千十二年十二月二十九日午前六時二十七分
TFT屋上
手にした双眼鏡。風が吹く屋上に男が二人。
「状況は?」
「おとなしいモンだ。三万人も集まって騒ぎの一つもおきないってのも、逆に恐ろしいな」
「四十年近く列の整理しかやってこなかった連中だ。三万人ぐらいじゃびくともしない」
「タナ、テンエー隊が騒いでたぜ。チャンコロ共がこっちに向かってるってよ」
「予想通りだ。人数は?」
「わからん。だが、シラネーヨにかり出されてた奴らをわざわざ呼び戻したらしい」
「田中バッジの連中をか?ハハ、2ちゃんボーは加減を知らないな」
「笑い事じゃない」
「心配するには及ばんさ。連中のスタッフ、いやスターフか、全員連れてきたって七百人程度だ。
こっちは百人プラス準備会内の同志千二百人」
「・・・」
「俺達が勝つ。そうだろ?」
「もう十年近くお前とつき合ってるが、未だに俺にはお前がわからん」
「ハハハ、人間なんてそんなもんさ」
「・・・で、本当にやるんだな?」
「今更何を言う」
「俺には、お前が本当にコレをやりたがっているようには、見えねえんだな」
沈黙。風が止まる。
「俺は、これまでの戦いで散っていった同志のためにも」
「同志のため?笑わせる。お前ほどのエゴイストがもう一人いたら日本は滅んでるぜ」
「・・・今更計画は中止できない」
「りょーかい」
一人になった男。また吹き始める風。呟く男。
「・・・ヨネザワ・・・!」
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【タイトル】229
【 名前 】コミックマーケット73 <五十時間に突入。死ぬかも。>
【 日付 】2000/08/28 05:05
二千十二年十二月二十九日午前九時五十分
有明ビッグサイト
行列は、まるで虫のようだ。小さな頃、校庭の隅で見た蟻の行列を思い出す。
僕も含め、みんな虫だ。
虫。転売を企む虫。盗撮を狙う虫。徹夜を楽しむ虫。
僕らはみんな、コミックマーケットという巨大な生物に寄生している虫だ。寄生虫だ。
宿主にすがるしか、生きる術を持たない虫。宿主が死ねば、自分も死ぬしかない、哀れで、惨めな、虫。
宿主。僕は考える。
コミケは今日、死ぬ。オタクであった僕たちも今日、死ぬ。
「ケンちゃ〜ん、な〜んか前の方が騒がしいよ〜」
ことあるごとに前島は話しかけてくる。こういう人間は一番嫌いだ。
「ケンちゃ〜ん、怖いよ〜、なんか怒鳴ってるよ〜」
普段孤独な人間は、その反動でもの凄く喋ったりするときがあるらしい。こいつもそのクチなのだろうか。
僕は前の方を見た。確かに様子がおかしい。
「・・・なんだ?」
行列がざわめき始めた。不穏な空気が漂い始める。
「・・・だから・・・そんなことは言って・・・私達だって・・・」
途切れ途切れ会話が聞こえてくる。
「・・・いいから!・・・説明を・・・そんなこと・・・」
「な〜にがあったんでしょ〜ね〜」
前島は奇妙な、多分出鱈目だろうが、踊りを踊りながらそう言った。
一際大きな声が聞こえてきた。
「だから!理由を説明しろよ!」
甲高い声。悲鳴のようだ。
「知りませんよ!!こっちだって今さっき上から言われたんですから!!」
スタッフもかなり興奮している。
「コミックマーケット73は、中止なんです!」
前島がぴたりと動きを止めた。
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【タイトル】230
【 名前 】コミックマーケット73 <上の省略は何もありません。>
【 日付 】2000/08/28 05:07
二千十二年二十九日午前九時五十二分
・・・・・・
体が痛い。
「鷹山、とか言ったかな?そのスタッフは」
誰かが私の名前を呼んでいる。
「厄介なものだね。コミケにしか生き甲斐を見いだせない人間というのは」
違う。私はコミケが無くても別に平気。ただ少し寂しくなるだけ。
「別に恨まれやしまい。結果的に我々は彼女を救うのだから」
学校で教わらなかった?善意の押しつけが偽善って言うの。
「そろそろかね」
聞き慣れた音がどこかから聞こえてきた。
「そのようですな」
あー・・・なんだったっけ・・・この音・・・
「しかし、驚いたよ。まさか君クラスの人間まで参加してくれているとはね」
おかしいな・・・聞き覚え・・・あるはずなんだけど・・・
「我々も常々疑問に思っていたのですよ。何故あのような無能に使われなくてはならないのかと」
どこで聞いたんだっけ・・・昔・・・ずっと昔・・・
「ハハ、ずいぶんな言いようだね」
夏・・・そう・・・夏・・・
「問題を先送りにしかできない人間に、コミケの主催はふさわしくありません。まったく、もうちょっと
早くお声をかけてくだされば」
コミケの・・・
「主催も色々と問題を抱えていたのだよ」
58・・・
「問題、ですか?」
西館・・・
「そう、この彼女のような、コミケにある種信仰のようなものを抱いている連中がたくさんいてね。手懐けるのに手間取った」
思い出した。コミックマーケット58、西館、シャッター前。
暴動の音だ。
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