「障害者萌えの第一人者!川名みさき!!」
「甦った現代の寓話!野生の戦いこそがノールール!沢渡真琴!!」
ぱくぱくぱくぱくぱく・・・・・・。
闘技場に入場してもなおトーナメント仕出し弁当(五個目)を食べつづけるみさき。
その盲人とは思えない見事な箸さばきを見て、
「うぐぅ。あの人、本当に目が見えないの・・・?」
こちらも観客席でタイヤキを頬張りながら、思わずつぶやくあゆ。
ぴくぴく、くんくん。
鼻と耳をひくひくとさせ、あゆの方を向いてみさきがニヤリと笑う。
「うぐっ!?今のが聞こえたの?この大勢の中で!」
そして観客席に、みさきの笑顔を見て怯える女がもう一人。
「あ、あ、あいつは!!」
「おかあさん、どうしたの?」
突然取り乱した晴子を不思議に思い尋ねる観鈴。
「・・・観鈴。あんた、先月小遣いもらってへんよな?」
ふいに先月観鈴を襲った不運を語る晴子。
「が、がお・・・。そのせいで『期間限定ゲルルンドリアン風味』、飲めなかった・・・。」
「ま、まああんたの金の使い途については後で話し合うとして・・・その原因は、あの女や!」
闘技場で弁当を食べるみさきを指差す晴子。
「え!?な、なんで!?」
思いがけない晴子の言葉に驚く観鈴。
「あれは先月のある日のことや・・・。」
〜地下闘技場最大トーナメントから遡ること一ヶ月前〜
「ナハハハハハハ!もっともってこんか〜い!」
居酒屋で酒を飲みまくっている晴子。
「か、神尾さん。今日こそは支払いを・・・。」
おどおどと晴子に催促をする店主。
それに対し、
「ツケで頼むわ!」
いつもの答えを返す晴子。
いつもはこれで済んでしまうのであるが、この日は違っていた。
「・・・しかたがない。先生、お願いします。」
店主の呼び声で、奥から長髪の少女が一人姿をあらわす。
「・・・この人から飲み代をもらえたら、焼き鳥食べ放題なんだね?」
店主に確認する少女。
「はい。・・・お手柔らかにお願いします。」
「・・・なんや嬢ちゃん、うちから金取るいうんか?」
少女に絡む晴子。
「うん。やっぱりお金は払わないといけないと思うんだよ。」
「ナハハハハハ・・・。酒はな、ツケで飲むもんなんや!」
ガシィ!!
そのセリフと同時に、ツッコミという名の凄まじい逆水平チョップが少女の咽喉に炸裂する!
・・・が、微動だにしない少女。
(うちのツッコミが効いてない?タイミング、インパクトともに完璧だったはずや。常人なら昏倒、あるいは窒息しとる筈!)
ツッコミを喰らわせた咽喉元を思わず凝視する晴子。
(・・・あの咽喉(食道)か!あのどんな物を食べても詰まりそうにない強靭な咽喉がツッコミを吸収しよったんか!)
「うん、いいツッコミだね。やっさんも真っ青だよ。」
何事もなかったようにツッコミの寸評をする少女。
「〜ッ!ならこれはどないや〜ッ!!」
がっ、ぐびぐび。
少女の口にムリヤリ一升瓶をつっこみ飲ませる晴子。
ちなみにその一升瓶の中身は、空を飛ぶ翼人もその酒気を浴びただけで落ちてくるといわれるほどの銘酒、『翼人ころし』である。
ぐびぐび・・・。
少女に一升瓶全て飲ませた晴子。
だが・・・・・・。
その少女は平然と立っていた。酔った素振さえ見せない。
(酔わ・・・ない?)
ゴクリ。
緊張のあまり音を立てて唾を飲みこむ晴子。
「キャベジンブロックしてあるんだ。」
呆然とする晴子に語り掛ける少女。
「いにしえ(バブル全盛期)の営業マン達は酔いにくい身体を創るために胃壁にキャベジンを染み込ませたものだよ。」
ぐう〜〜〜〜〜〜〜うぅ。
そんな中、店中に響き渡る少女の腹の音。
「・・・そろそろお腹が減ってきたから、もう決めさせてもらうね♪」
ぐぐぐっ
弓のように後ろにしなる少女の身体。
晴子はそれを呆然と見ていることしかできない。
そしてその溜められた力が晴子の額めがけて解放され・・・。
ごい〜ん!!
少女の凄まじい頭突きが晴子に炸裂した!
ブンブンブンブンブンブン
回転しつつ宙を飛んで行く晴子。
バリ〜ン!
店のガラス窓をつきやぶり・・・。
ドシャア!!
「きゃあっ!」
「な、なんだ!?」
表通りに激突したところで停止した。
ガラララッ
吹っ飛ばされた晴子を追うように出入り口の引き戸を開けて居酒屋から出てくる少女。
そのまま倒れ伏した晴子に近付き、
がさごそ、がさごそ。
その懐を漁り、何かを取り出すと、
ガラララッ、ピシャン!
出てきたときと同じように店の中へと戻っていった・・・。
「・・・で、その後気がついた時には、有り金全部獲られとったというわけや。」
「何故か次の日にはその店、休業しとったけどな・・・。」
述懐を終えた晴子。
「でも、わたしのお小遣いが無かった根本的な原因は、おかあさんの飲みすぎじゃあ・・・。」
適切なツッコミをかます観鈴。
ボカッ
「が、がお・・・。」
「『おかあさんの仇はわたしが討つ!』くらい言えっ!」
・・・闘技場にて対峙するみさきと真琴。
「ふっ、あんたもついてないわね、いきなりこのあたしとあたるなんて。」
どういう根拠かよく分らないが、とにかく凄い自信の真琴。
ぱくぱくぱくぱく。
弁当を食べ続けるみさき。
「今のうちならまだ謝れば許してやるって言ってんのよぅ!」
ぱくぱくぱくぱくぱくぱくぱく。
まだ弁当を食べ続けるみさき。
「・・・あんたあたしの話ぜんぜん聞いてないでしょ!この〜!!」
ばしっ
「あっ、お弁当!」
ぼとぼと。
癇癪を起こした真琴がみさきの食べていた弁当を叩き落とす。
しばし呆然としていたみさきであったが、しばらくするとわなわなと震えだした。
「・・・お弁当・・・まだたくさん・・・。」
「ん?なに?」
なにかぶつぶつ言っているみさきを不審に思う真琴。
そして次の瞬間・・・。
「食べたかったのにィ!!」
大声をあげて嘆くみさき。
「わっ、そんな叫ばなくてもいいじゃないのよぅ!」
そのあまりの剣幕に驚く真琴。
「・・・でたっ!あのセリフッ!!」
観客席の雪見が思わず叫ぶ。
「人間は成長すると共にその欲望を理性で押さえていけるようになる。」
「しかし他人(ひと)の20倍食べるみさきはその食欲をそのままにッ!」
ぐるり。
真琴の方を振り向くみさき。
そこにはもう先程までの和やかな空気は無い。
「やっとその気になったみたいね。それじゃあいくわよぅ・・・って、わ!」
ブオン!
野生のカンで危険を感じた真琴が慌てて飛びのいた次の瞬間、
その頭があった空間を凄まじい勢いでみさきの頭突きが通り抜けていた。
「スッゲエ頭突きッ!」
「ジャブより速ええッ!」
そのあまりの凄まじさにどよめく観客。
「さすがは獣、いい反応してるよ。」
淡々と語りながら真琴に詰め寄るみさき。
その足取りには迷いが無く、とても盲人の歩みとは思えない。
「あ、あんた目が見えないんじゃなかったの!?」
思わずみさきを問い詰める真琴。
「うん、見えないよ。でもね、音や臭いでわかるんだよ。」
「特にあなた・・・真琴ちゃんだっけ?おいしそうな肉まんのにおいがぷんぷんしててわかり易いんだよ。」
「ひっ!!」
みさきの見えていない筈の目・・・自分を見詰めるその目が獲物を狩る猟犬のもののように見え、怯えてしまう真琴。
(こいつにはまともな手段では勝てない・・・。)
真琴の中の野生がそう告げる。
そして真琴はその己の野生に従い、恐るべき「イタズラ」を実行に移した。
「あ、あんたこの肉まんほしい?」
さっ。
後で食べようと懐で温めていた肉まんを袋から一つ取り出す真琴。
そのとたん、みさきの表情がパッと明るくなる。
「うん、もちろんだよ。お腹減っちゃってるからね♪」
「じゃ、じゃあ食べさせてあげるから、口をあ〜んとあけて。」
あ〜ん。
言われたとうり大きく口を開けるみさき。
だがその瞬間!
真琴は手に持った肉まんを袋になおし、その代わりにまた懐から取り出したねずみ花火に火を付けて
それを大きく開けられたみさきの口の中に放りこんだ!!
ぱしゅ〜っ、ばばばばっ!
みさきの口の中で激しく弾けるねずみ花火。
ばばばばっ、ばばばばっ、しゅう〜〜〜。
みさきの口の中のねずみ花火が動きを止める。
あまりの真琴の行動にしんと静まり返る闘技場内。
「あはははははっ。敵の言うことを素直に信じるからこうなるのよぅ!」
観客たちとは対照的にしてやったりの真琴。
「野生での戦いはこのトーナメントと同じで何でも有りの世界なのっ!あたしが勝つのは当然よぅ!」
口から煙を出したまま動かないみさきを見て己の勝利を確信し唄い出す真琴。
らヴぃ〜。
らヴぃ〜。
らヴぃ〜!
らヴぃ〜!!
真琴の勝利のドリアンソングがこだまする闘技場の中で、一人呟く雪見。
「だめよ・・・。そんなものじゃ。」
「あはははははっ、らヴぃ〜!て、え?」
先程まで口から煙を出して立ち尽くしていたみさきの姿が見えない。
そしてそのことに気付いた次の瞬間・・・。
がぶっ。
『か、噛みついた〜!KOかと思われた川名みさきが、沢渡真琴の手に噛みついた〜〜!!』
「ぎゃああああああああ!!いたい!いたい〜!!」
じたばたじたばた。
みさきを引き剥がそうともがく真琴だが、スッポンのように離れないみさき。
「ま、真琴ッ!肉まんを投げなさい!」
真琴の窮地に叫ぶ美汐。
「あ、あうっ!」
ポイッ。
噛まれていないほうの手で懐から肉まんを一つ取り出し投げる真琴。
パッ。パクッ。ムシャムシャ。
肉まんが投げられるとともに真琴の手を離れ、空中で肉まんをキャッチしそのまま食べるみさきの口。
そして、くっきりと真琴の手に残るその歯型。
「あ、あう〜、な、なんであんた平気なのよぅっ!」
「日常的にドンパッチ百袋を一度に食べるみさきにとってあの程度の花火、炭酸飲料を飲んだ程度のことでしょうね・・・。」
真琴の疑問に対して、観客席で独り言のように呟く雪見。
「ごめんね。なかなか肉まんくれないものだから、自分から食べにいっちゃったよ♪」
『こ、このセリフ!己が喰いついた相手に対するこのセリフッ!この人と水瀬親子が言うと洒落になっていな〜い!!』
「・・・お母さん。今日はおでんの日だねっ。」
「ええ、おでんの日よ。ちょうどいいおでん種も見つかったことですしね。うふふ。」
『ひいいいいい!!おでんはイヤ――――――ッ!!!』
微笑ましい親子の会話を聞いて何故か怯える解説者。
ぐう〜〜〜〜〜〜〜うぅ。
そんな中鳴り響くみさきの腹の音。
「スッゲエ腹の音ッ!」
「下品ッ!」
「・・・お腹が空いちゃったからその肉まん、全部もらうね♪」
ブンッ。
「あうっ!」
みさきの頭突きを間一髪かわす真琴。
ブンッ、ブンッ、ブンッ。
「あうっ、あうっ、あうっ!」
矢継ぎ早に放たれる頭突きと、それを野生のカン全開で辛うじてかわしていく真琴。
『鐘突きだッ!一撃でも喰えば必殺必至の除夜の鐘突きだッ!!』
「おでん種ショック」から復活した解説者が叫ぶ。
ブンッ、ブンッ、ブンッ。
「あうっ、あうっ、あうっ!」
ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ、ブンッ。
「あうっ、あうっ、あうっ、あうっ、あう〜っ!!」
ピタッ。
突然止まるみさきの頭突き。
「あ、そういえばさっきもらったの、おいしくなかったから返しとくね♪」
もぐもぐ、ぺっ!
びちゃ!
「あうっ!」
真琴の顔面に吐き出されるねずみ花火。
そしてそれが目潰しとなり、真琴の意識がみさきから外れたその瞬間・・・!
ごい〜ん!!
ついに地下闘技場に鳴り響いたたった一度しか鳴らす必要のない除夜の鐘。
ブンブンブンブンブンブン
ルーレットマン状態の真琴。
ドシャア!!
そして地面に叩きつけられたまま、ピクリともしない。
「ま、真琴ー!!」
美汐のその叫びで己の役割を思い出す小坊主。
「しょ、勝負有りッ!!」
『口の中にねずみ花火を投げ込む相手に対し、噛みつき、そして口の中のねずみ花火を目潰しに使うというヒロインにあるまじき暴挙!!』
『しかし審判団は反則の裁定を下さなかったのです!まさに究極!!地下闘技場最大ヒロイントーナメントルール!!!』
・・・もぐもぐ、むしゃむしゃ。
真琴から奪った肉まんを頬張りながら選手用通路を歩いて行くみさき。
「肉まん、ワッフル、バニラアイス、てりやきバーガー、そしてタイヤキ・・・。この闘技場はおいしそうな匂いでいっぱいだよ・・・。」
「素晴らしい・・・。今日は本当に素晴らしい日だよ・・・。こんなにたくさん食べられるなんて・・・。」
そんなみさきの前に立ちふさがるあゆ。
「あ、あんなの・・・。」
「ヒロインじゃないよッ!!」
その叫びを聞いたみさきは微笑みながら、
「あなたがあゆちゃんだね。タイヤキ屋のおじさんから話は聞いてるよ。」
「う、うぐっ?!あのおじさんから?」
いつも食い逃げをしている屋台のオヤジのことだと察するあゆ。
「タイヤキ百匹を報酬に『いつも食い逃げしやがるあのうぐぅを懲らしめてください!』ってね。」
「う、うぐっ!」
まさか自分がみさきのターゲットになっていたとは夢にも思っていなかったあゆ。
「さっきの真琴ちゃんも『いつも一個分の代金で二個持っていくゴンギツネに人間社会のルールを教えてください!』って頼まれてたしね。」
「キ、キミは一体何者なの?」
食べ物屋の店主たちから依頼を受けているというみさきについて尋ねるあゆ。
「ハンターだよ。」
「ハ、ハンター?!」
「そう。あゆちゃんたちみたいな人を捕まえる報酬として、そのお店の食べ物をもらうんだよ。」
ちなみに被害総額よりもみさきに対する報酬の方が多い場合がほとんどである。
「そしてなにより・・・。」
「なにより?」
オウム返しに尋ねるあゆ。
「わたしよりもたくさん食べる人は許さない。」
「う、うぐっ!!」
みさきの本気の迫力に圧倒されるあゆ。
「このまま勝ち進めば、あゆちゃんとは準決勝で対戦することになるね。」
またにこやかにあゆに語り掛けるみさき。
「それまで負けちゃだめだよ。タイヤキ食べられなくなっちゃうからね♪」
そう言うとみさきは、
ぐう〜〜〜〜〜〜〜うぅ。
「雪ちゃ〜ん、お腹空いた〜。」
「あんた、今食べたばかりでしょ・・・。」
腹を鳴らしながら、その場に立ちすくむあゆの前から去っていった。
・・・選手控え室に戻ったあゆが目をつぶりみさきとの対戦を想う。
「ボクが・・・ロリ系代表としてあの先輩と試合う・・・。」
がたがたがたがた
激しく震え出すあゆ。
「ヒロイン(人類)が相手という気すらしないよっ!!!」
〜グラップラーあゆ!「怪物vs野生」〜
〜完〜