フルメタル・パニック! Short Story






 Go Go テッサ♪

 

 

 Phase:1

 

 

  「むぅ・・・」

 相良宗介は困っていた。

 それは何かと訪ねたら・・・その原因と言うべき彼女がキッチンから顔を覗かせた。

 「あのサガラさん、お昼は何にしましょうか?」

 大きめのTシャツにエプロンをしてこちらを見ているテッサのアッシュブロンドの三つ編みが、

 笑顔の彼女に合わせて嬉しそうに揺れている。

 テレサ・テスタロッサ大佐。

 ミスリルと言う組織の強襲揚陸潜水艦”トゥアハー・デ・ダナン”の艦長でもあり、宗介の上官でも在る彼女が

 何故ここにいるのか?

 詳しくは言えないのだが、先の戦闘においてかなりのダメージを負った部隊の装備が整うまで、時間が出来てしまった為

 それならばちょうど良いと皆に言われて長期休暇を取ったテッサだった。

 せっかくの長いお休みをどうしようかと考えていた彼女に、某お姉さんが「それならソースケの所にでも行ってたら?」

 などと一言呟いたら、その意見に素直に従って宗介のマンションに来てしまったのである。

 「俺知らないぞ、カナメが聞いたら絶対殺されるって・・・」

 これは某金髪の自称彼の親友のお言葉だった。

 「あの、サガラさん?」

 「はっ、自分はその・・・大佐殿にお任せします」

 「むっ」

 宗介の返事を聞いたテッサは顔をぷく〜っと膨らませて彼を睨んだ。

 「サガラさん」

 「はっ」

 テッサの迫力に思わず腰が引けて、一歩後ろに下がる宗介にさらに彼女は詰め寄った。

 「サガラさん、今はプライベートなんですよ」

 「はい、解っております」

 「でしたら・・・その、もっと気楽に呼んで頂けないのですか?」

 「は、はい、それは解っておりますが・・・その、習慣と言うか・・・」

 宗介の反応を見てテッサは唇を噛んで俯いてしまう。

 「・・・やっぱり迷惑でしたか」

 「あの・・・」

 いくらに朴念仁の宗介にも、テッサが泣きそうになっていることぐらいは容易に理解できた。

 「あの、自分は迷惑と思っていません・・・その、どちらかというと気持ちは嬉しいです」

 「本当ですか!?」

 大きな瞳をキラキラさせて胸の前に手を組んで見つめるテッサに、宗介は何故か胸の動機が激しくなった。

 「は、はい」

 「よかった・・・ありがとう、サガラさん」

 「いえ、こちらこそ配慮が足りませんでした」

 「じゃあ、これからは私のことはメリッサと同じに名前で呼んでください♪」

 「わ、解りました・・・テ、テッサ」

 「は、はい」

 しばし見つめ合ったまま、部屋の中は静寂と共に何とも言えないいい雰囲気になっていた。

 このままラブラブに突入してしまうのか?

 そうは問屋が降ろさないのがこの世界(笑)

 ぴんぽーん。

 まるで狙ったようにちょっと待ったコールよろしく、部屋のチャイムがタイミングよく鳴った。

 「はい?」

 テッサが宗介の脇を抜けてドアを開けると、そこには笑顔全開のかなめが大きな重箱を持って立っていた。

 「は〜い、差し入れに来たんだけど・・・ってあれテッサ? どうしてここにいるの?」

 「こんにちわカナメさん、実は数日前から一緒に暮らしています」

 「なっ、なんですって!?」

 ニコニコ顔のテッサとその後ろで何故か脂汗をだらだらと流している宗介を、かなめの目が目まぐるしく動いた。






 「どー言うことか説明してくれるんでしょうね、ソースケ?」

 かなめが持ってきた重箱の中身をみんなでつつきながら、この状況の説明をソースケに言及していた。

 「もちろんかまわないが・・・もしかして千鳥、怒っているのか?」

 「誰が、何時、どこで、どーして怒っているのよ!?」

 「いや、俺の気のせいらしい・・・」

 「ふん!」

 どう見ても怒っているのが明白なのだが、それを決めつけるのは何故か憚られた。

 テッサはしずしずとお茶を飲んで、沈黙を守っていた。

 宗介の頭の中で誰かが逃げろと言っている。

 背中に冷たい汗が流れるのを感じながら、ソースケはかなめに今の状況の説明を始めた。

 「詳しくは言えないのだが、部隊の再編成の間休暇を取られた大佐・・・」

 「サガラさん」

 お茶を啜りながら横目で宗介を牽制するテッサの目が、さらなる恐怖を宗介に匂わせた。

 「あ、その・・・テ、テッサが遊びに来たと言うことだ」

 「テッサ?」

 宗介が発した言葉をかなめは反芻した。

 いったい何時から名前で呼ぶような仲になったのかしら?

 私でさえ名字でしか呼ばれていないのに・・・むかっ。

 バキッ!

 かなめの手の中でいい音をたてて箸が砕け散った。

 「あら、どうしましたカナメさん?」

 「えっ・・・あ、あれ? な、なんか脆いわねこの箸?」

 そそくさと素早く箸の残骸を片づけるとかなめはにっこり笑って誤魔化そうとしたが、

 所詮無理な話だった。

 「はい、カナメさん」

 「あ、うん、どうも」

 気にしてないような微笑みで代わりの箸を用意したテッサから、カナメは引きつった笑顔でそれを受け取った。

 (こ、この戦慄にも似た感じは?)

 お互いに笑顔な事は笑顔なのだが・・・宗介には指一本動かすことが出来ない緊張感が漂っていると

 察知することは戦士としては凄く簡単な事だった。

 (殺される。)

 宗介の戦士としての本能がそれを察知して不用意な行動を取らせないようにし、身動きとれないで

 そのまま事の成り行きを見守る事しか出来なかった。

 本来楽しいはずのお昼の一時のはずが、今や地獄の最前線に変わっていた。






 「はい、ソースケ♪」

 「ち、千鳥?」

 広げたお弁当箱から美味そうな芋の煮付けを箸で掴むと、あろう事かかなめは宗介にあ〜んしてと

 言わんばかりに口元に運んで上げた。

 「ほら遠慮しないで、いつものように食べさせて上げるからぁ♪」

 「い、いつも?」

 無いはずの事を言われて、何でそんな事を言うのか理解できないが有無を言わさぬかなめの迫力に宗介は

 抵抗すら出来ずに口に運ばれた物を飲み込んだ。

 無論、味などは全くっと言って良いほど感じることが出来ないのはお約束だった。

 かなめの行為にテッサは唇を噛みしめ拳を握ると、嫉妬の炎全開視線で二人を見つめていた。

 まさかそこまで二人の中は進んでいるの?

 テッサは頭の中でメリッサの言っていた言葉を思い出していた。

 『ソースケは超が付くほど鈍いから、テッサのほうからちょっとは強引に迫った方がいいわよ』

 『で、でもなんだかそれってはしたないような・・・』

 『甘いあま〜い、そんな事じゃソースケをゲットするなんて夢のまた夢よ!』

 『メ、メリッサ?』

 『ましてソースケの側にはカナメが何時もいるのよ? テッサ・・・あなたあきらかに出遅れているわよ!』

 『そ、それは・・・』

 『大丈夫よ、テッサみたいに可愛い娘が潤んだ瞳で迫ればソースケだってイ・チ・コ・ロ・よ♪』

 その後経験豊富なメリッサからいろんな事を聞いて顔を真っ赤にしてしまったのは、二人だけの秘密になった。

 (あなたの言う通りだったわ、メリッサ。)

 (私がんばります!)

 恋する乙女のテッサは燃える瞳で肯くと、かなめに負けじと自分から積極的な行動に出ることにした。

 「サガラさん」

 と、宗介に声を掛けたが返事を待たないでテッサは立ち上がると、宗介の首に手を回してそのまま膝の上にちょこんと

 座ってしまった。

 「なっ!?」

 宗介もさることながらかなめは思わず箸を落としてしまうほど、びっくりした。

 「昨日のように・・・私に食べさせてくれますか?」

 顔を真っ赤にしながらも潤んだ瞳で宗介の顔を見つめながら、テッサはもてる勇気を振り絞ってその言葉を口にした。

 もちろんそんな事実は無かったのだが、かなめには解るはずもなかった。

 そして宗介の脳裏にはあの時のメリダ島での出来事が浮かんでいった。

 『確かあの時もこう大佐殿が俺の上に乗って来たんだな・・・』

 かなめとは違う甘い砂糖菓子みたいな臭いと、テッサの体の柔らかさに自分の鼓動が勝手に早くなり顔も赤く変わってきた。

 バン!

 「ちょ、ちょっとソースケ!」

 さすがにかなめも今回のテッサの行動に、ちっぽけな理性はあっという間に世界の彼方に消え去った。

 怒りのあまり思いっきり両手を叩き付けたため、比較的頑丈が取り柄のはずのテーブルがメキメキと異様な音を立てた。

 「ち、千鳥・・・」

 「今、テッサが言った事は本当なの?」

 すでに気が弱い人なら天国に召されてしまうほどのかなめの眼光に、宗介はテッサを膝の上に載せたまま仰け反るように

 背中を反らしたのだが、帰ってそれは危険な事態を招くことになろうとしていた。

 「むっ?」

 「きゃっ!」

 がたーん!

 かなめの視線から逃れるためバランスを崩した宗介ごとテッサは後ろにひっくり返った。

 慌てて駆け寄るかなめの前には宗介に抱きしめられたテッサが横たわっていた・・・って当たり前だけどその二人を

 見たかなめの顔に浮かんでいた心配そうな表情は消えて、きりきりと眉毛が吊り上がって髪の毛が逆立った。

 「だ、大丈夫ですか?」

 「は、はい、私は何とも・・・あっ」

 自分が宗介に抱きしめられていると解った瞬間、テッサは更に顔を赤くおまけにちょっぴり笑顔まで浮かんでいた。

 そしてなかなか離れない二人を見ていたかなめは拳を握りしめて、わなわなと肩を震わせて大爆発直前だった。

 「ソースケ・・・」

 「ん、千鳥・・・」

 「あたしはお邪魔のようね・・・」

 「千鳥、やっぱり怒っているのか?」

 かなめは・・・切れた。

 「えーそうよ! 怒っているわよ! 悪いの!?」

 「そうか、やはり怒っていたんだな・・・でもどうして怒っているんだ?」

 「なんですって?」

 テッサを押しのけて宗介をひっつかむと首元をぎりぎりと締め上げて、顔を近づけて睨む。

 「昨日、キミの机を破壊したことか?」

 「あんたって、あんたって〜!!」

 宗介の顔の色が段々と危ない色に変わってきたのを唖然としていたテッサは、慌ててかなめの腕を掴んで揺すった。

 「カナメさん、サガラさんが死んでしまいます!」

 「いーのよ、いっぺん死んでやり直すのがこいつの為なんだから〜!」

 「そ、それは・・・」

 「うがーっ!」

 血走った目で宗介を睨んだまま叫ぶかなめの迫力に、テッサは腰が引きつつも何とか力を振り絞ってかなめの腕を

 外そうとがんばった。

 「サガラさんは・・・サガラさん私の大好きな人なんです!」

 一生懸命のあまり思わず自分の気持ちを叫んでしまったテッサに、かなめの力が緩んで掴んでいた宗介は

 崩れ落ちるように床に転がった。

 「サガラさん!?」

 すでに堕ちて白目を剥いている宗介を涙目になって介抱するテッサの姿を見たかなめは何となく気まずい雰囲気に

 なってしまい、あさっての方向を見ながらほっぺたを指でぽりぽりかいていた。

 「あ〜ちょっとやりすぎたわね・・・」






 まだ、宗介は気絶したままだった。

 かなめと協力してなんとか宗介の体を運ぶと、ソファーに寝かせることが出来た。

 「その、悪かったわね・・・」

 「いえ・・・」

 「でも、これもみんなあいつが悪いんだから・・・鈍すぎるのも問題よね?」

 「それには同感です♪」

 「ふっ・・・ふふっ」

 「クスッ・・・クスクスっ」

 同じ人を好きになった者同士、不思議な連帯感のような一種共感にとらわれて二人は暫く笑っていた。

 「今日は帰るわ、ソースケの事任せたから・・・」

 「良いんですかカナメさん、そんなこと言っても?」

 「うん、ああ・・・少なくてもソースケがあなたを襲うこと無いしね・・・」

 「それはそうでしょうけど・・・」

 「と、言うわけでよろしくね♪」

 意外にあっさり帰ってしまったかなめの姿を閉まったドア越しに見つめながら、テッサはくすりと笑った。

 「私が何もしないと思っていたら大間違いですよ、カナメさん♪」

 リビングに戻るとまだ目が覚めない宗介の側に膝を付いてかがみ込むと、その引き締まった顔を見つめ始めた。

 「何時も無茶な作戦を任せてしまってすいません、でも必ず無事に帰ってきてくださいね」

 ゆっくりとテッサの顔は宗介の顔に近づいていく。

 「私・・・私ずっと待っていますから・・・サガラさんが無事に帰ってくるのを・・・」

 一瞬寸前で止まると唇をきゅっと締めて、小さく肯いて囁く。

 「好きです・・・宗介さん」

 テッサは英語ではなく日本語ではっきりと宗介の名前を呼んだ。

 そしてテッサの顔が宗介の顔に重なった・・・。






 「良くやったわ、テッサ♪」

 「姐さん、悪趣味だぜ・・・」

 光学迷彩で姿を隠しているM9の中で二人を覗いていた・・・もとい、護衛をしているウルズ2のセリフに

 同じくその横にいたウルズ6は頭を押さえてため息を洩らした。

 「何言ってんのよ、可愛い妹の勇気を見たでしょう? お姉さんは感激しちゃったわ〜♪」

 『絶対テッサを唆したのは姐さんだな・・・』

 「さあ次はそのまま一気にいくのよテッサ! ジャマは居ないわよ〜♪」

 「カナメに殺されても本当に知らないからな・・・」

 「あんたが喋らなければ解らないわよ」

 「はぁ〜・・・」

 『済まないカナメ、俺も命が惜しいんだ・・・』

 などど口では謝りつつも、しっかりテッサの頬を染めた微笑みの映像を一生懸命プリントしているその姿は

 ちっとも悪びれているところが無かった。

 二人とも同じ穴の何とかだった。

 覗かれているとは気が付かないテッサは宗介の胸に顔を載せてそのまま寄り添っていた。

 もちろんテッサのその顔には、至福の微笑みが浮かんでいた。

 テッサにとってとても安らいだ時間が過ぎていった・・・。






 終わり。




 フルメタSS第一弾、もちろん一番萌えているテレサ・テスタロッサ嬢です。

 本来はかなめの方が宗介の側にいるのですが、SSと言うことで同棲みたいな感じにしました。

 だってこうでもしないと一緒に居られる時間が少ない二人だからね。

 ほかにも魅力的なキャラクター満載の小説だから、知らない人もぜひ読んで貰いたい小説です。

 本当に面白いお話なのですっかりはまったじろ〜でした。

 


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