新世紀エヴァンゲリオン After Story






 GLORIA






 第十話 RHYTHM RED






 手術中のランプが点灯している部屋の前で、心配そうな顔で彼らは佇んでいた。

 涙の後が残ったアスカを抱きしめるように隣に座るマヤ。

 爪をかんで手術室のドアを睨み付けているミサト。

 壁に寄りかかって目を閉じている加持。

 しかしリツコの姿はここには無かった。

 彼女は一人私室の端末を操作してマギの能力のすべてを使って、時田の居場所を突き止めようとしていた。

 誰よりもシンジの側に付いていたかったリツコだったが、大事な人を傷つけられた怒りの方が彼女の心を支配していた。

 モニターを睨み、ただ黙々とキーボードを叩く音だけが部屋の中に響いていた。

 忘れていた気持ち・・・人をこれ程憎んだ気持ちを呼び覚ました時田をリツコに許す気は無かった。

 「シンジ君ごめんなさい、でもどうしても許せないの・・・」

 心の中でシンジに謝りながらリツコは必死になって検索を続けていた。






 そして夜が明ける少し前に手術中のランプが消えて、扉が開くと中からストレッチャーに乗せられたシンジが現れた。

 その後から担当の医師が出てくるとミサトが詰め寄った。

 「先生、シンジ君は?」

 「大丈夫です、出血は多かったですが命に別状は有りません」

 その言葉を聞いたミサトに笑顔が浮かんで振り返ると、俯いていたアスカがミサトを見つめてまた涙をこぼしていた。

 「良かったわねアスカ、シンちゃん大丈夫だって!」

 「よ、よかった・・・」

 シンジが大丈夫だと聞いてアスカを初めみんなの顔に笑顔が浮かんでいたが、医師は言いにくそうに言葉を続けた。

 「ただ・・」

 「はい?」

 「ただ頭にかなりの衝撃を受けたようです、これは患者が目覚めてみないと何とも言えないのですが・・・」

 それを聞いたアスカの顔がまた少しゆがんで俯いてしまった。

 その様子を見ていた加持がアスカに声を掛けた。

 「アスカ」

 「な、なに加持さん?」

 「監査部主任として命令を伝える、これからシンジ君が目覚めるまで引き続きガードをするんだ」

 命令と言いつつ微笑む加持の顔を見つめていたアスカは、顔を手で乱暴に擦って涙を拭うとすくっと立ち上がった。

 「了解しました、惣流・アスカ・ラングレー引き続き任務に就きます!」

 加持に敬礼をするとアスカはシンジの病室に向かって早足で歩いていった。

 「加持・・・」

 「今のアスカにはあれが一番だからな・・・」

 加持の心遣いにミサトの顔にも少し笑顔が戻ると、側にいたマヤに作戦部長として命令を出した。

 「マヤ、これよりNERVは臨戦態勢に入ります、全職員に召集を掛けて!」

 「解りました」

 三人は本部に向かうために病院を後にした。

 「そう・・・解ったわ、ありがとうマヤ」

 マヤから掛かってきた電話を切るとリツコはいすの背もたれに体を預けるとほっとため息を付いた。

 リツコは瞼を閉じて自分の体を抱きしめると涙がこぼれて頬を濡らした。

 「良かった・・・シンジ君」

 暫くそのままシンジの無事を噛みしめていたリツコは体を起こして涙を拭くと、再びキーボードを叩き始めた。

 しかしマヤは医師が言った言葉を全部は言ってなかった・・・。

 『ただ頭にかなりの衝撃を受けたようです、これは患者が目覚めてみないと何とも言えないのですが・・・』

 これ以上リツコに心配を掛けたくないマヤの僅かばかりの配慮だったが、お陰でリツコの顔にも少しだけ安堵の

 表情が浮かんでいた。

 指先が前よりも早く動いてモニターの画面も目まぐるしく変わって段々と目的の物が見え始めようとしていた。






 第一発令所。

 明け方だというのにまるで二年前の使徒戦時中を思わせるほど、人が動き灯りが点っていた。

 かつて自分の教え子が座っていた席に腰を下ろしている冬月は、加持とミサトから昨夜の報告を受けていた。

 「そうか、何とか命は取り留めたか・・・」

 「はい・・・こちらも迂闊でした、申し訳在りません」

 「いや、それよりも霧島君・・・彼女の行方は掴めないのかね?」

 「この第三新東京市からは出てないのは確認できていますが・・・上手く身を隠しています」

 「やっかいだな・・・」

 冬月の呟きに加持とミサトの顔に苦虫を噛み潰した様な表情が浮かんでいた。

 「司令!」

 マヤの緊迫した声に三人はモニター越しに集中した。

 「どうした?」

 「今センサーに反応が・・・あっ、消えました」

 「日向君?」

 「パターン青の反応が一瞬センサーの探知範囲ぎりぎりで在ったのですが、すぐに消えてしまいました」

 「なんですって!?」

 ミサトの頭の中に最悪と言う文字がはっきりと浮かび上がってしまうほどの報告だった。

 その反応は紛れもなく使徒の識別パターンであるが、今になって何故と言う驚きに冬月も表情を固くした。

 「まさかやつら?」

 「ゼーレの生き残りですね」

 冬月と加持はこの戦いがより過酷になる物だとこの時確信してしまうほど、それは残酷な事実だった。

 「拙いな・・・」

 冬月の背中にしっとりと汗が浮かんでいた。

 もしゼーレ最終決戦の時の様に攻め込まれたら・・・。

 切り札と言うべきエヴァのパイロットのシンジが意識不明の重体である今、NERVには打つ手がなかった。

 「とにかくシンジ君の護衛はしっかりとな、ここで彼を失うわけにはいかんし、何よりユイ君に申し訳がたたん」

 「解っています、病室はもちろん病院周囲には最大限の注意を払っています」

 「それと赤木君にあまり無理をさせないようにな・・・また思い詰めると何をするか怖いからな」

 「それは・・・ちょっと遅かったかと思いますが、善処します」

 「うむ、では戦自の方には私から説明して記念式典用の観覧部隊として展開させて措こう」

 「お願いします、司令」

 「後は頼むぞ」

 そう言って司令室に戻る冬月を見送ると、ミサトと加持は発令所を後にした。






 「リツコ?」

 ミサトが部屋の中に入ると椅子にもたれ掛かって静かな寝息をたててリツコは眠っていた。

 「すーっ・・・」

 「ふぅ・・・全く、我慢しちゃってさ」

 でも、よく見るとリツコの頬に涙の後を見つけると苦笑いして、近くにあったコーヒーメーカーからカップに

 熱いコーヒーを注ぐと机に腰を付けて、一口飲んだ。

 「でもね、リツコと同じぐらいあたしも頭に来てるのよ・・・あのバカにはね」

 ミサトの瞳の中にもリツコに浮かんだ炎が、めらめらと揺らめいていた。

 「リツコが手を汚すことは無いのよ・・・シンジ君が悲しむわよ」

 さっきまでとは違いミサトは優しい慈愛に満ちた目になると、リツコの顔を見つめながら微笑んだ。

 ゆっくりとした時間が流れるこの部屋で、大事な親友が少しでも元気になるように祈りながらミサトは

 静かにコーヒーを口に含んだ。

 同じ頃、加持はシンジの入院している病院の前にいた。

 警備状態の確認と自ら不審者のチェックをしながら、ここまでやってきた。

 さすがにシンジの警護と在って監査部のメンバーもかなり気合いが入っていたが、こと今のNERVのスタッフは

 以前よりもかなり仲間意識が強くなっていた。

 それの為か、今まで以上に身内が理不尽な理由で傷つけられたと在っては、もの凄い怒りがあった。

 「異常は無いか?」

 「はっ、今のところ不審者は確認しておりません!」

 「ん・・・それよりもう少し肩の力を抜いた方がいいぞ、それじゃ敵の思うつぼだ」

 「す、すいません、気を付けます」

 加持はロビーにいた若い部下の肩を軽く叩くと、シンジの病室に向かって歩き出した。

 コンコン。

 ノックをして病室に入ると、ベッドの上で機械に繋がれているシンジと側で座っているアスカの姿が目に入った。

 ぴっぴっぴっ。

 規則正しいリズムでモニターの心電図から波形が表れる度に小さい音が鳴っていた。

 「シンジ君の様子はどうだい?」

 「・・・うん、まだ目が覚めないの」

 膝に手を付いてシンジの寝顔を見つめるアスカの顔は少し疲れているようだった。

 「とりあえずこれでも飲まないか?」

 「・・・うん」

 加持が差し出したジュースを受け取るが、アスカは手に持ったまま飲もうともしないでシンジを見つめ続けていた。

 「ふぅ・・・アスカ」

 「な、なに?」

 いきなり優しく頭を撫でる加持につい視線を向けると、いつもの様にニヒルな笑顔で言った。

 「アスカはシンジ君の事どう思っているんだい?」

 「あたしは・・・あたしはシンジの事が・・・好き、でも・・・」

 驚くほど素直に静かに語るアスカの瞳から涙が溢れ出してその頬を一筋こぼれ落ちた。

 「うん、それじゃシンジ君の事信じられるよな?」

 「で、でもこのままシンジが目を覚まさなかったら・・・」

 「今アスカに出来る事は信じることだよ、そうだろ? こんな事ぐらいで負けるシンジ君じゃないはずさ」

 「うん・・・うん、あたしシンジの事信じるわ!」

 涙を拭いて照れたようにでもにっこりと笑うアスカの頭を、今度は思いっきり撫でると最後に一回叩いた。

 「い、いったいなぁ〜加持さん、あたしは女の子なんだからもう少し丁寧に扱ってよ」

 「あっと、こりゃ失礼・・・じゃじゃ馬アスカ」

 「加持さん!」

 「よしよし、元気が出たら顔でも洗って来た方がいいぞ、結構酷い顔になってるからな」

 「もう、なんてこと言うのよ・・・女の子に向かって酷い顔ってなによ、加持さん?」

 「いいのかい? シンジ君に嫌われちゃうぞ♪」

 「わ、解ったわよ、洗ってくれば良いんでしょ!」

 「おう、シンジ君は見てるから行って来い」

 加持に向かって舌をべーっと出して病室から出るとドアを閉めて化粧室に駆け込んで顔を洗った。

 水に濡れた顔のまま目の前の鏡に写った自分の顔を見つめると、心の中で呟いた。

 ありがとう加持さん。

 そして思いっきり百面相などしてから自信に満ちあふれた笑顔になると、力強く一歩一歩踏み出してシンジの眠る

 病室に戻っていった。






 そして異変は起こり始めた。

 「こ、これはっ!?」

 マヤの緊張した声に青葉と日向は彼女の方を振り返った。

 「どうした?」

 「クラッキングです! しかもかなりの数が一般回線から進入を計っています」

 「なんだこりゃ? ほとんどの外に繋がる回線からの進入じゃないか・・・」

 「状況はどうなった?」

 「ほとんどが最初のファイヤーウォールで止まっているけど、いくつかは進入を計っているわ」

 「ちっ、とうとうここにお出でになったって事か!」

 「あっ、まって・・・その中でも一番大きい回線が繋がっています、これは!?」

 三人はその回線をトレースしていく画面に食い入ると、たどり着いたハッキング場所に声を上げた。

 「「「松代!?」」」

 驚いたのも無理はなかった、戦時中はマギのバックアップを取っていたことも在るためその回線は今も繋がった

 ままであった。

 しかし、最終決戦時にかなりの被害が出た為今では封鎖されていたはずだったからである。

 「このままじゃマギに進入される恐れがあるわ!」

 マヤの焦りが額に汗となって表れた。

 「次のパスコードを打ち込みなさい、マヤ」

 「先輩!?」

 ミサトの後ろからファイルを持っているリツコが入り口から早足でマヤの席に近寄って後ろに立つと、

 モニターを見つめながらコードを口にした。

 「いい、S・P・R・I・G・G・A・N、わかった?」

 「はい、入力しました」

 パスコードが打ち終わると画面に妖精が現れるといくつにも別れてクラッキングされている回線から

 侵入者を排除し始めた。

 「先輩凄いです! あっという間にどんどん回線がクリアーされていきます!」

 「気を抜いたらダメよマヤ、まだ大きな奴が残っているでしょう」

 「は、はい、すいません」

 「続けてコードを追加して、M・A・R・K・Uよ」

 カッカッカッカッカッ。

 リツコに負けないほどのキーボード捌きで追加されたコードを入力すると、今度はロボットみたいな物が現れると

 一番大きい回線に入り込んで徐々に侵入者を押し戻すように撃退していった。

 「やりました先輩、ファイアーウォールの外側まで追い出しました!」

 「とりあえずこれでしばらくは問題ないはずよ、ご苦労様マヤ」

 「いいえ、先輩のお陰です」

 リツコはニコッと笑うとすぐに表情を引き締めて、自分の持ってきたファイルを開いて中の文章を読み上げた。

 「時田博士の潜伏先が解ったわ、でも最終的には一つに絞れなかったけど・・・」

 「いったいどこですか?」

 「一つは今ハッキングがあった松代、もう一つはJAの実験場が在った国立第3試験場跡よ」

 「じゃあこれは間違いなく彼の仕業ですか?」

 「そう言う事になるでしょう、ミサト?」

 「もう連絡済みよ、戦自の部隊が今向かっているはずよ」

 ほっと息を吐くオペレーター三人だったが、リツコの表情は冴えなかった。

 「どうしたのリツコ?」

 「マギの予想より一日早い動きが気になるのよ、おかしいわ・・・」

 「そうね、確かに早いわね」







 事実それはリツコの予想通り記念式典当日になって最悪の状態で現れた。






 つづく。


 何とか早めに書けました、第十話です。

 シンジは未だに目を覚ましません、アスカも元気をだして今度こそ守って見せるとがんばります。

 そんな中時田博士の居場所が、リツコの努力により絞られた。

 しかし、それはこれから始める戦いへの幕開けであった。

 記念式典当日、第三新東京市は戦後最大のピンチを迎える事になった。

 果たしNERVはこの街を守りきれるのか? シンジの目覚めは何時?

 混乱の中、アスカはマナと対峙する。

 リツコが、ミサトが、アスカが、加持がそして・・・。


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