新世紀エヴァンゲリオン After Story






 GLORIA






 第十二話 LAST IMPRESTION(中編)






 「残念ね、シンジにはもう手が出せないわよ?」

 「・・・・・・」

 アスカを睨んだまま手にしたコンバットナイフを構えるマナがゆっくりと歩き出す。

 「やる気? なら、シンジにケガさせた責任は取って貰うわよ!」

 言いながら自分も隠し持っていたナイフを引き抜くとアスカも不適な笑みを浮かべて一歩踏み出した。

 ガキィッ!

 広いケージの中で二人の少女がナイフで火花を散らすのを、零号機は黙って見下ろしていた。






 「どうかな、生まれ変わったJAはっ?」

 「不細工」

 「なっ・・・」

 「見てて恥ずかしくなるぐらい最悪ね」

 「そうだな」

 リツコの意見に唇を微妙に歪めて時田を見たまま冬月は笑う。

 「が、外見なんか関係ないっ!!」

 「あるわよ、心理効果と言うものを忘れているわ・・・まあ、笑いを取ってやる気をなくすと言うのなら

 頷けるけど?」

 「ぐぐっ」

 「それにあなたは何も理解してないようね、リアクター内蔵では格闘戦に不向きだと明言したはずです」

 「赤木君、それぐらいにしたまえ・・・いくら事実でもな」

 「失礼しました、あんまりにも可哀想でつい・・・」

 「だ、誰が格闘戦をすると言ったんだ?」

 「あら、それじゃ大道芸かしら? でもあんなのじゃ子供に受けないわよ?」

 「ぐ、ぐぐっ、貴様・・・」

 「図星って所かしら?」

 言うまでもなくリツコは時田を挑発していた、早く本音を吐き出させようと。

 時田は怒りのあまり目を血走らせてリツコを睨むと大声で怒鳴った。

 「いつもいつもいつもそうだ! 私の何が貴様らに劣っていると言うのだ!?」

 「すべてよ、特に平和になったこの世界で争いを起こそうとする愚かな心がね」

 ここで初めてリツコは薄ら笑いを止めた、そして見下すように時田を睨み返す。

 「あんな物は不要だってまだ解らないのかしら?」

 「く、くくっ・・・不要か、不要というのか・・・私のJAが・・・」

 「粗大ゴミの方がましね」

 「そうか・・・ならば壊してやる、エヴァもろともこの街ごと破壊してやる!!」

 「それが本音ね、できるかしら?」

 「なんだと?」

 「やってみればいいわ、自分自身を巻き込む勇気が有るのならね」

 「!!」

 大きく見開かれた目のまま時田は懐から拳銃を抜いてリツコに向けて構えたが、狙われたリツコも

 ゆっくりとバッグから拳銃を取り出して構えていた。

 「赤木君!」

 「こそこそ隠れているしか能がない貴方に撃てるのかしら?」

 「じょ、冗談じゃ無いんだぞ!」

 「遠慮はいらないわ、早く撃ちなさい・・・卑怯者」

 「ぐぐっ」

 「自分の力不足を棚に上げて人を傷つけた貴方はすでに科学者でもない・・・ただのクズよ」

 「き、貴様ーっ!!」

 叫びながら引き金に掛けた指を引き絞る時田を、憎しみを込めた目で見返しながらリツコも引き金を引こうとした。

 ドン!

 しかしリツコが撃つよりも早く銃声が聞こえて、時田は拳銃を落として蹲った。

 「加持くん・・・」

 いつものシニカルな笑顔のままリツコに近づいた加持は、その手から拳銃を優しく取り上げる。

 「そんな目をするのは止めた方がいい、シンジくんが悲しむぞ?」

 「そ、それは・・・」

 「昔に戻る必要はないんだ、未来を生きないとな」

 「・・・そうね、ごめんなさい」

 「過ちを繰り返す必要はない」

 「司令」

 「我々は未来を生きて行かねばならない、死んでいった者達の為にもな・・・」

 冬月の笑顔にリツコは目を伏せて、今の自分の行動を反省した。

 「もう遅い・・・」

 「なんですって?」

 加持の部下に押さえつけられていた時田は、俯いたまま呟いた。

 「アレは止められない・・・すでにカウントダウンは始まっている・・・くくくっ」

 「何をしたの!?」

 リツコが問いただした瞬間、時田は顔を上げて絶叫した。

 「私のっ、私の勝ちだっ!! ・・・ぐはっ」

 そして、血を吐きながら時田は崩れ落ちた。

 「・・・死んでる」

 時田の様子を調べていた加持はそう呟いた。

 「俺は残りの敵を掃討する、りっちゃんと司令は発令所の方に・・・」

 「司令」

 「うむ」

 加持は二人に護衛をつけて送らせると、自分も役割を果たすために部下を連れて部屋を後にした。






 ガキッ。

 エヴァの前で、アスカとマナの死闘は続いていた。

 お互いの技量はほぼ互角で、かすり傷はあるが致命傷となる怪我は負ってなかった。

 「ふん、少しはやるじゃない」

 「・・・・」

 「悪いけど時間がないから、そろそろ終わりにするわ」

 「・・・・」

 「本当はこんな形で決着つけたくなかったけど・・・はっ!」

 持っていたナイフを投げつけると同時に走り出して、ナイフを構えて待っていたマナの懐に無謀とも言える

 感じでアスカは踏み込む。

 無表情のまま苦もなく弾くマナのナイフがそのままアスカの首に向かって振り下ろされるが、

 左手を突き出して庇った。

 ざくっ。

 「ぐっ・・・」

 貫く痛みにアスカの顔は苦痛に眉を歪めるが、不敵に笑うとそのままマナの腕を掴んで捻りあげる。

 「シンジを傷つけたんだから・・・貰うわよ」

 ぼきっ。

 「がっ・・・」

 躊躇いもなくアスカは捻りあげたマナの腕を折った。

 折れた腕を押さえたままマナは蹲って体を震わせていた。

 「そのままそこでおとなしくしてなさい」

 「・・・ア、アスカ」

 「マナ?」

 「あ、ありがと・・・それとごめんなさい」

 「あんた、記憶が!?」

 ナイフを抜いてスカートを裂いて傷を縛っていたアスカは、見上げるマナの正気の目を見つめて

 近づいて側に膝をつく。

 「いつから気がついていたの?」

 「ここに来る前に・・・」

 「ふーん、するとわざと折らせたわね?」

 痛みに脂汗を流しながら答えるマナを起こしながら、側にあったパイプで折れた腕を縛る。

 「あうっ・・・」

 「まったく、シンジもあんたもバカすぎよ」

 「ごめんなさい」

 「で、どこまで記憶が戻ったの?

 「・・・全部です」

 「そう・・・じゃあ発令所に行くわよ」

 「えっ!?」

 肩を貸してマナを立ち上がらせると、エレベーターに向かって歩き出す。

 「時間がないの解るでしょ、それにあんたも最後まで見る義務があるはずよ」

 「アスカさん・・・」

 「アスカでいいわよ、今までさん付けされてたからむず痒くってイヤなのよ」

 「うん、アスカ」

 「さあ行くわよ!」

 お互いを見つめ合って笑う二人は、傷ついた体を引きずりながらケージを後にした。






 「JA及び量産機の動きは?」

 「有りません、ですがJAの核融合炉の出力が上昇しています」

 「まさか自爆する気?」

 「このままで行けばおそらくは・・・」

 「ちっ・・・これじゃただのテロじゃない!」

 ミサトの舌打ちに日向が補足するように言葉を繋げる。

 「おそらく標的はエヴァでしょうね、戦自の車両に目もくれない所からそれが裏付けられています」

 「マヤ、核融合炉の臨界は?」

 「このままだ上昇を続ければ15分が限界だと・・・」

 「ったく〜、やってくれるじゃない。現在の避難状況は?」

 「一般市民および非戦闘員のシェルターへの避難はほぼ終了しています」

 「戦闘には支障ないか、さて・・・」

 正直、ミサトに打つ手は思い浮かばなかった。

 シンジが負傷していなければエヴァによる攻撃が可能だったが、その考えは現状では否定するしかない。

 更に自分の情けなさに腹が立って顔が険しくなる。

 (いかにシンジ君達に頼っていたか思い知らされるわね)

 表示されている残り時間が13分を切った時、ドアが開いてそこに現れたのは傷だらけの

 アスカとマナが立っていた。

 「アスカ!? それにマナちゃん?」

 近くの予備のシートにマナを座らせると、驚いているミサトの前にたって、アスカは真面目な表情で

 迫った。

 「ミサト、死にたくなかったらあたしに指揮権を頂戴!」

 「えっ?」

 「あーっ、もうっ、時間無いんだから今すぐ指揮権を頂戴って言ってんの!」

 「頂戴ってあんたねぇ・・・」

 「はやくっ!」

 「勝算は?」

 「100%に決まってるでしょ!」

 「どうする気?」

 「ミサトさん、発進準備は整ってますよ」

 アスカを援護するその声に、発令所の人間すべてがモニターに注目した。

 「シンジ君!?」

 そこにマヤの声が割って入る。

 「エヴァ零号機エントリー終了、ハーモニクス正常、シンクロ率97%です!」

 「もう時間がありません、アスカを信じてください」

 「お願いミサト、あたしを信じてっ」

 「あんたたち・・・」

 ミサトは涙が出るほど嬉しかった、それは成長した弟や妹を見ているような感じかもしれない。

 でも、ここは泣く所じゃないと思い、コンソールからマイクを取り上げると、スイッチをオンにした。

 「現時刻をもって指揮権をアスカ二尉に委任します、以後は彼女の指示に従うように!」

 マイクを置き、振り返ったミサトはアスカに肯いた。

 「見せて貰うわよ、二人とも・・・」

 「まっかせないさいっ、行くわよシンジ!」

 「ああっ、アスカ」

 その時、発令所のドアが開いて、息が荒い冬月とリツコが入ってきた。

 ミサトに声を掛けようとしたリツコは、モニターでエントリープラグの中にいるシンジの姿に

 驚いて叫んでしまう。

 「シンジ君!?」

 慌てたようにリツコはコンソールまで詰め寄ると、正面のモニターを見上げて叫んだ。

 「何故そこにいるの!?」

 「出撃するためです」

 「あなた目が見えないのよ、それでどうやって戦うのっ!?」

 「大丈夫です」

 「シンジ君!!」

 シンジは見えない目でリツコに微笑みながら、自分の気持ちを告げる。

 「僕は一人で戦う訳じゃないです、僕を信じてくれるみんなと戦うんです。それは誰に強制された

 訳じゃない、自分の意志で決めたんです。僕は守りたい……大好きな人達を、大切な仲間達を、だから

 その為に僕は戦うんです」

 「シンジ君・・・」

 「約束します、リツコさんを悲しませるような事はしません」

 「・・・」

 「リツコさん」

 「・・・約束よ」

 「はい」

 「もし破ったら絶対に許さないんだからっ」

 「はい」

 「・・・いってらっしゃい」

 「いってきます」

 人目も憚らず涙を流すリツコにもう一度優しい笑顔を見せると、シンジは表情を引き締めた。

 「アスカ」

 肯くと、頭にインカムをセットしてアスカは胸を張って命令を下す。

 「エヴァンゲリオン零号機、発進!」

 みんなの見守る中、エヴァは地上目掛けて発進坑を上がっていく。






 後に『奇跡の戦い』と呼ばれる華麗で凄惨な激闘が切って落とされようとしていた。






 未来を掴もうとするシンジを見て冬月は一人思い出す・・・人類の敵は人類でしかないのか?






 つづく。



 

 間が空きましたが第十二話です。

 笑って出撃したシンジは、リツコを悲しませないで無事帰ってこれるのか?

 過去にミサトが行った、奇跡を待つより捨て身の努力を実行するシンジとアスカに

 勝利の女神は微笑むのか?

 激闘の先に見える未来を掴むために、少年は大人になっていく。


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