グラップラーあゆ!
〜里村茜 VS 深山雪見〜 作:のろのろさん
〜これまでのあらすじ〜
これが私の制服だと言わんばかりに演劇部春公演で使用した
「ベルサイユのばら」のオスカルの衣装(ヅラつき)で登場した深山雪見に対し、
これが適量だと言わんばかりに蜂蜜練乳ワッフルを十枚以上食べる里村茜。
そのようにして試合前の前哨戦は終わり、遂に勝負が始まる。
持ち前の演技力によって茜の同情&油断を誘おうとした雪見であったが、
「・・・嫌です。」の一言の前に一蹴され、遂にバスティーユに倒れるオスカル。
だが雪見には、恐るべき秘策があったのだった・・・!
・・・ダウンしたまま親指を立てた腕を上げ、合図を送る雪見。
(澪ちゃん・・・やりなさい・・・!)
選手用通路にいる澪が雪見の合図を確認し、傍にいる何者かにうながす。
『さ、出番なの。』
澪と共に闘技場入口に現れる、若い男。
「つ、司ァ!!!」
茜が「えいえんのせかい」に消えたはずの幼馴染「司」の姿を認め、動揺する。
パチン。
茜と目の合った「司」が、親指を立てウインクする。
「違っ・・・!!」
ドカッ!
その隙を突いてオスカル雪見の起死回生のクォーラルボンバー(ラリアット)が炸裂する。
吹っ飛ばされダウンする茜。
『お疲れさまでした、なの。沢口さん。』
「お、俺、里村のクラスメートの南なんだけど・・・。」
自分の想っている茜に「司」ではないという事には気付かれても、クラスメートだということには気付かれなかった沢口。
「あの男はね、うちの演劇部で特殊メイクを施した沢口君よ。」
茜を引きずり起こしながら語る雪見。
「あなたは一瞬で見破った訳だけど・・・。」
「私にはその一瞬で十分だった。」
語りながら雪見が掛けたその技とは・・・・・・。
『パ、パロ・スペシャル―――――ッ!!完全に極まった――――――――ッ!!!』
・・・女学生に「パロ・スペシャル」を極めるオスカルという非常にシュールな光景を観客席から観ている真琴と美汐。
「あうーっ、美汐、『パロ・スペシャル』ってなに?」
読んでいるマンガの中に「キン肉マン」は無かったのか真琴が美汐にたずねる。
「・・・『パロ・スペシャル』というのはですね・・・。」
〜パロ・スペシャル〜
かの有名な「キン肉マン」においてウォーズマンの使用する必殺技。
比較的簡単に実行可能な上、肩を脱臼させる事もあるなど危険度も高い。
「キャプテン翼」のオーバーヘッドキックと並んで全国の純真な少年達(アホという説も有)を負傷させ、
PTAが最も恐怖したマンガ拳法のひとつである。
『ご丁寧な解説、アリガトオオオオオオオ!!さすがは『Kanon』の本部以蔵、天野美汐だァ――ッ!!!』
「・・・『博識』だと言ってください。」
遠まわしに「年寄りくさい」と言われた美汐が不満気につぶやく。
「き、『金・肉まん』!?帰ったら早速全巻買わなきゃ!!」
なにか誤解している真琴。
「この技はね・・・その性質上見せ掛けだけの技が多い『マンガ拳法』の中でも完全に別物よ。」
ぎしぎし・・・。
茜の両腕を極めあげるオスカル。
「ふふっ、あれだよ。あれこそ雪ちゃんの真骨頂だよ。私も何度やられた事か・・・。」
今まで散々雪見の「マンガ拳法」を制裁として喰らい続けてきたみさきが頷く。
「あ、あんなエゲツない事、私にも出来ないわ・・・!」
余りにもダーティーな雪見の「人間力」に圧倒されている広瀬。
(観客の視線が私に集中している・・・。)
(みさきのおまけでしかなかったこの私が・・・。)
(今はこんな格好してるけど、部長なのに春公演ではルイ十六世役だったこの私が・・・。)
(至福の時よ!)
今までの影の薄かった雌伏の日々を思い出し、うっすらと涙を浮かべる雪見。
そんな浸っている雪見の耳に茜のつぶやきが届く。
それは・・・
「ありがとう・・・ありがとうございます深山先輩。」
以外にも感謝の言葉であった。
「ええ!?」
スッ、スッ、スッ。
何事も無かったように技を外す茜。
「な、何ですってえ〜!!?」
「ま、まさかあのころを思い出してしまったの・・・?」
「・・・なにをそんなに怯えているの?」
突然ふるえ出した詩子を不審に思い尋ねるあゆ。
「司を『えいえんのせかい』に送り込んだ茜が目覚めてしまったとでもいうの・・・!?」
「え!?『みずかちゃん』ならぬ『あかねちゃん』?」
「・・・いいえ、そういう事ではないの。」
少し落ち着きを取り戻す詩子。
「茜は昔、格闘マンガが好きでね・・・。」
「・・・へ?」
〜過去 SUMMER〜
季節は夏。
空き地に三人の小学生くらいの子供達がいる。
「・・・どうですか?司。」
ガガガガガガガガガガガガガ!!
「ぎゃあああああああああ!!!」
前に差し出した両手の間に司の頭を挟み、左右の手のひらで激しくその頭を殴打する茜。
「ちょ、ちょっと、まずいんじゃないの茜?司、耳から血が出てるよ・・・。」
恐る恐る口をはさむ詩子。
パッ。ドサッ。
茜から開放されたとたん、崩れ落ちる司。
「『菩薩掌』・・・なかなかの威力ですね。」
そう言いつつ茜が取り出したマンガ「修羅の門」には、空手着の男が先程の技を使用しているシーンが描かれている。
「・・・さあ、それでは本日のメインイベント『キン肉ドライバー』いきますよ・・・!」
「ひいいいいいいい!!!」
そして季節は過ぎ、
紅葉が美しい秋・・・
じゃらじゃら、ぶんぶん。
「・・・ネビュラチェーンです。」
自転車のチェーンを振り回す茜。
「ぎゃあああああ!!チェ、チェーンがくいこむっ!」
「つ、司の肉が!」
雪がしんしんと降る冬・・・
がしっ、じゅううう。
「・・・爆熱ゴッドフィンガーです。」
剥き出しのホッカイロを司の顔面に押し付ける茜。
「ぎゃああああああ!!か、顔がっ!!!」
「つ、司の顔が低温火傷に!!」
新緑の萌える春・・・
ギャアアアアアアン!!
「・・・ステカセキングです。」
司にヘッドホンをかけ、音量を最大にする茜。
「ぎゃああああああああ!!!耳っ、耳がぁ!!!」
「つ、司の耳が低周波障害に!!!」
そしてまた夏が訪れても・・・
ぎゅうううううううう!
「・・・握激です。」
両手で司の腕を掴むと、雑巾を絞るようにそれを締め上げる茜。
「ぎゃああああああああ!」
ぎゅぎゅううううううう!!
「ぎゃああああああああああ!!」
ぎゅぎゅぎゅぎゅうううううう!!!
「ぎゃああああああああああああああ!!!」
フッ。
バタン!
あまりの苦痛に気絶してしまった司。
「・・・あれ?『パンッ』といきませんでしたね・・・間違ったんでしょうか?」
想定した結果との違いに不満げな茜。
「・・・詩子。」
「は、はいぃぃぃぃぃ!!」
気絶した司を冷たく見下ろす茜が、いつもの事ながらおびえている詩子に呼びかける。
「・・・捨ててきてください。」
「は、はいぃぃぃぃぃぃ!!!」
とばっちりを喰らう前に、司を引きずって逃げる詩子。
「私の求める真のマンガ拳法は、まだ遠いです・・・。」
・・・司を実験台とした茜のマンガ拳法研鑚の日々が続く中、茜達も中学生になった。
そしてそんなある日、いつもの空き地にて・・・。
「・・・司はどうしたのですか?」
いつまでたっても現れない木偶に対し、詩子に質す茜。
「つ、司なら、いつまでたっても家から出てこないのよ。」
「・・・あの頑丈な司でさえも、昨日の『マッスルリベンジャー(偽)』はきつかったのでしょうか・・・。」
「司、首まで地面に埋まってたもんね・・・。」
「・・・しかたないですね。では、また明日。」
しかし、何日たっても司が現れる事は無かった・・・。
・・・そして、司が現実の世界(茜のマンガ拳法)のつらさに耐えられず「ひきこもり」になってしまった事を茜達が知ったのは、
それから数週間後のことであった・・・。
「・・・それ以来、木偶がいなくなった茜はマンガ拳法をやめた・・・。」
「そして、司はまだ中学生のまま・・・。」
「そう、『えいえんの中学生』になったのよ・・・。」
遠い目をする詩子。
「うぐぅ、それって、単なるイジメじゃ・・・。」
「里村さん、あなた!?」
必殺のパロ・スペシャルを難なく外した茜に驚きを隠せない雪見。
「・・・あなたのおかげで、私が何を待ち、何のためにあの空き地に立っているのか、あらためて思い出しました。」
「そんなあなたと、私が司と共に研鑚を積んだマンガ拳法で試合いたい。」
ジャキィィィン!
どこからとも無く響いた効果音に乗って、なんともいえぬ構えを取る茜。
(小さい頃からみさきとさんざんやり合ってきた私とマンガ拳法で勝負を!?)
「さあ・・・深山先輩。」
〜次回予告〜
『な、なんだあの技は―――ッ!?』
「・・・こんなものでよければまだまだありますよ?」
百戦錬磨の雪見に対し、未知なるマンガ拳法を仕掛ける茜。
「ああ・・・いい気持ちだわ・・・。」
突然錠前作りを始める雪見。
闘技場の壁の上から仰向けに倒れた雪見めがけて飛び降りる茜。
「あ、あれは悪魔将軍の必殺技の・・・!!」
思わず解説をしてしまう美汐。
そして茜が・・・
「・・・深山先輩、今のあなたが今までの深山雪見の中で一番輝いています!!!」
〜つづく・・・か?〜