朝から街は綺麗な装飾と音楽で賑やかだった。

 当たり前よね、今日はクリスマスなんだもの。

 プレゼントをねだる子供やサンタクロースの姿が商店街の中でそこかしこに見られる。

 もちろんあたしもプレゼントを買いに来たんだけどね、ふふっ。

 今日は特別な日・・・そう、祐一と付き合い始めて最初のクリスマス。

 去年のあたしとは全然違った。

 こんなにも楽しい気分で朝からいられたのは、久しぶりだわ。

 やっぱりあいつがいるからかしら?

 あ、だめね・・・祐一の顔を思い浮かべただけで嬉しくなってしまう。

 うふふっ、重症ね。

 でも、それに納得してしまう自分が嫌いじゃない。

 さ〜てと、買い物を済ませて祐一の所に行かないとね。

 そしてあたしは軽い足取りでお店のドアを開けた。






 
Christmas 記念SS

 

 かおりんの恋は止まらない♪外伝

 「Christmas☆Night」






 Presented by じろ〜






 「じんぐるべ〜るじんぐるべ〜る、鈴が鳴る〜♪」

 水瀬家のリビングで飾りを付けている名雪が嬉しそうにクリスマスソングを歌っている。

 「ご機嫌ね、名雪?」

 「うん、だって今日はクリスマスケーキが食べられるんだよ〜」

 「はぁ〜イチゴたっぷりのあれね・・・」

 横目でダイニングを見ると秋子さんが作ったこれでもかってぐらいイチゴで

 デコレーションされた大きなクリスマスケーキが鎮座していた。

 それにしてもこれじゃまるでウェディングケーキみたいだわ。

 「わ〜い、ケーキ! ケーキ!」

 「うぐぅ、早く食べたいよ〜」

 ケーキが置かれたそのテーブルの周りを真琴ちゃんとあゆちゃんが待ちきれないと

 フォークを片手にぐるぐる回っている。

 「子供は良いわね・・・ふふっ」

 「ねえ、お姉ちゃん」

 「ん、なにかしら栞?」

 「これ味見してくれますか?」

 栞が差し出した小皿を受け取って口に含んでみる。

 「・・・うん、美味しいわよ」

 「良かった〜」

 にぱーって笑う栞の頭を撫でながらこの子も元気になったのねと今更ながらに思う。

 去年の今頃はとてもこんなに笑顔が明るくは無かった。

 あたしも現実から逃げていた。

 でも今年からは違った・・・そう、祐一があたしたちの前に現れた日から変わった。

 あたしたちだけじゃない、名雪もあゆちゃんも真琴ちゃん、倉田さんに川澄さんに天野さん。

 そしてたぶん秋子さんも救われた気がする。

 だからこの一年、いつもみんなの顔には笑顔が浮かんでいた。

 「どうかしたのお姉ちゃん?」

 「うん、何でもないわよ」

 にこっと笑いかけると栞はキッチンに戻って料理の続きを始めた。

 つい考えに夢中になってしまったけど、一番救われたのはあたしなんだと思う。

 もちろん一番変わったのもね・・・うん。

 改めてそう思うとなんだか嬉しいやら恥ずかしいやら落ち着かなくなる。

 「あ〜あ、らしくないわよねぇ・・・こんなあたしって」

 窓に近づくと鏡のように自分の姿が映る。

 白いセーターにココア色のロングスカート、耳にはイヤリングで唇に薄くひいたルージュ。

 何となく髪の毛をいじったりセーターの襟元を直したりしてみる。

 「♪〜♪〜♪♪」

 自然に口でハミングなんかしたりして・・・相当浮かれているわ、あたし。

 「香里さん」

 「ひゃあっ!?」

 いきなり背後からかけられた声にびっくりして振り向くと、そこには秋子さんがニコニコして

 あたしを見つめていた。

 「な、なんですか、秋子さん?」

 「香里さん」

 「は、はい」

 「幸せ?」

 「あ・・・はい」

 「そう、良かったわね」

 「はい」

 「でも今日はちょっとだけ我慢してね、ちゃんと祐一さんと二人っきりにしてあげますからね」

 「あ、あの・・・そ・それは・・・」

 「大丈夫、だからそれまではみんなで楽しみましょう♪」

 「あ、秋子さん・・・」

 呆然としているあたしを残して行ってしまった秋子さんは嬉しそうに名雪と一緒になって

 飾り付けを行っていた。

 「まいったわね、秋子さんには・・・」

 どうやら後で祐一と抜け出そうとしてたのがばれているみたい。

 仕方がない、おとなしくみんなとパーティーを楽しむことにしましょう。

 クリスマスにあのジャムだけは食べたくないもの。

 祐一も一秒で了承すると思うわ。

 「こんばんわ〜お招きありがとうございます♪」

 「こんばんわ」

 「こんばんわ、お邪魔します」

 「いらっしゃい、みなさん寒い中ご苦労様です」

 倉田さんと川澄さんと天野さんを秋子さんが出迎えた。

 「いえいえ〜、嬉しくって待ちきれなかったよね〜舞?」

 「はちみつクマさん」

 「本日はお誘いありがとうございます」

 「さあ、今日はみんなで楽しみましょう♪」

 秋子さんに促されラッピングされたプレゼントを置き、コートを脱ぐとそれぞれ自分らしく

 ドレスアップした服装だった。

 みんな祐一に見せるためなんだろうけど、あたしも油断してると危ないわね。

 まあそう簡単に祐一がみんなに靡くとは・・・思わないけどちょっとだけ不安だわ。

 あれで結構スケベだから・・・って、そ、それはともかく!

 祐一はまだ帰ってこないのかしら?

 そろそろパーティーの時間なんだけど。

 「ふぅ〜、ただいまっ」

 両手に抱えきれないほど沢山のプレゼントを持った祐一がよたよたしながらリビングに

 入ってきた。

 「おかえり〜、祐一♪」

 「おかりなさい、祐一くん♪」

 「おかえりーっ、祐一♪」

 名雪とあゆちゃんと真琴ちゃんが我先にと祐一に近寄っておかえりなさいの挨拶をする。

 いつの間にかちゃんと着替えているところを見ると秋子さんが手伝ったのかしら?

 「あはは〜、お邪魔しています〜♪」

 「おそい、祐一」

 「お先にお邪魔しています」

 倉田さんも川澄さんも天野さんもみんなの中にまじる。

 あら、そう言えば栞はどうしたのかしら?

 「えう〜、出遅れてしまいました〜」

 ドアのところで可愛い白いワンピースに着替えてきた栞がとほほな顔して立ちつくしていた。






 そして始まったクリスマスパーティーは大盛況だった。

 「いっちご、いっちご〜♪」

 「あう〜っ! ケーキ、ケーキ♪」

 「うぐぅ、おいしいよぅ秋子さん♪」

 「はう〜、甘くてとっても美味しいです♪」

 「はえ〜、こんなに美味しい食べたの初めてです〜」

 「うまうま」

 「とても美味しいです」

 「ふふっ、そう言って貰えると嬉しいわ」

 みんなに誉められて満更でもない秋子さんが珍しく頬をほんのりと赤くしていた。

 「いや〜、今年は美味しいケーキが食べれて良かったなぁ〜」

 「祐一、なにしみじみ感動しているのよ?」

 「去年はなぁ・・・引っ越しの用意でそれどころじゃ無かったんだよ〜」

 「なにも泣くこと無いでしょう・・・もうっ」

 そんなに嬉しいのか祐一はばくばくとケーキを食べていた。

 「でも、本当にこのケーキ美味しいわ♪」

 なにからなにまで手作りなのは解るけど、どうしたらこんなに美味しくできるのか

 せっかくだから後で聞いておこうかしら・・・これからのためにもね。

 「ゆ〜いちぃ、食べてるぅ〜?」

 「お、おいっ、名雪?」

 「ちょっと名雪、なにしてるのよ?」

 顔を赤くした名雪がふらふらとした足取りで来たと思ったら、祐一の膝に猫のように乗っかってきた。

 「うにゅ〜香里ばっかりゆ〜いちと話してずるいよ〜」

 「名雪・・・あなた何を飲んだの?」

 「何も飲んでないよ〜食べたのはイチゴだけだお〜」

 「イチゴって・・・はっ!」

 あたしはソファーから立ち上がるとテーブルに盛りつけられていたイチゴを

 一つ取って口に入れてみる。

 「・・・んんっ、これって?」

 口の中で広がるアルコール・・・秋子さん!

 「あら? 間違って出してしまったようね・・・ごめんなさい♪」

 ニコニコして謝ってるわ・・・確信犯ね、秋子さん。

 うっ・・・これってかなり度数が高いわね・・・ちょっとあたしでもくらくらきちゃう。

 「うにゅ〜ごろごろ〜ゆ〜いち〜♪」

 「てい!」

 びしっ。

 祐一に抱きついている名雪に正妻チョップ・・・違ったわ、制裁チョップをお見舞いする。

 「う〜・・・」

 「あたしの祐一に触るんじゃないわよ!」

 「か、香里?」

 「大丈夫よ、あたしに任せて祐一!」

 「お、おう・・・」

 なんか気分がハイになってきたような気がするけど・・・良いわよね♪

 「うぐぅ〜ゆういちくん〜」

 「あう〜ゆ〜いち〜」

 「ていてい!」

 びしびしっ。

 「うぐぅ」

 「あうっ」

 「ふぅ・・・名雪を撃退したと思ったらこの子供たちは〜」

 気絶した二人の襟首をつかむとソファーの後ろにまとめて置く。

 振り向いて座ろうとしたあたしのいた所に栞がちゃっかり座っていた。

 「栞、何をしているの?」

 「あ、あは、お姉ちゃん・・・ちょっと」

 「ちょっとなに?」

 「え、えう〜」

 びしっ。

 「きゅう」

 栞、たとえ妹と言えど祐一は譲らないわよ?

 さて残りは・・・あら?

 「す〜」

 「ん〜」

 倉田さんと川澄さんは二人仲良く寄り添って寝ちゃっているわ。

 すると後は天野さんだけど・・・秋子さんとなにやら語り合っているわ。

 真っ赤な顔して・・・ちょっとふらふらと頭揺れているのが可愛いけど。

 うふふ、これで邪魔者はいなくなったわね。

 「香里」

 「うふふっ、なぁに祐一♪」

 「ちょっと外に出ないか?」

 「うん、良いわよ♪ 祐一とならどこでも行っちゃうわ♪」

 「そ、そっか」






 祐一に手を引かれて家を出たあたしを連れてゆっくりと歩き出す。

 ・・・そうだ、うふふ。

 「えい!」

 ぎゅうっと祐一の腕に抱きついて体を密着させる、思った通り暖かいわ。

 「もしかして酔っているのか?」

 「そんなこと無いわよ、ただちょっと気分が良いだけよ♪」

 「それを酔っていると言うんだ」

 「いいじゃない、それとも嫌だった?」

 「いや、嬉しいけどな・・・」

 あ、祐一の顔が赤くなっている・・・ふふっ。

 「じゃあこのままね♪」

 その後は無言のまま歩き続けてたどり着いた所は夜の学校だった。

 「学校に来てどうするの?」

 「うん、まあ中に入ろう」

 「いいけど・・・」

 そして中に入った祐一は在る場所まで行って立ち止まった。

 あ・・・思い出した、ここはあの場所だった。

 まだ恋人じゃなかったあたしが祐一を呼びだして・・・そして栞に対する気持ちを

 告白して泣いた場所だった。

 そのまましばらく黙っていたあたしたちだったけど、祐一が不意に呟く。

 「ここでさ、香里の涙を見た時さ、『ああ、香里の泣き顔は見たくないな』って思った」

 「祐一?」

 「きっとその時はっきりと心の中で決まったんだと思う、香里が好きなんだって」

 ぎゅっ。

 急にあたしを抱きしめた祐一だけど、壊れ物を扱うように優しく包んでくれる。

 「香里・・・俺は香里の事好きだ」

 あたしの耳元で祐一がはっきりと告げる。

 「あたしも・・・祐一が大好きよ」

 答えるあたしの視界が段々とぼやけていく。

 「泣いているのか、香里?」

 「う、ううん、これはね・・・嬉し泣きよ♪」

 祐一の顔を見つめてニコッて微笑んで見つめる。

 「香里」

 そして今日初めてのキスを交わす。

 唇が離れるとなんだか気恥ずかしくなって祐一の胸に顔をつけた。

 「あっ」

 「ホワイトクリスマスだな」

 「うん」

 静かにゆっくりと雪が舞い降りる中であたしたちは抱き合ったまま夜空を見上げて

 幸せな気分を満喫していた。






 「メリークリスマス、香里」

 「メリークリスマス、祐一」






 最高の笑顔を浮かべて祐一を見つめると、背伸びをして今度はあたしからキスをしてあげる。






 終わり。





 どうも、じろ〜です。

 第三部を始める前にクリスマススペシャルとして書きました。

 二人とも高校三年生の時のお話ですから少し前にあった事です。

 みなさんはどんなクリスマスをお過ごしでしょうか?

 出来れば雪が見たいなぁとこのお話を書いている時思いました。

 メリークリスマス For You♪

 2000/12/25 初稿


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