あのジャングルの初任務から一週間。
ご褒美に有給休暇を頂きました。
もちろん第06小隊のメンバー全員です。
これを機会に明日、祐一さんに色々と奢ってもらうことにしました。
約束は約束ですからね。
早く明日が待ち遠しいです♪
<グラン大佐の執務室>
ここはグランベルク・シューマッハの執務室。
その場所にやや緊張の面持ちをした第06小隊の面々が勢ぞろいしている。
皆、しっかりと連邦軍の軍服に着替えている。
そしてグランがおもむろに口を開いた。
「今日から3日間有給休暇をやろう」
「……はい?」
その唐突な言葉に06小隊の面々はしばし呆然としていた。
「ははは、少し言葉が足りなかったかな?……まあ、君達の任務は重要なものだったからな。私からの褒美のようなものだ」
祐一達の様子が可笑しかったのか、笑いをかみ殺しながら続ける。
「特に相沢中尉は休む暇が無かっただろう?街にでも行って骨休みして来なさい」
祐一はグランの心遣いが嬉しかった。
だが、同時に一抹の不安もあった。
「お心遣い、とても感謝してます。けど、よろしいのですか?」
「何がだね?」
他の者も何事か、と目を向ける。
「このジャブローなんですが………どうも、その、悪い言い方をすれば、だらけていると感じるのですが」
グランは少し驚いたように、眉を動かした。
「……続けたまえ」
「はい。……具体的に言えば、ジャブローの警備です。いくらコンピューターで制御されているとはいえ、余りにもガードが薄すぎると思います」
「ふむ………」
グランは腕を組み何か考えているようであった。
「やはり水瀬少将の言った通りだ。君は非常に良い洞察力の持ち主だな」
「え?」
「私も君と同じ事を気に掛けたことがあったのだ。それを上層部にも掛け合ったのだが、一蹴されてしまったよ。"今のジオンにそんな力は無い。配備するだけ無駄だ"とな」
お手上げだ、といった感じに肩をすくめて見せる。
「なら尚更有給なんて取ってる暇は無いのでは………」
「そうですよー。これではおちおち休んでいられないですよ?」
祐一がグランに申し立てる。
それに佐祐理も同意した。
「こんな時期だからこそ、だよ。中尉」
グランは胸ポケットの煙草を取り出し、無言で祐一達に確認を取る。
皆、構わないという意思表示をした。
グランは火をつけた煙草を吹かすと、改めて話しを続けた。
「水瀬中将からの情報だがな、ジオンの不穏な動きがにわかに活発になったらしい」
「ジオンが!?」
「ああ。まあ、動きといっても微々たる物なんだがな。今は監視を続けているだけだ」
長くなった灰を落とす。
換気のために軽く窓を開けた。
「そんな状況だ。これからどうなるのか判らないからな。今のうちに休んでおいてもらいたいのだよ」
祐一達はようやく合点がいった、という表情に変わった。
「わかりました。それでは相沢中尉、以下隊員全員、有給休暇を頂きます」
「ああ。だが、緊急に入ったら即座に来てもらうからな。覚悟しておくように」
「了解です。それでは失礼します」
全員で敬礼すると、楽しそうな表情で帰っていった。
グランもその様子を微笑ましそうに見つめていた。
◇
<地下都市・商店街>
早速祐一は有給休暇を楽しんでいた。
なんだかんだ言いながらも、結局は嬉しいらしい。
隣には栞の姿もあった。
「さて、今日は久しぶりに羽を伸ばすか」
「そうですねっ!祐一さんに奢ってもらえるし♪」
「なにっ!そんな約束した覚えないぞ!」
「あーっ!ひどいです、約束したじゃないですか。そんなこと言う人嫌いですよ!」
「冗談だ。アイスクリームだよな。ほら、いくぞ」
「あっ!突然走らないでください〜」
などと、はたから見たら兄妹のような二人であった。
「でも他の奴らに悪いな〜」
「しょうがないですよ。全員出て来るわけには行きませんからね」
他の3人は宿舎の方で留守番なのだ。
いくら休暇中とは言え、部隊全員が休むというわけにはいかないのだ。
そのため休みの日をずらしている。
「お、あそこにアイスクリームの屋台があるぞ。寄ってくか?」
「はい、もちろんです」
「何がいい?」
「祐一さんにお任せします」
「よし、唐辛子入りでもいいんだな?」
「唐辛子は人類の敵です」
などと言う会話を交わしながら、二人は街を歩いていた。
◇
<同都市・センター街>
ここは祐一達のいる商店街から少し離れたところ。
まだあどけなさの残る少女と、気弱そうな男が周りを気にしながら立っていた。
「あうーっ!!ここはどこなのよぅ!」
「えーと…今いるのがここで……あっちから来たんだから………」
よく見ると私服の真琴とハラルトであった。
どうやら二人は道に迷っているようだ。
ハラルトが必死になって地図を見ている。
真琴はと言うと、業を煮やしたのかベンチに座って癇癪を起こしている。
「もうここ、飽きたー!ねえねえ、どっかで休んで来ようよー」
「勘弁してくださいよ、俺達遊びで来てるんじゃないんですよ〜」
ハラルトはもう半泣きになっている。
道に迷っているし、真琴はご機嫌斜めということで相当焦っている様だ。
「判ってるわよ!偵察で来てるんでしょ。それくらいは…モガモガモガ!」
「わーっ!そんな大きな声で叫ばないでください!」
ハラルトが血相を変えて真琴の口を塞ぐ。
一緒に鼻も塞がれているのか、苦しそうにもがいている。
気付いたハラルトが慌てたように手を離した。
「ハアハア……ちょっとお!真琴を殺す気ぃ!?」
「す、すいません……でもここは連邦の拠点なんですから、もう少し慎重にお願いしますよ(ヒソヒソ)」
はたから見ると何とも怪しい光景であった。
「でも本当にここがジャブローなの?まるで警戒が薄いじゃないの」
真琴は辺りを見まわしながら呟いた。
なんだかんだ言いながら、見る所はちゃんと見ている。
「本当ですね。堂々と正面から入れましたしね」
もちろん二人は偽造した身分証明証を使っている。
現在の連邦のずさんな管理態勢を浮き彫りにする事実であった。
「でも美汐ってば危険なこと考えるわよね〜。連邦の最重要拠点である、このジャブローを偵察して来い、なんてさー」
「そ、そうですね……」
ハラルトは苦笑しながら答えた。
仮にも天野美汐は彼らの上司なのである。
「まあ、別にいいけどさ。それはさておき………ハラルト!道、わかったの!?」
「今度は大丈夫っす!大体わかりました」
「よーし、目標は『武器格納庫』!ちゃっちゃと終わらせて帰るわよ!!」
二人は意気揚揚と歩いていった。
◇
<兵舎・ロビー>
勝負(ジャンケン)に負けた名雪ら三人は、何をするでもなくただぼーっとしていた。
「……暇だね……」
「……暇ですねぇ……」
「……暇……」
ハア〜ッ………
三人同時にため息をつく。
「祐一と栞ちゃんは遊びに行っちゃうし……待機命令が出てるといってもこの有様だし………はあ、暇だよ〜」
名雪はテーブルに顎を載せながら、不平不満を言っている。
「でもしょうがないですよーっ。ジャンケンで負けちゃいましたからねー」
佐祐理が舞を慰めながら名雪を説得する。
舞はどうやら祐一と一緒に遊びたかったようだ。
「そうなんですけどね………」
名雪が渋々といった感じに頷く。
ハア〜ッ………
今日何十回目かのため息を漏らした。
◇
<ジャブロー付近のとある場所>
ジオンの軍服を着た少女が、じっと遠くを見ながら佇んでいる。
まるで置物のようにピクリとも動かない。
何かを待っているようであった。
「大尉。コーヒーをお持ちしました」
背後からハインツが少女に声をかける。
大尉と呼ばれたこの少女こそ、真琴の上司である天野美汐であった。
美汐はゆっくりとハインツの方に振り向いた。
「ご苦労様です。ハインツ」
ハインツに労いの言葉をかける。
コーヒーを受け取ると再びはるか遠方を見始めた。
ちなみに屋外だ。上空はさんさんと太陽が降り注いでいる。
熱帯特有のジメジメとした暑さが身にしみる。
しかし、美汐は暑さなど感じていないような雰囲気であった。
「真琴少尉とハラルトからは連絡取れましたか?」
ハインツが気になるのか、美汐に尋ねていた。
「いえ、今のところは。大方道にでも迷っているのではないでしょうか」
「なるほど。ありえる話ですね」
大当たりである。
「ですが、真琴は本当は頭の良い娘です。ちゃんと任務を果たしてくれるでしょう」
「はい。自分も存じております」
二人で話していると、急に男が入ってきた。
「こんなとこに居ましたか、姉御。MSの整備終りやしたぜ」
「………姉御はやめてください。この前、変な目で見られました」
美汐は本当にいやなのか、ほとんど変えない表情を険しくした。
「はあ………すいません」
ばつが悪そうに頭を掻く。
「さて、そろそろ連絡が来るはずです。私達も準備しましょう」
そう言うと美汐は、立ちあがり二人を連れて歩き出した。
そのままトラックに乗り込んだ。
フィレンツェンが車を発進させる。
トラックは少々古いのか、けたたましいエンジン音を響かせながら走っていった。
◇
<地下都市・軍備工場ゲート前>
「さてここが連邦の武器庫か………」
「ねー、ハラルト。どうするのよ?」
それはこっちが聞きたい、と言った表情で"隊長"の真琴を見た。
心なしかジト目になっている。
「やーねぇ、冗談よ冗談!本気にしないでよぅ」
けらけらと笑う。
ハラルトはため息がでそうな気持ちだった。
「で……どうするんですか?………まさか爆弾仕掛けるわけじゃないんでしょう?」
「あのねえ………そんな物、通関ゲート通った時にばっちりばれるに決まってるでしょうが」
じろりとハラルトのことを睨む。
「今回は本当に偵察!新型のMS作ってるかもしれないでしょう。そんでもって、美汐に連絡。後のことは美汐に全部任せてあるから大丈夫よ」
「趣旨はわかりますけど………どうやって工場の中に入るんですか?」
ハラルトがもっともな意見を言う。
その言葉を聞いて、真琴は急に下を向いてもじもじし始めた。
「……どうしたんですか?」
「これ……美汐が考えた案なんだけどね………」
真琴はハラルトの傍によると、小声で囁いた。
しばらく聞いていたハラルトの顔が青くなっていった。
「む、無理です!!できっこないですって、絶対!」
必死になって嫌がるハラルト。
「真琴も嫌なのよ!!けど他に良い案が無いんだもん!!」
なぜか顔を真っ赤にして説得する真琴。
「け、けど……絶対ばれちゃいますよ。連邦だって馬鹿の集まりじゃないんですから………」
「なによ!あんた連邦の肩を持つ気なのっ!!?」
「そ、そんな事誰も言ってないじゃないですか………」
冷や汗が背中をつたう。
懸命に真琴をなだめようとしていた。
「じゃあ他に良い案があるなら言ってみなさいよ!」
「え………?」
「ほれほれ」
「………」
「うりうり」
「………」
「………」
「………」
3分後。
「すいません。先程の案でよろしいです………」
「ほれ見なさい!だったらさっさといくわよ!!」
さっきとは打って変わって嬉しそうな表情の真琴。
まだ踏ん切りのつかないハラルトを引っ張りながら歩いていった。
「そうと決まったら準備をしないとね〜」
「………本当に大丈夫かなぁ………?」
不安が付きまとっているハラルトであった。
続く
はい、どうもカスタムです。
第6話を無事にアップできました。
今回は美汐が初登場で出てきました。
さんざん迷った挙句、ジオンの士官という事に落ち着きました。
美汐のMSについては、まだ決まっておりません(^^;
どうしようかなあ、と悩んでおります。
今回の話では戦闘のシーンがありませんでしたが、次回は出ますのでお楽しみに。
初登場のMSも出す予定です。
それでは、また来世〜。