機動戦士ガンダム外伝−レジェンド・オブ・カノン−





















 死ぬかもしれない。
 いつも肌で感じていますが今回は特別です。
 なにせ敵の本拠地に乗り込むのですから。
 それでも真琴だけでも助かって欲しいです。
 私の大切な家族ですから………

 

天野美汐の日記より




















第9話「反撃」




















 <第9MS格納庫>

 「ガンダム………」

 祐一は目を疑った。
 目の前にはかつての英雄が佇んでいたのだ。

 「どうだ、驚いただろう?」

 後ろから声をかけられる。
 呆然としていたのか、驚いたように振り向く。
 
 「なんでこんな所に………」
 「こいつは本当なら3日後にロールアウトの予定だったんだが………状況が状況だしな」
 「新しいガンダムなんですか?」

 栞が少し興奮しながらメカニックに尋ねる。
 ガンダムを実物で見るのは初めてなのだろう。

 「ああ、こいつはRX−78NT2。通称“カノン”だ」
 
 聞きなれない形式番号だ。
 祐一は不思議そうな顔をしながら聞き返す。

 「NT2。ニュータイプ用のガンダムってとこか。それの2台目だからNT2。最初の奴は破壊されちまってな、残ってないんだよ」
 「……なるほど」

 余りの展開に祐一は我も忘れてガンダムを見入っていた。
 栞も相変わらずめを輝かせている。

 「……相沢中尉」
 「……あ、なんでしょうか?」

 真剣な面持ちで祐一を見つめる。
 祐一にも緊張が走っていた。

 「君にこのMSをくれてやる。大事にしろよ」

 そう言って笑いながら祐一の肩を叩いた。
 
 「………はい?」

 事態がよく飲み込めていないようだ。
 目が点になっている。
 メカニック達はそんな祐一を面白そうに眺めていた。
 
 「うわー、凄いです祐一さん。まるでアムロ・レイみたいですー!」

 栞はただ単純に喜んでいた。
 意外と肝が坐っているのかもしれない。
 祐一だけが固まっている。

 「ど、ど、どうしてですか?」
 「水瀬少将の命令でね。あ、ちなみに設計から製作まで全て水瀬少将が監督してたから」

 (秋子さん、貴女は一体何者?)

 という言葉が喉のところまで出かかっていたが、後が恐いので踏みとどまっていた。
 
 「んで、ジャブローの相沢祐一中尉に渡してください、とさ」
 「渡してくださいって………」

 展開の早さについて行けない。
 祐一はいよいよ困ってしまった。
 その時外の方で爆発音が轟いた。
 地震のような揺れが工場内を包む。

 「きゃっ!」
 「うわっ!」
 「ちっ……どうやらゆっくりは出来ないようだな」

 近くで戦闘が行われているのは誰の目でも明らかであった。
 
 「相沢中尉、時間が無いっ! コレで迎撃してくれ!」
 「………」
 「判りました!」

 ようやく決心のついた祐一は急いでコックピットに乗り込む。

 「凄い、これが全天周モニターとリニアシートか………現在の科学力の粋を集めたって感じだな」

 ハッチを閉めようとした時、ふとある考えが頭をよぎった。

 「そう言えばコレ、ニュータイプ用なんだからニュータイプしか乗れないんじゃないですか!?」

 切羽詰った声をあげる。

 「ああ、その辺は安心してくれ。ニュータイプなんてのは居るかどうかも判らんから、ちょっと細工を施したんだ」
 
 眼鏡を掛けぼざぼざ頭の男が、コックピットを覗き込みながら話しかけてくる。

 「普通のパイロットでも扱えるようにしてあるんだ。“S・A・P・S”(セミ・オート・パイロット・システム)、略して『サップス』って俺達は呼んでいる」
 「サップス?」
 「そう、サップスだ。………簡単に言うと自動車のオートマみたいな物だな。ある程度の動きは機械の方でサポートしてくれるって寸法だ」

 祐一は試しにレバーを引いてみる。

 「うわ………」

 余りの軽さに思わず声を出してしまった。
 むしろ軽すぎると言ってもいいだろう。
 少しレバーを動かしただけで動いてしまうのだ。
 この敏感さならばニュータイプだけと言うのもうなずける話だ。
 さらにはじめて乗る全天周モニターとリニアシートにはかなり戸惑っているようだ。
 慣れるまで少し時間がかかるだろう。

 「どうだ、出れそうか?」
 「かなり不安ですけど………とりあえず出ます。みんなは早く非難して下さい」
 「そうか。悪いがまだビームライフルが出来てないんだ。代わりと言っては何だが、マシンガンが有るからそっちを使ってくれ」
 「ラジャ」

 一歩踏み出す。
 緊張していたが思ったより扱いにくくは無いようだ。
 さっき言っていた『サップス』が効いているのだろうか。

 「祐一さん! 頑張ってくださいねー!」

 栞の激励が聞こえる。
 祐一は安心した気持ちになり、栞に向かってVサインをした。

 「よっし、行きますか! それじゃあお願いします!」
 「わかった! 地上のゲートを開けたから何時でもいいぞ」

 レバーを握る手に力が入る。

 「NT2カノン、出るぞ!」

 掛け声と同時に、カタパルトで射出されて行った。
 そしてカノンが大空へ飛び出して行く。
 その姿をメカニック達は真剣な表情で見守っている。

 「おい、いいのか? あんな事言って……」
 「サップスの事か?」
 「あれはまだ実験段階のはずだろ? とてもサポートするまでは成功してないだろうに」
 「ああでも言わないと乗ってもらえないだろうが」

 胸ポケから煙草を取り出し、火をつける。

 「ニュータイプが本当に居るのかどうか、この目で見てみたいしな………」
 「あんな化け物扱えたらニュータイプだろうなあ……」






































 <06小隊・美汐隊交戦ポイント>

 話は少し遡る。
 舞はビームサーベルを抜きつつ、美汐のケンプファーに向かって突撃していた。
 
 「わー! まだ配置に着いてないのにー!」
 「舞、戻って! それじゃ相手の思う壺です!」
 「……大丈夫……」
 
 何が大丈夫なのかはわからないが、舞には何か策が有っての行動であった。
 
 「名雪さんはあのハイ・ゴッグに砲撃を掛けてください!」
 「了解です!」
 
 そしてこちらでも。

 「こちらには時間が無いのです。手っ取り早くかたを着けさせてもらいますよ」
 「大尉!」
 「ハラルトは青い奴が近づけないように牽制しててください」
 「了解!」
 
 ジャイアント・バズを構える。
 舞はブースターが過熱しすぎるのでは無いか、と思われるぐらいに加速しながら接近してくる。
 その動きをよく見ながら美汐は引鉄を引いた。
 弾丸が舞に向かって飛んでいく。
 間髪居れずに2弾、3弾と撃ち込んでいった。

 「……甘い……」

 舞はそれらを天性の反射神経で避けていく。
 縦横無尽に掛け回りながら近づいていく。
 そうこうしている内に、ジャイアント・バズの弾丸が無くなってしまった。

 「弾丸切れ……」

 美汐は一瞬、舞から目を離してしまった。
 舞はその動きを見逃す事は無かった。

 「勝機……!」

 ブースターを下向きに変える。
 途端に、舞の機体は空へ舞い上がった。
 土煙が舞い、美汐は舞の姿を見失ってしまった。

 「上っ……!」
 
 空を見上げると、サーベルを振り降ろそうとしている舞の姿があった。
 さらに相手が見にくいように、太陽を背にしている。

 「くっ……太陽が……」

 形勢が不利と判断した美汐は急発進する。
 紙一重で舞の斬撃を避けた。
 そのまま離脱していった。
 逃した舞は少し悔しそうに顔を顰めたが、すぐに追尾態勢を取る。

 「今のはなかなか考えましたね。私も少し慌ててしまいました」
 「……逃げるな」

 逃げる美汐と追う舞。
 だがケンプファーの方の推進力が勝っているのか、徐々にその距離を広げていった。

 「………」

 内心焦りながらも美汐を追い詰めていく。
 すると前方に超高層ビルが立ち並んでいた。
 ケンプファーはそのビルの壁に沿って上に上がっていく。
 舞もそれを追うように上昇していった。
 凄まじい勢いで上昇していく2機のMS。
 
 「……近づいてる……?」

 確かに2機の差は縮まっていた。
 だがそうではなかった。
 
 「もらいましたよ」

 美汐は上昇を止め、自由落下しながら舞を待ちうけていたのだ。
 目の錯覚を利用した美汐ならではの作戦だった。
 舞がその事に気付いた時にはもう遅かった。

 「くっ……!」

 渾身の力をこめ、横に体をずらす。
 だが避け切ることは出来なかった。




 

ズシャアアァッ!!!





 ケンプファーのビームサーベルがジムの肩口を切り裂いた。
 右腕は体を離れ、小さな閃光を上げ飛散する。
 何とか態勢を立て直そうと急転回し、その場から離脱した。
 だが美汐は見逃すはずも無く、すぐさま舞を追いかける。
 さっきとはまるで反対の展開であった。

 「舞っ!!」
 「川澄先輩!」

 佐祐理と名雪の悲痛な声が聞こえる。
 ブースターも少しやられたのか、推進力も低下している。
 だが舞は不安定な機体を何とか制御していた。

 「このおっ!」

 名雪がケンプファーに向かってキャノン砲を撃つ。
 だが簡単に避けられてしまった。

 「当たらない〜」

 続けて何発も撃つがかすりもしなかった。
 気落ちしている所にビームが襲ってきた。

 「うっわ! 危ないな〜!」
 「貴女の相手は大尉じゃないでしょう! 邪魔をしないでもらいたい!」
 「それはこっちの台詞です!」

 クローを構えようとするハインツを、佐祐理はライフルで牽制した。
 ハインツが佐祐理に眼を向ける。
 その眼には怒りの炎が渦巻いていた。

 「貴様のせいでフィレンツェンは!!!」

 佐祐理に向かってビームカノンを連射する。
 佐祐理は全部避けきれずシールドで防いだが、シールドの方もボロボロになって使い物になら無くなってしまった。
 シールドを投げ捨てると、左手はビームサーベルに持ち替えた。

 「フィレンツェンの無念、ここで晴らさせてもらう!」
 「感情に身を任せて行動すると死にますよっ!」

 佐祐理はライフルを撃ちながらハインツに接近する。
 ハインツも負けじと、ビームカノンを撃ちながら応戦する。
 二人の意地と意地がぶつかり合っていた。





 一方、負傷した舞は、なんとかビルの陰に隠れる事で難を逃れたが、依然状況は圧倒的不利のままであった。
 頼みのビームサーベルも先程の右腕と一緒に吹っ飛んでしまった。
 今の武器はビームガンと腰に着けてあるビームナイフだけ、という貧弱なものだった。

 「何時まで隠れているつもりですか?」
 「………」

 美汐の声が響く。
 舞の背中を汗が伝う。
 
 (祐一が来るまでの辛抱………)

 舞は祐一が来れば何とかなると信じていた。
 だからみすみすやられて、祐一に迷惑をかけてしまう事が悩みの種であった。
 
 (少しでも時間を稼がなければ………)

 そう思うと決心がついた。
 ビルの陰から飛び出し、ビームガンを連射する。
 そのまま横滑りしながら、またビルの陰に隠れた。
 ヒット&アウェイに変えたようだ。

 「なるほど………よくこの緊迫した状況で戦い方を変えられるとは………連邦にも有能な人間が居たのですね」

 美汐は世辞ではなく、心底感心していた。
 普通、戦闘ともなれば、冷静な戦い方が出来る人間はごく僅かなのである。
 美汐は久しぶりに心が高揚して行くのを感じていた。

 「私はジオン公国軍大尉、天野美汐です。………貴女は?」
 「………」
 「名前、教えていただけませんか?」

 美汐はふざけてなどいなかった。
 ただ純粋に知っておきたかっただけなのだ。
 舞にもその事が判ったようだ。

 「………川澄舞………」
 「そうですか、良い名前ですね。………それでは決着をつけますよ、舞!」
 「望むところ………」

 言うや否や、美汐がさっきとは打って変わって難の作戦も無しに突っ込んでいった。
 舞も呼応するかのように身を乗り出す。
 ビームガンで応戦するが、いかんせん射撃が悪過ぎで当たらない。
 もっとも、美汐の場合別格であるが。

 「うかつですよ」

 美汐もショットガンを次々と放っていく。
 ショットガンの破壊力は並大抵ではなく、建物を次々と破壊していった。
 土煙がもうもうと立ちこめる。
 防戦一方の舞は、なんとか攻撃に移りたいところだが、土煙やミノフスキー粒子のおかげで相手の位置が掴めずにいた。
 しばらくすると攻撃が止む。
 美汐も見通しが利くまで待つつもりのようだ。
 ビルの陰に隠れてショットガンの弾丸をつめ直す。
 ジャキッという音を立てながら弾丸を装填した。

 「さて………そろそろ潮時ですね………」

 そう呟くとブースターを目いっぱいに吹かし、そのままビルの上へと飛び出した。
 即座にセンサーで舞の位置を補足する。
 
 「! 見つけられた………!」

 ジャイアント・バズを連射する美汐。
 その弾丸は舞にめがけて飛んでいった。
 空になったジャイアント・バズを投げ捨て急降下する。

 「かわしてみせる………!!」

 右腕が無いために思うような動きが出来ない舞であったが、そこは自分の操縦技術でカバーしていた。
 
 「………来る」

 空襲が終りあたり一面何も見えない。
 だが舞はビームナイフを抜き、そのままの態勢で待っていた。
 美汐が来る事を確信しているからだ。

 「………」

 精神を集中し耳を澄ます。
 これ以上に無い気迫が渦巻いていた。

 「………そこ!!」

 操縦桿を思いっきり押し、急加速しビームナイフを構える。
 そしてその直後煙の中から美汐が姿を現した。
 美汐の表情が変わる。

 「なっ!!」

 一瞬怯んだがすぐにショットガンを構える。
 だがその一瞬が大きかった。

 「やらせない………!」

 ビームナイフをショットガンに突き刺す。
 ショットガンはスパークし爆発した。
 
 「きゃあっ!」

 美汐のケンプファーはその爆発の影響で、後ろ側に倒れこんでしまった。
 すかさず舞が馬乗りになる。
 ビームガンを構え、止めをさそうとした。
 
 「止め………!」

 引鉄を引く。



 
 

カチッ………





 だがビームが出る事は無かった。

 「しまった、弾丸切れ……!!」

 動揺して隙を見せる舞。
 美汐が不適に笑った。

 「惜しかったですね」




 

ダダダダダダダダダダダダダダダダ………!!!!!





 ケンプファーの頭部から機関砲が発射される。
 その弾丸はジムの頭部に吸い込まれていった。
 至近距離だったため、ジムの頭部は無残に破壊されてしまった。
 頭を失ったジムはその場に崩れ落ちる。

 「くっ………!」

 美汐はゆっくりと立ちあがり、舞に近づいてくる。
 腰についているもう一つのショットガンを取り出した。
 それを舞の居るコックピットに銃口を向ける。

 「………」
 「………」

 無言でにらみ合う二人。
 乾いた風があたり一面を包む。

 「チェック・メイト、ですね」
 「………殺るなら早くして………」

 舞は険しい表情のままだ。
 美汐はそんな舞の態度にクスリと笑ってしまった。
 向けていた銃を降ろす。
 その様子を舞は訝しげに見つめていた。

 「………どういう事………?」
 「私は無抵抗の人間は撃たない主義ですから」

 (それに気の強いところが真琴に似てますしね………)

 心でそう思いながら踵を返す。
 
 「それにハインツの援護にも行かなければなりませんから」
 「………」
 「それでは縁があったらまた会いましょう」

 一気に加速して舞から離れていった。
 美汐が去っていった後、顔と右腕の無いジムだけが取り残されていた。




 

ガンッ!!!





 舞はコックピットのコンソールを思いっきり殴った。
 余りの勢いに計器は壊れ、手から鮮血が噴き出していた。

 「………ちくしょう……ちくしょう、ちくしょう………ちくしょう………!」

 滅多に感情を表に出さない舞が涙をボロボロ零しながら悔しがっている。
 その時から舞の意識には「天野美汐」という名前がインプットされたのだった。
 肩を振るわせ、嗚咽を漏らしている舞の心を象徴しているかのように、静寂が続いていた。





続く
















<MSデータ>
・その10  RX―78NT2  カノン  主なパイロット・祐一
 頭頂高・18,9m/本体重量・45,2t/武装・60mmバルカン×2、ビームサーベル×2、マシンキャノン×2、ヒートロッド×1、専用ビームライフル×1、ハイパーバズーカ×1
 RXシリーズのニュータイプ用MS。
 リニアシートや全天周モニターなどを標準装備しており、各種関節にはマグネットコーティングなどが施されている。
 ただ汎用性を高めるために、コンピュータ制御の有無を切りかえられるシステム、「S・A・P・S」(サップス)が取り入れられている。これによりある程度のパイロットでも扱えるようになっている。
 設計思想、部品などはNT1アレックスと酷似しているが、武装・CPUでは最先端を行っている機体である。武装としては、肩部にガトリング式のマシンキャノンを装備、またシールドと一体化しているヒートロッドもこのMSの特徴の一つだ。
 設計・製造には水瀬秋子少将が自ら携わっている。
 なにはともあれ、扱いにくい機体には変わり無いようだ。

















はい、どうもカスタムです。
 無事に第9話をアップできました〜。
 今回の目玉(?)はオリジナルのガンダムです。
 いろいろと考えた結果、こういうガンダムになったのですがいかがでしょうか?
 初めてのオリジナルMSという事で想像しがたいとは思いますが、その辺はどうかご容赦ください。
 ちなみにこのガンダムはNT1アレックスに似ているので、そっちの方を思い浮かべて頂ければよろしいかと思います。
 これを機に、他にもオリジナルのMSも出していきたいと思います。
 もちろん既存のMSも出しますからご安心ください(^^)
 それでは次回、またお会いしましょう。

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