新旧ヒロイン対決!
白虎の方角、『MOON.』の天沢郁未!
玄武の方角、『Kanon』の月宮あゆ!
それぞれの作品の威信をかけて、2人のヒロインが覇を争う!
「武器の使用など、一切を認めます!」
闘技場の中央で、小坊主の説明をうける2人。
「ボク、昔から郁未さんのファンだったよ」
心にもないことを言うあゆ。
「あはは…光栄ね。あのゲームをやってくれてるとは。
だけど、これはゲームじゃない。私はここにケンカをしにきているのよ」
郁未はそう答えてコーナーにもどる。
「………」
「あゆ! 相手は所詮昔のキャラだ! フットワークでひっかきまわせ!」
しかしあゆはかぶりを振る。
「祐一くん…あの人、そんなんじゃダメみたい」
開始(はじ)めっ!
太鼓の轟音とともに、あゆが突っかける。
「うぐぅ〜どいてどいて〜っ!」
ストリートで鍛えた、あゆのタックル。
しかし。
べちっ。
郁未はすでに、木でつくった壁の向こうに隠れていた。
「ウッドブロック!」
「まだやれるのかぁっ!?」
主のビームでさえたまに跳ね返すという伝説の防御技に、観客はざわめく。
「うぐぅ、正中線攻めが効かない…」
あゆは鼻を押さえながら、
「でも、負けないよっ!」
あゆはなおも、攻撃を繰り返す!
ウッドブロックの隙間から覗いている、足の小指に柱をぶつける!
碁石クッキーのざらざらした面で、指の節をがりっと削る!
「あゆちゃん、攻撃を正中線から末端に切り替えたわっ」
モニターの前で、七瀬は驚愕。
しかし秋子さんは平然と言い放つ。
「ふふふ。大型ヒロインの末端を狙うのは、格闘技の基本中の基本よ。私なら、あの天沢郁未を10秒で絶命できますよ」
あゆの執拗な末端攻めに、
「こ、このぉっ!」
ついに郁未がウッドブロックから顔を出す。
「これを待っていたんだよっ」
突き出したアゴの先端に、あゆのパンチ(あゆパン)がクリーンヒットした!
「ぐあっ…」
天沢郁未、ダウン!
うわぁぁぁっ!
歓声が響き渡る。
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「…私が敗けるというのか、この私がっ! MINMESで、ELPODで、精神を鍛えぬいた私が、こんな小娘に敗けるというのかっ!」
朦朧とした意識の中で、郁未は回想する。
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(回想始まり)
学生時代の郁未。パソコンショップで流れる『同棲』のデモに感銘を受けた郁未は、中崎町のTactics本社道場を訪れる。
「あの…入門させてください」
道場主のまなみは、郁未を怪訝な表情で見る。
「おいお前、入門してどうするつもりだ?」
「私のこのエッチな体で、モニターの前のひとを萌えさせたいのですっ!」
バキッ!
まなみの鉄拳が飛ぶ。
「馬鹿やろう! そんなんでゲームが出来ると思ってんのかよ!」
しかし。
「だが、お前の言ってることは間違いじゃない。
エロゲーってのはそんなもんだ。
ユーザーを抜かせればそれでいい。ストーリーなんてなくったっていいんだよ。
おーい、こいつのサイズにあう制服を作ってやれーっ!」
こうして、まなみの下に入門を果たした郁未。しかし…
「何ぃ、『同棲』が売れなかった?」
「そ、それが、クソゲという評価を受けて…」
突然の悲報に、衝撃を受ける郁未。そして…
「せんせいは間違っていた!
いくらエロくったって、シナリオが良くないと萌えられない!
萌えキャラを支えるのは、トラウマの重さだ!」
人が変わったように、トラウマを生産し始める郁未。
「おい、アイツ、さっきから涙を流しっぱなしだぞ」
「リングがプールになっちまう」
こうして郁未は、エロさとトラウマを併せ持つ、最凶ヒロインになったのだった!
(回想終わり)
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「でも、『同棲』が売れなかったのは、ゲームうんぬんよりも原画がへぼかったからじゃないの?」
「うわっ香里、私たちの産みの親になんてことを!」
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郁未は立ち上がる。
「郁未、さん…?」
「あなたの輝かしい未来を思い、出すのを躊躇っていたけど…
もう容赦はしないわ。ここからは本気の本気よ」
「じゃあ、今までの展開はなんだったの?」
「やかましいっ!」
郁未は両手を地面につき、腰を高く上げてあゆを睨みつける。
「あ、あれは!」
「知っているの、晴香さん?」
「最終奥義、クラウチングスタートの構え! 郁未、終了(おわ)らせる気よ!」
パアァァァァァンッ!
号砲一番、あゆに向かって駆け出す郁未。
「!」
郁未はすばやくあゆの懐に潜り込むと、そのアゴを突き上げた!
さらに腹部に拳を叩き入れる!
(中略)
さらに壁ごと正拳で串刺しにする!
そして最後、踵落としで、床に叩きつけたっ!
ごとっ…。
音がした。
まるで、重たい石を地面に落とした時のような、低くて鈍い音。
地面に横たわるものは、少女の体。
少女は動かない。
少女は眠っていた。
闘技場の砂を枕にするように、仰向けに、手足を投げ出して眠っていた。
赤い、砂の上で。
夕焼けに染まる雲のように、真っ白だった闘技場の砂が、赤に変わる…。
赤。
白黒だったはずの風景が、赤一色に染まっていく…。
しーん……
静まり返った場内。
「終わったわ…」
郁未はひとり、コーナーへと戻る。
「由依、タオルを」
「い、郁未さんっ!」
「!」
ガキィッ!
驚くべきことが起こった!
死んだと思われていたあゆが、背中を向けた郁未に飛びかかり、チョークスリーパーを決めたのだ!
ぎちぎちぎち……
「ど、どうして…あなた、死んだはずじゃ…」
あゆはニコリと笑う。
「これが、『奇跡』だよっ」
「ズルすぎ…」
がくっ。
「勝負ありっ!」
こうして主役パワーで辛くも勝利を手にしたあゆ。
しかしたった一度しか使えないはずの『奇跡』を、こんなところで使ってよかったのか?
これからどうするつもりだ、月宮あゆ!
(つづく)