プルルルルル…プルルルルル…
そこへ電話がかかってきた。
誰だろうと思いながらも、エプロンをはずし…電話を取る。
「はい、美坂ですが、どちら様でしょうか」
無言。
静寂が訪れる。
空気が重くなる。
家の中が何かに押しつぶされるような…
そんな重い雰囲気の中、受話器から声が聞こえた。
「…………香…里………」
しわがれた、抜け殻のような声。
聞き慣れたはずの声がまるで別人のように聞こえた。
…ただ事ではない。
「ちょっと、相沢君!?どうしたの!?」
無言。
私は次の言葉を待った。
数分…本当は数秒だったのかも知れない。
悪い予感だけが心を渦巻いていた。
「…………りが…………」
「…えっ?」
「…………栞が………………」
…栞に何か!?
落としそうになった受話器をあわてて支え、叫んだ。
「相沢君!今どこ!?」
相沢君が言った所は…
…近くの…病院だった。
…栞が、手術した…
…近くの大きな病院…
私は受話器を離し、玄関から飛び出した。
ツー…ツー…ツー…
電話が切れる音だけが…
家に虚しく響いていた…