【タイトル】105
【 名前 】見習い文士
【 日付 】2000/08/23 00:50:23

23:40 Wednesday,27th,December 
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明− 

「伯、私はね・・・」 
内周辺境伯は視線を落としていたカクテルグラスから 
腕章夫人へ視線を戻す。 
「はい夫人、なんでしょう?」 

伯は自然と身構えていた。無理もない。 
前日設営の前夜に顔見知りの飲料部支配人から連絡を受けて、 
取り急ぎBSのバーに来たものの、そこは自分と支配人以外は 
全て仮面着用中のカクテルパーティーだったからだ。 
「マスカレードに呼び出されたつもりはないのだがなあ」 
ふと、そんな独り言が口を出た瞬間、 
「あら、伯、知らなかったの」 
と気品のある女性の声がした。 
(腕章夫人?たぶん、そうだろう。あの方だ) 
気を取り直して伯は言う、 
「いや、本職の方が忙しく予定を取り違えていたようです」 
「ところで、夫人、本日は高名な方がお揃いのようで」 
夫人、あまり興味をそそられない様子で口を動かした。 
「たぶん、準備会の上の方には察知されているとは思うけれど、 
みなさんコミケが好きでいらっしゃるから」 
そして、支配人がいるカウンターに視線を向けて 
「あなたもグラスを受け取ってらしてはいかが」 
と言い、更に視線を埠頭の灯台の方に向けた。
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【タイトル】106
【 名前 】見習い文士
【 日付 】2000/08/23 00:52:23

23:45 Wednesday,27th,December 
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明2− 

支配人と二言三言話し、伯は程なく理解した。 
ここにいるのは、かつて晴海のコミケットスペシャルに 
参加したことのある古参で大手のサークル達だった。 
もちろん伯や夫人のようなスタッフもいる。 
どこからともなく、しかし確かなルートでこの冬コミが 
最後のコミケットだと知り、集まったのだった。 

「伯、私はね、反発を感じてはいたけど、コミケットは永遠だと思ってた」 
無表情に夫人は言う。 
「私もですな」 
無表情に伯も返す。 

58の西館事故、57の解消されぬ最大手列、他オンリー即売会の暴走等。 
語るまでもない、猥褻・税金・著作権等の問題。 
そこには両側をかじられたリンゴのみがあったと言ってもいい。 

「伯、ニンジンは好き?」 
唐突に夫人は言う。 
「サラダ?ジュース?それともボイルか何かで?」 
伯はまずぼけることにした。夫人が何か言い出すときにはこちらから 
核心めいた部分には触れない事が暗黙の了解的になっていたからだ。 
「問題、いや話題になったサークルってどこかにニンジンがあったなあと思って」 
伯は言葉を補う。 
「ロリ、ショタ、・・・高い危険革命と切断ひとつ突進ですか?」 
「私としては下手な喩えかもしれないけど、なんとなくね」 
「ロリバニー、ショタバニーにキャロットですか?あまりピンときませんねえ」 
夫人は表情を変えない。コミケの事象を喩えきれるものではないというかのように。
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【タイトル】107
【 名前 】見習い文士
【 日付 】2000/08/23 00:53:23

23:55 Wednesday,27th,December 
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明3− 

支配人の振るシェイカーの音が静かに聞こえる。 
他には古参音楽系サークルのクラッシックの演奏がゆっくりと。 
改めて見回して伯は思った。 
(タキシードやナイトドレスの彼等を見るとは思わなかったな) 
彼らのうちの一人はなにやら無線機を使用しているようだった。 

「有明現本別室より有明現本」 
<こちら有明現本。別室どうぞ> 
「別室より現本、正式発足は0000か?」 
<現本より別室へ、予定通りで変更はない> 
<それより、3日遅れのクリスマスパーティーはどうか?> 
「こちらは何も・・・、タキシードでの無線機運用は007のようだがね」 
<そいつは結構、支配人にカクテルの出前は頼めないか? 
最後である以上、多少は高級な酒をのみつつ現本を運営したい。 
ウォッカのストレートはいささか飲み飽きた> 
「了解した、支配人に言っておこう。ところでなにか動きはないか?」 
<さあ、今回が最後か知ってか知らずか、冬なのに4ケタにのったところだ> 
「そうか・・・」 
<・・・なにぃ?本当か!?よしっ、移動局出せっ・・・> 
「現本?どうした?何があった?」 
<BS西館の奥の奥、ゆりかもめ操車場付近で花火を始めたやつがいるらしい。 
移動局を1局立てることに決めたが、そちらからは見えるんじゃないのか?> 

季節はずれの打ち上げ花火がひとつだけ花開いた。 
ラウンジバーであるここでは当然のことながら間近のように見える。 
これが、コミックマーケット最大最後の3日間ののろしになるとは、伯も、夫人も、 
支配人も、この別室員も、バーにいた全員も現時点では思ってはいなかった。
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【タイトル】125
【 名前 】見習い文士
【 日付 】2000/08/23 23:33:23

23:59 Wednesday,27th,December 
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明4− 

数分前の喧騒未満は程なく終わり、クラッシックも古参コーラス系サークルの賛美歌に 
自然と切り替わった。支配人が大仰に挨拶をし、室内の明度を落としていく。 
「本日のというか間もなくで明日になりますが、このマスカレードでの 
御挨拶はこの方にして頂こうと思います」 
支配人の言葉とともにその右手脇から現れたのは、館内にいるときと同じく威風堂々と 
したIさんであった。 
「えっ、あの方が」 
「そう、ラントレス・クランナー」 
伯の言葉に対し、すぐさま夫人は返す。 
ほぼ同時に似たような言葉のやり取りがバーの各テーブルで行われる。 
「あっ、い・・・」 
「無粋な事を言い為さんな、酒飲みにきたんですよあの方は」 
これはなぜか和服衆が集うテーブルで。 
「い・い・い(数文字削除)しゃ〜ん!」 
「バニーガールと高い酒という誘いに載せられたに2000モナー(笑)」 
こちらは現在でも女性向け外周大手が集うテーブルで。 
「やっべー」 
「おまえ、(数文字削除)さんになにしたのよ?」 
こっちは男性向け大手を長年続けている連中が集まるテーブルで。 

「みなさん、できあがってるようで、なによりで」 
「では、乾杯といきましょう、20世紀最後のコミケに」 
<最後のコミケに> 
「乾杯!」 
<乾杯!>
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【タイトル】126
【 名前 】見習い文士
【 日付 】2000/08/23 23:35:01

01:00 Thursday,28th,December 
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明5− 

伯は支配人に借りたマスクの位置をずらしつつ、奇妙な感慨を抱いていた。 
(たぶん知っているかもしれない、ということでははめをはずせないか) 
参加者達はそれなりに出来上がっており、賛美歌も古参ジャズ系サークルのジャズ 
演奏にと切り替わったところだった。 
I氏の飲みっぷりと遊びっぷりに到っては見ているこっちが真っ赤になるものではあったが。 

「夫人?なぜです」 
伯は多少意図的に酔ったふりをして夫人に言葉で絡む。 
「Iさんのこと?それとも?」 
アルコールの影響で多少顔を赤目にしながらも、それすら演技かのように返す。 
「どっちもです」 
大人気ないとは思ったが酔ったふりでもしないと思い伯は続ける。 
「なぜ、コミケは終わらなきゃいけないんですか?夫人」 
あらまあ、という顔をして夫人は多少興ざめしたかのように口を開く。 
「Iさんが来たのはただのゲスト、バニーとバニー以外も用意すると言ったら 
来ただけ。それではご不満?」 
伯、気おされつつも引かない。 
「そうですか、ではもうひとつの方は?」 
夫人、羽根付眼鏡をゆっくり外しつつワシントンホテルの方を見ながら、 
「どのみち、必要にはなってくる。その為の種子には誰かになってもらう。 
それさえできれば、終わらせてもいいんじゃない。好きな言葉じゃないけど、 
陛下の私物なんだし・・・」 
「なんだし・・・?」 
「死ぬまで祭りを続けていたいと願ってる連中がいる限り、本質的には終わらないと 
いうこと。終わらせるほうも、ひっそり引き継ぎたいと思ってるほうも死ぬまで 
祭りを続けていたいと思っているはずよ」 
そこまで言い切ると夫人は羽根付眼鏡を元の位置に戻した。
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【タイトル】127
【 名前 】見習い文士
【 日付 】2000/08/23 23:37:01

01:30 Thursday,28th,December 
−BS国際会議棟内のバー、ザトップオブ有明6− 

I氏が幾人かのうさぎ達−バニー−と階下に消えていくと、幾分か落ち着きが戻った。 
飲み過ぎのせいか頭を抑えている者、ソファーに横になりいびきを掻いて寝る者、 
コミケの最後で泣き始める者、説教を始める者、ねるコミを始める者、 
いちゃつく者、同人板@2chを見始める者・・・。 

「私、あがるわ」 
何時の間にかヒールの無い靴に履き替えていた夫人は、支配人からコートを受け取る。 
「行かれるんですね」 
支配人がグラスになにか注ぎ、置く。 
「本業があるもの。そこの伯と同じで。・・・ところで、このグラスは?」 
「ただのグレープフルーツジュースです。二日酔いで出勤は良くないと思いまして」 
「気が利くのね・・・。そこの伯と違って」 
「まあ、本業みたいなものですし」 
腰に手を当て飲み干す夫人。支配人はにこやかに微笑んでいる。 
「まあ、私もがんばるわ。支配人も早めに休んでね」 
「はい、私もキャロットジュースの用意をしませんと」 
「確かに、飲み干せるようにしなきゃいけないわね。でも・・・」 
「じゃがいもと違って芽は出にくい。育てるのは・・・」 
『簡単なようで難しい。できてみれば馬は食べるが、人は食わない奴もいる!』 
二人は途中から声を揃えて言い切る。にこやかな笑みとともに。 
「うぃ〜、勝手に盛り上がらないでくださいよう。ニンジンが同人誌なんて思ってるの 
スタッフでもあなたたちだけですよう。落馬すりゃ自分だって痛い目に会うかも 
しれないし、自分だっていつ馬になるかわからないんですから。自分好みのニンジンを 
見つけたら貴方達だって馬にならない保証はないでしょうに。み、みずぅ〜」 

秘密の前夜祭は終わり、前日設営という名の初日を迎える。時間を気にする人間が 
いれば、20世紀も何時の間にか100時間を切っている事に気がついたことだろう。
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