【タイトル】520
【 名前 】素人さん@その1
【 日付 】2000/09/11 21:45:51
>518さん
ありがとうです。ではちょっと書き込んでみますね。
270さんごめんなさい。なくなったはずの企業ブースネタです(笑)
しかもスタッフネタ。(ちなみにぼくはサークルですのでほとんど想像で書いてます)
2000.12/28.9:08…
まだ誰もいない西4階。
「いよいよ終わるのか…」
不意に、男の声。テラスより聞こえる少し低いその音は静かに広がり、
そして消える。
「どうしたの?修(しゅう)君。まだ始まってもいないのに」
今度は女性の声。女性と言うよりは女の子、といった感じの幼さの残る声だが。
「ん…」
修と呼ばれた男─といってもまだ若い。20代前半であろうか─は振り向きもせずに
「なぎさか…。いくらなんでも来るのが早過ぎなんじゃないか?まだ9時過ぎだぞ?」
「それを言うなら修君もでしょ。こんな時間に誰か居るなんて思わなかったよ。」
くすりと笑いながらなぎさも返す。彼女は更に若く見える。実際は修と同い年なのだが、
年齢よりは若く、というより幼く見られる事が多い。
「ぼくはただ早く目がさめちゃってね。家でじっとしてるよりは誰も居ないここを見ていたかったんだよ」
「おまえ、まだ自分の事ぼくって言ってるのか。女なんだからやめろって言ってるだろ」
「そんな事言ったってずっとそうだったから、今更変えられないよ」
「だからガキっぽく見られるんだ」
「む〜。気にしてるのに」
「仕事でもその一人称は問題だろ」
「そんな事ないよ。ちゃんと『わたし』って使うもん」
「は。どうだか」
「ひどいよ〜」
怒ったような、笑っているような表情を浮かべるなぎさ。それを見て苦笑する修。
いつもの二人。そんな日常の風景。
(俺は……。俺達は変わらないよな。たとえコミケが終わっても)
ふとそんなことを考える。二人が出会ったビッグサイトのこの場所で。
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【タイトル】521
【 名前 】素人さん@その2
【 日付 】2000/09/11 21:47
「大体、そのカッコも似合ってねぇよ。七五三か?」
振り向いた修が言う。二人はスーツ姿だった。修はまだしもなぎさのパンツルックのスーツははお世辞にも似合っては見えない。
「ひどいよ、せっかく新調したのに」
「はは。悪ぃ悪ぃ。からかい過ぎたな」
だんだん不機嫌になっていくなぎさを見て慌ててフォローを入れる。
「まぁいいけど。別に今に始まった事じゃないし」
もういつもの調子に戻っている。怒ったり笑ったり忙しい女だ、と胸中で呟く。
「それより修君は?なんでこんな早くに?」
「概ねおまえと同じだ。ただ俺は早く起きたんじゃなくて起こされたんだけどな」
「だれに?」
「うちの部署の御大将に」
「あら〜。それはご愁傷様」
あまり同情した様子はない。
「なぁ。なぎさ」
「うん?」
「俺達…ここで会ったんだよな。三年半前」
「そうだよ。懐かしいね」
テラスの柵によりかかりながら修は呟く。
「あのとき…俺はもう企業対応部のスタッフだった」
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【タイトル】522
【 名前 】素人さん@その2
【 日付 】2000/09/11 21:50
なぎさがいぶかしげな表情を浮かべる。なんで昔話など始めるのだろう?
そう聞いているようだったがやがて
「ぼくはコミケ初参加一般だったよね」
話を聞いてみたい。普段無口な修が何を言うのか興味に駆られてなぎさが話に乗る。
「ああ。熱気にやられて倒れたなぎさを救護室まで運んだんだよな」
「今でも感謝してるよ。あのときの修君はやさしかったもんね。今でも覚えてる」
なぎさはそう言ってにっこりと笑う。
「忘れろ」
「あぁ〜、嘘うそ、うん、忘れたから〜。続きを話してよぅ」
口を閉ざしそうになった修を無理やり促す。
「ったく…」
照れくさそうにしながら修は先を続ける。
「俺はなぎさに会う前から…企業ブースが出来たときからずっと企業対応部だった。」
今だ二人のほかには誰もいない西4階。あと1時間もすれば企業の設営が始まり、
騒がしくなるだろう。
「…もともとはサークルと掛け持ちでスタッフをやってたんだ。当時は正直な話、下っ端だったよ。
大きな組織の一つの駒。いてもいなくても同じ。代わりはいくらでもいる。飽き飽きしてきたときだ。
コミケに企業ブースが出来るって話を聞いた。最初はなんでそんなものを、って思ったよ」
言って修は辺りを見る。
「もちろんここにはサークルが入ると思ってたしな。なんでわざわざんなもんいれるのか解らなかった。それで先輩に聞いたんだ」
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【タイトル】525
【 名前 】素人さん@その4
【 日付 】2000/09/11 22:07:01
「センパイって…。誠一さんのこと?」
なぎさが聞く。
「ああ。もとはといえばあの人に連れてこられたんだよ、コミケ」
「お祭り好きだもんね、誠一さん」
「当時から先輩は何故かすでに総本部の人だったからな」
「それで、なんて言ってたの?」
「答えは…自分で確かめてみろって」
「なにそれ?」
「実際に自分でやってみろ、そうすればイヤでも解かるってね。今考えればうまく乗せられたような気もするけどな」
「それでこの部署に入ったんだ」
「ああ」
「それで、修君の答えは出たの?」
「ん、そうだな。上辺だけの理由ならすぐに解かった。企業を取り込む…って言うと語弊があるか。まぁ、当時からあった著作権の問題をなぁなぁで済ますためだとか、単純に金の問題とか。ちょうど警備を強化するときと重なったからな。いい大義名分も出来たって感じだったけどな、そのときは」
「…なんだかあまり偉そうなものじゃないね」
「実際そうだろ。嫌われ部署だしな」
苦笑。実際設立当初から色々言われてきた。理念に反する、企業のせいで混雑する企業対応部の連中は役に立たない、企業ブース要らない…。二人の頭を色々な言葉がよぎる。
「ただ、必要無かった物だったとは思わない。確かに問題さえ起こらなければ要らなかったんだろうな、実際。ただ、世間であった事件なんかを考えると、用意しておかなければならなかった。必要悪みたいのもんか?俺はそう思ってる」
やはり苦笑しながら言葉を紡ぐ。
「俺は企業なんてどうでもいい。売ってる物にも興味ないしな。それよりは自分で本を 作ってる方がずっとすばらしい事だと思うし、今でもそう思ってる。ただ、誰かがやらなきゃいけなかったんだ。コミケが続く限りは」
言って、沈黙。いつのまにか、テラスより見える西1階アトリウムでは測量の準備をするために人が集まりつつある。
「…だが、コミケは終わる。もう無くなるんだとしたら、今から始まる最後のコミケット59企業ブースの必要性は?もう終わるものに果たして金や著作権の防御は必要なのか?」
「修…くん…」
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