この前の戦闘は危なかったです。
祐一さんが居なかったらどうなっていた事か………
やっぱり私の王子様ですね……なんちゃって、あはは…
あ、こんな事言ってるから後で舞が怒ってます。
ごめんね、舞。でもこれだけは譲れないんですよー。
清々堂々行きましょうね、舞?
<火星衛星・フォボス宙域>
「横一線に防衛線を張れ!これ以上前に来させるな!」
宇宙巡洋艦・サラミスの艦長の怒声が響く。
その声に反応してパイロット達が陣形を組みなおしていた。
漆黒の宇宙の中、五機のジムがサラミスを護衛するかのように動き出した。
しかしわずかに遅れをとっていた一機のジムが何者かの放ったビームによって打ち落とされてしまった。
当たり一面に閃光と轟音が轟く。
他の四機も慌ててビームの放たれた方向に目を向けるが、そこにはただ暗闇が広がっているだけであった。
その暗闇の中から一筋の閃光が走る。
そうこうしているうちに、また一機落とされた。
「そんな馬鹿な!あんな遠くから攻撃できるなんて!」
「この正確な射撃………人間業じゃない!!」
一斉に残ったジム達が砲撃を開始する。それに合わせてサラミスの方も攻撃を開始していた。
しかし驚愕と恐れのためか、一発も当たることはなかった。
刹那、ものすごいスピードで一機のMSが接近してくる。
「敵影確認!…ゲ、ゲルググ一機だけです!」
オペレーターの悲鳴とも取れる声が艦内に響いた。
「い、一機だけだと!?ふざけるな!たかが一機の敵にこうまでやられてたまるか!!」
艦長はその報告を聞いて激昂した。その声色には明らかに驚愕と恐れが含まれていた。
接近してきたゲルググがようやくジムのビームライフルの射程圏内に入った。
ビームの筋が何本かゲルググの後ろに流れていく。
しかしゲルググは流れるような動きでそのビームを避けながら、真っ直ぐサラミスの方へ接近してきた。
背中に巨大なプロペラントタンク(注1)が見える。
ゲルググJ(イェーガー)だ。
両方の手にライフルらしきものを持っていた。
「う、うわあぁぁー!!当たれーっ!!」
相手の強さを目の当たりにして、冷静な判断ができなくなっているのか、闇雲にビームライフルを乱射する。
不意に、モニターからゲルググの姿が消える。
すぐさま目を向けたが、その先にこちらに向かってライフルを構えているゲルググが映っていた。
「ひいっ!!」
悲鳴を上げるパイロット。次の瞬間ジムは宇宙のチリとなっていた。
ゲルググはすぐにバーニアを吹かし、離脱した。
そして爆煙に紛れながら、残り二機の捕捉を開始する。
捕捉が完了すると即座に行動に出る。
爆煙から飛び出し加速し、二機のジムの前に現れた。
「は、速い!」
「ジオンの亡霊め!!」
一機がビームライフルを撃とうとした。だがゲルググのビームサーベルによって胴体を真っ二つされる。
すぐさまビームライフルに持ち替え、もう一機も打ち落とした。
ドゴオォォォォォォン!!!
閃光を背に受けながらゲルググが方向転換し、サラミスの方向に向かっていった。
「敵機接近、来ます!」
「主砲一斉射撃!これ以上近づけさせるな!!」
強力なビーム砲がゲルググに襲い掛かる。
しかしそれらをあっさりとかいくぐり、サラミスの背後に回った。
真後ろは対空防御が薄いので落ち着いて狙えるだけでなく、当たれば確実に撃沈できるのだ。下手に対空砲火の濃密な艦橋を狙うことより、相手が加速しないとわかっていれば一番確実な場所なのである。
「て、敵機、背後に回りました。もうだめです!」
「そんな、馬鹿な………たった一機の敵に……」
艦長の呟きは誰の耳にも届くことはなかった。
サラミスの残骸が当たり一面に広がる。
撃沈までわずか3分の出来事であった。
「……こちら戦闘ナンバー005。任務完了しました。回収を求みます………」
「了解。直ちに向かいます」
戦闘の後に残ったのは気が遠くなるほどの静寂と、一機のMSだけであった。
◇
<フォボス中継基地・作戦室>
連邦軍中将・久瀬は先程の戦闘を、興味深そうに見ていた。
「ほう……あれかい?君の研究所の秘蔵っ子というのは」
「はい………いや、苦労しましたよ。色々とね……ヒッヒッヒ」
研究者らしき格好をした男のいやらしい笑い声が部屋の中を満たす。
頭に白いものが混じっているところを見ると、どうやら結構高齢のようだ。
「ここにお呼びしましょうか?直接お会いになるのも一興かと………」
男が久瀬に伺いを立てる。
「ふむ…そうだな、Dr.サロの研究成果を見るのも面白いかもな………いいだろう、呼びたまえ」
「かしこまりました」
そう言うと、サロと呼ばれた男は近くにあった電話で呼びつけた。
そして数分もしないうちに先程のゲルググのパイロットが姿をあらわした。
「あの……失礼します………」
入ってきたのは年端もいかない少女であった。
セミロングの髪にカチューシャがとてもよく似合っている。
「やあ、先程の戦闘の模様を拝見させてもらったよ。いや、全く驚いたよ。君みたいな娘があれほどの腕前とはね」
久瀬は少女に近寄ると、その手を取り握手した。
少女はわけが分からずきょとんとしている。
「あの……あなたは?」
少女は遠慮がちに尋ねた。
「これは失礼。私は連邦軍中将の久瀬だ。この衛星フォボスを管理することになった。以後よろしく頼むよ、月宮あゆ少尉」
サロが横から口を挟む。
「彼女には専属の上司がいるので、後程紹介いたします」
「わかった。………月宮少尉、今日はもう下がってよろしい。今後とも頑張ってくれ」
久瀬はあゆに微笑みかけ、もう一度握手をした。
「ありがとうございます。……それでは失礼します」
久瀬に敬礼をし、部屋を後にした。
あゆの去った後、久瀬は表情を変えるとサロに話し掛けた。
「なるほど、あれがニュータイプ(注2)か。普通の人間と対して変わらんな」
「はい、わたしが全霊をこめて育て上げた人材にございます、ヒヒヒ」
サロの言葉を聞いて、口元をゆがませる。
「本当にニュータイプなのか?君が育てたというのはどうも信用できんからな。強化人間(注3)の間違いじゃあないのかい?」
久瀬の冗談に下卑た笑いを浮かべる。
「強化人間とは人聞きが悪いですねえ。彼女は元々ニュータイプの素質があったのですよ?………もっとも、微弱な力でしたから、ある程度能力に手を加えましたがね……ククク……」
その時のことを思い出しているのであろうか。腰を屈ませながら笑いをこらえている。
「まあ、私にはどうでもいいがね。過程など問題ではないのだよ。結果が全てなのだ。………あの娘には我々連邦とジオンの掛け橋として利用させてもらうか……」
久瀬の目には未来しか映っていなかった。
◇
<同基地内・月宮あゆの部屋>
先程の戦闘の疲れからか、あゆはベッドに横になっていた。
シャワーを浴びていたのだろうか。髪がしっとりとぬれていた。
今はタンクトップ一枚と、ショーツだけというラフな格好である。
(……あの久瀬って人、連邦の人だった……どうしてここに居るんだろう………)
枕を腕に抱えながらしばし沈思黙考する。
(ここはジオンなのに………)
(それにあの研究者も居た………ボク、あの人嫌いだよ……すぐいじめるもん)
(久瀬って人もいやな目をしてた………あの人も好きになれない………)
(……今日も戦闘だった……戦争は終わったのに………)
思考の海に埋没していたが、ドアのチャイムによって現実に戻された。
「……誰!?」
「僕だよ。ちょっと話がしたくて………」
あゆはその人物の声を聞くと、ぱあっと顔を輝かした。
「ちょっと待ってて!い、今散らかってるから!」
慌てて服を着る。それもそうだろう。とても健全な男子に見せるような格好ではなかった。
「いいよー!入ってきて」
やっと着替えを終え、男を中に招き入れる。
「お邪魔するね、あゆちゃん」
男はそう言うと部屋の中に入ってきた。
男は形容するならば、正に『絶世の美少年』といった感じであった。
体つきも青年男子に比べたら、華奢のほうである。
ともすれば女性に見間違われるほどであった。
「ご苦労様。すごい活躍だったじゃない」
「ありがとう、エルさん………」
男の名はエル・アーバインといった。
エルのねぎらいの言葉に、力なく答えた。
「どうしたの、あゆちゃん?なんか元気がないみたいだけど………」
「うん………あ、やっぱり何でもないよ………」
戸惑っているあゆに微笑みながら語り掛けた。
「…あゆちゃん、困ったことがあったらなんでも相談していいんだよ?」
「でも……エルさんにはあまり迷惑かけたくないし………」
「僕は君の上司でもあるんだよ?もっと頼ってくれなくちゃ。……それとも僕じゃ頼りにならないかい?」
エルは少しだけ顔を伏せて、悲しい顔をした。
あゆは慌てて弁解する。
「そ、そんなんじゃないよ!エルさんはとっても頼りになるよっ!」
そんなあゆを楽しそうに見やるエル。
しかし顔を引き締め、あゆに尋ねた。
「………記憶のことかい?」
あゆはその言葉に体を震わせた。
そして観念したように頷く。
「………うん」
しばしの沈黙。
次に口を開けたのはエルだった。
「七年前の記憶…だよね、たしか」
「……うん」
7年前、それはあゆがサロの研究所に入ったのと同じ年である。
もともとあゆはストリートチルドレンであった。
幼いころから街頭で靴磨きをしながら生活をしていた子供であった。
しかしその頃からニュータイプとしての素質があり、そこにサロは目をつけていたのだ。
そしてサロはあゆと共にさまざまな実験を行い、ニュータイプとしての能力を向上させていったのだ。
あゆはその影響からか、7年前の記憶がすっぽりと抜け落ちてしまっているのである。
「あの研究者が、言うことを聞いてれば必ず記憶を戻す、って言ってるんだけど………もう戦うのやだよう……グスッ……」
「あゆちゃん………」
あゆの瞳から涙が零れ落ちる。
「戦争で……ボクが倒した人たちの悲鳴が聞こえるの………頭の中に響いてくるの!」
辛そうに頭を抱えるあゆ。
そんなあゆを、エルは沈痛な面持ちで見ていたが、不意にあゆに近づいてきた。
「…うっく……ひぐっ……」
泣き崩れるあゆをそっと抱きしめる。
そして子供をあやすかのように、頭をなでていた。
「うぐぅ……エルさん……?」
「ごめんね……あゆちゃんばっかり辛い目に合わせて……」
あゆは頭を振る。
「…ちがうよ……エルさんは悪くないよ……」
「でも僕がもっとしっかりしていれば、あゆちゃんの辛い気持ちを和らげて上げられるのに………」
あゆの背中をさすりながら、話していた。
不意に、エルはさすっていた手を止める。
「でもね、今久瀬中将と話してきたんだけど……実は記憶を戻してあげられるんだって!」
「えっ!!」
あゆが驚きの声をあげる。
「でも、あの人連邦の人なんでしょ?何で………」
「なんでもね、連邦の方針に嫌気がさして抜け出してきたんだって。それでジオン再興のために力を貸してくれるそうなんだよ。いろいろと補給や物資の手回しなんかもしてくれてるしね」
あゆが不思議そうにしている。
「そう…なの……?」
「うん、だからこの計画が成功したら必ず記憶を取り戻してくれるんだってさ!……だからあゆちゃんももう少しの辛抱だよ。僕も絶対かなえさせてあげるから、お互い頑張ろう、ね?」
後もう少し、そう思うと自然と元気が沸いてきた。
「…うん!いっしょにがんばろ!!」
まだ少し涙が残っていたが、満面の笑みで答えた。
◇
<久瀬の執務室>
「それでは着実に集まってきているのだな?」
側近に確認を取る。
「はい、ほぼ80%完了です」
「そうか………そろそろ実行に移す時期だな」
資料に目を通しながら呟いた。
「月宮あゆ………君には特に働いてもらおうか………」
火星の大地に一陣の恐風が吹こうとしていた。
続く
(注1)プロペラントタンク………簡単に言えば、外付けのエネルギー増槽のタンク。
これによってかなり多くのエネルギー供給が受けられるようになる。
(注2)ニュータイプ………非常に洞察力に優れた新人類のことを指す。例えば、光速に近い速度で移動するビーム兵器を回避するようなこともある。それは事前に回避行動をとり始めなければ不可能なのである。
また、ニュータイプ同士であると、お互いの意識が交感する場合がある。
(注3)強化人間………人工的に作り上げられるニュータイプである。
強化人間の実験は完璧ではないために、時として性格に破綻が見られる事が多い。
<MSデータ>
その6 MS−14JG−A あゆ専用ゲルググJ
頭頂高・19,3m/本体重量・46,5t/武装・大型ビームマシンガン×2、ビームサーベル×1
地球連邦軍のRXシリーズを超えるべく設計されたゲルググシリーズの最終量産タイプ。
命中精度の高いビームマシンガンを装備しており、背部のランドセルに二対の巨大プロペラントタンクが特徴だ。
あゆの機体はアイボリーカラーになっており、ランドセルに天使の羽をあしらったレリーフが刻まれている。
なお、あゆの機体だけビームマシンガンを二つ装備している。
<オリキャラ紹介>
○ エル・アーバイン
ジオンの兵士。階級は大尉である。
月宮あゆの上司であるが、世話役でもある。
性格は極めて温厚で、めったに怒るということはない。女装をしたら絶対ばれる事が無いほどの端整な顔立ちをしている。
実際、作戦の中で女装し、潜入したことがある。
ヘアカラーはダークグレー。瞳はクリアブルー。
19歳の彼女無しである。
○ Dr.サロ
フリーの研究者。
今は久瀬の元で働いている。
自分の野望のためには非人道的な行いもためらう事は無い。
年齢不詳だが、鷲鼻で、いかにもという感じのゲルマン系である。
はい、今回から注釈を入れてみました。
ただ、資料を見ないで書いたので詳しく書かれてないと思います。
あゆと自分のオリキャラが言い雰囲気なのは気になりますが………
ニュータイプもはじめてできましたし、これからが見所でしょう。
それでは次回もカスタムと一緒にレリーズ!(爆