【タイトル】120
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/08/23 17:58

萌えるので漏れも参加させてくだちい 

二千十二年十二月二十九日午前八時二十六分  ガレリア 

「今日は今年一番の冷え込みだな・・・」 
統合警備保障特別警備隊隊長、谷川進は誰とも無く呟いた 
右腕の古傷がいつになく疼く 
「特別機動隊に谷川あり」と恐れられた現役時代 
赤門事件で負った怪我で引退せざるをえなかった自分を拾ってくれた統合警備保障で特警隊設立に尽力した日々 
定年まで後一ヶ月、使っていない有給の精算を含めれば今日が最後の「現場」になるのかと思うと妙な感慨があった 
「定年したら孫の世話して貰うんだから、煙草は絶対に止めてよね」 
娘にそう言われて少しずつ減らしていた煙草もついに最後の一本になってしまった 
特機隊時代から愛用している何の飾り気もないジッポでその最後の一本に火を点けようとする谷川の所へ副隊長の佐々木がやってくる 
「どうした仏頂面で?」 
佐々木の言いたいことは大体想像が付く 
「自分は納得がいきません!栄えある特警隊最初の任務がボランティア、しかもこんな連中の誘導だなんて」 
彼は若く優秀でこの仕事に対して誇りを持っている、その自負がこんな言葉を吐かせたのだろう、彼が憤慨するのも無理もないことだが 
「しようがないさ、奴らの基本理念だからな、参加させて貰うにはこちらから譲歩せにゃならん」 
何か言いたげな佐々木を制するように谷川は言葉を続ける
.
【タイトル】121
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/08/23 17:58

「それにこれはただのボランティアじゃない、あくまでテストケースなんだ」 
「しかし・・・本来特警隊の設立目的は「いついかなる状況下においても警察警備より強固な守りと安全を提供すること」じゃないですか要人警護や式典の警備ならともかく・・・」 
「だからこそ「ここ」なんだよ、自動車屋ならニュルンブルク、警備屋なら夏冬の有明ってな、特警隊がここで機能しないようなシステムなら特警隊が存在する意味がない」 
「・・・」 
「お前は今回が初めてかもしれんが、特警隊は今までに二回結成されてる」 
佐々木がそんなことは初耳だという貌をする 
「前回、そして前々回、何千通りものシミュレーションをこなし万全の体制で望みながら俺達は敗北した」 
「ここがどんなに異常な空間か解るか?シミュレーション上では絶対に起こり得ないことが、ここでは起こる」 
沈黙する佐々木 
「すみません、館内は禁煙なんですが・・・」 
「ああ、そうだったな」 
腕章を付けた娘より年下の「同僚」に注意され谷川は最後の煙草をもみ消す 
「どうにも年を取ると話が辛気くさくなるな、このイベントも今回で最後だ、負けたまま終わるのは面白くないだろう?」 
そう嗤って谷川は最後の職場、西館へ歩いていった 

年が明け、統合警備保障特別警備隊は三度解散を余儀なくされる 
そしてこれが谷川と佐々木が交わした最後の会話だった
.
【タイトル】170
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/08/25 18:02:20

2012/12/24 アーバンハイツ東十条 

「悪いね、コレ、お詫びのしるし」 
 結局指定時間より一時間も待ちぼうけを食わせてしまったバイク便の配達員に原稿と小さな封筒を渡す 
 中身を除いた配達員はそれまでのイライラを全て忘れ去ったかのような表情でさわやかな挨拶を残し部屋を後にする 
「結局完結は出来なかったか・・・」 
 少年創作系外周サークル「世界庭園」の代表、相沢和宏がネット断絶の自戒も込めて抜いていた電話線を繋ぎ印刷所に電話をかけようとすると、先に向こうの方から電話が掛かってきた 
「もしもし?ああ、山本さん、いつもお世話になってます相沢です、ええ、原稿の方は今バイク便で出しましたんで午前中には、いえ、いえ、いつも無茶言ってすみません、ええ、その辺は発注書の方に書いてありますんで、はい、中四日しかないですが宜しくお願いします、見積の方二時ぐらいまでにファックスして貰えばとりあえず半分は前金として入れますんで、はい、じゃあお忙しいところお手数かけて申し訳有りませんでした、いいえ、それでは」 
「世界庭園物語」 
 高校時代に友人のつきあいで出したA5の突発コピー本から始まって10年、のべ20冊1500ページ以上に渡って続いている連載、彼がゲームマスターをつとめるキャンペーンゲーム同様にアドリブにアドリブを重ねてとんでもない大長編になってしまった 
 これから畳み始めようかと思った矢先にコミケの終了の発表、発表する場が先に無くなってしまうとは皮肉な話だ 
 どのみち今回で活動は停止させるつもりだった、年明けに修論を提出してしまったら実家に戻って仕事を手伝わなければならない、社会人をやりながら・・・と言うのも考えはしたがコミケットが無くなるという一つの契機が僕を決断させた 
 勿論、今回で話を収束させるつもりだった、しかし10年かけて広げた風呂敷をそう簡単に畳めるわけもなく粘りに粘った原稿も結局は散漫で、しかも尻切れトンボになってしまった
.
【タイトル】171
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/08/25 18:03:10

 得難い多くの友人や決して少なくない収入を失ってしまうのは正直惜しい、今住んでいるこの部屋などバイト学生では一月も維持できないだろうし、この部屋にある電化製品や調度品をもう一度揃えようと思ったら社会人ですら相当な時間を必要とするだろう 
 他のイベントという選択肢は確かにあった、創作系を名乗る以上同好の士が集うコミティアは魅力的だったし、馴れ合いを徹底的に排し「自分達の手でイベントを作り上げていく」という自負と気概に満ちたオマエモナも好感が持てた 
「修士課程まで遊ばせて貰ったんだから、これ以上の贅沢は言えない」 
 もう何度繰り返したか解らない、自分を納得させる為の台詞を口にしながら、使い慣れたテキストエディタでHTMLを組んでいく 

「サークル世界庭園と世界庭園物語は個人的な事情により今回のコミケで活動及び連載を終了いたします」 
 ホームページにこの告知を出してから、果たして今までに何通の嘆願メールが届いたことだろう 
「やめないでください」 
「どんな形でも年に十数頁でも良いので続きを書いて下さい」 
「即売会に行く目的が無くなってしまったらどうすればいいのでしょう?」 
 自分が好きでやってきたことが、これだけの人々の心を、時には生き方さえ揺り動かしている、ここ最近のメールチェックの時間は創作者冥利に尽きる瞬間でもあり、又最も心が痛む時間でもあった 
 10分近く掛かってようやく全て受信し終えた「止めないで云々」と言った類の膨大なサブジェクト群の中で一通だけ目を引いたサブジェクトがあった 
「世界庭園物語は終わらせない」 

subject:世界庭園物語は終わらせない 

   もはや、この世界は貴方だけの物ではない 
   物語は、終わらせない
.
【タイトル】172
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/08/25 18:05

 たまに来る電波系の一種だろうとそのメールだけゴミ箱に捨て、他の全てをプリント処理スクリプトにドラッグし、組み終わったHTMLをブラウザに流して最後の更新分を表示確認する 
「本日最後の原稿を入稿しました、世界庭園最後のオフセ本です、皆様今まで有り難うございました・・・」 
 ネスケとIE、一応iCabでもチェックしてレイアウトの崩れがないか確認した上でFTPソフトを立ち上げ接続のボタンを押す、プリントアウトが終わったメールの束をプリンタから掴んで流し読みをしているといつもと様子が違うことに気が付く 
「FTPパスが弾かれる・・・?」 
 設定を確認して再度接続するが、やはりパスで弾かれる、サーバが落ちているというわけでもないらしい 
「一体何で・・・」 
 文字入力モードの確認やナンバーロック、Capsロックなどあらゆる可能性を検討しているうちに定期的に自動受信に行く設定にしてあるルータが新着メールの到着をランプで知らせる、受信してみるといつも更新するたびに丁寧な感想メールをくれる常連さんからだった 
 サブジェクトは「連載継続有り難うございます」 
「?」 
 僕が自分のページにアクセスしてみると、そこは僕以外の誰かの手によって更新されていた 

「皆様にはご迷惑とご心配をおかけしました、世界庭園と世界庭園物語はこれからも活動及び連載を継続していきます」 

つづく 

はず 
ゴメン、長い上に続きだ 
仕事中何やってるんだ漏れ(笑)
.

【タイトル】83
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/09/25 15:28:20

2000年12月 

本番前最後の拡大準備会 
結城仁史(ユウキヒトシ)の最後の配属部署は誰もが予想していた西館混対ではなかった 
普段は浦安の某巨大テーマパークで働き、混雑対応のスペシャリストとして知られた 
彼の硬軟取り混ぜた混対スキルは「C58のいわゆる大崩壊は結城がいれば起こらなかった」 
とまで言われるほど高度な物だ 
今回は千代田のやんごとないお方の件もあり人の出入りが比較的管理しやすい西館には 
意図的に多数の吸着剤サークルが配置されている 
西館で前回以上の混乱が起こるのは誰の目にも明らかだった 
だからこそ西館のスタッフは前回とは比べようもないほどの最精鋭が配置され 
結城の西館配属も代表とホール長の間で内々に話が付いていたはずだった 
(少なくとも結城はホール長から直接そう言われたのだ) 

「メアリ…対?」 
それが最後のコミケットで結城が配属された部署の名前だ 
正式名称は「ブラディーメアリー対策係」と言う 

代表の緊急アピールで突然の終焉を余儀なくされたコミックマーケット59 
寝耳に水のこの知らせに皆が混乱し 
抽選終了後はダミーサークルがスペース自体をオークションにかけるという事態まで 
引き起こした(そしてこれがかなりの値段で売れた) 
そんな中、当落報告やスペース売買弾劾スレッドが乱立する2ch同人版に 
ブラディーメアリーと名乗る人物が一つのスレッドを立てた


【タイトル】84
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/09/25 15:30:01

私は最後のコミケット開催期間中、衆目の前で自殺する 

1 名前:ブラディーメアリー 投稿日:2000/11/24(金) 01:14 
私達はコミケットが無くなったら生きていけません 
生きていても仕方がありません 
だから開催期間中に私達は会場内で自殺します 
冗談でも煽りでも荒らしでもありません 
私達は本気です 

当然のようにこのスレッドにはお決まりの駄レスが付いた程度で放置されていたのだが 
12月に入り突如事態は加速する 

17 名前:ブラディーメアリー 投稿日:2000/12/10(日) 03:28 
誰も信じてくれないので私達は行動します 
私達の内一人が今日ビックサイトクリエイション開催中に自殺します 
会場で死ぬと即売会自体が中止されるかもしれません 
だからナチュラルに中央線に飛び込むことに決まりました 
それだけでは疑い深い2ちゃんねらー達に信用して貰えないので 
飛び込む寸前に再度このスレッドをageます 
事故時間と照らし合わせてください 


192 名前:ブラディーメアリー 投稿日:2000/12/10(日) 11:36 
短期間の内にスレッドが育ってうれしいです 
さようなら 

果たして12月10日、午前11時37分、中央線中野駅にて予告通り人身事故が発生する 
遺体からは「女性である」と言うことしか判別できなかった 

馬鹿な厨房がこれをマスコミにリークした為、ブラディーメアリーの「予告」は 
爆発的に広まり衆目の目に触れることとなった 
当該スレッドは即刻削除、警察を初めとするあらゆる団体から準備会に対して 
異例の中止要請が出された 
準備会上層部は、急遽臨時の拡大集会を招集しスタッフ全員に二者択一を強いた 
「コミックマーケット59を断行するか中止するか」 
スタッフの意見はほぼ真っ二つに割れた、数の上では断行派が若干上回ったが 
上層部の殆どは中止派に回った


【タイトル】85
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/09/25 15:32:20

2000/12/27 <前日設営日> 

「全く迷惑な事してくれるよな」 
メアリ対の統括に任命された結城は前日設営のさなか独りごちた 
「でも、これだけはちゃんとやっておかないと、当日になってから対応するのは実際問題不可能だもの」 
後ろでビックサイトの図面に印をしていた統括補佐の堀之内未雪(ホリノウチミユキ) 
がそんな結城の独り言に反応する 
「まぁ、それはそうなんですけど」 
後何カ所回るのかを考えると頭が痛くなる結城だった 

ブース参画企業及び印刷会社組合からの圧力、宮内庁からの要請(年明けにも再留学するらしい) 
中止しても死ぬというブラディーメアリーの恫喝等々、様々な要因が考えられたが 
「最後のコミケットは最後までやり通します」 
と言う代表の発言でコミックマーケット59は問題を孕みつつ開催されることになった 

当日になれば万単位の体温で暑ささえ憶える会場内も前日設営中は勝手が違う 
搬入用にあらゆる扉が開放されたホール内はかなり寒くボールペンを持つ未雪は 
時折手で口を覆っては手を暖めていた 
「次は渡り廊下の防火扉、その前にトイレ周りか、今日中に終わるかな?」 
「かくれんぼするには最高の場所だな、ここは」 
「はいはい、途方に暮れない」 
結城達メアリ対の本日の仕事は「シーリング」だ 
人が隠れられるようなあらゆる場所(千代田区のお方の絡みで配管やダクトまで網羅した 
詳細な設計図面が準備会側にあったのは幸いなのか不幸なのか)の扉に業務用のビニール 
粘着テープを貼っていく、これを毎日点検することで不測の事態を防ごうという物だ

【タイトル】86
【 名前 】ネギピロ
【 日付 】2000/09/25 15:34:30

「衆目の前で死ぬって公言した人間が隠れて死ぬわけねーじゃねーか」 
充実感も達成感もない単調な作業に独りで居るとつい愚痴が出てしまう 
「結城君ちょっと良い?」 
丁度男子トイレをシールしていた結城に未雪が声をかけてくる 
「何です?」 
「ちょーっと気になる物見付けちゃったんだけど…」 
そう言って未雪は結城を女子トイレに強引に引きずり込む 
「ちょっと、未雪さん、まずいですって」 
「良いじゃない誰が居るわけじゃなし」 
「そう言う問題じゃないでしょう」 
「これ、このおりもの入れから時計の音がするの」 
確かにこぎれいな小箱から時計の秒針音のような物が聞こえる 
「これを俺に開けろっていうんですか?」 
「時計機能の付いたおりものなんて世界中何処のメーカー探してもないもの、絶対怪しいって」 
「開けて何もなかったら俺、変態じゃないですか」 
「大丈夫、誰にも言わないから、頑張れ男の子!」 
「頑張れって……絶対、誰も入れないでくださいよ」 
「つーかもしこれが爆発したら、俺は女子トイレで爆死するのか…」 
「ごちゃごちゃ言わないでさっさと開ける!」 

ビックサイト内に人の隠れられる場所はおよそ3000ヶ所にのぼり 
これを30人のメアリ対で点検すると言う地味な作業は前日設営時間を丸々費やして終了した 

「ご協力感謝いたします」 
本庁の爆薬物処理班長から敬礼され結城もぎこちなく返礼する 
「イヤーなんか私達感謝状貰えるって、地道な努力は報われるのねー」 
簡単な事情聴取を受けていた(第一発見者だから)未雪がニコニコしながら戻ってくる 
「アンタ何もしてないじゃないか!」 
<前日設営終了、特に異常なし> 


皆様お久しぶりです 
果たして三日分書けるのか?(笑)