グラップラーあゆ!
〜巳間晴香 VS 神尾観鈴〜 作:えぬ
これまで、幾多の血を吸ってきた、地下闘技場の土。
そのにおいに引かれて、集まってきたヒロインたち。
最強を目指して、今日も闘いがはじまる…
『武器の使用、一切を認めます!』
対峙するのは『MOON.』のサブヒロイン、巳間晴香。
そして『AIR』の正ヒロイン、神尾観鈴。
『両者、元の位置へ!』
(知名度の点では観鈴が上…)
コーナーに引き返しながら、晴香は思う。
(だけど、戦闘力の点では、どうかしら…)
その直後。
「!」
晴香は殺気を感じて、姿勢を低くする。
その頭上を、鎌が飛んでいった。
「観鈴っ!」
「巳間、晴香さん…」
観鈴はすでにクサリ鎌を振り回しながら、晴香に向かって前進していた。
「卑怯とは、言うまいね」
「………っ!」
『は、開始(はじ)めッ!!』
慌てて小坊主が試合開始を告げる。
ここに、最新ゲームVS最古ゲームの闘いが幕を切った!
ぶんぶんぶんっ。
クサリ鎌を操りながら、晴香との間合いを詰める観鈴。
(見えない…先端につないであるはずの鎌が、全く見えない…)
しゅっ。
突然、ヒモが伸びてくる。
晴香は紙一重でよける。
(先端は見えなくとも、その動きは術者が事前に教えてくれる!)
がばっ。
晴香は制服の上着を一枚脱いで、クサリ鎌に絡ませる。
「あっ」
クサリ鎌はスピードを失って、地面に落ちた。
「カラス…」
先端につながれていたのは、鎌ではなくカラスだった。
「うん。そらだよ」
「なるほど、黒いから、よく見えなかったんだ…」
「そらに飛ぶ練習をさせてたときに、思いついたんだよ」
「むごい…」
「それじゃ、もうちょっと、遊ぼうよ」
そのとき。
「観鈴さん」
後ろから声。
「?」
「お湯…」
観鈴が振り返ると、そこには名倉由依が、ヤカンを手にして立っていた。
「はい」
「わーっ!」
『こ、これはーッ! 先ほど倉田佐祐理戦で敗北したはずの名倉由依が、神尾観鈴にヤカンをパスしたぁーッ!』
「あ、あついっ!」
慌てる観鈴。しかし。
「え…冷たい…」
「あははーっ。騙されましたねー。水ですよ、水ーっ」
由依は手を叩いて喜ぶ。
いままでずっとイジメられ役だっただけに、自分より弱そうな相手をからかうのは、相当気分がよさそうだ。
しかし。
ズガッ。
観鈴はあっさりと由依を殴り倒す。
さらに、ヤカンを晴香に向けて叩きつけようとする。
しかし晴香はそれをさっとかわして、
「ちぇりゃぁぁぁっ!」
掛け声とともに、手を触れないまま観鈴を弾き飛ばした。
『ふ、不可視の力!!』
そのまま晴香は観鈴のアゴを押えて、地面に叩きつける。
ドカッ。
観鈴の身体が地面にめり込む。
「……」
「どうやらかろうじて、受身が間に合ったようね」
かっ。
観鈴は目を見開いた。
ここで、場面変わって、解説のコーナー。
語り手は、ギャルゲー研究家・エロゲ博士の長谷川光臣氏(71)。
「難しいことじゃない。
みなさんも別のゲームをやってみればわかります。
普通の女の子が、主人公の男とただSEXする。
けっして泣けません。
レベルの高いシナリオと、キャラの不幸度は正比例する。
これが長年にわたって一流ヒロインを研究した結果、たどりついた結論です。
常人の何倍にも及ぶ強い不幸のせいですかね。
一流のヒロインのほとんどは、人間関係がガタガタなんですよ。
…いちばん凄い不幸をもった少女ですか?
お見せしてよいものかどうか…
これは今年の夏、ある町でとった少女たちのサンプルです。
この少女を見てください。
千年分の呪いを一身に受けて、
実母は病死、父親は遁走、育ての母には冷たくされ、友達もできないんですよ。
これほどの不幸を背負った少女は、いままで見たことがありません。
どんなレベルの不幸で、こうなってしまったのか…
おそらく日常そのものが、不幸であったとしかいいようがないですね…
『翼人』
確かそんな人種の末裔だったと、記憶しています…」
(解説コーナー・終)
「がおッッ!!」
おたけびをあげて、晴香に飛びかかる観鈴。
びしゅっ。
鮮血が飛び散る。
しかし…
血を流していたのは、由依だった。
『これはッ! 伝説の由依シールドだ!!』
「むごすぎ…」
「こら、観鈴」
晴香はたしなめる。
「ここは闘技場よ。ぬいぐるみなんか持ち込んで、どうする気?」
「にはは」
観鈴は笑いながら、手のひらに持った凶器をさらす。
「ナマケモノさんの爪だよ」
ナマケモノはおとなしい動物だが、鉤爪は木登りのために異様に発達している。それを忠実に再現した武器だ。
「いい玩具だよね。もうちょっと、遊ぼうよ」
観鈴は余裕を崩さない。
しかし、それを晴香があざ笑う。
「観鈴さん、態度が太いわね」
「?」
「こちらは二人がかりなのよ」
微笑みながら、晴香はファイティングポーズ。
「ね、由依」
「え…? あ、はいっ」
由依も納得したのか、ファイティングポーズをとる。
二人はにこやかに、観鈴と対峙する。
「「卑怯とは、言うまいね」」
『こ、これは前代未聞ッ! 地下闘技場史上初の、2対1の変則マッチだぁッ!!』
「あ、秋子さん、これはさすがに反則じゃ…」
「了承」
「………」
とりあえず面白ければ、ルールはいくらでも改変される。
これが、最強のヒロインを決める地下闘技場のルールなのだ!
「が、がおっ!」
観鈴、怒りに任せて突撃。
しかし晴香は落ち着いて、由依の後ろに隠れる。
「殴られなさい、由依!!」
「え?」
ボコボコッ。
観鈴が由依をタコ殴りにしている隙に、晴香は不可視の力を発動。
ドカッ。
観鈴は、闘技場の端まで弾き飛ばされた。
「最強タッグ、結成よ」
「なんか、あたしだけが損してるような気がするんですけど…」
「いいコンビネーション…」
「んに…みちるも美凪と組んでたら、秋子さんに勝てたかもしれないのに…」
「茜〜、あたしたちの試合では協力しあおうね〜」
「嫌です…」
どうやら今回のタッグ認定は、悪しき慣例を生みそうな気配だった。
「がおっ…どうしてそんなことするかなぁ…」
がばっ。
立ち上がった観鈴を、晴香が後ろから羽交い絞めにする。
「さ、由依、やっちゃいなさいっ!」
「え…でも…」
「由依さん、甘いっ」
観鈴は攻撃をためらった由依に、ドロップキック。
その勢いのまま、晴香の後ろに回りこんで、チョークを決めようとする。
「!」
これは、晴香が直前で弾き飛ばした。
「ぐすっ…ぐすっ…」
観鈴は涙目になりながら、由依と向かい合う。
「気をつけなさい、由依!!」
「え…」
「ここからの観鈴はホンモノよ!」
晴香は由依に忠告する。
「猛毒・観鈴……ゲテモノ食いが操る術の名称よ」
観鈴の目の色が変わっていた。
「質問して、いいかなあ?」
そう言いながら、観鈴はポケットから紙パックのジュースを取り出す。
「この地球上でもっとも危険なジュースは、なんだかわかるかな?」
紙パックにストローをさして、こともなげに由依に向かって歩く。
(あんなに紙パックのジュースを強く握って…)
「由依っ!!」
「!」
気が付いたときには、ストローが由依の口に当てられていた。
ぽんっ!
軽快な音とともに、何かが由依の気管に入り込む。
どさっ。
由依は昏倒した。
「答えはゲルルンジュース。わかったときにはもう遅いよ」
血に餓えた観客たちが、しんと静まり返る。
その視線の中心で、由依は静かに眠っている。
「ボクシングのKOとはワケが違うの。由依さん、たぶん、半日くらいは起きないよ」
「な、なんて技…」
「冥土の土産に教えてあげるよ」
観鈴は自ら解説をはじめる。
「人体には必要不可欠な水分。
だけど、ジュースに含まれる水分量が少なくなるにつれ、
飲みにくく、のどに詰まりやすくなっていくの。
6%…
ジュースに含まれる水分量がこの数値を下回ったとき、
人間は気管にジュースをつまらせて、窒息する。
水を飲まなくても1日くらいは生きていける人間が、
6%を切る水分をたった一口摂取するだけで、機能停止を起こすの。
にはは。あきらかな、神様の設計ミスだよね。
わたしはこのミスをつく新たな攻撃法を考案した。
観鈴ちん、ナイスアイデア。
このわたしの理論を実践するには、武田商店は、格好の実験場だった。
そして、長年の研究の末にわたしは、このゲルルンジュースを発見したんだよ」
衝撃の技は、モニター観戦をしているヒロイン達にも波紋を広げる。
「激甘ワッフルや碁石クッキーとは、また概念の異なる技…」
「まさに、もっとも危険な食品…」
「どうかな? まだ続ける?」
観鈴は晴香に問い掛ける。
「オプション無しで、晴香さん、勝てるのかな?」
はっきりいって、由依が戦闘不能になってしまうと、晴香にはまともに使える必殺技がない。
「私の、敗けよ…」
晴香はあっさりと負けを認めた。
『勝負ありっ!!』
おおおおおっ。
目が覚めたように、観客席が喧騒を取り戻した。
「にはは。ホントはわたし、あんまり晴香さんとは闘いたくなかったんだよ。お母さんと名前も性格も、よく似てるから…」
「『晴子』さんね…そういえばあなた、実母の名前も『郁子』だったわね」
「麻枝さん、やっぱり今でも『MOON.』に愛着があるんだよ」
「そうね、私たち、案外うまくやっていけるかも」
「うん」
肩を並べながら、退場する晴香と観鈴。
「それじゃ、あたしの立場はいったいどうなるんですか…?」
闘技場の中央には、ぐったりと倒れたままの由依が残っているだけだった。
(つづく)
久々に…っていうか初めてうまいのが書けたかも…
元ネタはもちろん「グラップラー刃牙」の続編「バキ」から。
だとしたら「グラップラーあゆ!」も続編も出るなら、「あゆ!」になるんでしょうか?
わけわかんねー。
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