機動戦士ガンダム外伝−レジェンド・オブ・カノン−






















 地球の方が一段落したら今度は宇宙。
 まったく忙しいって言ったらきりがないよ。
 まあ、美汐と一緒に居られるんだから、別にいいんだけど………
 とりあえず、今後の任務はフォボスの護衛みたい。変な性格のパイロット二人が新しく配属されたし、退屈凌ぎにはなりそうかもね。

 

沢渡真琴の日記より




















第23話「覚醒」




















 
 <11月4日 戦闘終了後>

 サクセサーズとの本格的な戦闘が終了し、祐一達はそれぞれ己の母艦である、パッヘルベルへと帰還していた。
 状況としては、ミズカ達が撤退したのを機に、斎藤率いるローザンヌは防戦を取らざるを得なくなってしまったのだ。
 その瞬間を秋子が見逃すはずも無く、一気に押して行ったのである。
 グラン大佐が艦長を務めるベルリンの助力も借りて、なんとか退けて行ったのだった。多少の損壊はあったものの、快勝と言うべき内容のたたかいであった。
 そして、今パッヘルベルは修理と補給を兼ねて近い距離にあるコロニーに寄っていた。
 ちなみに秋子たちが滞在しているコロニーは、サイド7の管轄にあたる。
 重要な機密の宝庫でもあるこのサイドでは、サクセサーズの決起も関係している為か、かなり厳重な警備とチェックが行われていた。
 そのため、秋子を除く祐一達の面々は、チェックが終わるまで待機を命じられている。

 「でも名雪さん、すっごく良い作戦を考えつきましたね〜。佐祐理は感服しました」
 「えへへ………そうかな?」

 さっきから名雪が佐祐理に誉められている。
 どうやらこの前の戦闘のことを話しているようだ。その時の作戦を話しているのだろう。
 誉められつづけている名雪は、照れながらも満更では無い表情を浮かべていた。

 「でも、相手のMSがもし栞さんの方に向かって行ったら、どうするつもりだったんですか?」
 
 佐祐理がふと考え付いた疑問を名雪にぶつける。

 「その場合は、そのまま栞ちゃんにある程度逃げてもらうんです」
 「ふむふむ」
 「そうすると、その先に暗礁空間があるのが判ってたんで、持ってる残りのグレネードを至るところにくっ付けて相手が来るのを待ちます。リモコン式にセットしておいて、来たところをドカン、と………」

 身振り手振りを交えながら説明をする名雪。
 佐祐理も名雪の説明に大分納得したのか、頷きながら名雪の話を聞いていた。

 「まあ、なんにしても無事で良かったですよ〜」
 「ふふ……そうですね」

 二人の関係を知らない者がこの光景を見たら、かなりの人が姉妹と答えるだろう。それ程仲が良かった。
 だが、そうそう話題が続くことは無かった。

 「それにしては時間かかってるね〜」
 「しょうがないですよ。ただでさえこんな時期ですし………」
 「う〜ん………それにしたって遅すぎですよ〜。もう2時間にもなるんですよ?」

 辛抱強く待機していた名雪だったが、いよいよ業を煮やして愚痴を零し始める。秋子も手続きに手間取っているのか、一向に音沙汰が無い。

 「………」

 舞は壁に持たれかかるように、腕を組みながらジッとしている。目も瞑っており、まるで瞑想でもしているかのようだ。時々壁に備え付けられている掛け時計に目をやる以外、特に目立った行動はしていない。

 「………す〜、す〜………」

 一方、栞は疲れが出たのだろう。待合室のソファをベッド代わりにして眠っている。その寝顔は、まるで幼子のように無邪気であった。さっきまで熾烈なMS戦に参加していたとは到底思えないほどである。
 そしてもう一人。

 「祐一も長過ぎると思うよね?」
 「………」
 「?? ねえ、祐一〜。聞いてるの?」
 「………ん、ああ……悪い。なんの話だったか?」
 「んもう! ちゃんと話聞いてよ」

 祐一はさっきからずっと考えていた。
 もちろん、妙な違和感を感じたパイロットとの戦いを思い返していた。
 やたら強く、そして少しおかしなパイロットの事を。
 あの時頭の中に飛び込んできたイメージ………女の子の姿をしていたようだが、ヴェールに包まれたかのようにぼんやりとしたものが祐一の記憶に焼き付いている。
 そして何かを喋っているようにも見えた。

 「………“おはよう”だったかな………?」
 「何が?」
 「ん………いや………」
 「うー、途中で止めないでよ。気持ち悪いよ」

 名雪が祐一の次の言葉を急かすように待っている。
 祐一も期待されるような目で見られると、少々戸惑ってしまう。しょうがない、と感じた祐一は、辺り障りの無い部分だけを話すことにした。
 頭の中に響いてきた『女の子』の事や『謎の声』の事は、話すことが躊躇われた為だ。無意識のうちに。
 
 「さっきの戦いが少し違和感があったってだけさ」
 「でも終わってからなんか変だよ? ずっと黙ってばっかだし」
 「それは………気のせいだろ?」

 内心、名雪の鋭さに舌を巻いていた。
 これ以上話しているとばれてしまうのではないか、という疑念に駆られる。祐一はさっさと話題を切り替えることにした。

 「それはそうと………名雪の作戦は絶妙だったな。ビデオで見させてもらったよ」
 「え………そ、そうかな」
 「ああ、見なおしたよ」
 「えへへ………」 

 祐一に誉められて真っ赤になる名雪を見て、祐一は頬を緩める。
 名雪も祐一と佐祐理に誉められた事がとても嬉しかったようだ。
 しばし和やかな雰囲気が辺りを包む。

 「あ、でも祐一さんも凄いですよね。名雪さんと同じ人達を相手にしてたんですよね?」
 「まあ、な」
 「そんなに凄い相手を一人で退けてしまうなんて………さすが祐一さんです」

 尊敬の眼差しをぶつけて来る佐祐理に、少し苦笑してしまう。

 「だって祐一は」名雪も続くように言葉を紡ぐ。

 「あんな暴れ馬みたいなMSに乗れるだけでも凄いのに、使いこなしちゃうんだから」

 自分の事のように誇らしげに言う。
 名雪が煽ってくれたお陰ですっかり注目の的になってしまった事に、祐一は困惑の色を浮かべていた。
 関心無さそうにしていた舞でさえ、祐一の方に目を向けている。あまりの照れくささにどうしようかと思っていた時であった。

 「それは祐一さんがニュータイプだからですよ」
 「!?」

 皆が驚いて一斉にドアの方を見やる。
 と、そこにはにこやかに微笑をたたえている秋子の姿があった。手にはかなりの量の書類が抱えられている。

 「お母さん、終わったんだ」
 「ええ………少し時間掛かったけれど、もう大丈夫よ」

 ようやく姿を現した秋子を、名雪は肩の力を抜いて話しかけた。傍にいる佐祐理も同様だった。
 だが、ただ一人、祐一だけは訳がわからないような、微妙な表情を浮かべながら秋子を見つめていた。

 「秋子さん、ニュータイプって……あの………!?」
 
 聞き覚えのある単語が、まさか秋子の口から発せられるとは思わなかった。
 祐一の様子を見て、秋子は苦笑する。

 「一つの考え方ですよ………」
 「………冗談でしょ?」

 祐一は面食らいながらも秋子に言う。
 さすがに動揺は隠せないが。
 
 「いえ………確定はしませんが、“もしかしたら”ということだってありますからね?」
 「………!?」

 ぐっと拳に力が入る。
 正直、祐一は良い気分ではなかった。
 尊敬する秋子に皮肉られたと感じたからだ。もちろん、彼女にそんな気は毛頭ない事は、祐一自身が良く知っている。
 だが、頭では判っていても感情が抑えられないのだ。
 祐一にとって、ニュータイプという概念はあまり良いイメージではなかった。
 サイド6にある辺境の故郷では、ニュータイプ論が持てはやされていた。
 ニュータイプ論は、宇宙に追いやられた人間達が、重力下の人間達との差別化を図る為に、また自分たちが正しいと思わせる為に作られた論理だ、というのが祐一の考え方である。
 いわばスペースノイドの嫉妬を、そのまま具現化した論理だとも言える。
 そんな自己擁護的な考え方など、祐一には許せなかった。
 
 「………俺はそんなんじゃ無いですよ」
 
 祐一はやや俯き加減に言った。

 「いえ………ニュータイプと言うのはMSの操縦に長けているとか、著しく適応できる人の事を指すのかも知れませんし」
 「考え過ぎですよ」
 「………そうかしら?」
 「………」
 
 部屋の中に、妙な雰囲気が流れてくる。
 
 「………少し出ます」

 祐一はそう言うと、ドアの方に歩いて行った。何処か不機嫌そうな顔をしながら。

 「何処に行くの?」
 「何処だっていいだろう………散歩だよ」

 心配そうにしている名雪に、少々辛く当たってしまう。
 さすがに罪悪感を感じたのか、語尾の最後の方はいつもの柔らかさが戻っていた。
 そのまま祐一は振り返る事も無く、部屋を後にして行った。
 部屋にはリーダーの居ない、寂しい雰囲気が流れていた。

 「………お母さん、なんであんな事を言ったの?」

 名雪が秋子に詰め寄る。その言葉の節々には、非難するようなイントネーションが含まれていた。
 佐祐理と舞は黙って事の成り行きを見ている。

 「………もし本当に祐一さんがニュータイプだとしたら、こんな所で燻っていてはいけないのよ」
 「どういう事?」
 「腐敗しきった世界を支えるには、祐一さんのような人が先頭に立って行かなければ………破滅するだけ。でも、心の底では戦力としての期待もあったかもしれないわね?」
 「お母さん………」

 名雪はいつに無く疲れたような顔をしている秋子に、驚きを隠せなかった。
 
 「私も軍人だから………」

 そう微笑む秋子の姿は、どこか悲しく、そして寂しそうであった。








































 <11月5日 16時30分 ザンジバル級機動巡洋艦・ペルセフォネ艦内>

 『こちらデラ・ノベラ管制地区。敵影は見られない。続けて監視を続ける』
 『………天野艦隊第4番艦。補給に30分の遅れが出ている。直ちに救援を要請する。急いでもらいたい』
 『こちらは巡洋艦ジェノヴァだ。本日搬入予定のMSが今だ届かない。どうなっているのか。繰り返す、搬入予定の………』

 様々な報告が艦内に響いている。
 
 「天野中佐。現在、我が方の艦隊の展開率、64%です。完了予定時刻は1940時」
 「………補給を急がせなさい。連邦軍は待ってくれないのですから」
 「はい、伝達します」

 サクセサーズ所属の特別機動艦隊。
 天野美汐は現在、自分の旗艦、それとムサイ級の巡洋艦4隻から構成される艦隊を任されている。
 あのジャブローでの1件以来、美汐は中佐に昇格していた。2階級特進である。
 抜け目の無い美汐は、ジャブローから脱出する際に連邦軍の軍部機密の情報を手に入れていたのだ。
 その時の功績が認められ、今こうして艦隊の一つを任されるまでに至ったのである。
 
 「………真琴達は何をしているのですか?」
 「沢渡中尉はMSデッキでMSの整備をしています。ハラルト少尉、ハインツ少尉も同じくMSデッキにいる模様です」
 「ふふ………そんなに新しいMSが嬉しいのでしょうか………」

 報告を聞いて少し表情を和らげる。
 だが今は厳戒態勢の為、そうもいかない。すぐに凛とした表情に戻ると、オペレーターに指示を与える。

 「真琴達を新型のテストをさせて下さい。ハラルトとハインツも同伴させるように」
 「了解」
 「それと………」
 「私達はどうしましょうか?」
 
 美汐が怪訝そうに後ろを振り向く。
 何時の間にか若い男女二人が立っていた。美坂香里と北川潤であった。
 彼女らは戦力増強の為に、美汐の部隊に配属されたのだった。戦力は分散するよりも、固めていた方が戦略を立てやすくなる、という久瀬の意向からであった。
 一瞬眉をひそめるが、何も無かったかのように話を続ける。

 「美坂中尉と北川中尉は………そうですね、真琴達のテストに付き合ってもらえないですか? 多角的な戦闘もしておかなければなりませんので………」
 「了解しました、天野中佐。私達も体が鈍ってましたから………良い機会を与えてくださって嬉しく思います」

 香里が優雅に頭を垂れる。姿だけを見ていると、どこかのお嬢様のような雰囲気も感じられていた。
 北川も香里に習い、礼をする。

 「それでは、失礼します………」

 そう言うと、香里達はすぐさまMSデッキの方へと、足早に向かって行った。その様子を、美汐は無表情で見つめていたが、目を元のモニターの方に移していた。

 「連邦の戦力はどんなものか………計算ではどの程度のものですか?」

 オペレーターが美汐の指示を受けて、素早い手つきでコンピュータを操る。

 「恐らくは5から6個戦隊程度が終結すると思われます。それでも我々の3倍近くの戦力差がありますが………」

 オペレーターが苦虫を噛み潰したような顔をする。ふつうはその報告を聞いてしまうと、怖気づいてしまうものだが、美汐はほとんど表情を変えていなかった。それどころかうっすらと笑みまで零している。

 「確かに相手の方が遥かに数が多いですが………戦争は数で決まるとは限らない事を、憶えさせてあげますよ………」 
 
 非常に頼もしい言葉だった。落ち気味だった士気をあっと言う間に戻してしまう。指揮官としては適任であろう。
 
 「ローザンヌの斎藤中佐にも応援を要請します。回線は084で。ジオン軍の特殊暗号ならば通じるでしょう」
 「了解しました。ですが、素直に応じてくれるでしょうか?」
 「応じざるを得ないでしょうね。彼は一度こっぴどくやられていますから………喜んで応じてくれることでしょう」

 納得が言った様子で、オペレーターは任務をこなしていく。
 にわかに艦内が忙しくなって行った。だが、戦いが始まれば更に多忙を極める事は、ここにいる全員が感じている事だった。
 
 「艦長、グワミンからの通信です。これは………久瀬中将からの電報のようです!」
 「久瀬中将から………? 見せなさい」
 「はっ!」

  手渡された電報にはびっしりと暗号が書きこまれている。その暗号を一つ一つ解読していく。
 やがて美汐の視線がある部分で止まった。目は大きく見開かれ、呆けたように口が半開きになっている。

 「こんな………こんな事を本当にすると言うのですか………久瀬中将!」
 「天野中佐………?」

 様子のおかしい美汐を、ブリッジクルー達は驚いた目で見ている。ただ、唯一判る事は、この知らせが尋常では無いものだと言う事だった。
 
 「天野中佐、いかがされましたか?」

 美汐の副官が心配そうに声を掛ける。
 美汐もその声でようやく我に帰った。落ち着きを取り戻す為に、数回深呼吸をする。

 「大丈夫です。それより貴方もこれを読んで御覧なさい………」

 疲れた表情で電報を手渡す。
 暗号に手間取っていた副官だったが、見る見るうちに青ざめて行った。

 「ちゅ、中佐! これは一体………」
 「貴方の言いたい事は良く判ります。事実、私も驚いているのですから」
 「しかし、これでは………!」

 尚も続ける副官を手で制する。
 
 「それ以上言ってはなりません………命令は絶対です。どんな理不尽な事でも、私達軍人は責務を果たさなくては………」
 「………」
 「………これ以上の詮索は無用。持ち場に戻りなさい」
 「はっ………失礼いたします」

 仕方なく後ろに下がる副官。美汐はただ悲しげ立っているだけだった。

 「………責務、か………」

 ただ悲しげに。


















 

続く













 


 




 カスタム「こんにちは、カスタムです」
 栞「みんなのアイドル、栞ちゃんです」
 カスタム「23話、いかがだったでしょうか? 楽しんで頂けましたか?」
 栞「………無視しないで下さい」
 カスタム「しょーも無いこと抜かしよるからでしょうに」
 栞「ほんのお茶目じゃないですか。面白味の無い人ですね」
 カスタム「はいはい、悪かったですよ」
 栞「む〜」
 カスタム「それはそうと。今回のレジェンドでは久々に美汐さんが登場しました」
 栞「14話以来の登場ですね」
 カスタム「結構長く掛かっちゃいましたね。まあ、中佐になった事ですし、ご了承下さい」
 栞「お姉ちゃんも北川さんも久々ですね」
 カスタム「この人達、なんだか影薄いですね〜。あはは」
 栞「あんたが書いてんでしょーが!!」
 カスタム「やだな〜、ほんの冗談ですよ」
 栞「………」
 カスタム「それでは、次回24話でまたお会いしましょう!」
 栞「勝手に終わらせないで下さい!」