「第1回作物泥棒対決キャンペーン 第3日 〜園芸部員 VS
ルームレス生徒〜」
記者 3年癸巳組 宇都宮豊[H240560] 新聞部所属
蓬莱学園園芸部では、忌まわしき作物泥棒から学園の食糧を守るための「作物泥棒対決キャンペーン」が8月19日から3日間連続の日程で行われた。 最終日の8月21日は、園芸部全体にやや重苦しい空気が流れていた。 初日には作物を生息地不明のサルチームに食い荒らされ、2日目には謎の発砲集団にごっそり持ち逃げされ、未だ連敗記録がストップできていないという精神的な焦りと肉体的疲労から来ているのだろう。 荒らされ放題の広い耕作地が、部員たちのむなしさをいっそう増幅させている。 「今日こそトリの出番でしょう!」 トリというのは、南部密林のトリケラトプスの通称である。 今まで散々手を焼いてきた相手だ。 部の名誉にかけてももう負けられない状況であり、部員たちは各自トリケラトプス対策を考え、いつものごとく手分けして畑の各所に散らばって待機した。 ……ところが、待てど暮らせどトリケラトプスは出てこない。 「……なぁ、全然来ないぞ?」 「まぁそのほうが、平和でいいだろう……。来ないに越したことはない」 結局トリケラトプスの姿を見ないまま、日没が来てしまった。 「うーむ、今日のところはもう終わろうか……」 さすがに部長も全員に撤収を命じようとしたそのとき。 「あれ? 部長、タロイモ畑に誰かいますよ……??」 そのひとことで、全員タロイモ畑のほうを見た。 暗くて見にくいが、確かに収穫期のタロイモにかじりついているような人影があったのだ! 「敵はひとりだ。よし、みんな一斉に捕まえに行くぞ!」 部員たちはみな、今までの疲れを一気に吹き飛ばしてその人影を取り囲むように走り寄った。 「こらぁっ! 覚悟しろこの作物泥棒!!」 「ひぃぃっ!! すみませんもうしませんごめんなさい許してください!!」 腕っ節の強い部員が殴りかかろうとしたとたん、いきなりその作物泥棒は土下座して謝り倒しはじめると、 「おいら金なくて寮も追い出されて食うものもろくになくてつい…………」 近くにいた部員の足にすがりつき、わんわん泣きだした。 かじりかけの生のタロイモが、足もとに転がっている。 その場にいた部員全員、開いた口がふさがらない。 「えっとぉ、他にもおさるさんや恐竜とか色々いるみたいですけどぉ、私たちが一生懸命育てているタロイモだから、勝手に食べちゃダメです!!(1年生 東日流梨花さん)」 「働かざるもの食うべからずだよ。泥棒なんかしちゃだめ。まじめに働きなさい(2年生 廣山有紀さん)」 そう忠告すると、彼はすみませんすみませんと泣きながら、過度の空腹と栄養失調でそのまま気を失ってしまった……。 その後、園芸部員たちは初勝利を収められた喜びよりも、そのルームレスの生徒のことが気になって、妙な後味の悪さを感じていた。 「ルームレス生徒って、いるんですねー。初めてみたけど、こんだけ広い学園じゃそれぐらいいるんですね(2年生 対馬厳原さん)」 「なんだか後味悪い終わり方だったね。サルだって生きてくためには食べなくては行けないんだからある程度はしょうがないのかな?(2年生 立花薫さん)」 「彼は、作物泥棒では在るけれども、この学園で何かろくでも無いことにまきこまれて、それで…、住むところも友達も何もかもを無くして、僕達が見つけたときには、…自分が誰なのかもわからない状態でさまよっていたんだ。…無意識のうちにとった行動だから罪には問われないだろうけど、彼の事を考えると胸が…苦しくなるよ(1年生 春凪バニラさん)」 「わたしは、毎日遊んでるけど、食べるのに困ってる人もいるんだって、ちょっと考えさせられちゃった(廣山有紀さん)」 このような感じで、3日間の「作物泥棒対決キャンペーン」が無事終了した。最終日に参加できなかった部員も遅れて駆けつけてきた。 「行けなかった日が初勝利とは。悔しいけどおめでとう (2年生 鷦鷯源吾さん)」 部室に戻ると、今回のキャンペーンについて部員たちは口々に話していた。 「このー、エテコウ、チームワークがいいなんざ、頭良すぎだっちゅうの。サルはサルらしく、○×山(名前忘れた)から出てくるんじゃねー。(2年生 松田桐生さん)」 「ルームレスより銃をもっている連中がコワイです。初日の連携するサルには敗北したので体力をつけてリベンジしたいな〜(学年不詳ポーウフラウさん)」 「宿敵 トリケラトプスと対決できなくて不完全燃焼 (1年生 森川円蔵さん)」 そして、最後に反省会を行い、今回のキャンペーン発案者の間桂さんのひとことで、いろいろあったこの「第1回作物泥棒対決キャンペーン」を締めくくったのだった。 「私たち園芸部が意地をかけて望んだ、作物泥棒退治は1勝2敗で終わりました。 結果としては決して満足できるものではありません。 サルのごときに翻弄され、武装集団に威嚇され…… しかし、このまま引き下がるつもりは毛頭ありません。 今回の失敗を糧に、私たちはさらに強くなります。 この世に作物泥棒のある限り、私たちは(たぶん)戦い続けます」 |