グラップラーあゆ!
〜緊急! FARGO会議〜   作:えぬ

FARGO施設内にある、特別会議室。
その場所に、郁未、晴香、由依の3人が集合していた。
全体に殺風景なFARGO施設であるが、この会議室だけはまるで奈良そごう4階の水島会長専用室のように、豪奢なつくりになっている。

「早いハナシが…手も足も出ずに敗けた、と…」

高級なお茶をすすりながら、男は言う。

「しかも、二人掛りで。ふーん…」

ぞんざいに椅子に腰をかけながら、3人に声をかける白衣の男。
彼の名は、高槻。
B棟の責任者にして、現在FARGO宗団の権力の中枢にいる人物だ。

「ゲーム市場で老舗ブランドのゲームが、新興のブランドに不覚を取る…よくある話ではあるが」

「それはシナリオ性のないゲームの場合、言ってみればクソゲだからこそ起こりうること」

「シナリオの痛さと鬼畜度では地上No1と自負する『MOON.』…そのヒロインである、お前たちが…」

「よもや、地上のお嬢様ギャルゲーたちと似たり寄ったりだったとはなぁ…アハハハハ」

ひとしきり笑った後、高槻は真顔に戻る。

「コンシューマー移植ブームの弊害。
 いかなる大作ゲームであろうが、エロゲーの源流を遡るなら、
 真の目的地はスポットライトを浴びる家庭用ゲーム機ではない。
 さびしい一人身の男が人知れずやっている自慰の手助けこそが本番!!!
 いかなる評価、いかなる賞賛を得ようが、
 抜けないエロゲーなど無価値といって良い」

晴香はたまりかねて、高槻の首根っこをつかんでいた。
「だから私たちは、そんな連中に敗けてるのよ…」

しかし高槻は、晴香のその恫喝にもおびえることなく。
ベチィ!!
「離さんかァ、晴香ァッッッ!」
高槻の目に、じわりと涙が浮かんでいた。

「オレが一番悲しんどるんじゃ! キサマよりッ、キサマ等よりッッ、誰よりッッッ!」
高槻は号泣する。

「『MOON.』キャラの最強をッッ
 誰よりも信じたのはオレだ!!
 郁未を、晴香を、由依を!!
 誰よりも信じていたのはこのオレだッッッ!
 キサマ等に…
 このオレの無念がワカるかッッッ!」

「……」
郁未はすっと立ち上がった。

「どこへ行く気だ、郁未」

「高槻さん、ごめん…」
郁未は振り返らずに答える。

「高槻さんが、正しいわ…」
そう言いながら、静かに会議室のドアを開けた瞬間。


「ちっす…」

ドアの向こうから、長身の少女が現れた。

「おはこんばんちは…」
かなりの死語を口にしながら、中にあがりこむ。

「け、警備の巡回員どもは…?」
「警備の巡回員…?」
小首をかしげる。

「ああ」
ぽん、と手を打つ。

「あの、役立たずの方たちですか…」

ドアの向こう側に、巡回員たちの躯が転がっていた。
「……」

少女は、スカートのポケットから、おもむろに封筒を取り出した。

「お米券は、お好きですか?」


そのとき。
「探しました…」

背中をそっと叩く者がいた。
すらりと長く伸びた金髪が美しい、女性だった。

「!」
長身の少女は振り返る。
金髪の女性は、その手からお米券を奪い取った。
そして、そのまま長身の少女を押し倒し、先ほどの少女の言葉をそっくり返す。

「お米券は、お好きですか?」

「まるで、別人のよう…」
組みしかれたまま、つぶやく長身の少女。

「里村…茜さん」
「鹿沼葉子ですっ」
ちょっと怒る、金髪の女性こと葉子さん。

「ともかく、勉強になりました…」

マウントポジションから、葉子さんが語り掛ける。

「わかっていませんでした、萌えキャラとヒロインの違い…」

「テーマ曲はあっても、シナリオはありませんでした」

「それを教えてくれたあなたに、礼をいいたいのです」

(いったい、この二人に何の因縁が?)
晴香は思う。
ただ何にしても、長身の少女に対して、圧倒的優位なマウントポジションをとっていることは確かだ。

「鹿沼葉子! そこだ、レズシーンに持ち込め!」
興奮して叫ぶ高槻。

「…ここでえっちなシーンにならなかったら、もうエロゲーキャラじゃありませんね…」
つぶやく葉子さん。

「そして、私は…」
葉子さんの顔は、暗い影を帯びていた。

「エロゲーキャラじゃなくて構いません」
葉子さんはえっちなシーンに持ち込む代わりに、お米券に火をつけた。
「…………うわ」
長身の少女は、どうやらかなり慌てふためいているようだ。

「郁未さん…私は、間違っているでしょうか?」

「…間違ってはいないわ」
郁未は腕を組みながら答える。

「エロゲの本懐は、鮮やかな絵でプレイヤーを興奮させることじゃないわ。
 たとえみっともなくとも、売れること。
 売れないことには、話題にもならないわ…」

「わたしたちのゲームはあまり売れなかったからこそ、知名度が低いんだけど…」
そんな晴香のツッコミはスルーされた。

「ところで、どうするんですかぁ、この人?」
気絶する少女を横目に、由依はたずねる。

「とりあえず、ClassD行きだな…」
いやらしい笑みを浮かべる高槻。

しかし。
「はぁっ!!」
突然晴香は、倒れている長身の少女に向かって、蹴りを繰り出した。
しかし少女はその攻撃をよけて、おもむろに立ち上がった。

「いい攻撃…」
頬に手を当てて、つぶやく少女。

「それで…私はどなたをお相手にすればよろしいのでしょうか…?」

「その前に、ちょっとよろしいですか」
葉子さんが制する。

「実は私の師匠が、この件に絡みたがっているのです」

「こんにちは」
入ってきたのは、栗毛の女性。

「友里さん!!」
「お姉ちゃん!!」

「ええっと…」
長身の少女は、少し考えてから、その女性に声をかける。
「…由依さんの、お姉さんですか?」

「私には由依なんて名前の妹はいないわ…」

「……」
少女は小首をかしげる。
「…美坂香里さんの、パクリ?」
「私のほうが元祖よっ!」

怒りに任せて、友里は不可視の力を発動。
ビシィッ、と少女の体を打つ。
「あ、切れ味抜群…」
長身の少女はうずくまった。

「友里さん、あなた…」
「ああ、郁未さん、これね」
友里の目の色が変わっていた。
「暴走してロスト体になったんだけど…ダメかしら?」

「葉子さん…この人が、あなたの師匠なの?」
葉子さんはうなずく。
「不可視の力を気位や誇りに邪魔されることなく、即座に暴走させてみせる。この人の持つ実戦での思想性は、郁未さん、あなたよりむしろFARGO的です」

「…いい機会ね、見ていなさい」
郁未はニヤリと笑った。
「不可視の力の真髄とは…」

「こういうものよっ!!」

郁未は不可視の力をMAXで発動した。

ドカァァァンッ!!

背中を向けていた少女が、吹き飛ぶ。

「エゲツないですね、郁未さん」
「私が葉子さんに誉められたことに逆上したというなら、少し安すぎないかしら?」

ところが。

ビィィィィーンッッ!

キラリと光る、針と糸。
長身の少女はいつのまにか、ポケットの中から裁縫道具を取り出して、葉子さんの服と友里の服とを縫い付けていた。

「!」
「〜〜〜ッ!」

固く縫い付けられて、体が離れない。

そのとき。
プチプチプチッ!
郁未の不可視の力が、その背中の糸を断ち切った。

「ユーアンダースタン?」
郁未は長身の少女に尋ねる。

「…外国の方?」
「違うわよっ」

一度ツッコんでから、郁未は説明する。

「ごらんのとおり、不可視の力は精神を武器化するの。
 ぬるいギャルゲーキャラのあなた達には理解できないような修練方法で、
 精神に負荷をかけるの。
 やがて精神は鈍器と化し、さらには切れ味を帯びるようになり…
 ついには刃と化すのよ」

「そのうち、暴走に頼らなくてすむわ」
郁未は友里を嗜めた。
「……」

「なるほど、そう来ましたか…」
長身の少女は納得した風で、ごそごそとスカートのポケットを探る。
「…発見」
少女が取り出したもの。
「手榴弾!」
ちょっとヤバいルートで手に入れたらしい。

ピンッ。

「!」
晴香は慌てて、手榴弾の投げられた方向に高槻を放り投げた。
「おい、投げる方向が違うだろ!」

ドガーンッ!!

爆風が過ぎ去った後。
古典ギャグのように髪の毛をボサボサにした高槻だけを残して、その場には誰もいなくなっていた。
メリケン粉を吐きながら、高槻はつぶやく。

「いったい何だったんだよ、この話…」

書いてる作者もよくわからなかった。

(つづく!)





一応次回の試合の前振りということで…
こんなのは、ダメ?
それにしても『グラップラー刃牙』よりも、
『バキ』のほうがなんかパクりやすいですね。
セリフに勢いあるからなあ。
てなわけで、次回は遠野美凪にあのMOON.ヒロインが挑む!
また絶望的な闘いになりそうですが。


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