Original Works 『AIR』



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 AIR Short Story






 「はぁはぁはぁ・・・」

 俺は走り続けた。

 「はぁはぁはぁ・・・」

 息が切れても足を止めない。

 「はぁはぁはぁ・・・」

 ここで止まるわけにはいかない。

 なぜならそう、俺にはやらなければならない使命があるからだ。

 だから俺は走り続けた。






 
It Could Happen to You!






 「往人さんどこに行ったのかなぁ・・・」

 「うぬぬ〜・・・」

 「・・・往生際が悪いです」

 な、何勝手なこと言ってやがる!

 どうしてこんな事になったんだ?

 俺が何をした?

 それにどうして三人が一緒になって意気投合しているんだ?

 そんなことを考えながら観鈴、佳乃、美凪から見つからないように

 俺は自動販売機の後ろをずりずりと移動した。

 ・・・ふぅ、ここまで来れば大丈夫だろう。

 ひと一人居ない境内にやって来た俺は社の階段に腰を下ろした。

 「くっ、どうしてこんな町に立ち寄ってしまったんだ・・・」

 いくら芸が受けないからって、金が無くなったからってメシに誘われてずるずると

 夏も終わって居続けてしまった俺が悪いのか?

 ぐ〜。

 「考えただけで腹が減った」

 そう言えば朝から何も食ってなかったなぁ・・・。

 ぐ〜。

 ますます腹が減る・・・くそっ、せめて飯ぐらい食ってから逃げれば良かった。

 ふと、どこまでも青く広がる空を見上げる。

 「アヅイ」

 ミ〜ンミ〜ン。

 セミの鳴き声が拍車をかけやがる・・・くっ。

 「ぴこ〜」

 「ん、なんだお前か・・・・・・」

 キュピーン!

 無意識に俺は毛玉を捕まえる、そしておもむろに・・・食べる。

 かぷ。

 「ぴこぴこ〜!!」

 「マヂイ」

 ぺっぺっ。

 「やはり生じゃ無理か・・・こうなれば焼いて食うしかないか?」

 「何をしている?」

 「だ、誰だっ・・・ってなんだヒマヒマドクターか・・・」

 「誰がヒマヒマドクターだ、ん?」

 ぴたぴた。

 「人違いだった、すまん」

 俺は聖のメスで頬を叩かれながら素直に言い直した・・・くっ。

 「ふむ、ところでさっき佳乃がお前を捜していたようだが・・・」

 「俺は旅に出たと言ってくれ」

 「私の目の前に居るじゃないか・・・」

 はっ、まさか!?

 「聖・・・」

 「なんだ?」

 「なぜここに来た?」

 「大事な妹の頼みなら当たり前だろう」

 にやり。

 しまった、時間稼ぎか?

 「はかったなっ!」

 「貴様が愚かなだけだ、ふっ」

 いかん、このままでは俺の身が・・・こうなったらっ。

 「ポテト」

 「ぴこ?」

 むんずと足下にいた毛玉を捕まえて、俺は聖に向かって全力で投げつけた。

 「とうっ!」

 「ぴこっ!?」

 「なに!?」

 今だ! だっしゅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!

 さらば友よ、お前のことは忘れないぞ・・・今日ぐらいはな。

 階段を駆け下りる途中に何か聞こえたようだが、俺は一目散に神社から離れた。

 「ふぅ・・・」

 しかし油断は禁物だ、今に第二第三の聖が現れるかもしれん。

 ・・・怖すぎる、あんなの一人でも充分だ。

 ぐ〜。

 くそ〜、それにしても全力で走ったら余計に腹が減った。

 ぶろろろろろろろ〜っ。

 どかん!

 この瞬間、俺は空にいる少女にちょっとだけ近づいた。

 「よう飛んでるなぁ〜」

 ずざざざざざ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!

 だが、すぐに焼けたアスファルトの上に転げ落ちた。

 「ま、いっか〜」

 「ちょっとまていっ」

 「あ、もうこんな時間やないかぁ〜」

 「無視するんじゃない、おばさん」

 「誰がおばはんやっ?」

 「聞こえているじゃないか、晴子」

 「ちっ」

 この女・・・いつかいてこましたる!

 「で、用はなんや?」

 「人を跳ねといて良くそんなことが言えるな?」

 「ちょっとした間違いや、かんにんなぁ〜」

 「その年で可愛い娘ぶっても無駄だな」

 「納屋いき!」

 「ここは町中だ、どこにそんな物がある?」

 「ちっ」

 俺は誓った・・・町を出る前に家の酒瓶の中みんな水に変えてやると。

 「ところで居候、ちょ〜話が有るんやけど・・・」

 「さらばだ」

 俺は晴子が話し終える前に全速力で走りだした。

 「ちょい待ちいっ〜!」

 誰が待つか、その後ろ手に隠したロープを見てのこのこ話に付き合う奴がいるか!

 こいつも観鈴の回し者だ、ヒマヒマドクターと同類の目をしているしな。

 とにかく走り続けた俺は息も絶え絶えに人気の居ない駅にたどり着いた。

 ここは危険じゃないのかって?

 ふふっ。

 一度調べたところは得てして探しに来ない物だ、俺の感がそう告げている。

 もしかして俺って名探偵になれるかもな、ふっふっふっ。

 「わっぷ」

 うむ、安心したら腹が減った事を思い出した。

 「うにゅ〜」

 幸いここにはコメの備蓄と飯ごうがある、そうと決まれば早速コメを研ぐことにした。

 「おお〜」

 「銀しゃり銀しゃり〜、握って握っておにぎり〜♪」

 「おいっ」

 「ぐつぐつぐつぐつ、早く炊け炊け〜♪」

 「無視するなぁ〜」

 「始めちょろちょろ中ぱっぱっ、親が死んでもふた取るな〜♪」

 「むぅ〜」

 どかん!

 「にょへ!?」

 俺らしくない叫びを上げつつ、後頭部に受けた衝撃で危うくたき火に顔を突っ込みそうになった。

 「何しやがるこのっ!」

 がつん!

 「にょほっ」

 俺が振り向きざまにたたき込んだ拳はみちるの頭にばっちり決まった。

 ナイスだな、俺♪

 「人が楽しくご飯の歌を歌っているというのにこのちびは・・・」

 「あっかんべろべろぶーーー」

 がつん!

 「にょをっ」

 ちっとも応えていなかった・・・まあいい、そろそろ食事の時間だ。

 と、飯ごうに振り向き直した俺は暫し固まった。

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 「・・・ちっす」

 飯ごうを挟んでこちらを見つめていた美凪が、挨拶しながらはんばーぐを差し出した。

 「・・・進呈」

 「・・・・・・」

 「・・・ぽっ」

 なぜそこで赤くなる、美凪?

 更にはんばーぐを横に置いてなにやらポケットをごそごそすると、いつもの白い封筒を差し出した。

 「ぱちぱちぱちぱち」

 「今度は何だ?」

 「私を真っ赤にさせたで賞」

 俺は力が抜けそうになったが、有ることに気がついて立ち上がった。

 「美凪」

 「・・・ぽっ」

 「ちがうっ、他の二人はどうした?」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」

 相変わらずの間に俺はため息を付きそうになったが、思い出したように手を叩いて口を開いた。

 「・・・後ろ」

 「は?」

 「・・・国崎・・・往人さんの後ろ」

 「何だって?」

 その言葉に俺は美凪に身を乗り出して詰め寄った。

 「・・・ぽっ」

 「なぜ顔を赤くするんだ?」

 「・・・こんな明るい所、恥ずかしいです」

 何か勘違いしている美凪を置いて、俺は飯ごうを持って走り出そうとしたが遅かったようだ。

 「どこに行くの、往人さん?」

 「うぬぬ〜、やっと見つけた〜!」

 背後から観鈴と佳乃のもの凄い視線を浴びた俺は、体を動かすことができなかった。

 「そろそろ終わりにしようか、銭無し芸人」

 「きっちり話をつけようなやないか、居候」

 前からは年増しすたーずが俺を逃がさぬように仁王立ちで威嚇する。

 まさにへびに睨まれたかえる、往人ちんぴんち。

 どかっ!

 「ぐおっ」

 俺は腹に受けた衝撃で崩れ落ちたが、飯ごうは離さなかった・・・偉いぞ俺。

 「・・・ないすです、みちる」

 「まかせてよ〜」

 そして俺はぐるぐる巻きに縛られてみんなに引きずられて連行された。

 それから俺をそっちのけであ〜でもないとかこ〜でもないとか真剣な表情で会議を始めた。

 「と言うわけで決まりやな」

 「うむ、問題ない」

 縛って座らされている俺の目の前で女たちが相談していた事が決まったようだ。

 「そろそろほどいてくれないか?」

 「あかん、そしたら逃げるやろ?」

 「当然だ」

 俺は胸を張って宣言したが、いきなり飛んできた物をすんでの所で回避した。

 び〜ん。

 後ろの柱に鈍く光るメスが刺さっていた。

 「あ、あぶねえだろう!」

 「貴様、このまま何もなかったで済まされると思うのか?」

 ヒマヒマドクター・・・もとい、聖がメスをちらつかせながら俺を睨む。

 「俺が何した?」

 「ふっ、では医者として言ってやろう・・・ここにいる三人はみんな妊娠しているぞ?」

 「なにぃ!?」

 「お前・・・ちゃんと避妊しなかったろう?」

 た、確かにした記憶は無かった。

 「そのまま逃げて良いと思っているのか、ん?」

 「うちの可愛い観鈴を傷物にした責任はとらなあかん!」

 「そうだそうだ!」

 約一名訳が分からず叫んでいるがそんなことはどうでも良かった。

 「お、俺にはやらなければならないことがあるんだ!」

 「そうだな、お前のやることは責任を取ることだな」

 「ちゃんと面倒みたってや〜」

 ふと視線をずらしたそこにいた三人が、お腹に手を当てて俺を見つめる。

 「にははーっ、名前は何にしようかなぁ〜、ねえ往人さん?」

 「かのりんは男の子が欲しいなぁ♪」

 「・・・・・・ぽっ」

 すでに俺に逃げ場はなかった。












 「まっこと柳也殿の子孫らしい行動だな?」

 「本当にそうでございますね」

 「裏葉、お前の子孫でもあるだろうがっ」

 「私よりも柳也様の血が色濃く出ているようです」

 「ふん、余にはどうでも良いことだがな・・・」

 「ふ〜ん・・・」

 「な、なんだその目は?」

 「すまんな、あの時ちゃんと抱いてやれば良かったなぁ」

 「なっ!?」

 「そうでございます、柳也様が後込みなさるから」

 「しかしなぁ・・・ちらっ」

 「柳也様の気持ちも解りますが・・・ちらっ」

 「二人とも、どこを見ている?」

 「まあその内大きく育つかな?」

 「左様でございますね」

 「う、裏葉、そちはいったい誰の味方なんだ?」

 「もちろん神奈さまの味方でございます」

 「・・・・・・」

 「どうした?」

 「どうかしましたか、神奈さま?」

 「おぬしたち、余を謀っているのであろう?」

 「それはちがうぞ」

 「滅相もありません」

 「じゃあなぜそのように笑いを堪えておる?」

 「からかっただけだぞ」

 「同じく」

 「・・・・・・」

 「神奈?」

 「神奈さま?」






 「ゆ、ゆるさ〜ん!!」






 「逃げようか、裏葉?」

 「さようでございますね、柳也様」

 「こ、こらっ、二人とも待たぬかぁ〜!」

 翼を羽ばたかせながら、少女は逃げ出した二人を広い空のどこまでも追いかけていった。






 それからまもなくして、幸せな記憶と共に青空から悲しみが消えた。






 そして新たな物語が始まる、辛い悲しい日々に終わりを告げて・・・。

 

 

 Re−Birth





 どうも、じろ〜です。

 初のAIRのSSですが、ゲームのムードぶち壊しになっているかもしれません。

 個人的に「死んで花実が咲く物か」みたいに思っていますので、みんな生きて幸せになって欲しい。

 そう思って書いたお話でしたが如何だったでしょう?

 でも、ひとそれぞれいろんな思いがこのゲームに有ると思います。

 タイトル通り、これが自分的なAIRの見方の一つです。

 ではでは。

 2000/10/12 初稿


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