機動戦士ガンダム外伝−レジェンド・オブ・カノン−




















 宇宙……
 それは暗黒の世界……
 それは虚空の世界……
 そう、それはまさに……
 今のボクの心………

 

月宮あゆの日記より




















第15話「出航」





















 <月付近・宙域>

 宇宙。
 全ての生き物を飲み込むが如く広がっている暗黒空間。
 その残虐な一面を見せながらも、その事を忘れてしまうほどの美しさを醸し出している。
 一体、どちらが本当の姿なのだろうか?
 宇宙に飛び出した相沢祐一達は、蒼く光り輝いている地球を背に、この傍若無人な大海原に身を任せるのだった。










 「うわ〜………」

 蒼い髪の、少し惚けた雰囲気を漂わせている少女が、シャトルの窓に顔をべったりくっ付けながら外の様子に驚きを露にしていた。

 「さすがに真っ暗なんだね〜………」
 「何を当たり前な事を言うかね、この娘は………」

 ちょっとした事でも多いに喜んだり驚いたりしている名雪を、少し疲れた様子で眺めている祐一の姿があった。

 「だって私も倉田先輩も宇宙は初めてなんだもん。しょうがないじゃない」
 「そうですよ、祐一さん。佐祐理は凄く感動してるんですよ」
 「そう言うもんかね………」
 「ふふ………大変ですね、祐一さん」
 「秋子さん」

 横で騒いでいる名雪達を暖かな微笑で見つめながら、祐一の方に近づいてきた。

 「少し疲れているんじゃありませんか? 到着まで時間があります。今の内に眠っておいた方が良いですよ」
 「………そうですね。でもあいつらはどうしますか? あのままじゃいくらなんでもまずいでしょ」
 「まあ、その内飽きるでしょう。祐一さんは気にしないで休んでください」

 祐一は顎に手をやると、少し思案にふける。だがそれも一瞬のことで、納得した表情になった。

 「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいますね」
 「そうして下さい。リーダーに倒られては事ですからね」
 「ふふっ………判りました。おやすみなさい………」
 
 ふっと息を吐き、シートにもたれ掛かる。と同時に、あっさりと深い眠りに着いてしまった。
 余程疲れがたまっていたのだろう。泥の様に眠りこけている。

 「ゆっくりと……休んでくださいね………」

 祐一の寝顔を自愛に満ちた表情で見つめていた。
 シャトルはゆったりとしたスピードで、目的地である『月』を目指していた。






































 <月面都市・フォンブラウン>

 「すごーい!!」
 
 名雪が目を輝かしながらシャトルを降りる。
 名雪にとって、教科書の上でしか知らなかった月面都市に足を踏み入れているのだ。
はしゃいでしまう気持ちも、判らないでもない。
 大規模なクレーターの中に作られたその都市は、宇宙空間においての重要な拠点であるかを示すように、非常に発達した都市体系をしている。
 
 「凄いよ、凄いよ! ホントに凄いんだよ!?」
 「わかったから少し落ち着け」

 名雪は興奮状態の為か、半ば訳のわからないことを口走りながら辺りを見まわしている。
 名雪は物珍しそうに見ている風景だが、お世辞にもいい風景とは言えないものだった。シャトルから降りたばかりなので、周りを鉄筋に囲まれているのはしょうがないと言えばしょうがないのだが………
 祐一はすっかり名雪にペースを掴まれており、うんざりした表情で名雪を止めにかかっていた。だが、そんな事では名雪の暴走は止められなかったようで、ほとんど諦めきっているようだが。
 ふと祐一は佐祐理の方を見る。
 佐祐理は多少物珍しそうに周りを見ているが、名雪の様にはしゃいだりしない。
 ニコニコと、太陽のような笑顔を浮かべて見入っているだけであった。
 
 「ふう………」

 無意識にため息が漏れる。
 名雪ももう少し佐祐理さんを見習って欲しいものだ………
 そんな事を考えているのだろう。
 
 「ようこそ、フォンブラウンへ。お待ちしておりましたよ、水瀬中将」

 祐一達が話をしていると、突然後ろから声を掛けられる。
 振り向くと、そこには40を過ぎた、小太りでスーツ姿の男が出迎えていた。
 
 「お久しぶりです、パトリックさん。お元気でなによりです」
 「貴女も相変わらずお美しい。いや、更に磨きがかかったようですな」
 「いやですわ、もう。お上手なんですから………あ、そうそう。紹介いたしますわ………」

 二三、男と話を交わすと、今度は祐一達の紹介をし始めた。
 
 「こちらが今回、特別部隊の隊長を務める、相沢祐一大尉です。そして………」

 佐祐理、名雪の順番に紹介されていく。
 それぞれ男と握手をすると、今度は秋子が男の紹介を始めた。

 「この方はパトリック・ベルサビッチ中佐です。このフォンブラウン市に駐在している方よ」
 「パトリック・ベルサビッチだ。君達の事は水瀬中将から聞いている。これからは中心となって戦うことになってもらう事になるな………期待しているぞ!」

 祐一は少しだけだが眉ひそめた。
 あまり期待されっぱなしと言うのも、飼いならされて首輪を着けられた犬を思い浮かべてしまい、少しだけ嫌悪感を感じていた。
 名雪と佐祐理の表情は、祐一の後ろにいるために判らないが、大方自分と同じ顔をしているのではないか、と思ってしまう。実際、二人とも祐一と同じようにあまりいい表情ではなかった。
 微妙な雰囲気が流れる中、祐一は秋子にそっと耳打ちをした。

 「それで………今回の訪問の目的は?」
 「祐一さん?」
 「ただ観光に来ただけではないでしょう? 本当の目的はなんですか?」
 「ふふ………やっぱりばれました?」
 「それじゃ………」

 言い掛けた祐一の口を人差し指でそっと押さえる。
 思わぬ秋子の行動に、顔を真っ赤にしてしまうのであった。

 「その答えは………今お見せしますね」
 「は、はあ………」
 「パトリックさん」

 秋子がパトリックを呼ぶと、さっきとは打って変わり、真剣なものになっていた。
 パトリックも秋子の様子を感じ取り、さっと居住まいを直した。

 「例のものを受け取りに来ました。案内してくれますね?」
 「はい。こちらです」

 パトリックが戦闘となり、通路を歩いていく。
 祐一達は訳のわからないまま、それに着いて行くしかなかった。
 












 祐一達はフォンブラウン市の地下に入っていた。
 地下はスラム街などがあり、少々殺伐としたイメージを持っている。それでもサイド1、サイド3などに比べれば随分活気があるようだ。
 
 「この建物です」
 
 パトリックが示した場所は、フォンブラウン市の端に位置する異常に大きい建物だった。
 パトリックは扉の前で何かを喋っている。
 よく見ると扉は頑丈なもので出来ており、防犯システムも完璧のようだった。
 パトリックは声紋判定をしていたのであろう。
 その後、指紋まで取るとようやく重い扉が開き始めた。
 扉の奥は、明かりが点いていないせいか、真っ暗で何も見えない。
 
 「真っ暗だね………」
 「はえー………一体何があるんでしょうか?」
 「………」
 
 秋子は真剣な表情を崩さず、パトリックに指示を出す。

 「パトリックさん、明かりをつけてくれるかしら?」
 「はい」

 パトリックは、すぐ傍にあったブレーカーを押し上げる。
 



 

パッ!!!





 全フロアに電灯が点いた。
 祐一達は急に明るくなった為に少し眩しそうにしている。
 だが徐々に目が慣れてくると………

 「!? これは!!??」
 「凄い………」
 「はえ〜………」

 目の前には驚くほど巨大な戦艦の姿が在った。
 形状から言ってペガサス級の代物である。

 「秋子さん………これは?」
 「私達の母艦になる船ですよ、祐一さん」
 「何時の間にこんなのを………」
 「ふふふ………それは秘密です」

 パトリックに方に向き直ると、がっちりと握手をした。

 「パトリックさん、今までこの戦艦を護ってくれてありがとうございます。この恩に報いる為にも必ず朗報をもって帰ります」
 「頼みましたよ。我々も出来る限りのバックアップをいたしましょう」

 呆然としている祐一達を他所に、戦艦の中に入っていく秋子達。はっと我に帰った祐一達は、慌ててその後を追っていった。
 無言で戦艦の内部を歩き回る。
 まだ整備中の所が何ヶ所か見受けられたが、ほとんど完成していると言って良いほどであった。
 
 「ここがブリッジですね?」
 「はい。どうぞお入りください」

 ブリッジの中に入ると既に何人かのクルーが自分の持ち場で仕事をしている。
 彼らは秋子が姿を現すと、歓喜の表情で彼女の周りに集まり出した。

 「中将! 何時頃お帰りになられたんですか!?」
 「今さっきよ。皆さん久しぶりね………」
 「私、秋子さんの元で働けるなんて夢みたいです!」
 「あらあら」
 「………!」
 「………!!?」
 「………」

 もう、矢継ぎ早に話すので訳がわからない。それを全て答えている秋子も凄まじいのだが………
 またしても呆然とする祐一達。彼らが秋子に慣れるのは何時の事だろうか。

 「秋子さんって、本当に顔が広いんだなあ………」
 「私もはじめて知ったよ………」
 「まあ……秋子さんですからねぇ………」

 佐祐理の言葉に一同納得。
 それしか言いようが無かった。

 「ああ、そうそう。祐一さん」
 「はい?」

 急に呼ばれて少し肩に力が入ってしまう。
 
 「急で申し訳無いのですけど、この艦は明日出航します」
 「はあ………なるほど………って、あ、明日ですかあ!?」
 「ええ。それでは皆さん、また明日会いましょう。寝床はこの船中の物を使って下さい。祐一さん、名雪達を襲ってはダメですよ?」
 「襲いません! って言うか、明日なんていきなり過ぎです!」
 「えー? 私は襲われても一向に構わないのに〜………」
 「名雪は黙ってろ! って、もう秋子さん居ないし!?」
 
 既に秋子の姿は見えず、祐一達だけが取り残されていた。ちなみにパトリックも居なくなっている。
 あまりの展開に途方に暮れてしまう祐一であった。

 「諦めましょう、祐一さん。秋子さんの『いきなり』は今に始まった事じゃないですし………」
 「うぐぅ………」






































<翌日・戦艦ブリッジ>

 「ふああ………」
 「祐一、おっきなあくび………」

 結局祐一は、明日の事が気になってなかなか眠れなかったのだ。
 別にパイロットなのだから気にする事も無いのだが。
 変な所で律儀な男である。

 「秋子さん、最近俺で遊んでないか………?」
 「そんな事は………あるかも……」
 
 祐一が疲れた顔で愚痴を零す。名雪もそんな祐一を少し不憫に思ったのか、祐一の愚痴に付き合っていた。
 佐祐理はそんな二人を見ながら苦笑しているだけであった。
 話中の中心人物である秋子はクルーに指示を出し、出航に備えている。
 そんな中、一段落着いたのか、祐一の姿を見とめると彼らの方にやってきた。

 「おはようございます、祐一さん。昨日はゆっくり眠れましたか?」
 「はい、一応は………」

 ハハハ、と疲れた笑いを見せる。

 「まあ、それはともかく何処か適当な所に坐ってください。もう間もなく出航ですから」
 「え………早いですね。もうですか?」
 「ええ。皆さん優秀ですから予定の時間よりも早く準備が整いましたから………」
 「へ〜………」

 祐一が感心する中、秋子は何時の間にかキャプテンシートに坐っていた。
 一段、高くなっているキャプテンシートから艦内放送を流し始めた。

 “クルーの皆さん、おはようございます。遅くまでの作業、本当にご苦労様でした。心からお礼を言います”
 “さて、本艦はこのフォンブラウン市を出発し、火星付近にある小規模なアステロイド帯まで進む事になります。この辺りの宙域はまだ判らないところが多いでしょう。元中将・久瀬が一体何を考えているのか、現段階ではわかりませんが、そんな未知なる宙域ですから敵の重要拠点も存在する可能性が高いと思われます”

 ここで少し一息入れると、祐一の方をちらりと見る。

 “それに伴い、闘いも激戦が予想されるでしょう………ですがこちらもこの艦と高性能のMS、そして優秀な人材が揃っています。顧みて我々が何故編成されたのか? それは連邦軍首脳も我々の手で彼ら『サクセサーズ』の野望を打ち砕いてくれると信じているからです。………紛れも無く、我々は先駆を切って彼らと闘い、そして勝利し、胸を張って本国に帰ると断言します。皆さんの健闘を祈っています”

 静寂が辺りを包む。だが次の瞬間、割れんばかりの拍手と歓声が艦内に響き渡った。
 
 「それでは、パトリックさん………後処理をお願いしますね」
 “了解です。御武運を祈ってますよ”
 
 外の管制室に居るパトリックに激励を送る。
 パトリックは表情を引き締めると、インカムで部下達に指示を与えていく。

 “第二、第三エンジン、正常に作動!”
 “自動演算ユニット誤作動無し。こちらも正常に作動”
 “核融合炉、問題無し”
 “メイン・サブ全エンジン、出力86,9%”
 “メインブースター点火用意!”
 “外部ハッチを開けろ! 間もなく出航だ!”

 様々な指示があたりを飛び交う。
 ブリッジにもその緊張感が伝わってくるように感じられた。
 そしてパトリックから通信が入る。

 “出航準備、整いました。水瀬中将、ご命令を!”
 「了解………」

 秋子も怖いぐらいに表情を引き締めている。
 その雰囲気だけで飲まれてしまいそうなぐらいに。
 一つ息を吐き、祐一達をを見る。
 祐一もそれに気付いたのか、無言で頷き返した。

 「それでは………強襲揚陸艦『パッヘルベル』、これより火星に向けて出航します!!」

 秋子の凛とした声が、皆の歓声と共に響き渡っていった。














続く




















 <MS等データ>

 ・その12  ペガサス級強襲揚陸艦 パッヘルベル  艦長・秋子
  全長・365m/総重量・48600t/武装・対空機関砲×23、三連装メガ粒子副砲×3、メインメガ粒子砲×1、ミサイル×多数
 祐一達の乗る旗艦。久瀬の行動に不信を抱いていた秋子が、極秘裏に計画を進め、フォンブラウンにおいて製造したものである。
 外装、武装は従来のペガサス級とさして変わらないが、通信面の強化・コンピュータの性能向上を特に重視したものになっている。
 その他、パイロットルームからMSデッキまでの経路の短縮、MSのカタパルト・スタンバイの簡略化が緻密に構成されている為に、非常に戦闘向きで安定した戦艦にしあがっている。



















 <オリキャラ紹介>

○ パトリック・ベルサビッチ
フォンブランに駐留している連邦軍中佐。
  パッヘルベルの製造に携っていた。秋子とも付き合いが長いらしく、酒などを酌み交わした事もある。
  恰幅がよく、何時もスーツ姿のため、軍人だとは誰も思わないそうだ。
  ユーゴ出身。42歳。




















 カスタム「おひさー」
 栞「どうも、栞です」
 カスタム「さてさて、今回もなんとかアップできましたね」
 栞「何時もネタが無いって、唸ってますからね」
 カスタム「………ネタが浮かぶ時って、大体仕事中なんですもん………」
 栞「で、帰って来たら忘れていると」
 カスタム「………まあ、良いんですけどね………」
 栞「それより、やっと旗艦が出てきましたね」
 カスタム「本当はサラミスにでもしようかなと思ったんですけど、まあ、主役達が乗る艦ですからね。少し無理をしてペガサス級の艦に乗って頂きました」
 栞「なるほど」
 カスタム「なんにしてもこれからですからね。頑張らないと」
 栞「私を出す事も忘れないように」
 カスタム「判ってますよ(汗)」
 栞「それではこの辺にしておきましょう。さよ〜なら〜」
 カスタム「次回もお楽しみに♪」