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終わるコミケット

1 名前:長期掲載仮想ネタスレ投稿日:2000/08/21(月) 03:12
次の冬コミでコミケットはおしまいだ。

米沢代表の終末宣言が発表されてから一週間が過ぎた。
いよいよ次の冬、コミケットはその小さな歴史を閉じる。
活動を終了する者、書店卸しにしがみつく者、企業イベントを選ぶ者…
しかし、絶望は終焉ではない。
終末までの4ヵ月。オタクに残された黄昏の時がある。
そしてそんな中、ちょっとだけ平凡じゃない2ちゃんねるに常駐する同人達の姿があった。
果たして彼女達、彼らには見つけられるのだろうか。

終末の、過ごし方が。

てゆーか各種議論スレが無限ループを繰り返した挙げ句妄想じみてきたのでサクッと仮想スレを立てる。
いろいろ考える暇のある人はどうぞ。尚このスレッドは冬コミまで持たす予定。
タイムテーブルは実時間に合わせるもよし、名前欄に自己申告するもよし。

終わりを望む者達へ、ささやかな愛と憎しみを込めて。

23 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 04:02
「なあ・・・俺達がやってきたことは・・・無意味じゃなかったなよな・・・」
今正に沈もうとしてる夕日が照らす有明水上バス乗り場。佇む男が二人。
「どっちみち、俺達は負けたんだ。逃げたとも言える」
くわえていた煙草を吐き捨て、言った。
「俺はお前のそういうところがダメだった。いつもお前に劣等感を感じてた」
「俺はお前のそのヘタレてる部分がダメだったな。反吐がでらあ」
笑い合う二人。
「どうすんの?これから」
「ん?まあ、適当にやるさ。また何かイベントやるときは呼ぶぜ。覚悟しとけよ」
「ハイ両国行きにお乗りのお客様」
「おっと、じゃあ、行くね」
「おう、じゃあな」
いつまでも船を見ている男。雨が降ってくる。男が呟く。
「コミックマートってのはどうかな・・・」

25 名前:23続き投稿日:2000/08/22(火) 04:18
「一つのイベントがあった」
一人の男が立ち上がりながらそう言った。
「そしてそのイベントは大きくなり、総参加者は四十万人に達した。
それにつれ、様々な問題も出てきた。そしてこれらの問題に対する
対処法は、このイベントが終わるまで、はっきりとした形ではでな
かった。出なかったからこそ、このイベントは終わったのだ。徹夜
組、企業スペース、転売屋、ダミーサークル、スタッフの横暴。こ
れらの問題に対する対処法は、何一つ、はっきりとした形では出さ
れなかったのだ」
狭い会議室の中。床に座り込みその演説を聞いている男達が数十人。
「このイベントは何か?そこのお前、答えて見ろ」
演説を続ける男が座っている男の一人を指さす。指さされた男は勢いよく立ち上がり、
直立不動の体勢を取って言った。
「コミックマーケットであります!!」
「その通りだ。我々が、貫くのはアンチコミケットの姿勢。それを忘れるな」
男が姿勢を正す。
「それではオマエモナ23、始めるぞ!」
会議室にいた男達が立ち上がる。
「総員、逝ってよし!!」
「オマエモナ!!」

28 名前:仮想戦記@コミケット投稿日:2000/08/22(火) 04:28
二千年十二月二十八日午後十一時五十三分

有明ビッグサイト

「嫌な感じだな・・・雨でも降りそうだ・・・」
飯野健一は呟いた。
「オイ聞いたかよ。準備会の連中、徹夜組は実力排除するなんて言ってるらしいぜ」
隣の男が言った。飯野は彼のことを知らない。ここで会ったばかりの男だ。
「そいつは大変だな」
「ケケケ、準備会の連中どもなんかに俺達が排除できるわけねえのによお、ケケケ」
転売屋だと言うその男は、裾がすり切れたケミカルウォッシュに紺のトレーナー、その上にダッフルコートを着ている。
ファッションは学校で教えるべきだ。飯野はそう思った。

同午後十一時五十五分

TFT屋上

「状況は?」
「千人強といったところです」
「予定通りか。しかし、なんだな」
「はい」
「最後くらいは、しっかりと終わりたかったな」
「同感です」
「作戦開始は0000」
「はい」

29 名前:仮想戦記@コミケット投稿日:2000/08/22(火) 04:40
二千年十二月二十九日午前九時十八分

水上バス後部座席

人混みを極端に嫌う日野一郎は、どちらかと言えばコミケットは嫌いだ。
昼過ぎに来るのもそのためだ。本当のところ来たくないのだが、彼には
目的があった。
「だからね、コミケットは大きくなりすぎたと思うんだ。そして準備会
の連中にはそれを統率できるだけの能力がなかったんだ」
彼の隣の席に座る男が、奇妙なTシャツを着た男と喋っていた。大きく
www.2ch.netと書いてある。
「ふうん」
奇妙なTシャツを着た男は、興味がなさそうに言った。
「だからね、僕からいわせればね」
やれやれ。辛抱強いこった。日野は思った。

31 名前:仮想戦記@コミケット投稿日:2000/08/22(火) 04:46
二千年十二月二十九日午前八時二分

有明ビッグサイト内 サークル「Cut a dush」前

「販売停止・・?!」
「そうだ」
「どういうことですか?!」
「どうもこうもない。荷物をまとめてさっさと出ていってくれ」
「イヤです!絶対に!」
「あまり手を煩わせないで欲しいんだがね」
「だって、いきなりそんなこと言われたって、無理に決まってる
じゃないですか!今回は三万ですよ!?」
「・・・やれ」
銃声。
「本は中央に集めておけ」
足音。悲鳴。また銃声。

34 名前:仮想戦記@コミケット投稿日:2000/08/22(火) 04:59
二千年十二月二十八日午後十一時三十五分

オマエモナ準備会事務局
「兵隊は?」
「集められるだけ集めました。スターフ内、ギコバッジ組より二百三名、モナバッジ組より
二十二名です」
「足りん。田中バッジも連れてこい」
「た、田中をですか?!」
「そうだ。今回は今までで一番激しい戦いになる」
「わ、わかりました!」
机に脚を投げ出し、男は天井をじっと見つめる。
「やるしかない。そうだろ?」
自分に言い聞かせるようにいう。
「やるしか、ないんだ。俺に残された道は、それしかないんだから」

41 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 05:40
〜あるマンションの一室〜
「まだだ。まだ四ヶ月ある!」
「ダメだよ。過去最高のページ数だ、四ヶ月じゃダメなんだ! 」
「だからといって諦めるわけには……ッ!」

〜スタッフ会議室〜
「……今、連絡があった。力を貸してくれるそうだ。」
「あの人が? まさか! 」
「最後のコミケだ、"彼"以外に指揮を執れる者はおらん。」

〜シャッター前〜
「西館より緊急入電! "シキュウ キュウエン モトム"との事ですっ!」
「解った、5人ほど連れて向かってくれ。」
「しかし、それでは!」
「早く行けぇっ! ここは俺がくい止めるっ!」


「Comike the Movie」 Comimg soon…….

67 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 18:53
「西2−Cシャッター前の群衆、なおも増加中。シャッター開放の許可を!」
「現時点でのシャッター開放は認められない。現在、公共地区・更衣室担当他からの増援隊が急行中。
全力で事態の収拾をはかれ」
「……対処不能! シャッターの開放を!」
「シャッターの開放は認められない。全力で対処せよ」
「側面からサークル入場者の走り込み8名! 急接近します!!」
「わぁーっ! 班っ長ーっ!!」

「……コミケットは幕張直後からやり直すことになるのさ」

「……ここから見ていると、あの南駐車場に並んでいる連中が幻のようだ……」
「だったら、あなたの後輩たちが並べたあのリ○フの列も幻だったのかしら?」

「何故、ここまでのことを仕掛けておきながらお前はコミケットに来たんだ?!」
「……見ていたかったのかもな……」
「見ていたかったって、何を?」
「コミケットの……未来を」

 ああ、パト2のビデオを見返そう(苦笑)。

75 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 21:03
館内総括
「一般参加者の死傷者20名、スタッフ4名の殉職を含む24名。まさに未曾有の大惨事だ」

公共総括
「ビックサイト管理側が見ている前での将棋倒し。
準備会の信用を失墜させる大失態ではないか!」

入口総括
「これもカッタ ダッシュが無用に一般参加者を挑発した結果だ。
我々はカッタ ダッシュへの断固たる処分を求める!」

みつみ美里
「…我々は潰走した西館館内担当に変わり、シャッター前にたむろする一般参加者をまとめようしたにすぎない。
我々の行動が一般参加者を挑発した如き発言は事実誤認も甚しい
報告によれば西館館内担当はシャッター前にたむろする参加者を除去する事もできず、潰走したとある。
我々を批判する前に現場を前に何もできず、潰走した西館館内担当を責任を問い、準備会の綱紀粛正と刷新を図られてはどうか!」

館内総括
「図に乗るな。ポッとでのサークルが何を言う!」

みつみ美里
「我々は立ちふさがるものあらばこれを撃てと参加者に教えてきた。
たとえ相手が誰であれ、立ちふさがるものあらば実力でこれを排除する」

79 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 21:16
棚木の使者、謎
「我々がコミケット準備会の人間と会合を持ついう事はこの情勢下では危険だ。
だが我々は貴方とその配下のスタッフには一目を置いている」

準備会スタッフ 川原
「ああ。わかっている」

棚木の使者、謎
「準備会潰しに狂奔している棚木は何もわかっていないのだ。
同人誌を取り巻く環境は変わりつつある。我々は貴方たちと新しいコミケットを作る用意がある。
また非公式だが他にも一部の総括の協力の言も得ている。ただそれには…」

準備会スタッフ 川原
「米沢の追放か…」

80 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 21:26
『おまえだって同人じゃねぇかぁぁぁぁ!!!』
『オマエモナー!』

なんだかいつのまにか、ここ押井マニアの憩いの場に
なってるんですけど・・・気のせい?

91 名前:コミックマーケット73投稿日:2000/08/22(火) 23:23
第二章 『Revolution_No.9』

二千年十二月二十九日午前零時二分

オマエモナ準備会専用倉庫

「君達が、今日ここに集まってくれたことに、私は深い感謝をしたい」
暗い倉庫。明かりは裸電球一つ。積み重ねられた本の上に立つ男。その
前に整列する赤と黒の服に身を包んだ男達。
「これから始まる戦いは、おそらく今までで最も激しい戦いになる
。運の悪い奴は死ぬだろう。私は君達に強制はしたくない。この作
戦を遂行しても、我々には何の利益も無いだろう」
男はそこで言葉を切る。俯いて溜息をもらす。
「正直言って、無謀な作戦だ。奴等は二千人。こちらは五百人。強
制はしない。今ここでこの作戦に参加したくない者は、この場を去
っても私は責めない」
誰も動かない。沈黙。また溜息。
「ありがとう。君達のような人がいなければ、オマエモナもここま
で成長することはなかっただろう」
男が姿勢を正す。
「なすべきことは!!」
「棚木に氏を!!」
「邪魔者は!!」
「逝ってよし!!」
倉庫内に響く歓声。そして熱気。

97 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/22(火) 23:33
にこやかな表面とは別に、全てのサークルが影で何らかのセクトに属していて暗闘を繰り返している・・・脅迫状書いたり、放火したりなんて連中は何の思想もバックもない素人として嘲笑される存在・・・なんて考えると、ぞくぞくしてきた。けっこう自分も男の子やんと再確認(笑)
押井の脚本で読めないもんかな。コミケもの。

99 名前:妄想(1)投稿日:2000/08/22(火) 23:42
 あの決定的な幕張メッセ追放から10年……
 テンションの低迷からようやく抜け出し、かつての盛況への復帰を計
るべく「規模拡大」と「安定開催」の名の下に強行された急速な体制再
編成がその実を結びつつある一方で、このイベントは多くの病根を抱え
ていた。
 わけても強引な人気サークルと時節の人気ジャンルに対する優遇措置
が生み出した大手サークルの群とそれらに群がる参加者を温床として激
増したトラブルは、これに対処すべきコミックマーケット準備会の能力
を超え、深刻な運営不安を醸成していた。
 外部からの同人誌への干渉を押さえ、あわせて浮上してきた諸問題を
盾にコミックマーケットへの介入を目論む版元や公権力の動きを牽制す
べく、コミックマーケット準備会は一つの道を選択することとなる。
 コミックマーケットの運営維持のため、従来からのスタッフの管理権
限と対処能力の強化を図る。総本部安全管理班の誕生である。

102 名前:妄想(2)投稿日:2000/08/22(火) 23:54
 その迅速な機動力と強大な打撃力で、コミックマーケットを舞台に治
安の番人としての栄誉を独占し、唯一無二にして最後の武装集団として
急速に勢力を拡大した安全管理班。
 しかし、当面の敵であった徹夜組や無秩序な混雑状況に変わり、組織
化された反準備会勢力や転売屋が台頭するに及んで状況は大きく展開す
ることとなる。
 様々な参加規約によって違反者化を余儀なくされた彼らと安全管理班
との闘争は苛烈を極め、時に乱闘の様相を呈することもしばしばであり、
激しい参加者からの非難を浴びた。
 峻厳な正義の守護者への賛辞は準備会権力の走狗への呪詛へと変わり、
相対的安定=繁栄への期待に向けて流れ始めた参加者感情の中で安全管
理班は急速に孤立を深めつつあった。
 威圧的なスタイルで身を固め、悪質な参加者達を震え上がらせた安全
管理班の精鋭スタッフ達も、そしてコミックマーケットも歴史的使命を
終え、時代は彼らに新たな、そして最終的な役割を与えようとしていた。

105 名前:見習い文士投稿日:2000/08/23(水) 00:50
23:40 Wednesday,27th,December
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明−

「伯、私はね・・・」
内周辺境伯は視線を落としていたカクテルグラスから
腕章夫人へ視線を戻す。
「はい夫人、なんでしょう?」

伯は自然と身構えていた。無理もない。
前日設営の前夜に顔見知りの飲料部支配人から連絡を受けて、
取り急ぎBSのバーに来たものの、そこは自分と支配人以外は
全て仮面着用中のカクテルパーティーだったからだ。
「マスカレードに呼び出されたつもりはないのだがなあ」
ふと、そんな独り言が口を出た瞬間、
「あら、伯、知らなかったの」
と気品のある女性の声がした。
(腕章夫人?たぶん、そうだろう。あの方だ)
気を取り直して伯は言う、
「いや、本職の方が忙しく予定を取り違えていたようです」
「ところで、夫人、本日は高名な方がお揃いのようで」
夫人、あまり興味をそそられない様子で口を動かした。
「たぶん、準備会の上の方には察知されているとは思うけれど、
みなさんコミケが好きでいらっしゃるから」
そして、支配人がいるカウンターに視線を向けて
「あなたもグラスを受け取ってらしてはいかが」
と言い、更に視線を埠頭の灯台の方に向けた。


106 名前:見習い文士投稿日:2000/08/23(水) 00:52
23:45 Wednesday,27th,December
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明2−

支配人と二言三言話し、伯は程なく理解した。
ここにいるのは、かつて晴海のコミケットスペシャルに
参加したことのある古参で大手のサークル達だった。
もちろん伯や夫人のようなスタッフもいる。
どこからともなく、しかし確かなルートでこの冬コミが
最後のコミケットだと知り、集まったのだった。

「伯、私はね、反発を感じてはいたけど、コミケットは永遠だと思ってた」
無表情に夫人は言う。
「私もですな」
無表情に伯も返す。

58の西館事故、57の解消されぬ最大手列、他オンリー即売会の暴走等。
語るまでもない、猥褻・税金・著作権等の問題。
そこには両側をかじられたリンゴのみがあったと言ってもいい。

「伯、ニンジンは好き?」
唐突に夫人は言う。
「サラダ?ジュース?それともボイルか何かで?」
伯はまずぼけることにした。夫人が何か言い出すときにはこちらから
核心めいた部分には触れない事が暗黙の了解的になっていたからだ。
「問題、いや話題になったサークルってどこかにニンジンがあったなあと思って」
伯は言葉を補う。
「ロリ、ショタ、・・・高い危険革命と切断ひとつ突進ですか?」
「私としては下手な喩えかもしれないけど、なんとなくね」
「ロリバニー、ショタバニーにキャロットですか?あまりピンときませんねえ」
夫人は表情を変えない。コミケの事象を喩えきれるものではないというかのように。


107 名前:見習い文士投稿日:2000/08/23(水) 00:53
23:55 Wednesday,27th,December
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明3−

支配人の振るシェイカーの音が静かに聞こえる。
他には古参音楽系サークルのクラッシックの演奏がゆっくりと。
改めて見回して伯は思った。
(タキシードやナイトドレスの彼等を見るとは思わなかったな)
彼らのうちの一人はなにやら無線機を使用しているようだった。

「有明現本別室より有明現本」
<こちら有明現本。別室どうぞ>
「別室より現本、正式発足は0000か?」
<現本より別室へ、予定通りで変更はない>
<それより、3日遅れのクリスマスパーティーはどうか?>
「こちらは何も・・・、タキシードでの無線機運用は007のようだがね」
<そいつは結構、支配人にカクテルの出前は頼めないか?
最後である以上、多少は高級な酒をのみつつ現本を運営したい。
ウォッカのストレートはいささか飲み飽きた>
「了解した、支配人に言っておこう。ところでなにか動きはないか?」
<さあ、今回が最後か知ってか知らずか、冬なのに4ケタにのったところだ>
「そうか・・・」
<・・・なにぃ?本当か!?よしっ、移動局出せっ・・・>
「現本?どうした?何があった?」
<BS西館の奥の奥、ゆりかもめ操車場付近で花火を始めたやつがいるらしい。
移動局を1局立てることに決めたが、そちらからは見えるんじゃないのか?>

季節はずれの打ち上げ花火がひとつだけ花開いた。
ラウンジバーであるここでは当然のことながら間近のように見える。
これが、コミックマーケット最大最後の3日間ののろしになるとは、伯も、夫人も、
支配人も、この別室員も、バーにいた全員も現時点では思ってはいなかった。


110 名前:コミックマーケット73投稿日:2000/08/23(水) 01:30
二千十二年十二月二十九日午前五時四十二分

JR赤羽駅 車椅子用トイレ内

「ぅむ・・・うん・・・はぁ・・・」
鼻に突っ込んでいるのが一ドル札ではなくちぎった宣伝ペーパーな
のが笑うところ。
「ニードル貸せよ」
投げつける。
「オイ!アブねえだろ!」
「そうだな」
俺は俺が着ているTシャツほどに全知全能。このふざけたチャンコ
ロTシャツほど慈愛に満ちあふれている。ふうむ、悪くない。
「オイ!コレはテメエが使った奴じゃねえか!」
「ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
辿り着く。会いたかったピエロが囁く。
「日野?おい、日野?」
「何だよ」
「・・・ここは?」
「ジェェェイアァァッル赤羽駅カタワ用ワシントンクラブ」
「俺達はここからどこへ行く?」
「コッミックッマッケット」
「何をしに?」
俺は俺が着ているTシャツほどに全知全能。このふざけたチャンコ
ロTシャツほど慈愛に満ちあふれている。
「・・・コピーアンドペースト」
「オーケーオーケー」
そして俺は荒らし。その使命は荒らすこと。それ、のみ。
「逝こうや相棒」
余韻に浸っている神保の肩を抱いてトイレを出る。
 そう、俺は、荒らし。

118 名前:サンデーライター投稿日:2000/08/23(水) 13:00
私も便乗させてもらおうかしらん。
元ネタとかは特に無いです〜。

2000/12/28 15:04 東京都交通局深川営業所

仕業を終えて詰め所に戻った桜井は、一人の男に声をかけられた。
「よぅ、元気にやってるか。」
だいぶ白髪が混じった頭をした彼は、3年前、新人の桜井に路線バスの運転テクニックを教えた井上だった。
「ご無沙汰してます、井上さん。今日はどうしたんですか。」
井上は今年の7月で定年退職していたはずだった。
「ほら、明日からコミックがあるだろう。それの応援だよ。」
コミック、正しくはコミックマーケットというイベントの客を輸送するための臨時便を指す。
「今日は明日の確認と車の様子を見に来たんだけどな。桜井、おまえも明日はコミックだな。」
「えぇ、実は初めてなんですよ」
桜井は幸いにも(?)当日は他の路線に回っていたので、今までコミックはやったことが無かった。
「そうか。俺も夏のコミックの前に定年だったから、腕が鈍ってるかもしれんな。桜井、明日は覚悟しておけよ。それと今日は良く寝ておけ。」
「覚悟、ですか?」
「…そうだな、『覚悟』というのが一番合ってるかな…。」
そう言うと井上は詰め所を出て行った。

120 名前:ネギピロ投稿日:2000/08/23(水) 17:58
萌えるので漏れも参加させてくだちい

二千十二年十二月二十九日午前八時二十六分  ガレリア

「今日は今年一番の冷え込みだな・・・」
統合警備保障特別警備隊隊長、谷川進は誰とも無く呟いた
右腕の古傷がいつになく疼く
「特別機動隊に谷川あり」と恐れられた現役時代
赤門事件で負った怪我で引退せざるをえなかった自分を拾ってくれた統合警備保障で特警隊設立に尽力した日々
定年まで後一ヶ月、使っていない有給の精算を含めれば今日が最後の「現場」になるのかと思うと妙な感慨があった
「定年したら孫の世話して貰うんだから、煙草は絶対に止めてよね」
娘にそう言われて少しずつ減らしていた煙草もついに最後の一本になってしまった
特機隊時代から愛用している何の飾り気もないジッポでその最後の一本に火を点けようとする谷川の所へ副隊長の佐々木がやってくる
「どうした仏頂面で?」
佐々木の言いたいことは大体想像が付く
「自分は納得がいきません!栄えある特警隊最初の任務がボランティア、しかもこんな連中の誘導だなんて」
彼は若く優秀でこの仕事に対して誇りを持っている、その自負がこんな言葉を吐かせたのだろう、彼が憤慨するのも無理もないことだが
「しようがないさ、奴らの基本理念だからな、参加させて貰うにはこちらから譲歩せにゃならん」
何か言いたげな佐々木を制するように谷川は言葉を続ける

121 名前:ネギピロ投稿日:2000/08/23(水) 17:58
「それにこれはただのボランティアじゃない、あくまでテストケースなんだ」
「しかし・・・本来特警隊の設立目的は「いついかなる状況下においても警察警備より強固な守りと安全を提供すること」じゃないですか要人警護や式典の警備ならともかく・・・」
「だからこそ「ここ」なんだよ、自動車屋ならニュルンブルク、警備屋なら夏冬の有明ってな、特警隊がここで機能しないようなシステムなら特警隊が存在する意味がない」
「・・・」
「お前は今回が初めてかもしれんが、特警隊は今までに二回結成されてる」
佐々木がそんなことは初耳だという貌をする
「前回、そして前々回、何千通りものシミュレーションをこなし万全の体制で望みながら俺達は敗北した」
「ここがどんなに異常な空間か解るか?シミュレーション上では絶対に起こり得ないことが、ここでは起こる」
沈黙する佐々木
「すみません、館内は禁煙なんですが・・・」
「ああ、そうだったな」
腕章を付けた娘より年下の「同僚」に注意され谷川は最後の煙草をもみ消す
「どうにも年を取ると話が辛気くさくなるな、このイベントも今回で最後だ、負けたまま終わるのは面白くないだろう?」
そう嗤って谷川は最後の職場、西館へ歩いていった

年が明け、統合警備保障特別警備隊は三度解散を余儀なくされる
そしてこれが谷川と佐々木が交わした最後の会話だった

125 名前:見習い文士投稿日:2000/08/23(水) 23:33
23:59 Wednesday,27th,December
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明4−

数分前の喧騒未満は程なく終わり、クラッシックも古参コーラス系サークルの賛美歌に
自然と切り替わった。支配人が大仰に挨拶をし、室内の明度を落としていく。
「本日のというか間もなくで明日になりますが、このマスカレードでの
御挨拶はこの方にして頂こうと思います」
支配人の言葉とともにその右手脇から現れたのは、館内にいるときと同じく威風堂々と
したIさんであった。
「えっ、あの方が」
「そう、ラントレス・クランナー」
伯の言葉に対し、すぐさま夫人は返す。
ほぼ同時に似たような言葉のやり取りがバーの各テーブルで行われる。
「あっ、い・・・」
「無粋な事を言い為さんな、酒飲みにきたんですよあの方は」
これはなぜか和服衆が集うテーブルで。
「い・い・い(数文字削除)しゃ〜ん!」
「バニーガールと高い酒という誘いに載せられたに2000モナー(笑)」
こちらは現在でも女性向け外周大手が集うテーブルで。
「やっべー」
「おまえ、(数文字削除)さんになにしたのよ?」
こっちは男性向け大手を長年続けている連中が集まるテーブルで。

「みなさん、できあがってるようで、なによりで」
「では、乾杯といきましょう、20世紀最後のコミケに」
<最後のコミケに>
「乾杯!」
<乾杯!>



126 名前:見習い文士投稿日:2000/08/23(水) 23:35
01:00 Thursday,28th,December
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明5−

伯は支配人に借りたマスクの位置をずらしつつ、奇妙な感慨を抱いていた。
(たぶん知っているかもしれない、ということでははめをはずせないか)
参加者達はそれなりに出来上がっており、賛美歌も古参ジャズ系サークルのジャズ
演奏にと切り替わったところだった。
I氏の飲みっぷりと遊びっぷりに到っては見ているこっちが真っ赤になるものではあったが。

「夫人?なぜです」
伯は多少意図的に酔ったふりをして夫人に言葉で絡む。
「Iさんのこと?それとも?」
アルコールの影響で多少顔を赤目にしながらも、それすら演技かのように返す。
「どっちもです」
大人気ないとは思ったが酔ったふりでもしないと思い伯は続ける。
「なぜ、コミケは終わらなきゃいけないんですか?夫人」
あらまあ、という顔をして夫人は多少興ざめしたかのように口を開く。
「Iさんが来たのはただのゲスト、バニーとバニー以外も用意すると言ったら
来ただけ。それではご不満?」
伯、気おされつつも引かない。
「そうですか、ではもうひとつの方は?」
夫人、羽根付眼鏡をゆっくり外しつつワシントンホテルの方を見ながら、
「どのみち、必要にはなってくる。その為の種子には誰かになってもらう。
それさえできれば、終わらせてもいいんじゃない。好きな言葉じゃないけど、
陛下の私物なんだし・・・」
「なんだし・・・?」
「死ぬまで祭りを続けていたいと願ってる連中がいる限り、本質的には終わらないと
いうこと。終わらせるほうも、ひっそり引き継ぎたいと思ってるほうも死ぬまで
祭りを続けていたいと思っているはずよ」
そこまで言い切ると夫人は羽根付眼鏡を元の位置に戻した。


127 名前:見習い文士投稿日:2000/08/23(水) 23:37
01:30 Thursday,28th,December
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明6−

I氏が幾人かのうさぎ達−バニー−と階下に消えていくと、幾分か落ち着きが戻った。
飲み過ぎのせいか頭を抑えている者、ソファーに横になりいびきを掻いて寝る者、
コミケの最後で泣き始める者、説教を始める者、ねるコミを始める者、
いちゃつく者、同人板@2chを見始める者・・・。

「私、あがるわ」
何時の間にかヒールの無い靴に履き替えていた夫人は、支配人からコートを受け取る。
「行かれるんですね」
支配人がグラスになにか注ぎ、置く。
「本業があるもの。そこの伯と同じで。・・・ところで、このグラスは?」
「ただのグレープフルーツジュースです。二日酔いで出勤は良くないと思いまして」
「気が利くのね・・・。そこの伯と違って」
「まあ、本業みたいなものですし」
腰に手を当て飲み干す夫人。支配人はにこやかに微笑んでいる。
「まあ、私もがんばるわ。支配人も早めに休んでね」
「はい、私もキャロットジュースの用意をしませんと」
「確かに、飲み干せるようにしなきゃいけないわね。でも・・・」
「じゃがいもと違って芽は出にくい。育てるのは・・・」
『簡単なようで難しい。できてみれば馬は食べるが、人は食わない奴もいる!』
二人は途中から声を揃えて言い切る。にこやかな笑みとともに。
「うぃ〜、勝手に盛り上がらないでくださいよう。ニンジンが同人誌なんて思ってるの
スタッフでもあなたたちだけですよう。落馬すりゃ自分だって痛い目に会うかも
しれないし、自分だっていつ馬になるかわからないんですから。自分好みのニンジンを
見つけたら貴方達だって馬にならない保証はないでしょうに。み、みずぅ〜」

秘密の前夜祭は終わり、前日設営という名の初日を迎える。時間を気にする人間が
いれば、20世紀も何時の間にか100時間を切っている事に気がついたことだろう。


128 名前:内周辺境伯投稿日:2000/08/24(木) 00:46
「ここから見ていると、あの行列が蜃気楼のように見える。そう思ったことはない
か?」
「たとえ、夢幻の類だとしても、あそこにはそれだけを現実として生きる人々がい
ます。それとも、あなたには、それすら幻にみえるのですか」
とか
「スタッフには不向きな性格だな。いつも割り食わしちまって悪いと思っているよ」
とか
「シャッターのドまん前ではでにどんぱちやらかすんだ。地区本やテント村が黙っち
ゃいないよ。こちらから事情説明に行って、時間をかせがにゃ。これもブロック長の
務めってやつさ」
とか本当にあった会話ですけどね。

>文士様
なるほど、実に興味深いですな。なんというか…。


129 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/24(木) 01:11
「あ・・・雪?」
コピー誌の製本をようやく終えた明け方
とりあえず顔を洗おうと洗面所の窓から外に目をやり
由美子はおもわずそうつぶやいた。
「え?ホント?」
あとから来た奈津美が肩越しに窓の外をのぞきこむ。
「あちゃー、ほんとだ。
 ついてないな、在庫濡れたらどうしよう。
 よりによってこんな日に雪が降るなんて。」
「そお?いいじゃない。 ホワイトコミケットってのも
 なんだかロマンチックで。」
そう言って由美子が微笑む
「・・・そうだね。これで最後だし・・・」
「うん・・・最後のコミケ、やおいも男性向けも健全もコスプレも
 みんな真っ白に雪が覆い隠して・・・
 そう考えるとなんだか神聖な気持ちにならない?」
「みんな、真っ白になって、そしてお終いなんだね。
 長いようで案外短かった気がする・・・」
「十年・・・だもんね。奈津美と組むようになって
 結局ピコ手のままだったけど、楽しかったな」
「ほんと・・・楽しかったよ。
 って、やだっもうこんな時間そろそろしたくしないと
 まにあわないよっ!」
「たいへんっ!・・・奈津美・・・」
「なに?由美子」
「今日はがんばろうね」

 雪は静かに降り続く
 

130 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/24(木) 01:21
私はデッキに上り、船底が水をかき分ける音を聞きながら
今まさに長きにわたる宴を終えたビッグサイトを省みた。

思えば自分と同人との距離は全く遠くなったが、若い世代は
いまでも想いが通じる者やすばらしい作品と巡り会うことへの
期待を胸に、この世界へ飛び込んでくる。せめて彼らだけは、
我々と違ってこの世界に幻滅することがないように・・・・・
とはいってもかつての私の様に希望の同人誌を手にするために
ダミーサークルを出すようなことをするのは願わない。
また、ジャンルの仲間から疎外されないために魂をすりへらす生
活を送ることは願わない。あるいは、他の人のように金銭のため
に同人誌を買い込み、転売に走ることも望まない。希望を言えば
彼らは新しいコミケを持たなければならない。我々の経験しなかっ
た、新しいコミケを。

新しいコミケという考えが浮かんだので、私はどきりとした。
かつて棚木がリゾコミの妨害を画策したとき、私は現実を伴わな
い短絡思考だな、コミケが終了したところでどうなるというのだ?
と笑ったものが、今私の言う新しいコミケも現実を伴わない、
手製の偶像の様なものではないか。ただ棚木の望んだものはすぐ
手に入り(現に手に入ってしまった)、私の望む物は手に入りにく
いだけである。

くだらぬ思索に耽っていた私の頭上をベイブリッジが横切った。
街の灯りに照らされた夜空に、金色の丸い月がかかっている。
思えば、同人とはもともとあるものともいえぬし、ない物とも
いえない。それは地上の道のような物である。元々地上に道は
ない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ。

132 名前:佐藤大輔とか平野耕太とかも投稿日:2000/08/24(木) 01:28
「もう買ったと思っているな。では、教育してやるか」

「あのくそ厨房どもに、準備会の授業料がいかに高額か教育してやりましょう」

「今から散らしに行くぜ。小便済ませたか?神様にお祈りは? ホールの片隅で
がたがた震えて命乞いをする心の準備はOK?」

「楽しい!!こんなに楽しいのはひさしぶりだ。この状況をカテゴリーSSクラス
の混雑状況と認識する」

「仕方なかったは通用しない。なにか準備か方法があったはずなのだ。すべての責
任はおまえにある。お前が統括なのだから。違うかね?」

「代表閣下直々のご命令でなければ薄汚いきさまらなどと話をするか。ぐだぐだぬ
かさずに話を聞け。この赤いメス豚どもが」

133 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/24(木) 01:32
カッタが転売屋を生むように、転売屋が買カツタを生む。
単にカッタがいないというだけの空疎な平和は、
いづれ他のサークルの台頭で埋め合わさせると思わないか?

その行列だけはしっかりと受けとめていながら、
シャッターの向こうに、行列を押し込め、ここがカッタの列
ではないことを忘れる。

いや、忘れたふりをしつづける。
そんな欺瞞を続けていれば、いずれは大きな罰が下される…と。

罰を下すのは米沢か?それとも…?
コミケットでは誰もが参加者みたいなものさ。
いながらにして見、その手で触れる事ができぬ本を知る。
何一つしない参加者さ。

140 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/24(木) 11:56
都内某神社、冬枯れの木々に囲まれた境内を風が抜けてゆく。
「終わるのね、今日で・・・」
巫女姿の女が薄暗い空を見上げ、疲れたようにつぶやいた。
年の頃は20代後半かひょっとすれば三十路を迎えているかもしれない。
目尻の皺が実年齢以上に彼女の老いを感じさせた。
彼女の存在をコミケ内部で知る者は少ない。そして口外する者もいない
当たり前だ、誰がコミケ上層部が怪しいオカルトに手を出しているなどと話すだろうか?
だが、彼女は存在した。
膨張するコミケット、増大する参加者。
権力者は恐れたのだ、つまずく事を失敗する事を・・・。そしてあらゆる手段を講じた、
奇跡にすらすがったのだ。
確かに奇跡だった、天候を操り、台風の進路さえ曲げた事もある。
ある者は言った「参加者の熱気」だと。
確かにそれは事実だ、だが正解ではない。
参加者の欲望を変換し昇華させ押さえつけた者がここにいる。
彼女はコミケが好きだった、だからこそ耐える事も出来た。
しかし数十万人の欲望、そんな物を受け続けて無事でいられる筈も無い。
命を削った献身。しかし加速度的に増加する参加者の欲望は、彼女の超常的な
力のキャパシティをとっくに越えていた。
そして彼女は敗北した。台風直撃のコミケ、欲望の引き起こしたスタンピート。
そう、もう無理だったのだ。人の力、人の知らない力、それらを総動員しても巨大すぎる
コミックマーケットと言うイベントを動かす事は・・・。
「・・・さんですか?」
人気のない境内に現れた一人の男が彼女に声をかける。石段を登ってきたのだろう吐く息が白い。
そして男の言葉は質問では無く確認の問いだった。
パスッ
空気が抜けるような、間抜けな音。それは一人の命を奪う音としては滑稽な効果音だった。
白い着物がみるみる内に緋袴と同じ色に染まってゆく。
男の手には消音機付きの銃が握られていた。微かな硝煙の匂いは冷たい空気に霧散してゆく。
「終わるのね、今日で・・・」
彼女は知っていた今日すべてが終わる事を。自分の命もコミケも・・・。
冷え切った石畳に崩れ落ちる彼女の、上に天からゆっくりと白い物が舞い下りてくる。
雪。
彼女の力なき今、静かに舞い下りる白い結晶は世界を白く染めてゆくだろう。
そして、積もる雪が交通網を遮断し湾岸を孤立化させる。

彼女はコミケが好きだった。だがコミケが好きだった彼女の名を知る者はいない。

142 名前:サンデーライター投稿日:2000/08/24(木) 15:09
あぁ、今見直したら大きな間違いを発見。
最近日付入力の仕事が多かったから、つい打ってしまったらしい。

118の訂正:2000/12/28 >> 2012/12/28

では続き。

2012/12/29 06:12 東京駅八重洲北口臨時バス乗り場

それは奇妙な光景だった。
歳の瀬の、それもこんな早朝にもかかわらず、軽く100人を超えるバス待ちの列ができていた。
大半は大学生だろうか。中学生らしい女の子のグループもある。
日付が変わった頃から降り始めた雪は未だ止まず、街路樹は雪の花を咲かせていた。
だが、人の数は減るどころかますます増えていく。
前のバス(小滝橋営業所のだった)が出て行き、桜井のバスが乗り場に着いた。
運行指示のどおりに前後の扉を開けると、瞬く間に車内は人で埋まった。
乗客の服に付いていた雪が暖房で解け、人いきれと相俟って車内はかなり蒸してきた。
「よぅし、これで行ってくれ。」
他所の営業所の職員が、ザルに溜まった小銭を運賃箱へ入れながら言った。
扉を開けてから3分と経ってはいない。その間にもバス待ちの列はどんどん伸びているようだ。
『井上さんの言っていたことは、このことなのか!?』
桜井の脳裏にいつまでも人を運びつづけなければならない無限地獄に陥った自分が垣間見えた。

148 名前:サンデーライター投稿日:2000/08/24(木) 22:22
2012/12/29 09:44 東雲交差点附近

桜井は4回目の復路にいた。
信号待ちの間、先程の光景を思い浮かべてみた。
東京ビッグサイトには隣接して広大な駐車場が2つある。
その一つ「北1」の様子は「すごい」どころでは済まなかった。
ここには病院が建つ予定だったが、着工直前に談合と汚職が発覚し、それ以来計画は凍結されている。
従って今も開業当時のままの広々とした駐車場だ。
しかし今そこにいるのは、車ではなく人だった。
「人海戦術」の「人海」とはこういうのを指すのか、等と妙に納得した。
開会時間が近いらしいから、今頃がピークだろう。

信号が変わり左へ折れ、続いて湾岸国道の信号を待つ。
だが右手から来るはずの車は、皆豊洲の方向へ曲がっていく。
不思議に思って左手に目をやると、そこは機動隊のような格好をした黒ずくめの男達が道路を封鎖していた。
その1人が無線機に向かって何か喋っている。
少しだけ開けていた窓からその一部が聞こえた。
「…より現本。東雲交差点、封鎖完了。」

- - - - - - - -
さぁ、みんなで続けてくれ。

151 名前:名無しさん投稿日:2000/08/24(木) 23:53
2017. 2/24 00:43


「コミケット……ですか? ええと……。
確か、ずっと前に有明でやってた即売会ですよね。 父から話だけは
聞いたことがありますよ。けど、そのコミケットがどうかしましたか?」
「いや、ちょっと聞いてみただけさ。で、お父さんはどんな話をしていた?」
「断片的な事しか覚えてないんですけどね……。
正直、あまりいい話じゃなかったです。警察署やら消防署やらに
呼び出された時の事とか、PTAから苦情が来た話とか……。殆ど愚痴ですよ。」
「……そうか。(この分だと、あまりいい印象は持ってなさそうだな)」
「あ、でも……。」
「ん? どうした?」
「たまに、凄く生き生きとした目をしながら、こう言うんですよ。
"あそこには夢があった。大人になれば多くの人が忘れる夢が。
コミケットはそれを忘れなかった、いや、忘れられなかった人間が集う場所だったんだ。
本当に楽しい場所だったんだよ。お前を連れていってやりたかったなぁ……。"
って。 その話をする時だけは、本当に子供みたいな目で。」
「……率直に聞くが、コミケットの事をどう思う?」
「一度、行ってみたかったですね。父があれだけ楽しそうに話してくれた場所ですし。」


バーを出て彼と別れた後、歩きながら曇りがちな夜空を仰ぐ。
見え隠れする星が滲むのを見ながら、俺は自然と呟いていた。
「米沢、お前の思いは、まだ消えちゃいなかったよ……。」


157 名前:名無しさん@お腹いっぱい。投稿日:2000/08/25(金) 01:02
 肥大した腹を抱えた男や痩せた身体に臭いTシャツを張り付かせた男、
意味不明な言語を声高に繰り返す女、津波のように押し寄せるオタク達の中で、
彼は虚ろな目を天井へと向けた。
 飢え、求め、生まれ故郷を離れて辿り着いたここ有明で、
骨の髄まで凍てつく雪の中、ただ、待ち続けた。新刊を。
 だが、永遠に続くかと思われる列の果てに彼が見たものは、
完売という文字だけだった。
「人はどこから来てどこへ行くのか」
 もしかして、新刊などというものは初めから存在しなかったのではないだろうか。
 新刊は本当に存在したのか。
「我々は何者なのか……」
 ふいに、彼は強い既視感を覚えた。
 この光景を、自分は何度も見ている気がする。
 もっとも、長い歴史を刻んだコミケットと共に自分の青春はあったのだ。
 毎年、かかさず来ていれば今日と似た瞬間もあっただろう。
「しかし……今は冬、なのか?」
 外は凍てつく寒さでも、館内には熱気が満ちている。
 公害としか思えないタンクトップからカエルに似た太い腕を剥き出したデブスが、
彼の身体を乱暴にはね除けた。
 よろよろと、灰色の壁に手を付き、その熱さに愕然とする。
 最後のコミックマーケットは年の瀬。今は真冬であるはずだ。
 いくら萌熱に満ちているとはいえ、真冬の館内がなぜこんなに暑いのだ。

 その時、呆然と佇む彼の鞄で携帯電話が宇宙戦艦ヤマトを奏でた。
「ああ、もしもし。俺だけど」
 相手は、サークル参加をしている女友達だった。
「なに?出られない?」
 予想外に売れるので、自宅の在庫を取りに帰る途中なのだと、
彼女は興奮しきった男言葉でまくし立てた。
「また迷ったのかよ」
 方向音痴の彼女のことだ、逆方向へ走ったか、
それとも事故かなにかで混んでいるのかもしれないと、彼は思った。
 だが、彼女の答えはそのどちらでもなかった。
「どう走っても有明に戻る?」    

165 名前:157 投稿日:2000/08/25(金) 11:29
 女ばかりの居辛いスペースで、彼は低く唸った。
「それじゃなにか?オレたちは有明に閉じこめられたのか?」
 しかし、こうしている間にもバスやタクシーや自家用車が、
次々に会場を発っている筈だ。
 彼女の言う通り密閉された空間になってしまったというのなら、
そのオタ達はどこへ消えてしまうのか。
「だからそいつらがまた戻って来て一般の列に並んでんだよ。
それもどういうわけだか記憶がリセットされてよ。わかんねーのか?
もう何時間も経ってるのにちっとも入場フリーにならねーじゃねーか」
 彼女は色の抜けた髪を掻きむしって叫ぶ。
「あー、もう俺にはわかんねーよ!」
 そういえば、今は一体何時なのだ。慌てて、携帯電話の表示を確かめる。
 午前11時43分。
 まさか。
 まだ12時にもなっていないというのか。だがもう気が遠くなるほどの間、
自分はこの会場に居るではないか?
「……終わらない夢を見ているのか?」
 だとしたら、この夢を見ているのは誰なのだ。
 白い清らかな雪の舞う中で、長い歴史に幕を閉じるオタクの祭典。
 けして終わることのない最後のコミックマーケット。
 これは、誰の夢なのか?
 

167 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/25(金) 12:49
2012/12/29 09:55 某局AMラジオ放送

9時55分になりました。それではここで交通情報です。
警視庁から上田さーん!

はい、警視庁です。
首都高速湾岸線西行きの有明出口附近で事故です。
9時45分頃、大型タンクローリーが中央分離帯に衝突。
両方向にまたがる形で横転しています。現在事故処理中。
積荷の化学薬品が漏れ出す恐れがあるため、周囲の道路も通行止めになっています。
湾岸線は辰巳ジャンクションと有明ジャンクションの間が両方向通行止め。
影響で西行きが辰巳を先頭に2キロ、東行きが台場を先頭に1キロ渋滞。
9号深川線が辰巳ジャンクションを先頭に1キロ、11号台場線が有明ジャンクションからレインボーブリッジまで2キロ混雑しています。
周辺道路も国道357号が東雲交差点と有明橋、新都橋間が通行止め。
その他の道路も有明運河より東側、東雲より西側が通行できなくなっています。
今後さらに混雑が予想されます。周辺をご通行中の方は迂回するようにお願いします。
その他高速道、一般道ともに目立った混雑はありません。
以上です。

はい、ありがとうございます。続いて電車の情報です。
交通情報にもありましたが、現在有明附近の立ち入りが制限されています。
この影響でゆりかもめの全線、りんかい線の全線で運転を見合わせています。
りんかい線に乗り入れているJR埼京線は大崎で折り返し、京葉線からの直通電車は現在全て東京行きで運転されています。
運転を見合わせている区間での運転再開の目処は立っていません。
この方面へお出かけの方は十分にご注意ください。


169 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/25(金) 15:26
とても疲れていたようだ。年を間違えて書くなんて…。
打田市能…って、信田ら続きが書けないので修正しておく。

>作成野郎さん
誠にお手数だが、保存されている私の分の年を全て「2012」→「2000」に直してください。

で、修正した分。

- - - - - - - -
2000/12/29 09:55 某局AMラジオ放送

9時55分になりました。それではここで交通情報です。
警視庁から上田さーん!

はい、警視庁です。
首都高速湾岸線西行きの有明出口附近で事故です。
9時45分頃、大型タンクローリーが中央分離帯に衝突。
両方向にまたがる形で横転しています。現在事故処理中。
積荷の化学薬品が漏れ出す恐れがあるため、周囲の道路も通行止めになっています。
湾岸線は辰巳ジャンクションと有明ジャンクションの間が両方向通行止め。
影響で西行きが辰巳を先頭に2キロ、新木場で1キロ、東行きが13号地を先頭に1キロ渋滞。
9号深川線が辰巳を先頭に1キロ、11号台場線が有明からレインボーブリッジまで2キロ混雑しています。
東行きの有明と西行きの新木場は閉鎖されています。
周辺道路も国道357号が東雲交差点と有明橋、新都橋間が通行止め。
その他の道路も有明運河より東側、東雲より西側が通行できなくなっています。
今後さらに混雑が予想されます。周辺をご通行中の方は迂回するようにお願いします。
その他高速道、一般道ともに目立った混雑はありません。
以上です。

はい、ありがとうございます。続いて電車の情報です。
交通情報にもありましたが、現在有明附近の立ち入りが制限されています。
この影響でゆりかもめの全線、りんかい線の全線で運転を見合わせています。
運転を見合わせている区間での運転再開の目処は立っていません。
この方面へお出かけの方は十分にご注意ください。
次の交通情報は10時25分頃です。

170 名前:ネギピロ 投稿日:2000/08/25(金) 18:02
2012/12/24 アーバンハイツ東十条

「悪いね、コレ、お詫びのしるし」
 結局指定時間より一時間も待ちぼうけを食わせてしまったバイク便の配達員に原稿と小さな封筒を渡す
 中身を除いた配達員はそれまでのイライラを全て忘れ去ったかのような表情でさわやかな挨拶を残し部屋を後にする
「結局完結は出来なかったか・・・」
 少年創作系外周サークル「世界庭園」の代表、相沢和宏がネット断絶の自戒も込めて抜いていた電話線を繋ぎ印刷所に電話をかけようとすると、先に向こうの方から電話が掛かってきた
「もしもし?ああ、山本さん、いつもお世話になってます相沢です、ええ、原稿の方は今バイク便で出しましたんで午前中には、いえ、いえ、いつも無茶言ってすみません、ええ、その辺は発注書の方に書いてありますんで、はい、中四日しかないですが宜しくお願いします、見積の方二時ぐらいまでにファックスして貰えばとりあえず半分は前金として入れますんで、はい、じゃあお忙しいところお手数かけて申し訳有りませんでした、いいえ、それでは」
「世界庭園物語」
 高校時代に友人のつきあいで出したA5の突発コピー本から始まって10年、のべ20冊1500ページ以上に渡って続いている連載、彼がゲームマスターをつとめるキャンペーンゲーム同様にアドリブにアドリブを重ねてとんでもない大長編になってしまった
 これから畳み始めようかと思った矢先にコミケの終了の発表、発表する場が先に無くなってしまうとは皮肉な話だ
 どのみち今回で活動は停止させるつもりだった、年明けに修論を提出してしまったら実家に戻って仕事を手伝わなければならない、社会人をやりながら・・・と言うのも考えはしたがコミケットが無くなるという一つの契機が僕を決断させた
 勿論、今回で話を収束させるつもりだった、しかし10年かけて広げた風呂敷をそう簡単に畳めるわけもなく粘りに粘った原稿も結局は散漫で、しかも尻切れトンボになってしまった

171 名前:ネギピロ 投稿日:2000/08/25(金) 18:03
 得難い多くの友人や決して少なくない収入を失ってしまうのは正直惜しい、今住んでいるこの部屋などバイト学生では一月も維持できないだろうし、この部屋にある電化製品や調度品をもう一度揃えようと思ったら社会人ですら相当な時間を必要とするだろう
 他のイベントという選択肢は確かにあった、創作系を名乗る以上同好の士が集うコミティアは魅力的だったし、馴れ合いを徹底的に排し「自分達の手でイベントを作り上げていく」という自負と気概に満ちたオマエモナも好感が持てた
「修士課程まで遊ばせて貰ったんだから、これ以上の贅沢は言えない」
 もう何度繰り返したか解らない、自分を納得させる為の台詞を口にしながら、使い慣れたテキストエディタでHTMLを組んでいく

「サークル世界庭園と世界庭園物語は個人的な事情により今回のコミケで活動及び連載を終了いたします」
 ホームページにこの告知を出してから、果たして今までに何通の嘆願メールが届いたことだろう
「やめないでください」
「どんな形でも年に十数頁でも良いので続きを書いて下さい」
「即売会に行く目的が無くなってしまったらどうすればいいのでしょう?」
 自分が好きでやってきたことが、これだけの人々の心を、時には生き方さえ揺り動かしている、ここ最近のメールチェックの時間は創作者冥利に尽きる瞬間でもあり、又最も心が痛む時間でもあった
 10分近く掛かってようやく全て受信し終えた「止めないで云々」と言った類の膨大なサブジェクト群の中で一通だけ目を引いたサブジェクトがあった
「世界庭園物語は終わらせない」

subject:世界庭園物語は終わらせない

   もはや、この世界は貴方だけの物ではない
   物語は、終わらせない


172 名前:ネギピロ 投稿日:2000/08/25(金) 18:05
 たまに来る電波系の一種だろうとそのメールだけゴミ箱に捨て、他の全てをプリント処理スクリプトにドラッグし、組み終わったHTMLをブラウザに流して最後の更新分を表示確認する
「本日最後の原稿を入稿しました、世界庭園最後のオフセ本です、皆様今まで有り難うございました・・・」
 ネスケとIE、一応iCabでもチェックしてレイアウトの崩れがないか確認した上でFTPソフトを立ち上げ接続のボタンを押す、プリントアウトが終わったメールの束をプリンタから掴んで流し読みをしているといつもと様子が違うことに気が付く
「FTPパスが弾かれる・・・?」
 設定を確認して再度接続するが、やはりパスで弾かれる、サーバが落ちているというわけでもないらしい
「一体何で・・・」
 文字入力モードの確認やナンバーロック、Capsロックなどあらゆる可能性を検討しているうちに定期的に自動受信に行く設定にしてあるルータが新着メールの到着をランプで知らせる、受信してみるといつも更新するたびに丁寧な感想メールをくれる常連さんからだった
 サブジェクトは「連載継続有り難うございます」
「?」
 僕が自分のページにアクセスしてみると、そこは僕以外の誰かの手によって更新されていた

「皆様にはご迷惑とご心配をおかけしました、世界庭園と世界庭園物語はこれからも活動及び連載を継続していきます」

つづく

はず
ゴメン、長い上に続きだ
仕事中何やってるんだ漏れ(笑)


173 名前:157 投稿日:2000/08/25(金) 19:05
 誰の、というなら、ここに集う全員の夢でもあるだろう。膨れ上がっ
た欲望や熱意が、この異常な現象を産み出したとも思える。これまでに
も、参加者の熱意が天候を変えさせるという奇跡は存在した。準備会が
超常の力を駆使しする者に術や祈祷を行わせているのだと、まことしや
かな噂も流れている。
 しかし、前回はその奇跡もなく台風が直撃したではないか。それに今
日もこうして雪が降っている。
 参加者の強い想いが「終わらないコミックマーケット」を維持するエ
ネルギーになることはあるかもしれない。だが、それだけではこの状況
は生まれない。
 何かがある筈だ。起点となる何かが。

 彼は女友達のスペースへ新刊持参の厨房が来たのをきっかけに机を離
れ、本部の方角へと歩きながら、パンピーの友人へ電話を掛けた。
「あ、悪いな仕事中」
『おう、園場。なんだ?』
「いや……あのな、そっちは変わったことはないか?」
『はあ?変わったこと……っていえば、お前今有明にいるのか?例のマ
ンガのなんとかで』
「ああ、そうなんだ」
『有明附近の立ち入りが制限されてるとかニュースで言ってたぞ。事故
が多発したんだかなんだかゆりかもめも止まっ、』
「おい?」
『……大丈……かお前……』
「おい、もしもし!もしもし!」
 どうやら、電波状態が悪くなったようだ。園場は苛立ちよりも不安を
覚え、一方的に切れた電話を見つめていた。

 お兄ちゃん、まだ並んでいるのかな?
 園場かぎりは比較的透いているマイナージャンルを回っていた。サー
クル参加している知人から貰ったチケットで入ったのだ。どうやら知人
はダミーがいくつも取れたらしい。悪いことだと知ってはいたが、兄の
ように夜が明ける前から外に立つ勇気も体力もない。
 それに、今年は変な黒い服を着たガードマンがたくさんいる。威圧感
だけではなく、どこか戦いの雰囲気があって、妙に怖い。
「あれ?」
 かぎりは、見るとはなしに見ていたサークルのひとつへ、吸い寄せら
れるように近付いた。
 ジャンルは何なのだろう。隣の机には攻略本らしいものが並べてある
から、ゲームなのかもしれない。妙に静かな一角で、ボードもグッズも
見当たらない。
 かぎりの目を惹いたのは、最新刊と銘打たれた本だった。特に凝った
装丁というわけではない。ただ、合体で取ったらしい2スペース全てに、
その本一種類だけが並んでいた。
「世界庭園物語……第21巻?」

174 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/25(金) 20:51
続きを考えながらちょいと混乱してきた。
今続いているストーリーだと、時間の流れが大きく分けて2つある。
ひとつは 2000年12月のコミケット59(20世紀最後だ)。
もうひとつは、2012年12月のコミケット73(米沢氏は59歳だ)。
どっちで進めるべきだろう。ご意見希望。特にストーリーを書いている人。

175 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/25(金) 21:49
2000年末に1票。
最近の事象を反映させやすいし、事態予想もしやすいだろうから。
(近々、参戦を予定(苦笑))

176 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/25(金) 22:00
2012年だと1の趣旨に合わないんじゃないかな。
コミケット73のネタは、冬コミが終わってからにしたらどう?(笑)

177 名前:ネギピロ 投稿日:2000/08/25(金) 22:17
確かに主旨に添うのは2000だすな(笑)

2012ってのは前の方の
「逝ってよし!」
「オマエモナ!」
ってくだりが好きだったのでそのまま日付をコピペしてた秘密
ただ直近の事象は無茶が出来ないのと(笑)
対イベントとしてのオマエモナが23回目(!)まで育ってるとかその辺の設定がおいしいので
2012も捨てがたい(笑)


193 名前:見習い文士 投稿日:2000/08/25(金) 23:51
>188さん
いいと思いますよ。どこが名作っぷりか御指摘頂けると助かったりして。

ところで、こちらは「前日設営編」をやろうとは思っているのですが、
いろいろと本業で忙しいところです。一応、ある程度知られている
とっても偉い系スタッフを前回のように出そうかなとは思っています。
そういえば、前回の前日設営のタイムスケジュール分かる方いたら
教えて下さいませ。

「前日設営編」の前に「前日設営前からの徹夜組編」を入れようかとは
思ってますが、ちと悩み。取材にDQ行列でも見に秋葉原へ行って来よう
かしら。


194 名前:勇気を出してみよう 投稿日:2000/08/25(金) 23:54
日高トオコは、ある飲み会の席にいた。
準備会から、『最後のコミケット』通告がきたコミックマーケット59…
その一日目終了の打ち上げである。主催は、大手一歩手前クラスの、
女性向け作家だ。
本来日高は、一日目の人間ではない。明日の少年向け創作スペースも
取っている。ただ、入院している病弱な妹が一日目にスペースを取っていた為、
売り子として参加しただけである。それを、隣のスペースの2人連れが、
強引にこの場に引っ張ってきた。あまり、状況を分かっていないのだろう。
周囲は、新興大手の誹謗中傷、逆カップリングへの悪口、先週から始まった
新連載作品で、人気が出そうなカップリングは何か、で盛りあがっている。
腐ってやがる。日高は、強めのジンを飲み干した。誰も、コミケットを
悼む者はいない。
どうせ、シティがあるし。オンリーもあるじゃない。最近じゃあ、
カップリングオンリーの方が売れるよね。○○さん、主催してよ。えー、
でも私売れてないし…
「日高さん、だっけー?こっちおいでよー」
主催の三十路を多少過ぎた女が、こちらを振り返って言った。
「日高さんって、動物占い、何ー?私、トラなんだけど」
「さあ…分かりませんね」
「じゃあさ、出したげるから、生年月日教えてよー」
「…12月21日です。75年の…」
「じゃあ、ついこの間25歳になったんだ。あ、もしかしてコミケと
同い年ってヤツ?」
「そうですね。日にちもそうです」
「えー!!うそー!!ヤダあ!!」
沸き起こる笑い。指を指して笑うやつまでいる。
「…ヤダ?」
「だーってさあ、芸能人と同じって自慢になるけどさ。コミケと同じって、
まさに真性おたくって感じしない?」
「別に…おたくですからね」
「でもさー、私だったら絶対やだな、コミケと同じ誕生日って…」

195 名前:194 投稿日:2000/08/25(金) 23:57
ぱあぁん!!
日高が女の頬を叩く、甲高い音が響いた。
「…じゃあアンタ、コミケ嫌いだったのか?」
「…何するのよ!」
「私は、あの日に産まれた事を誇りに思ってる。それだけだ」
言い残して、日高はその場を出た。後ろから、甲高い罵声が飛んでくる。知るものか、
あんた等は、誇りも哀しみも分からないまま、消えていくがいいさ。
胸ポケットの携帯が、妹の好きなアニメの着メロを鳴らす。
「もしもし?」
『…トオコお姉ちゃん?』
「トキコ…」
『どうだった?本。売れた?』
「うん、在庫結構減ったよ。新刊ない理由もね、話したらみんな分かってくれた。
心配してたよー。手紙書くって言ってた人もいた」
『そうか…よかったあ…』
「あんた、明日手術でしょう?早く寝なさいよ…」
『でも、心配で…絶食で、おなかも減ってるし』
くすくすと、2人で笑い合う。
『お姉ちゃん、明日こっち来るの?」
「そうね、心配だから…」
『来ちゃダメ』
「トキコ…」
『ダメだよ。私の分まで、新刊売ってよ』
「…落ちてるのよ。入稿できなかったもん…」
『原稿は出来てるんでしょ?じゃあ、これからコピー本作らなきゃ』
「トキコ!」
『最後のコミケなんだよ?』
「……」
『私は大丈夫だよ、信じてってば。頑張るから…トオコも頑張って…』
トオコは、双子の妹からの電話を、無言のまま切った。トキコの体は、既にかなり
弱っている。今回の手術を失敗したら…次の手術を耐えられる体力はない。
最後の戦い。臭い言葉。これほど、明日に相応しい言葉もないだろう。
トオコは、夜の空を見上げた。乾燥した空気が澄み切っている。
…流石に、最後の気合は、みんな凄いわね…
「…一発、花火でも打ち上げますか…」
両頬を、ぱあんと叩く。トオコは、年末の喧騒の中を走り始めた。

196 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/26(土) 00:20
じゃぁ、2000年12月ということで進めます。
でも2012年も捨てがたいですね(苦笑)。
でもこれがあるということは、2000年12月以降もコミケは存続するように話を持っていかなければならないなぁ。
何とか存続させねば(^_^;)
ついでに前日設営は、有明のは全て測量から行ってますので、タイムテーブルなどは分かります。図面も。


202 名前:コミックマーケット73 投稿日:2000/08/26(土) 02:04
二千十二年十二月二十九日午前六時二十七分

TFT屋上

手にした双眼鏡。風が吹く屋上に男が二人。
「状況は?」
「おとなしいモンだ。三万人も集まって騒ぎの一つもおきないってのも、逆に恐ろしいな」
「四十年近く列の整理しかやってこなかった連中だ。三万人ぐらいじゃびくともしない」
「タナ、テンエー隊が騒いでたぜ。チャンコロ共がこっちに向かってるってよ」
「予想通りだ。人数は?」
「わからん。だが、シラネーヨにかり出されてた奴らをわざわざ呼び戻したらしい」
「田中バッジの連中をか?ハハ、2ちゃんボーは加減を知らないな」
「笑い事じゃない」
「心配するには及ばんさ。連中のスタッフ、いやスターフか、全員連れてきたって七百人程度だ。
こっちは百人プラス準備会内の同志千二百人」
「・・・」
「俺達が勝つ。そうだろ?」
「もう十年近くお前とつき合ってるが、未だに俺にはお前がわからん」
「ハハハ、人間なんてそんなもんさ」
「・・・で、本当にやるんだな?」
「今更何を言う」
「俺には、お前が本当にコレをやりたがっているようには、見えねえんだな」
沈黙。風が止まる。
「俺は、これまでの戦いで散っていった同志のためにも」
「同志のため?笑わせる。お前ほどのエゴイストがもう一人いたら日本は滅んでるぜ」
「・・・今更計画は中止できない」
「りょーかい」
一人になった男。また吹き始める風。呟く男。
「・・・ヨネザワ・・・!」

205 名前:三文文士 投稿日:2000/08/26(土) 05:48
かつての聖地は、冬独特の気候とあいまって、荒涼とした印象を周囲に放っていた。
そう、ここは晴海、東京国際見本市会場跡地である。

その前に、何人かのコート姿があった。
「変わってしまったねぇ、晴海も」
「夏草や…ってやつか」
「うちらが出会ったのって、いつだったっけ」
「第二次晴海時代だよ。そのあと、すぐ幕張ってころ」
「あのころの混対は面白かったなぁ。みんな現場にいて、手の届くところにいたも
の。今じゃさぁ」
「いまさら愚痴るなさんな、もう最後なんよ。うちらに次はないんよ」
おかっぱ頭の女の一言が、一同に沈黙をもたらした。

コミックマーケット準備会は今回をもって、解散する。
あちこちで、存続だの後継だの名目をつけて、後釜と利権を狙う策謀が行われては
いるものの、歴戦の混雑対応スタッフだった彼らの長年の居場所がなくなることに
は変わりがなかった。

やがて、彼らは、彼らの青春の代名詞でもあったかつての聖地にむけて、一列に整
列した。
「気をつけ」
一番右側の背の低い童顔だが、妙に眼光の鋭い男が号令をかけた。
「我らが心のふるさと、東京・晴海国際見本市会場。どうか我々に困難に立ち向か
う勇気と力をお与えください。危難を避ける知恵と幸運をお与えください。そして、
最後のコミックマーケットを暖かくお見守りください。  敬礼!!」

彼らは、一斉に頭を垂れた。しばらくののち、顔を上げた彼らの表情には、なにか
決然としたものが浮かんでいた。彼らは、今回323の列と準備会館内担当の最後
の名誉と赫赫たる武勲をかけて闘うこととなる。彼らの前に待ち受ける運命を、こ
のとき、彼らは知らない。

#旧混雑対応系で、今でもこういう聖地への礼拝をしているスタッフがいるそうな。
赤茫々でも、一番最後の晴海で、こういうことをやったスタッフがいたそうだよ。

208 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/26(土) 11:42
2000/12/28 12:28 りんかい線東雲駅

桜木は電車を待っていた。
やはり何かが変だった。
東京駅に戻ると新木場駅へ行くよう指示された。
東雲交差点は、相変わらず有明方面が封鎖されている。
回送車の中で聞いた交通情報では、りんかい線も止まっている筈だった。

ホームには桜木しかいない閑散とした駅だ。
場所柄通勤ぐらいにしか使われていないのだろう。
しかしそこへ滑り込んだ電車は、かなり混んでいた。

12時で仕事を終え営業所へ戻ると、そこは前線基地となっていた。
いつもなら北1脇や西エントランス下のバス乗り場にいる車がここにいる。
新木場駅前はさほど広くないため、ここに駐めているそうだ。
そういえば井上も12時までのはずだ。戻ってきたのだろうか。
「そういやぁ。9時15分頃に出て行ったのは覚えてるけど、その後は分かんねぇなぁ。」
東京駅で列整理をしていたと言う職員が答えた。
東京駅を9時15分頃に出たということは、9時45分頃にビッグサイトに着く筈だ。
『道が封鎖されて出られないのかもしれない。』

電車はすぐに国際展示場駅へ着いた。
ほとんど全ての人が降りる。
駅前の広場にはビッグサイトへと続く長い行列があった。
朝方北1で見たものよりははるかに少ないが、それでも尋常な人数ではない。
その脇を通って釣り橋型の歩道橋から西のエントランスへ出た。
下には数台のバスが見える。
『やっぱり出てこれないんだ』
そう思った桜木は下のバス乗り場へ急いだ。

「おう、桜木じゃないか。何しに来た。」
井上はバス乗り場のベンチに座り、他の運転手たちと談笑していた。
「いや、帰れなくなってるんじゃないかと思って来たんですけど…。」
「なぁに、心配するな。」
井上は全てを知っているような口ぶりだった。
その時、軽快なエレキギターの曲が流れた。
 ♪探し物は何ですか〜
「井上さん。」
他の運転手が声をかけた。
「そうだな、そろそろ行こうか。」
「ちょ、ちょと待ってくださいよ。行くって、どこへ行くんですか。」
「『明日の下見』だよ。」

209 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/26(土) 11:42
2000/12/28 18:37 辰巳団地

桜木は食後の茶を飲みながらテレビのニュースを見ていた。
有明の交通事故については、事故があったということと、積荷の化学薬品の処理に手間取っているということしか伝えていない。
「どうしなの、難しい顔しちゃって。」
今年の春に結婚した妻が心配そうに声をかけてくる。
「いや、有明の事故が気になってね。」
「化学薬品を積んでるんでしょう。有毒ガスが発生してここまで来たらどうしようかしら。」
妻の大きくなってきた腹に手をやった。予定日は来年の3月下旬だ。
「それは大丈夫だよ。ガスは発生しない種類らしいから。」


210 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/26(土) 11:42
2000/12/29 09:42 晴海通り東雲交差点附近

全てが昨日と同じように動いていた。
違うといえば、はじめから首都高湾岸線と国道357号の有明附近が通行止めになっている事ぐらいだ。
鉄鋼団地の交差点は、いつものようにビッグサイトへ向かうことができた。
交差点を右に曲がる時、東雲駅の方に黒い大型トラックが2台並んでいるのが見えた。
桜木のバスが曲がったところで信号が変わった。
トラックは信号を渡るとそこで止まってしまった。
見れば脇道にも小型だが同じようなトラックがいて、同じように道を塞いでいる。
『閉じ込められたな、これは。』

212 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/26(土) 14:12
2000/12/29 12:44 東京ビッグサイトエントランスプラザ下バス乗り場

昨日の昼間は止んでいた雪も、今日は早朝から降り続いている。
上のエントランスが屋根となっているのでここに雪は無いが、誰も立ち入らないところは完全に白く覆われている。
井上たちは昨日と同じように談笑している。
その中に桜木がいるのが昨日との違いだ。
聞けば井上の息子がコミックマーケットのスタッフとして参加していると言う。
川崎市民プラザで開催されていた頃から参加し、初めて晴海に移った時からスタッフを始めたそうだ。
20年近くスタッフとして参会しているが、未だに末端のスタッフでいるのは本人の希望らしい。

昨日と同じように井上陽水の「夢の中へ」のイントロが流れてきた。
それを契機に桜木たちは西ホールへ向かった。
ガラスの自動ドアの向こうは人と熱気で埋め尽くされていた。
人込みを掻き分けてたどり着いた先は西2ホールの受付販売。
ここに井上の息子―隆明がいた。
「よう隆明、首尾はどうだ。」
「全て予定通り。順調だよ、親父。」
「あすこの閉まっているシャッターのところに例のヤツがいるのか?」
「そう、カッタは今回も同じ場所に配置させた。隣は富樫を置いたが、案の定来てないよ。」
「向かいの島は大丈夫なのか?」
「明らかにダミーと分かっているのを集めておいたから、そんなに人はいないさ。それに奴らには死んでもらう事になってるんでね。」
「列の具合はどうだ?」
「時間まで開けないために販売停止をかけてあるよ。大した事が無いところに修正をさせてね。それと転売屋には『13時に販売を開始する』と流してあるから、もうだいぶ集まってるんじゃないのかな。」
「全ての準備は整ったわけだ。」
「そう、あとは時間になるのを待つだけさ。」
館内の熱気に圧倒されて軽い眩暈を起こした桜木だが、井上親子の話を聞いて何かとんでもない事が起こるのを確信していた。


213 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/26(土) 19:35
>193
09:00
測量
11:30
設営部隊集合(中央エントランス)
簡単な説明と、マニュアル配布
12:00前後
設営開始
14:30(予定)
設営完了、ならびに館内閉鎖
15:00
反省会
16:00
前日設営のスケジュール完了
一般ボランティアは解散、帰宅
スタッフは明日への準備、館内警備

設営部のトップは「棟梁」と表記すると雰囲気でるかも
#これはc58の大体のタイムテーブル、c59はもう少し時間的に前倒しになる可能性有り

219 名前:オイラも乱入希望 投稿日:2000/08/27(日) 22:13
2000.12.28 PM09:14 武蔵境グランダーハイツ

「ったく、どいつもこいつも、直前に送ってくんじゃねーよ…」
吉村正通は、「サークル解散のお知らせ」というタイトルが付けられた
e-mailを読みながら愚痴っていた。今日までで既に13通目だ。
いくら正通が主に活動していたジャンルが既に放映が終了して久しい
魔法少女アニメだったとはいえ、散華してしまうサークルがこれほど
多いとは正通の予想を遙かに超えていた。
まぁ、コミケ後の覇権を巡って様々な同人誌即売会が火花を散らしては
いたが、どの即売会にも既に終わったジャンルの居場所など無かった。
「俺達のような弱者は、食い物にされる前に引退したほうが賢い、って
ことか…」そう正通は呟きながら、マウスを動かしてファイルを開いた。

『お兄ちゃん、お風呂あがったよ…って、何エッチなCG見てるのよ!』
「失礼なことを言うな。これは今回、俺が初めて出す創作少年漫画の
表紙のデータだ」
『でもこのお姉ちゃん、パンツ見えてるよ』
「…ほっとけ」
正通は、奇しくも冬コミは長年の夢だった創作少年で申し込んでいた。
初めての創作誌が出るのが最後のコミケとは縁起が良いんだか悪いんだか
解んねーや、と当選通知に同封されていたアピールを読んで正通は苦笑
したものだった。そして、いま正通の隣に座っている妹の琴美も生まれて
初めて参加するコミケが「最後のコミケ」だった。
正通と年齢が一回り以上離れている琴美は今年高校に入学したばかりで、
一度でいいからコミケに行きたい、今回で最後ならなおさらだ、と半ば
家出同然に田舎から5時間かけて都内の我が家に転がり込んで来ていた。


220 名前:219 投稿日:2000/08/27(日) 22:15
『お兄ちゃん、このパソコンってインターネットできるんでしょ?だっ
たらジャンプのホームページ見せてよ!』
そろそろ首でも絞めた方が琴美の将来のためだな、と正通は不穏な考えを
抱きつつ、ブックマークを開いてgooで検索しようとした時、自動巡回
ソフトがアクセスできなかったページのリストを画面に表示した。
「あちゃー、2chまた落っこちてるよ。今日有明の方で事故が有った
って話だから、どんな状態だったのか知りたかったんだけどなぁ」
『2ちゃんねる、ってヘンなキャラクターが一杯居るとこだよね、確か。
…オマエモンだっけ?』
そんな放送禁止になりそうなキャラは居ない。

『お兄ちゃんの漫画、見せてよ』
「…いきなり何を言い出すかね、キミは」
『だって、明日あたしもお兄ちゃんの本を売るお手伝いするんでしょ?
なら、中身がいったいどんなのなのか知る権利が有るハズだよ』
「何で?」
『だって、未成年がエロい本売ったら逮捕されちゃうじゃない』
「未成年に売るのはマズいかもしらんが、未成年が売るのは大丈夫だ。
第一、さっきも言ったように俺の本は創作少年だ。エロ本じゃねぇ」
『そお?表紙見てるとすっごい怪しいんだけどなぁ…』
「それに、見せたくても新刊は会場直接搬入だから手元に無ェよ」
実は、印刷屋に持ち込む前に原稿のコピーを取って居たのだが、それ
を琴美に見せる気は起きなかった。表紙以上にパンツ満開だったからだ。
「おら、画面に見入ってないでとっとと寝ろ。風邪引くぞ」
そう言って、正通はむずがる琴美を無理矢理ベットに押し込めた。
正通自身は、同じベットで寝るわけにはいかないので椅子寝だ。
『明日、本、売れると良いね』
「おう」
琴美とそんなやりとりをしつつ、正通は部屋の電気を消した。

…後日、正通はあの時なぜ琴美に自分の作品を読ませてやらなかったのか
一生後悔し続けることになる。
「お兄ちゃんの漫画、読みたかったな…」
それが、西館における破滅的混乱の中、琴美が発した最後の言葉だった。


224 名前:総監督風 投稿日:2000/08/28(月) 02:10
「淋しくなる……かな……」
我ながら分かり切ったことを言わせるのは、女の感傷だ。
伊藤カスミは、アパートの自室でひとり、明日の本のためのコピーの山にに埋もれていた。
コミケットに参加し続けているのは、学生の気分を引き擦って、その自覚が痛いからだ。
クリスマスにまた独り身かと揶揄する同僚もいたが、カスミ自身は
それをお布施のようなものだと考えている。男嫌いなのではない。
男が彼女に求めたものと、カスミの信仰が合致しなかっただけだ。
合致するわけもなかったとも言える。が、無碍にしてきた自分の女の部分が
一番コミケットを惜しんでいた。「御本尊さま」は明日を境に、もう無い……。
「最後のコミケット……!?」
そのセリフは、感嘆を持って迎えるべきものだ。

コミケットがなくなることの理屈には納得している。
「コミケットが戦後の我々の軟弱と無責任を示すものなら、
人は、それを一度断ち切らなければならない」
代表のその宣言に、カスミは素直に同意できたからだ。
たしかに、そう考えれば、ボランティアによる運営という形も、
同人と呼ばれた慣れ合いに浸りきったオタクのかたちに符合して見える。
勿論それは一サークル、それもマイナージャンルの弱小参加者としての
視点で、一般のそれとは異なる。だが、それでいい、と思う。
弱小マイナージャンルと言う立場が、コミケットの慣れ合いを強調して
カスミに見せているのは事実だ。オタクひとりが認識できることなんて
そんなものだ、という割り切りが彼女の考えを強くした。
”だからといって心と体の淋しさはべつだ……!”
コピー本作りの作業中に思考が跳躍するのは、同人を経たオタクの得た
ある種の機能なのだが、今日はそれが煩わしく感じられた。
”「御本尊さま」を殺す敵は誰なの?”
あえてそんなことを考えてみる。たしかに怒りをぶつけられる対象が必要だ。
この責任転嫁もオタクそのものなのだが、今のカスミにその自覚はない。



229 名前:コミックマーケット73 投稿日:2000/08/28(月) 05:05
二千十二年十二月二十九日午前九時五十分

有明ビッグサイト

 行列は、まるで虫のようだ。小さな頃、校庭の隅で見た蟻の行列を思い出す。
 僕も含め、みんな虫だ。
 虫。転売を企む虫。盗撮を狙う虫。徹夜を楽しむ虫。
 僕らはみんな、コミックマーケットという巨大な生物に寄生している虫だ。寄生虫だ。
 宿主にすがるしか、生きる術を持たない虫。宿主が死ねば、自分も死ぬしかない、哀れで、惨めな、虫。
 宿主。僕は考える。
 コミケは今日、死ぬ。オタクであった僕たちも今日、死ぬ。
「ケンちゃ〜ん、な〜んか前の方が騒がしいよ〜」
ことあるごとに前島は話しかけてくる。こういう人間は一番嫌いだ。
「ケンちゃ〜ん、怖いよ〜、なんか怒鳴ってるよ〜」
普段孤独な人間は、その反動でもの凄く喋ったりするときがあるらしい。こいつもそのクチなのだろうか。
僕は前の方を見た。確かに様子がおかしい。
「・・・なんだ?」
行列がざわめき始めた。不穏な空気が漂い始める。
「・・・だから・・・そんなことは言って・・・私達だって・・・」
途切れ途切れ会話が聞こえてくる。
「・・・いいから!・・・説明を・・・そんなこと・・・」
「な〜にがあったんでしょ〜ね〜」
前島は奇妙な、多分出鱈目だろうが、踊りを踊りながらそう言った。
一際大きな声が聞こえてきた。
「だから!理由を説明しろよ!」
甲高い声。悲鳴のようだ。
「知りませんよ!!こっちだって今さっき上から言われたんですから!!」
スタッフもかなり興奮している。
「コミックマーケット73は、中止なんです!」
前島がぴたりと動きを止めた。

230 名前:コミックマーケット73 投稿日:2000/08/28(月) 05:07
二千十二年二十九日午前九時五十二分

・・・・・・

体が痛い。
「鷹山、とか言ったかな?そのスタッフは」
誰かが私の名前を呼んでいる。
「厄介なものだね。コミケにしか生き甲斐を見いだせない人間というのは」
違う。私はコミケが無くても別に平気。ただ少し寂しくなるだけ。
「別に恨まれやしまい。結果的に我々は彼女を救うのだから」
学校で教わらなかった?善意の押しつけが偽善って言うの。
「そろそろかね」
聞き慣れた音がどこかから聞こえてきた。
「そのようですな」
あー・・・なんだったっけ・・・この音・・・
「しかし、驚いたよ。まさか君クラスの人間まで参加してくれているとはね」
おかしいな・・・聞き覚え・・・あるはずなんだけど・・・
「我々も常々疑問に思っていたのですよ。何故あのような無能に使われなくてはならないのかと」
どこで聞いたんだっけ・・・昔・・・ずっと昔・・・
「ハハ、ずいぶんな言いようだね」
夏・・・そう・・・夏・・・
「問題を先送りにしかできない人間に、コミケの主催はふさわしくありません。まったく、もうちょっと
早くお声をかけてくだされば」
コミケの・・・
「主催も色々と問題を抱えていたのだよ」
58・・・
「問題、ですか?」
西館・・・
「そう、この彼女のような、コミケにある種信仰のようなものを抱いている連中がたくさんいてね。手懐けるのに手間取った」
思い出した。コミックマーケット58、西館、シャッター前。
暴動の音だ。

232 名前:三文文士@「緊急アピール」 投稿日:2000/08/28(月) 06:27
マンガを描くこと、小説や評論を書くこと、本を作ること。そこには、表現すると
いう悦び、物を語るという目的があります。物語る力は人間の最大の力であり、同
時に自己と他者をつなぐ社会的行為でもあります。人間は、自分の外に「世界」に
目を向け、知り、それを記録するという意志によって、世界を豊かに成長させてき
たのです。そして、コミケットはその物語を後世に伝える装置としての役割を場を
提供することで果たす運動体として長年機能してきました。

大田区区民会館に始まり、東京ビッグサイトに至る二十余年の道程は、時に険しく
時に余りに厳しいものではありましたが、コミケットは、サークル、一般参加者と
同じスタンスによって歩むという信念をもって活動してきたつもりです。あまりに
巨大になり、参加者の意識が多様化する中にあっても、その「信」だけはつらぬく
という意志を我々は持ちつづけてきたつもりでした。しかし、時代が変わる中で、
我々自体の変化の速度が十分でなかったということは認識しなければならない事実
であるようです。

ここに、発表します。
次回、コミケット59の開催をもって、コミケット準備会は、当分活動を休止しま
す。これは、表現の地平を求めて挑戦しつづけてきた準備会の新たな方向性を見出
すために、現在の時間に追いかけられて進めているルーティンワークを一度すべて
止め、我々自身が我々自身を見直すために、どうしても必要とされる休息を確保す
るためのものです。

出来うる限りの自由な表現と自由な出会い、そして、それを求める人の動きは止め
ることができません。それは人間の本能であるからです。より多くの物語を創り、
そして受け止めようとする人々がいる限り、コミケットは存在し続けなくてはなり
ません。しかしながら、場の拡大を無制限に続けてきた結果、現れた問題は、あま
りに巨大でまた余りに多岐にわたります。もちろん、場であるコミケットがそれを
解決しようとするのは、もしかすると不遜なことかもしれません。しかし、その解
決を模索しなければ、もはやその持続・存在すら確保ができない状態となったので
す。

「2001年コミケットの旅」が潰えるわけではありません。今一度余分な脂肪、
溜まってしまった澱を取り去り、運動体としての機能を活性化させて、私達は戻っ
てくるつもりです。自分が自分らしく自分であることで、そして他者にもそれを認
めることで、それをつなぐ表現を進めていくことで、ヒエラルキーも戦争すらもや
がてなくなっていくかもしれない。「約束の地」を求めての長い長い歩みの間の、
一時の休息をどうか見守って欲しい。そして、空白の間、皆さんにも様々なことを
考えて欲しいのです。(米)

234 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 07:18
「もしもし?母さん?わたし。
 うん。あのさ・・・今年は年内にそっちに戻れると思う。
 え?あ・・・ううん。もうそんな年でもないし
 大丈夫だよ、今年はどうせ暇なんだし。
 じゃあ、また直前に電話するから。うん、それじゃ・・・」

 チン
と音を立てて受話器を置くと、久美は軽くため息をついた。
実家で、年越しをするなんて、一体何年ぶりになるのだろう。
幸い両親はあまりうるさい事も言わず
久美の好きなようにさせてくれたが、さっきの電話での
母の嬉しそうな声を聞くと、今まで盆も正月もろくに
実家に顔を出さなかった自分が、いかに親不孝をしていたか
思い知らされるような気がした。

コミックマーケット59
全ての参加者にとって特別な意味を持った
この「舞踏会」の招待状を、手にする事が出来なかった
久美は少しだけ、ほんの少しだけみんなより早く
12時の鐘に、気が付いたのだ。




239 名前:2000.12.29.AM0:37 投稿日:2000/08/28(月) 08:29
「終わる…だと?」
自分の口から出た筈の声を、草堂京一は別人のもののように聞いた。
彼の変化に気付かず、長髪の男は言葉を続ける。
「だからよ、今回はオマエも行こうぜ?愉しいぞォ、屑を甚振るのは」
下種な笑みを浮かべ、男は京一の肩に腕を回す。
男は――いや、男とその仲間は、毎年有明に乗り込み、オタク狩りと
称して、コミケに集まる人間に暴行・恐喝を繰り返していた。
京一は加わっていない。とはいえ別に暴力行為が嫌だった訳ではない。
有明に行くのを躊躇ったのは、以前、同人活動をしていた事があるから
――だった。


240 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 08:40
止めてから、もう4年ほどになる。
クラスメイトに誘われ、興味本位でサークルに入った。
コピー誌を50部出せれば上出来というような、超がつく
弱小サークルで、イベント参加も数えるほど。
それでも、やっている間は楽しかった。
いつかはコミケに参加したいと、分不相応な願いさえ抱いた。
――しかし。
情熱はあっという間に過ぎ去り、別の物に興味が向き、
サークルは一年足らずで自然消滅した。
後悔はしていない。未練もなかった。ただ、とり残された
願いだけが残った。


241 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 08:48
行き場を失った願いは、コミケットへと辿り着き、いつしか
そこは、京一にとってある種の禁域となった。
たとえ二度と行くことがなくとも、同人と関わりを持たな
かったとしても、コミケがあると思うだけで、夢の続きを
見ていられるような気分になった。
だが、コミケは終わる。
禁域が消える。
そんなことがあっていいのか。許されるのか。


242 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 08:58
湧いてきたのは怒りだった。
どうしようもなく身勝手な、けれど激しい怒り。
「……よ」
「ああ?なんだよ京一」
「行くよ」
京一の言葉に、男はひゃっはっは、と奇妙な笑い声をあげた。
「まぁ愉しもうぜ」
男はなにやら話し続けるが、もう京一の耳には入らなかった。
潰す。コミケットを潰す。他の誰かにやられるくらいなら、
「……俺が、この手で終わらせてやる」


243 名前:視点を変えてみる。 投稿日:2000/08/28(月) 09:33
コミケットが終わる・・・
そう聞いたのは、アシスタントの若い女の子からだった。
コミケット
懐かしい響きだ。あれからもうどれくらいになるのだろう。
まだ高校生だった自分。
ただ漠然と漫画家になりたいという夢だけを見ていた自分に
はじめて同じ志を持つ仲間達と切磋琢磨し励ましあう
そんな喜びを与えてくれたのが、コミケットだった。
だが・・・時がたつにつれ、馴れ合いや妬み、嫉み
口先だけで先を見ない、めざさない
怠惰やあきらめの蔓延に耐え切れなくなり
自分から、その輪の中を飛び出したのだ。
それからは持ち込み。アシスト修行を経て
念願のプロデビューを果たし、忙しい日々の中に
コミケの存在も時々同業の仲間から噂を聞く程度になっていた。
もちろん、今はコミケットがどうなっているのか知る由もない。
興味もなかった。同人誌から引き抜かれてきた奴らを
正直馬鹿にしていた部分もある。

それでもたとえあんな形で決別したとはいえ
はるかな記憶の中の日々は確かに輝いていた。
作品を完成させ、そしてそれをさまざまな人に読んでもらう。
コミケットを通して、その喜びに触れることがなければ
今の自分はなかったかもしれない。
でも、それはただの思い出だ。
今の俺はコミケットがどうなろうと、知った事ではない。

それなのに、このわずかな寂しさは
いったいなんなのだろうか?



244 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/28(月) 11:21
2000/08/27 16:23 世田谷区北沢某喫茶店

「簡単に言えば『毒をもって毒を制す』と言うところかな。」
下北沢の駅に程近い店内は、日曜の夕方ということもあってかどの席も埋まっていた。
一番奥また所にある小さなテーブルに男4人が頭を寄せて座っている様は、何か滑稽だった。
テーブルの上にはコーヒーカップが4つと1冊のレポートパッド。
開いたページに書かれているのは「緊急アピール」と題された文章だった。
「良いのか、そんな事をして。コミケットは…」
「いや、いいんだ。もう終わらせても。」
彼の一言で他の3人は言葉を失った。
「問題は『どうやって終わらせるか』だ。」
そう続けると、別の一人が苦虫を噛み潰したような顔で答える。
「確かに一筋縄では行かない連中が多すぎる。」
「彼らはコミケットは絶対に無くならないと思っている。その幻想を打ち破るためには、強力なインパクトが必要だ。」
「それで『ヤツら』を利用するのか。」
「そうだ。しかし他の参加者に被害が及ばないようにしなければならない。『インパクト』はヤツらの所だけで十分だ。」
ふと時計に目をやると16時30分を過ぎていた。
17時からの幹部集会でこの計画を幹部たちに伝える。
その時の合意で、この計画は現実のものとなるだろう。
会計をしている時、1人が言った。
「本当にいいんだな、ヨネザワ。」

245 名前:2000/12/30 08:29 東1ホール 投稿日:2000/08/28(月) 12:33
「おはよう、これが君の割り当て分ね」
1枚の紙切れが楠見の手に渡される、それにはサークル番号と
サークル名、冊数がびっしりと書き込まれていた。
「ずいぶんと多いですね」
「最後のコミケットだからな。どこも気合入れて本出してるんで多くなってしまった」
リストを渡した男が申し訳なさそうにする
「全部で25サークル、100冊ちょいですか?島中オンリーとはいえなかなか厳しいもんがありますね」
ざっと目を通して、楽しげに呟く。その口調には辛さなど微塵も感じられない、むしろ楽しんでいる
きっと彼の頭の中ではどう回るかという戦略が着々と組みたれられているに違いない

彼の周りにも同じようにリストをチェックしている野郎どもが10人ほど。
共同購入グループの朝の風景としては至極真っ当な風景だろう。
ただ、いつもと違う点があるとすれば、やけにその集団の人数が多いということか

元々楠見は共同購入チームなど入る気はなかった。むしろ毛嫌いしていたと言ってもいい。
だが、一人では壁はおろか島中の面白い本を出すサークルさえ満足に入手できないという
のが現状である。
その状況に辟易していた時に、チームのリーダー格である橋本に誘われたのである。
楠見は初めは断った。だが、やっぱり本が欲しいという願望と、なによりも早朝に家を出て
朝の6時から寒風に吹きさらされることがない、という快適さが彼に決断させた。
元々やるからには手を抜かない性格と効率良く本を買うというスキルに長けていた
彼は、いまではそのグループの中でもかなりの戦力として信頼される様になる。
とはいえ、やはりズルをしているという後ろめたさからか、必要以上にそのチームの面子に
関わろうとはしない。
それがなんの意味もない事とはわかっていながらも。

軽く楠見は島中を見渡す。朝のいつもの喧騒。着々と頒布の準備を
していくサークルの人たち。いつものコミケット朝。
だが、はやり何かが違う。
「これが最後」という気合、どことなく悲壮で、それでいてそれを打ち消さんとする
空気がホールに充満している。

247 名前:三文文士 投稿日:2000/08/28(月) 12:58
ごめん、拙かった。
訂正点1:第三段落
ここに、以下のことを参加者の皆さんに報告しなければなりません。これが、私た
ちにとって、大変つらく、苦渋に満ちた結論であったことも、お伝えすることに、
意味があると思います。
次回、コミケット59の開催をもって、コミケット準備会は、当分活動を休止しま
す。これは、表現の地平を求めて挑戦しつづけてきた準備会の新たな方向性を見出
すために、現在の時間に追いたてられるように進めているルーティンワークを一度
すべて止め、我々自身が我々自身を見直すために、どうしても必要とされる休息を
確保するためのものです。

#代表は、過去どんな重大事件に関しても「発表」というタームを使ったことがあ
りませんでした。

あと、「存続・存在すら確保」を「存続と存在すら確保」に訂正します。代表は
ナカグロを使わない人なので。

これ書きたくなって、過去のアピールとかカタログとか全部ひっくり返して、よ
みましたが、文章自体の煩雑さはともかく、第3期晴海から、ずーっとコミケッ
トは変わらなくてはならないというメッセージが出されていますね。今回ほど露
骨ではなかったですが。また、問題は、変わるために、何をしてきたかなんです
が。

キーワードは過去の文章からひっこぬきましたので、代表の言葉っぽく仕上がっ
ていると思います。一文章の長さと全体の構成も毎回こんなもんでしょう。
緊急アピールだともう少し長いかな。

255 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/28(月) 16:55
2000/12/10 13:38 東京ビッグサイト国際会議場

米沢氏の話はまだ続いていた。
コミケット3週前に開催される拡大準備集会。
いつもなら前回から今までに起きた問題とその対処、前回との変更などを冗談交じりに話しているのだが、今回は違う。
とても強い口調で、コミケットを終わらせる意義を語っているのだ。

田村は会議場のすぐ外のロビーに座り、半ばぬるくなった缶コーヒーをすすりながらそれを聞いていた。
彼は都内にある同人誌専門古書店の店員だ。
人気サークルの本をまとめて大量に買い込んでそれを高値で販売する、いわゆる『転売屋』もやっている。
今回はサークル入構証で何人送り込めるだろうかなどと思案しながら、米沢氏の演説を聞いていた。

  1日の参加者数に比べ準備会の人数は30分の1以下です。
  にもかかわらず、今日までコミケットを開催してこられたのは何故でしょうか。
  準備会のコミケット開催目的が、表現の交流の場の存続だったからです!
  これは皆さんがが一番知っていると思います。

  我々はマンガ大会を飛び出しコミックマーケットを開催しました。
  そして、参加者で膨れ上がったコミケットを危機を乗り越えながら開催して20余年。
  コミケットを愛する我々が、心無い参加者に改善を要求して何度に踏みにじられたことでしょう。
  大きな事故も無く、場の存続のために、多くの人々が努力を惜しみませんでした。

  しかし前回のコミケットでは重大な事故が発生し、多くの負傷者が出ました。
  それは何故でしょうか!

「坊やだからさ。」
田村はそう呟くと最後のコーヒーをすすった。
「もう1本いかがですか。」
隣にいた背が高く痩せた黒眼鏡の男が、よく冷えた缶コーヒーを差し出してそう言った。
「あんた、『虎』の人間だな。」
田村は缶を受け取りながら言った。
「わかりますか。」
「あぁ、においでな。」

  新しい時代のコミケットを、我々真に表現活動を愛するものが求めるのは必然です。
  ならば襟を正し、この状況を打開しなければなりません。

  我々は過酷な条件のもとでコミケットを開催し、苦悩し、練磨して今日のコミケット築き上げてきました。
  皆さんをすばらしい表現の場へと導いてくれた人達も、心無い参加者の無思慮な行動の前に苦労を強いられました。
  それを前回の事故はまざまざと示してくれました。
  この悲しみも怒りも、決して忘れてはいけません。

  我々は今、この怒りを結集し、心無い参加者に叩きつけて、初めて真のコミケットを開催することができるのです。
  この「コミケットの終了」こそ、努力してくれた人全てへの慰めとなるのです。

  参加者の皆さん!
  悲しみを怒りに替えて、立ち上がりましょう!

  我々真に表現活動を愛するものこそ、本当のコミケット参加者であることを忘れないでほしいのです!
  真に表現活動を愛する我々こそ、コミケットを救うことができるのです!

270 名前:コーラ好き 投稿日:2000/08/28(月) 18:44
冬コミ

反省した(笑)323美里主導のもと、超大手サークルは冬コミへの参加を見あわせる
こととなった。また、企業も自主的に参加を取りやめ、西3,4ホールは委託販売スペース
となった。

西3,4館内詰め所

「黒沢君、館内の作業状況はどうかね。」
口ひげを生やした、年輩のスタッフが言った。
「順調に進んでいます。」
黒沢と呼ばれた女性スタッフが答える。
「そうか、今回のコミケは平穏にすごせそうだな。」
そういって年輩のスタッフは、懐から葉巻を取り出し、くわえる。
「館長!館内は禁煙です!」
横にいた若い女性スタッフが言う。
「くわえとるだけだ!」
館長と呼ばれた年輩スタッフはあわててそう言った。

『ただいまより、コミックマーケットを開催します。』
場内アナウンスが流れる。
拍手の音が聞こえる。
「大変です!館長!」
別の女性スタッフがあわてて駆け込んでくる。
「どうした早瀬君。」
「一般参加者が、委託スペースの一カ所に向けて殺到しています。」
「手すきのスタッフを回して抑えるんだ。」
「ダメです、もともとのスタッフの数が少なすぎます。」
館長は、早瀬と呼ばれた女性スタッフと共に部屋を出ていく。
ガンッ
「あいたっ!」
館長は、部屋を出ていくときドア枠の上に頭をぶつけた。

西3,4館内

館内は、走る参加者、倒れる机、飛び散る本で、混乱のるつぼと化していた。
怪我人も相当数出ていた。
「この騒動の原因は何かね。」
「委託本の中に、狩ったダッシュの本が紛れていたようです。」
「はっはっはっはっは。」
突然館長は笑い出した。
「!?」
「ブービートラップだよ。」
「ブービートラップ!?」
女性スタッフが問い返す。
「第二次大戦中にドイツ軍がよく使った手だ。撤退するときに目に付くもの、拳銃や万年筆に
爆弾を仕掛けておく。占領軍がそれにさわるとドカンという仕組みだ…。我々は323美里に
まんまとはめられたのだよ…。」

------------------------------
資料無し。

271 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/28(月) 20:53
―作戦報告書― 12月28日

当東京ビッグサイトは、一般参加者の突然の襲撃により死亡者、負傷者を多数輩出。
その際、通信機器が破損。外部との連絡が不可能になる。

被害の拡大を防ぎ、館内に残っているであろう生存者を救出する作戦を決行。
ここに作戦討議内容を記録する。

272 名前:255の感想に代えて 投稿日:2000/08/28(月) 23:36
米沢氏の演説が佳境にさしかかったころ、ひとりの男がおもむろに立ち上がり、
会議場から出ていった。会議場のドアを静かに、そしてしっかりと閉めた後で
その男はつぶやいた。
「……何を言う。」
その声には、確かな怒りの声がこもっていた。
「スタッフ上層部の独裁を目論んでいたヤツが、何を言う!」

----------------------------
>サンデーライターさん
すみません、255を読んで爆笑してしまいました。
思わず元ネタのビデオを再生しながら読み返してしまいました。
そしてさらに爆笑。

ライターのみなさん、たくさんの素敵な作品をありがとうございます。
これからも頑張ってください。陰ながら応援させていただきます。

273 名前:名無しさん@お腹いっぱい。 投稿日:2000/08/29(火) 00:28
なんか、一晩文章寝かしておいたらパラレル化してしまった…。
あまりにも「あの人」の扱いが不憫なのでこんな話しはいかが?

2000/12/20 PM17:00 西国分寺

「・・・モノクロ80ページ。確かにデーター確認しました。問題なさそうですね」
「良かった。流石に今回は念入りにチェックしたし、大丈夫だとは思ったけど」
苦笑いしながら、出されたお茶を少し飲む。緊張の為かそれとも暖房の為か少し口の中が乾いていた。
「それにしても、こんなにページが多いのは初めてじゃありませんか?」
受け付けのおばさんが、感心したように入稿データーチェック用のモニターを覗き込む。
「これでもあんまり昔のは削ったんですよ」
「やっぱり、恥ずかしい?」
「ええ」
彼女の恥ずかしがるような言葉に、おばさんが微笑んだ。この印刷所との付き合いも随分経つ。
昔の拙い絵も、不本意なラフ誌もここで刷ったのだ。
今まで出したオフセット、コピー誌、HPのCG、グッズの原画。掻き集めて見たらそれは結構な量になった、
取捨選択し、書き下ろしのカラーとモノクロ2本の漫画を入れたらいつのまにかこの本のページ数は
120P以上にもなってしまったのだ。
「で?今回はいくらで売るの?」
「500円」
「それじゃあ赤字じゃ・・・」
美術印刷用の紙を使った50P近くものカラーページ、A4サイズの版形、フルカラー特殊紙カバー、
さらに扉に描き下ろしのテレカ二枚がインサートされている。1冊2000円の単価でも文句は出まい。
「いいんです最後ですから・・・。お茶ごちそう様でした、それでは印刷どうかよろしくお願い致します」
椅子の背にかけていたカーディガンを手に取ると、彼女は深々と頭を下げて出口の扉へ足を向けた。
ノブに手をかける時、彼女はふと振り向いた。目を細めると名残惜しそうに、そして振り切るように
出ていく。
黄昏色に染まる駅へ向かう国道沿いの坂道、歩きながら彼女は鳴咽を噛み殺すため呪文のように何度も呟いていた。
「悲しくなんて無い私は女王だもの。悲しくなんて無い私は・・・」
涙があふれて景色が滲む。もう二度と同人誌を作る事はない。コミケ後に自分はもういないのだから…
最後のコミケの最後の入稿が終わったのだ。

「社長、それじゃあ表紙の色校出します」
社員が持ってきた色校をテーブルに広げる。これから本文カラーページとの最終的な色合わせをして印刷に取り掛かるのだ。
「それにしても表紙の華やかさに比べて裏表紙は妙にあっさりしてますね」
表紙には赤を基調とした背景に王冠を被った少女がこちらを向いて微笑みかけている。
裏表紙は一転、黒の背景にサークル名と本のタイトルそして何かをデザイン化したらしい意匠があっさりと配されているだけだった。
「この意匠・・・ギロチンですかね?」
「さあな。おい、汚れるから指差すのはやめないか。」
「すいません」
チェックしながら色校を保管する封筒のラベルにマジックでサークル名と本のタイトルを書き込んだ。

サークル名:『Cut A Dash!!』
誌名:『終焉の姫〜sacrifice〜』


274 名前:272 投稿日:2000/08/29(火) 00:36
修正です。

その声には、確かな怒りの声がこもっていた。

→その声には、確かな怒りの感情がこもっていた。

ああ、情けなや……。

279 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/29(火) 16:00
フリーのメアドを取ってみました。ご意見、連絡などにどうぞ。
今回は140さんのネタをちょいと拝借。

2000/11/23 10:03 東京都内某神社

境内は新嘗祭ということもあり、多くの人が参拝に訪れていた。
社務所2階のこの部屋からは、鳥居から拝殿までを埋める人達を一望できる。
やがて襖が静かに開き、一人の巫女が入ってきた。
「どうも、ご無沙汰しております」
私が頭を下げると、彼女は少し困ったような顔をしてから微笑んだ。
「そんなに畏まらないで下さい。そういうのは苦手です」
彼女は私の正面に静かに座った。
私はやや大きめの紫の風呂敷包みを、そっと彼女の前に滑らせた。
「3月の沖縄コミケの時のワインです。どうぞ、お納めください」
「ありがとう。そういえばコミケットは今回で最後とか」
「はい、ついに終わりを迎えることになりました。」
「では今回は精一杯やらせてもらいましょうかしら」
「いや、その必要はありません」
私のこの言葉に、彼女は「は?」と小さく返した。
「今回は天候を気にしなくとも良いのです」

もう10年も前になる。
コミケットは幕張を追われ、晴海へと戻ってきた。
問題は山積し参加者の意識は錯綜し、かろうじて「コミケット」という場を共有しているに過ぎなかった。
これらを解決するために数え切れないほどの策が練られた。
そして「全ての参加者が同時に共有できる重要な事項」として選ばれたのが「天候」であった。
天候を通じて参加者が共同体的な意識を持ち、問題が解決されることが期待された。
そのために彼女にはかなり無理なことも頼んだ。
見事に台風を退けた時、多くの参加者はそれを「コミケットの奇跡」だと言った。
参加者の意識は纏まって行くかに見えた。
しかしそうはならなかった。

「あなたは十分に役目を果たしてくれました。幸い今の会場は全て屋内です。以前ほど天候を気にせずとも良くなりました」
「それでも雨は降らないほうが宜しいのでは」
「最後だからこそ、コミケットを愛するあなたに、コミケットを楽しんでもらいたいのです」

昨年の夏コミ直前、彼女が倒れたという知らせが入った。
膨れ上がった参加者の気を受けるには、もう彼女の体が持たなかったのだ。
そして台風はコミケットを直撃した。

「あなたの好きなジャンルは1日目に集めました。これを」
彼女は差し出した封筒を開けると、中から1枚のサークル入構証を取り出した。
「まぁ、きれい。ずいぶんと手が込んでいるのですね」
「これぐらいの事をしないと偽造対策にならないのです。費用も馬鹿になりません」
「それは大変ですね。ではお言葉に甘えさせていただきますわ」
「なるべく8時までに総本部へおこしください。代表もお待ちしております」
「でもいつものように遅くまで祈祷を捧げてしまうんでしょうね」
彼女は照れるように微笑んだ。
「ははは、習性というのは怖いですな」

292 名前:名無しちゃん 投稿日:2000/08/31(木) 01:08
「おはよーございまーすサークル通行証は、1人1枚ずつ手に持って、お進みくださ〜い」

 エントランスホール入口で、いつも通りに繰り返されるスタッフの声を聞き流しつつ、俺はその脇を通り抜けて外へ出る。
「よっM田。このクソ寒い中おつかれ〜」
 俺はそこで他のスタッフに指示を出している男に声をかける。
「今日の入りはどうよ?やっぱりいつもより早め?」
 その男は周りのスタッフに一通りの指示を出し終えてから、俺の元へと駆け寄ってくる。
「やぁ。おはよう。今日の入りはいつもより全然速いよ。やはりラストコミケだからかな。
 それよりお前、今ここに来て大丈夫なの?」
「あぁ、今日暇な時間はたぶん今だけだろうからね」
 俺のセリフにM田はあきれた顔でためいきをつく。
「あいかわらずだな、お前は」
「ま、ね。それが俺の役目でもあるしね。
 それより、ゲートと話に行くから、ちいとお前も来いよ」
「ゲート?んあ、わかった。
 T本、ちょっとゲート本部に行ってくるから、なにかあったら連絡よろしく!」
「あ、M田さん。了解で〜す」
 T本の声を後ろに聞きながら、俺達はエントランスプラザの方へと歩いていく。
「それにしても、最後までついてるな。雪もこれ以上本格化しなければ、問題無いし」
「そうだね。このまま済めば前回の3日目同様にいけるね」
 空からは、粉雪が舞い降りる。
 舞い降りてはすぐに溶けて消える程度の雪だが、それでも雪は雪だ。
 いつもの俺ならこんな雪でもうざったく思うのだが、むしろこの光景が幻想的とさえ思えている。
 今、この瞬間でさえ、実は夢の中なのではと思えてならない。
「一応、入場導線は朝立ち上げ前の計画通り雨導線で行く予定だから。
 本来この話しもS根がやるはずなんだが、あいつも他所周りで忙しいからなぁ」
「S根も気合いはいってるからね」
「ま、ね。あいつはいつもだけど、今回は特にね。入場の立ち上げの時は、いつも通りS根がここに来て例のをかますだろうから大丈夫だろ」
「あれ、お前は?」
「俺?俺は受け側の調整で手一杯だよ。アトリウムと両トラヤ・・・
 屋上展示場は雨導線だから基本的に使わなくて済むけど、かわりに1〜4エスカがあるからね」
「うぁ、めんどくさ!」
「まぁ、本音を言えば、ラストの一般入場はやりたかったけど・・・
 俺はレボでもやってるし、S根がやる気なら当然まかせるだろ」
「あん、なるほど。そだね」
 センタースクェアを通りエントランスプラザを通り抜け、TWRに向かって降りる階段の前で立ち止まる。
 この光景は、俺がいつも楽しみにしている光景だ。
 コミケットで1番好きな光景。
 今日は今までのどの時よりも美しかった。

 うっすらと射す朝焼けの中、舞い降りる粉雪。
 眼下に広がる、圧倒的なまでの人波。
 街路樹や芝生をうっすらと覆う白い雪。
 これからの事を話しながら脇を通り過ぎていくサークル参加者達。
 何処に行くか、何処が欲しいかで盛り上がる一般入場待機者達。
 小走りに動き回るスタッフの面々。

 隣にいたはずのM田は、サークル参加者の質問を受けている。
 俺は、M田が来るまでの間、この幻想的な光景を目に焼き付けていた。

 今日、この日、あと数時間でコミケットが終わる。
 10年以上もつきあってきたコミケットが・・・

 モナー隊の誘いを断り・・・
 彼らの計画の全容を知りつつも・・・
 そして、それが成る事を俺自信が心のどこかで望んでいても・・・
 彼らの誘いを断った俺が、その結果どうなるか解っていても・・・

 それでも俺は、数多くある選択肢の中から、今の立場で居続けることを望んだ。
 コミケットのスタッフとして共に逝く道を………

 俺は、いつのまにか涙を流しているのも気がつかなかった。

  −− 2000/12/30日 AM 7:40分 −−


294 名前:219 投稿日:2000/08/31(木) 02:52
2000.12.30 AM12:37 東京ビッグサイト西2ホール

「はぁ、やっと新刊届いたんですか…じゃあ、これから取りに行きます」
そう言いながらPHSの通話を切った吉村正通の口調には、端々に怒りの
成分が含まれていた。それもこれも、朝早くに正通の自宅に掛かって
きた1本の電話が原因だった。
印刷所から掛かってきたそれはかなりしどろもどろで、要約すると
”あなたの新刊は現在鋭意印刷中で、有明に届くのは昼過ぎになる”
というものだった。
「ったく、オフセなんて慣れねぇことはするもんじゃ無ェな」
正通はこの日何度目になるか解らない同じ愚痴を言いつつ、目の前に
置かれた「新刊販売は昼以降になります」と書かれたスケッチブックの
頁をめくった。

丁度「新刊販売、13:30から」という文言の横に今回の新刊の
主人公の少女のカットを描き終えた時に、琴美が小走り気味に正通の
スペースに帰ってきた。
「おお、ナイスタイミングで帰ってきたな。俺は今から…」
『お兄ちゃん!コミケって凄いよ!家の裏の田んぼよりも広い場所に
たくさんの人がびっしりと詰まってるんだよ!それでね!…』
琴美は一気にまくし立てる。無理もない。この会場内には琴美が住む
田舎町の人口を遥かに超える人間が集まっているのだ。
俺も昔はこんな風に興奮してたよなぁ、と正通は内心苦笑しつつも
そんな気配を琴美に悟らせないかのように口が動いていた。
「あー、解ったから田舎者まるだしの会話はやめてくれ、琴美」
『ぶー、そんなこと言ってたらお兄ちゃんが買ってこいって頼んだ
同人誌あげないからね』
「すまん、前言撤回する。だからとっとと新刊よこせ」
琴美は頬をぷうっと膨らませながらも、”にょ!っとパラダイス”
という題名のデ・ジ・キャラット本を正通に渡した。

「琴美、あそこから裏に回ってここの席に座っててくんねぇか?」
『え?あたしもうちょっとそのへん廻ってたいんだけど…』
「今さっき印刷屋から新刊届いたって電話が有ったから、今から
新刊取りに行かなきゃなんねぇんだ」
『えー、そんなの向こうのミスなんでしょ?向こうからこっちに
届けに来てもらってもいいんじゃないの?』
「届け先が多すぎて人手が足りねぇんだとさ、ったく…」
事実、正通のスペースの周りを見渡す限りでも「新刊まだ来て
ません」というサークルがあちこちに散見された。
『…じゃあ、座っててあげるから早く帰ってきてね。あたしは
お兄ちゃんの漫画が早く読みたいんだからね』
「言われなくてもすぐ帰ってくる。心配だからな」
『え…?』
「お前が頓珍漢なことしでかすんじゃないか、ってな」
『ぶーっ。お兄ちゃん意地悪ばっかり言わないでよー』


295 名前:219 投稿日:2000/08/31(木) 02:58
「あの、私も見てますからそんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
不意に、正通の隣のサークルの女性が話しかけてきた。
「え、いや、あの、その…」
そう言いながら正通と琴美はあたふたしていた。そういう様を
見ていると、同じ血が通っている兄妹だと感じられた。
「…じゃあ、すみませんがよろしくお願いします。琴美も隣の
お姉さんに迷惑掛けんじゃねーぞ」
『あ、ついでだからオレンジジュース買ってきてよ』
「キミは10歳以上も歳の離れた兄をパシリに使うのか…」
『隣のお姉ちゃんの分も忘れちゃダメだよー。お兄ちゃんそういう
とこが鈍いからいつまでたっても彼女ができないんだからね』
「ば、馬鹿野郎!…すいません、失礼なことを言う妹で」
「はは…」
隣のお姉さん…日高トオコは苦笑いで答えるのが精一杯だった。
先ほどの言葉が何故とっさに口をついて出たのかトオコには解ら
なかった。隣に座る天真爛漫な少女の姿を、自らの双子の妹と
重ね合わせたのかもしれない。そして、双子の妹−トキコは、
今し方全身麻酔を受けるためにICUに入ったところだ、と
母から電話が有ったばかりだった。
「トオコが徹夜で漫画で頑張ったから、次は自分が手術で頑張る
番だ、って言ってたよ、トキコは」そう快活に話す母だったが、
その母も心の中で壮絶な戦いを繰り広げていたことをトオコは
知っていた。トキコの手術の事前説明を受けた後、家に帰り着く
なり涙をぼろぼろと流した母の姿をトオコは忘れられなかった。
トオコの知る限り、母が涙を流したことなど一度も無かった。
−手術の成功確率は50%。手術を受けなかった場合、もって半年−
それが、担当医から告げられた冷徹な事実だった。

『あのー、すいません。これ、いかがですか?』
「…え?あ、ありがと」
琴美から差し出されたお菓子をトオコは受け取った。箱には
”ポッキー高原牛乳ミルク味”と印刷されている。
『うちの地元限定のお菓子なんです、それ。お兄ちゃんが
買ってこいってうるさくって。両隣のサークルに新刊と一緒に
お菓子を配るのが俺の長年の夢だったんだ、って言うんですよ』
その人いったい今までどういうジャンルに居たんだ?とトオコは
首を傾げた。
『それにしても、お兄ちゃん全然お菓子配って無いじゃない…
まったく、口が悪いくせに肝心なとこでシャイなんだから』
「ところで、あなたもしかしてコミケは初めてなの?」
『あ、やっぱ解っちゃいます?』
「そりゃあ、朝からずっと凄い、凄いって言い続けてるから」
『だって本当に凄いんですよ!こんな沢山の人が集まってるのを
見たのは生まれて初めてなんです!』
琴美の言葉に熱がこもる。
『それに、ここに居る人たちってみんな漫画描いてるんですよね』
その言葉に、トオコはハッとする。同人誌即売会に参加している
のは、漫画を描いて本にまとめたものを売ったり買ったりしている
人間ばかりである。そんな当たり前のことが当たり前すぎて今まで
忘れてしまっていた。
『プロの漫画家の人も、お兄ちゃんみたいな普通の人も、ここでは
みんな同じ土俵で戦えるんだ、って思うとすっごいワクワクする!
やる気さえ有れば、あたしもコミケに参加できて、こんな一杯の人に
あたしの作品を見てもらうことだって出来るんだ、って!』
「そのコミケも、今回で終わっちゃうけどね」
『…そうなんですよね』
「あ、ごめん。そんなつもりで言ったんじゃなくて…」
トオコは少しきついことを言ってしまったと後悔した。目を輝かせて
コミケットの素晴らしさを語る琴美に対して、トオコはなぜか怒りを
感じていた。それは、コミケに長年参加し続けることで、コミケが
ただ素晴らしいだけの即売会ではなく、負の一面もまた持ち合わせて
いることを知ってしまったことの証明でも有った。


296 名前:219 投稿日:2000/08/31(木) 02:59
『でも、お兄ちゃん言ってました。コミケは今回で終わる。しかし、
俺達がいつまでも同人活動を続ける限り、漫画を描くことを諦めない
限り、いつかまたコミックマーケットは帰ってくる。帰ってこないの
なら、俺達がまた一からコミケをやり直せばいい、って』
「それって、”同人誌即売会禁止令”?」
『あ、それです。お兄ちゃんの一番好きな同人誌からの受け売りだ、
って言ってました』
トオコもその同人誌を知っていた。条例により同人誌即売会が禁止
された世界で、即売会とは何だったのか、何のために今まで同人を
続けてきたのか。そんなことを問い直す作品だった。

『…でも、お兄ちゃんも同人誌に人生賭けるのもいいけど、早く
お嫁さん貰ってきて欲しいんだけどなぁ。せめてチャトランが
生きてるうちにお嫁さんを紹介してあげたいんだけど』
「…チャトラン?」
『家で飼ってる猫なんです。お兄ちゃんが子猫の頃から可愛がっ
てて、今でもお兄ちゃん以外の人が触ると怒っちゃうんですよ』
子猫物語が公開されたのは15年近い昔の話だ。
『あたしが名付けたらしいんですけど、全然覚えてなくって。
お兄ちゃんは”俺様が苦心して考えた名前がパーになった”って
散々グチってた、ってお母さんから聞きました』
二人は、クスクスと笑いあった。
『あ、お姉ちゃん!お客さんお客さん!』
「あ、ありがと!…すみません、300円になります!」

東館での買い物を済ませた一般参加者が順調に西館に流れてきて
トオコのサークルも何人か人盛りが出来ていた。
話し相手を失った琴美は、手持ち無沙汰に頬杖を付いてぼぉっと
していた。
『ヒマだからお兄ちゃんにちょっかい掛けてみっか』
琴美は胸元のポケットから携帯電話を取り出し、正通に電話を
掛けてみた。
『ありゃ、全然繋がらないや。えい、えい』
何度掛け直そうと、電話は一向に繋がらなかった。


299 名前:にょ 投稿日:2000/08/31(木) 12:04
「こんなことなら冬にスペースを取っておくんだった!」
カタログを広げて次回開催予告欄に予期せぬ言葉を見つけて、
思わず涙目になってしまったのは、コミケに終わりがないと
根拠もなく信じ込んでいた、己の甘さを思い知ってのことだ
った。
友人との二人サークルは夏のコミケに初参加したばかり。
けれど相方には十数年続けた本命ジャンルがあり、そのジャ
ンルと自分の参加するジャンルの日にちが重なったために、
冬は諦めようと申し込みすらしなかったのだ。
「こんなかとなら。一人で売り子でも良かったら申し込んで
おくんだった」
その思いは大きくのしかかって、だからこそ相方を説き伏
せ、ほとんど自分の個人誌になってもいいから、新刊を出そ
うとがんばったのだ。
そして、その本が今手元にある。

最後のコミケだから、だから本を出したいと思うのは誰しも
思うことで、七海が頼まれた委託も一つや二つではない。

ピコばっかりだったけど、マイナーCPだったけど、でも、最
後だもの、どうにかディスプレイに工夫して並べてみよう

他のイベントでは振り向いてもらえなくとも、ここだけは
同好の士が見つかる。
「もう、こんなイベントはないかもしれないな」
ぽつりとつぶやいて、切なくなった気持ちを奮い立たせる
ように、準備しなくちゃ、と七海は小さなダンボールのひ
とつを開け始めた。


301 名前:サンデーライター 投稿日:2000/08/31(木) 14:14
2000/12/30 09:19 東京ビッグサイト ガレリア

いつものコミケと同じく、田村はガレリア2階の東端にいた。
クリップボードに留めた買い付けリストを見ながら、携帯電話で買付け部隊に指示を出している。
「そう、2と3の間の偽壁だ。そこに委託という情報があるから気を付けてくれ」
田村はリストの「指示済み」欄にチェックを入れると、缶コーヒーを一口含んだ。
さすがに最後のコミケットとあって、参加できないサークルの委託も多い。
すでに同人活動を止めた作家も、まだ活動を続けている仲間の本に参加したりしている。
こういう情報は様々なルートから流れてくるが、やはり当日確認しないと分からない。
今回はその数が今までに無く多い。
まだ確認できていない情報を洗い出していると、携帯が喧しくベルを鳴らした。
「はい。おう、村中か。何かあったか」
村中というのは、この前の拡大準備集会で知り合ったヤツだ。
自分と同じく同人誌古書店の店員で、やはり同じように買い付け部隊をまとめている。
≪いま西2にいるんだが、カッタが販停を喰らった≫
「なに、本当か?」
≪さっきみつみに挨拶してたら見本誌回収が来たんだ。そしたらかなりの数チェック入れられてたぜ≫
「そんなにスゲェ内容なのか?」
≪いや、大したこたぁ無い。いつもなら楽にOKが出る程度だ≫
「じゃぁ、なんで」
≪上からの指示で厳しくなった、とか言ってたけどな≫
「で、どのくらいかかる」
≪そうだな…、早くても昼じゃねぇかな。量もあるし≫
「じゃぁ予定を組みなおす必要があるな」
≪ま、せいぜい頑張ってくれや≫
「お前もな」と言って電話を切った途端、再びベルが鳴った。
「はい。…なに、ウロボロが販停? …あぁ分かった。じゃぁ見張りを1人残して他を先に廻ってくれ」
その後も、大手サークルを中心に販売停止になっているという連絡が相次いだ。
『なんでこうも販停が多いんだ? しかも殆どが大手。準備会は何を考えているんだ?』
曇ったガラスドアの向こうには灰色の海が見える。
雪はまだ降り続いているようだ。


307 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/01(金) 01:58
2000年12月28日 13:00 東京ビッグサイト西4ホール主催者事務室前

「……こうなってしまうと、案外、清々してしまいますね」
 スーツ姿のスタッフは、目の前に広がるリノリウムの床を眺めていた黒い戦
闘服に身を固めたスタッフへと歩み寄る。
「危機管理の賜物だ。狙われやすく、仕掛けた時の効果が高く、それでいて手
薄な場所……。そんなウィークポイントを切り捨てたに過ぎない。当然の判断
と言えば、当然の判断だろう」
 そう言いながら戦闘服姿のスタッフは、微動だにせず静まり返った西4ホー
ルを睨み付けるように眺めていた。
「……ま、これまでに蓄積されてきた『予備費』のほとんどを放出することに
よって、警備費の増額部分なんかをここで稼ぎ出す必要もなくなった訳ですか
ら……」
 軽く嘲りの匂いを漂わせる笑みをこぼすスーツ姿のスタッフ。
「……最後だから……こそか……」
 眼鏡の奥に隠されていた戦闘服姿のスタッフの鋭い目が、ふと懐かしみの色
合いを帯びる。
「そう。最後だからですよ。……あなたが願い、拡大し、収拾がつかなくなり
つつあったトラブルにいつも翻弄され、泣かされた参加者が心の片隅の何処か
で望み、それを是としなかった代表すら許さざるを得なくなっていた攻性の危
機管理部門……。旧混対創生期……いや、あの警備隊が反乱の狼煙を上げた次
の瞬間から、誰かが求め、それでいて否定し続けていた実力部隊……」
 スーツ姿のスタッフの目が、何かをいわんやばかりにスゥッと細まり、戦闘
服姿のスタッフの背中をとらえた。
「……この最後の最後でか? すべてが終わろうとしている、今際の際になっ
てか……?!」
 唸るようにこぼした戦闘服姿のスタッフの中から、彼が飼い慣らしている筈
の怒りが首を擡げ、周囲の空気を震わせる。
「……最後だから……いや、残すべきものを、受け継ぐべき者たちに、受け取
らせるために。無に帰させるのではなく、大きな後退、迂回の一歩とするため
に。この終わりを、本当の終わりとしないために……。そのために如何なる手
段を用いようとも、万難を排して、無事に閉会させる必要がある……」
 ふと、うつむき加減になるスーツ姿のスタッフ。そして、その顔には寂しげ
な笑みが浮かぶ。
「……だからか……。今はただ、やれることをやるしかない……。又、これを
着けてしまったからにはな……。例え、権力の走狗とののしられようともな」
 戦闘服姿のスタッフはそう呟くと、左腕に巻かれている腕章に手を沿えた。

 しかし、彼らの哀しいまでの思いは、決して叶えられることはなかった。

311 名前:稚拙ながら 投稿日:2000/09/01(金) 15:53
2000.12.29 pm1:34 とあるサークルスペース前

「最後のコミケットか」
五月はしみじみと思った。
18の夏にサークル参加するようになって5年になる。
その間とてもいろいろな事を学び、とてもいろいろな楽しみを知った。
とても充実した同人ライフだったと思う。

しかし、「それ」が現れるようになってからの2年は五月にとって苦痛だった。
「最後だって言うのにこの人は変わらないんだな」
五月は自分のスペースの前で意味不明の言語を発する物体をぼんやりと眺めていた。
うかつにも本の中で自分のサークルが、女性一人だということを書いてしまってから「それ」は現れるようになった。
スペースの前に立ちはだかり、自分の好きなアニメやゲームの事ばかりを早口でまくしたてる。
いくら苦情を言ったところで、彼の脳は理解することができないようだ。
2年の間にジャンルを変える事3回、サークル名を変える事4回、ペンネームを変える事2回…
それでも彼は五月の前に現れるのであった。
ついには先日、自宅にまで訪れてきた。
その時は警察を呼ぶと言って危機を免れたのだが、まさかそれでも懲りずにここに現れるとは思わなかった。

「¥7え9ヴぃ’裸で($+<&4エッチな^@:・」
理解不能な言葉と共にスケブが差し出された。
かろうじて聞き取れる単語から察するに裸の娘を描いて欲しいらしい。
私は彼にスケブは描かないという事をいったい何度伝えただろう?
呆れるのを通り越して疲れ果てた五月だったが、次の瞬間にふと気づいた。
「そっか…最後なんだし我慢しなくてもいいんだ」

五月は男の差し出されたスケブを受け取ると、にっこりと笑いながら
それを男の顔に叩き付けた。
「帰れ、厨房が」

329 名前:レスじゃなくてちゃんと返せや。 投稿日:2000/09/03(日) 19:00
 ビッグ・斎藤はそう掲示板に書き込んだ後にふう、と一つ息を吐いた。
 彼をさいなむのは切迫感だった。
 こいつらにとって、コミケとは即売会の中の一つにすぎない。そう、
ただ“最大の”という冠詞がつくだけの。
 自分にとってはそうではない。
 コミケはコミケでしかなく、他の何かではありえなかった。しかし、そ
の感覚を共有できる仲間は今どれぐらいいるのだろうか。
 コミケが終わるというのに、それをちゃかした書き込みを続ける馬鹿共
……彼らは分かっていない。コミケが終わるというのがどういうことか。
 いや、おかしいのは自分かもしれない。
 皆、コミケがなくとも生きていけるのだ。……それだけの、ことなのだ。
 しかし彼の指は休まない。
 画面の向こうに仲間を捜すために動きつづける。
「危機感なさすぎぃ〜」

333 名前:大恐慌…同人ショックとその後 投稿日:2000/09/04(月) 14:32
転売屋と中古同人誌販売店が核となり、生み出された取り引き市場は
その勢いをまし、かつてのバブル景気とも思える盛況ぶりであった。

しかし、バブル景気がそうであったようにこの市場も崩壊を迎える事となる。
転売屋達が御用達にしている某サークルは裏打ちがない人気に支えられ、
頒布規模を拡大していたが、その反面、実力が伴わないために質が急激に
落ちていた。

そして21世紀初めてのコミケでそれは起きる事となる。
いつものように鉛筆ラフ本を売っていた某サークルの中古市場の
売れ行きが突然止まったのだ。原因は本の内容だった。
もはや落書き帳と変わらぬ本に転売屋から本を買っていた
中古販売店やその客が買わなくなった。つまり見切りをつけたのだ
この動向にうろたえた某サークルの転売屋グループは、
ストックしていた某サークルの本を利益確定のための売りに出した。
これにより供給が過多となり、中古販売点だけではなく、
インターネット・オークションでも価格が暴落。
その動きは他のサークルの本に価格にも影響を及ぼし、同人バブルと
呼ばれた狂乱劇は終わる。

334 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/04(月) 15:37
2000/12/30 09:03 東京ビッグサイト 北1駐車場

9時を過ぎても、雪は止む気配を見せない。
さすがにテントはたたんだが、傘無しではあっという間に頭に雪が積もりそうだ。
一緒にいた森川はつい先程帰ってしまった。
「アラやん、今日はどうすんの? 何か買うの?」
「まぁ、オレはコミケに来ても買うモノ無いしねぇ。それよりこいつらをやりてぇな」
オレはそう言うと、昨晩受け取ったCD-Rの入ったカバンを指した。
ここにいる連中とはネットで知り合った。
顔を合わせるのは今回が初めてだが、ネット上と同じように互いのハンドルで親しげに会話をしているのは少し不思議かもしれない。
オレたちの共通の話題はゲーム、いわゆる「ギャルゲー」と呼ばれるヤツだ。
もっとも、1人でいくつも買う金は無いから、こうして知り合った連中で互いにコピーしている。
昨晩からいろいろな話題が出たが、結局は「あのゲームの○○が萌える」とか「××のHシーンはエロくて良い」といった所に戻ってくるのは、それだけゲームで遊んでいる証拠だろう。
本当なら大学受験で忙しいはずだが、今はそんなことはどうでもいい。
こうして同じ趣味の仲間と時間を過ごしているのがとても楽しい。
下らない話をしていると、いつのまにか9時半を過ぎていた。
「オレ、そろそろ帰るわ。じゃ、みんな頑張れよ」
「おう、ばっちり買い込んで、あとでアラやんに自慢してやらぁ」
はははと笑った後、北1駐車場を出てゆりかもめの有明駅へ向かった。
国際展示場正門駅は、やって来る連中でひどく混雑しているから、反対方向とはいえ乗るのは大変だ。
今までの経験からそういうことが分かっている。

改札口はがらんとしていて、全然人がいない。
いつもならここまで乗るのが数人はいるはずだが、今日は誰もいない。
面白いこともあるもんだと思いながらエスカレーターを上ると、待ち受けていたのは電車ではなく黒ずくめの男たちだった。
無気味に思って踵を返そうとしたが、そこにも同じように黒服の男がいた。
完全に囲まれている。正面の1人が低い声で言った。
「東京都生活安全局だ。君を深夜迷惑防止条例違反で補導する。中森明君。いや、『荒塩昆布』君と言った方が良いかな。」


342 名前:311 投稿日:2000/09/05(火) 01:40
2000.12.30 pm12:36 とあるサークルスペース内

男は怯えたような、泣きそうな顔をして走り去っていった。
目の前が一気に開けたようだ。
私はこんな事で何を悩んでいたんだろう?
ばからしい、本当につまらない事だった。

パチパチパチパチ。
隣のサークルの女性が拍手してくれている。
「やるじゃない」
綺麗な女性だ。五月は純粋にそう思った。
年齢は自分より上だろう。27,8ぐらいか。

「あ、すみません。お騒がせしてしまって」
「いいのよ、あーゆー輩にはあのくらいやらなきゃわかんないんだから」
女性は楽しそうに微笑んでいる。
「言葉が通じないなら行動で示さなきゃ」
「そうですね」
五月も微笑み返す。
「こんな事ならもっと早くこうしておけば良かった」
「でも、ここで騒ぎを起こしたりして次回のコミケ開催が危うくなったら嫌だ、と思って我慢してきたのよね」
五月は驚いた。なぜそこまでわかるんだろう。

「小紅あずさよ」
女性が右手を差し出す。五月も右手を差し出し握手する。
「あ、私は…」
「飛鳥五月さんよね」
「え、どうして」

「やっぱり覚えてないか。私は忘れた事はなかったんだけど」

「3年前の冬コミでもこうしてあなたのサークルの隣になったのよ」
あずさは鞄から1冊の同人誌を取り出した。表紙には”ニャンと!パラダイス”と題名が書かれている。
紛れも無く、3年前に五月がこのジャンルで出した最後の同人誌だ。
「あの時初めてあなたの本を読ませてもらってね。とっても感動した。
なんて言うか、作品に対する愛がすごく感じられた。
私はそれ以来ずっとこのジャンルで参加し続けているの。
今の私があるのもこの本のおかげ。この本は私の宝物よ」
「そうだったんですか…」
「最後のコミケットでまた五月さんの本が読めてうれしいわ」

五月は驚きを隠し得なかった。自分の描いた創作物によって、そこまで他人に影響を与えられるなんて。
それは懐かしい感覚でもあった。
同人誌を作り始めた頃、初めて作った同人誌、わずか30部のコピー本が完売したときの感動。
感想の手紙を貰って感涙していたあの頃…。
どうして忘れてしまっていたんだろう。
印刷はオフセになり、部数は300部に増えても、本を出す目的は変わらなかったはずなのに。
『たくさんの人に自分の作品を見てもらいたい』
当時の感情を思い出し、五月は僅かに目を閏わせた。
辛い事もあったけど、同人誌を作っていて良かった。
五月は今、心からそう思えた。

344 名前:三文文士@ちょいとしたメモ 投稿日:2000/09/05(火) 14:26
主題:終わるコミケット−同人誌市場黄昏の時代−
個人的副題:一人の男と、八つのホールと、そこに集ったすべての仲間の長い物語
1:物語の方向性としては、「なんとか無事に終わらせようとスタッフは試みた
が、その思いは報われなかった」という方向性を強く示唆している。
2:代表が終了を提案したことは既に描かれているものの、その引き金となった事
件ないし理由については、いまだ描かれていない。
3:天候は雪。気温はきわめて低い。徹夜組に対する何らかの対抗行動がとられた
可能性が高い。一般入場は雨導線。搬入はおそらく雨フォーメーション。
4:最期のコミケットにふさわしい最期の大事件は描かれていない。それが、32
3による可能性は高い。
5:後継イベント争いについても、いくつかが名乗りをあげていることは描写され
ているものの、いまだ物語は明確でない。

まだまだいくらでも描くことあるぞ、少しでも多くの表現を創ろうとし、それを求
める人々がいる限りコミケットは本質的には終わらない。ネバーエンディングスト
ーリーというか、ビューティフルドリーマーというかはともかくとして、ね。

345 名前:三文文士@儀典担当の物語 投稿日:2000/09/05(火) 14:26
シュンシュンシュン…。
ストーブに掛けられたやかんの沸騰する音がいつまでも響いている。
そんな夜。
コミケット準備会の中堅どころ2人がアパートで向き合って話をしている。
手にはなにやら指揮系統をあらわす線と責任者の名前が満載された紙。

「ふぅん、受付販売のお姉さま方は、まぁいつもどうりちんたら仕事するだろうか
ら、まぁ、どうでもいいとしてだ。ところで、何? この総本部儀典担当って」
「ああ、ううんと、つまり、今回、開会式をやるんだ」
「はぁ?? 寝言? どこでやったって、コミケット全体の人々がみえるわけでは
ないし、大体そういう儀式とか虚礼は準備会がもっとも嫌ってきたところじゃない
かよ。今更何を言っているの」
「しかし状況が変わったんだ」
「どう変わったというのよ」
「……。僕の一存で話すんだ。秘密は守ってもらうよ」
台所にたって、カルピスを作り、飲みながら話す。
「1週間前のことだが、宮内庁筋から打診があった。紀宮内親王殿下は、もともと
各国の映像文化に極めて強い興味をお持ちであり、その関係の研究も行われておら
れるところであるが、この度、日本の映像文化の発展に極めて強い影響を与えてき
たコミックマーケットが終わるに際して、今後の見聞を広めるため、コミックマー
ケットをご訪問されることを希望されておられる。公式な訪問とするかは、御準備
会の自由であるが、説明を行う人間はつけていただきたいと」
「………。で、冬だ1番エロ本祭りに来ちゃう訳?我らが愛すべき紀宮内親王殿下
は」
「別にエロ本ばかりがあるわけではない。サークルの全体比率からすれば」
「ふん、そんな一般参加者むけのおためごかしで誤魔化すなよ。市場占有率から考
えれば圧倒的な勢力さ」
「まぁ、それはどーでもいいとして、で、準備会も対応せざるをえなくなった。何
しろ、最後の祭りだ。華やかに狂えるのもいいだろうって話になったわけで」
「誰だ、星界なんかにはまっているのは」
「それもどーでもいいとして、だから、今回は9時45分から放送で開会式を行う。
外の電光掲示板とかは、それを映す。で、お言葉をたまわり、開場宣言をやってい
ただくことになった」
「よくベルさんが納得したよな」
「それもかなりどーでもいいとして、これは当日まで一応秘密だ。警備の都合上、
そうすることがどうしても必要になる。皇室からむだけで、まぁ、警備の手間が増
えること増えること。でも、その分、警察も部隊出してくれるからね。助かるとも
言えるわな」
「どーりで。儀典担当の配属者、これみんな、配置責任者ばっかだもんな。少女向
創作、FC少年、歴史…、ふんふん、さすがにギャルゲ―と男性向け創作はないか
な。あったら、それは世の中終りだろうしなぁ」
「それでかぁ、やっと話がわかったよ。今回やけにどこも姿勢が強硬なんだよ。徹
夜組対策は本気でやるって言っているし、大手サークルの扱いについても販売停止
辞さずとか言っているし」
「そうだ、すべては混乱を避けるために行われている一連の処置となる。どうせ、
最後だしな」
「で、お前はどうするの。一応大学助手で就職決まったんだろ? どこか、準備会
の後継狙っているとこ行くかい?」
「ううん、これから博士号請求論文で忙しくなるしな。それに俺は、コミケットの
理念を信じているし、代表に対する忠誠心もある。たとえ実情が理想と乖離してい
たとしても、それだけは変わらん。だから、多分、終わってしまったコミケット、
あるいは、代表が退かれた形での準備会にも参画はしない。つまり、俺にとっては
これが最後のコミケットというわけさ。一応、うちのサークルもひとりでやってい
る替え歌サークルだし、暖簾をおろすのは難しくないんだ」

三鷹の夜は静かにふけていった。

346 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/05(火) 15:02
>>344に追加
6:有無を言わさずに終了を決定付ける事件は準備会の一部(とそれに賛同するもの)
によって画策され、引き起こされるが、その結果は予想を大きく上回る。
7:準備会が徹夜組等に対し強行措置をとる以上、警察、消防、会場(都を含む)等に
それ相応の連絡はされており、これらは何らかの行動をとることが予想される。

40万人来れば40万通りの事件が起きる。周辺も加えればそれ以上だ。
しかし、それらは全てコミックマーケット59へと集約されるのだ。
これはアニパロのやっているサイドストーリーやファンフィクションと同じじゃないかね?

さて、少し仕事がヒマになったから書こうかな。

348 名前:Jr 投稿日:2000/09/05(火) 17:13
2000 12/21 14:22
東日本警備サービス 東京本社 第6会議室

「諸君らも知っての通り、29日、30日と、大きなイベントの警備がある。
 場所は有明の国際展示場だ。来場者数は数十万人に達すると聞いている。
 大変な仕事になるとは思うが、今年最後の仕事と思って頑張って欲しい。
 この後、班分けと現地での配置について説明を……。」
主任の声が響く。霧沢はいつになく真面目に、その話に耳を傾けていた。
(ははっ、大学の講義中にもこんなに真面目になった事はなかったよな……。)

霧沢のサークル今回は抽選落ち、当初は一般で参加するつもりだった。
欲しい本がある。挨拶したいサークルも。コスプレだって少しは見てみたい。
だが「今回が最期」という、ある意味強迫観念に近い物が霧沢の頭にあった。
「あんな事件で終わる事はあって欲しくないしな……」
脳裏に蘇るのはC58の悪夢だ。飛び交う罵声と怒号、暴走する人の群、
押し倒される机と散乱する本、そして、悲鳴と共に、人の波に飲まれていった少女――。
ともすれば崩壊しそうなサークルスペースの中から、あの事件の一部始終を見ていた。
そう、見ているだけだった。帰宅後、ネットの匿名掲示板で事件の状況を書き込んだり、
準備会に真相を発表するべきだとの抗議のメールを送ったりもした。
だが、あの瞬間には、あの現場では、霧沢は何もできなかったのだ。

「たかが1人増えた所で、状況が変わるとは思えないけどな。
 それでも、何の役にも立たないって事はないだろ……。」
相方も納得してくれた。高校の頃からずっと一緒にサークルをやってきた仲だ。
そしてあの現場にもいた。霧沢の考えていた事も全てお見通しなのだろう。
買い物や挨拶回りは相方に任せ、自分は警備会社のアルバイトとして
今回のコミケに参加する。残念ながらスタッフの募集には間に合わなかった。

準備会から送られた資料を片手に、主任が説明を続けている。
「……大野、牧野、立川。 以上の10名が、……うん?シャッター前?
 詳しくは知らないのだが、このシャッター前という所に配置される。
 あとは主催側、ええと、コミケット準備会か。そちらから説明があるはずだ。」
(俺は他の場所か……)
準備会から、シャッター前には精鋭を揃えてくれとでも依頼があったのだろうか?
今名前を呼ばれた人間の殆どが正社員、しかもかなりのベテラン達である。
(妥当っちゃ妥当だよな……俺みたいな新人アルバイトじゃあ……)
「……山口、加賀見、霧沢。 以上5名は東館の入り口だ。
 さて、少し休憩しようか。20分後に再開するからちょっと休んでてくれ。
 あ、それとバイトの……霧沢、取りに行きたい物があるんだ。すまんが一緒に来てくれんか。」

暖房の効いた会議室と違い、通路の空気は冷たかった。
無理もない。窓からは雪が見えていた。もうクリスマスも間近だ。
「あのー、さっきの振り分けの事なんすけど……。」
「ん? どうした?」
「シャッター前の人ってベテランの人ばっかすよね。
 やっぱ準備会からそういう連絡があったんすか?」
「ああ、私はこのイベントの事はよく知らんのだが、送られた資料には、
 シャッター前という所には出来るだけ経験の豊富な人間を、という注意書きがあってな。」
「やっぱり……。」
「霧沢、このコミケットとかいうイベントの事を知っているのか?」
「あ、はい。俺、割と前から参加してるんすよ。」
「そうか……。よし、じゃあ君もそのシャッター前に行ってくれるか?」
「え!?」
「イベントの事を知っている人間がいた方が、あちらさんもやりやすいだろう。
 事前のミーティングで色々と情報交換しなきゃならんワケだしな。
 入り口の方が1人減るが……渡を行かせよう。彼には私から伝えておくから。」


349 名前:とりあえず書いてみた1 投稿日:2000/09/05(火) 17:17
2000/12/25 13:00 東京都千代田区某所某ビル社長室

「雪か」
20世紀最後のクリスマスは雪だった
窓の外に映る電気街も今日ばかりは普段と違う幻想的な光景を作り出していた

「関東地方に記録的な豪雪の恐れ」
私はふと2〜3日前の新聞に書かれていた見出しを思い出した

「これは冬コミまで残るな。一般参加の連中も気の毒に」
そんなことを考えながらコーヒーを飲んでると、
内線電話が鳴りだし周囲の静寂をやぶった。

「私だ」
「木谷社長、全員揃いましたので会議室のほうへおこし下さい」
「ん、今行く」

電話は会議への参加を促す秘書からの電話であった。
私は残っているコーヒーを飲み干し、社長室を後にした


351 名前:とりあえず書いてみた2 投稿日:2000/09/05(火) 17:26
2000/12/25 13:05 東京都千代田区某所某ビル会議室

会議室に到着すると既に十人程の重役が歓談交じりで会議を始めていた
「あっ、社長!!お待ちしておりました」
副社長の大島が私の存在に真っ先に気付き挨拶を交わし、
ほかの社員もそれに追随した。

その後、会議は何の滞りもなく続き、最後に大島から締めの言葉を
言うよう求められた。

352 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/05(火) 17:46
2000/09/02 22:14 宮城県宮城郡松島町

今年の夏休み、高校生になって最初の夏休み、私は初めてコミックマーケットに行った。
すごかった。とにかく何もかもがすごかった。
東京へ行くのも初めてだったけど、そこは仙台をでっかくしたような感じだった。
中学生の時から同人誌のイベントに行っているけど、コミケットはそれをでっかくしただけじゃなかった。
一緒に言った友達の京子も同じようだった。

とにかく人がすごかった。
「由美ちゃんはぽへ〜っとしてるから、人込みに流されちゃうね」
なんて京子のお姉さんに言われてちょっと怒ったけど、流されるどころか翻弄されてしまったし。
それと本もすごかった。
仙台のイベントには時々京子と行くけど、面白そうだなーって思うのがあんまり無いんだよね。
自分も漫画描いているのにこういう事言うのもなんだけど、中身が無いというか何と言うか。
ひいき目に見ても私の方が上手いわよって感じの便箋とかばっかりで。
でもコミケットは、見た目だけじゃなく中身もすごい本が沢山あって。
そうそう、私がとても気に入った本があったんだけど、住所を見たらなんと隣町!
地元のイベントには出ないの?って聞いたら、地元じゃ本を買ってく人が少ないから出てないんだって。
なんかちょっと残念。

それで、次の参加申込をしたんだ。
だってこんなにすごいイベント、自分も参加しなくちゃ損じゃない。
申込締切前にバイトのお給料も入ったしね。
それと、もう本のタイトルは決まってるの。
「雪の降る夜に」
私と京子の2人の本。テーマはタイトルのとおり「雪の降る夜」。
実は去年の冬から考えている話があるんだ。あとは漫画にするだけ。
あ、その前に少し話を練り直した方がいいかもね。
京子は…何だっけ、テレビでやってるジャンプの漫画っていうは分かるんだけど、それがいいって言ってた。
でも2人とも「雑誌に投稿しようか」なんて言って創作を描いているんだから創作でしょう、ってことになった。
余裕があれば、京子のお姉さんにいろいろ聞いてオフセットで出したいな。
だってコミケット初参加の記念だしね。
印刷費と旅費を稼ぐためにバイト頑張らなきゃ。
でもそうすると漫画描く時間がなくなるぅ〜。


353 名前:とりあえず書いてみた3 投稿日:2000/09/05(火) 17:59
2000/12/25 15:35 東京都千代田区某所某ビル会議室 木谷演説

皆も知っているように我々は三年前即売会事業から撤退し、
後事をコミケット準備会を託さざるを得なかった
確かに当時のわが社の資本力では無謀な事業であったかもしれない
だが、この事は今まで順調に成長してきたわが社にとっては
重大な汚点であった。

だが、我々に最大のチャンスが巡ってきた。
コミケット準備会の解散である
これは今までコミケが握っていた同人シェアを大きく掌握する
最初で最後のチャンスである。
必ずやこの作戦を成功させなければならない
各員の奮起を期待する、以上!!

演説を終え私はちょっとした疲労感と脱力感を覚えた。


357 名前:Jr (348の続き) 投稿日:2000/09/05(火) 19:31
「解りました……。」
「うむ。よろしく頼むよ。なんせこのコミケットというイベントの
 警備は初めてで、解らない事も多いんだ。実際に参加していた人間が
 いてくれるとなると、非常に助かる。……おっと、ここだ。」
高島主任が足を止めたのは、本社ビルB3Fの片隅にある特別資材室の前。
普段は全くと言っていいほど人の出入りが無い場所だ。
高島は一枚のカードキーを取り出し、スロットに差し込む。
さらに10桁の暗証番号と自らの社員IDを入力し、扉を開く。
「随分と厳重なんすね……何が置いてあるんすか?」
「見れば解るさ。ほれ、これだ。一式全部、第6会議室まで持っていってくれ。
 休憩が終わったら、コイツの使い方を説明しようと思ってな。」
「……!!」
霧沢が目にしたのは、TVニュースで見るような機動隊の装備一式。
特徴的なジュラルミンの盾、ヘルメット、ブーツ、etc……。
「驚くのも無理はないと思うが……私の勘なのだよ。
 どんなイベントかは知らないが、仕事の依頼に来た人間の表情や言葉、仕草……。
 何かに追いつめられた人間のそれだった。普通の仕事じゃない様な気がしてね。
 まあ、あれだ、使う機会がなければそれに越した事はないが、一応な。」
あの惨事を直に目にしたせいだろうか? 驚きはあっても、疑問はなかった。
(確かに……このくらい必要なのかもな。)
「それじゃあ頼む。結構重いから気を付けてな。」
「はい。あの、主任は……?」
「…………まだ、持っていく物がある。先に行っててくれ。」
高島の表情が不意に厳しい物になる。だが霧沢がそれに気が付く事はなかった。

霧沢が出ていった後、高島は特別資材室の一番奥、更にもう一つ鍵のかかったドアを開けた。
「これが納品されてから何年になるかな……たかが会場警備で使う物ではないが、
 念には念をだ。そう、使う機会がなければ、それに越した事はない……。」
先ほどの言葉をもう一度呟きながら、1つの箱を手にする。
そこには”特殊電磁警棒 取り扱い注意”という記載があった……。

359 名前:Jr 投稿日:2000/09/05(火) 20:56
登場人物の簡単なまとめ。

飯野健一 >>28 徹夜組。
日野一朗 >>29 一般参加者?
内周辺境伯、腕章夫人 >>105-107>>125-127 スタッフ。
飲料部支配人 >>105-107>>125-127 バー「トップオブ有明」バーテンダー。
桜井、井上 >>118>>142>>148 都バス運転手
>>208-210>>212の「桜木」は別の人物?(サンデーライター氏の補足きぼん)

谷川進 >>120-121 統合警備保障特別警備隊、隊長。
佐々木 >>120-121 統合警備保障特別警備隊、副隊長。
由美子、奈津実 >>129 サークル参加者。
巫女>>140>>279 コミケを影で支えてきた。超能力者?
上田 >>169 某AMラジオ局レポーター。
相沢和宏 >>170-172 サークル「世界庭園」の主宰。結構大手?
園場 >>173 徹夜組?
園場かぎり >>173 園場の妹。ダミーサークルチケット入場者。
日高トオコ >>194-195>>295-296 サークル参加者
日高トキコ >>195 日高トオコの妹。入院中で手術間近。
井上隆明 >>212 都バス運転手井上の息子で、スタッフ。
吉村正通 >>219-220>>294-296 サークル参加者。ジャンルは魔法少女アニメ。
吉村琴美 >>219-220>>294-296 吉村正通の妹。コミケは初めて。高校一年。萌え。(*´Д`)

360 名前:Jr 投稿日:2000/09/05(火) 20:56
伊藤カスミ >>224 サークル参加者。
久美 >>234 サークル落選?
草堂京一 >>239-242 元サークル参加者。現在はオタク狩りグループの一員。
橋本 >>245 共同購入グループのリーダー。
楠見 >>245 橋本のグループの一員。
田村 >>255>>301 同人誌専門古書店の店員。
黒沢、早瀬、館長 >>270 みつみ美里にハメられたスタッフ。(笑)
M田、T本、S根 >>292 スタッフ。
七海 >>299 サークル参加者。
村中 >>301 同人誌古書店の店員。田村とは知り合い。
飛鳥五月 >>311>>342 サークル参加者。ストーカー気質の男をスケブで殴った人。
森川 >>334 徹夜組。朝9時に帰宅してしまう。
中森明 >>334 森川の知り合いで徹夜組。HNは「荒塩昆布」。帰宅途中に補導される。
小紅あずさ >>342 飛鳥五月の隣のスペースの女性。五月のファン。
霧沢 >>348>>357 サークル落選。警備会社のバイト。
高島 >>348>>357 霧沢の上司で警備会社の主任。
木谷 >>349>>351>>353 某社の社長。コミケの後釜狙い?
大島 >>349>>351 某社の副社長。
由美、京子 >>352 コミケ初参加のサークル参加者。高校一年。

間違いがあったら指摘して下さい。あとフルネームとか設定の追加も歓迎。
そのうち表にまとめられればいいなぁ……。

363 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/06(水) 00:43
>>208-210>>212の「桜木」は別の人物?(サンデーライター氏の補足きぼん)
同一です。

364 名前:名無しさん@私も琴美萌え 投稿日:2000/09/06(水) 01:10
すこし気が早いかもしれませんが、ちょっと気になったので。

もし、同一の事件に関して複数の「矛盾した出来事」が書かれた場合は
どうしましょう?
特に「30日13時の事件」において起こる可能性が高くなると推測しています。

個人的には、それぞれの出来事を「パラレルワールドの一つ」と捉えて楽しむのも
いいかなと思ってるんですが、その場合、後に続く話が「どの出来事の続きなのか」を
明記する必要があるでしょうね。

皆さんはどうお考えですか?

365 名前:311 投稿日:2000/09/06(水) 01:56
すごいよJrさん。お疲れさまです。
琴美ちゃん萌え〜。
ちょっとだけ出演させてもいいですか?


> もし、同一の事件に関して複数の「矛盾した出来事」が書かれた場合は
> どうしましょう?

「30日13時」に何が起こるかなんてちっとも考えていないけど、
他の人とリンクできたら面白いな、なんて考えてます。
可能だったら、出来れば同期をとって書いていこうかなと私は思っています。
多少矛盾点が出来ても気にしない、で欲しいな。(^^;

370 名前:現役レイヤーだけど、仲間にいれてよう(^^; 投稿日:2000/09/06(水) 02:38
2000年9月24日 横浜駅西口 ジャッキーズキッチン横浜店

「・・・で、RAGEさんは?」
テーブルの向かい側に座った、眼鏡の男が聞いた。口の周りにあんこを
たくさんつけた、可愛らしい、いや、年齢を考えればバカみたいな顔だ。
「へ?」
RAGEと呼ばれた男は、素っ頓狂な声を上げた。
周りの人間が訝しげな目でRAGEを見る。
「だから・・・次でコミケ終わりだって話ですよ。」
「あ、ああ・・・そうだったな・・・」
RAGEは自分のゴマダンゴの皿を自分の元に引き寄せてから答えた。
「別に、問題無いんじゃないか? 俺達レイヤーにとっては。
 確かにコミケは最大の「場」だ。だが、それにこだわることもないだろう。」
「まあ・・・俺達はダンパメインですからね・・・」
「なにも 問題は ない。」
RAGEが眼鏡の男ーIAS−の目を見ながら言った。
その目は、友を見る目ではなかった。

「規制の大きいコミケだが、今回で最後だ。我々が本気の「表現活動」を
 するとどうなるか、見せてやってもいいのではないか?IAS。」
「そうでふね。もぐもぐ。」

RAGEは自分の皿を見た。自分の分のダンゴは既に無かった。


372 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/06(水) 03:17
2000年11月11日 都内某所にて録音されたテープ

 カチッ、ザー……
「強力な執行能力を持つ危機管理のための新部署だと?! この期に及んで、
いや、差し迫ったこの時期に何を言い出す?!」
「大体、他部署の活動範囲に強力に介入し、あらゆる危機的事態の早期収拾を
図ることを目的とすると言っても、各部署ともに59へ向けての体制構築が進
んでいるんだぞ。これから調整を取ると言っても、そんな時間も余裕もないこ
とくらい、いくらなんでもわかっていることだろう?」
「恥を知れ、恥をっ! この統制論者っ! 表現の自由の守り手たらんと、我
々がこれまで築きあげてきたものを、貴様らは最後の最後でぶち壊しにするつ
もりか!!」
「……あなた方は、この59を『本当の最後』にするおつもりですか……?」
「……何だと?」
「代表は今回の件を休止・休息と位置付けています。確かに、大きな後退とな
り、企業系即売会によるシェア獲得競争と、現場の参加者の需要にこたえるオ
ンリー系中小規模即売会の乱立。そして、会場や周辺産業を巻き込んでの動乱
期へと雪崩れ込んでいくことになるでしょう。しかし、それを経てでもコミケ
ットは復活せねばならない。……違いますか……?」
 静寂。
「……建前や事後予測はいい。下手をすれば本当にこれが最後になりかねない。
雑誌で言うところの休刊状態にもなりかねない。そんな状況下で、参加者に対
する押さえつけを強化するメリットがどこに存在する?」
「そうだ。ここでコミケットを強権を持って萎縮させてしまっては、再び芽吹
くことが困難になるとは思わないのか?」

373 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/06(水) 03:19
「では、敢えて問いましょう。今のコミケットが現体制の手に負える状態でし
ょうか? 場の継続維持だけに目を向け、問題の先送りと身内庇いを続け、追
認に追認を重ねた結果が、腫瘍で膨れ上がったような今のコミケを生み出した
のではないのですか? 今、ここでメスを入れなければ、眠りの中で腫瘍に呑
まれ、緩慢な死を迎える結果を招きかねないと言うことを、何故、お認めにな
らないのですか?」
 再び静寂。
「しかし、それでは問題を切り捨てるだけ切り捨て、後へと繋ごうともしなか
ったあの連中と同じレベルに落ちてしまう。……私は、私にはそれが耐えられ
ない……」
「よく言われる。時には先鞭を打ち、時には追従するように同様の規制を導入
し、それに対する批判を受け止めもせず、それを外部に、そう、あなたの言う
あの連中に肩代わりさせてきた……。いや、よしましょう。今はこんなことを
言っている時じゃありませんしね」
「だけど、押さえつけが芽を手折るかもしれないと言うのには一理あると思う
けど、その辺はどうなの?」
「手折る必要のある芽とて存在します。大きく育ちすぎ、枝が幹にとっての重
しとなったコミケットに、剪定の時期が訪れただけだと私は考えます」
「しかし、その批判は誰が受け止める? その代償は? コミケットが再始動
した時、それは新しい火種になりかねないのではないか?」
「一緒に剪定……切り捨てればいいのですよ」
 暫しのざわめき。
「切り捨てるだと?」

374 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/06(水) 03:21
「そうです。復活の時、非難されるべき部署は存在しない。準備会はその反省
から『再びあのようなことがなきよう、あり方を改める』とすればいいのです。
かつて、アドミニストレーターを切り捨てた時の一面のように。今まで辿って
きた道を、少しだけ早足で辿ってみせるだけとでも言いましょうか? もっと
も、あのようなことと称されることになるであろう事態が、どのような事態に
なるかは皆目見当もつきませんが、少なくともこれまで以上の危機がコミケッ
トに訪れるであろうことは……皆さんとて、薄々お気づきになっているはずで
す」
「……あえて汚れ役を引き受けると言うんだな?」
 ドスの利いた声が響く。
「そうです。無論、それを引き受けることを是とするスタッフ……そして、元
スタッフやベテラン民兵が多少なりとも居、そして、この計画への参加を承諾
してくれています。彼らはこれまでの問題とともに、これまでのコミケットに
殉じる覚悟を持って結集しています。放っておいても彼らはやるでしょう。現
状で進んでいる外部の計画を盾に取るなり、利用するなり、それに乗じるなり
して」
 再びざわめき。
「お前たちはクーデターでも起こすつもりか?!」
「民衆……いや、サークルや一般参加者による暴動よりは数倍マシでしょうし、
もっとも、今回の新設部署は現準備会に反旗を翻すものではありません。それ
はスタッフ腕章を戴く者としての最後の一線でもあります。それに……準備会
なくしてコミケットは成り立たない。その状況が崩壊して困るのは……ここに
ご列席の皆さんではないのでは……? 最後、最後と悲壮感を募らせていても、
同人界の何処かでそれなりの地位と権威、はたまた権力を持って君臨し、同人
界のエスタブリシュメントたらんとするお歴々。青春の、いや、人生の貴重な
時間のほとんどをあそこに費やし、心から尊敬され、敬愛されるべき表現と仲
間のために殉じられた皆様方……。ちがいますか?」
 ……長い沈黙。


375 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/06(水) 03:25
「もし……もし、やるとしてだ……、一体、どうやって……」
 年老いた男の声。
「ここにおわす皆々様方の黙認と協力。そして、ちょっとばかりの演技力があ
れば、事足ります。東1ホール主催者事務室に集っておられる皆様方は決して
お飾りではないのでしょう? あの瞬間から、鎮守の森の長老集会は終わって
いるはずですから」
「……では、具体的に中身を説明してもらおうか」
「かつて廃案となった有事・犯罪対処のための即応部隊たる公共安全担当構想。
そして、それに次いで登場した危機管理幕僚機関……いや、コミケットと言う
体制の公安組織たる総本部別室。それらを基盤とし、代表命にて設けられる攻
性の危機管理・危機対処部門。準備会が再び保有することとなる体制暴力装置。
そして、外部から声高らかに求められるスタッフ内部に対する自浄のための機
関。それがこの総本部安全管理室計画の骨子です。皆さんはすべてが終わり、
時代が評価を下したときに日和ってくだされば、それで結構です。……それで
はご決断を……」
 ガチャ! キューッ、キュルル
「……ありがとうございます。どうか、我ら死すべき運命の者たちに。全ての
参加者の前衛たらんとする我らにご理解とご協力を賜れますよう……」
 椅子が引かれ、人々が立ち上がる音

 ちっぽけなカセットテープは、血塗られた選択へと駒を進められる瞬間をこ
のように記録していた。


376 名前:狂狼 投稿日:2000/09/06(水) 03:29
Dec.29 00’ 0920

「以上で設営の説明を終わります〜 それでは…」
いつも通りの設営部の事前説明を聞き、要点だけをメモする。
上端 一樹(かみはし かずき)が欠かさず行っていた作業だ
だが、この作業も今回が最後…
いつもどおりのいつもの時間にいつもの場所であつまって設営をする
ふと一樹の頭の中で今までの事が走馬灯の様に流れていく
「いろいろあったよなぁ」
「え?何が?」
横で不思議そうな顔をして聞き返したのは一樹の戦友(敢えてこう書かせてもらおう)の
横尾 寿一(よこお ひさいち)。
長年前設から開催、撤収まで一緒にやってきた文字通りの「戦友」だ
「何でもないよ、独り言」
苦笑と共に一樹が答え、無意識にポケットから皺くちゃのゴロワーズを取出し口に咥え様とした
「おい、もう移動だぜ?いいのかよ」
えらく呑気だな、といった表情で寿一が咎める
「一本くらい飲ませてくれ、すぐ行くから」
「早く来いよ」
ああ、と答えながら一樹は年季が入ったジッポでゴロワーズに火をつけ盛大に紫煙を吐き出した
「これで最後なんだよな」
その言葉は最後の一本だったゴロワーズなのかこのオタクの祭典の事なのかは解らなかった。


377 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。 投稿日:2000/09/06(水) 05:24
都知事遺死原はつぶやいた。
「9月の三軍による災害対策はこの日のための予行演習だったのだ」
事態はすでにコミックマーケットに関わる者だけの問題ではなくなって
いたのである。


378 名前:三文文士@スタッフたちの愛唱歌 投稿日:2000/09/06(水) 10:43
本を買いたい♪

大きな鞄抱え カタログ手に持って 荒れ狂う人に揉まれ 今すぐ本を買いたい
天国じゃなくても 楽園じゃなくても 本に出会えた幸せ 感じて本を買いたい

何一つ良いことなかった このコミケ 外周で大声 張り上げ切れる
本部に帰っても 気力は戻らない カタログチェックも無駄に とても本は買えない

何一つ良いことなかった このコミケ 沈み行く夕陽に 涙あふれる
スタッフたることを 不幸にも感じる かっこ悪くたって良い 本を本を買いたい

天国じゃなくても 楽園じゃなくても 本に出会えた幸せ 感じて本を買いたい
天国じゃなくても 楽園じゃなくても コミケ来た幸せ 感じて本を買いたい
本を本を買いたい

379 名前:三文文士@あと言い訳 投稿日:2000/09/06(水) 10:48
えっと、前回出したSSを撤回します。
ストーリーの整合性上、あれでは都合が悪いので、都合のよい形にした
修正版を近いうちに出させていただきます。

まぁ、未熟者のやることと思ってくださいまし。

381 名前:三文文士 投稿日:2000/09/06(水) 11:35
となると、準備会は、今まで溜め込んできた内部留保を一気に吐き出し、コミケット
59を参加者に対する強烈な教訓とするために、内部に攻撃的な対抗手段をとる準備
をした(警備会社をまきこんだ形での)部隊を編制するわけね。

で、それが血塗られた惨劇を巻き起こすのかな。
スタッフ内の内部抗争と、それにまつわる悲喜劇もからむだろうから、これからの
展開はそういった形になっていくわけか。

まぁ、想像力さえあれば、なんとでも話は作れるし、つなげることも変えることも
解釈することもできるから、別にいいんじゃないかな。マルチエンディングでもい
いと思うよ。僕は制約が多いほど燃えるねぇ。

あと、他の即売会業者ないし団体はどう動くんだろう。
正直、コミケットの「休止」は、赤BBとか、スタジオUにとっては、かなりの大
問題となると思うんだよね。だって、全体市場規模の縮小につながることは確実に
なるからさ。

382 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/06(水) 14:14
2000/09/14 [SOUND ONLY]

「…(聞き取り不能)はどのようにお考えですか」
「あいつらの理念や理想は立派だよ。でも、それを知らないバカが多すぎるんじゃないのか」
「晴海でやっていた時は、周辺からの苦情が多かったのは事実ですし」
「だいたい人が集まりすぎるんだよ。3日間で江東区の人口と同じだけが集まるんだから」
「それだけいれば、多少の不心得者がいてもおかしくないと?」
「いや多いよ、多すぎる。だいたい江東区の住人が3,000人も徹夜するか? それも屋外で」
「この年末が最後のようですから、手を打つならこの機会しかありませんね」
「ああいった…(ノイズ)…達を一気に処分できるチャンスはそうそう無いからな」
「ではどのように」
「さっきも言ったけど、三軍、じゃなくて…(ノイズ)…を出せないかな」
「ご自身で要請すればそれは可能ですが」
「だからどういう理由で出すかだよ」
「会場では年明けに出初式がありますから、それの準備ということではいかがでしょう。しかしそれでも数に限りがあります」
「日付は分かってるんだから、すぐに出られるよう連絡を入れておけ。有明のコロシアムが空いているんだったら、そこに待機させてもいい。何だったら習志野の…(ノイズ)…でも使え」
「分かりました。ではそのように計画を立案しましょう」
「すると、出動要請は『治安維持活動』あたりだな」
「そうですね。死者が出ないようにしないといけませんから」
「あと、くれぐれも建物を壊さないように。維持費だけでも相当な金がかかるからな。それと…(以後聞き取り不能)」


383 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。 投稿日:2000/09/06(水) 15:51
琴美ちゃん萌えage
作家の皆様方、ご苦労様です。これからの各話の展開期待してますです。

この話纏めて、(マルチEDでバッドED、グッドED、トゥルーED(?)あり)
同人ヴィジュアルノベルとか作ったら面白そうですよね。
もちろん題名は「終わるコミケット」。。。(妄想スマソ

385 名前:サンデーライター@全ての参加者へ贈る歌 投稿日:2000/09/06(水) 17:26
(HEY! HEY! HEY!)

Welcome to this crazy place! このイカレたコミケへようこそ
君は Tough Boy (Tough Boy Tough Boy Tough Boy)

まともなヤツほど feel so bad! 正気でいられるなんて運がいいぜ YOU!
Tough Boy (Tough Boy Tough Boy Tough Boy)

時はまさに世紀末 澱んだ会場で僕らは出会った

Keep you buying 駆け抜けて この腐敗と自由と煩悩の真っ只中
No boy, No cry 悲しみは 絶望じゃなくて明日もコミケット

You are living. Livin' in the ninties.
We still fight! Fightin' in the Doujin'.

(HEY! HEY! HEY!)

何処もかしこも人だらけ うずくまって泣いてても始まらないから
Tough Boy (Tough Boy Tough Boy Tough Boy)

どっちを向いても feel so sad! だけど死には至らない気分はどうだい
Tough Boy (Tough Boy Tough Boy Tough Boy)

ここは東京ビッグサイト カタログ握り締め僕らは出会った

Keep you buying 駆け抜けて この狂気と希望と幻滅の真っ只中
No boy, No cry 並ばなきゃ 人数を増した行列の中へ

You are living. Livin' in the ninties.
We still fight! Fightin' in the Doujin'.

386 名前:219@歌で良ければこんなのも 投稿日:2000/09/06(水) 17:39
エロの中の天地
ショタの中の勇太
みんな何処へ行った 見送られることもなく
エヴァ系の評論
Cレヴォの女性客
みんな何処へ行った 見守られることもなく
島中にあるサークルを 誰も覚えていない
人は壁ばかり見てる
岩○よ高い地位から教えてよ 島中の星を
岩○よ島中の星は 今何処にいるのだろう

崖の上のシュラト
水底のトルーパー
みんな何処へ行った 見守られることもなく
名立たるものを追って 並ぶものを追って
人はカスばかり掴む
岩○よ高い地位から教えてよ 島中の星を
岩○よ島中の星は 今何処にいるのだろう


393 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 03:35
2000年11月13日 23:33 首都高速11号台場線芝浦JCT付近

「実務5回以上。準備会内での経歴調査・事前の部署責任者級による面接あり。
開催までに120時間以上の合宿を含む部署集会あり。欠席は認めるが、携わる
作業を限定し、場合によっては開催前にスタッフ登録を抹消する。この条件で
よくもあれだけの人数が集まりましたね」
 運転席でハンドルを握る男……長谷川宗佑は、後席で書類の束に目を通して
いる男……穂波英彦へと声をかけた。
「半分程度は……権力バカだ。強権の甘い匂いに誘われて、ホイホイと寄って
きたような連中だ。……それならそれで使い道はあるし、ある種、こうなるこ
とも予想済みだった……」
 穂波はそう言いながら手にしていた書類を仕分け始める。
「でも、穂波さんは安管には来ないんでしょ?」
「最初は案を提出した俺が、安管の総統括にと言う話もあった。しかし、俺よ
りも適任がいたんで、そちらにお願いすることにした」
 仕分け終わった書類を幾つかの封筒に納め、アタッシュケースへと収める新
城。
「それが……笹倉さんだった訳ですか……」
 長谷川のその問いに、穂波は言葉を返さない。ただ、流れ行く車窓の外へと
目を運ぶ。
「極めて苛烈な言動。威圧感と言う打撃力をもつ容赦なき対応。豊富な情報。
そして、危機管理に対する素養。確かにうってつけと言えばうってつけですが、
よく戻ってくる気になったもんですね」
「……復讐……なのかもな……」
 穂波は口の中に漏れ出たその言葉を、ゆっくりと咀嚼するように呑み込んだ。

394 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 03:36
「何か?」
「いや、笹さんにとっては、リターンマッチなんだろう。もっとも、それ以外
の色々な……そう、色々な思いもあって引き受けてくれたんだろうけどな」
 取り繕うように笑みを浮かべる穂波。
 やがて2人を乗せた車はレインボーブリッジへと差し掛かる。
「……しかし、まだ、足りない……」
 そう言い放った穂波は、まるで仮面を取り払うように険しい顔付きへと変貌
する。その手には、何かを待つように握りしめられる携帯電話。
「痛烈なまでの一撃。そして、その光景の記憶こそがすべてを変える。膿を絞
り出すための切り口を開け、膨れ上がった腫瘍をさらす。西の一件は、その扉
をあけるノック……いや、狼煙としては最高の部類だったと言えるかもしれな
い……」
 そんな穂波の脳裏には、開いたシャッターから溢れ出し、膨れ上がる人波が
ちらつく。
「厳しく叱り、嫌われることを嫌った連中が結局、足元を見られた。ならば、
再び厳しく叱る父親役が登場しなければならない。……なぜなら、そこに叱ら
れるべき者がいるからだ。それが家長たるコミケット準備会に求められている
ことだと俺は考える」
 ピリリリリ、ピリリリリ
 静寂に包まれようとしていた狭い車内に、携帯電話の呼出音が鳴り響いた。
「穂波です……はい……はい……決定ですね…………ええ、わかっています。
まだ、公開時期ではない……。了解です。ではいずれ、あちらからお話が来る
と思っても……はい、わかっております。それでは、又、何かありましたら、
よろしくお願いいたします」
 深く溜息をつきながら電話を切る穂波。
「……どうしたんですか……?」
 溜息の音に振り返ることなく、運転席の長谷川が穂波に問い掛けた。

395 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 03:37
「おそれ多くも紀宮内親王殿下がコミケット59に御行幸あそばれることにな
った」
 いきなりふらつく車体。
「……しっかりしてくれ。まだ、それに、こんな所で死にたくはないぞ」
「ま、マジすか? 何処からそんなネタが?」
「宮内庁職員。旧華族。神社本庁と縁の深い者。右翼の活動家。それなりの筋
の公務員。左よりなコミケットだって周りを突っつけば、意外とこんな類も出
てくる。とりあえずはコミケットを憂い、皇族方に並ならぬ親愛と忠義の情を
持つそんな筋からのリーク……と言うことにしておこうか」
 一瞬、そう言った穂波の口元に笑みが浮かんだようにも見える。
 一息おき、電話を手に取る穂波。
「穂波です。例の件、確定です。……。はい、そうです。おそらく、規模拡大
の強い要請があると思います。……。ええ、そうです。とりあえず、翌朝一番
で統合警備保障の首都圏営業本部の石田さんと言う方と、東日本警備サービス
東京本社営業部営業第2課の高岩課長に連絡してください。恐らく、リクエス
ト以上の答えがもらえるはずです。……やだなぁ、ちょっとコネがあったと言
うか、繋ぎが取れただけですって。……。はい、では」
 電話を切り、懐へと戻す穂波。
「……穂波さん、ちょっとだけ聞いていいですか?」
「なんだ?」
「大体、話の流から、どう言う状況になっているかは読めます。ただ、なんで
その2社を……? いや、単純な興味からなんですが……」
 長谷川は腫れ物でも触るような口調で、穂波へと問い掛けた。
「……両方とも略すとトーケイになるからさ……」
「は?」

396 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 03:39
「それは冗談としても、統合警備保障は警察OBや自衛隊OBを多々抱えこん
でいる、そっち方面にも強い会社だ。東日本警備サービスは、今でこそ垢抜け
た社名だが、88年までは東日本管財警備保障と言って、60年代から70年代にか
けて成田空港の応援警備にも参加した筋金入りの警備屋だ。無論、ここにも警
察OBだの自衛隊OBだのの正社員がうようよしている。それに……統合警備
は『凶悪化する犯罪や深刻化する災害にも対抗しうるサービスを』をスローガ
ンに、高度警備システムの構築を進めている。事実、ここだけの話だが、幾度
となく統合警備の関係者がコミケットスタッフや東貿クリエイティブ警備部の
職員としてコミケットに参加し、高度警備体制の参考と実習の場としている。
対して東日本警備サービスは、いまだに成田警備時代の装備・資機材を保有し、
何時でも運用できる体制を維持している……。そして、今回は2社のそれらを
引っぱり出すに値し、向こうもそれを呑まざるを得ない状況に発展している…
…と、言う訳だ……」
 淡々とそう答えた穂波は、冷ややかな笑みを満面に貼りつけて見せた。
「……事態はそこまで悪化しているんですか……?」
「イエスともノーとも言い難いな。ただ、既に始まっている。それだけは言え
る。……無論、わかっているとは思うが、他言無用だ。いいな?」
「……別室管理事案……ですか……。どうして、どうして穂波さんは、安管で
はなく、別室を選んだんです? あなたは、誰よりも笹さんの横にいたかった
筈だ。一緒に現場を……いや、最前線を駆けたかったはずでしょう?」
 長谷川は思わず振り返った。
「……盾と矛だ。どちらが欠けても駄目なんだ。だから、俺は……」
 そう答えた穂波は、まるで何かから目を逸らすように、窓の外に見えてきた
東京ビッグサイトを見つめているだけだった。

397 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 03:58
えー、とりあえず、ここに参加されている諸氏のネタを勝手にひっぱらせてい
ただいております(汗)。

妄想(1)、妄想(2)を書き込まれた方の両書き込みから新部署ネタを。
ネギピロ氏からは統合警備保障の設定を。
三文文士氏からは緊急アピールと紀宮殿下来場ネタを。
Jr氏からは東日本警備サービスの設定を。

他、意識せずとも流し込んでいたり、意図的に明らかにはしてはいないものの
ネタに組み込んでいる事柄もあります。
それらネタを拝借した方々をはじめとする先達の皆さま、そして、このスレッ
ドを立ててくださった方に、心より感謝し、その末席に加われたことを光栄に
思います。
あと……長ったらしくて、くどい私の書き込みを耐えながらも読んでくださっ
ている方にも、心よりの感謝とお詫びを。

それでは、又、次の書き込みにて……。

#ああ、もちろん、私も琴美ちゃん萌えっす。

398 名前:ラスト 投稿日:2000/09/07(木) 05:15
 〜 2000年 9月某日 都内某オタクショップ バックヤード 〜

「これが最後なら、全てを賭けたいです。」

作業の手を止めて、東 真寛(PN.かかしのまひろ)はそう言った。
「まひろん、バイト辞めんの?」
「いや…ホンマバイト辞めてでも描きたいですよ… エビさんは?
出してはるんでしょ?今回。」
「一応申込みはしたけどねぇ…。」
同人誌をビニール袋に詰めながら俺… 岡崎 悦司(PN.エビ天)は
そう答えた。

同人誌…コイツに心奪われてもう何年になるだろう。
最初に見た同人誌は地元のツレが通販で買ったエロパロだったなぁ…
高校最後の冬に初めて小さな即売会に行って…
代アニの時にはサークル作ってコピー本出したっけ…
アニメーターになるため上京したけど挫折して…
バイトしながら同人描いて…初めてコミケにサークル参加したのが…
「もう4年も前か…」そりゃ25にもなるわ。
「は?何がですか?」
「いや、で、まひろん何本出すの?」
「オリジナルですよ。一度本気でオリジナルやりたかったんで。」
「オリジナルかぁ…売れなさそうだねぇ…」

『そんなん、関係ないっスよ…!』

外の売り場に響くほどの大きな声だった。
「…社員…いないよなぁ…」
「すんません。でも本当そんなん関係無いんですよ。」

399 名前:名無しさん@お腹すいた。 投稿日:2000/09/07(木) 05:22
2000年12月14日 千葉県某市
「本当に間に合うとは思いませんでしたね…
10月時点でまだ題材すら決まっていなかったのに…」
それまでペンを走らせていたセミロングの髪をした女性が手を止めて
古ぼけた背の低い机…いや食事用と思わしきテーブルの対岸側にいる男に話しかけた。
激務となったが故かそれとも元々病気持ちなのかわからないが
顔色は青白く生気を欠いたその姿はまるで明日をも知れぬ重病人を思わせるほど
酷い有様だった。
なまじ歳も若く器量が良いほうに思われるが故に尚更目立つ。
「細谷さん…すいませんでしたね、いくらあなたのCGにいれこんでいたとは言えいきなり同人経験も無いのに共同誌作成を依頼しちゃって…まさかあっさり了解貰えるとは思わなかったけど…でもほんとに助かりましたよ。」
対面側に座っていた男が申し訳なさそうに返事をかえす。
こちらも大分疲弊はしているものの精々が疲れているだけ…
という感じで細谷ほど体調の悪さは見せていない。
「でも…これが最初で最後の参加機会だし…多少の無理は大丈夫。
この機を逃したら無理も何も参加機会を永遠に失うかもしれないから…」

400 名前:名無しさん@お腹すいた。 投稿日:2000/09/07(木) 05:23
そう言って,ふらふらと立ちあがり
「それより,早く入稿しないと…さぁ田島さんいきましょ」
と、原稿を終えた達成感を味わう暇もなく印刷所に行こうとする。
田島はそんな細谷の様子を苦笑いしつつも始めての…そして最後のコミケ参戦に
全力で当たろうとする細谷をある種微笑ましくも思った。
「少しぐらい休んだほうが良いとおもいますよ,明後日までにあげれば確実にあげてくれるって話なんだからさ。本当に大丈夫なのかい?」
どうしても気になるのが細谷の体調である。
元より彼女には自分と違っていて同人の経験自体皆無であるが、
そうであるにもかかわらず,最初の同人経験がいきなりコミケ用の品である。
彼女は体が弱い上に,ここまでの激務で体はボロボロの状況にあり
しかも本番までのには様々な準備などもあり
体を休められるような時間がほとんど存在しない。
「…なぁ…何でそんなにコミケに参加することにこだわったんだ?
イベント参加したことが無いわけだし何の愛着も無いんだろ?もっと日程的にも楽なものに参加したほうが良かったんじゃないのか?」
彼女と共同誌の製作を依頼した際の条件となったのがどう言う形であってもだが,
コミケでの出展だった。


401 名前:名無しさん@お腹すいた。 投稿日:2000/09/07(木) 05:24
幸い抽選に受かりサークルとして乗り込む事が出来たが…
「……そうね…確かに私はコミケと言うものに関しては本やネットでしか分からないし、
直接的な思い入れは無いけど………だけど…精神的な思い入れがあるから…
私はたとえこの一度きりであっても参加しなくちゃいけない…」
その精神的な思い入れというものがどういうものであるか…
それは分からない。
ただ,寂しそうにどこかを見つめる彼女を見て
聴いてはいけない彼女の葛藤や苦しみが含まれているような気がした。
……しかし,本当はこのときに聞いておくべきだったのかもしれない。
彼女の胸のつかえを取り除いてあげるべきだったのかもしれない。
すべては,遅きに失する事になるのである。

402 名前:ラスト 投稿日:2000/09/07(木) 05:55
俺も昔はそう思ってたよ。でも実際、売れないよりは売れた方がいいし、
なによりそのほうが楽しい。
開場2時間誰も寄り付かなかった時なんてマジ帰りたくなったもんなぁ…
ガガガ本が完売した時、無茶苦茶嬉しかったなぁ…
その後流行りのアニメとかゲームの本だして200〜300捌けるようになったけど
なにかこう情熱みたいのが無くなってきて…
去年は知り合いのマンガ家の栗田先生の本でチョロっと描いただけだもんな…
で、今はここでヒトサマの新刊をビニールに詰めている訳だ。

「商品、か…」
「全くですよ、同人をこんな…」
「まひろん、それ以上言うな。俺達はそれで金もらってんだろ?」
「………。で、エビさんは?何本出すんですか?またらぶヒナですか?」
「いや、あれは依頼で言われて描いただけで、実際思い入れゼロだって。」
「じゃあ?」
「天地。」
「マジすか!?今天地ですか!?」
「ん〜、なんか最近のアニメとかゲームハマれなくてさあ。最初に本出した
天地に戻ってみよーかなーなんて…」
「…それでいいんですよ、きっと。」

この最後の冬に天地でいこうと思ったのは単に時流に乗り遅れたのでは無く
無意識の内に終わりを感じていたのかもしれない。
俺自身の同人生活の終わりを。
本当に同人が好きだったあのころの思いを蘇らせ、全力で本を作る事によって
俺はケリをつける。この、コミケ最後の冬に。

「でもその前にサンクリの原稿やらねば〜」
「ガッデム!!」

404 名前:名無しさん@腹痛 投稿日:2000/09/07(木) 11:08
不意に結びついたので、駄文を。

>>
つまりはコミケットの構造は、俺が造りたかった世界に近いのかもしれない。

扇動者に群がる群集、選択範囲の支配、ある種の流言、カリスマの存在、
常に付きまとう譲歩誘導、繰り返されるパニック、歪められた系列位置効果、
情報化、錯覚、同調、覚醒、プロパガンダ、大衆操作。

大衆操作?

躓きは地獄への入り口。
操作されるのは誰だ。操作するのは誰だ。
スタッフか?開催者か?サークル参加者か?一般参加者か?
誰だ、誰なんだ。何処にあるんだ、dictator−独裁者は。

「くっくっくっく…分かったよ。だから俺がいるんだな」
居場所が分からないフリをする、俺が。
>>


405 名前:イベント放浪者 投稿日:2000/09/07(木) 11:26
−プロローグ−

「まさかこんなに早く事を起こす事になるとはな・・・」
 とある歓楽街に近い雑居ビルにある貸し会議室で、中規模オールジャンル同人誌
即売会を主催する原剛は、まるで独り言のようにつぶやいた。
 原剛の前には、今日の会議のために集まった中小規模の同人誌即売会主催者十数
人が、先日発表された米沢代表のコミケット終了宣言についての論議を交わしてい
た。
 この会議、いやこの「同人誌即売会連合(仮)」は、元々お互いのイベントの日
程調整や情報交換を目的に行われてきた会ではあるが、いつの頃からか大手同人誌
即売会への対抗意識を持つようになり、コミケット58で正式告知された「即売会の
即売会」のそのあまりの内容を受けて、大手即売会に対する批判が益々エスカレー
トするようになっていた。
「だから言わんこっちゃない!大体、準備会の腐った体制でこれまでコミケットを
維持出来たきたこと自体が不思議なんだ」
 一際声を荒立て、美少女系オンリー同人誌即売会を主催する木田仁が立ち上がる。
「こうなったら我々の計画を前倒しにしてでも行うべきでしょう!違いますか原さん」
 その言葉を受けて発言しようとした原を遮り、会の進行役を買って出た中規模コ
スプレダンパ主催者の大島知行が、木田に対して一瞥を送る。
「事態が急変していることは重々承知しているが、準備不足のまま強引に事を進め
ようとしても結果は目に見えてるぞ。それは木田君だって良くわかっているだろう。
それに君は、今でこそコミケット準備会の体制批判をしているが、以前はその準備
会の中に身を置き、それなりの評価をしていたじゃないか」
「その話を今ここで出すのは止めてもらえませんか大島さん。過去は過去、今は今
です。大体、例の計画を実行に移すのにこれほどのチャンスがありますか、やるな
ら今です!」
木田の勢いはエスカレートする一方だ。
「原さん、やはり皆の決を取るのが一番手っ取り早いんじゃないかな」
たまりかねたように、会の中ではベテランの域に入るゲーム系オンリー即売会主催
者の御木本博美が提案し、原もようやく決意を固めた。


411 名前:Jr 投稿日:2000/09/07(木) 15:27
2000 12/23 9:42
東日本警備サービス 東京本社 1Fロビー

(来ないなぁ……。)
待ち合わせは9:30のハズだ。立川は決して時間にルーズな人間ではない。
(一度連絡した方がいいのかな?)
そう思っていた所に、タイミング良く携帯の呼び出し音が鳴る。
昨日登録したばかりの番号から――立川の携帯からだった。
「もしもし、霧沢? 立川だけど。今そっちに向かってるんだけど、この雪で……。
 あと15分くらいかかりそうなんだ。悪いけどもうちょっと待っててくれよ。」
「わかりましたぁ。」
「すまんね。じゃ、後で。」
電話を切って、外の風景に目をやる。一面の銀世界、とはいかないまでも、
結構な量の雪が降り積もっていた。確かに都会のドライバーでは時間もかかるだろう。
(明日はクリスマスイヴか。彼女の1人でもいればホワイトクリスマスとかいって
 過ごせたのかなぁ……。ま、今年はどっちにしろ忙しくて無理だよな。)

高島の判断でシャッター前部隊に入る事が決まった翌日、
霧沢は特別ミーティングに呼ばれた。部隊の責任者である立川の携帯の番号を
教えて貰ったのもその場での事だ。冬コミまでのほぼ毎日、このミーティングと
外部との打ち合わせに時間を割くことになるらしい。まさしく”臨戦態勢”だった。
霧沢以外のベテラン達は「昔を思い出すよ。」などと言っていたが……。

413 名前:Jr 投稿日:2000/09/07(木) 15:28
「おはよう。いやぁ、待たせちゃって悪かったね。」
「あっ、立川さん、おはようございます。」
「じゃ、行こうか。第3会議室だ。」
通路を歩きながら、立川が話し始める。
「ウチの会議は午後からだけどね、その前に来て貰ったのは、
 コミケット準備会と統合警備保障との打ち合わせがあるからなんだ。
 昨日の会議で霧沢が今回のイベントの事に詳しいって聞いてさ、
 オレには解らない事もあるだろうし、居て貰った方がいいと思って。」
「そ、そーなんすか。まあ、俺で役に立てるなら……。」
口ではそう答えながらも、霧沢は驚きの表情を隠せない。
原因は立川の口から何気なく出た、その会社名。
統合警備保障といえば、東日本警備サービスと並ぶこの業界の大手、いわば競争相手だ。
「はは、『何で統警が?』って顔だな。ま、無理もない。
 オレだって最初にその話を聞いたときは驚いたさ。けど……。」
「なんすか?」
「一昨日、高島さんから説明受けたろ?アレの使い方をさ。要するに最悪の事態に
 備えてるって事だ。しかも当日まで会議、会議、また会議……。
 どういう仕事なのか、ある程度の想像はつく。とすれば、統警との協力体制も
 まあ納得できない物でもない。あそこもウチと同じ、叩き上げの警備屋だからな。」
「なるほど。」
「打ち合わせは10:00からだから、すぐに――。ん、もう来てるか?」
第3会議室の中から話し声が聞こえてきた。既に人が居るようだ。

414 名前:Jr 投稿日:2000/09/07(木) 15:30
「遅くなってしまって申し訳ありません。東日本警備サービスの立川誠です。」
「統合警備保障の谷川進です。よろしく。」
「コミケット準備会の穂波英彦と申します。……そちらは?」
「ああ、霧沢と言いまして、ウチのアルバイトです。
 新人ですが、今回のイベントを知っているという事で連れてきたんですよ。
 ウチはその、コミケットの警備は初めてで、解らない事も多いので。」
「霧沢です。よろしくお願いします。」
「コミケを知っているという事は、参加経験が?」
「あ、はい。5年ほど前からサークルで……。」
「そうか。……これから、スタッフや警備の方の配置を始めとした、
 運営に関する極めて重要な情報も当然ながら話し合う。
 君にも知り合いのサークルや一般参加者が多くいるだろうが、
 決して彼らにその情報が漏れる事の無い様にお願いするよ。」
「あ、はい、それは承知しています……。」
「うむ。それではこの資料を渡しておこう。当日の…………。」

霧沢と穂波が話している間、立川はある事を思いだしていた。
(谷川進……。特機隊時代の話を高島さんから聞いた事がある。
 確か今は統警の新しいセクションで部隊を立ち上げたと……。
 あの谷川が出てくるとは、あちらさんも本腰入れて動いてるってわけか。
 高島さんの勘、どうやら当たりそうだな……)
見れば、谷川が窓の外を眺めている。立川もつられて目をやる。
雪は、まだ降り続いていた―――。

415 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/07(木) 15:33
2000/12/28 16:21 東京ビッグサイト 西4ホール

オレンジ色の光の帯がホールの奥まで伸びている。
冬の日没は冷たい空気のせいか、他の季節より綺麗だと思う。
川島麻衣子は先程から消防施設の点検をしている。
この夏に初めてスタッフというものを経験した。
確かに大変だが、それはそれで楽しいものだと思った。
一緒に点検をしている島根靖弘は、コミケがビッグサイトに移った時からスタッフだという。
今年は就職活動があるので来る予定は無かったが、最後というのでまたスタッフをしている。

ホール内の点検を終え、屋上展示場へと出た。
昨夜まで降っていた雪も止み、風も弱く、陽があたれば暖かい。
今は雪で覆われているこの屋上も、明朝には除雪され、代わりに人で埋め尽くされるのだろう。
点検を終え、海側の手摺に手を置いて夕日を眺める。
町並みに沈んでいく夕日というのは、その赤みと相俟って一種独特の雰囲気を作り出していた。
「麻衣子さん、夕日は好き?」
不意に島根が尋ねてきた。
「私は好きですよ。だってこんなに綺麗じゃないですか」
「…そう」
「靖弘さんは嫌いなんですか、夕日」
麻衣子の答えに、靖弘は何か確かめるように頷いてから言った。
「嫌いじゃないさ。でもコミケの前は嫌いだ。明日の朝日が見られるか分からないし」
「何言ってるんですか。朝になれば日は昇りますよ」
「それは…、それは君が幸せだからだよ。
 スタッフをやっていると、俺にだってコミケがどんなに大変か分かるんだ」
靖弘は近くのベンチの雪を払うと、そこに座って話を続けた。
「前に徹夜組対策をやったことがあってね。
 日が落ちる頃からどんどん増えてきて、それが夜中になっても止まらないんだ。
 暗い中で蠢く人の群れ。勝手気ままでちっとも言うことを聞かない。
 『明日の朝日を無事に見ることができるのかな』って考えたさ。
 スタッフを始めた頃だったから、どうすればいいのか分からなかったし。
 その時に思ったんだ。人間逆立ちしたって、神様にはなれないんだなってね。」

424 名前:あるサークルの情景(1) 投稿日:2000/09/07(木) 17:26
頭が痛い。原因は分かっている、寝不足だからだ。
なのに、目の前にいる彼女はどうしても私を眠らせてくれない。
「・・・・だからさ、50万円な訳よ。それで、将来が買えるなら安いと思わない?」
書き下ろしだけで60ページ、昔の原稿の書き直しやらなにやらが山程。
総ページ数200ページの同人誌を生み出すのは並大抵の事では無かった。
覚悟はしていたつもりだが、随分甘かった。
「さっきも言ったけどさ、ばれる心配はぜーんぜん無い訳よ。相手はプロなわけだし、
アタシの魅力でがっちり捕まえるから、問題は無いわけ。」
印刷所の締め切りを2日も破って入稿して、ふらつきながら帰ってきて、布団に潜り込
んだのが、今日の夕方の6時。今は夜の11時、まだ5時間しか眠っていない。
「だからね・・・・・って、和美!あんた聞いてるの!?」
私が疲れ切っている事位、考えればわかるでしょう?
なんで、酒臭い息を吐く人間に文句を言われなきゃならないんだろう?
「あ、うん。聞いてる。御免、頭がまだ回ってなくて・・・・・。」
「ちょっと、しっかりしてよ。私達の未来がかかっているのよ!?」
なにを大袈裟な。
「いい?ちゃんと聞いててよ??今日、友達と飲みに行ったらさ、初めて行ったバーで
さ、ちょっとソレモノっぽい男の人とお知り合いになったのよ。でね、あたし達のサー
クルの苦境について話したらさ、いわゆるプロの人を紹介してくれるっていうのよ!
わかる?プロよ、プロ。本物の暴力のプロよ。ゴルゴ13みたいなヤツ!!」
え・・・・・?
「そんな人を雇って・・・・・何するの?」
「決まってるじゃないの!あたし達を妨害するサークル”Zig”の連中に制裁を食ら
わせるのよ。天誅って言う方があってるかしらね!!」
「・・・・・。こ、殺すとか、怪我をさせるっていうの?」
「馬鹿ねえ。あたしだってそこまで鬼じゃないわよ。大体あんな連中、殺す価値も無い
わ。頼むのは最後のコミケに本が届かないようにしてもらうだけよ。印刷所の機械をい
じってもらうなり、本を運ぶ車に細工をするなりね。」
それが意味する事を本当にわかってるんだろうか?


425 名前:サンデーライター@ちょっと長い 投稿日:2000/09/07(木) 17:27
当日までの東京の天気(3時間毎)はこんなもんでしょうか。

12/23 Sat.
00:00-03:00【くもり のち 雪】
03:00-06:00【雪・大雪注意報】
06:00-09:00【雪・大雪注意報】
09:00-12:00【雪・大雪注意報】
12:00-15:00【雪】
15:00-18:00【くもり 時々 雪】
18:00-21:00【くもり 時々 雪】
21:00-24:00【雪】
●大雪で鉄道や道路は大混乱。

12/24 Sun.
00:00-03:00【雪 のち くもり】
03:00-06:00【くもり】
06:00-09:00【晴れ】
09:00-12:00【晴れ】
12:00-15:00【晴れ】
15:00-18:00【晴れ のち くもり】
18:00-21:00【くもり のち 雨】
21:00-24:00【雨 のち 雪】
●雨は夜更け過ぎに雪へと変わるだろう〜♪で夕方から雨。

12/25 Mon.
00:00-03:00【雪】
03:00-06:00【雪】
06:00-09:00【雪 時々 くもり】
09:00-12:00【雪 時々 くもり】
12:00-15:00【雪】
15:00-18:00【雪】
18:00-21:00【雪】
21:00-24:00【くもり】
●一転して1日中雪。鉄道は23日の教訓で間引き運転も。

12/26 Tue.
00:00-03:00【くもり のち 雪】
03:00-06:00【雪】
06:00-09:00【雪 時々 くもり】
09:00-12:00【雪 時々 くもり】
12:00-15:00【雪 時々 くもり】
15:00-18:00【くもり 時々 雪】
18:00-21:00【くもり のち 雪】
21:00-24:00【雪】
●雪も小康状態。鉄道は通常ダイヤに。

12/27 Wed.
00:00-03:00【雪】
03:00-06:00【くもり】
06:00-09:00【くもり】
09:00-12:00【くもり】
12:00-15:00【くもり】
15:00-18:00【くもり】
18:00-21:00【くもり のち 雪】
21:00-24:00【雪 時々 くもり】
●最初の寒波が退いて、日中はくもり。

12/28 Thu.(設営日)
00:00-03:00【雪 時々 くもり】
03:00-06:00【くもり のち 晴れ】
06:00-09:00【晴れ】
09:00-12:00【晴れ】
12:00-15:00【晴れ】
15:00-18:00【晴れ】
18:00-21:00【晴れ 時々 くもり】
21:00-24:00【くもり のち 雪】
●久しぶりに東京の冬らしい晴れ間がのぞく。

12/29 Fri.(1日目)
00:00-03:00【雪】
03:00-06:00【雪】
06:00-09:00【雪 時々 くもり】
09:00-12:00【くもり】
12:00-15:00【くもり】
15:00-18:00【くもり】
18:00-21:00【くもり のち 雪】
21:00-24:00【雪・大雪注意報・低温注意報】
●日付が変わる頃から雪。日中はやや回復。

12/30 Sat.(2日目)
00:00-03:00【雪・大雪注意報・低温注意報】
03:00-06:00【雪・大雪注意報・低温注意報】
06:00-09:00【雪・大雪警報・低温注意報】
09:00-12:00【雪・大雪警報・低温注意報】
12:00-
●強烈な寒波が襲来して記録的な大雪の恐れ。

この時期に東京でこれだけ雪が降り続くというのは珍しい。
やはりラストコミケだから?

426 名前:あるサークルの情景(2) 投稿日:2000/09/07(木) 17:28
「あたしが仕入れた情報に因れば、向うもうちと同じく分厚い総集編+書き下ろしを作
って、コミケ後に名前を残せるように企んでるらしいわ。まったく、どこまでウチの真
似をすれば済むんだか!!とにかく、このジャンルで不動のトップを確保しておく為に
はやつらには消えてもらわなきゃならない訳よ。」
「いくらなんでもそんな・・・・。」
相手のサークルはうちのライバルと言ってもいい。うちのサークルは2年前くらいから
本格的に大手の仲間入りをしたのだが、向うも同時期に大手と呼ばれる様になった。
一年前にジャンルを移動した時も、示し合わせたように同じジャンルに移ってきた。今
は、カップリングが逆という事もあって、京子は蛇蝎の如く嫌っている。
あたしだって、あんまり好きではない。
「Onlyの主催の件もあるし、今ここで風下に立ったら2度と勝てないわよ!?
あんた、それでもいいの!?」
でも、コミケなのに。これが最後のコミケなのに。
「でも、最後のコミケなのよ!?あたし、そんな卑怯な事できない!!」
「何、馬鹿を言ってんのよ!最後だから、やるんじゃないの!!それとも、あんた3年
前のアレをもう一回繰り返すつもり!?」
あ・・・・・・・。
「あの時のコトをもう忘れたわけ!?」
思考が止まる。記憶がフラッシュバックする。
3年前のコミケ。ちょっと売れてきて、いい気になって知り合いに煽られるままに大増
刷をかけた。それまでの既刊も軒並み再版した。
でも、結果は惨敗だった。
ジャンルの衰退と重なったのもあった。天狗になって絵が荒れていたのかもしれない。
新刊は半分も売れなかった。既刊も殆ど出なかった。後に残ったのは、莫大な在庫と借
金と親の怒りと他のサークルの嘲りだけ。
仲間は・・・・・仲間だと思っていた人達は次々と離れていった。
それが一番つらかった。
あの時、京子が居なければ、あたしは首を吊る以外に無かったかもしれない。


427 名前:あるサークルの情景(3) 投稿日:2000/09/07(木) 17:59
「ねえ、和美。」
京子が小さくなって震え出した私をやさしく抱きしめる。
「和美がいい子だっていうのは、よーく判ってるわ。でもね、世の中には何をやっても
勝たなけりゃならない、何をしても許されるって事があるわけよ。で、あたし達にとっ
ては今がその時なわけ。」
「・・・・・・うん。」
恐ろしい事にあの悪夢はサークルを続ける限り、常に起りうるのだ。
私がどれだけ頑張っても、それを上回るサークルが現れれば。
たったそれだけの事で。
「大した事じゃない無いのよ。向こうにしたって、最後のコミケで売る事が出来ないっ
ていうだけで、通販で売るとか他の即売会に出すとか、幾らでも印刷代を取り返す事は
できるんだから。ただ、ほんのちょーーっと、あたし達が有利になるように物事を変え
てもらうだけなわけよ。」
「・・・・・・うん。」 別に誰も困らないんならば。
「50万円出せば、誰も困らせないであたし達が幸せになれるわけ、わかる?」
「・・・・・・うん。京子の言う通りだと思う・・・・・・。」
誰も困らないんなら、あたしが幸せになってもいいじゃない。
「ハイ」 京子が手を出した。
あたしはノロノロと机の引き出しから、先日入金された原稿料の入った茶封筒を取り出
して、彼女の掌の上に載せた。確か、70万円位は残っている筈だ。
京子は封筒の中身を確認し、ニタリと笑った。
その瞬間、私は背筋に冷たいものが走るのを感じた。
私は今、取り返しのつかない事をしようとしているのではないだろうか。
「ちょっと、多いけど必要経費として使わせて貰うわね。後は私に任せて頂戴。和美は
何も心配しなくていいわ。いざとなったら、あたしが自分の体を使ってでも相手を繋ぎ
止めるから!」
「うん、御免ね。面倒な事させちゃって。」
「任せなさいって。和美はいい同人誌を創ってくれればいいのよ。後の面倒はあたしが
全部引き受けるから。」
「うん。全部、京子に任せるから。お願い。」
まかしといて、大丈夫だからと言いながら京子は出ていった。


428 名前:あるサークルの情景(4) 投稿日:2000/09/07(木) 18:08
彼女が部屋から出ていった後、マンションの正面で聞きなれた車のエンジン音が微かに
聞こえた。
京子はその足で交渉に行ったのだろうか?
布団の上に座り込んだまま、私はぼんやりと考え続けた。
70万円。今の私にとっても、決して小さな金額ではない。
でも、それだけであの時のような思いをしなくて済むのなら安いものだ。
あの・・・・・砂を噛むような惨めさを味わう事に比べたら。
「誰も困らないんだから。京子がそう言ったんだから。私が悪い訳じゃないんだから。」
そう呟いて、布団に潜り込みながら、私はその日、自分の中で何かが決定的に変わって
しまった事を感じていた。





後日、コミケが本当に色んな意味で”終わった”時、私は京子からの誘惑に負けてしま
った事を一生後悔し続ける事になる。


429 名前:名無しさん@腹痛 投稿日:2000/09/07(木) 18:28
「最後のコミケだからってお盛んだね。
なくなったって、アンタがひらひらした下らない服を着て、下らない男に媚び売れるところは
幾らでもあるじゃない」
「うるさいわねっ、コミケはちがうわ!
あなたみたいに、真っ昼間からそんな格好で出歩く人間に言われたくないわね!」
長い髪を揺らし、金切り声を上げて指差した先には、この季節だというのに黒いスーツを着こみ、
黒髪を重力では考えられない方向に、それでもごく自然に流した姿がたたずんでいた。
一瞥しただけでは分からない、それでも低い声は女のもの。
その指された方は、動じるでもなく鼻で笑いさえした。
「へえ…『ちがう』って、言わないんだ?」
上げて真っ向から見返すのは、片方が黒の十字で縁取られた、金色の瞳。
かっと胸の奥が熱くなる。こんな姿で平然と歩き回る目の前の人間に?
それとも、閉ざされた世界でしか着飾れない自分に?
手を振り上げていることに気づかなかった。
「取り巻き」という名の「友人たち」が制止する声も遠い。
すべてがスローに進む世界ってこんなものだと、妙に冷静に思った。
「…下らないけど、今回は手を組もうか」
「えっ…」
振り下ろしたはずの手は、革手袋をきっちりとはめた手に掴み取られていた。
「どうせ終わるんだ、でもそれを黙ってやり過ごすのも腹が立つね」
酷薄な笑みを浮かべる顔は、男とちがって整いすぎていて、逆に見とれる。
「アンタだって、そうだろ」

>>407 (本人)
…とかどうでしょう。思いつき思いつき。女の確執は怖いのだ。
まだ何も時系列整理しきってないもんで、本当に書くか不明にしておいて下さい(涙)。
しかし、この場面がヲカダヤとか油沢屋とか金貨堂とかだったりしたら爆笑。
一般の方にエライ迷惑だ。
特に、自分はビジュコスなもんで、平気で出かける方です…反省。

これでエンディングが屋上庭園(コス広場)だったら、ウ◎ナちっくで素敵。
あそこって、上っていく階段が決闘広場みたいだーとか思って、
シチュエーション的に萌え。

ダメじゃん…しょせんビジュ人間だから、シチュエーションに弱すぎ。

431 名前:イベント放浪者 投稿日:2000/09/07(木) 18:58
過去の出来事

 事の顛末は約6年前に遡る。
 当時、原はある小さなオンリー系即売会を立ち上げるため、それまでに経験した
いくつかのイベントで一緒になった仲間達に声をかけ、スタッフ集めと準備に追わ
れる日々を過ごしていた。
 その過程であるひとつの壁に突き当たり、原は自分の友人でありコミケット準備
会の古参スタッフでもある水島啓二に相談を持ちかけたことがある。
「なぁ水島、最近オンリー系の同人誌即売会を立ち上げる主催者も多くなってきた
だろう。これだけ毎週のようにイベントが重なるようになってくると、やっぱりイ
ベント同士での日程調整や情報交換の役割を果たす集まりみたいなものが必要にな
ってくると思うんだが」
「そうだな、確かに最近イベントの数が増えてるし、そういった集まりも必要かもな」
「例えばの話だが、そういった集まりをコミケットとして呼びかけるわけには行か
ないのかな」
「ああ〜、そりゃ無理だろ」
「なぜそう言い切るんだ」
「まぁ、米沢代表の本音までは知らんが、コミケット準備会としてはこれ以上余分
な事を抱え込みたくないという大前提があるわけだ。なにせ、開催規模は毎年膨ら
む一方だし、色々な問題が起こり過ぎて人手が足らないのが実状だからな。それに
な原、主だった大手の同人誌即売会は、メインのスタッフや主催者が重複していた
りして、それなりに情報交換が出来ているから今更そんなことをやる必要性がない
わけよ」
「つまり、大手同人誌即売会同士の連携が取れているから、中小規模の同人誌即売
会までは知ったこっちゃないってことか」
「有体に言えばそうなるな。なにせ、日程面では大手同人誌即売会がその日にやる
と決めたら、それに敢えてぶつけたりしてまでやろうとういう中小同人誌即売会の
主催者はまずいないだろ」
 確かに水島の言う通りだった。コミケットをはじめとする大手即売会に人が集ま
るのは同人活動を行っている者なら知っていて当たり前過ぎる常識だ。
「まぁ、それは百歩譲ったにせよだ。企業系の大手同人誌即売会は自分達の利益追
及が一番だから仕方がないにせよ、アマチュアベースの他の大手同人誌即売会でも
コミケットと全く同じ考えなのかな」
「俺が知っている限りでは恐らくは一緒だね。むしろそれ以上に拒否反応を起こし
兼ねないイベントもあるしな」
 水島の言わんとしているイベント名は容易に想像できたが、原は敢えてその名前
を口には出さなかった。
「だからさ、もしどうしてもそういう集まりを作りたいんだったら、おまえがやれ
ばいいじゃないか。なっ、そうしろよ」
「・・・なるほどね・・・まぁ、それもありか・・・」
 所詮は一から十まで自分から行動を起こさない限り何も変わらないということを
原はあらためて認識し、同人誌即売会連合(仮)の構想を巡らせ始めた。


432 名前:219 投稿日:2000/09/07(木) 21:20
2000.12.29 PM04:16 池袋

『うわぁ、これがサンシャイン60?すっっっごい高いね!』
吉村琴美は、どこまで視線を上に向けても頂点が見えない高層建築物を
目の当たりにして歓声をあげていた。
「おいおい、見上げるのもいいけど足滑らせて転ばないように気を
付けろよ」
知らず知らずのうちにぐいぐいと背を反らしてゆく琴美の姿を見て、
兄の正通は声を掛ける。ここ数日の降雪により、足元は5cm程度の
雪が積もっていた。
「…それにしても、俺はJR上野駅のパンダ像の前で待っているように
言ったはずだぞ。なぜ池袋に着いちまうかねこの娘は」
『だって、新幹線から降りて”ヤマノテセン”っていうのに乗ろうと
したら人がドバーって乗ってきて、電車の中でギューって押されて、
気が付いたら池袋って所で終点になっちゃって、何だか解んなくなっ
ちゃったからお兄ちゃんに電話して…』
琴美の声のトーンが徐々に落ちていく。まずい、言い過ぎた。
正通は琴美の頭を鷲掴みにすると、乱暴に琴美の髪をかき回した。
『ちょ、ちょっと…い、痛いよ』
琴美の声にいつもの元気さが戻った。少々無理矢理ではあるが、
気をそらせることに成功したようだった。
『でも、何で上野の、それもパンダさんの前で待ち合わせなの?』
「家出娘は、両手で鞄を抱えながら上野駅パンダ像の前で人を待つ
ことになっているんだ。それが東京のオキテだ」
『お兄ちゃん、言っていい?…ヘンだよ、それ』
一瞬の間をおいて、琴美はクスクスと笑う。スペイン坂の階段を
登るたびに、降り積もった雪を踏む音で足下がキュッキュと鳴った。

坂を登りきると、目の前には銀世界が広がっていた。
『うわぁ…』
「東京にだって、ここみたいに雪景色が綺麗な場所が有るんだ」
池袋駅から歩いて来る途中「東京の雪は汚い」とグチグチと
こぼしていた琴美は、今見える景色に考えを改めたようだった。
『…で、これがお兄ちゃんの言ってた”見せたかったもの”なの?
あたしは、あそこにあるアニメイトに行きたいんだけど』
「いや、琴美に見せたいものはこの先に有る」
ふと見ると、雪景色の中にうっすらと一本の足跡が残っていた。
「先客が居るのか…」
正通はそう呟くと、前へと歩きはじめた。
『ねえ、この先に何か凄いものがあるの?あの建物?』
「池袋ワールドインポートマート、そしてその裏にある池袋文化会館…
”コミックレヴォリューション”という、コミケに次ぐ規模の同人誌
即売会が開かれていた所だ」
『へえ、コミケ以外にもコミケって有るんだ』
「キミねぇ…確かにうちの田舎でも”なんとかコミケ”ってのは有る
が、アレはコミケとは別物だ。つーか何でもかんでも一緒くたに
”コミケ”と呼ぶのはやめてくれ」
『うーん、何だかよく解らないけどいいや。で、そのレボなんとかが
どうかしたの?』
正通は琴美の問いに答えずに先へと進んでいく。
雪上に残る足跡の先に人影が見えてくる。どうやら女性のようだ。
”先客”から少し距離を置き、正通はワールドインポートのそばで
立ち止まった。
「…終わったんだ」
『え?』
正通の表情は急に険しくなり、琴美が心配そうに覗きこむ。
「コミケよりも一足先に終わったんだ、レヴォは。いや、終わら
されたんだ。欲に駆られて暴走したあげくに勝手に大怪我こいて
建物を破壊し尽くしていった馬鹿共のせいでな!」

正通は、その時の光景を今でも鮮明に覚えている。
文化会館4階にまで伝わってきた轟音と地響きを。
何事かと様子を見に行った正通の眼前に現れた凄惨な光景を。
階下へと向かうエスカレーターが巨人にもぎ取られたように崩れ落ち、
鉄筋が所々むき出している破孔の底から響いてくる呻き声を。
そして、Alpaを経由して文化会館2階へと急いだ正通が見たものは…
「なぁ、琴美」
『何?お兄ちゃん』
「お前、目の前で人が血まみれで倒れていたらどうする?」


435 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 23:57
2000年11月18日 15:00 統合警備保障奥多摩研修センター グランド

「いーち、にっ! いち、に、そーれっ!」
「いーち、にっ! いち、に、そーれっ!」
 山間のグランドにランニングする一団のかけ声がこだまする。
「所長、なんでうちがうちの特機と一緒にクライアントの研修まで受け持つこ
とになったんですか?」
 奥多摩研修センターで指導担当を勤める不破光輝は、グランドを駆ける統一
感のない姿をした一団と、彼らを追いかけるように走る統警特機隊の姿を目で
追いながら、横に立つセンターの所長である大林公一に尋ねた。
「……クライアントからのたってのご希望。あとは……実験かな?」
 大林は鼻で笑う。
「実験?」
 ランニングの一団から目を離し、大林を見やる不破。
「これからうちが請け負っていくこととなる特機。そのユーザーニーズが拡大
した時、うちは嫌がおうにも隊員を用意し、要望されている現場に送り出さな
ければならない。例え、それが補助にしか使えないようなヒヨッコであろうと
も、その頭数に揃えて出さなければならない訳だ。だとすれば、その補助要員
を促成栽培であろうとも、送り出さなければならない。これはそのためのテス
トケースだ。……もっとも……」
 そこまで言って、意味ありげな苦笑いを浮かべる大林。
「……もっとも?」
「他社の警備員の初任教育をアウトソーシングする事業計画があるとか、一時
期、国内でも流行った特殊部隊養成学校ゴッコと似たようなことを、うちの上
が計画しているとか言う、まことしやかな噂もあったりな……」
 その答えを聞いた不破は、大林にならうように苦笑いを浮かべるしかなかっ
た。

436 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/07(木) 23:59
2000年11月18日 18:45 統警奥多摩研修センター 第2体育館

 そこの床には、疲労困憊し、へたり込んでいるコミケットスタッフたちが貼
り付いていた。非常に稀な数名がふらつきながらも立ち、よくても腰をおろし
ている。
「な、なんでラペリング降下の実習なんて……」
 黒いジャージを汗でぼとぼとにした長谷川宗佑は、息を切らしながら奇跡的
にも立ち続けていた。
 ラペリング降下……ロープを使って高所から降下する技術……に使ったロー
プが、体育館のキャットウォークから垂れ下がり、風に揺れている。
 その下には、見慣れた便利社の机と椅子。そして、段ボールの中に古新聞を
詰めた模擬梱包と多数のマネキン。
「……緊急時には迅速な立体機動が要求される可能性がある……。1−4エス
カレーターや2−4エスカレーター、場合によっては西4階トラックヤードへ
のスロープ、パルテノン大階段がなんらかの理由で使用できなくなった場合、
大人数が西4階地区から迅速に西1・2地区へ移動する最短経路は?!」
 教官役の統警社員たちの中に立っていた笹倉匡重は、肩で息をしながらも長
谷川を一喝した。
「……笹さんは、アトリウムや西1・2地区外周のトラックヤードに、僕らを
降下させるつもりなんですか……?」
「その可能性もある。……ならば、最悪に備えるだけだ」
 笹倉は長谷川の肩をバンッと叩いた。
「19時まで休憩! その後、南棟の第3講義室で雑踏警備に関する基礎と、諸
君らの経験を踏まえた勉強会を行う! 遅刻した者は東日本の装備を着けて、
グランドを5周させる! ありがたく思え!!」
 陸自の富士教導団上がりの教育担当が、怒声にも似た号令をかけた。
 へたり込むスタッフたちの脳裏には、センターで最初に見せられた東日本警
備サービスの甲種警備服と呼ばれる乱闘服。そしてその装備品の重そうなイメ
ージがよぎっていった。

437 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/08(金) 00:00
2000年11月20日 00:54 明大前アパート「富岳荘」

 長谷川宗佑が自分の部屋へと戻ったのは、既に日もかわり、1時間が経とう
としていた頃だった。
 ドアには鍵がかかっていない。窓からは煌々と灯りが漏れ出ている。
「……ただいまぁ……」
「あ、おかえり」
 明るい出迎えの声が部屋の奥から聞こえる。
「なんだよ。もうちょっと灯り落とせよ」
 疲れからか、はたまた本当にまぶしかったのか、一瞬、目の眩みかけた長谷
川は、部屋の真ん中で布地を広げたまま、パソコンのモニターに向かっている
水城かなめへと視線を運んだ。
「縫い物している時は、手元が明るくないと危ないんだよ」
 そう答える水城の顔は、妙に神妙だ。
「……って、かなめ、縫いもんなんてしてないじゃん」
 長谷川は、部屋の大部分を占拠している布地の山を、ジト目で見やった。
「んー? 今は編集。入稿直前だしぃ」
 パソコンのモニターの上では、ちょっと見慣れたDTPソフトや、グラフィ
ックツールとして名を馳せてしまったフォトレタッチソフトが立ち上がってい
る。その脇には、進みもまちまちな原稿用紙が散乱している。
「……コス縫いも原稿も自分ちでやれよ……」
 自分の疲れた身体を思い出したように、部屋の隅っこにへたり込む長谷川。
「だって、うちの部屋、狭いし。うちのパソコン、ここのより重くってさぁ」
 そう答える水城の顔には、不敵とも言える挑戦的な笑みが浮かぶ。
「……毎回、それじゃあ、俺がたまんないっての……」
 長谷川はずるずると身体を這わせながら、台所の冷蔵庫へと近寄って行く。
 ガチャリ
「……えらく、中身が、寂しいんですけど……」
 哀しそうな瞳で水城の背中を見つめる長谷川。

438 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/08(金) 00:02
「あ、ごちそうさま〜」
「…………」
 あっけらかんとした水城の返答に、哀しげな瞳を更に潤ませる長谷川。
 そのまま長谷川は、のたうつ蛇のように這いつつ、布地の山を迂回しながら
水城の背中へと近寄った。
「ちょ、ちょっといきなりなにすんのよ!」
 抗議の声を上げた水城の背中には、おぶさるような長谷川の姿があった。
「……人の体温って、いいなぁ……」
 水城の背中に、長谷川の重みが更にのし掛かる。
「……いきなり、何言ってんのよ……」
 ちょっと困惑したような、それでいて微笑みが浮かぶ水城。
「……おまえさぁ、今回、配置どこだったっけ……」
 長谷川はやや朦朧としがちな声で、密着している水城に質問する。
「……んー、西2ホール。2日目だよ」
「……そうかぁ……。……顔出せたら……顔……出すわぁ……」
 長谷川の重みが、水城の背中にずしりとかかる。
「ん、重たいってば。……ちょっと、作業できないじゃない。ねぇってば!」
 いささか、その重みに耐えられなくなってきた水城が振り返るように長谷川
の顔を見ると、背中の重みの原因はすっかり眠り込んでいた。
「ったくもー……」
 水城は諦めたような笑顔を浮かべながら、自分の肩に掛かる長谷川の手に、
自分の手をそっと重ねた。

440 名前:とりあえず書きなおしてみた1 投稿日:2000/09/08(金) 00:19
2000/12/25 13:00 東京都千代田区某所某ビル社長室

「雪か」
20世紀最後のクリスマスは雪だった
窓の外に映る電気街も今日ばかりは普段と違う幻想的な光景を作り出していた

「関東地方に記録的な豪雪の恐れ」
私はふと2〜3日前の新聞に書かれていた見出しを思い出した

「これは冬コミまで残るな。一般参加の連中も気の毒に」
そんなことを考えながらコーヒーを飲んでると、
内線電話が鳴りだし周囲の静寂をやぶった。

「私だ」
「木谷社長、全員揃いましたので会議室のほうへおこし下さい」
「ん、今行く」

電話は会議への参加を促す秘書からの電話であった。
私は残っているコーヒーを飲み干し、社長室を後にした2000/12/25 13:05 東京都千代田区某所某ビル会議室

会議室に到着すると既に十人程の社員が歓談交じりで会議を始めていた
「あっ、社長!!お待ちしておりました」
副社長の大島が私の存在に真っ先に気付き挨拶を交わし、
ほかの社員もそれに追随した。

その後、会議自体は何の滞りもなく続き、最後に大島から締めの言葉を
言うよう求められた。
私は自分の覚悟を他の社員の心に刻ませるべく渾身の力をこめて訴えかけた


441 名前:とりあえず書きなおしてみた1 投稿日:2000/09/08(金) 00:20
2000/12/25 13:00 東京都千代田区某所某ビル社長室

「雪か」
20世紀最後のクリスマスは雪だった
窓の外に映る電気街も今日ばかりは普段と違う幻想的な光景を作り出していた

「関東地方に記録的な豪雪の恐れ」
私はふと2〜3日前の新聞に書かれていた見出しを思い出した

「これは冬コミまで残るな。一般参加の連中も気の毒に」
そんなことを考えながらコーヒーを飲んでると、
内線電話が鳴りだし周囲の静寂をやぶった。

「私だ」
「木谷社長、全員揃いましたので会議室のほうへおこし下さい」
「ん、今行く」

電話は会議への参加を促す秘書からの電話であった。
私は残っているコーヒーを飲み干し、社長室を後にした2000/12/25 13:05 東京都千代田区某所某ビル会議室

会議室に到着すると既に十人程の社員が歓談交じりで会議を始めていた
「あっ、社長!!お待ちしておりました」
副社長の大島が私の存在に真っ先に気付き挨拶を交わし、
ほかの社員もそれに追随した。

その後、会議自体は何の滞りもなく続き、最後に大島から締めの言葉を
言うよう求められた。
私は自分の覚悟を他の社員の心に刻ませるべく渾身の力をこめて訴えかけた


443 名前:三文文士 投稿日:2000/09/08(金) 06:12
シュンシュンシュン…。
ストーブに掛けられたやかんの沸騰する音がいつまでも響いている。
そんな木枯らし吹き荒れる厳寒の夜。

コミケット準備会の中堅スタッフ2人がアパートで向き合って話をしていた。
手にはなにやら指揮系統をあらわす線と責任者の名前が満載された紙。
コタツの上にはカセットコンロと缶ビールがふたつ。

「しかし、安い野菜でもこうして食べると結構食えるもんだねぇ」
「でしょ? ダシきちんととって、薄い醤油味つけて、あとは適当に野菜でも肉で
も魚でも。今の季節、あたしゃ、こんなもんばっか食べてる」
「健康で文化的な生活ってわけだ」
「まぁね。これで、コミケの打ち合わせしてなければもっと良かっただろうなって」
お互い良い歳した自分の身の上を思って溜息ひとつ。

やがて、土鍋は空になり、二人は話し込み始めた。
「受付販売のお姉さまがたは、相変わらずの顔ぶれ。館内も入れ替えなし。公共地
区も入口も別に代わり映えしないわね」
「今更、何を変えようがないだろうが」
「んなこともないでしょ。システムを変えるのは無理でも、首すげかえるのは簡単
だもの。それが稼動するかどうかはまた別問題だけどさ」
「しかし、ひびきちゃんってかわいいなぁ」
「じゃじゃ馬読みたいなら貸したげるから、今だけは話に付き合いなさい」
「すんません」

「ところでさ、何? この総本部接遇担当って」
「ああ、ううんと、つまり、その、あんた、聞いてないの?」
「誰から? 何を?」
「じゃあ、知る資格はないってことだわ。気にしなくていいよ」
「あ、お前、そんな言い方ってないだろ。何年の付き合いだと思ってるんだ」
「えっと、あたしが第41期生だから…」
「マジメに答えられてもやっぱり困るんだけど」
「ニード・トゥ・ノウの原則って、あんたが教えてくれた言葉だったと思うけど?」
「今更、俺とお前の仲じゃん。それとも、地区長補佐殿にこのようなことをお聞き
するのは、ホール長補佐としては、分を弁えない振る舞いでしょうか」
「多分、知らないほうが幸せに生活できると思うんだけどな。あたし、この件でい
ろんなことやっていて、2週間前から胃が痛いの」
「俺は結構ためらいなく、禁断の実をかじって、あとで後悔するのが好きなんだよ」
「………………。秘密は守ってもらうわよ」
台所にたって、カルーアを作り、飲みながら話す。
「つまり、私達の楽しいカーニヴァルに、さーや様が来ちゃうのよ」
男のほうが飲みかけたビールを吹き出す。
「まじで?!」
「だから、聞かないほうが幸せだっていったのに」

444 名前:三文文士@「好奇心は猫を…」 投稿日:2000/09/08(金) 06:16
「………。で、冬だ1番エロ本祭りに来ちゃう訳? 我らが内親王殿下は」
「別にエロ本ばかりじゃないわ。サークルの全体比率からすれば」
「ふん、そんな一般参加者むけのおためごかしで誤魔化すなよ。市場占有率から考
えれば圧倒的な勢力さ」
「そりゃ、歴史出身のあたしに対する挑戦と解釈していいわけ?」
「俺だって、文芸だよ。客観的な分析ととらえてくれぃ」
「じゃあ、それはいいとして、非公式だけど、オファーが来たのよ。で、「行って
いいか?」って。別に普通の格好していれば、馴染みまくっちゃって分からないと
は思うんだけど、ああいうやんごとなき方には、一応きちんと人をつけるのが礼儀
らしくてさ」
「華やかに狂える話だな、ええ、おい。まさに最後の祭りに相応しい」
「最近は、星界なんだ」
「それはどーでもいいとして、だからかぁ、やっと話がつながったよ。今回やけに
どこも姿勢が強硬なんだよ。徹夜組対策はかなり思い切った作戦に出るって言って
いるし、大手サークルの扱いについても販売停止辞さずとか言っているし」
「うん、最後ってこともあるしね。こうなっちゃえば、警察だって、消防だって、
都だって、協会だって、止めようがないわよ。明日を考えないなら、過激にもなる
わよ、みんなストレスたまり放題なんだからさ。
で、接遇担当だけど、一応統括は、変な酋長さんが兼務。で、下に仕切り担当の統
括補佐1名と、配置担当者。ご進講しなくちゃいけないらしくてね」
「はぁ、ぶったまげた。すげえことも起きるもんだ。しかし大変だね、そりゃ。ど
ーせ、その絡みなんでしょ、君も。ご同情申し上げるよ」
「は? 同情の必要なんかないわよ。一蓮托生になってもらうから」
「…ちょっと待て、ごめん、猛烈に後悔してる。聞かなかったことにさせてくれ」
「もう遅い。警告はしたはずだし。好奇心は猫を殺すのよ」

その場で携帯取り出し、電話を始める女と、頭を抱えてうずくまる男。
明大前の夜は静かに更けていった。

449 名前:とりあえず書きなおしてみた2 投稿日:2000/09/08(金) 09:23
2000/12/25 15:35 東京都千代田区某所某ビル会議室 木谷演説

皆も知っているように我々は三年前即売会事業から撤退し、
後事をコミケット準備会に託さざるを得なかった
確かに当時のわが社の資本力では無謀な事業であったかもしれない
だが、この事は今まで順調に成長してきたわが社にとっては
重大な汚点であった。

だが、我々に最大のチャンスが巡ってきた。
コミケット準備会の解散であり、コミックレボリューションの無期延期である
これにより同人界のパワーバランスは大きく揺らいだ。
特に先日の秋レボで多数の死傷者を出し
マスコミの集中的な非難を浴びた成人向けジャンルは
その勢力を大幅に後退し、かつての幕張追放時代を上回る
冬の時代を迎えようとしている

既にその兆候は如実に現れている
君達も既に噂には聞いていると思うが
幾つかの成人向け同人誌販売店の資金繰りが極端に悪化している
何故か?世論の批判を恐れた銀行がこれらの店舗から
露骨に資本引上・貸渋りを行っているからだ
幾つかの販売店は早晩倒産を余儀なくされるだろう

ひるがえって我々はどうか?
我々は今まで成人向けとは一線を画する方針を貫いていた為
幸いにもこれらの被害を直接的にこうむらず、
逆に人気を落しているこれらの同人誌専門店から
シェアを奪い取るような動きさえ見せているではないか

この状況は今までコミケット準備会及び
成人向け同人誌販売店が握っていた同人シェアを
大きく奪い取れるまたとないチャンスだといえる。

諸君等の中にはこの状況であえて即売会業務に
手を出す事に危惧する者もいるかもしれない。
しかし、企業主体による運営、成人向け同人誌の販売の厳禁
徹底した客の管理といった対策を行う事により
世論、いやマスコミの目はかわす事ができる
また、既に関係省庁やマスコミ・幾つかの大手サークルに
対しても根回しは始まっている

この事業に私が社運を賭けていないと言えば嘘になるが
考えられる限りの安全対策は行っており、成算は極めて高い
君達は何も心配せずにそれぞれの職務を果たしてくれ、以上

演説の効果のせいか社員の士気は極めて高くなっていた
会議室の状態は狂騒に近いものがあった
しかし私は演説を終えちょっとした疲労感と倦怠感を覚えていた。


450 名前:とりあえず書きなおしてみた2 投稿日:2000/09/08(金) 09:24
2000/12/25 20:15 東京都千代田区某所某ビル社長室

今後の方針の再確認とも言える会議は終了した
社内には私と腹心の大島だけが残っていた

「社長、今日はご苦労様でした」

「ん、ああ、たいしたこと無いさ、
ところで例の件はその後うまく言ってるのか?」

「ええ、既に弱みを握っているる大手サークル・準備会スタッフ
その他関係者に対し内々に話を進めております。
既にそのうち八割の承諾は得ております」

「すまんな、いつも汚い役回りばかりで」

「いえいえ、自分も好きでやってますので」
大島は照れ隠しのようにニヤっと笑った。
彼は会社創立以前からの親友で、気さくではあったが
この業界の様々な裏事情に驚くほど精通していた。
彼は手が後ろに回るような危険な仕事から店舗のごみ拾いまで
なんでも進んでやってくれた。彼が居なければ私はいまだに
しがないアニメショップの店長でしかなかったであろう

今回私が頼んだ仕事は危険な仕事の部類に入る
我々が弱みを握っている連中を脅し、今度のコミケに対し様々な妨害工作を
行うように約束させるのである。
例えば息のかかった大手サークルで敢えて新刊の販売を遅らせ、
その一方で我々の工作員がそのサークルの客として紛れこみ、
苛立っている他の客を扇動し、暴動に発展させたりするのである

これは企業主体ではないコミケットがいかに頼りないものか、
いかにアンダーグラウンドな客が集まっているかを
世論にアピールし、我々が即売会を開催するのに不適切な
サークルや参加者を同人界から追いだすためである。
また、既に水面下で開催に向け動き始めているであろう
旧来のコミケの系統を継ぐ即売会、つまりボランティア主体の
即売会に対する牽制の意味もある。

大島が続ける
「それと、成人向け同人誌印刷最大手の栄光社の社長が
 交渉の結果コミケ前日に夜逃げしてくれるそうです」

「最大手が夜逃げだって?よくもまあそんな話がまとめられたもんだな」
私は想像以上の成果にさすがに驚いてしまった。

「そんなに驚かないで下さいよ。奴さんもともと脱税していた上に
 一連の騒動で資金繰りが非常に悪化していたらしくて
 どのみち来年頭には倒産するしかなかったみたいなんですよ
 ですから『五百万やるから今年中に夜逃げしないか?』って持ちかけたら
 二つ返事してくれましたよ。
 これで男性向け創作の新刊は二割落ちます。現場の混乱が予想できますな」

大島は事も無げに言った。この男はいつもこんな調子である

「まったく、お前って奴は・・・」
私は感嘆を通り越して逆に呆れてしまった。

その後、幾つかの細かい打ち合わせの後、いつしか私は大島と
酒を飲みながら雑談をしていた。。

「おい、大島。この作戦が成功したらもうちょっとまっとうに商売やらないか?」
私が少しおどけて言うと、大島はさらにおどけて
「はい。でも社長、確か秋葉原に進出した時もおんなじ事言ってませんでした?」

ひとしきり笑ったあと、私は久しぶりに大島と今までの思いでを語り合った。
しんしんと降り続いていた雪はいつしかやみ、外界は全ての時が止まったように
静寂に包まれていた。


私達が望んでいた即売会というのはあくまでも
「出版社やテレビ曲の宣伝活動の一環としての即売会」
であり、「私達の利潤を追及する場」であった
「自由な表現の場」などでは決して無かった。
そのために我々は手段を選ばず活動してきた。
この作戦もその一環として進められていた
確かに作戦は順調に進んでおり期待通りの成果を上げた
しかし時流は私達の予想を遥かに上回り
我達もそのうねりに容赦なくまきこまれた
そして私は最良の友を失った


456 名前:関東は今日も雪 投稿日:2000/09/08(金) 12:29
『おはようございます、天気予報の時間です。今週の関東地方は雪マークが
続いていますね。先日の大雪では交通機関のダイヤが乱れましたが今では
ほぼ正常通りに運行されているようです』
『Kさん、この雪はいつまで続くのでしょうか?』
『えー、天気図を見ますとこのとおり、西高東低の冬型なんですよね。いくつも
寒気団が流れ込んでいます。ですからもうしばらくは降り続くと思われます。
雪景色で新世紀を迎えることになるんではないでしょうか……』

 早朝のテレビはどこを回してもニュース番組だ。智は天気予報に促されるように
カーテンを開けた。
 広がるのは灰色がかった白い風景。徹夜明けの目にはあまりにも眩しく、智は
目をすっと細めた。
「白い……白い世界」
 結露のために水滴をびっしりとつけた窓に指を触れさせる。水滴は指を濡らし、
そして窓を静かに伝った。
「え? 雪? やだなあ……せっかくの新刊濡れるね、これは」
「真は情緒感にかけるところがあるね…。現実的っていうか。確かにせっかく
作った本を濡らしたくはないわ。でも」
 智はそこで言葉を切った。何?と真が覗き込む。
「……でも、この雪はやまないのじゃないかしら。永遠に」
「え?」
 一瞬、真は怪訝そうな顔をした。それからすぐに「いつものことか」と思い直すように
苦笑してみせる。
「まーた、智は……」
「雪はやまない。すべてを真っ白に染めるの。この地を……私たちが別れを告げる有明を。
雪は真っ白にすべてを染め上げ……そうして無に返すの。ねえ、真?」
 智は傍らの友人を見やった。真は――長年のつきあいである友は――こんなふうに
話す自分をどう思うのだろうか。うっすらと微笑みさえ浮かべ、智は真を見つめる。
 そして真もまた、智を見つめていた。今目の前にいる彼女はいつもの智とは
違う空気をまとっている。そんなふうに真は思った。
 空気が止まりかける。その空気を押しやるように智は再び口を開いた。
「真。すべてが白の場所に…何が似合うと思う?」
「……何?」


「……赤い血よ」
 ニュース番組が5時30分を告げた。

464 名前:同人ゲーマー1 投稿日:2000/09/08(金) 21:04
「ふぁ〜ぁ」
火屋武史は、大きなあくびをしながら行きつけのゲーセンへ入っていった。最近、仕事が立て込んでいたため
ゲーセンに訪れるのは一週間ぶりである。普段なら何か新しく入荷したゲームはないものかと店内を一巡する
のだが、今日は早々に店内奥へと向かう。そこには、コミュニケーションノートが置いてあり常連達が歓談で
きるスペースが設けられている。大型筐体の角をまがると、いつものメンツが揃っているのが目に入った。
「ち〜っす」
火屋が近づきながら声をかけると全員がそちらへを顔を向けて挨拶を返す。
「あ、おひさです」
「こんちゃ〜」
火屋は、その集団におさまると同時に話しだした。
「とんでもない事になったな」
「まったくですよ。今もその話をしてたんです」
「このメンツやからそうやろうと思ったわ」
今、ゲーセンの一角に集まっているのは男女七人。この七人、いわゆる同人ゲーマーである。この内、火屋を
含めた五人はサークル活動をしており、昨日、準備会から発送された「緊急アピール」を受け取っている。
「これ、ほんまなんですよね」
ショートカットの女性、多恵子が手に持っていた緊急アピールを火屋の目前にかざす。
「ああ、昨日の夜、知り合いのスタッフに確認したけど間違いないそうや」
残念そうな面持ちで火屋がこたえる。
「コミケが活動休止ですか・・・」
「まいったなぁ」
「ショックでかいわ」
それぞれ落ち込んだ声で心中をはきだし、意気の上がらぬ会話が続いた。

465 名前:同人ゲーマー2 投稿日:2000/09/08(金) 21:08
「みんな暗い顔して何話してんすか?」
通夜のように沈んでいた七人に、常連の一人が発した明るい声がかかる。彼は普通のゲーマーで、当然、同人
誌など知らない人間である。
「ちょっとな。コミケがなくなるもんでどうしたもんかと話ししとんや」
火屋の返事を聞いて、彼は少し考えてから合点がいった。
「あああ、コミケね。火屋さん達が毎年2回東京へ行ってまうやつ。あれ、無くなるんすか」
「次で最後や」
「そら、ご愁傷様で。それはそうとちょいいいすか。昌君、あの対戦格闘やねんけどな・・・」
コミケがあろうとなかろうと関係ない彼は大して興味を示さず、七人の一人、昌にゲームのについて話しかけ
てきた。昌がそちらの会話へと移ったのを契機にコミケ休止に関する話題は終わり、火屋と多恵子、そしても
う一人の男性、城山幸司以外は店内に散っていった。
火屋は、タバコに火をつけ紫煙をひとふきすると、城山に向けて言葉を発した。
「また、居場所が無くなるな」
「そうやな」
二人は目を合わせることなく隣り合いそのまま黙ってしまう。それぞれの思いにふけるように。
火屋と城山は共に20代後半。この店の常連になる前からのつき合いで知り合ったのはとあるゲームオンリー
イベント。そのイベントはRPGや対戦格闘が流行る以前から開催されていたアーケードゲーム主体の即売会
で、シューティングゲームやアクションゲームの同人誌を作るサークルやゲーマーが集まる同人誌即売会だった。
火屋と城山はどちらも、同人誌界においてはマイナージャンルとされるシューティングゲームやアクション
ゲームの同人誌を作り続けている。だが、彼らが住んでいる関西のイベントでは、マイナーゲームの同人誌は
ほとんど手にとってもらえない。嗜好を同じくするゲーマーが参加する先のゲームオンリーイベントと、全国
から数多くの同人ゲーマーが集まるコミケだけが、彼らにとって作品発表ができる場だったのだ。
しかし、そのゲームオンリーイベントは三年前に終了してしまった。
そして、今度は最後の場所であるコミケが無くなろうとしている。


466 名前:同人ゲーマー3 投稿日:2000/09/08(金) 21:11
「コミケがなくなるのは悲しいけど、即売会は他にもあるじゃないですか」
多恵子は二人が落ち込んでいると思い元気づけようとする。
火屋は、多恵子の言葉に笑顔で頷きながらも、自分がそれ以外の即売会に参加することはないだろうと考えて
いた。もともと、大阪の中之島中央公会堂で開催されていたボランティア系の中規模イベントを始まりとする
彼にとって、現在盛況を誇っている企業系イベントは馴染めない存在なのだ。また、最近頻繁に開催されてい
るゲームオンリーイベントも家庭用ゲームや対戦格闘ゲームが主流で浮いてしまう。一度、サークル参加した
ことがあるが、彼の同人誌を手に取る人間はほとんどいなかった。さらに、女子中高生のはしゃぎっぷりと、
机の上に延々と続く便箋とペーパーに辟易してしまった。それが悪いとは思わないが、自分の求めるイベント
とあまりにもかけ離れている。
その思いは城山も同じで、彼も多恵子に対しては軽く笑いながら曖昧に返事するだけだった。
そのうち、多恵子のサークルの相方である女性が現れたので、彼女等はラストコミケの発行物について相談す
るためゲーセンを後にした。

467 名前:同人ゲーマー4 投稿日:2000/09/08(金) 21:14
有線の音楽とゲームのBGM。耳に慣れたゲーセン特有の喧騒をバックに二人は静かに話しだした。
「昨日、眠れへんかったわ」
火屋が小さなあくびをしてから話す。
「なんやお前もか。俺もなかなか眠られへんかったで。緊急アピール読んだあと色々考えてしもてな。せやけ
ど、お前と一緒ってのはイヤやな」
「そらお互い様や。で、ネットつないだんやけど、その手のサイトはどこもコミケの話ばっかりやった。まっ
たく気分転換にならん」
「そらなぁ全国のオタク大騒ぎやで。2ちゃんの同人板、サーバーダウンしたらしいで」
「やっぱり。全然アクセスでけへんかったからな。そいや多恵子ちゃんとこの掲示板もあかんかったわ」
「あ〜、彼女んとこは対戦格闘系の中堅サークルやからな。ファンの女の子のヒステリックな書き込みで溢れ
てたそうや。お前が来る前、『レス大変や〜』って泣いてたわ」
「イタっ(笑)。人気もんは大変やな」
「ちっとは俺らも見習わなあかんな。のう、弱小サークルさん」
「まったくですわ、ピコ手サークルさん」
二人は同時に苦笑した。
「で、眠らんと考えてなんかでてきたんか」
火屋が薄く笑いながら聞く。
「さてさて。別に答えをだそうと考えてたわけやないからなぁ。お前はどやねん?」
「そろそろ潮時かと思とる。ええ歳やしな」
「お前から、ええ歳なんて言葉が出てくるか〜。でも、そら理由にならんで、言い訳や」
「そうかもしらんけど、分かりやすいやろ」
「それマジで言うとるんか?」
城山の表情から笑いが完全に消えている。僅かだが語尾には怒りを含んでいるようだ。火屋は少し驚いた。
この程度の軽口の応酬はいつもやってることだ。怒るほどのことでもない。
「冗談や冗談。マジにとりなや。つーか、お前いらついとるな」
「ん、あ、そうやな。すまん」
自分が意味もなくいらついている事に気付いた城山は、気を落ち着けようとタバコを取り出した。

468 名前:311 投稿日:2000/09/08(金) 21:15
あずさは、五月の新刊を読み終えパタリと本を閉じる。
表紙には”にょっと!パラダイス”と題名が書かれている。
「良かった、また五月さんの本を読めて。次の本も期待してるわね」

五月は僅かに表情を曇らせる。
「…実はこの機会に同人を辞めようかと思っていたんです」
あずさが五月を見つめる。
「続けていくのも辛い事が多くて、この際だからコミケットと一緒に最後を迎えるのもいいかなって…。
でもそれは間違いだって気づきました。コミケットは今回限りで無くなっちゃうけど、私の情熱まで失っちゃいけないんだって。一人でも私の作品を読んでくれる人がいる限り、私は描き続けます。いつまでも」
五月の表情からは迷いが取れ、晴々としていた。

「あの、それでもし良かったら、次の本にゲスト依頼してもいいですか?私もあずささんの本がとっても気に入っちゃって」
「五月さんにそう言ってもらえるなんてとってもうれしい。喜んで描かせてもらう事にするわ」
後に二人は合同サークルとなりコミケ終焉後も活動を続け、ついには壁大手へと成長していくのだが、それはまた別の話…。

469 名前:同人ゲーマー5 投稿日:2000/09/08(金) 21:16
城山が数回タバコを吸うのを待って、火屋が口を開く。
「ま、いらつく気持ちもわかるけどな。コミケがなくなったら俺らどうしようもないからな。で、マジなとこ
ろでは俺もなんも考えつかんわ。ただ、やめるのにええ機会かなとは実際に思うんや」
「ふむ。しかしやな、お前昔言うとったやないか、『即売会があるから本を作るわけやない。俺らが作った本
があるから即売会はあるんや』って」
「あた。そんな昔の発言よう覚えてるなぁ」
火屋は、してやられたという表情を見せながらそう言った。そして、何かに気づいたような素振りを見せてそ
のまま考え込んでしまった。妙な沈黙に絶えかねた城山は少し躊躇した後、決まりが悪そうに言い放った。
「あ〜、実はな、それ聞いた時、不覚にも感動してしもたからな」
以外な発言に驚いた火屋は思考をとめて城山の方をじっと見るが、恥ずかしさから城山は視線を明後日に向け
る。火屋は、「そうか」と答えながら、これをネタにからかえるな、と心の中でにやついた。
「で、己の発言についてはどうなんや。今なんか考えてたんやろ」
「はは、俺も若かったな。正直言うて、その当時ほどの情熱、今では持ってないわ。・・・ただ」
「ただ? なんやねん?」
「そうやねんな。即売会があるから本を作るわけやないねんな。俺らが作った本があるから即売会はあるんや。
ははは、いやー、自分で言うたこときれーに忘れてたわ」
「おのれは!!」
城山の怒声がゲーセン内に響き渡る。声の大きさに自らも驚いてあたふたする城山に店内の視線が集まるが、
何事もないと分かると皆ゲームに戻っていった。腹を抱えて笑う火屋を、城山が小突いて話しを再開する。
「いや〜、面白かったで」
「黙っとれ。かー、最悪や。それで、自分の発言を思い出した火屋さん、いかがでっか」
「おう、感謝しとるで。そやそや、面ろいゲームがあってその本が作りたかったら作りゃええねん。コミケが
無いからって本作ったらあかんわけやないもんな。こんな事にも気が付かんとは、俺も歳くったなぁ」
「歳の問題やないと思うが。それにしてもえらい開き直りよったな」
「情熱が若者の特権なら、開き直りは年寄りの特権やで。ま、俺は同人誌作るのが好きやちゅうこっちゃ」
そこまで言った後、火屋はニヤリとイヤな笑みを顔に浮かべる。
「いや〜、今度は俺が感動させてもうたで」
「黙れ!!」
ゲーセン内に再び怒声が響き渡る。

472 名前:311 投稿日:2000/09/08(金) 21:43
「ごっめん、お待たせー。遅くなっちゃった」
五月のスペースに元気な声が響く。
「やっぱり最後だからって事でどこのサークルも気合入っててね。新刊、既刊、てんこもりで持って歩くだけでもたーいへん」
大きく膨れた手提げ袋と共に、少女が五月のスペースに入ってくる。

「あ、この子星崎みなもっていいます。友達の妹でいつも売り子を手伝ってもらっているんです」
五月がみなもをあずさに紹介する。
「どーも、こんにちは」
「よろしくね」
みなもは五月より5つも年下であるが対等な話し方をしてくる。
しかし素直な明るい性格もあってちっとも嫌な印象を受けない。
友達のように接してくるみなもを五月は好ましく思っていた。

手伝いは午後からの約束なので、買い専門であるみなもは五月のサークルチケットで入場して朝から買いに走っていた。
五月が頼んだ分も買ってきてくれるので助かっているのだが。

みなもはさっそくスペース内で、同人誌を整理し始めている。
「えっと、薄荷屋とUGOと謎の会と…あ、そうそう、323とか西館の大手が軒並み午後からの販売になってるみたい。何かあったのかな?」
「まあその辺は別にどうでもいいんだけど…。あれ、頼んどいた本は?」
「ん?どこ?」
「ほら、いつもは魔法少女で出してるけど、今回初めて創作でスペース出してるとこ」
「ああ、あそこは何か搬入トラブルとかでまだ販売してなかったみたい。また見てくる?」
「そうなんだ。んーそれじゃ、私お昼買ってくるんで、ついでに自分で見てくる事にする」
「私はここで売り子やってるね。買ってきた本も読みたいし。うーん、やっぱ篤見さんの描く絵はかあいいねぇ」
言ったそばからみなもは本に夢中になってる。
「ちゃんと接客もしてよ」
「はーい、いってらっしゃいー」
五月はみなもに任せて、スペースを出た。
この時の五月の選択が、後々に五月自身に大きな影響を与えるとは誰も知るはずが無かった…。

475 名前:狂狼 投稿日:2000/09/08(金) 22:54
替え歌スレではないけど…遊んでみました(^^;

コミケット・アワー(元ネタ:ミュージック・アワー)

この番組では みんなのリクエストをお待ちしています
素敵な恋のエピソードと一緒にダイアルをして
ここでおハガキを一通…RN「ほえほえさくらちゃん」
「なぜアニメ好きになるとこんなにも苦しいのでしょう」
それはアニメが君のこと、急かして蹴飛ばしているからで
シンプルな頭で動けば良いのさLet's get to Doujin!

キャラが胸を焦がすから、夏が熱を帯びてく
そして僕はコミケへと、誘うナンバーを届けてあげる
下半身への欲望を決して離さなければ
この夏は例年通り騒々しいい日々が続くはずさ

少しは参考になったかな?R,N"ほえほえさくらちゃん"
そして徹夜してでも本が欲しいとお嘆きの方

たぶん心は腐っていて壊れかけたテロリストみたいで
ルールは無用なの?和を乱すなよ始発でこ・い!

キミが夢を願うから、今も夢は夢のまま
大好きだからハメはずす、大好きだから自己中になる
大手の列の真中を泳ぎきってみせてよ
変わってゆくジャンルを見守ってるコミック・マーケット

コミケスタッフなれそうにもない一般参加でいいよ
(Let's get to Doujin!)

キミが夢を願うから、コミケスタッフも張り切って
また今年もサイトには、新しいジャンル溢れて行くよ
下半身への欲望を決して離さなければ
この夏は例年通り騒々しい日々が続くはずさ

Thank you four letter."Hohoe sakura"


480 名前:Jr 投稿日:2000/09/09(土) 06:54

これは、ある夢を抱き続けた者達の物語だ。
彼らは自分たちの居場所が永遠であると信じていた。しかし―――。

 「販停!? ちっ、やってくれるじゃないか!」

 「もう3度目だ。これ以上無様な姿は見せられん。」

 「更新されている? 何故? 誰が!?」

緊急アピールの中でコミケの終焉が告げられた時、
運命の歯車は確かに回りだした……。

 「A4、120Pにテレカ付き。女王の最期には相応しいな。」

 「伯、これで終わりではないの。それを願う人がいる限り。」

 「そう、私の力もここまでね。有明の雪は……綺麗かしら……?」

終わるコミケット。それは予定調和か、それとも破滅への道か。
――この物語の結末は、まだ誰も知らない。『お兄ちゃんの漫画、読みたかったな…………。』


490 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。 投稿日:2000/09/09(土) 22:34
真っ昼間のパチンコ屋。
男の携帯電話の着メロが鳴る。
「う〜い、誰? ああ、おまえかぁ。え、何? よく聞こえねぇんだけど。
ああ、コミケが無くなるってのね。聞いたよ。
まいるよなぁ。これからどうやって転売本仕入れるよ?
車とPCのローンが山ほどあるんだぜ。バイト代だけじゃ足らねぇよ。
え? 足洗う?
おまえがぬけたら困るじゃん。どの本買えばいいか分かんねーじゃないか。
今度はカードで大金借りて軍資金作って大量に仕入れるんだぜ。抜けんなよ!
あぁ? もうイヤだぁ? 最後のコミケぐらいまともに参加したい?
なんだそれ? バカじゃねぇの?
わかったよ。別におまえなんざいなくてもいいよ!
あんな美味い話他にないってのに。おまえ後悔するぞ。バカだね〜。
あれ? おい? もしもし?
ちっ、きれやがった。むかつくなぁ。

くそ!この台でねぇぞ!金無くなったじゃねえか。
マジむかつく!」



半年後。
人間のクズのもとに
転売できない本の山積みと消費者金融からの借金だけが残った。

491 名前:三文文士@喧騒を支える群像 投稿日:2000/09/09(土) 23:48
「所長、とりあえず、各部署との最終調整終わりましたぁ」
「おう、お疲れさん。で、最終的な体制は?」
「はい、東東京主管、西東京主管、南東京主管、新東京主管の4支店から、昨年の
日程にあわせて休暇を取った人間をピックアップしまして、業務命令出してもらい
ました。50名程度になりますね」
「ふぅむ、人事部にあとでお礼しておかないとな」
「人材開発企画室で、前から創ってあった資料らしいですよ」
「へぇ、そりゃ手回しのいいこった」
日本最大の宅配業者、大和運輸(だいわうんゆ)有明営業所。
骨に染み渡るような寒さの中、緑のユニフォームに身を包んだ2人がお茶をすすり
ながら、最後の確認をしている。

「しかし、経営戦略開発部からの要請とはいえ、急でしたね」
「ああ、前からあった構想ではあるらしいんだがね。ことは夏と冬の2回だけでは
ない。毎週日曜日には都内のどこかでコミックがらみのイベントがあるんだそうだ。
その発着規模は、月1万個じゃきかんのだ。しかし、この市場の70%は営業政策
的に先行された大日本通運が抑えてる。これからの若年者人口を有効に大和の顧客
としていくには、この手の市場でも取りこぼしできないのだとさ」
「仕分けは、東東京ベースから、ベテランのバイトを20名回してもらいます。一
応、発着は東東京ベースからということに」
「まぁ、そうだろうな」

「で、一応出陣式やります。今回は三つ巴の競争ですからね。主管支店長からも、
絶対に負けるな、ミケネコダイワの名誉にかけて、バリカン便に完勝してこいとの
お言葉を頂いてますし」
「社訓の唱和でもやるのか?」
「それもいいかもしれませんなぁ。一つ、大和は人なり、一つ、運送事業は委託者
の意思の延長と知るべし、一つ、礼節を重んずべし」
「今更、いわれんでも暗唱しとるよ。俺は、これを20年も唱えてんだ」
所長は、細かい部分まで確認を済ませると、主任を帰らせた。
(これで実績あげて、なんとか支社に戻りたいもんだ)

この所長の思いはかなえられることになる。東京支社総務部付として。1週間。
その後、彼は、転職活動を始めなくてはならなかった。
汚名を負って。

#大規模な人間の活動は、それだけで、大規模な経済効果を生み出す。
#まして、巨大な物流を必要とするなら、なおのこと。
#なお、このSSは、実在する某超巨大運送会社から組織の名前をお借りしており
#ますが、中身は全然関係ありません。事故通報とかいわれてびくっとしないよう
#に(笑)

492 名前:三文文士@喧騒を支える食卓 投稿日:2000/09/09(土) 23:50
シイゼリア有明店にて
「ちょい、来週の週間発注基準量、ちゃんと変えたね? 計画今週比2000人アッ
プだよ」
「あ…、失礼しました。忘れてました」
「頼むよ、俺が全部チェックしているわけにはいかんのだからさ」
「でも、店長、どうするんです? また、3日間地獄ですよ。女の子達は回転しな
いし。そこがきついんだよな」
「大丈夫、今回は本社応援、地区応援が来る。地区長と、正社員が5名、応援で入
ること考えると、なんとかなるさ。食材と道具さえ揃えておけばね」

インペリアルホストカフェテリア
「さぁて、来週はコミケだからね」
「もうやだですよ。あのオタクたちの相手するの」
「んなこといわない、相手はお客様。オタクかどうかは関係ないの!」
「でもなぁ…」
「支配人、本部からお電話です」
「はい、お電話代わりました。支配人です。ええ、お世話になっております。はい、
え、ああああ、そうなんですか。あらまぁ、そんなことに。はいはい。分かりまし
た。失礼します」
「支配人、顔色悪いですよ」
「まずい、総料理長臨店があると」
「ええっ、コミケの最中にですか。無理ですよ! 絶対マニュアル守れませんよ」
「守れなきゃ殺されんだよ、守るんだ!」

発信:ゴスト業態企画担当
発行承認:GT業態企画リーダー
宛:首都圏第3GT事業部(東京23地区担当)
  首都圏第4GT事業部(東京多摩地区担当)
  首都圏第5GT事業部(神奈川横浜・川崎担当)
  首都圏第6GT事業部(神奈川横浜・川崎担当)
  首都圏第7GT事業部(千葉県北西部担当)
  首都圏第8GT事業部(埼玉南部担当)   
以上の事業部に所属の全店 および当該地域所在の直轄店マネジャー

件名:コミケットカタログ59掲載割引チラシの対応に関する件

 2000年12月29日、30日の両日、東京都江東区有明の東京ビッグサイト
において、コミックマーケット59が開催されます。
 当社は、当該イベントに対し、広告を掲載しております。
 内容は、目玉焼きハンバーグ50円割引券、ドリンクバー50円割引券、デザ−
ト50円割引券です。
 当該イベントは、総入場数50万人を超えるイベントであり、過去の統計からも
特に20代男女の入店数が通常比最大で29%(平均16%)増加するという分析
が得られています。
 また、割引券の回収率も極めて高く(4%)、商品管理上、特に留意が必要です
ので、通知します。

 なお、他のお客さまの快適な食空間を維持する必要があるとの観点から、お客さ
まの以下の行動は、可能な限り制止し、必要であれば、退店をもとめることも視野
に入れてください(昨年度は全店で31件発生し、うち12件が本部クレーム)
・女性の裸体など扇情的な画像を店内で閲覧すること
・ノートパソコンでチャット(電子環境上の文字列による会話)を始めること
・アニメ・マンガなどの登場人物の扮装をして入店すること
・大量の書籍を持ち込み、整理・発送作業を行うこと
・大声で、通常公衆の面前ではとりあげないような話題の会話をすること
以上、疑問は、本部営業本部GT業態企画室まで。

#外食企業の対応を想像したものです。
#多分、言葉は変です。本業の方、つっこまないでください。
#何人かの友達から取材し、通知ももらってきてもらいました。面白いね、内部文書。

497 名前:外を描いてみる 投稿日:2000/09/11(月) 02:52
2000年12月30日午前2時。ワシントンホテルの一室。
目覚し時計の音で3時間の睡眠から目覚めた男は、たっぷりと
時間をかけて十分な防寒装備に身を包み、大型の懐中電灯と
通常の倍の長さの誘導灯を携え、ホテルをチェックアウトし
北1駐車場へと向かった。

昨日は恐いぐらい平穏で、本を買いに回る余裕もあったし
休息もたっぷりと取れた。
しかし、今日は違う。
ただでさえ質の悪い参加者が多く難しい最終日であることに加えて、
「コミケが終る日」なのだ。
それこそ、何が起こっても不思議ではない。
しかし、だからこそ、何もかもを安全かつ円滑に進めなければならない。
コミケットが再生するにしても、他の即売会が成長するにしても、
会場と言う受け皿は常に必要なのだ。
万が一、ここで大きな問題が起きるようであれば、会場側は
二度と同人誌即売会と名のつくイベントに会場を貸さなくなるだろう。
それだけはなんとしても避けなければならない。

ここ数日に何度も繰返した考えをなぞったところで、すでにスタッフが
展開している交差点に到着した。馴染みのスタッフの顔を見つけ、朝の
挨拶とお互いを鼓舞する言葉を交わすと、徹夜組の待つ北1駐車場へと
彼は赴いていった。

外回りの中堅どころの小隊長として、彼ができること、知りうることは
限られていたが、それでも彼はよく準備をしていたし、当日も、一スタッフと
しての役目を十二分に果たしてきた。
彼もまた、コミケを愛し守ってきた参加者の一人だった。

そんな彼−金井高遠−に対しても、コミケの女神は等しく冷たい
仕打ちで答えることになる。

498 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。 投稿日:2000/09/11(月) 10:44
「…勘弁してくれよ、おい」
孝子さんは頭を抱えた。
来年は○谷監督生誕100周年だから、それにあわせて出す予定にしていた
ゲジラ本を急遽冬にあわせたのは、コミケ以外に売る場所を持ち得なかった
からだ。
(わたしゃ単に初代ゲジラの映画が好きで、なずな沢博士にキャラ萌え
してるんだがな)
とはいえ、孝子の作る本は文字主体の軽い評論系のものだから、妙に男性
うけをしてしまう。かといって男性が作る評論系と違って異常にマニアック
という訳でもないから、親切なのかそうでないのかこういう人種を呼び寄せ
るようだ。
てなわけで、目の前の男は延々と自分の持てる薀蓄を傾けて、声高にゲジラ論を
語り倒している。
やんわりと迷惑であることを伝えるも、本を手に取る人間の邪魔こそしない
が、彼の熱弁はとどまることを知らない。
また孝子のジャンルの常として、こういう薀蓄垂れ流しのお兄さんの出没率が
他のジャンルと比べても高いのだ。
そのため、本を覗きに来た数人に一人は多かれ少なかれ何らかを語り去っていく。
(仕方がないか…、こっちもそうだろうけど、この人たちだって最後なんだし)
コミュニケートしたいと積極的に思うわけではないが、かといってこれもコミケの
風物詩と思えば、声を荒げるのもなんだか大人らしくもないような気がして、
だからこそ孝子は苦笑する。
こういう輩は語りたいだけで、自分の語りに満足したら去ってくれるのだし。
そう思いつつ、孝子はぼんやりと隣のブロックの列を眺めた。

スタッフが大手サークルの名前を連呼し、販売が遅れているので、外周に並ぶ
ようしきりに指示を出している。
(夏に混乱を引き起こしたサークルがまた西館に配置されたのか…。最後だから
何事もなければいいんだけど)
夏は怪我人が出たとか、近隣のサークルスペースが引き倒されたと聞いているその
サークルが、思いのほか近いことに今更ながら気がつき少しぞっとする。
いつもいつも緩衝材代わりに使われているジャンルだから、孝子は今の今まで隣の
ジャンルなど気にも留めていなかった。
(…何だか嫌な予感がする)
冬だというのにじっとりと掌が湿るのを孝子は感じた。
そのサークルが、というよりもそのブロックの近くに嫌な空気がよぎるのを見たよう
な気がした。
孝子に霊感の類はないが、ただ悪い予感、というより小動物がいち早く地震を予知
するような類の能力を持ち合わせていた。

その時点で席を立っていたら、孝子の運命は大きく変わっていただろうが、「最後
のコミケ」の魔力がそれを狂わした。

500 名前:サンデーライター@30日の状況 投稿日:2000/09/11(月) 13:16
関東で大雪が降るとこんな感じ?

2000/12/30 06:31 某局AMラジオ放送

「おはようございます。12月30日土曜日。朝6時半です。
 関東地方はもう1週間も雪が続いていますが、今朝の東京は大雪ですね。
 早速天気予報から行ってみましょう。気象協会の根岸さん」

『はい、おはようございます。
 まず警報です。午前6時に関東地方全域に大雪警報が出されました。
 日本の南岸には湿った空気を大量に含んだ低気圧があって、北東方向へゆっくりと進んでいます。
 また、埼玉県熊谷市の上空5,000mには-36℃の強烈な寒気が入り込んでいて、大雪を降らせる原因になっています。
 平野部でも多いところでは1時間に10cm以上の雪が予想されます。今後の情報に十分ご注意ください。
 今朝の最低気温は氷点下3.6℃でした。東京地方は気温の低い日が続いていて、低温注意報も出ています。
 農家の方はビニールハウスの温度管理などにもご注意ください。
 今日は気温も上がらず、東京でも最高気温2℃の予想ですが、氷点下の真冬日になるかもしれません』

「ありがとうございます。
 続いて交通情報、警視庁から岸本さん、お願いします」

『はい警視庁です。各地で大雪による規制があります。
 高速道。中央道は相模湖と大月の間が上下とも除雪作業中のため通行止め。下の国道20号へ迂回してください。
 その他区間も高井戸から岡谷までが50キロ規制、八王子から先がチェーン着装規制。
 東名は東京から静岡県の吉田インターまでの区間で50キロ規制。秦野中井と沼津の間はチェーンが必要です。
 関越自動車道は練馬から全線で50キロ規制。渋川伊香保から先はチェーン着装規制も出ています。
 関越トンネルは現在規制は出ていません。
 東北道、川口から羽生インターまで70キロ規制。その先の西那須野塩原まで50キロ規制。
 さらにその先には50キロ規制とチェーン着装規制が出ています。
 常磐道は三郷から桜土浦まで50キロ規制、その先は70キロ規制。
 東関道、京葉道路、新空港自動車道は全線で70キロ規制です。
 東京湾アクアラインは木更津橋梁部で70キロ規制。館山道も全線70キロ規制です。
 首都高速。昨日の事故処理と現場検証がまだ続いていて、湾岸線の辰巳ジャンクションと台場ジャンクションの間が両方向通行止め。
 その他は全線で50キロ規制が出ています。また、殆どの入り口が閉鎖されていますのでご注意下さい。
 幸い事故は無いようですが、走行には十分気をつけてください。以上です』

「えー、各地で雪による規制が出ていますね。では電車の情報です。まずはJR。
 東海道新幹線は東京と浜松の間で徐行運転をしています。遅れは最大で1時間半程度になるとの見通しです。
 東北・上越・長野新幹線は平常どおりに運転しています。
 在来線ですが、首都圏の各線は通常よりも間隔を開けて、本数も減らして運転しています。
 また、各地で徐行運転をしている区間が有りますので、通常よりも時間がかかっています。
 私鉄各線も同じように間引き運転をしています。地下鉄は今のところ平常どおりの運転です。
 道路も雪や氷で滑りやすくなっています。お出かけの際は時間に余裕を持って、十分にご注意ください」

501 名前:見習い 投稿日:2000/09/11(月) 14:17
11月9日、深夜。

 くずれた姿勢で、ぼんやりとディスプレイを眺めている。どうせぼんやりしている
だけなのだから寝てしまえばいいのに、と自分で思うけれど、なんとなく立ち上がる
きっかけがつかめないでいた。
 もうすぐ冬コミの当落発表だな、と思う。カレンダーの11日のところに赤く丸がし
てあった。結果の投函予定日。
 フライングにはいくらなんでも速いかな、と思いながらリロードしてみて、その結
果に目をみはった。

256 名前:どーでもいいことだが。 投稿日:2000/11/09(木) 23:56
コミケ、終わりだってさ。

 悪趣味な匿名掲示板。ガセネタだって多くて、いつだってあてになんてならない。
けれども、おかしな情報がいち早く流れることが多いのも事実だった。
 とりだしたスレッドをせわしなくリロードしつづけながら携帯に手を伸ばす。画面
の中では一瞬の沈黙の後につづいた混乱のメッセージで溢れていた。
 メモリの中から探した番号に呼び出しをかける。深夜にも関わらず一瞬で繋がった
相手に、自分でもわかるくらい奇妙な明るさで切り出した。
「サカミさん、こんばんは。美津枝です」
 友達の友達の、そのまた友達、みたいな男の名前はどういう字を書くのか知らない。
何度か飲み会で同席したときの印象のほかには、ただコミケのスタッフをしている、と
いうことを知っているだけだった。
『ああ、ひさしぶり。どうしたの?』
 優しい声に少しだけ安心する。
「あの、今ネット見てて。2チャンネル、ってページなんですけど、そこでコミケが
こんどの冬で終わりだ、とか言ってる人がいて……ウソですよね?」
 あまり要領の良い聞き方はできていないような気もしたが、とにかく一気に言った。
すぐに返事がもらえないのはきっとあまりにも突拍子のないことだからだ。

502 名前:見習い 投稿日:2000/09/11(月) 14:18
だから電話の向こうで聞こえた気がする舌打ちの音は聞かなかったことにする。
「ヤだなぁ、いっつもそうなんですよ。ウソだったり大げさだったり。そのたびにび
っくりさせられて、いい迷惑ですよね。あたしもそんなページ見てるから悪いんです
けど、たまに面白いこともあったりとかして……」
『本当だよ』
 勝手にまくしたてていた言葉が、ちょうど息継ぎをしたところで止められる。頬が
ひきつるのがわかった。
「……ウソ……」
 ようやく搾り出した言葉も、もう一度同じ言葉で否定された。
『いろんな事情があって、この冬限りで活動休止なんだ。情報流してあげるわけにも
いかなかったんだけど……誰かがリークしたみたいだな。どうしてあとたった1日が
待てないんだか』
 右手は相変わらず画面をリロードしつづけている。どんどん繋がっていくレスの内
容にだんだんとリアリティと危機感が増えてゆく。
「そんな……もっとやりたいこと、あったのに。あたし、新刊の原稿もやってないの
に……」
 机の上には原稿用紙すら出ていなくて、らくがき段階のクロッキー帳が置いてある。
最後だとわかっていたらもっとやれることがあった気がする。せめて夏のイベントが
終わった時点でそれがわかっていたら、友達に声をかけまくって記念本を出すとか、
新刊を山ほど用意するとか、もっと最後にふさわしいことができたはずなのに。
 今、美津枝の手元にあるのは白い原稿用紙と脱力感だけだった。
『手、つけてなかったのか。俺から青封筒もって行ってるんだから、取れるのはわか
ってただろう? やっておけばよかったのに』
 声質だけ優しくて、実はけっこう辛らつなことを言っているサカミに反論する気力
もなく、電話口でただ頷く。
 元々サカミから青封筒をもらうときに、これならば落ちる心配がなくなるから早く
から原稿にかかれます、と言ったのは美津枝だった。その時は本当にそう思ったはず
だった。


503 名前:見習い 投稿日:2000/09/11(月) 14:18
「なんとか、します」
 何度か深呼吸を繰り返して、ようやく落ち着いた声が出せた。予定どおりに11日に
通知が投函されていたとして、美津枝のところにとどくのは週明けだ。夕方帰宅して
からそれを見ることを考えたらまるまる4日早く知ることができたことになる。締め
切りまでに1つ増えた週末を有効に使えばいい。
『そうだね、まだひと月半ある。がんばれるよ。美津枝ちゃんたちはがんばっていい
本をたくさん作って。俺たちスタッフはちゃんと場を用意しておくからさ。最後のコ
ミケらしく華々しくやろうよ。見てなって、トラブルなんかおこさせないからさ』
 最初の勢いをなくしてしまった美津枝を慰めるように、今度はサカミが明るさを装
った口調で言った。
 挨拶をして電話を切ったあと、美津枝は涙をこぼした。他にイベントだってあるの
に、どうしてか全てが終わってしまうような気がした。そんなに思い入れがるつもり
はなかったけれど、やっぱりコミケは特別だったのだ。
 メーラーを立ち上げて、この先の週末に入っていた予定をキャンセルするメールを
送る。最後のコミケに向けて、本づくりに時間をめいいっぱい割きたかった。
「冬コミ当日、は忙しいだろうから年明けかな。サカミさん呼んで、本渡して、おつ
かれ様の飲み会ひらかないとね」
 本ができあがっている前提で楽しい計画をたててみる。
 サカミの顔を二度と見れなくなることなど、もちろん考えてはいなかった。


505 名前:名無しさん@どーでもいいことだが。 投稿日:2000/09/11(月) 15:10
雪の降る中、一台のバンがゆっくりと進む
何もかも多い尽くすような白い道の中、赤いブレーキランプが東京湾の上に連なる
「終わらない祭か」
レインボーブリッジに乗ってから一時間も過ぎようとした時
ハンドルから手を離して、ぼそりと山中が呟いた
「天地だっけ?」
どうでもよさげな顔で尋ねる北川に、目は合わせずに「うる星」とだけ答える
そういえばコミケに行かなくなって何年経つのだろうか
助手席で面倒臭そうにサークルチェックをする北川は、5年前まで通っていたらしい
(まさかこんな形で再びコミケに来る事になるとはな)
手元の企画書をパラパラとめくりながら、寂しく笑う
−1月放送用特番 破綻する同人誌即売会〜終わるコミケット−
企画書のタイトルだ
撮影内容の指示が細かく書かれている
会場時にダッシュする人の波、怒鳴るスタッフ、徹夜組、行列、カメコ…
撮影内容を見ただけで、どんな番組になるか予想がついた
ナレーション台本を見たときに、予想通りすぎて驚いたほどだ
「いい画を撮ってこい、か」
自嘲ぎみに呟きながら、カメラのバッテリーのチェックをする
最後のコミケットを、終わるコミケットを看取るために…

506 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/11(月) 15:32
そう、元々コミックマーケットは創作漫画を発表する場所として始まった。
自分たちの理想とする場所を求めて、既成のものから飛び出したんだ。
いろんな衝突があったさ。でもそれだけ求めるものに対して真剣だったんだ。
そしてようやく理想に近いものが出来上がってきた。
互いに得意な分野で自己をぶつけ合う、すばらしいものだった。
しかし、ある時からそれは変わってきた。
さらに理想を求めるのではなく、不完全でも今のままを保とうとしたんだ。
規模の拡大で理想の追求どころではなくなった、という風にも言えるけどな。
より理想に近づけるためには、今を変えなければならない。
しかし、今を保たなければ機会そのものが無くなってしまう。
互いを暖めるためには近づかなければならない。
しかし近づきすぎると相手を傷つける。
まるでヤマアラシのジレンマのようさ。
そうだ、何で創作以外のジャンルが山程あるのか分かるか?
それは今のコミケットを形作っているのがオタク達だからさ。
今のコミケットにはオタクが必要だ。
オタクがいなければコミケットという場所は存在できなくなってしまった。
そのためには、オタクはオタクのままでいてもらわなければならない。
だからオタク萌えしやすいエロ・パロが沢山あるのさ。
しかしコミケットを保つためのものが終わりを招いてしまったというのは、皮肉だよな。


507 名前:ロム専腐女子 投稿日:2000/09/11(月) 16:50
 どれもとても楽しませて頂いていますけれど、
やっぱりみんなカタストロフなんですよね……
 最後のコミケがそんなに平穏無事に終わりそうも
ないのはたしかなのですが、一つくらいこう、
建設的というか発展的にマターリ終わるのもあったら
いいな、と思うのです。
 難しい…でしょうね。ええ。でも自分に文才がないのは
10年以上前に身にしみたので(苦藁)、こちらに
集っておいでの皆様に御考慮頂ければと思いますル。
 どないなもんでしょ?


512 名前:三文文士@遠すぎた有明 投稿日:2000/09/11(月) 18:44
「そんな、あんまりだ…」
男は力なくつぶやき、その場に立ち尽くした。
時は厳寒、場所は札幌空港。

「現在、大雪のため、全離発着を見合わせています。復旧の見込みはいまのところ
明らかにできません。お急ぎのところ、大変ご迷惑をおかけしております。復旧ま
で、今しばらくお待ちください。                札幌空港長」
ついさっきまで各ラインの美しいマークが映し出されていた離発着時刻表が次々と
暗転、代わって映し出された文面に周囲は言葉を失っている。

カウンターには「空港閉鎖に伴い、受付を一時中止いたします」という看板が出さ
れ、中の職員は、ダンボールをカートに積んで引いている妙齢の女性たちにかこま
れて、泣きそうになりながら、説明を続けている。
「飛ぶことはできないんですか。これくらいの雪で!!」
「お言葉ですが、私どもが提供する一番のサービスはお客様の絶対安全でございま
す。安全基準をこえた降雪の中、飛行機が飛ぶことはございません。なにぶん、天
候の問題でございますので、天候の回復をお待ちくださいませ」
なおも何事か言い立てようとする女性を周りが「やめなよ」と抑える。
やがて、彼女らは抱き合うと、声を震わせて泣き出した。

(なるほど、彼女らもお仲間か)
男は、静かに降り積もる雪を恨めしく眺めながら、その声を聞いていた。
彼は、準備会スタッフだった。この10年というもの、すべてのコミケの前日設営
に携わってきたのが彼の誇りだった。そして、最後、この最後の最後になって、彼
の記録は潰えようとしている。

目の前が暗くなる思いを抑えて、前日設営部先遣隊本部に電話をする。
「ああ、本当に申し訳ないけど。ま、管理機能は僕が北海道転勤になった時点で、
引き継ぎ終わらせてあるから、特に問題ないと思うけど。大丈夫だよな。……うん
うん、大丈夫だよ、お前ならきっと出来るって。わかんないことは、上にも下にも
優秀な人間いるんだから、聞いてさ。俺一人いなくなったって、人足が一人いなく
なっただけだと思えって。ああ、最後の、最後のコミケを造るんだ、失敗は許され
んぞ。でも、俺はお前を信じてるよ。打ち合わせも何度となくやっただろ。大丈夫
だから。やっちまったって、どうせ最後なんだ。俺と一緒に頭下げてまわればいい
だけのことだよ」
しばらくうなずいて、相手の言うことに耳を傾ける。
「うん、ああ、ありがとう。まぁ、しょうがないことだよ。天気には勝てんさ。お
前がそういってくれるのは、本当に嬉しいよ。ありがとうな。うん、前日設営総統
括によろしく。本当に残念に思っているって、あと、長い間ありがとうございまし
たって、前日設営スタッフであったことを誇りに思っているって伝えてくれ」
何事かまだ耳元では声が続いていたが、彼は電話を切った。

やがて、広いラウンジに嗚咽の和音が響きわたった。

513 名前:飛び入り 投稿日:2000/09/11(月) 19:05
2000年12月20日 AM01:07

沢木奈緒は、コミケカタログが手に入るといつもするように、
それをベッドに投げ出した。
「よっっ、いっ、しょっと!」
バフっ!という音を立て、フカフカの布団に分厚いカタログがめりこむ。
思わずニヤっと頬が緩んでしまう。他人が見たらさぞや怪訝に思うだろう。
しかし、このカタログの重みを確かめる行為こそ、彼女にとって
「コミケの醍醐味」といっても過言ではない。
「重い」「携帯に不便」「人を殴り殺せる」と、色々言われるカタログだが、
コミケに参加できない奈緒にとっては、このカタログこそが自分とコミケを
繋ぐ「窓」だった。だからカタログが厚ければ厚いほど、重ければ重いほど
その「窓」が多く開かれているようで彼女は嬉しかった。
東京に住んでいた学生時代、彼女もサークル活動をし、例え落選しても
毎回のように本を作って友人のスペースに委託してもらい、精力的に
コミケに参加していた。しかし、就職を機に帰郷すると共に段々と仲間とも
疎遠となり、イベントからも離れてゆき、いつしか同人誌からも離れ、
マンガよりはファッション雑誌とタウン誌を愛読する「普通のOL」として
日々を重ねていた。
しかし、何故かコミケカタログを買うことだけはやめることができなかった。
コミケに参加するわけでもない。同人誌を通販するわけでもない。
ただアピールにうなずき、サークルカットを吟味し、マンレポに笑い、怒る。
それだけで楽しかった。この感じは一体なんなのだろう?

そんなことを考えながら奈緒はぼんやりとベットの上のカタログを見詰めていた。
が、そんな自分の姿がひどく滑稽に思えて、いそいそと自分もベットに上がり、
カタログのページをめくった。
冬なのに、夏並みの重さと厚みを持ったカタログ。最後のコミケカタログ。
いつもより数倍長い、数倍熱のこもった代表の檄文。
「最後」に至った経緯の説明。サークルカットも参加者の気合が感じられる。
最後だからだろうか。コミケが終わったあとも「場」を共有した者たちとの
つながりを断ちきりがたいのか、いつもより住所やメールアドレスが入った
ものが多かった。今回はあからさまにダミーと分かるような殴り書きの
カットも少ないようだ。
「これじゃあ純粋な抽選じゃない、って言ってもねえ・・・」
(まあ、しょうがないか)、と心の中で自分を納得させた。
準備会もできるだけ本来のサークル参加者をできるだけ参加させようと
今回は「特例」の措置を取ったのだろう。
ふと、奈緒の顔に笑みが漏れた。
こんなことを真剣に考えている自分が可笑しかった。
(自分がサークル申し込んでいるわけでもないのに)
本当にこの感じはなんなのだろう?
「同人」からもう卒業したはずの自分を捕らえるコミケってなんなのだろう?

そんなことを考えながら、奈緒はページを繰っていった。
マンレポのページ。今回は特に厚い。
いつもコーナーに加え、「やめないで!」「最後だから」といったコーナー
が加えられ、それら特別コーナーがマンレポの半分以上を占めている。
「やめないで!」のコーナーは、大きな瞳を涙でうるませた少女のカット、
「俺は許さん!!」と大書してあるカットが目立つ。
「最後だから」はほとんどが参加の意思表明。「サークル落ちしても必ず
行く!」「必ず新刊出す!」「最後だからこのコスしちゃいます!」などなど。
その中で、ある一つのレポで奈緒の目が止まった。
「私には病気の妹がいます。もしも彼女の時間が限られているのなら、少しでも
長く一緒にいたい。でも、妹は『最後なんだから』と私を励ましてくれます。
最後なのだからもちろん参加したい。でも私はまだ、迷っています・・・。」
サークル名は書かれていなかった。目立つイラストもないが、キレイな文字の
シンプルなレポ。
「最後だから・・・か」
奈緒はカタログを閉じ、スケジュール帳を取り出した。
「久々に萌えてみるか!」
最近買い換えたばかりのスケジュール帳の最初の方のページ、
12/29・30に「東京・有明」と書き込んだ。

520 名前:素人さん@その1 投稿日:2000/09/11(月) 21:45
>518さん
ありがとうです。ではちょっと書き込んでみますね。

270さんごめんなさい。なくなったはずの企業ブースネタです(笑)
しかもスタッフネタ。(ちなみにぼくはサークルですのでほとんど想像で書いてます)

2000.12/28.9:08…

 まだ誰もいない西4階。
「いよいよ終わるのか…」
 不意に、男の声。テラスより聞こえる少し低いその音は静かに広がり、
そして消える。
「どうしたの?修(しゅう)君。まだ始まってもいないのに」
 今度は女性の声。女性と言うよりは女の子、といった感じの幼さの残る声だが。
「ん…」
 修と呼ばれた男─といってもまだ若い。20代前半であろうか─は振り向きもせずに
「なぎさか…。いくらなんでも来るのが早過ぎなんじゃないか?まだ9時過ぎだぞ?」
「それを言うなら修君もでしょ。こんな時間に誰か居るなんて思わなかったよ。」
 くすりと笑いながらなぎさも返す。彼女は更に若く見える。実際は修と同い年なのだが、
年齢よりは若く、というより幼く見られる事が多い。
「ぼくはただ早く目がさめちゃってね。家でじっとしてるよりは誰も居ないここを見ていた
かったんだよ」
「おまえ、まだ自分の事ぼくって言ってるのか。女なんだからやめろって言ってるだろ」
「そんな事言ったってずっとそうだったから、今更変えられないよ」
「だからガキっぽく見られるんだ」
「む〜。気にしてるのに」
「仕事でもその一人称は問題だろ」
「そんな事ないよ。ちゃんと『わたし』って使うもん」
「は。どうだか」
「ひどいよ〜」
 怒ったような、笑っているような表情を浮かべるなぎさ。それを見て苦笑する修。
いつもの二人。そんな日常の風景。
(俺は……。俺達は変わらないよな。たとえコミケが終わっても)
 ふとそんなことを考える。二人が出会ったビッグサイトのこの場所で。


521 名前:素人さん@その2 投稿日:2000/09/11(月) 21:47
「大体、そのカッコも似合ってねぇよ。七五三か?」
 振り向いた修が言う。二人はスーツ姿だった。修はまだしもなぎさの
パンツルックのスーツははお世辞にも似合っては見えない。
「ひどいよ、せっかく新調したのに」
「はは。悪ぃ悪ぃ。からかい過ぎたな」
だんだん不機嫌になっていくなぎさを見て慌ててフォローを入れる。
「まぁいいけど。別に今に始まった事じゃないし」
 もういつもの調子に戻っている。怒ったり笑ったり忙しい女だ、と胸中で呟く。
「それより修君は?なんでこんな早くに?」
「概ねおまえと同じだ。ただ俺は早く起きたんじゃなくて起こされたんだけどな」
「だれに?」
「うちの部署の御大将に」
「あら〜。それはご愁傷様」
 あまり同情した様子はない。
「なぁ。なぎさ」
「うん?」
「俺達…ここで会ったんだよな。三年半前」
「そうだよ。懐かしいね」
 テラスの柵によりかかりながら修は呟く。
「あのとき…俺はもう企業対応部のスタッフだった」


522 名前:素人さん@その2 投稿日:2000/09/11(月) 21:50
 なぎさがいぶかしげな表情を浮かべる。なんで昔話など始めるのだろう?
そう聞いているようだったがやがて
「ぼくはコミケ初参加一般だったよね」
 話を聞いてみたい。普段無口な修が何を言うのか興味に駆られてなぎさが話に乗る。
「ああ。熱気にやられて倒れたなぎさを救護室まで運んだんだよな」
「今でも感謝してるよ。あのときの修君はやさしかったもんね。今でも覚えてる」
 なぎさはそう言ってにっこりと笑う。
「忘れろ」
「あぁ〜、嘘うそ、うん、忘れたから〜。続きを話してよぅ」
 口を閉ざしそうになった修を無理やり促す。
「ったく…」
 照れくさそうにしながら修は先を続ける。
「俺はなぎさに会う前から…企業ブースが出来たときからずっと企業対応部だった。」
 今だ二人のほかには誰もいない西4階。あと1時間もすれば企業の設営が始まり、
騒がしくなるだろう。
「…もともとはサークルと掛け持ちでスタッフをやってたんだ。当時は正直な話、下っ端だったよ。
大きな組織の一つの駒。いてもいなくても同じ。代わりはいくらでもいる。飽き飽きしてきたときだ。
コミケに企業ブースが出来るって話を聞いた。最初はなんでそんなものを、って思ったよ」
 言って修は辺りを見る。
「もちろんここにはサークルが入ると思ってたしな。なんでわざわざんなもんいれるのか
解らなかった。それで先輩に聞いたんだ」


524 名前:またまた気になったこと 投稿日:2000/09/11(月) 22:03
そういえば、「コミケ終了の発表」がされたのって、何月何日なんでしょう?

一応このスレには最初から目を通しているつもりなのですが、
終了宣言の発表された日に関する見解の統一がされていないようなので……。

501の見習いさんの作品から推測すると、正式発表は11月10日のようですが、
513の飛び入りさんの作品だと、遅くとも夏コミ終了の翌々日に発表されてなければ
いけないことになるし……(でないとマンレポに終了ネタがでるはずがない)。

とりあえず私としては、232の三文文士さんによる「緊急アピール」を
準備会公式の発表とみなすと同時に、「緊急アピール」が発表された日時を
私たちの話し合い(?)ではっきり決定させることを提案したいです。
そして、それにともなって過去の作品に矛盾点が生じるようであれば、
その作品の作者に矛盾点だけでも修正していただきたいと思っているのですが、
皆様いかがでしょうか?

>見習いさん、飛び入りさん
せっかくの作品にケチをつけるようなことを書いてしまって申し訳ないです。
でも、どちらの作品も「コミケに思い入れのある人たち」の心情が自然に描けている
点に関しては素晴らしいと思っています。
また何か作品を思いつかれたらぜひ書いてほしいです。
楽しみにしています。

525 名前:素人さん@その4 投稿日:2000/09/11(月) 22:07
「センパイって…。誠一さんのこと?」
 なぎさが聞く。
「ああ。もとはといえばあの人に連れてこられたんだよ、コミケ」
「お祭り好きだもんね、誠一さん」
「当時から先輩は何故かすでに総本部の人だったからな」
「それで、なんて言ってたの?」
「答えは…自分で確かめてみろって」
「なにそれ?」
「実際に自分でやってみろ、そうすればイヤでも解かるってね。今考えればうまく
乗せられたような気もするけどな」
「それでこの部署に入ったんだ」
「ああ」
「それで、修君の答えは出たの?」
「ん、そうだな。上辺だけの理由ならすぐに解かった。企業を取り込む…って
言うと語弊があるか。まぁ、当時からあった著作権の問題をなぁなぁで済ますため
だとか、単純に金の問題とか。ちょうど警備を強化するときと重なったからな。
いい大義名分も出来たって感じだったけどな、そのときは」

「…なんだかあまり偉そうなものじゃないね」
「実際そうだろ。嫌われ部署だしな」
 苦笑。実際設立当初から色々言われてきた。理念に反する、企業のせいで混雑する、
企業対応部の連中は役に立たない、企業ブース要らない…。二人の頭を色々な言葉がよぎる。
「ただ、必要無かった物だったとは思わない。確かに問題さえ起こらなければ要らなかったん
だろうな、実際。ただ、世間であった事件なんかを考えると、用意しておかなければなら
なかった。必要悪みたいのもんか?俺はそう思ってる」
 やはり苦笑しながら言葉を紡ぐ。
「俺は企業なんてどうでもいい。売ってる物にも興味ないしな。それよりは自分で本を
作ってる方がずっとすばらしい事だと思うし、今でもそう思ってる。ただ、誰かがやらなきゃ
いけなかったんだ。コミケが続く限りは」
 言って、沈黙。いつのまにか、テラスより見える西1階アトリウムでは測量の準備をするため
に人が集まりつつある。
「…だが、コミケは終わる。もう無くなるんだとしたら、今から始まる最後のコミケット59
企業ブースの必要性は?もう終わるものに果たして金や著作権の防御は必要なのか?」
「修…くん…」


532 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/12(火) 05:20
2000/11/22 19:08 新宿・某カラオケボックス

 やや狭めのそのボックスの中には、数人の男女が身を寄せあうように座って
いた。
 その前にはマイクも持たずに立つ男が1人。
「いいか。表現府たるべきコミケットは今、その理想と理念の場を権力に明け
渡そうとしている。しかも、準備会はこの期に及んで右傾化を開始した。我々
は、この表現の自由に対する挑戦と、敗北と瓦解への第一歩を看過していいも
のだろうか?」
 青白く、眼鏡をかけた男は、居並ぶ男女に熱弁を振るっていた。
「そも、反権力・反権威・自由表現主義に基づき、権力化と表現に対する規制
行為を否定していたコミケットは、相次ぐ修正と追認主義の横行、さらには準
備会機構の官僚化によって、内部に権力構造と検閲・表現規制の体制を生み出
した。彼らは組織防衛と言う大義名分を盾にとってはいるが、その根本部分か
らして、自ら同権とおいている他の参加形態に対する裏切りを行っている。こ
れまでも我々はその問題点を指摘し、重ねて改善を要求してきたが、ここにき
て……そう、理念に対する敗走のこの段になって、彼らは体制による暴力を導
入するに至ったわけだ。先ほど配布した資料を」
 男の言葉に資料を手繰る居並ぶ男女。
「総本部安全管理室。名目上は昨今、頻発するコミケットでのトラブルに対し、
その要員とリスクを検討して防止と対処の案を提示すると共に、会期中に発生
したトラブルに即応し、その被害の拡大を阻止し、参加者の危害防止に努める
とあるが……実際には、これは準備会の私兵集団であり、その暴力の矛先を他
のすべての参加者に向けるべく、準備されつつあるのだ」
 居並ぶ男女の中から手が上がる。
「……会長はこの情報をどこから?」
 男……会長は、手を挙げた気弱そうな青年を一瞬睨み付けると、勝ち誇った
ような笑みを浮かべて答えた。

533 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/12(火) 05:21
「準備会内にも、我々の同志は多数いる。それは末端ばかりではなく、下北沢
中枢にも浸透し、我々の活動を陰ながら支援してくれているのだよ。提供者の
安全を確保するため、その詳しい素性までは言えんがな」
 会長はそこまで言うと、質問した青年を再び睨み付けた。
「話を続けよう。ここで私は一つの決意をした。従来の情報宣伝路線を修正し、
新たなる時に禍根を残さぬよう、この準備会ファッショに対して徹底した武装
闘争を敢行し、私兵集団・総本部安全管理室と、その成立を許してしまった準
備会体制を断固粉砕せねばならないと!」
 会長の目に、狂気の光が宿る。
 凍り付く室内。
「……会長、幾ら我々が正当性を主張した所で、戦線に投入できる戦力は少な
すぎます。向こうの規模だけでも判明しない限り、その判断は危険ではないか
と……」
 会長に一番近いところに座っていた男が、そう諭すように言った。
「少ないなら、少ないなりに、やりようはある。今までも、そうやって、ここ
まできたのだ。そして……」
 足下においてあったカバンに手を伸ばす会長。
「……今回の我々には、これがある!」
 そう言い放つと会長は、手にしたカバンを高く掲げて見せた。
 一同の視線が、そのカバンに集中する。
「……それは……?」
 誰となく、質問……疑問の声が上がる。
「……これか……。これはこのような事態に備え、外部からの協力によって用意
を進めていた『最後の手』……投擲爆弾だ」
 凶々しい笑みと、そこから湧き出したような笑い声を漏らす会長。
「これを今回、もっとも混乱の予想される西2ホールに持ち込む。その場で我
々は煽動工作を敢行し、その場に表れるであろう安全管理室や別室の犬共に、
こいつを喰らわせてやるのだよ。それが駄目なら、そうだ、あのサークル辺り
に投げ込んでやるのもいいだろう……使い道はある。いろいろとなぁ」

535 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/12(火) 05:22
「しかし、今回は例の皇族来場もあって、会場警備は今までの比ではありませ
ん。どうやって、それを会場に持ち込む気なんですか?」
 やせぎすの女が会長に問う。
「簡単だ。そこにいる『まりも』くんのサークルを始め、いくつかの同志・シ
ンパのサークルが今回、西2ホールに配置されているではないか。あとはいつ
もの如く印刷会社に搬入員のアルバイトとして浸透させている同志に、その会
社の段ボール箱にでもこいつらを詰めて、各拠点に搬入してもらえば事足りる
ではないか……。こいつはあの連中が使った時限発火装置なんか、目じゃない。
あのがらくたに較べれば、遙かに高等な芸術品だ。発見されて開封した途端に
ドカンだ。それだけでも、どれだけの示威効果があると思う? ……さて、そ
ろそろ時間だ」
 仰々しくカバンを降ろし、腕時計を見る会長。
「それでは、この辺にて今回の水曜会をお開きにしたい。それでは、又、次の
水曜日に」
 その会長の言葉を合図にするように、居並ぶ男女たちは席から立ち上がると、
そのボックスを後にした。

536 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/12(火) 05:23
2000/11/22 20:08 新宿・歌舞伎町 とある路地裏

「もしもし。丹波です。……ええ、至急……いや、緊急です。よく聞いてくだ
さい、例の水曜会の連中、爆弾を用意し」
 ゴッ!
 電話をかけていた男……丹波和夫の手から、携帯電話がぬめるように滑り落
ちた。そして、それを追うように地面へと崩れ落ちる丹波。
「……ふんっ!」
 バキッ!
 ふみ降ろされた足の下で、雨に濡れた携帯電話が持ち主の頭蓋と同じく、砕
けた。
「……準備会の犬めぇ……。粛清してやるぅっ!!」
 そして、水曜会の会長の手にした鉄パイプが、その血を流して倒れている丹
波の頭部へと振り下ろされた。

 翌朝、丹波の死体は近くのゴミ箱を開けた飲食店の店主によって発見された。
 そして、彼はコミケット準備会設立以来初の「殉職者」となった……はずだ
った。

537 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/12(火) 05:24
2000/11/22 20:09 下北沢某所

「もしもし? もしもしっ!?」
 ガキッ! ザ、ザリザリッ! プツ プーッ、プーッ、プーッ、プーッ……
「もしもし! もしもし!!」
 丹波和夫から電話を受けていた長谷川宗佑は、突然切れた電話の向こうに、
相手であった丹波の返事を求めていた。
「丹波さんからの電話が……」
 困惑と焦燥の色をにじませる長谷川。
「……しくじったか……」
 その吐き捨てるような言葉とは裏腹に、穂波英彦は悔いても悔いきれないと
言うように目を固く閉じていた。
 しかし、そんな穂波の表情は背を向けている長谷川からは見えない。
 数秒の沈黙の後、穂波は自らの携帯電話を手に取った。
「おつかれさまです。総本の穂波です。……恐れ入ります。丹波がしくじりま
した。……はい。詳細は追ってご報告します。で、申し訳ないのですが……は
い。……ええ。スタッフ登録用紙の破棄、それでお願いします。では……」
 携帯電話を切り、懐へと戻す穂波。
「穂波さん、丹波さん……最後に爆弾って……。あと、登録の破棄って……」
 丹波の最後の言葉、そして、それに続く異音、そして穂波の発した言葉が耳
にこびりついて離れない長谷川は、まるで助けを求めるように穂波を見やった。
「……わかった。すぐに録音MDを書き込み禁止にして、コピーを2本。あと、
大至急、紙に起こしてくれ」
 穂波は、そんな長谷川に振り返ろうともしない。
「……穂波さん! 丹波さんは、丹波さんは一体……?」
 長谷川の脳裏に、様々な想像が駆けめぐった。

 そんな2人の持ち続けた希望は、翌日、完璧に粉砕され、長谷川は自らの想
像の1つが正しかったことを思い知らされることとなった。

544 名前:百円ライター(1) 投稿日:2000/09/12(火) 20:02
彼はただのチンピラだった。

ただの半端者のろくでなしだった。
父親は100%純粋なアル中だった。母親は彼が10歳の時にどこかに行ったきり、二
度と戻ってこなかった。
まあ、”あんたさえ居なければ!!”というヒステリックな金切り声を聞かなくて済む
のだから、清々したというのが正直なところではあったが。
勉強が出来るわけはなかったし、喧嘩も弱かった。やられそうになるとナイフを持ち出
して暴れるので、舐められはしなかったがそのうち誰からも相手にされなくなった。
学校を飛び出して、仕事に就いてみたがどれも長続きしなかった。
なにをやるにしても、根性が無さすぎた。
町をうろついている内に、ヤクザの兄貴に拾われたがいつまで経っても下っ端の下っ端
でしかなかった。
まあ、ヤクザであろうとなかろうと、無能な奴に盃を卸してくれる程、世の中は甘くな
いというだけの話だったのだが。
顔立ちだけは、まあまあだったので、スケコマシで食っていけるかとも思ったが、一ヶ
月もすれば大抵の女から見放された。底の浅さはすぐに判るものだ。
要は本当に使えない正真正銘のチンピラだった。
他の何かには成りようもなかった。
でも一番の問題は、彼自身がその事に全く気付いていない事だった。


545 名前:百円ライター(2) 投稿日:2000/09/12(火) 20:03
きっかけはよく行くバーのカウンターで知り合った女だった。
丁度、兄貴のパシリでガサ入れを避ける為に、バーのマスターにハジキを預けに来たと
ころだった。
マスターが外していた為に、運良くロハで酒にありついていたら、隣のスツールに腰を
下ろした二人組みの女だった。
カタギの女が怖い物見たさで入って来た、そんな感じだった。
口説こうとしたが、なかなか靡かなかったので腰に差していたハジキを見せてやった。
こういう店に来るカタギの女が危険な香り、暴力の匂いにメロメロになるのを、彼は経
験上よく知っていた。
だが、拳銃を見たもう一人の女が声を潜めてこう言った。
”汚い仕事をしてくれる人間を知らないか?”
同人とかサークルとか・・・・・今一つ会話の中身は判らなかったが、だれかを陥れた
いので、そっちの人間に繋ぎを取りたいのだという事は判った。

”俺がやる”と言ってしまったのは、正直、口が滑ったに過ぎない。
昼に事務所のテレビで見たヤクザ映画が頭にあったせいかもしれない。
でも、女が目を輝かせるのを見たら
”俺はプロだ。今までに何回もヤバイ仕事をキメてる”と言ってしまった。
こうなったら、もう後には引けなかった。
それまでに見たヤクザ映画や兄貴達から聞いた話をちゃんぽんにして女に聞かせると、
女はいちいち感心して、尊敬の眼差しで自分の事を見てくれた。
いい気分だった。
最初に粉を掛けていた女は完全に引きまくっていたが、もう気にもならなかった。
”契約金は50万円。こういう話だから、全額前払いだ。”と言うと女は二つ返事で承
諾し、一時間ほど席を外すと金の入った封筒を持って戻ってきた。
本当に50万円入っていた。
彼が二月は遊んで暮らせる額だった。
女をホテルに連れ込んでやった後は、もう完全に暴力のプロになりきっていた。
もちろん、彼の頭の中だけの事でしかなかったが。

546 名前:百円ライター(3) 投稿日:2000/09/12(火) 20:04
”ある印刷所から出る、バリカン便のトラックが事故に遭うようにして欲しい”
それがその女の依頼だった。
女が言ったように、走行中のトラックの前輪を拳銃で撃ち抜く、なんて真似が出来る訳
はなかったから、何か他の手を考えなければならない。
人死にが出るのは避けたい、などと言われたような気もしたが・・・・・何、要は事故
が起ればいいのだ。手段についてはとやかく言うまい。
ふと、一つの方法が彼の脳裏に思い浮かんだ。昔、盗難車両の改造を専門に行う、その
筋の自動車修理工場でこき使われていた時に、教えられた方法だった。
確実性など全く無い、運と偶然に頼り切ったやり方だったが、彼にそのような点につい
て考えを巡らせる能力など、端から存在しなかった。
何も考えず、嬉々として彼は実行に移した。



彼のとった方法は単純極まりないものだった。
彼は依頼主の女から聞いた印刷工場に出向いて、同人誌の発送が開始されるまでじっと待
った。そして、運送会社のトラックがやってきて、本の積み込みを始めたトラックの中か
ら、細工が簡単そうな、一番古臭いトラックの下に潜り込み、前輪ブレーキのオイルホー
スに小さな穴を空けた。たった、それだけだった。
もちろん、穴の大きさも空けた位置も適当だった。
確かに、ブレーキオイルの油圧が下がって、ブレーキが効かなくなれば事故は起こる。
だが、本来ならば精々、ブレーキが効かずに軽い追突事故を起こすのが関の山だろう。
よほど、不幸な偶然が重ならない限りは・・・・・・。

547 名前:百円ライター(4) 投稿日:2000/09/12(火) 20:05
結論から言おう。
大事故が起った。
トラックは数合わせの為に運送会社の奥から引っ張り出されたポンコツだった。
ブレーキの異常を知らせる警報の類は元々付いてすらいなかったし、最初からあちこち
に故障を抱えていた。
ドライバーはベテランだったが、ここ数日の激務に疲れ切っていた。
その為、高速に乗るまでブレーキの効きが段々悪くなっている事にドライバーは気付け
なかった。そして、高速に乗った直後、このトラックに対して無理矢理追い越しを掛け
た馬鹿がいた。
正に最悪のタイミングだった。
トラックはいきなり飛び出してきたセダン車を避ける為に急ブレーキを踏み込んだ。
その日の朝に降った雪で濡れた路面、首都高速の抉れたアスファルト、同人誌の過積載
でずれた重心位置、そして止めに急ハンドルと急ブレーキ。悪い条件は重なっていたが
、これだけならば、熟練したドライバーは対処可能であっただろう。
ブレーキさえ、まともに効いていれば。
前輪のブレーキは右側だけに掛かった。ブレーキオイルの油圧が下がりきった左前輪側
のブレーキはドライバーの要求に応える術を持たなかった。
・・・・・破局が起った。
トラックは右前輪を軸に半回転しながら滑っていき、割り込んだセダン車に左側面から
激突、横転した。直後を走っていた二台目と三台目のトラックがそこに突っ込み、更に
二台の一般車両が衝突、大破。仕上げを行った。
なんとか、難を逃れた四台目以降のトラックの運転手と同乗していた印刷会社の人間は
悲惨な事故現場、そこに散らばった同人誌を呆然と見つめるしかなかった。
死者二名、重軽傷者八名。
首都高でも滅多に無い大事故だった。


548 名前:百円ライター(5) 投稿日:2000/09/12(火) 20:07
自分の部屋に戻っていた男はTV中継でその事故を見た。
冬の晴れ間、弱々しい太陽の下で横転しているトラックは確かに彼が手を出したあのト
ラックだった。
彼は狂喜乱舞した。
人生の中で、初めて彼が何かを成し遂げた瞬間だった。
”俺はもう、チンピラじゃない。でかい事をやれた。”
そう思える事が嬉しかった。
”祝杯を挙げよう”
そう思った彼は報酬の50万円を握り締めて、街へ飛び出した。
浴びるほど酒を飲んで、この素晴らしい日を祝いたかった。
・・・・・そして、二度と太陽を目にする事は無かった。
完全に泥酔した彼は、他の組の地回りと諍いを起こし、大立ち回りをした挙げ句、歩道
橋の上から落ちて死んだ。
まさに、チンピラにふさわしい末路だった。

彼は、同人や印刷会社に関する知識など皆無だった。
そして、プロならば必ず行う筈の下調べなど、全く行わなかった。
当然、同人誌の印刷を行う印刷会社が狭い地域に固まっている事も知らなかったし、そ
ういった会社が28日になると一斉に同人誌の発送を始める事など知らなかった。

彼が細工したトラックは、目標の会社に隣接した全く違う会社に来たものだった。
散らばり、炎上した同人誌は配置の関係上、一日目に回された複数の男性向け大手サー
クルの物が数多く含まれていた。
トラック三台分の同人誌が喪失した結果、これらのサークルは軒並み新刊販売数の減少
を余儀なくされた。(最も被害の大きかったサークルは、持ち込み予定部数3000に
対して手持ちで持ち込んだ100部のみとなった)
これに、男性向けを主に扱っていた大手同人印刷会社の夜逃げによる混乱も加わり、一
日目の男性向け大手サークルは開場後わずか一時間で軒並み完売、という惨状を呈する
事になる。
この事は、予想外の冊数減少と見込める収益の減額に慌てた転売屋達のあせりを呼び、
更に、混乱を目の当たりにする事になった東館館内担当の強硬論への傾斜を促進させる
事になった。
これらは共に、二日目に発生した混乱の一因となるのである。

結局のところ、彼は依頼を果たせないまま死んだ。
彼は自分の行いが最終的に何を起こしたのかを知らないまま死んだ。
何も知らないで死ねたのは、ある意味幸せだったのかもしれないが・・・・・。

彼は最後まで、チンピラ以外の何者にもなれなかったようである。

552 名前:219@改め手動筆記人 投稿日:2000/09/13(水) 02:12
2000.12.29 PM04:21 池袋ワールドインポートマート前

>>432から続き)
『…そ、そんなのその人を助けるに決まってるじゃない!』
なに当たり前のことを聞いてるの?とばかりに琴美は即座に言い返す。
「できるのか?いざ目の前に血まみれの人間が倒れていたとき、実際に
助けに動くことが出来るのか?この手が血に染まることを恐れずに!」
正通は半ば叫ぶように言い放ち、琴美の腕を強く握った。
『そ、そりゃあ、目の前に血だらけの人が居たら怖いよ。でも、だから
こそ助けてあげなきゃいけないんじゃないの?自分が何もしなかった
せいで人が死ぬとこなんて、あたし、絶対に見たくないよ!』
顔を真っ赤にして琴美は反論する。琴美がそう言うことは解っていた。
実家で飼っている猫たちが病気になった時、徹夜で看病をしていたのは
いつも琴美だったからだ。そして、居間からすすり泣く声が聞こえて
きた時は看病していた猫が天に召されてしまったということであり、
俺たち家族は眠い目をこすりつつ琴美を慰める言葉を考えながら居間に
向かうのが常だった。
『ねぇ、一体ここで何があったの?ただ同人誌売ったり買ったりしてた
だけなんでしょ?何で”暴動”とか”血まみれ”とか、そんな物騒な
ことが起きるの?ねぇ、何で?』
「確かにここで売っていたのはただの同人誌だ。でもな…」
そう言いかけたところで正通は口を閉じる。きっと琴美には解らない。
ただの同人誌に同人誌以上の価値を見いだしている人々が居ることを。
欲しい同人誌を入手するためならば手段を問わない人々が居ることを。
それは説明されただけでは理解できない、体験によって初めて理解できる
感覚的なものだった。長時間行列に並び、あと一歩という所まで前進した
時に目の前で完売してしまったときに感じる敗北感と、直前の人間に対す
る筋違いな憎しみと、あと少し早く並んでおけば良かったという後悔とを
一通り経験して初めて解る感情だった。
だから、きっと琴美には解らない。我ながら兄バカだな、と正通は思った。
「…その、同人誌を手に入れることに血眼になる奴等も居るんだ」
『だったら、また今度買えばいいんじゃない!今すぐ買おうとして大けが
しててもしょうがないじゃない!』
「そうやって自分の欲を抑制できるような奴等だったら、そもそも事故
なんて起きなかったさ」
これも予想していた通りの返答だったな、と正通は苦笑した。


553 名前:手動筆記人 投稿日:2000/09/13(水) 02:14
その事故の全貌を知る人間は未だ誰もいない。しかし、もしも2ch同人板
に書かれた情報を全面的に信じるならば、そのきっかけは開場直後に
入場待機行列中の誰かが携帯電話を掴みつつ叫んだ一言だったという。

「何いッ!?ミツミのAIR突発本が文化会館2階に有っただとぉッ!?」

今回"Cut a dash!"が配置されていたのはワールドインポートマート
4階A2・3ホールであり、普通に考えればそんなことは有り得ない
と切って捨ててしまえる情報だった。しかも、よりにもよってAIRだ。
「逝ってよし!」級のガセネタといっても過言ではなかった。
…だが、そうは考えなかった人間が居た。

文化会館4階から当日封鎖されているはずの、階下に向かうエスカレーター
へと急ぐ人影。当然、その行動はスタッフによって制止される…が、その
後ろに続いていた数百人にものぼる暴走集団を制止することは不可能だった。
スタッフの怒声は集団の中にかき消され、やがて聞こえなくなった。
欲深きハメルンの笛吹きに率いられた鼠たちは獣の詩を高らかに奏でながら
エスカレーターを駆け下りてゆく。そして、エスカレーターは膨れ上がって
ゆく欲に耐えかねたかのようにきしみ、ゆっくりと崩れ墜ちていった。
その懐に哀れな咎人たちを抱えながら。

死人が出なかったことだけが奇跡だった、と言われた惨劇はこうして
幕を閉じた。そして、その奇跡は文化会館2階で同時発生した惨劇に
対しても起きていた。
たまたま文化会館2階に配置されていた正通の友人が言うには”奴等は
俺が戦国大名なら褒美を取らせたくなるほど見事に密集隊形を保ちつつ
高速戦術機動を行っていた”と賞賛していた。もっとも”奴等は直後に
俺のスペースを蹂躙して個人誌も荷物もわやくちゃにして去って逝き
やがったから、全員市中引回しの上磔獄門だ”と湿布が貼られた頬を
さすりながら憤慨していたりもするのだが。


554 名前:字並べ屋 投稿日:2000/09/13(水) 02:14
2000/11/24 18:00

 こうやってモノトーンの群の中に埋没していると、なんだか一昨日の電話と
丹波さんの死ですら、現実でなかったように感じる。
 しかし、目の前の棺の中には、多分、僕が最期の言葉を聞いたのであろう丹
波さんが、静かに眠っている。
 ふと、周りを見回すと、その中には見知った顔が並んでいる。
 せめて通夜だけでも。誰もがそう言っていた。
 みんな、それ以上は何も言わなかった。みんな、何かを言いたかっただろう。
 でも、それを言うことは決して許されなかった。
 みんなが、丹波さんが守ろうとしたものを守るため、じっと我慢していた。
 そんな中に、穂波さんの姿はなかった。
 丹波さんからの最期の電話の後、穂波さんは僕の顔を一度も見ようとせず
に、あの整然とし過ぎた部屋を後にした。
 ただ、窓の外から聞こえてきた、自動車のタイヤの空転する音だけが、穂
波さんの気持ちを痛いくらいに教えてくれた。
 それから、毎日のようにあった穂波さんからの連絡はない。
 そんなことを考えている僕の横では、笹倉さんが目を赤く腫らせていた。
 怒り。悲しみ。笹さんの目から、そんな感情がこぼれ落ちていた。
 そんな笹さんの目が、じっと見つめている丹波さんの遺影の前には、色とり
どりの腕章。
 全部で8枚の、4年分にも渡るコミケットのスタッフ腕章、丹波さんががそ
の腕に巻いてきた腕章たちが、花と共に棺に収められるため、その出番をまっ
ていた。

 ……僕は、穂波さんが荼毘に付される前の丹波さんの棺桶に、特別に出力し
てもらった丹波さんのスタッフIDと、試し刷りで上がってきたばかりの59
の腕章……丹波さんにとって9枚目の腕章を、その中に入れてきたことを、コ
ミケット59が終わるまで知ることはなかった。

556 名前:手動筆記人 投稿日:2000/09/13(水) 02:17
文化会館2階へと急いだ正通が見たものは、延々と続いてゆく亡者の葬列
だった。誰もがどこかしらに傷を負い、血を流して座り込んでいた。
ガラスの壁面は、前衛芸術のように所々を紅く彩りながら砕けていた。
葬列は館内へと延び、先に行くにつれて赤の色彩が強くなっていく。
その終点には何もなかった。血の赤だけがそこにあった。
そして…

「売ってやがったんだ…」
『え?』
「あいつら、同人誌を売ったり買ったりしてやがったんだ。すぐ側に
怪我人が山のように倒れてるのに、あいつらは見えないふりをして
自分たちの即売会を続けてやがったんだ…」
認めたくなかったのかもしれないけどな、と正通は心の中で呟いた。
自分たちではない、極一部の馬鹿者達のせいでレヴォが終わってしまう
ことを認めたくなかったのだ。だから、彼等とは関係がない振りをして
いれば、そもそも彼等など最初から居なかった振りをしていれば、
自分たちは楽しい祭の中に居続けることが出来る。終わらない夢から
醒めずに夢を見続けることが出来る、と…
「もっとも、俺も大きなことは言えないんだけどな。俺は何も出来
なかった。そこにぼーっと立ってるのが精一杯だったんだ…」
正通もまた信じられなかったのだ。たかが同人誌即売会で流血の惨事に
まで至ってしまったことが。
夏コミにおいても大惨事に至りかねない事件が起きていたことは正通も
知っていた。しかし、3日目の西館に行っても事件の残滓はどこにも
見られなかった。後日、復旧した2ch同人板を見て初めて知ったほどだ。
それに、正通は彼等を助けると彼等と同類になってしまうのではないか、
と心の奥底で怖れていた。彼等と同じ周りの見えない、ルール無用の
悪党に堕ちてしまうのではないか、と…


558 名前:手動筆記人 投稿日:2000/09/13(水) 02:19
『…でも、お兄ちゃんは助けたんだよね、結局』
そう言って、琴美は正通の袖を引っ張る。そこには、幾分目立たなく
なってはいたが、べっとりとした染みの跡が残っていた。
『お兄ちゃんっていつもそうだから。口では嫌がってても、結局は
助けてくれるから。あたしが宿題で困ってた時も、チャトランが
屋根から降りられなくなっちゃった時も、今日、無理矢理家出して
来ちゃった時も…』
「じゃあ、俺は心を鬼にしてチミを田舎に強制送還したほうがいいん
だろうな、琴美のためにも」
『あ、今のナシ。だから許して、ネ?』
琴美は慌てて腕をばたばたさせながら答える。正通は苦笑した。
正通には琴美を強制送還させる気など元から無かった。

「…まぁ、俺も自力で正気に戻った訳じゃなかったんだけどな」
『正気、って?』
「俺のそばに、やっぱり呆然と立ってる奴がいたんだ。スタッフの
腕章を付けてな。で、俺は何だか腹が立ってそいつに向かって叫んで
やったんだ。”貴様、それでも誇りあるCレヴォスタッフか!”
ってな。しかもステレオで」
『ほへ?ステレオ?』
「俺のすぐ後ろにおっかねぇスタッフが立ってたんだ。全身黒づくめで
グラサン掛けてて。そんなのが館内全部に響くくらい大声で怒鳴るもん
だから、俺も思わず目が覚めた、ってわけだ」
『そんなおっかない人と同じことが言えるなんて、お兄ちゃん凄いよ』
琴美は何だかよく解らない理由で兄を誉めた。

結局Cレヴォは急遽中止となり、東京消防庁のレスキュー部隊が大挙して
出動してくる騒ぎとなった。そして、池袋ワールドインポートマート及び
池袋文化会館は以降同人誌即売会への貸出は一切行わない、ということが
決定された。
Cレヴォ準備会は、今までの規模を維持できるだけの大規模会場を借りる
ために法人化すべきか、規模を縮小してでも今までのように個人主催で
続けて行くべきか、で今現在も紛糾している、と正通は伝え聞いていた。
サンシャインクリエイションは、早々にビッグサイトクリエイションと
名を変えてサークル募集を行っていた。当然、サークル参加費は倍増した。
その略称を口に出すと、山田君に座布団を全て奪われてしまいそうな気が
したので作者は黙っていた。
そして11月12日に届いたコミケット緊急アピールを読んだ人間は、一様に
Cレヴォの事件のせいでコミケも終わることになってしまったのだ、と口々に
噂した。実際にはコミケットが終わることは8月の時点で米沢代表と一部幹部
の間で既に決定していたことだったのだが、それは一般人が知りうることでは
無かった。

『それにしても…』
琴美は、正通の服の袖を持ちながら眉にしわを寄せた。
『お兄ちゃん、ちゃんと服着替えてるの?漫画とかパソコンばっかし
買ってて服にお金回してないんじゃないの?だからお兄ちゃんモテない
んだよ。ユニクロでもいいからちゃんと服揃えたら?』
「馬鹿野郎!この服はたまたまだ。俺だって替えの服くらいいくらでも
持っている。みんなユニクロだけどな」
そう言いながら2人はクスクスと笑いあった。


574 名前:へっぽこー1号 投稿日:2000/09/13(水) 12:39
2000.11.11 17:10 都内某所
「よっしゃ!こっちは出来たぞ!」
柳田康一は思わず歓喜の声を上げた、サークル最後の原稿が出来たのだ。
ふらつく足取りで冷蔵庫の中にあるユンケルを取り出すが開ける事が出来ない、
当然である、昼は仕事で夜は原稿と言うスケジュールの為三日間寝ていない、それで
力が有り余っているほうがどうかしている。
ユンケルを諦め、相方の原稿に目をやる、ほとんど完成し、手も順調に動いている。
数分間ボーっと原稿に目をやる、不意に同人を始めた頃を思い出した。
元々レイヤーだった自分が何故同人誌を描こうと思ったのだろうか?今でも良くわからない
ただ言えることはこの作品が物凄く好きなのだ、それのみが糧、それのみが活力。
相方がペンを止め、力なく「終〜了〜」と言いながら後ろに倒れる、どうやら完成したようだ、
後は印刷所に持ち込むだけだが、まだ当落通知が出ていない、いや正確にはインターネットで
検索をかければ当落は解る、しかし最後のコミケは慣れ親しんだ封筒で判断したい
最後のコミケ、最初は20世紀最後のギャグかと思った位だ、しかしまぎれも無い事実
既にスタッフの手に終えない暴徒が多すぎる、このままでは何が起こっても仕方が無い
妥当な判断だ、が納得など出来る訳がない、レイヤーとしての私、同人作家としての私
それはココから生まれたのだ・・・これが親と子の離別みたいな物だろうか?
ずっとそんな事を康一は考えていた、いや夢を見ていたのかも知れない、
不意に玄関のほうで何かが投函された音が聞こえた、最初は夕刊かと思ったが思い出した
今日は当落の発送日なのだ、ここは丁度都内で同一区間なのですぐ届く
早速封筒に目をやる、間違いなく当落通知だ・・・配置場所が書いていない
落選である
今回は最後だからどうしても自分のスペースで来てくれる人を見ながら頒布したかった
ので委託はまったくやる気が無かった、つまり原稿は無駄になった
「まったくついてねぇ・・・」相方からどっかの映画主人公の呟きそうな
怨嗟の声が聞こえる、「仕方が無い、衣装作るわ・・・最後だから派手に決めるぜぇ」
しかし本当についていないのは康一の方だとはこの時は誰も解っていない。


577 名前:へっぽこー1号 投稿日:2000/09/13(水) 14:11
一応修正します、内容も肉付け致しましたがやっぱりヘッポコです。
2000.11.11 17:10 都内某所
「よっしゃ!こっちは出来たぞ!」
柳田康一は思わず歓喜の声を上げた、20世紀最後の冬コミ原稿が出来たのだ。
ふらつく足取りで冷蔵庫の中にあるユンケルを取り出すが開ける事が出来ない、
当然である、昼は仕事で夜は原稿と言うスケジュールの為三日間寝ていない、それで
力が有り余っているほうがどうかしている、この状態ではペンですら重い。
ユンケルを諦め、相方の原稿に目をやる、ほとんど完成し、手も順調に動いている。
数分間ボーっと原稿に目をやる、不意に同人を始めた頃を思い出した。
元々レイヤーだった自分が何故同人誌を描こうと思ったのだろうか?今でも良くわからない
ただ言えることはこの作品が物凄く好きなのだ、それのみが糧、それのみが活力。
相方がペンを止め、力なく「終〜了〜」と言いながら後ろに倒れる、どうやら完成したようだ、
後は印刷所に持ち込むだけだが、まだ当落通知が出ていない、いや正確にはインターネットで
検索をかければ当落は解る、しかし嫌な噂を聞いている、終わるコミケット
そんな噂が飛び交っているが、感覚として事実だと認識していた
そういう事情も有り最後(と思われる)のコミケは慣れ親しんだ封筒で判断したい
最後のコミケ、最初は20世紀最後に向けてのギャグかと思った位だ、しかし情報を
集めれば集めるほどそれはまぎれも無い事実だと痛感する。
既にスタッフの手に終えない暴徒が多すぎる、このままでは何が起こっても仕方が無い
辞めるのも妥当な判断だ、が納得など出来る訳がない、レイヤーとしての私、同人作家としての私
それはココから生まれたのだ・・・これが親と子の離別みたいな物だろうか?
ずっとそんな事を康一は考えていた、いや夢を見ていたのかも知れない、
不意に玄関のほうで何かが投函された音が聞こえた、最初は夕刊かと思ったが思い出した
今日は当落の発送日なのだ、ここは丁度都内で同一区間なのですぐ届く
早速封筒に目をやる、間違いなく当落通知だ・・・配置場所が書いていない
落選である
たぶん自分らのサークル自体も最後だからどうしても自分のスペースで来てくれる人を見ながら頒布したかった
ので委託はまったく考えては居なかった、つまり原稿はまるで無駄になった
「まったくついてねぇ・・・」相方からどっかの映画主人公の呟きそうな
怨嗟の声が聞こえる、康一は聞き流しながら、封筒を乱暴に開封する。
落胆しながら送られてきた物に目を通す、緊急アピールと描かれた文章は
予想していた事を形としてあわらしていた、解っていたとはいえなんともいえない
悲しみが走る。康一の表情を見てか、相方も急いで内容を確認する。
相方はインターネット等やっていなかった為、このことを予測していなかった
私も伝えては居ない、もし伝えたら今まで以上に無理をし、私に原稿を描かせるだろう
流石に5連続徹夜等やったら死ぬのは見えていた、今ですらこのありさまだ。
「おい・・・これは・・・」嗚咽ともいえないくらい詰まらせた声で聞いてくる
「ああ、今回で最後だった見たい・・・でどうする?」
自分で言っておきながら何を如何するかまるで解っていない。
 私は私の原点に戻る事にした、レイヤーとしての原点に
 「最後だから派手に決めるぜぇ」
 「俺はくたびれ損かよ・・・ついてねぇまったくついてねぇ!」
しかし本当についていないのは康一の方だとは神すらも知りえない事実だった。

579 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/13(水) 18:33
書いていたら結構長くなってしまいました。
でも書かないと区切りがつかないし。
今回は約30行に5分割です。

2000/12/30 11:49 東京ビッグサイト 西1ホール

なんだろう。さっきから嫌な気配をずっと感じている。
誰かが遠くから私を見ているような、そんな感じ。
「舞子ちゃん、気分でも悪いの?」
「あ、いえ、そういうんじゃないんです、明日花さん。なんかこう…」
「『ダークブレイカー』の気配を感じてるのね」
「…やっぱり、そうなんですか?」
≪まだ遠いが、だいぶ近づいてるな≫
オパール―机の上にディスプレイしてある銀色の猫(のぬいぐるみ)―が
テレパシーで話しかけてきた。

『ダークブレイカー』
この世界から「創造する力」を奪い去ろうとする闇の勢力。
そして、「創造する力」を護るのが私達『ガーディアンズ』の役目。

580 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/13(水) 18:34
1993/12/30 14:12 晴海見本市会場 西館

私、本宮舞子、小学4年生。
今日はとなりに住んでいる翔(かける)お兄さんと、
もういっことなりに住んでる澄子お姉さんといっしょに
コミックマーケットというのに来てるの。
翔さんはまんが家さんで澄子さんはイラストレータ。
今日は2人で作った本を売りに来たんだ。
交代でお店番して、今は私がお買い物をする時間。
「西館っていう赤い色の建物がいいんじゃないかな」って
翔さんに教えてもらって来たんだけど…

「あっ、このぬいぐるみかわいー」
机の上には紅茶色のギンガムチェックのクロスがかけてあって、
そこに銀色のふさふさした毛の猫のぬいぐるみが置いてある。
かわいいのでじーっと見ていたら、「気に入った? 触ってもいいわよ」って、
机の向こうに座っている高校生ぐらいのお姉さんが笑って言ってくれた。
「え、いいんですか?」
「いいわよ。そのかわり丁寧にね」
そう言ってぬいぐるみを渡してくれた。
≪汝、力を持つものか≫
ぬいぐるみを抱いた瞬間、誰かの声が聞こえた。
誰だろうと思ってまわりを見ても、それらしい人はいない。
「どうしたの?」
「いえ、今何か言いませんでしたか?」
「ううん、何も言ってないけど…。あなた『声』が聞こえたの?」
≪汝、我の声を聞きし娘よ≫
ぬ、ぬいぐるみがしゃべった!?

581 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/13(水) 18:35
びっくりしている私にお姉さんが言った。
「そう、あなたが守護者(ガーディアン)なのね」
「えっ? な、何のことですか?」
私の抱いていた猫のぬいぐるみが、ひとりでに宙に浮いて言った。
≪汝、創造者(クリエイター)を守護する者よ≫
戸惑っているとお姉さんが続けた。
「私は田浦明日花。ガーディアンを見つけ出すのが私の役目。
 そしてあなたがガーディアン。自由と情熱を護るガーディアン・ルビー」
≪そして私はオパール。汝の護るべきは『創造する力』。さぁ、これを受け取るが良い≫
私の前に、バレーボールぐらいの大きさの光の玉が現れた。
とても強い光だけど、私にはその中に何かあるのが見える。
白いマジックペンぐらいの大きさで、赤い石と金の飾りがついている。
「さぁ、そのペンを受け取って」
お姉さん、いや明日花さんに促されて光の中に手を入れる。そこは暖かくも冷たくもなくて不思議な感じ。
私がペンをつかむと光の玉は消え、それまで聞こえなかったまわりの音が、一度に戻ってきた感じがした。
「はれ? 今の、なんだったんだろう…」
でも、私の手にはペンが握られている。
「ねぇ、オパール…その猫さん、拾ってくれるかな」
明日花さんに言われて床を見ると、さっきまで浮かんでいた猫のぬいぐるみが落ちていた。
それを拾って明日花さんに渡すと、「ありがとう、舞子ちゃん」と言われた。
「えっ、なっ、なんで私の名前を知ってるんですか!?」
明日花さんはにこりと笑うとこう答えた。
「だって私はあなたを探していたんですもの」
はぅー、なんか大変なことになってしまったような気がする…。
「きゃぁー!!」
私がちょっと落ち込んでいると、後ろから悲鳴が聞こえた。
振り返って見ると、お店番をしている女の人の腕を、ぼさぼさ頭の男がつかんでいる!
「舞子ちゃん、早速出番のようね。さぁ、変身よ!」

582 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/13(水) 18:35
「へ、変身って…。それになんで私の出番なんですか?」
「さっきも言ったでしょう。あなたはガーディアン。『創造する力』を護る人なの。
 いま腕をつかまれている彼女、もうすぐプロデビューして、すばらしい漫画を沢山描くことになるの。
 でもこのままじゃ、彼女は漫画を描くのをやめてしまう。創造する力を失ってしまうのよ!」
なんだかよく分からないけど、困っている人を放っておくことはできないわ。
えぇい、いざとなったら女の子は度胸よ!
「ペンを高く掲げて、『ウェイクアップ ルビー・ガーディアン』と叫んで!」
「はい! ウェイクアップ! ルビー・ガーディアン!!」
私が光の筒に包まれると、掲げたペンの石から12個の同じ色の石が飛び出す。
それは石と同じ赤色の輝く帯を私に絡ませてゆく。
帯は私の体を包み、次の瞬間それがすべてはじけると、ガーディアンに変身した私がいた。
ペンは伸びて杖になって、私の手の中にある。
「人の迷惑かえりみず、わがままばっかりの困ったちゃん! そんなあなたは、逝ってヨシ!!」
私は杖をぼさぼさ頭にびしっと向けた。

ぼさぼさ頭はつかんでいた女の人を突き飛ばすと、私に向き直った。
『何だ貴様は! ブラックオニキス様の邪魔をするなら容赦はしないぞ!』
その声は到底人間の出せる声なんかじゃない。
そう思っているうちに、ぼさぼさ頭は熊のような姿に変わっていった! なっなによ、こいつ!?
「幻恐魔よ! ブラックオニキスのしもべ、『創造する力』を奪うものよ!」
≪ガーディアン・ルビー! 幻恐魔を倒すがおまえの使命だ!≫
「そ、そんなこと言ったって…、うわぁっ!」
私は幻恐魔に突き飛ばされて、近くの机ごと倒されてしまった。
≪ここでは周りの人達が危険だ。場所を移すぞ≫
オパールの体から虹色の光が放たれ、私たちを包む。
光が消えると高い建物―新館らしい―の屋上にいた。
『何処にいたって変わりゃしねぇ。お前を倒すだけだ!』
幻恐魔が私に向かって突進してくる!

583 名前:サンデーライター 投稿日:2000/09/13(水) 18:36
「チョーカーのルビーに手を当てて、『ルビー・レイ・ソード』よ!」
首に手を当てると、チョーカーの左の方に石がついているのが分かった。
「ルビー・レイ・ソードッ!」
手を当てているところから伸びる赤い光が、幻恐魔の右肩を捕らえる。
『ぐぅわぁぁぁぁぁっ!』
光が当たったところから緑色のしぶきが吹き出る。
≪今だ! 『ルビー・パワー・パルパライゼーション』を!≫
しっかりと目標を目で定めながら頭上で杖を回す。
「ルビー・パワー・パルパライゼーション!」
杖を振り下ろし、先の石を目標に向ける。
石からは赤と銀の光がらせん状に伸びて、幻恐魔を捕らえた!
『ぐふぅぁっ! こっ。このままで済むと思うなよぉぉぉっ!』
そう叫ぶと幻恐魔は塩の塊になって粉々に吹き飛んだ!

「は…、へ…」
私は一気に力が抜けて、その場にへたり込んでしまった。
「見事よ、ガーディアン・ルビー。さぁ、もう変身を解きましょうか」
「はい。スリープ ガーディアン」
ガーディアンの服が赤い光の帯に変わり、それが消えると元の格好の私がいた。
オパールと明日花さんは屋根の端から下の様子を眺めている。
≪しかし敵にここを見つけられてしまったな≫
「遅かれ早かれ、コミックマーケットが狙われるのは間違いないわ」
明日香さんは私の方へ向いて続けた。
「舞子ちゃん、これから少し大変かもしれないけど、一緒に頑張りましょう」
「は…、はぁ。それはいいんですけど…」
「…そうかしたの?」
「どうやってここから降りるんですか〜!?」
屋上の風は、ちょっと冷たかった。

585 名前:百円ライター@幕間劇 投稿日:2000/09/13(水) 21:13
28日 PM1:00 某印刷会社
ジリリリリーーン
ジリリリリーーン
「ったく、誰もいないのかよ。ハイハイハイハイ!」
ガチャッ。
「ハイ。お世話になっております。○○印刷です。
え、あ、はい。あ、この間はどうも。はい、営業の柿崎です。
いやいや、どうもどうも。御無沙汰してます。
いや、レボの時もなんとかなったとお聞きしてますんで。はい。」
「ええ。今日は私も駆り出されてるんですよ。まあ、こういう時期ですからもう猫の手も
借りたいような状況で、ハハハ、ええ。」
「で、今日はどういった御用件で・・・・・、え?いや、すいませんが、正月明け以降の
お話でしたら、また日を改めてお願いしたいんですが。
正直、今はそれどころじゃありませんので。
え?違う??」
「はあ!?今から、冬コミの新刊を!?いや、ちょっとそれは。一体、何が?
あ、事故ですか。新刊が。ええ。ああ、そういえば首都高の事故は聞いてますけどうち
は方向的に逆ですんで。はい。」
「ああ。手持ち分しかないんで、二日目に委託で出すと・・・・・。
ええ。いや、お話はわかるんですけどねえ。いや、お気の毒だとは思うんですけど。
まあ、御存知の通りウチも今日明日はもう一杯一杯まで仕事が入ってまして。
今回は特殊印刷も多いですから、ハイ、ええ、最後のコミケですからねえ。」
「いや、大口のお客様はいつでもありがたいんですけどね。ええ、わかります。
いや、しかしですね。うちも信用というものがありますし簡単にそんな事を出来るもん
じゃないんですよ。それにですね、言いにくいんですけどウチはお宅さまにはコミケ以
外の時しか御注文頂いてない訳でして。ええ。」
「小口のお客様にもねえ。長年、使って頂いてるところも多い訳ですから。はい?
いや、今後の事をお約束頂いても、コミケが終わった後はウチとしましてもなんとも言
えないですから・・・。」
「ええ、申し訳ありませんがそういう事ですので、すいませんが・・・・・・はい?
倍額!?いや、わかりますけど金額のお話じゃあないんですよ。いや、確かにウチも苦
しいですけどね。
え?違う?3倍!?
規程料金の3倍出す・・・・・。あの・・・・・あ、特急料金も含めて3倍ですか!?
あーーー・・・・・・・・・、いや、ええ、そうですね、はい。
ええ、いや、はい、わかります。
ええ・・・・・、ええ・・・・・、まあ、そうですけどね。」
「ああ・・・・・っと、わ・・っかりました。はい。社長には一応話だけでも。ええ。
はい?あ、これから、こちらに?
あ、即金ですか。ああ、用意できる?ああ、なるほど。はい・・・はい。」
「ええ、じゃあ、お待ちしてますんで。いや、絶対とはお約束できませんけど。
あ、今会場の方ですか。じゃあ・・・・・あ、車ですか。では、30分くらいですかね。
いやあ、うーん。」
「えーっとですね。じゃあ、すいませんがちょっと裏口の方に回って頂いて・・・・・。
ああ、私が立ってますから、はい。
いや、もし、他のお客さんとかち合うと、いや、ハハハハハ・・・・・。
はい、わかりました。はい、ではお待ちしてますんで。
遅れるようならば御連絡下さい。はい、では。」
ガチャン
「おいおい、まったく。本気かよ・・・・・。あ、おい、誰か。
 現場に行って、主任を呼んできてくれ。話があるからって。」
ピポパポ、パペポピ。
トゥルルルル、トゥルルルル。
「あ、もしもし。申し訳ございません。奥様でいらっしゃいますか。
柿崎ですが。はい、すいません。
 ・・・・・・・・・・。
 あ、社長。お休みのところ、申し訳ありません。
 いえ、昼勤の人間に問題があった訳では。
 ええ、ほぼスケジュール通りです。はい。」
「それでですね、今ちょっと、大きなオファーがありまして、いえ、明後日までに。
 ええ、・・・・・ええ。わかってます。
 ただ、金額がかなり大きいんで。4000部、特急料金で3倍払うと。
 ええ、男性向けですから。しかも、即金の全額前払いでということで。
 はい。ちょっと、私では判断が。はい。」
「とりあえず、30分後にはこちらに来るという事ですので、社長に来て頂けませんと。
 ええ、現場の方には変わる可能性があるとだけ言っておきます。
 はい、判りました。お待ちしております。
 は?・・・・・いやあ、奴らはオタクですから。
 自分の所為で他人が迷惑を被る事について、痛痒を感じるような連中じゃあありません
 よ。」

587 名前:へっぽこー1号 投稿日:2000/09/13(水) 23:57
前回の話は、577を踏襲しつつ、受け付け確認事に緊急アピールを知った
事でお願いします、多分このスレッドで一番へっぽこなお話をどうぞ・・・

2000 12 24 22:43
例年のようにカップルが外に歩いていると思うと軽いむかつきを憶えながら
柳田康一は冬コミへ向けて衣装の縫製を行っていた。
彼は裁縫が実は苦手だが意外と評判がいい、既成の服を切り貼りする事で裁縫の腕をカバーしていた
カバー出来た点とモデラーの友人の協力が有る為、小道具作りが完璧だからだ。
実の所は容姿がいいのが一番の理由だったりするのだが、如何せんオタク歴が長い為
その手の事にとことん疎かった、もったいない限りである。
気晴らしに手を休めてテレビを点ける、ニュースで昨日の大雪が原因の大渋滞の話を
流している、本当に今年は異常気象だ、異常なまでの夏の暑さ、秋の台風は近年まれに
見る規模で日本を襲い、今度はこの大雪・・・まさに世紀末と言うに相応しい
自然災害の連発、更にコミケ当日も雪と来ている、寒さも相当なものだろう。
もっとも今回のコスプレ衣装は黒いコートが主体なのでかなり防寒性に優れている
夏にこれのコスプレをしていた人が居たが今にも倒れそうだったのを思い出した。
ニュースが終わり、いつもながらのクリスマスソングが流れ出したのでテレビを消し、作業に戻る
「さて、後はこの衣装に血のペイントをして完成だ」
調合して血らしさを強調した塗料を衣装に上手く塗っていく
康一は一抹の不安を抱いていた、「同人から足を洗う」「コスプレを辞める」
学生生活も終わる為、コミケが最後とかそういうのは関係なく辞めるつもりだったが
やっぱり未練が残る、でも復帰した所でどうするんだ?もうコミケはないんだ・・・。
考え事をしながら作業をやっていた所為か塗料がはねて顔に付く
すぐに洗面台で鏡を見る、まるで返り血のように見える。
「なんか嫌な感じだな・・・」無表情かつ抑揚無い声でそう呟いた。
日付も変わり、外では雪が降っている、5日後、その嫌な予感が現実となった

596 名前:Jr 投稿日:2000/09/14(木) 15:13
(……えーと……)
(……そうだわ、これ、夏コミの……)

 「スタッフもさっさとシャッター開けちまえばいいのにさ、
  ほんっと手際わりーよな、ったく。なにやってんだか。」
 「いくら走るなとか言われてもさー、後ろから押されりゃ走っちゃうんだよ。
  しょうがないんだよねー。走らなきゃ自分が怪我するんだからさー。」
(責任転嫁じゃない……!)
 「速やかにご自分のサークルスペースにお戻りくださぁぁ……ぃ!」
(そう。後ろで叫んでたスタッフの人、声がかれて……)
 「俺、この後壁を8つもまわるんすよ〜。ノルマこなさないと〜、
  次からチケット貰えなくなっちゃうんで〜。」
 「いくら言っても無駄ですよね。散ってもまたすぐ集まり出すんだし。
  手ぇ出すわけにもいきませんしね、ははっ。」
(この人達、何でここにいるの……?)

喧噪と一瞬の静寂。――轟音と、混乱。

 「押すなっ!」「止まれぇーっ!」
 「おい、どけよ!」「割り込むなー!」
 「走らないで!走らないでって言ってるでしょ!」
(この後って…………あっ!)
(ダメ、止まって! お願いだから!)
(あの子がいるのよ!!)


『いやあぁぁぁーーっ………………』


597 名前:Jr 投稿日:2000/09/14(木) 15:14
2000 12/17 06:47
グランコート若宮 622号室

「はぁ……。」
ため息をつき、濡れた下着をカゴの中に放り出す。
杉名が着ていた寝間着は汗でベタベタだった。
「どうせ起きたら浴びるつもりだったけど……。」

昨夜読んだ冬コミカタログが、枕元に置きっぱなしになっている。
通販で頼んでおいたカタログが届いたので寝る前に読んでいたのだが、
あの出来事については、どこにも載っていなかった。強いて言うなら、いつも通り
マンガレポートの項に開場前に出来る大手の行列の事が載っているぐらいだった。
「なんで……?あんなに大事だったのに……。」
カタログを閉じ、あの事件の事を思い返して……。
そのまま眠ってしまったのがいけなかったのだろう。
"あの時"の夢を見て、目が覚めた時には汗でびっしょりだった。

シャワーを浴びながら、相方――霧沢桂一の事を考える。
「なあ、佳織……あのさ、買い物とか挨拶回りとか、全部頼んじまっていいか?」
4年近く一緒にサークル活動をしてきた相方は、警備のバイトをするつもりだと言った。
「桂一がやりたい事をやればいいよ。これで最後なんだからね……。」
その時はそう答えたものの、今では不安でたまらない。嫌な夢を見たせいかもしれない。
「もし桂一がああいう事に巻き込まれたら―――」

杉名はボディソープを染み込ませたスポンジで身体を洗っている。それは汗と一緒に、
身体にまとわりつく"何か嫌な感じ"を洗い流そうとしているようにも見えた。

599 名前:流れ書き 投稿日:2000/09/14(木) 15:43
12/25 Mon. 16:08 埼玉県南部 JR某駅前

「今日は本当、これのお客様が多いですよ」
 女性オペレーターが苦笑しながら、男が差し出した注文票を受け取った。
「そうでしょうね」
「毎年この時期とお盆前は多いですけど、今年は特に……埼玉の片隅にあるここでも、お昼には行列が出来るほどですし」
「それはそうですよ」
 男は自嘲気味に言うと、コートのポケットから財布を取りだした。
 そこには、弾丸が突き抜けることを許さないほどの紙幣がぎっしり詰まっていた――ただし、千円札だが。
「いつもマンガがどうたらというイベントだって聞いてますけど、どういうイベントなんです?」
 自分の職務をこなしながら、オペレーターは興味ありげに聞いた。
「ただの、オタクの集まりですよ」
「はい?」
「オタクたちが自分の欲望を叶えようとして、失敗したイベントですよ」
 なおも、男の自嘲気味な口調は変わらない。
「今回で、最後なんですよ。
 コミュニケーションを無視した自分勝手なバカオタクが暴走したせいで、今回が最後になったんです」
「最後……ですか」
 実感のない声で、女性は呟く。
 それもしょうがない。彼女には、このイベントの持つ意味合いも、規模も想像が付かないのだから。
「まあ……最後のお祭りを楽しもうと思いましてね」
 千円札を一枚差し出しながら、男は言った。
 既に、頭の中で計算は済んでいる。
「なるほど……あ、新木場駅から国際展示場駅まで往復2日間、合計で920円になります」
 千円札を受け取ったオペレーターは、チケット4枚を綺麗に揃え、封筒に入れた。
「……えっと、はい、80円のお釣りです」
 皿に封筒とお釣りを乗せながら、オペレーターはそれを差し出した。
「どうも、お疲れさまです」
 いつもしているみたいに声をかけて、男はゆっくりと自動ドアを開いた。
 そして、男は傍らにある看板を一瞥した。
『JTB 南浦和支店』
「もう、ここにもお世話にならないんだろうな……」
 感慨深げに呟きながら、コートから自転車の鍵を取り出す。
 雪に霞んで見える駅の人影はまばらで、運転見合わせのアナウンスが遠くから聞こえてくる。
 彼が幼い頃育った北国では常識的な大雪も、この地域では電車を止めるには十分だった。
 ここを走っているJR武蔵野線など、この大雪が始まっていの一番に運転中止が決定された。
 それどころか、都内の路線の多くも間引き運転などでダイヤは大きく混乱しているという。
「絶対、何かが狂ってきてる……」
 フードを被って、自転車の鍵を外す男。
 深く、一つため息をつきながら、男は自転車にまたがった。

600 名前:流れ書き 投稿日:2000/09/14(木) 15:44
 男の名は辻原雅人。
 齢19歳にして、既にコミケ歴11年を数えている。
 小さい頃……青森から埼玉の浦和に引っ越してくる移動中に、親から借りて読んでいた「L○GIN」という雑誌が、そもそものきっかけであった。
 それにはコミケの紹介が書いてあり、様々なサークルの紹介などもされていた。
 幸いにも、そのころは今のように同人誌以外のものを誇張するという風潮はなく、ただ純粋にコミケというものの存在を伝えていた。
 雅人は、その記事を見て身震いがする思いだった。
 ――自分の好きなゲームの本がいっぱいある。
 ――自分の好きなアニメの本がいっぱいある。
 ――本屋で買えない面白そうな本が、いっぱいある。
 アニメが好きだった彼にとって、それは『まだ見ぬ楽園』と呼ぶにふさわしい場所だった。
 なけなしの小遣いをはたいて、雅人は朝早くから晴海へと向かっていた。
 地図もなく、方向もわからない中で、幾度も道を尋ねていく。
 少し遠回りしながらも、雅人はどうにか晴海の会場へとたどり着き、喜び勇んで中へと入っていった。
「すごいやっ!」
『まだ見ぬ楽園』が『楽園』に変わる瞬間だった。
 自分の好きなアニメの本が、買い切れないほどある。
 それだけで興奮して、はしゃぎたくなった。
 実際はしゃいでしまい、スタッフから怒られたこともあったが、彼が求める本を見つける十分な場所だった。
 ……最後に、帰りの交通費まで使い切ってしまったというところが、やっぱり子供だったのだが。
 それから、彼は幾度もコミケに足を運ぶことになる。
 高校受験期はさすがに参加しなかったが、小学5年からほぼ毎回フル参戦というスケジュールを組んでいた。
 やがて、彼も読むだけでは飽き足らなくなり、サークル参加を決意する。
 中学三年、某魔法陣アニメに始まり、以後アニメ・ゲーム系多岐に渡って参加していった彼は、高校卒業間近にあるジャンルへと移った。
 彼の長年の夢であった、創作少年系。
 そして、美少女ゲーム系。
 ……それが、全ての歯車を狂わせ始めていく。
 美少女系のジャンルには、様々な狂信者達がいた。
 彼らには同人誌の理念など通じず、自分たちの欲望と「ファンとしてのステータス」のためなら、他の参加者などどうでもいい。いわば「客」であった。
 それは、サークルにもどんどん現れ始めていく。
 いわゆる「客」と「商売人」の関係が、いわゆる「3日目ジャンル」でだんだん転移していったのだ。
 サークル・スタッフのことを考えない一般参加者。
 一般参加者・スタッフのことを考えないサークル。
 彼はサークルをやっていく中で、その「誤った参加者」たちと出会っていく。
 最初は良かれと思いやっていたことが、彼のことを悩ませ、蝕み、ついには脳溢血という重病まで引き起こさせた。
 幸い軽い脳溢血で済んだものの、そのジャンルが嫌になった彼は、20世紀最後の夏コミを「一日目以外」欠席した。
 体の自由が利かない中での、一日目参加……それは、アニメへの郷愁がなせる技だった。
 参加したその日のうちに、彼は美少女系への訣別を決意していた。


601 名前:流れ書き 投稿日:2000/09/14(木) 15:44
12/25 Mon. 23:11 辻原家自宅・雅人の自室

「……偉そうなことカマしてんじゃねぇよ」
 パソコンの画面を見つめながら、雅人は舌打ちした。
 それから間を置かないで、彼はキーを打ち込んでリターンキーを押した。

ばよえーん > あ、俺そろそろ寝ます。コミケの原稿あるし。

 文字が表示された瞬間、マウスカーソルが「退室」を押していた。
「ふざけんなってんだ……」
 乱暴にマウスを叩きながら、カフェオレを飲む雅人。
 その目には、明らかに怒りの色が浮かんでいた。
「何が『コミケは中止して当たり前』だよ……」
 舌打ちして再びマウスを手にするが、まだ手の自由が利かないせいか、怒りのせいか、震えてカーソルが小刻みにぶれている。
 そもそもの原因は、彼の先輩の発言だった。
『コミケは終わっても当然』
『商売目的なら終わったっていいんだ』
『別の即売会に行けばいい』
 雅人がコミケベテランと知ってか知らずか、先輩はチャットの中で派手に立ち回りを始めた。
 そして、それに同意する者も多くいたが……彼らは、コミケに参加していない者……もしくはにわか参加者であった。
 参加していない者はまだ良かった。
 だが、にわか参加者の中には夏の「シャッター間際サークル突撃事件」に加担した者もいた。しかも、罪悪感もないのだから手に負えない。
 雅人は、そんな彼らに苛立ちを隠すことなくチャットを出ていった。
 ICQも切り、彼らとの通信手段を全て断つと、雅人は自分のHPの編集ページへと飛び、トップページの文をほとんど消し、

『当サークルは、今回のラスト・コミケをもって解散し、ページも閉鎖いたします。長年のご愛顧ありがとうございました』

 そう、書き換えた。
 先ほどまでいた自分のチャットルームへのリンクも切り、コンテンツは一切が撤去されている。
 既に決めていたことだったが、先ほどの発言を見て踏ん切りがついた彼の表情は、ある意味晴れ晴れしていた。
「これで、いいんだよな……」
 呟きながら、ウインドウを閉じる。
 冬のサークル参加をしていない彼にとって、それは「コミケ・同人との別れ」を告げるものだった。
『――これでいいんだ』
 ため息をつきながら、雅人は回線を切った。

 ぴろりろりろりろりっ

「ん?」
 突然、電話が鳴り始める。
 既に他の家族は寝ていたため、雅人が自分で取るしかない。
「はい、辻原ですけど」
『――こちらはNTT、キャッチホンサービスです。ただいま、1件、の、メッセージを受け取っています』
 キャッチホン2独特の電子合成音声が流れて、電話が切れる。
「何だよ、こんな時間に……」
 普通、こんな時間に電話をかけてくる人間はいない。
 常識的にもそうだし、友人達には携帯の電話番号を教えてあるからだ。
 メッセージの取り出し操作をして、受話器を耳に当てる。
『――あ、永瀬と申しますけど』
「永瀬?」
 訝しげに名前を呟く雅人の脳裏に、一人の少女の顔が浮かんだ。


604 名前:流れ書き 投稿日:2000/09/14(木) 17:44
12/26 Tue. 03:11 デニーズ南浦和店

「で、用事って何だよ」
 クランベリースカッシュを口にしながら、雅人は女性に悪態をついた。
「ねえ、相変わらず同人誌やってんの?」
「当たり前だろ。俺、同人が大好きだったんだからさ」
「そうだよねー。あんた、中学のときから『同人誌、同人誌』って言っていたし」
「そういう永瀬はどうなんだよ」
「あたし? あたしは……まあ、一度足洗ったけどね」
 苦笑して、女性――永瀬佳織は言った。
 ポニーテールに縁なしメガネ。
『変わらねぇなあ』
 と言って、雅人はポニーテールを引っ張ると、佳織は彼の胸に軽く拳を当ててじゃれ合った。
 中学時代の雅人にとって、唯一の同人友達だった佳織。
 だが、受験で情緒不安定に陥った雅人から、佳織は離れていった。
 卒業してから、4年ぶりの再会――もう会えないと思った雅人にとっては、どこか不思議な感覚があった。
「でも、やっぱり戻って来ちゃった。ジャンルもすっかり変わったけどね」
「今、何やってんだ?」
「うーんとね、創作少年」
「……は?」
「どう? 意外でしょ」
「意外も何も、お前幽遊とオリジュネだったろ?」
「うん。でも、なーんか創作がしたくてね。んで、あんたは?」
 そう言って、佳織はストローで雅人のことを指した。
「俺は、今はアニメと創作少年。ちょっと前まで、美少女系にいたけど……」
「どうしたの?」
 鬱屈そうな雅人の表情に、佳織は優しく問いかけた。
「……あんなの、同人じゃねえよ。自分の欲望だけが満たせればいい、バカな狂信者どもがたくさんいるしよ……」
「……何か、あったの?」
「何か、どころじゃねえよ……」
 雅人はスカッシュを再び口にすると、前のジャンルであったことをゆっくりと話し始めた。
「自分勝手なんだよ……なにもかも。
 自分のことしか考えてないから、しっかり考えてるサークルは損をする。いくら良質の本を作ろうとしても、権力を持っている奴が仕切ればそいつの独壇場になる。それに、一般は一般でハチマキやら何やらで変な格好をしてるし、隣のサークルに迷惑かけてんのに気付かない。
 それがどんどん飛び火していったんだよ……あるゲームがきっかけになって、それはもっと酷くなった。増加するダミーサークルに徹夜組、鉛筆書きでン千円ふっかけるバカサークル、『前に倣え』な、バカ参加者……
 その結果が……あの事件だ。人が潰され、サークルも破壊された……」
「……あの事件ね」
 佳織が、ゆっくり頷く。
「あんなの、俺らが一緒に行っていたときのコミケと……
 ……晴海のコミケと、違ぇよ」
『晴海のコミケ』
 その言葉に、佳織は強く反応した。

605 名前:流れ書き 投稿日:2000/09/14(木) 18:38
 晴海……「旧・東京国際展示場」。
 元々は「晴海国際貿易センター」と「東京国際見本市会場」の二つの会場だったのだが、コミケが巨大になるにつれ、その2つの会場を全部使用するまでに至った会場だ。
 今では南館を除き撤去され、その姿はもう見る影もないが……
 今のコミケとの何よりの違いは「平和」だったということだ。
 何より、今まで使用した会場での末路というものは悲惨なものだった。
 都立産業会館・台東館では、参加者が起こしたボヤ騒ぎにより追い出された。
 川崎市民プラザでは、コミケ準備会の分裂の余波により使用不可になった。
 幕張メッセでは、猥褻図画摘発と会場からの申し出で使用不可になった。
 このような中で、円満に去ることが出来たのは晴海……そして、大昔の四谷・太田・横浜だけと言える。
 準備会も遊び心を凝らしたり、一般参加者もサークル参加者も、スタッフたちも共に遊んでいた……そんな、空間だった。
 80年代後半から90年代前半の参加者にとっては、まさに「聖地」だった。

「……懐かしいよね、晴海」
「今のビッグサイトなんかとは、まったく違う……もし、あの時の気持ちをみんな忘れなかったら、きっとコミケだって中止には……」
「違うよ」
 言葉を続けようとする雅人を止め、佳織はまた苦笑した。
「え?」
「あの時の気持ちを持った人がいっぱいいても、きっと無理だったと思う……今のコミケって、新しい人が10万単位で参加してきてるんだもの。その人達にとっては、昔より今が大事なのよ」
「けど」
「辻原。あたしたちは、もう昔の人間なのよ」
「…………」
「認めたくないけど……所詮、昔のことを引きずってる人間なのよ。
 あたしだって、辻原と同じことを思ってる。けど、認めるしかないんだと思う」
「永瀬……」
「でも、辻原の言うこともわかるから。あたしも昔のコミケが好きだったしね。今のコミケはコミケらしくないと思うし」
 明るい口調に変わり、佳織は笑顔でココアを飲んだ。
「だけどさ、どうしても吹っ切れねぇんだよ……今回、ああいう奴らのせいでコミケが終わるかと思うと」
「だめよ、もっとポジティブに行かなきゃ。じゃないと、最後のコミケだって楽しめないわよ?」
 そう言われて、雅人は苦笑いしながらクランベリースカッシュを口にした。
「……それも、そうだな」
「でしょ? じゃないと、あんたらしくないって」
「お前にそんなこと言われるとはな」
 4年の月日が経って……そして、離れた人間とは思えない会話。
 雅人はそれに、懐かしさを覚えた。
「えへへっ。あ、それでだけどね、用事用事」
「あ、そうだったな。で、用事って?」
 さっきまでの思い雰囲気が嘘のように、雅人は明るく受け答えた。
「んーとね……冬コミまで、暇?」
「ああ、暇だけど?」
「だったら、ちょっと頼んでもいいかなあ」
「な、何だよ」
「ちょっと、原稿書いてくれない?」
「……は?」

606 名前:流れ書き 投稿日:2000/09/14(木) 19:28
「だから、原稿」
「ちょ、ちょっと待てよ。スペースは?」
 いたずらっぽく笑う佳織に、雅人は呆れたように聞き返す。
「もちろん取ってるわよ」
「どこでさ」
「創作少年」
「何を書けってんだよ」
「あんたの書きたいもの」
 雅人は、矢継ぎ早に答えを返してくる佳織にたじろきながら頭を掻いた。
「書きたい物って……今、そんなの別に無いし」
「ないならそれでもいいけど、でも、作品を書かないままコミケを去るなんて、なんか寂しくない?」
「確かに……それはそうだけど……」
 雅人の煮え切らない返事に、佳織はむっとしながら鞄からノートを出すと、何かをすらすらと書いて雅人にすっと差し出した。
「うん?」
 そこには、メールアドレスと電話番号、さらには住所まで書かれていた。
「原稿出来上がったらここに送って。原稿制限は用紙50枚で内容は自由。印刷とかはあたしがやるわ。あとは……辻原のやる気次第、かな」
「どうして……俺に?」
「え? だって、ねぇ……辻原って、あたしの最初の相方だしさ。最後のコミケぐらい、一緒に本出したかったし……前に作ってた本も、結局ポシャっちゃったしね」
「ああ……」
 過去に、二人は一緒に本を出そうとしたことがあった。
 いつもは正反対のジャンルを選んでいた二人が、偶然一致するジャンルにはまったのだが、それも雅人の情緒不安定によって自然消滅してしまったのだ。
「4年越し、か」
「まあ、時間も経ったし、もう昔のことはいいかなって思ったのもあるけど」
「あの時は済まなかったな……自分自身、どうしていいかわからなかったし」
「そんな、いいのよ」
 それから、二人の話は中学の頃の話へと移っていった。

「悪かったな、おごらせて」
「あたしは職持ってるからねー。学生で金欠のあんたにおごらせるのも悪いと思ったし」
「余計なお世話だ」
 じゃれ合い、つつき合いながら、デニーズのドアをくぐる二人。
「……うわっ!」
「きゃっ!」
 その瞬間、強い風が二人の顔に吹きかかった。
 例年の暖冬が嘘のような、鋭く冷たい冷気。
 そして、大粒の牡丹雪も弱まることなく降り注いでいる。
「……これでコミケ開催できるのかよ」
「ま、大丈夫でしょ。コミケには超能力者が来てるんだしっ」
「そういえば、そう言ってたら93年のコミケなんて晴海上空だけ晴れてたよなぁ」
「でしょ? まあ、最近はパワーが弱まってたみたいだけど、最後ぐらいは晴れてくれるわよ」
「そうだな」
 雅人と佳織は笑い合いながら、傘を開いた。
「んじゃ、ここまでか」
「そうね。滑って転んで、手を怪我しないよう、気をつけるのよ?」
「俺はガキかっての……んじゃ、またな」
「またねっ」
 手を振って、二人はお互い逆の道を歩き始めた。