グラップラーあゆ!
〜美坂栞 VS 広瀬真希〜 作:えぬ
玄武の方角、『Kanon』の美坂栞!
白虎の方角、『ONE』の広瀬真希!
『異色中の異色の対決が実現しました!
正統派病弱ヒロインVS
…あろうことかただのイジメキャラ!!
こんな言い方はしたくありません! したくありませんが…
格が違いすぎるッッ!!』
どぉぉぉぉっ!!
『しかし、場内にあふれるこの期待感はどうでしょう?
この熱気と期待が、広瀬真希のクソ度胸に対するものであろうことは、
察するにあまりあります!!』
「武器の使用、一切を認めます!」
闘技場の中央で、小坊主の説明をうける2人。
歴史と伝統ある病弱ヒロインを前にしても、いつものように腰に手を当てて、舐めるように睨みつける広瀬。
対する美坂栞は、いつもの表情を崩さない。
「両者、元の位置っ」
「広瀬さぁーん!!」
応援席から取り巻きたちが叫ぶ。
「おうよ」
先の闘いで、すでに傷だらけの広瀬。
しかし、にっこりと笑って、
「夢、見させてあげるわ」
うぉぉぉーっ!
「そぉぅらヒ・ロ・セ! ヒ・ロ・セ!」
大応援団の後押しを受けて、広瀬は栞と対峙する。
「開始(はじ)めっ!」
試合開始の号令とともに、栞は中に石の入った雪玉を両手に持って、いつもどおりのステップで前進する。
そこに。
ドカッッッ!
『ドロップキックーッッ! 開始早々、広瀬真希のドロップキックが、美坂栞に炸裂したぁーッ!』
ダウンを奪われる栞。
広瀬はたたみ掛ける。
『広瀬真希、すかさず手元の石を拾い、美坂栞を叩く、叩く、叩く! エゲツない凶器攻撃だーっ! 病身の美坂栞、虫の息!』
(なに言ってんのよ)
場内に流れる実況を聞きながら、広瀬は思う。
(このヒロインが、そんなんで死ぬようなタマだと思うの?)
パシッ。
攻撃が突然、栞のストールによって捌き落とされる。
栞はゆっくりと起き上がって、ひとこと。
「もー、そんなことする人、嫌いです」
『美坂栞は全くのノーダメージだぁーッ!』
「だろうと思ってたけわ」
「本気でやります」
ファイティングポーズをとる栞。
「だけど」
「あんたのファイティングスタイルに付き合ってる余裕はないの!」
広瀬は隠し持っていたタバスコを、栞の目に向けて振りかけた。
「目潰しッ!?」
一瞬、視界を失われた栞。
「秋子さん!」
広瀬の目にあまる行為に、祐一はたまりかねて秋子さんに叫ぶ。
「…栞ちゃんの抗議があれば、すぐに試合を止めなさい」
「反則負けですか?」
「いえ、単にいったん止めるだけです」
「……」
秋子さんは微笑む。栞も抗議をしようともしない。『武器の使用、一切を認める』。これこそが、非情な女達の闘いなのだ!
「目を開けなさいよ、悲劇のヒロイン」
広瀬の声に、ようやく目を開ける栞。
その足元に置かれていたもの。
それは、ひとつの画びょうであった。
「……?」
『広瀬選手、謎の行動だぁ! いったいこの画びょうに、何の意味があるのかっ!?』
「広瀬さん、いったいどうするつもりなんだよ…」
控え室のモニターの前で、あゆが七瀬に問い掛ける。
「ふふ…」
七瀬は不敵に笑うのみ。
「ただのこけおどしです」
意に介せず、足を高く上げて、雪玉を投げようとする栞。
「ヒロインさん、まさか画びょうが、その1個だけだと思って?」
「!」
踏み出した足が空中で止まる。
踏み込もうとしたその場所。
そこには、またしても画びょうが針を上にして置かれていた。
…それだけではない。
栞を中心として半径3メートルくらいの地面が、まるで剣山のように、画びょうという画びょうで埋め尽くされていたのだ!
『これはーッ!? 広瀬真希はいつの間にか、美坂栞を画びょうの結界の中に閉じ込めていたーッ! これでは美坂栞、雪玉を投げられないッ!』
「悪いわね、悲劇のヒロインさん」
広瀬は笑う。
「でも私が勝つには、これしかなかったのよ」
そう言うと、広瀬はスプレー缶を取り出し、闘技場の壁に吹き付け始めた。
『いったい広瀬真希、何を?』
闘技場の壁に浮かび上がった文字。それは、
美坂栞は誰とでもヤる
しかも病気もち
「…………っ!」
『わ、悪口だーッ! 広瀬真希は、闘技場の壁に美坂栞の悪口を書いているーッ!』
調子に乗った広瀬は、さらに壁に向かう。
ナマイキ女!
アイスクリームオタク!
下手糞な絵描いてんじゃねーぞ、バカ!
ムカつき400%
しんじゃえ!
シバれるねえ(笑)
病室へ帰れ!
『これはエゲツない中傷だーっ!』
「……………っ」
闘技場の真ん中で、わなわなと肩を震わせる栞。
「いけない、栞ちゃんの血圧がっ!!」
オマエの姉ちゃん、ワ・キ・ガ
「!」
この一言でついに切れた栞。
ポケットに入れていたガラス瓶の中の液体を、広瀬に向かってぶち撒けた。
「無駄よ。射程距離外なんだから、水は地面に虚しく落ちるだけ…!?」
じゅわーっ。
画びょうが音を立てて溶けていく。
「なっ…」
『りゅ、硫酸だーッ! 美坂栞が地面に振り撒いたのは、硫酸だぁーッ!』
「…ふう。どうやらやっと、本性をあらわしたようね」
自分に対して向けられた中傷に、キレて乱入しようとしていた美坂香里は、落ち着いて控え室に引き上げていく。
さらに硫酸を、地面に撒きつづける栞。
じゅ、じゅっ、じゅーっ!
そして…
『き、消えたーッ! 美坂栞の撒いた硫酸によって、闘技場いっぱいに敷き詰められていた画びょうが、あとかたもなく消滅したーッ!』
「う…嘘でしょ…」
隔てるものがなくなり、硫酸を雪玉に持ち替えて、ゆっくりと間合いを詰める栞。
広瀬はじりじりと後退する。
「ど、どうして硫酸なんか…」
「学校をサボりがちで、硫酸を持ち歩いてる女の子。ちょっと、不良っぽくってカッコいいと思いませんか?」
そして。
バチーンッ!!
『決まったーッ! 雪合戦のうち最も痛いと言われる石入り雪玉が、至近距離から広瀬真希の眉間に炸裂したーッ!!』
「広瀬さーんっ!」
「真希ーっ!」
応援席にこだまする絶叫。
声の主はみな、広瀬と同じ境遇を持つ、社会的には常に悪者とされ、ヒロインにすべてを持っていかれる切られ役たちだ。
「……そうよね」
全身にカクテル光線を浴びながら、ひとりつぶやく広瀬。
「社会からあぶれ、蔑まれてる私だけど…あの子たちにとっては唯一の希望の光、母親みたいなものなのよね…そんな母親が、子供の前でかっこ悪いところを見せてどうするのよ…」
「な、何が不良っぽくってカッコいいですって…」
ふらふらになりながらも、立ち上がる広瀬。
「わ、私だって、ONEで伊達に不良を張ってないわよ…」
ぷすっ。
「〜〜〜ッ!」
「不良を名乗るなら、これくらいの遊びは経験しておくべきですよ?」
広瀬の静脈に、注射器が刺さる。
よくわからない薬品が注入されてゆく。
「………」
白目をむいて、膝から崩れ落ちる広瀬。しかし栞はダウンを許さない。
「このシーン、もしドラマだったら、ありがちですけど奇跡の逆転シーンですよね」
栞は広瀬のみぞおちにつま先を蹴り込む。
「圧倒的な戦力差のある敵が相手でも、度胸と根性さえあれば勝利できる…そんな幸せな結末を夢見て、スポ根ものは生まれたんだと思います」
くの字に曲がった広瀬の顔面に、膝を入れる。
「ですけど」
美坂栞は、さわやかに笑う。
そして、がら空きになった延髄に、踵を叩き落とした。
「起きないから、奇跡っていうんですよ」
ズシャッ。
『勝負ありっ!!』
(つづく)
元ネタからいけば広瀬勝利のシナリオですが、
リハーサルどおりに行かないのが「グラあゆ!」のグラあゆたるゆえん。
しかし気がつけば、Kanon勢6連勝。
まあ主役があゆなんだから仕方ないですが。
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