【タイトル】348
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/05 17:13:20

2000 12/21 14:22 
東日本警備サービス 東京本社 第6会議室 

「諸君らも知っての通り、29日、30日と、大きなイベントの警備がある。 
 場所は有明の国際展示場だ。来場者数は数十万人に達すると聞いている。 
 大変な仕事になるとは思うが、今年最後の仕事と思って頑張って欲しい。 
 この後、班分けと現地での配置について説明を……。」 
主任の声が響く。霧沢はいつになく真面目に、その話に耳を傾けていた。 
(ははっ、大学の講義中にもこんなに真面目になった事はなかったよな……。) 

霧沢のサークル今回は抽選落ち、当初は一般で参加するつもりだった。 
欲しい本がある。挨拶したいサークルも。コスプレだって少しは見てみたい。 
だが「今回が最期」という、ある意味強迫観念に近い物が霧沢の頭にあった。 
「あんな事件で終わる事はあって欲しくないしな……」 
脳裏に蘇るのはC58の悪夢だ。飛び交う罵声と怒号、暴走する人の群、 
押し倒される机と散乱する本、そして、悲鳴と共に、人の波に飲まれていった少女――。 
ともすれば崩壊しそうなサークルスペースの中から、あの事件の一部始終を見ていた。 
そう、見ているだけだった。帰宅後、ネットの匿名掲示板で事件の状況を書き込んだり、 
準備会に真相を発表するべきだとの抗議のメールを送ったりもした。 
だが、あの瞬間には、あの現場では、霧沢は何もできなかったのだ。 

「たかが1人増えた所で、状況が変わるとは思えないけどな。 
 それでも、何の役にも立たないって事はないだろ……。」 
相方も納得してくれた。高校の頃からずっと一緒にサークルをやってきた仲だ。 
そしてあの現場にもいた。霧沢の考えていた事も全てお見通しなのだろう。 
買い物や挨拶回りは相方に任せ、自分は警備会社のアルバイトとして 
今回のコミケに参加する。残念ながらスタッフの募集には間に合わなかった。 

準備会から送られた資料を片手に、主任が説明を続けている。 
「……大野、牧野、立川。 以上の10名が、……うん?シャッター前? 
 詳しくは知らないのだが、このシャッター前という所に配置される。 
 あとは主催側、ええと、コミケット準備会か。そちらから説明があるはずだ。」 
(俺は他の場所か……) 
準備会から、シャッター前には精鋭を揃えてくれとでも依頼があったのだろうか? 
今名前を呼ばれた人間の殆どが正社員、しかもかなりのベテラン達である。 
(妥当っちゃ妥当だよな……俺みたいな新人アルバイトじゃあ……) 
「……山口、加賀見、霧沢。 以上5名は東館の入り口だ。 
 さて、少し休憩しようか。20分後に再開するからちょっと休んでてくれ。 
 あ、それとバイトの……霧沢、取りに行きたい物があるんだ。すまんが一緒に来てくれんか。」 

暖房の効いた会議室と違い、通路の空気は冷たかった。 
無理もない。窓からは雪が見えていた。もうクリスマスも間近だ。 
「あのー、さっきの振り分けの事なんすけど……。」 
「ん? どうした?」 
「シャッター前の人ってベテランの人ばっかすよね。 
 やっぱ準備会からそういう連絡があったんすか?」 
「ああ、私はこのイベントの事はよく知らんのだが、送られた資料には、 
 シャッター前という所には出来るだけ経験の豊富な人間を、という注意書きがあってな。」 
「やっぱり……。」 
「霧沢、このコミケットとかいうイベントの事を知っているのか?」 
「あ、はい。俺、割と前から参加してるんすよ。」 
「そうか……。よし、じゃあ君もそのシャッター前に行ってくれるか?」 
「え!?」 
「イベントの事を知っている人間がいた方が、あちらさんもやりやすいだろう。 
 事前のミーティングで色々と情報交換しなきゃならんワケだしな。 
 入り口の方が1人減るが……渡を行かせよう。彼には私から伝えておくから。」
.
【タイトル】357
【 名前 】Jr (348の続き)
【 日付 】2000/09/05 19:31:03

「解りました……。」 
「うむ。よろしく頼むよ。なんせこのコミケットというイベントの 
 警備は初めてで、解らない事も多いんだ。実際に参加していた人間が 
 いてくれるとなると、非常に助かる。……おっと、ここだ。」 
高島主任が足を止めたのは、本社ビルB3Fの片隅にある特別資材室の前。 
普段は全くと言っていいほど人の出入りが無い場所だ。 
高島は一枚のカードキーを取り出し、スロットに差し込む。 
さらに10桁の暗証番号と自らの社員IDを入力し、扉を開く。 
「随分と厳重なんすね……何が置いてあるんすか?」 
「見れば解るさ。ほれ、これだ。一式全部、第6会議室まで持っていってくれ。 
 休憩が終わったら、コイツの使い方を説明しようと思ってな。」 
「……!!」 
霧沢が目にしたのは、TVニュースで見るような機動隊の装備一式。 
特徴的なジュラルミンの盾、ヘルメット、ブーツ、etc……。 
「驚くのも無理はないと思うが……私の勘なのだよ。 
 どんなイベントかは知らないが、仕事の依頼に来た人間の表情や言葉、仕草……。 
 何かに追いつめられた人間のそれだった。普通の仕事じゃない様な気がしてね。 
 まあ、あれだ、使う機会がなければそれに越した事はないが、一応な。」 
あの惨事を直に目にしたせいだろうか? 驚きはあっても、疑問はなかった。 
(確かに……このくらい必要なのかもな。) 
「それじゃあ頼む。結構重いから気を付けてな。」 
「はい。あの、主任は……?」 
「…………まだ、持っていく物がある。先に行っててくれ。」 
高島の表情が不意に厳しい物になる。だが霧沢がそれに気が付く事はなかった。 

霧沢が出ていった後、高島は特別資材室の一番奥、更にもう一つ鍵のかかったドアを開けた。 
「これが納品されてから何年になるかな……たかが会場警備で使う物ではないが、 
 念には念をだ。そう、使う機会がなければ、それに越した事はない……。」 
先ほどの言葉をもう一度呟きながら、1つの箱を手にする。 
そこには”特殊電磁警棒 取り扱い注意”という記載があった……。
.
【タイトル】359
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/05 20:56:28

登場人物の簡単なまとめ。 

飯野健一 >>28 徹夜組。 
日野一朗 >>29 一般参加者? 
内周辺境伯、腕章夫人 >>105-107、>>125-127 スタッフ。 
飲料部支配人 >>105-107、>>125-127 バー「トップオブ有明」バーテンダー。 
桜井、井上 >>118、>>142、>>148 都バス運転手 
>>208-210と>>212の「桜木」は別の人物?(サンデーライター氏の補足きぼん) 

谷川進 >>120-121 統合警備保障特別警備隊、隊長。 
佐々木 >>120-121 統合警備保障特別警備隊、副隊長。 
由美子、奈津実 >>129 サークル参加者。 
巫女 >>140、>>279 コミケを影で支えてきた。超能力者? 
上田 >>169 某AMラジオ局レポーター。 
相沢和宏 >>170-172 サークル「世界庭園」の主宰。結構大手? 
園場 >>173 徹夜組? 
園場かぎり >>173 園場の妹。ダミーサークルチケット入場者。 
日高トオコ >>194-195、>>295-296 サークル参加者 
日高トキコ >>195 日高トオコの妹。入院中で手術間近。 
井上隆明 >>212 都バス運転手井上の息子で、スタッフ。 
吉村正通 >>219-220、>>294-296 サークル参加者。ジャンルは魔法少女アニメ。 
吉村琴美 >>219-220、>>294-296 吉村正通の妹。コミケは初めて。高校一年。萌え。(*´Д`)
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【タイトル】360
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/05 20:56:22

伊藤カスミ >>224 サークル参加者。 
久美 >>234 サークル落選? 
草堂京一 >>239-242 元サークル参加者。現在はオタク狩りグループの一員。 
橋本 >>245 共同購入グループのリーダー。 
楠見 >>245 橋本のグループの一員。 
田村 >>255 >>301 同人誌専門古書店の店員。 
黒沢、早瀬、館長 みつみ美里にハメられたスタッフ。(笑) 
M田、T本、S根 スタッフ。 
七海 >>299 サークル参加者。 
村中 >>301 同人誌古書店の店員。田村とは知り合い。 
飛鳥五月 >>342 サークル参加者。ストーカー気質の男をスケブで殴った人。 
森川 >>334 徹夜組。朝9時に帰宅してしまう。 
中森明 >>334 森川の知り合いで徹夜組。HNは「荒塩昆布」。帰宅途中に補導される。 
小紅あずさ >>342 飛鳥五月の隣のスペースの女性。五月のファン。 
霧沢 >>348、>>357 サークル落選。警備会社のバイト。 
高島 >>357 霧沢の上司で警備会社の主任。 
木谷 >>349、>>351、>>353 某社の社長。コミケの後釜狙い? 
大島 >>349、>>351 某社の副社長。 
由美、京子 >>352 コミケ初参加のサークル参加者。高校一年。 

間違いがあったら指摘して下さい。あとフルネームとか設定の追加も歓迎。 
そのうち表にまとめられればいいなぁ……。
.
【タイトル】411
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/07 15:27:20

2000 12/23 9:42 
東日本警備サービス 東京本社 1Fロビー 

(来ないなぁ……。) 
待ち合わせは9:30のハズだ。立川は決して時間にルーズな人間ではない。 
(一度連絡した方がいいのかな?) 
そう思っていた所に、タイミング良く携帯の呼び出し音が鳴る。 
昨日登録したばかりの番号から――立川の携帯からだった。 
「もしもし、霧沢? 立川だけど。今そっちに向かってるんだけど、この雪で……。 
 あと15分くらいかかりそうなんだ。悪いけどもうちょっと待っててくれよ。」 
「わかりましたぁ。」 
「すまんね。じゃ、後で。」 
電話を切って、外の風景に目をやる。一面の銀世界、とはいかないまでも、 
結構な量の雪が降り積もっていた。確かに都会のドライバーでは時間もかかるだろう。 
(明日はクリスマスイヴか。彼女の1人でもいればホワイトクリスマスとかいって 
 過ごせたのかなぁ……。ま、今年はどっちにしろ忙しくて無理だよな。) 

高島の判断でシャッター前部隊に入る事が決まった翌日、 
霧沢は特別ミーティングに呼ばれた。部隊の責任者である立川の携帯の番号を 
教えて貰ったのもその場での事だ。冬コミまでのほぼ毎日、このミーティングと 
外部との打ち合わせに時間を割くことになるらしい。まさしく”臨戦態勢”だった。 
霧沢以外のベテラン達は「昔を思い出すよ。」などと言っていたが……。
.
【タイトル】413
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/07 15:28:03

「おはよう。いやぁ、待たせちゃって悪かったね。」 
「あっ、立川さん、おはようございます。」 
「じゃ、行こうか。第3会議室だ。」 
通路を歩きながら、立川が話し始める。 
「ウチの会議は午後からだけどね、その前に来て貰ったのは、 
 コミケット準備会と統合警備保障との打ち合わせがあるからなんだ。 
 昨日の会議で霧沢が今回のイベントの事に詳しいって聞いてさ、 
 オレには解らない事もあるだろうし、居て貰った方がいいと思って。」 
「そ、そーなんすか。まあ、俺で役に立てるなら……。」 
口ではそう答えながらも、霧沢は驚きの表情を隠せない。 
原因は立川の口から何気なく出た、その会社名。 
統合警備保障といえば、東日本警備サービスと並ぶこの業界の大手、いわば競争相手だ。 
「はは、『何で統警が?』って顔だな。ま、無理もない。 
 オレだって最初にその話を聞いたときは驚いたさ。けど……。」 
「なんすか?」 
「一昨日、高島さんから説明受けたろ?アレの使い方をさ。要するに最悪の事態に 
 備えてるって事だ。しかも当日まで会議、会議、また会議……。 
 どういう仕事なのか、ある程度の想像はつく。とすれば、統警との協力体制も 
 まあ納得できない物でもない。あそこもウチと同じ、叩き上げの警備屋だからな。」 
「なるほど。」 
「打ち合わせは10:00からだから、すぐに――。ん、もう来てるか?」 
第3会議室の中から話し声が聞こえてきた。既に人が居るようだ。
.
【タイトル】414
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/07 15:30:05

「遅くなってしまって申し訳ありません。東日本警備サービスの立川誠です。」 
「統合警備保障の谷川進です。よろしく。」 
「コミケット準備会の穂波英彦と申します。……そちらは?」 
「ああ、霧沢と言いまして、ウチのアルバイトです。 
 新人ですが、今回のイベントを知っているという事で連れてきたんですよ。 
 ウチはその、コミケットの警備は初めてで、解らない事も多いので。」 
「霧沢です。よろしくお願いします。」 
「コミケを知っているという事は、参加経験が?」 
「あ、はい。5年ほど前からサークルで……。」 
「そうか。……これから、スタッフや警備の方の配置を始めとした、 
 運営に関する極めて重要な情報も当然ながら話し合う。 
 君にも知り合いのサークルや一般参加者が多くいるだろうが、 
 決して彼らにその情報が漏れる事の無い様にお願いするよ。」 
「あ、はい、それは承知しています……。」 
「うむ。それではこの資料を渡しておこう。当日の…………。」 

霧沢と穂波が話している間、立川はある事を思いだしていた。 
(谷川進……。特機隊時代の話を高島さんから聞いた事がある。 
 確か今は統警の新しいセクションで部隊を立ち上げたと……。 
 あの谷川が出てくるとは、あちらさんも本腰入れて動いてるってわけか。 
 高島さんの勘、どうやら当たりそうだな……) 
見れば、谷川が窓の外を眺めている。立川もつられて目をやる。 
雪は、まだ降り続いていた―――。
.
【タイトル】416
【 名前 】Jr
【 日付 】2000/09/07 15:36

ネギピロ氏と字並べ屋氏、お二方の作品の登場人物をお借りしました。 
しかし、他の方と比べて文体がいかにも素人っぽくてダメすね、俺の。 
精進します。(汗)
.
【タイトル】480
【 名前 】Jr <この番組は、東京アクセスの提供でお送りします。(笑)>
【 日付 】2000/09/09 06:54:03

これは、ある夢を抱き続けた者達の物語だ。 
彼らは自分たちの居場所が永遠であると信じていた。しかし―――。 

 「販停!? ちっ、やってくれるじゃないか!」 

 「もう3度目だ。これ以上無様な姿は見せられん。」 

 「更新されている? 何故? 誰が!?」 

緊急アピールの中でコミケの終焉が告げられた時、 
運命の歯車は確かに回りだした……。 

 「A4、120Pにテレカ付き。女王の最期には相応しいな。」 

 「伯、これで終わりではないの。それを願う人がいる限り。」 

 「そう、私の力もここまでね。有明の雪は……綺麗かしら……?」 

終わるコミケット。それは予定調和か、それとも破滅への道か。 
――この物語の結末は、まだ誰も知らない。
『お兄ちゃんの漫画、読みたかったな…………。』
.
.
【タイトル】596
【 名前 】Jr <sage>
【 日付 】2000/09/14 15:13:08

(……えーと……) 
(……そうだわ、これ、夏コミの……) 

 「スタッフもさっさとシャッター開けちまえばいいのにさ、 
  ほんっと手際わりーよな、ったく。なにやってんだか。」 
 「いくら走るなとか言われてもさー、後ろから押されりゃ走っちゃうんだよ。 
  しょうがないんだよねー。走らなきゃ自分が怪我するんだからさー。」 
(責任転嫁じゃない……!) 
 「速やかにご自分のサークルスペースにお戻りくださぁぁ……ぃ!」 
(そう。後ろで叫んでたスタッフの人、声がかれて……) 
 「俺、この後壁を8つもまわるんすよ〜。ノルマこなさないと〜、 
  次からチケット貰えなくなっちゃうんで〜。」 
 「いくら言っても無駄ですよね。散ってもまたすぐ集まり出すんだし。 
  手ぇ出すわけにもいきませんしね、ははっ。」 
(この人達、何でここにいるの……?) 

喧噪と一瞬の静寂。――轟音と、混乱。 

 「押すなっ!」「止まれぇーっ!」 
 「おい、どけよ!」「割り込むなー!」 
 「走らないで!走らないでって言ってるでしょ!」 
(この後って…………あっ!) 
(ダメ、止まって! お願いだから!) 
(あの子がいるのよ!!) 


『いやあぁぁぁーーっ………………』
.
【タイトル】597
【 名前 】Jr <sage>
【 日付 】2000/09/14 15:14:20

2000 12/17 06:47 
グランコート若宮 622号室 

「はぁ……。」 
ため息をつき、濡れた下着をカゴの中に放り出す。 
杉名が着ていた寝間着は汗でベタベタだった。 
「どうせ起きたら浴びるつもりだったけど……。」 

昨夜読んだ冬コミカタログが、枕元に置きっぱなしになっている。 
通販で頼んでおいたカタログが届いたので寝る前に読んでいたのだが、 
あの出来事については、どこにも載っていなかった。強いて言うなら、いつも通り 
マンガレポートの項に開場前に出来る大手の行列の事が載っているぐらいだった。 
「なんで……?あんなに大事だったのに……。」 
カタログを閉じ、あの事件の事を思い返して……。 
そのまま眠ってしまったのがいけなかったのだろう。 
"あの時"の夢を見て、目が覚めた時には汗でびっしょりだった。 

シャワーを浴びながら、相方――霧沢桂一の事を考える。 
「なあ、佳織……あのさ、買い物とか挨拶回りとか、全部頼んじまっていいか?」 
4年近く一緒にサークル活動をしてきた相方は、警備のバイトをするつもりだと言った。 
「桂一がやりたい事をやればいいよ。これで最後なんだからね……。」 
その時はそう答えたものの、今では不安でたまらない。嫌な夢を見たせいかもしれない。 
「もし桂一がああいう事に巻き込まれたら―――」 

杉名はボディソープを染み込ませたスポンジで身体を洗っている。それは汗と一緒に、 
身体にまとわりつく"何か嫌な感じ"を洗い流そうとしているようにも見えた。
.
【タイトル】103
【 名前 】Jr <writer_jr@anet.ne.jp>
【 日付 】2000/09/26 21:59:20

2000 09/26 22:00 
グランコート若宮 622号室 

デスクライトの灯りの下で、ペンを走らせる音が微かに響く。 

 9月26日 (火) 曇り 
  今日は桂一と一緒に出かけてきた。今日で閉鎖しちゃう高級レストランへ。 
  大学生の男女二人が、それなりの格好でレストランで食事してる所は、 
  周りから見ればやっぱりカップルに見えるのかな? 
  少なくともあたしはそう見られたかったんだ……でも、桂一はいつも通り、 
  冬コミの新刊を出すための取材みたいにしか考えてない。 

  冬もまた、夏と同じ制服系サークルで申し込んである。当落はまだ解らないけど……。 
  もし冬コミに受からなくてもサークルをやめるワケじゃない。 
  だから桂一が冬の新刊に対して熱心なのはいい事だと思う。 
  コスカフェ合わせの予定だった本は落としちゃったしね。 

  けど、少しくらい他の事にも……そう、例えば、周りの女の子に 
  ちょっとぐらい興味を持ってくれたっていいじゃない。 
  帰り道でも、あたしに大事な話があるって言うから期待して聞いたら 
  『なあ佳織、新刊のメインだけどさ、メイド系とウェイトレス系、どっちにする?』 
  って……。高校生の頃とちっとも変わってない。けど、あたしは結局そういう、 
  何かに対して打ち込む桂一が気に入って、今まで一緒にやってきたんだ。 
  たぶんこの先も…… 

書きかけの日記を閉じ、伸びをしてから大きなため息を吐く杉名。 

(あーあ、これじゃ中学生のお子さまだわ……。 
 この歳になって何やってんのよ、あたしは……。)

【タイトル】142
【 名前 】Jr <writer_jr@anet.ne.jp>
【 日付 】2000/09/29 23:08:20

2000 12/12 21:33 
環七通り 方南町交差点 

チェイサーのヘッドライトが、道端に残る汚れた雪を照らし出す。 

「えと、もうちょっと行くとファミレスがあるんで、その次のトコを左に……。」 
「ん、解った。」 
「でもホント、送って貰って助かりますよ。電車代浮くし。」 
「おいおい、交通費もちゃんと支給される筈だぞ。……ったく。 
 ……まあいいや。俺が用事があって行くんだから、このくらいはね。 
 本当は明日、霧沢に持ってきて貰えれば良かったんだけどな。」 
「すみません……。」 
「女の子か?」 
「はあ、一応。あ、でもそういうんじゃないっすよ。相方、じゃなくて 
 仲間というかパートナーというかなんというか……。」 
「なんだそれ……。お、ここだな。次を左ね。」 
「はい。…………あれです。あのマンション。あっ、車どうしましょう?」 
「いいさ、そこに停めておこう。」

【タイトル】143
【 名前 】Jr <writer_jr@anet.ne.jp>
【 日付 】2000/09/29 23:08:22

22:17 霧沢桂一の部屋 

「これがコミケの、えーと、パンフレットです。」 
「………………えらく厚いね。」 
「いつもそんなカンジですよ。あ、立川さんコーヒー飲みます?インスタントですけど。」 
「ん、じゃ頂くかな。待ってる間にちょっと読ませて貰うから。 
 ……うわ、細かいなー。あ、この写真は夏にやったっていう時の?」 
「あー、それは去年の冬の写真です。クリスマスと重なったんすよ。」 
「クリスマスの日でもこんなに人が来るんだ。……恋人同士で来たりするのか……? 
 しかし凄いな。そういや高島さんが数十万人だとか言ってたっけ……。」 
霧沢がカップを手にしながら苦笑する。 
(恋人ねぇ。いる人間は少ないんじゃないかなー。ま、人の事言えないか。) 
・ 
・ 
・ 
「……なるほどね、確かに大きなイベントだ。けど想像してたほど物騒でもないなぁ。 
 高島さんが甲種警備服の運用を決めるくらいだから、もっとこう、やばそうな物だと 
 思ってたんだけどね。だから統警が出てくるのも納得してたんだが……うーん。」 
「……」 
「あれ?何やってるんだ?」 
「他にも見て貰う物があって……立川さん、これ、読んでみて下さい。」 
そう言って霧沢が指を差したのは、デスクの上のモニターだ。 
モニターに映るのは、薄いグレーを背景に並ぶ番号と投稿文。 
それを読み進めるうちに立川の表情が強張っていくのが、霧沢には解った。

【タイトル】149
【 名前 】Jr <writer_jr@anet.ne.jp>
【 日付 】2000/10/01 06:10:12

12/13 00:35 

立川が愛車のハンドルを握りながら、助手席においた本とPPC用紙に目をやる。 
「道理で谷川進が出てくるわけだ。警視庁も絡んで……? いや、まさかね……。」 
無意識のうちに自然と漏れる声。不安に駆られているのだろうか? 
上司からの、普段ならあり得ないような物々しい装備の指示。 
そして競争相手でもある大手会社との協力体制。 
――それも、昔「彼が動けば特機が動く」と言われた人間が指揮を執っているのだ―― 
ある程度の想像はしていた。だから納得していたはずだった。だが……。 

徹夜、転売を始めとし、倒れた人間を躊躇無く踏み潰しながらの暴走。 
ボランティアスタッフを隠れ蓑にした共同購入。 
人気作家の本を入手するためには何でもやる人々。 
最後のイベントだというので殉死しようとする人間までいる。 
ほんの2時間ほど前に聞いたこれらの話は、立川にはとてもまともな物とは思えなかった。 

……既に彼の頭の中には「アマチュア漫画の即売会」という概念は無い。 
「今日の会議でこれをメンバーに見せて……昨日の資料と合わせて対策を……。 
 甲種装備の確認ももう一度やっておいた方がいいな……。」 

同時刻、霧沢は打ち合わせで会った谷川進の顔を思い浮かべていた。 
(おっかねー人だったけど……けど、なんか頼れそうだったな……。) 

「立川さん達なら……それにあの人達なら……」 
「……大丈夫、やれるさ。」 
霧沢が自室のベランダで。立川が運転席で。 
それぞれが同じ瞬間に呟いた言葉は、しかしお互いの耳に届く事はなく、 
冬の闇の中に溶けて消えていった。

【タイトル】148
【 名前 】Jr <writer_jr@anet.ne.jp>
【 日付 】2000/10/01 06:10:14

../test/read.cgi?bbs=doujin&key=969006158&st=142&to=143 >>142-143からの続き。 

12/13 00:30 

「それじゃあ、これは借りてくよ。 
 ……この内容、本当に信用していいんだね?」 
立川は分厚い冊子の他に、紙の束を抱えている。 
匿名ゆえにガセネタが多いと言われる掲示板の書き込みの中から、 
霧沢が自分の実体験に基づいて信用できると思われる文――その中には 
自身が書き込んだ物も含まれていた――を抜き出し、 
それをプリントアウトして立川に渡したのだ。 

「はい……俺は、実際この目で見てきたんで。それともう一つの方なんすけど……。」 
「もう一つ?ああ、自殺者が出たとかいう方か。」 
「さっき見たら、どうもマスコミにチクったとかいうレスがあって……。 
 煽りで、面白がってこういう事を書くヤツがいるんですけど、 
 ホントにやるヤツもたまにいます。もしかしたら明日の朝刊に 
 載るかもしれないんで、確認してみて下さい。」 
「……解った。」 
「あさってのミーティングにはちゃんと出られますから。それじゃ。」 
「もう明日だよ。……俺が思ったより長居したせいだけど。じゃあ、ありがとな。」

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