センチメンタル・グラフィティ Another Story







 
Missing with 松岡 千恵






 Presented by じろ〜
 

 

  

 「だめだだめだだめだ〜!!」






 どさっ。

 愛用のギターを放り出して千恵はベッドの上に仰向けに寝ころんだ。

 今やライブハウス黒猫で、人気ナンバーワンのバンド”サウザンブラック”のボーカル兼リードギターを

 担当する彼女はどうしようもなく困っていた。

 それというのも一週間後に迫ったクリスマスライヴのために、新曲のための音作りに集中していたのだが

 すぐに気が散って手の動きが止まってしまう。

 もっとも千恵自身が、何で集中できないのか解っていた。

 「最近あいつと話してないな・・・」

 千恵は天井をぼーっと見ながら大好きな少年の顔を思い浮かべていた・・・。






 中学の時に転校してきた少年はクラスの中でいつも一人でいた千恵に積極的に話しかけてきた。

 最初の頃は変な奴だと思っていた千恵だったが、いつのまにか少年と話すのが楽しくなり休みがちだった

 学校にも行くようになった。

 そして少年の強い勧めもあって卒業式の後に行われる謝恩会にロックライブを敢行した。

 それは渋い顔をした教師達を除き、ほとんどの生徒が一緒になり盛り上がった。

 しかし、ライブが終わるとともに少年はまた転校することとなり学校を去っていってしまった。

 その時、千恵は自分の中に芽生えていた少年に対する思いを歌にして伝えようとしていたが、

 それは叶わなかった・・・。

 千恵の心に生まれた思いは色あせることなく高校三年生になった時、彼女は風の便りに知った少年の住む

 東京に向かって博多を飛び出した。

 その時は少年は不在で感動の対面は果たせなかったが、”あなたに会いたい”と書いたメッセージを残して

 東京を後にしたのだった。

 それから数カ月経ったある日、少年からの連絡もなく諦めかけていた千恵の前に出会った頃と変わらない

 優しい笑顔で少年は再び姿を現した・・・。

 少年と再会を果たした千恵は、まめに連絡を取り合い弟やバンドのメンバーにからかわれたりしながら

 時間の許す限り二人で出掛けていた。

 そして千恵はこのライヴの時に、少年に聞かせようと思って中学生の時に初めて作ったラヴソングを歌おう

 と決めてアレンジし直している真っ最中だった。

 しかし、ここ一週間ほど少年と連絡が取れなくなっていた・・・。

 電話を掛けてもいつも留守番電話の応答しか返ってこないし、メッセージを入れても少年の方から返事が

 来ることはなかった。

 少年からどうして連絡がこないんだろうと考え始めると、それが頭から離れなくて集中出来ずに

 いらいらし始めてしまう。

 「どうしたんだろうあいつ・・・」

 「まさか事故か何か・・・、ううんそんなことは無いよな・・・」

 「それとも誰かほかに好きな女の子が出来たとか・・・」

 「いや、あいつはそんな奴じゃない・・・けど・・・」

 こうなると千恵の頭の中が悪い方へと考えが進むのは仕方がないのかもしれない・・・。

 「あ〜んもう!何で連絡してこないんだあいつは!?」

 本来、気の短い千恵はとうとう頭から湯気を出して怒り始めてしまった。

 「人がこんなに心配してるのにあいつときたら全く・・・」

 そこまで言って側にあった枕を胸に抱きしめて、顔を埋めて呟いた。



 「・・・ばかやろう」



 ふいに目頭が熱くなってきた千恵は、涙をこぼさないように思いっきり枕に顔を押しつけた。

 そんな千恵の想いが通じたのか机の上の携帯電話が鳴りだした。

 ベッドから飛び起きた千恵は素早く手に取ると、液晶には待ちこがれていた少年の名前と電話番号が表示されていた。

 「はい、もしもし・・・」

 「千恵?僕だけど・・・ごめんね、今まで連絡できなくて・・・」

 「え、あ、ううん、そんなことないけど・・・」

 「あれ?なんか声がおかしいけど・・・」

 「あ、ちょっと風邪気味なんだ・・・けど大したこと無いから・・・」

 「ホント?お腹出して寝てない?」

 「な、な、何言ってんだよ!?」

 「いや、この間弟の伸吾君から”姉貴は寝相が悪いからいつもお腹を出して寝ているんだ”って聞いたから・・・」

 『・・・伸吾、後でお仕置き決定だな!!』

 さっきまでは泣きそうな顔をしていた千恵だが、いまでは拳を握りしめてこめかみをヒクヒクさせていた。

 「千恵?」

 「あ、ごめん、なんでもない」

 「そう、そう言えばもうすぐだねライヴ?」

 「うん」

 「僕も今から楽しみにしてるから・・・」

 「うん、絶対きてくれよな!」

 「もちろん、約束したからね!」

 「それじゃ待ってるから・・・」

 「うん、おやすみ千恵・・・」

 「おやすみ・・・」

 電話を切り再びベッドに寝転がると千恵は顔満面に笑顔を浮かべて転がった。

 「いやっほー♪あいつから・・・あいつから電話が来たー♪」

 少年とはほんの五分くらいの会話だけだったが、千恵にとっては最高に幸せな時間だった。

 しかし、こういうときに限って邪魔者がやってくるのは世の常なのかもしれない・・・。

 「おい姉貴!夜遅く変な声挙げて騒ぐなよ!」

 隣の部屋から弟の伸吾が怒鳴り込んできた。

 「・・・伸吾、いいところに来たな・・・」

 千恵は立ち上がると満面の笑顔を浮かべて伸吾に歩みよるが、その目は笑っていない。

 「な、なんだよ・・・」

 「あいつに・・・いろいろと楽しい話をしてくれたみたいだな・・・」

 「あ、俺用事思い出した・・・」

 指を鳴らしながら会話する千恵に、伸吾は自分の身の危険を感じて一目散に部屋から逃げ出した。

 「この待ちやがれ伸吾!!」

 深夜の松岡邸でいつもより激しい姉弟喧嘩が繰り広げられたのは言うまでもないだろう・・・。






 12月24日、ライヴハウス黒猫。

 毎年恒例のクリスマスライヴと言う事で今日は一段と盛り上がりを見せていた。

 この日ばかりは黒猫でも指折りのバンドが出演することもあって、入れない人は店の外で中から

 聞こえてくる音楽を聴いて楽しんでいた。

 そして今日のライヴの最後を飾るバンドがステージに現れた。

 もちろん黒猫一押しのロックバンド”サウザンブラック”である。

 バンドのメンバーが楽器のチェックをしているときに千恵は客席の方ばかり気にしていた。

 『おかしいな・・・あいつが来てない・・・』

 そう、少年の姿が見えなかったのである。

 一週間前の電話では確かに来ると千恵と約束をしたはずであったが、まだその姿は確認する事が

 出来なくてちょっと俯きながら千恵はチューニングをしていた。

 『どうしたんだろう・・・電車でも遅れているのかな?』

 そんな千恵の気持ちとは関係なしに時間は過ぎていき、とうとう時間となってしまった。

 「さあみんな!今日の最後をつとめるのはもちろんサウザンブラックだ!!」

 司会を担当している伸吾がメンバーの紹介を始めたので、千恵は自分の定位置でギターをかまえた。

 『うん、あいつはきっと来る・・・』

 千恵は少年を信じることにして、気持ちを切り替えて演奏に望もうとした。

 「さて、今日はさらにもう一人メンバーが増えました!」

 「え?」

 驚いて伸吾の方を見るとニヤリと笑って見返してきた。

 「何だそれ・・・」

 気になってほかのメンバーを見ると伸吾と同じようにニヤリと笑っていた。

 「?」

 どうやら知らなかったのは千恵だけらしい・・・。

 「それでは紹介します!」

 すると伸吾の影からギターを持った一人の少年が姿を現した。

 「やあ千恵、メリークリスマス♪」

 「あ、あんた!?」

 大きく目を見開いて驚いている千恵の前に現れたのは、さっき探していた少年だった。

 「さあ、心優しい弟から愛の詰まったクリスマスプレゼントを受け取ってくれるかな?」

 上手くいって満足した笑顔を浮かべた伸吾が呆然としている千恵に問いかけた。

 「貰ってくれるかな、千恵?」

 伸吾より優しくて暖かく、そして何より千恵が一番大好きな笑顔で少年は彼女を見つめていた。

 「おや?いらないの姉貴?」

 伸吾の言葉にライヴハウスの中にいるすべての人達が千恵と少年に注目していた。

 「い、いるに決まってるだろ!!」

 俯いて首まで真っ赤になった千恵は、嬉しさと恥ずかしさを合わせたような顔で少年の事を見た。

 「ありがとう・・・千恵」

 少年は嬉しそうに微笑むと伸吾やバンドのメンバーに親指を立てて挨拶をした。

 「さあ、みんな最後の演奏が始まるから思いっきり楽しんでくれ!」

 伸吾の言葉を待っていたかのようにドラムスがリズムを取り始め、それに合わせてベースとキーボードも

 演奏を開始した。

 客席にいるみんなも手と足でリズムを取って曲に合わせてくる・・・。

 「ようし・・・いくぜみんな!!」

 千恵は自分の横にいる少年に嬉しそうに笑いかけると、今日最初の曲を弾き始めた・・・。

 新しいメンバーを加えたサウザンブラックの最初のライヴは、後に黒猫で語り継がれるほど盛り上がるが

 それはまた別のお話・・・。






 「酷いよな・・・みんなしてあたしに黙っているなんて・・・」

 「ごめんね千恵・・・」

 さっきまでの熱気が嘘のように静かになったステージで千恵と少年は二人だけで話していた。

 もちろん千恵が自分の気持ちを込めて作った歌を聴かせたいために、ライヴが終わった直後に少年に

 声を掛けていた。

 「でも・・・凄く嬉しかったから特別に許してあげるよ」

 「ホント?よかった・・・」

 「でも、それで最近連絡してこれなかったんだ・・・」

 「うん、もう死にものぐるいで朝から晩までギターの引きっぱなしだったから・・・」

 少年が頭に手をやり照れている姿を見て千恵は、ちっとも変わらないんだからと安心していた。

 「どうだった?僕の演奏・・・」

 「結構上手くて驚いたよ、ホントに良かったよ!」

 「それじゃバンドのメンバーになってもいいかな?」

 「こっちこそよろしく!」

 二人は視線を合わせて微笑み合うとお互いに手を出して握手をした。

 そこでハッと気づいたように後ろに立て掛けてあった自分のギターを掴むと改めて少年を見つめた。

 「聞いてくれるかな・・・あたしが初めて作ったラヴソングを・・・」

 千恵は自分の中にある気持ちを少年に伝えようと、心を込めて静かに曲を弾き始めた・・・。

 それは少しせつなくてでも暖かく二人を包み込んでいった・・・。






 曲が終わると少年はゆっくりと手を叩いて千恵の演奏に感激していた。

 「ありがとう・・・最後まで聴いてくれて・・・」

 「ちゃんと千恵の気持ちが伝わってきたよ・・・凄く嬉しいな・・・」

 すると今度は少年が自分のギターを弾き始めた・・・。

 「じゃあ、今度は僕から千恵に聴かせたい曲があるんだけど聴いてくれるかな?」

 「うん・・・聴きたい・・・」

 少年は頷くとさっきの千恵と同じくらい気持ちを込めてギターを弾き始めた・・・。

 それもまた大好きな人に自分の気持ちを伝えるためのラヴソングだった・・・。

 曲が終わり千恵の方を見ると俯いて表情が解らなかったので、少年は近づいて少し下から千恵の顔を

 覗き込んだ。

 千恵の瞳は涙が溢れて静かにこぼれ落ちていた・・・。

 「あ、あたし・・・す、すごく嬉しくて・・・あれ・・・涙が止まんないや・・・」

 嬉し泣きしている千恵を見て思わず少年は彼女の背中に手を回すとその頭を自分の胸に抱きしめた。

 千恵も最初はビックリしたがそのまま少年の胸で静かに泣き続けた・・・。

 『良かった・・・ちゃんとあたしの気持ちは届いていたんだ・・・』

 落ち着いた千恵はそれでも暫く少年の胸の中で幸せの中に浸っていた。

 「千恵・・・」

 不意に呼ばれた千恵は見上げるとすぐそこに優しく笑った少年の顔があった・・・。

 千恵は頬を赤く染めて瞳を閉じてゆっくりと近づいていく二人だったが、少年はあと1センチと

 いうところでピタリと顔を止めた。

 おかしいと思った千恵も目を開けるとそれを待っていたかのように少年は話し始めた。

 「千恵・・・」

 「な、なに・・・」

 ちらりとステージの脇に少年は目をやるとすこし戯けて残念そうに言った。






 「みんなが見てるから続きはまた今度ね」

 「へっ?」

 少年の視線を追ってみるとそこには伸吾と黒猫のマスターとバンドのメンバーがニヤニヤしながら

 覗いていた・・・。

 「あ、まずい・・・」

 「ばれてるぞ・・・おい」

 「こりゃやばいな・・・」

 「・・・・おい」

 どこかあさっての方向を見ながらこそこそ逃げようとするみんなに、千恵がものすごく低い声で呟いた。

 ぴた。

 みんなの動きがそこで止まると首だけがぎこちなく千恵の方に向いた・・・。

 そこにはこれ以上無いってくらいに真っ赤になった千恵が肩を震わせ、拳は白くなるぐらい握りしめて怒りに

 燃えていた・・・。






 「ゆ・る・さ・な・い・ぞ、おまえら〜!!」






 拳を振り回しながら追いかける千恵とライヴハウスの中を逃げまどうみんなを少年は優しく見つめていた。






 深夜のライヴハウス黒猫ではクリスマスライヴに勝るとも劣らないぐらいものすごい怒り声がいつまでも

 響き渡っていた・・。






 終わり


 おまたせしました。

 第二弾は千恵でした♪

 千恵の気持ちが上手く書けるように努力をしましたがどうでしょうか?

 でも話をいくつも書いているうちに、なにかを掴み書けているような感じがしてきます。

 やはり何本も話を書いていけばそのうちに自分の言いたいことが伝えられるといいな〜。

 次は誰にしようかハッキリとは決めてませんが何となく話のしっぽが見えていますので

 もっと早く話が書けるような感じです♪

 それではまた次の話であいましょう。

 じろ〜でした。

 


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