PIA・キャロットへようこそ!! 2 After Story 






 大好き!残されし者達の挽歌 Ver.2






 Presented by じろ〜






 日の森姉妹が仲良く買い物を終えて寮の方に帰ってくると、葵の部屋のドアが開いていて中から異様な

 空気が流れ出していたのに二人は気がついた。

 「な、何なのよこの空気は・・・?」

 「あ、あずさお姉ちゃん、美奈こわいよぉ〜」

 あずさがおそるおそる中を覗いた時、中で飲んでいた葵と目がばっちり合ったかと思ったらそのまま凄い勢いで

 歩いて来て目の前に現れると、有無を言わさぬ素早さで二人を部屋の中に連れ込んだ。

 そこであずさと美奈が目にしたモノは、ジト目で不機嫌きわまりない表情でビールを飲んでいる葵、涼子、つかさ

 そして留美だった。

 「あ、あのみんな何かあったんですか?」

 あずさの質問に涼子はぐっと拳を握りしめると、持っていた500mlの缶ビールをごくごくと一気にあおり、

 そのまま飲み干してしまうと、大きく息を吐いてぶつぶつ呟いた。

 「女に生まれてこれほどの屈辱を受けたのは初めてだわ・・・」

 そしてテーブルの上にあった缶ビールのプルタブを開けると、またごくごく飲みだしてしまった。

 「悔しいぃよぉ〜!! ボクの方が絶対可愛いのにぃ〜!!」

 つかさも大きな声で叫ぶと、涼子に負けず劣らずごくごくと缶ビールを飲んで大きくため息をついていた。

 「ううっ・・・耕治君てそんな趣味だったなんて、留美悲しいよぉ〜!」

 こちらは泣き出して両手に持った缶ビールを交互に飲んでいた。

 「はぁ、前田君?」

 「あ、あのお兄ちゃんがどうしたんですか?」

 今まで黙って見ていた美奈も耕治の名前が出たので、自分からも聞いてみた。

 「んぐっんぐっ、ぷはぁ〜・・・ねえ美奈ちゃん、耕治君の事どう思う?」

 豪快に缶ビールを飲み干してから葵が妙に優しい声で美奈に聞いてくる。

 「えっと・・・耕治お兄ちゃんは優しくていつも美奈の事妹みたいだって言ってくれるから嬉しいです♪」

 その柔らかそうなほっぺたを赤くしてえへへと笑顔を浮かべて答える美奈である。

 「ぐびっぐびっ、ぷっはぁ〜・・・あずさちゃんはどう?」

 「えっ、わ、私はその・・・最初は嫌な奴かなぁ〜なんて思ってたけど、今は別に・・・その」

 こちらも妹に負けじと顔を赤くして照れているのを誤魔化すように、そっぽを向いて答えた。

 「そう・・・ぐびっぐびっ・・・ぷっはぁ〜・・・」

 葵は日の森姉妹を見てニタ〜と笑うと、頭を振りながら話し出した。

 「でもねぇ〜耕治君には好きな人がいるのよねぇ〜・・・残念だわぁ〜」

 「「ええっ!?」」

 葵の発言に二人はびっくりして大きな声を出した。

 「だ、誰なんですかその人!?」

 あずさは葵の肩を掴んで揺すると、噛み付かんばかりに詰め寄った。

 「ふっふぅ〜ん・・・知りたいのあずさちゃん?」

 葵は意地悪そうに笑うと酒臭い息を吐きながら真相を述べた。

 「耕治君の好きな人はねぇ〜なんと、神楽坂潤くんなのでぇ〜す!」

 「はぁ?」

 「ええっ?」

 一瞬二人は固まってしまい、思考も停止して意識は真っ白になったがすぐに復活するとその事実に

 騒ぎ出した。

 「う、うそ、そんなことあるわけ・・・」

 葵の言葉を信じられないあずさに、やけ酒大会のメンバー達は追い打ちを掛ける様に話し出す。

 「だって見たもん! 耕治君が部屋の中で神楽坂君と抱き合っているのを!」

 「そうそう、なんか良い雰囲気でらぶらぶだったぁ〜!」

 「く、悔しいぃ〜! 留美っそんなに魅力がないのぉ〜!」

 口々にいろんな事を言われて直感でそれを事実と感じたあずさは拳を白く握りしめてぶるぶる震わせた。

 「や、や、やっぱりあいつは変態だったのよ〜!!」

 そんな怒りっぽい姉とは対象なのが妹の美奈だった。

 「うわぁ〜ん、耕治お兄ちゃんは男の人が好きな人なんですかぁ〜」

 その場に座り込んで涙をぼろぼろこぼして泣き始めてしまった。

 そしてそれからは怒りの怒号と泣き叫ぶ声が寮の部屋を突き抜けて辺りに響き渡り近所迷惑だったが、

 文句を言いに行った人達は皆恐怖の表情で帰ってくると部屋に閉じこもってがたがた震えていたと言う・・・。






 そんな事が起きているなんてこれっぽっちも気づかない耕治と潤は楽しいデートを終えて家路についていた。

 「今日は楽しかった、ありがとう耕治♪」

 「俺も楽しかったよ、潤♪」

 潤は楽しそうに笑顔を浮かべて、耕治の腕に抱きつきながら幸せな気持ち一杯だった。

 そして潤の家の前で名残惜しそうに耕治と話していると、家の中から綺麗な女の人が出てきた。

 「あら潤、お帰りなさい、ところでその人は誰かしら?」

 「た、ただいまお母さん、そのあの・・・」

 赤くなって俯いた潤の代わりに耕治は潤の手を握ると、自分で自己紹介を始めた。

 「初めまして前田耕治と言います、潤さんとお付き合いをさせて貰っています」

 「こ、耕治!」

 その白い首まで真っ赤に染めて、潤は瞳を潤ませて耕治を見つめた。

 「うん、合格よ♪ せっかくだからお茶でもいかがかしら?」

 「お、お母さん!?」

 「それじゃ、ご馳走になります」

 「どうぞ♪」

 にっこりと笑う潤の母親に促されて耕治は潤の手をしっかりと握って家の中にお邪魔することにした。

 耕治の態度に横で見ていた潤はこの人を好きになって、私を好きになって貰って本当によかったと心から思った。

 その後、意外なほど強引な潤の母親に夕食までご馳走になって耕治も潤と同じ幸せな気分だった。

 この日、二人はらぶらぶはっぴ〜な一日を最後まで楽しんでいた。






 そして翌日。

 仲良く出勤してきた耕治と潤をお店で迎えたのは、いつも笑顔の店長と二日酔いで頭痛で不機嫌なあずさ達

 ウェイトレスご一行様だった。

 「「おはようございます」」

 耕治と潤はお店の前で掃除をしていた店長に同時に声を掛ける

 「やあおはよう前田君、神楽坂君、今日は仲良くご出勤かい?」

 「おはようございます店長、今日の午前中は潤と一緒に勉強していましたから」

 「おはようございます店長、耕治ったら意外に頭がいいんでビックリしました」

 「潤〜どういう意味だ、それ?」

 「うん、そのまんまだよ♪」

 「このっ」

 「わわっ、いたたた〜ごめん耕治、許してよぉ〜」

 耕治は潤の頭をヘッドロックで決めてじゃれ合っているのを店長は笑いながら見ていたが、お店の中から窓越しに

 見ていた今の彼女達にはべたべたしてらぶらぶな恋人同士にしか見えなかった。

 「ほ〜らご覧なさい、あれを見てもまだ信じられない?」

 「ううっ・・・耕治お兄ちゃん、ぐすっ・・・」

 いつもお兄ちゃんと慕っていた男の子がそう言う趣味だったと気づいて悲しみに満ちあふれていた。

 「くっ・・・なんか今日の神楽坂君は可愛く見えるわ・・・」

 眼鏡を掛けた髪の長い女性は悔しそうに唇の端を噛んで二人を睨んでいた。

 「耕治ちゃん・・・禁断の愛に走ってしまったんだね、ボク影ながら見守ってあげるから♪」

 きゃる〜ん娘は妙な妄想にほっぺた赤くしてぼーっとしていた。

 「耕治君・・・留美は、留美はそんなに魅力無かったの? 男の子に負けちゃうほど・・・ううっ」

 昨日からそればっかり口にして涙を流しているポニーテールの女の子だった。

 「どう? あずさちゃん・・・いっ?」

 葵が声を掛けた女の子、巷ではヒロイン大本命と噂されていた日野森あずさは微笑んでいた・・・怖いぐらいに。

 その微笑みをみて思わず尻餅をついて葵は後ずさりをしてしまった・・・それぐらい恐ろしい笑顔だった。

 「ふっふっふっふっふっ・・・」

 「あ、あの〜・・・あずさちゃん?」

 おそるおそる声を掛ける葵に振り向いたあずさは、虎も逃げ出すような最高の微笑みで笑い掛けた。

 「ふふっ、何ですか葵さん?」

 「な、なんでもありませんっ!」

 「そうですか、ふっふっふっ・・・」

 もはや違う意味で天国、もしくは地獄に連れて行かれそうなあずさの笑顔にほかの彼女たちも気がついたのか、

 あずさを残して静かにこそこそと去っていった。

 そしてその彼女の視線の先にはまだじゃれ合っている仲睦まじい耕治と潤がいた。






 午後のピークも過ぎて閑散とした店内でテーブルを拭いて備品のチェックしながら耕治と潤は話していた。

 「ねえ、耕治」

 「ん、どうした潤?」

 「うん・・・あのね、なんかみんなの様子がおかしいんだけど耕治知ってる?」

 「う〜ん、分かんないなぁ」

 「そう、耕治も知らないんだ・・・でもホントにどうしたんだろう?」

 その原因が自分たちに在る事をすっかり忘れている二人の行動に、とうとうあずさの頭の中で何かが切れたが

 もちろん誰に聞こえる事がなかった。

 「ちょっと神楽坂君、サボってないで仕事してくれないかしら?」

 「あっ、すいませんあずささん、すぐにやります」

 「まったく仕事中なんだから話なんてしないでよ」

 「おい、日野森何怒っているんだ?」

 「別に・・・これがいつもの私よ」

 「そうか? 確かにいつも怒っている様な感じだったけど・・・」

 「お、大きなお世話よ! ほっといてよ!」

 「やっぱり怒っているんじゃないか」

 「ふん! あなたもさっさと仕事してよね!」

 肩を怒らせてどすどすと足音をたてて行ってしまったあずさの後ろ姿を耕治と潤は不思議そうな顔で見送っていた。

 それから耕治が店長に呼ばれて倉庫の方に行ってしまうと、あずさは何かにつけて潤にあれこれ指図をし始めた。

 「ほら、あそこにゴミが落ちているわよ」

 「は、はい」

 そんな事言ってるそばからさりげなくゴミを落としながら歩くあずさだった。

 「はいこれ持っていって頂戴」

 「こ、これ全部ですか?」

 潤の目の前にはどこかから集めた皿やカップなど山の様に積んであった。

 「当たり前でしょ、男の子なんだから何言ってるのよ」

 「で、でも・・・」

 「口答えしないで早く運んで!」

 「は、はいっ」

 その華奢な体でがんばって運び始めた潤の姿を見つめていたあずさの唇の端は微妙に上がっていたのに気づかない

 潤は言われた通りにかたし続けた。

 それから、いろいろあれやこれやと何癖つけて潤を使い回しているあずさを、ほかの女の子達はさすがに遠巻きにして

 見ている事しか出来なかった。

 「あずささんて本当に前田君の事好きだったのね・・・」

 「そりゃそうよ、誰が見てたって分かったもの」

 年長者の涼子と葵はしみじみと肯き合っていた。

 「あずさお姉ちゃん、可哀想ですぅ・・・ぐすっ」

 「でも仕方がないよ、耕治ちゃんが選んだのはじゅんじゅんだもん♪」

 可哀想な姉を嘆く妹にコスプレっ子の女の子が楽しそうに相づちを打つ。

 「だめよ! やっぱりこんなのは間違っているわ! 留美が耕治君を正しい愛の道に戻さなくっちゃ!」

 先ほどとは違い今や新しい使命に燃える女の子はポニーテールを揺らしながら叫んでいた。

 ・・・誰もあずさの意地悪に口出すことは無く、自分の気持ちを言っていただけだった。

 もちろんあずさを止め様なんてこれっぽっちも思っていない。

 止めたら最後、自分が天国か地獄に行くのが分かってしまったからで在るのは言うまでもない。






 「いい加減にしないか、日野森!」

 店長に頼まれた荷物の整理を終わらせて潤の様子を見に来た耕治は、あんまりにもおかしい事に気がついて

 あずさを少し大きな声で咎めた。

 「こ、耕治?」

 額に汗をかいて疲れた笑顔で潤は耕治を優しく見つめた。

 「な、なによ前田君、仕事の邪魔しないでよ!」

 視線を戻してあずさを見つめながら歩いてきた耕治は、潤に笑い掛けてから庇う様に前に立ちあずさをを睨み付けた。

 「これが仕事か? どう見たって違うだろう!」

 「じゃ、じゃあ何だって言うのよ?」

 ふっと耕治は息を吐くと、静かな声で諭す様にあずさに言った。

 「これじゃ只のイジメだよ、それにこんな事する日野森じゃないだろう」

 耕治の静かな言葉にあずさは俯いてしまったが、その肩はわずかに震えていた。

 「一体どうしたんだ? 今日はみんな朝からどことなく様子がおかしいし・・・」

 離れた所からこちらを伺っていたみんなに視線を動かすと、それぞれあっちの方見ながら目を反らしてしまった。

 「なあ日野森、潤が何かしたのか?」

 「・・・・・・」

 「それとも俺が何かしたのか?」

 「・・・・・・」

 「言ってくれなきゃ分からないよ、日野森」

 「ま」

 「ま?」

 「前田君のばかぁ〜!!」

 どかっ!

 見事なスイングバックから放たれたあずさの拳は、内側にひねりながら耕治の顔に吸い込まれていった。

 どんがらがっしゃ〜ん!!

 そのままあずさは大きな目に涙を一杯に溜めてお店の外に飛び出していってしまった。

 「こ、耕治!? しかっりしてぇ〜」

 一瞬呆然とした後、思わず素の声に戻ってしまった潤はそれに気づかず鼻血を流して気絶している耕治を解放した。

 しかし周りで見ていた他のウェイトレス達は耕治を助けるどころか、当然よねと言った顔でみんな自分の

 仕事に戻っていった。

 それから店内の騒がしさを耳にした店長こと祐介は、フロアの現状を見て何があったのか自分の経験から

 すぐに理解して潤と一緒に耕治を休憩室に運んでいった。

 そして気絶したままの耕治に向かって一言呟いた。

 「今日までの辛抱なんだからがんばってくれたまえ、前田君」






 そして次の日。

 目を真っ赤にしたあずさがキャロットにやって来て目にしたものは、彼女の思考を停止させてしまった。

 「あ、あの、よろしくお願いします」

 そこには見慣れた顔の男の子だった神楽坂潤が、ウェイトレスの服を着て頬をピンク色に染めた女の子に変身していた。

 「いや、僕も最初は驚いたけどね・・・実は彼女は演技の勉強のために男の子の姿でバイトをしてたんだ」

 横にいる店長は潤の肩を軽く叩いて彼女の事情を説明した。

 「そのみなさんを騙すつもりは無かったんです、ごめんなさい」

 平謝りする潤を呆然として見ていたあずさ達はただ肯くだけしか出来なかった。

 「でも大したものだったよ、全然気がつかなかったよ」

 「そう言って貰えるのは嬉しいんですけど、耕治には気づかれちゃいましたからまだまだです」

 「ちょっと待って!?」

 その言葉を聞いた瞬間、あずさは我に返って潤に詰め寄っていろいろ聞き出した。

 「い、いつから前田君は気がついていたの?」

 「え? その・・・最初は何となく疑われていたぐらいなんだけど・・・」

 「だから確実にばれたのは何時なの?」

 「か、確実には研修旅行に行った時に・・・はっ!」

 ついあずさの迫力に初体験の時の事まで喋りそうになった潤は、慌てて自分の口を押さえて黙り込んだ。

 しかしそこまで聞いたあずさは想像がついてしまったのか、へなへなと座り込んでまた呆然としてしまった。

 もちろん涼子も葵もつかさも留美も同じ様に座り込んでなにやらぶつぶつ呟いていたが、美奈だけはきょとん

 として首を傾けて立っていた。

 「おはようございます」

 と、そこに顔に湿布を貼った耕治が出勤してきた。

 「あ、おはよう耕治♪」

 「おはよう潤、似合っているよその格好♪」

 「うん、ありがとう」

 「これからもよろしく潤!」

 「うん、こちらこそよろしく耕治♪」

 そして耕治は倉庫整理、潤はフロアの方に足取りも軽やかに歩いていった。

 後に残された者達を見て祐介は一人ごちた。






 「前田君、後かたづけは僕一人かい? とほほ・・・」






 「あずさお姉ちゃん、しっかりしてください〜」

 あずさは美奈に肩を揺すられたけれど、その後閉店までみんなと同じ様に呆然としたままだった。

 もちろんその事でお店の人手は足りなかったが、耕治も潤も自分の力の限りがんばってキャロットをなんとか

 切り盛りして事なきを得た。

 だが、店長の祐介は涼子の分まで仕事をしなければならず、その日は家に帰れなかったの別の話である。






 それから数年後、耕治は新しいお店「ピア・キャロット三号店」の店長として活躍をしていた。

 神楽坂潤は母親とは違うけど女優として大活躍していて、つい先日映画の公開初日に婚約発表したばかりで

 その場に招待されていた耕治共々多くのファンに祝福された。

 そしてその後、結婚した二人はいつまでも幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし。






 終わり












 「「「「「「全然めでたくなぁ〜い!! 私たちの幸せはぁ〜!!」」」」」」






 あしからず。


 どうも、じろ〜です。

 加筆修正したら本編より長くなってしまいました(笑)

 どうでしょうか?

 こんなの駄目!とお思いの方、メール下さい♪

 次は本当にあずさのSSを書きたいなぁ〜

 1999/10/31加筆修正


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