たまにはほのぼのした話を書いてみました。…ほのぼの、してますでしょうか。



神楽陽子の日記

壱頁「雪降る町に」

2001年2月19日
作者:Meta


 「悪魔」は「在る」。
 「悪」。「大罪」、その行為全てが、即ち「悪」の根源であり、象徴なのだ。
 人を大罪から放す事が出来るか?―考えるまでも無い。不可能だ。「愛」があれば「欲情」が有り、「正義」が有れば「傲慢」が顔を覗かせる。
 その行為全ては「悪魔」に由来し、人の願いに呼応する。
―何故か?
―本当に「それ」を願う者が、人間だからだ。
 古来から人は悪魔を召喚する事を常とし、「奇跡」と称される力を用いた。ソロモン王は、72人の魔神を召喚していたともされる。
 「神の奇跡」は有ったか?あっただろう。確かに、一般に認められた物も、多くの奇跡―とされる物―もある。だが、それよりも遥かに多く、その「奇跡」すら、「悪魔」が関与しているのに他ならない。
 悪魔は、確かに「在り続けて」いる。

 寒い。
 身を切るような寒さは、風の中に刃でも仕込んだかのようだ。
 1月、未だ寒き冬。
 天下区・西国津ビル。
 摩天楼のあわいを吹き抜ける風は抜き身の刃の如く、肌に触れる度に痛覚を抉る。
 その摩天楼の一角を成す、しかし声一つ入らぬビルは、人を跳ね除けるかのように寒々としていた。あまりに暗く、昼間でも闇が支配する。加えて現在は深夜の2時、声など有る筈も無い。―が。
―音は、「在った」。
 ずちゃっ……べきっ、ねちゃっ……。
 まさしく音、それを声と呼べる筈が無い。―音。
 表現出来ない、仕様の無い音は、破砕音と、液体が跳ねる音の二種類で締められている。
―音。そう、これはもう「音」だ。「声」など、既に聞こえない。
「もう」……さっきまでは、うるさかった。「助けてくれ」? ああ、そんな事を言っていたか? だが、もう、どうでも良い。「塊」は、喋らない。
 素晴らしい力だ。圧倒的な力、漲る充実感……体が、自分の「思う」ままに動く。―素晴らしい。
 従わないからだ。この程度の力しかない者が、歯向かって良い「筈」が無い。面倒な家も何もかもが関係ない、自分思うままに動く。ああ、下らない事に首を突っ込まなければ、死なずにすんだんだよ、お前は!!
 闇一色の世界に、ゆらりと影が動く。未だ寒き、冬の事だった。







 目覚めは最悪だった。
 陽子は頭を振って眠気を追い出そうとしたが、生来の低血圧が邪魔をする。机に凭れ掛かったまま眠ってしまったのか、腕が痛かった。
 パジャマは白一色でアニメチックなネコのプリント、綺麗で大人びた顔立ちの陽子とはミスマッチだが、それはそれで似合っている。
 前夜の記憶を反芻した。
―確か、タリズマンを彫っていて……。
 目の前の削り出した銀板を脇に除け、軽く伸びをする。数冊のグリモアと印章を試し書きした紙が、記憶に強かった。
 徹夜は苦手だが、一度夢中になりだすと、中々止められない。中々直らない性格だ。ずきりと痛む頭を抑え、陽子は苦笑した。
 だが、こうしていられる、[今]が嬉しい。
 普通の人間には判らない、けして理解出来ない18年間と9ヶ月ほどを送って来た陽子には、この1年の記憶さえ夢のようだった。
 時計を見ると、朝の8時、通常の学生ならば学校に通う時間ではあるが、既に大学院までを出た陽子には無関係だった。―代わりの仕事は、もっと大変だが。
 記憶と共に蘇ってきた眠気に身を預け、陽子は布団に潜り込んだ。依頼されたプログラムと、研究。一昨日までに仕事は全て終わっている。 二度寝しても、2時間位ならば良いだろう。
 部屋に置いているPCはノート、本の大半は書庫だが、手近な資料だけでも部屋の7割を埋めてしまっている。邪魔なベッドを置く余裕など無い為か、陽子の部屋には布団と毛布があるだけだ。年頃の少女の物としての飾り気など無く、知識の探求者といった方が当てはまる。
―少しだけ……。
 静かに目を閉じ、しかしそれはすぐさま見開かれる事になった。
「ねーさーん!!」
 眠りに落ちる寸前、寝起きには辛い大声と、ドアのノックに、思考が夢から現実世界へ強制送還された。
 不機嫌にならざるを得ない精神状態だが、無視する訳にも行かない。重くなり掛けた瞼を、無理矢理に開かせる。
 返そうとする所に、声は続けた。
「起きてる? ねえ、聞いてるのー?」
 ドアのノックの音が、声と共に大きくなって来る。
「起きてるー?起きてないならドア、ブチ破るわよー?」最終忠告だ。ここで開けないと、本当に、やる。
「……破らなくて良いから、普通に入って下さい。……開いてますから。ドア」
 ふわりとあくびを漏らし、溜め息交じりに言う。声の主は、放って置けば冗談抜きにドアをブチ抜きかねない。
「え?……あ、ホントだ」
 いつもは鍵を掛けている。が、昨日は水を飲みに行って、そのままだ。引き戸式のドアを開け、少女が部屋に入って来る。
 半身を起こした陽子の目の前に、全く同じ顔が不思議そうな顔でドアを見ていた。
 神楽杏那、17歳。陽子の妹で、顔はこれ以上無いほどに瓜二つ、双子よりも似ている、と良く言われる。髪を伸ばした今では、口調と性格以外での判断は不可能だった。陽子と同じく科学者で、同大学の大学院を僅か10歳で卒業した天才だ。活発な印象を持ち、健康的な印章と明るさを振りまいて回る為か、誰にでも好かれている。大人しい陽子とは、まるで逆と言っても良かった。
 寒い中、ランニングでもしてきたのか、息一つ乱さない状態でトレーニングウェアに身を包んでいる。低血圧は姉妹で同じだが、朝食を作る為に杏那は6時起きだ。陽子に料理が出来れば良いのだが、そうも行かない。
 声の中に不機嫌が含まれているのを否定できなかったが、陽子は目を擦りながら杏那を見た。「―何です?」
「ん?ああ、電話。宗一から」
 陽子は小首を傾げた。企業の会長から、別に深い仲でもない宗一が、私用で連絡を入れる筈が無い。
 杏那がコードレスの子機を投げ渡す。
「……もしもし?」

 キッチンに入った陽子を出迎えたのは、トレーニングウェアの上からエプロンを着た杏那と、インスタントコーヒーの香ばしい香りだった。
 足元ではもこもことした熊のスリッパが、ぱたぱたと忙しなく音を鳴らしている。棚からイチゴジャムとピーナツバターを引き出す陽子に、背を向いたままの杏那の声が掛かる。―「座ってて。すぐ出来るから」
 杏奈の手際は良く、朝食は杏那の分担だ。陽子とて料理が苦手という訳でも無いが、低血圧で、その上寒さに弱い陽子に、冬の朝は辛い。誰から遺伝したのか判らない低血圧は、妹にも遺伝していたが、妹は昔からの習慣でどうにかなっている。妹は科学者としては度を越えたスポーツ好きだ。
 砂糖をブチ込んだ牛乳にパンを浸し、フライパンで焼く。焼き加減は丁度良く、陽子の目の前にはフレンチトーストに、ハーブで彩られたサラダが、オリーブオイルとビネガーで味を整えられている。さしずめ一流レストランのブランチの如きそれは、全て杏那の手作りだった。
「……で、何?宗一。デートのお誘い?」
 エプロンを外しつつ、杏那が腰掛ける。陽子の目が細められた。陽子は、コトその手の冗談が通じない。
「―次言ったら壊しますよ」
 空間に、陽子を中心とした精神波の波が生まれる。
「冗談よ」
 姉妹喧嘩で、精神を破壊されては堪らない。僅かに頬を引き攣らせた杏那に、陽子がやれやれとでも言いたげに返す。
「……仕事です」
「仕事ぉ?」
 杏那が眉を潜めて反芻した。宗一からの仕事は、大抵が荒事絡みだ。フォークでブラッドオレンジを口元に運びつつ、陽子に聞き返す。
「詳しい事は聞いてませんけど……ええ、出て来てほしいらしくて」
「姉さんだけよね?それ」
 杏那がカップに入れたココアを差し出し、言う。杏那はブルーマウンテンのブラック、陽子は苦い物が絶対的に駄目な為、必然的に砂糖をどばどばとブチ込んだココアになる。杏那に曰く、「人間の耐えられる甘さでは無い」らしい。何度か間違えて飲み、或いは挑戦し、全て撃沈している。味覚が違うか精神が違うか、恐らくは両方か。
「そういう事になりますね。……着いて来てくれないんですか?」
「当然よ。このクソ寒い中、わざわざ天下まで?冗談じゃないわ。せっかく仕事も終わったのに」
「冷たいですね。……じゃ、私だけ」
 杏那が軽く眉根を寄せる。「絡まないわね?」
「別に。ええ、家で寝てらして下さい」
 いつもなら「無理にでもつれてきますよ?」とでも言いかねない陽子の意外な反応に、杏那は覗き上げるようにコーヒーを飲みながら視線を送った。
陽子は平然と視線を流し、ココアを啜っていた。元より、この姉の表情だけは、杏那ですら感情の変化を読み取り辛い。
「―朋一?」
 杏那は視線を固定したまま、ぽつりと言う。陽子の表情が僅かにではあるが―「―どうしてそうなるんです?」―変わっていた。
「朋一」という単語は、陽子のポーカーフェイスを崩すのに、かなりの効力があったようだ。
「ビンゴね。―行くわ、私。……場所は?ガイアで良い訳?」
 陽子は軽く溜め息を吐いて苦笑した。
「これ食べたら行きましょう。12時に、Himinnです」

 喫茶、「Himinn」高天原市、天下区に位置する喫茶店だ。外観は古めかしい煉瓦造り、朝の8時の開店だが、コーヒーの味は通好みで、なかなか人気の店となっている。
「おはよう。早いね、杏那ちゃん、陽子ちゃん」
「おはよ。朝霞さん……宗一は?」
 長身の男が、コーヒーメーカーを手に取りながら顔を覗かせた。店の人気の秘訣はコーヒーと料理の味、しかし、店に来る大半の女性客の目当ては、笑顔を常に振り撒いている、この若いマスターだった。中性的な魅力の持ち主で、背は高い。視線は二人に向けながらも、手元ではカップが踊っていた。天城朝霞。二人の知り合いであり、ここに二人を呼び出した者の友人でもある。
 杏那の問いに、「ああ」と頷き、朝霞は「そっち」と、カップを持った手で指す。奥のボックス席に、これまた長身の男がコーヒーを啜っていた。
 杏那はのそのそと後を着いて来る陽子を待たず、男に早足に近付いて行った。
 砥波宗一。ここ、高天市でもトップを誇る大企業、「ガイア」の若き会長だ。白皙美貌の若者だが、そんな外観的な事は、杏奈と陽子には無関係だった。正面の席に回り込み、杏那が宗一を睨む。
「……呼び出して置いて、挨拶も無し?」
 杏那の視線を平然と受け流し、宗一はコーヒーを啜りつつ、手元の新聞を眺めている。
「来たのか。意外に早かったな」
「第一声がそれ?降りるわよ?この仕事」
「構わんさ。陽子が居れば問題無い」宗一がカップを持ち上げる。「降りるか?」
 しゃあしゃあと毒混じりに言う宗一に、杏那は軽く溜め息を吐いた。陽子が遅れて隣に座る。
 奥から歩いて来た朝霞が、湯気の上がるコーヒーを二つ、トレイに載せて持って来た。
「ハイ。ごゆっくり」
「あ、どうも」
 杏那が軽く頭を下げ、陽子がそれに倣う。正面で見ていた宗一は、「普通は逆だろ?」と思ったが、あえてそうはしなかった。杏那はともかく、陽子にヘソを曲げられても困る。―理由もあった。
「……寒いな」
 唐突にそう言った宗一に、杏那は眉を潜めた。「―冬だからね」
「寒い……そう、寒いが、だ」
 コーヒーを飲み干し、宗一が続ける。
「悪いな」
 主語を付けず、意味を得ない宗一の言葉に、杏那がコーヒーを飲みつつ言い返していた。「……何が言いたいの?」
隣では、陽子がコーヒーの暑さに負けまいと、必死で吹いて冷まそうとしている。姉は猫舌だ。溜め息をもう一度吐き、杏那は視線を宗一に戻した。
「……取り合えず、仕事だがな」
 宗一の持って来る仕事だ。二人とも、ある程度それが荒事だという事は判っていた。それでいて、宗一が姉の方を必要としている、と言う事は、杏那にはある程度仕事の概要が想像出来た。即ち―。
「オカルト絡みね。99.99%」
「……嫌味か?それは」
「何なら120%って言い直したげるわ」
 姉のオカルト的な能力は身を持って味わっている。そも、自分もオカルトめいた能力の持ち主だけれど、杏那は姉のように、オカルトへの知識までを求めていなかった。姉はどこの結社に入ってもやって行けるほどの知識の持ち主で、ルーンだろうがケルトだろうが、ほぼ世界中のソッチ系な知識を持っている。「オカルト」と言う単語自体が、ちょっとばかし杏那には受け容れ辛いのだ。
 宗一の返事を肯定の意味に受け取った杏那が、陽子に視線を移す。ようやくコーヒーを口に入れた陽子が、顔を顰めていた。砂糖を入れるのを忘れていたらしい。姉は、苦い物が苦手だ。またも溜め息を吐く羽目になった杏那に、宗一が苦笑した。
「内容だがな」
 宗一が傍らにおいてあったA4サイズの封筒をテーブルの上に置く。
「……猟奇殺人?」
 杏那が宗一が取り出した写真に目を移し、眉を潜めた。写真に映っていたのは、異常な程にグログロしく、気の弱い人なら卒倒しちまうほどの物だったのだ。全身を切り刻まれ、所々臓物がハミ出た、明らかに死を連想させる死体。
 どうやら杏奈はそんな部類には入らないらしく、陽子も、宗一も同様だった。杏那が嫌悪感を隠しもせずに言う。
「どこかのサイコがやったの?」
「まだ詳しい事は判らんな。警察の方にも、まだ回っていない」
「……ヤバいでしょ、それ。言わなくて良いの?」
「良い訳無いだろう。……理由があるんだ。警察に回せん、な」
「待って……あ、もしかしてこれって、あの事件?」
 「あの事件」、とは、ここ数日、ニュースでも騒がれている事件だった。詳しい詳細は明かされていないが、行方不明者が相次いでいるという事で、何が有ったのか、現在警察が調査中との事だ。
 場所は、ここ、高天市ではない。遥か北―と言う訳でも無いが、北に位置する場所で、年中に近いほど雪が降り続ける事で有名だ。さぞかし、今の時期は寒い事だろう。
 言葉を濁した宗一に、杏那が苛立ったように続けた。「―それで」
「それとこれと、私達が来る事にどう繋がる訳?」
 宗一が、グロテスクな写真に重なった、下の一枚を引き出す。
 それまでコーヒーをちびちびこくこくやっていた陽子が、僅かに身を乗り出す。「―マジックサークル?」
「―やはり、そうか」
 宗一が髪をかき上げた。宗一が引き出した写真に映っていたのは、赤にまみれ、地面に描き出された紋様だった。
「……サークル?何の」
「それが判らんから、お前を呼んだ」
 近年、オカルト絡みの事件は年々増加の一途を辿っている。猟奇殺人、集団自殺、発砲……その全てがオカルト絡みで、警察の対応は遅い。第一、日本の警察はソッチ方面に疎過ぎて、頼りになりゃしないのだ。アメリカでは、サイコメトリー専門の専科もあるというのに。
 陽子の呟きに返した宗一の顔が、溜め息と共に歪む。
 熱そうにコーヒーを飲みながら、陽子が写真を持ち上げる。
「このサークル……判り辛いですね。……これ、血でしょう?印象が隠れちゃってて」
「血ィ!?これ、やっぱそうなの?……ったく、ラリったサタニストか何かなの、やったヤツって、やっぱ」杏那が写真をロコツに嫌そうに見る。事件その物が大丈夫でも、ソッチ系な事件は苦手だ。
「サタニストとは限りませんけど。……サークルと、血ですからね」
「オカルト絡みね……勘弁して欲しいわ」
 宗一が苦笑した。
「炎を統べる大天使の言葉とも思えんな。……相手がナンバーで無いだけ、幸いと言った所だろう?」
「ナンバーの方が100倍マシよ。叩きゃ倒せるんだし」
「……悪魔も鬼も、あなたが叩けば死にますよ」
 三人三様に、第3者からは理解不能の言葉を漏らし、同時に苦笑する。
 陽子が言いつつ、写真を宗一に差し出した。
「これをどこで?」
「事件の有った街の、廃工場だ」
 軽く目を開ける陽子に、宗一が置かれた水を飲みつつ続けた。
「街の周辺を調査していたら、これだ。勘繰りたくもなる。警察に嗅ぎ付けられるのも面白くないからな」
「周辺の調査ね……よく調べる気になったわね」
「企業繋がりの調べ物でな。……蔑ろにする訳にも行かない」
 杏那がしばらく視線を宙に這わせ、まるで思い付いたかのように言う。
「―誰か、私達以外にも?」
「ああ」
 宗一が口元を吊り上げていた。フェイクに引っ掛かるようなヤツじゃない。
「朋一か?」杏那が一度頬を引き攣らせ、すぐに右手の人差し指を宗一の顔先に突き付ける。
「燃える?」
「……遠慮しておこう」
 意外とあっさりと引いた宗一が、水を一口含み、続けた。
「調査は鋭一だ」
「鋭一……?あのパワー馬鹿?」言う杏那に、宗一が苦笑いした。「腕は良いと思うんだが」
「腕はね」宗一は苦笑のまま、表情を固定する羽目になった。
「あとは朋一だが……」
 宗一の言葉に、陽子がカップをテーブルの上に置き、杏那も宗一に視線を定めた。
「すまん。あいつはもう先に向かった。依頼も、お前達とは違う」
「はあ?」
「いや、お前等に連絡入れる暇も無くな。……あいつは、高校に通ってないだろう?お前達と同じで」
 無論、理由は違っていた。陽子と杏那は既に大学までを出ているからであり、話に出ている朋一の方は、さる事情から、通う訳にもいかなかった。
 しばらく額に指を置いていた杏那が、不意に視線を上げた。
「どんな違いなの?」
「お前達の事は封筒の中に入ってるが……一応、依頼人に会ってくれ。朋一は調査だ」
「調査?」杏那が反芻する。
「街その物の、な。何があるかも判らんからな、今は」
 杏那が宗一を正面から見据える。
 先に視線を外したのは杏那だった。
「別に、良いわ。……どうせ、すぐに追い付くし」杏那の言葉に、暫く黙り込んでいた陽子が言った。
「……朋一さんは、お一人で?」
 陽子の言葉に、宗一が「ちっ……気付きやがった……」とでも言いたげに顔を顰めた。
「いや」
口元だけを笑みの形に変えた杏那が言う。「誰と?」
「一人は、雅治だ」
「一人?」杏那が訝しげに聞き返し、続きを促した。
「……セシリアも、行った」杏奈と陽子の顔が瞬時に凍り付く。言うが早いか、杏那が宗一の手元の封筒を引っ手繰って行った。
「場所、これに入ってるの?」
「ああ」―一応。宗一が完全に言い終える前に、杏那が席を立っていた。
「朝霞さん、ご馳走様。宗一が払っといてくれるから」
 陽子が、宗一に軽く頭を下げて続く。「それじゃあ、また」
 座ったまま苦笑する宗一に、朝霞がコーヒーのお変わりを追加していた。
「大変だね。宗ちゃん」
「大変だ」
 宗一がコーヒーを口元に運んだ。







 薄暗く、寒い。閉鎖された工場内にも、クソ冷たい風が吹き付け、容赦無く密閉された室内を冷気で満たす。
 だが、それ以上に、今の工場は「生臭かった」。
 冷気で満たされた工場内に、怒号が交される。中に蠢くは、数人の人影。人影の中、一人の男が口を開く。黒い前開けのスーツに、鋭い目付き。明らかに、「その筋」と判る男だ。
「やっ……野郎、こ、こんな真似して、タダですむと思ってんのかあ!?」
「安心しろ。とっくにタダで済む状況じゃない」
 返したのも一人の男だった。オートマチックを懐から取り出すスーツの男に対して、一振りの日本刀を握っている。年は若い。正確な年齢は、顔からは窺い知る事が出来ないが、目の脇に負った傷や、立ち尽くす凄惨な雰囲気が、年齢を判り辛くしている所以か。
 周囲を見回せば、何人もの男が、日本刀の男を取り囲むように立っている。
 一つ挙げるならば、男達が険悪な関係にあることは確実だった。
 死臭の原因―日本刀の男の足元に崩れる、ヤクザの死骸だ。
「坊やぁ……この数の金バッチ相手に、ヤッパ振り回してどうなるもんでもねえぞぉ?」
 数人の内一人、角刈りの男が、日本刀の男に言う。日本刀を握る男が唇を歪めた。
「どうにかなってるじゃねえか。クソが。……テメエらを幾ら殺しても、俺の良心は痛まないんでな」
 男が、刀を手の中で後ろ手に回し、言う。
「臓物販売、人身販売……」
 ヤクザ達と男の視線が噛み合う。
「クソが……。生かして置く余地、無しだ」
 冷ややかに言う男に、別のヤクザが怒号を発する。
「ダンビラ一本で、調子コイてんじゃねえ!!」
 ヤクザのトカレフが、マズルフラッシュと火線を導くより速く、男がヤクザの懐に走りこんでいた。ヤクザが驚愕の表情を上げるより早く、銀光が夜気と冷気を薙ぎ払う。―同時に、ヤクザの胴を。
 当然だが、凄まじい踏み込みと言わざるを得ない。剣の技量はそれほどでもないようだが、凄まじい吹き上がる鮮血を避けるように、男はヤクザの横を通り抜けていた。
 身体能力が、単なる斬撃に神技の冴えを付加する。―或いは、身体能力とは別の何かか。
 多少以上に鍛えられた腹に、刃が垂直に吸い込まれる。振り抜かれる勢いごと、男はヤクザから刃を引き抜いていた。
「げあっ……」
 半ば、背骨まで断ち割られたヤクザが、口から大量の血を吐き出した。
「な、死んだろ?」
 臓物をハミ出させ、自分に崩れかかるヤクザを蹴りで引き剥がす。男の口元には笑みが浮かんでいた。
「野郎……くたばれ、テメエ!!」
 トカレフのトリガーが、数人から一斉に男に絞られていた。息さえ凍る冷気の中、マズルフラッシュが大気を焦がす。トカレフが硝煙と薬莢を吐き出した。
 刹那の閃光。男の手元が閃き、そして、[それだけ]だった。
「何で……」
 驚愕の呟きはヤクザから漏れていた。
「て、テメエ……本当に、人間かよ!?」
「勿論だ。トカレフかよ。ンなモン効くかよ、馬鹿」
 足元に「拉げて」落ちた弾を蹴り飛ばし、男が返す。男の体所か、服さえ揺らす事無く、弾丸は潰れて冷えた床に転がっていた。
「ひ、一人で何が出来るって……!!」
 角刈りが叫び、次の瞬間、角刈りは腹から文字通りに腕を[生やして]言葉を無くしていた。
「……一人じゃ、ねえ」
 ヤクザの腹から手を生やし、背後に立つ男が言う。完全に腹をブチ抜かれ、ヤクザの顔が青褪め、色が失せていく。大量の血を流し、顔には死の色が濃い。震える手でその手を抱こうとする男が、ぐらりと崩れ落ち、しかし生える腕に立つ事を強制される。
 長身の青年だった。185は有るだろう。が、見た所ウエイトは軽めに見える。黒髪に、整った顔と体。黒のロングコートで全身を覆い、白皙美貌の細面には、自分の行動に対する忌避など微塵も無い。手首の先から肘の中程までをヤクザの体に通したまま、ヤクザの事は気にも止めず、正面の、日本刀の男に視線を投げ掛ける。
「……すまない。朋一。少し遅れた」
「もう、終わったのか?」
「2時間前に終わった。……出掛けるなら、場所を言って置いて欲しい。朋一の氣を探すのに、30分も掛かった」
 日本刀の男―朋一は、気まずそうに苦笑した。
「悪い。コイツ等の場所が判ったから……どうだった?」
 朋一の言葉と同時に、異様な場に沈黙していた二人以外が再び騒がしくなる事になった。
 男の手の平が青白い輝きを生み、腹をブチ抜かれたヤクザが黒い灰になって散る。
「ば……化け物!?」
 男が朋一の元に歩み寄り、朋一の足元に転がっていた死体を蹴り転がす。
 八道雅治。朋一と同じ「力」を持つ者であり、「レミエル」の名を持つ者だった。その力は雷であり、「雷霆」の名を持つ雅治は、存在する物全てを、単なる灰に変える。雷の発する熱量は炎を軽く数倍し、あらゆる場所に降り注ぐ。それは、正に天の火であり、神の鉄槌だった。―問題は、それを振るう神の性格にいささか問題があるという事だったが。神罰の代行者は、かなり好戦的だ。人工のプラズマ発生装置などではなく、純粋な雷。戦いとあれば、国連の中間結節とて、消滅させるのに1秒と掛からない。
 横目に資材の鉄骨を見た雅治が、無造作に伸ばした右手でその端を掴んでいた。ぐっ……何の抵抗も無く鉄骨が持ち上がり、プラスチックの棒でも持つように横に掲げられる。風を切るなどという生易しい音ではない。宙を舞い、滑空する鉄の塊の発する音は、まさしく死神のメロディだ。悪夢をそのまま体現するが如き質量が宙を舞う。
 質量はしかし鉄骨であり、現実だった。骨を砕く音と、叫び声、それに付随される「死」も―。
 ヤクザの数人が、全身の骨を打ち砕かれ、血にまみれて動かなくなる。雅治の表情は変わらず、それよりも先に行われた行動は、ロングコートに手を突っ込む事だった。
 右手が背中に回され、左手のたっぷりとした袖が振られる。
 右手に握られたH&K MP5と、左手に握られた同型、小型化のMP5Kが黒く輝き、死臭と静寂に支配された工場に映える。
 マズルフラッシュは連続だった。雅治によってカスタムされた特製SMGは、マガジンさえ特注、MP5は、通常の30発装填が、L字型にクリップされたマガジンによって200発にまで引き上げられていた。
 ラピッドファイヤが悲鳴さえ打ち消して響き、死を導く火線を放つ。フルオートで絞り切った最初の2秒でほぼ全員が血肉の塊と化していたが、雅治は一人を残して死体に弾丸を全てブチ込んでいた。残る一人に恐怖感を植え付ける為だ。
「……コイツ等は、この街の田口組の組員。……あの件には、直接は関係ない」
「そっか。……ありがとう」
 世間話の口調の二人に、ヤクザが震える手でトカレフをポイントしていた。度胸としては中々だろう。
「て、ててててテメエ等ァ!!」
 ラピッドファイアが破砕音に掻き消されていた。破砕音―天井の。「―な、ななな何だァ!?」
次いで降って来た物は、目を見張るばかりに巨大な氷塊だった。トカレフの弾が、氷塊に弾かれるように転がっている。抉れ、陥没した床を見ても、強度は凄まじいという事が判る。こんな物がブチ当たった日にゃあ、マジで即死だ。目も当てられやしねえのである。
 異様な事といえば、その上に「乗った」人影か。
 直系5メートル、高さも5メートルほどの氷塊は、下部が鋭い錐のようでもあり、とてつもない質量を持っている。老朽化して脆い天井を刺し貫くには、充分過ぎる威力が有ったのは容易に見て取れた。
 上の人物―一人の少女だった。
「やっほー」
 場違いな、ノーテンキ過ぎる声だった。そりゃもう、シリアスな場面でも一発で吹き飛んじまう位の。
 驚愕するヤクザの前で、ひょいと巨大な氷塊から飛び降りる。高さは5メートルほどだが、まるで危な気も無い。朋一と雅治の姿を確認するや、ぱあっと顔を輝かせて嬉しそうに駆け寄って行った。
「ねーねー、大丈夫だった? 朋一君?」
「セ、セシリア……?」……何で天井から?
 朋一が目の前の巨大な蒼い塊と、風穴をブチ開けられて余計寒くなった天井を見る。
「んー。最初に「着いた」からかな。……ああ、雅治、居たの」
 さらっと言ってのけ、視線をちらりとだけ雅治に向ける。
 外見からは年は18ほどにも見える。少女としては背が高く、身長は170近い。長い黒髪は腰ほどまでもあり、顔立ちは文句の付けようが無いほど整っている。
 雅治が朋一を庇うように立ち、セシリアの行く手をシャットアウトしていた。
「……何よ」
「……何しに来やがった。クソガキ」
「ガキじゃないもん。来月15歳なんだから」
「だからガキだったつってんだろうが……帰れ。ホテルで大人しく寝てろ。出てくんな」
「や。雅治が帰れば」
 朋一はどっちもどっちだと思ったが、取り敢えず、今は先にする事があった。
 視線を向けた先、ヤクザが混乱した表情で3人を見ている。思い出したように、トカレフのトリガーが絞られた。
「駄目だよ」
 横目でそれを見ていたセシリアは、ヤクザがトリガーを絞るよりも先に反応していた。朋一の隣に立ち、右手を垂直に伸ばす。花弁のような唇を右手に添えるなり、ふうっと息をヤクザに向かって吹いていた。
 トカレフの弾丸は、疾駆する宙の半ば程で「止まって」いた。
 冷えて凍ったような床の上に、乾いた音を撒き散らし、弾丸が転がる。―完全に凍りに包まれて。
「ば、化け物……」ヤクザの愕然とした呟きに、セシリアが眉を顰めていた。―「化け物って、私?」
 確かに、見方によっちゃあ雪女みたいにも見えただろう。セシリアが頬を膨らませる。
「あれ……? どうしたの、その人達。寝てるの?」
 少女が指差す先、数個の「塊」が転がっている。セシリアの呟きは無邪気そのものだった。
 朋一がセシリアを懐に抱き入れた。
「きゃっ……何?」
 セシリアの視界が、瞬時に遮られる。「……ああ、寝てるだけだ」言う朋一に、セシリアは首を傾げていた。
「ん……嬉しいけど、雅治、居るし。急に、どうしたの?」……いつもは嫌がるのに……。セシリアは言葉を途中で飲み込んだ。
 頬を赤らめるセシリアに、雅治がロコツに頬を引き攣らせる。「……勘違いしてんじゃねえぞ、クソガキ」
 呟きはセシリアの耳には入っていなかった。朋一が、セシリアをその場で回れ右させ、首だけを雅治に向ける。
「雅治……先に、出てるよ。俺」
「う〜、引っ張らないで〜」
 雅治が頷く。
 残った一人のヤクザと、雅治を残し、朋一がセシリアの首を猫のように掴み、出口へ引き摺って行った。

 朋一とセシリアが工場から消えた事で、ある意味、雅治の行動を束縛する者は居なくなっていた。ヤクザの目に移る雅治は、その性格上、ある意味自分の仲間をあっという間に数人惨殺した朋一よりも危険に映っていた。実力は既に思い知っている。人外の化け物だ。
「言え。……誰に頼まれた」
 雅治がヤクザの首を鷲掴みに、自分の顔の前に引き出して言う。顔は一流のモデルすら足元に及ばないほどに美しいが、内包している危険性では、肉食の恐竜の数億倍は上だ。ヤクザの歯がかちかちと鳴る。
 雅治が男の懐に手を差し入れ、オートマチックを引き抜いた。男の鼻先に、スライドを引いたマズルが突き付けられる。
―ベレッタ?……どこから仕入れた?さっきのトカレフもTT33……ルートを持ってるには違いねえが……。
 どの道、雅治にとってはコピーのハンドガン以上ではない。実戦において、武器は武器でしかない。使い易い、破壊力が高い、の差はあれ、全てはそれを握る者次第だ。知識があっても戦えはしない。いかに殺せるか、それだけが重要だ。まして雅治には、ハンドガンなど脅しの為の手段でしかない。
「し……知らねえ!! 俺は、上に言われて……!!」
―上に言われて、何だ?
「言えよ」
「がはあっ!?」
 雅治の膝がヤクザの腹に減り込んでいた。顔の表情は変わらず、充分過ぎるほどに手加減したままの一撃だが、それでもヤクザを悶絶させるには充分過ぎた。
「お、俺は……な、何も……」
―本当に、知らないか。少なくとも、事件とは無関係……単に密売の現場を見られて、朋一と戦う羽目になった……下らねえ。
 雅治がヤクザの首から手を放す。ヤクザは身を折って咳き込んだ。本人がさして力を込めたつもりでなくても、その力は常人に耐え切れる物ではない。
 幼少時より戦闘を強制され、その後もアメリカのスラムを仕切っていた雅治には、「殺人」の意識は無く、キリングマシーンとしての性格が色濃く染み付いている。腕力だけでも、どの格闘技の世界チャンプでも太刀打ち出来ないのだ。最初から、一介のヤクザの触れる事の出来る存在ではない。
「ちっ……」
 尚ももがくヤクザに、雅治は小さく舌打ちした。ヤクザの言っている事は、恐らく本当だろう。雅治がトカレフを投げ捨てる。
「……死ぬか?」
 雅治の手が薄蒼い輝きを帯びる。蒼雷を纏う細長い指先に、ヤクザが顔を歪めた。
「ま、ままままま待ってくれ!! 本当に、俺は……」
「本当に……何だ?」
―どこに居やがる……本体は。
「ま……やめ、止めて……」
「死ね」
 一条の雷光が、悲鳴と、その根源を炭と変えた。







「寒い……」
 朋一は、この町に来た事を、ホンキで後悔していた。宗一に「寒いぞ?」と言われ、多少は覚悟していた物の、「まあ、何とかなるだろ」とか楽観視していた事が、マジで悔やまれる。本人曰く、「シャレになってねえ……」のだ。
 ジーンズの中にまで浸透してくる寒風に身を震わせ、取り合えず辺りを見回す。―雪だ。
 間違い無く、スニーカーで来たのはミスだった。7割方を雪に浸食され、中で水と化した雪が、内側で冷気を放っている。
 一面の雪。真っ白の、だ。中部在住の朋一としては、雪は見るけどここまで降るのを見るのは、ホンキで稀だ。これが毎日、と思うだけで、気が遠くなり掛けてくる。
―気が遠くなって来たぞ、オイ……。そういや、高山に重要文化財があったよな。寒いのか、あの辺も、やっぱ。
 意識がトリップし、別の次元を彷徨いかける。涼しいのは良いが、寒いのはゴメンだった。もはや、寒い、というレベルの話でもないが。
「これが毎日ってか……? トンでもねえ街だな、オイ……。ホントに日本かよ、ココ」
 本人は一人ごちたつもりのセリフだったが、それに返す者が居た。
「んー、今は、冬だからだよ。夏は雪は解けるって。少し」
「少し……って……詰まる所、俺らが居る間は、この雪は残るって事だろ……」
 もう一度溜息を吐き、朋一は右隣、自分よりも僅かに―とはいえ5センチ以上は高い―背の低い少女を見た。―溜め息も凍りそうだった。
 対する少女は、朋一よりも厚着だった。トレーナーを重ね着し、パーカーの上からダッフルコートを羽織る。それでも尚、寒げに身を震わせている。街頭アンケートでもすりゃあ、1000人中1000人が太鼓判を押す美少女な為、尚のコト辛そうに見える。
 腰まで伸びた長い髪、鬢にも垂れた髪は、リボンで止められている。身長は170近く、少女としては長身の部類に入るだろう。
「……寒いよお……やだよぉ……」
 ぽつりと呟く少女に気の毒そうな視線を送りつつ、朋一はまだ歩かにゃならなかった。
―ミスだった。完全に。
 地図がねえのだ。
―宗一……くそ、地図位渡しとけよ、オイ!!
「寒いいい……」
「るせえ。黙って歩け」―がこっ!!
「っきゃ!!」
「おっ!?」
 再びうめいた所に、少女の背中を、ちょいとばかし強めの衝撃が襲った。危うく倒れ掛かる少女のコートの袖を、朋一が掴んでいた。
 少女の背の辺りに黒いブーツを向けたまま、長身の男が立っていた。
「あ、ありがと、朋一君……」
「いや、別に俺は良いけど」
 背中を払って起き上がった少女が、長身の男を睨み付ける。
「普通、女の子の背中蹴り付ける!? 最悪!!」
「黙れ。勝手に着いて来たのはテメエだ。嫌なら帰れ。今すぐ帰って春まで寝てろ」
「私、冬眠なんてしないもん!! 雅治こそ、今すぐ帰って寝てれば良いのよ!!」
 悪びれなく言い放つ雅治に、セシリアが整った柳眉を逆立てる。
 雅治の瞳に、凍れる熾火の如き光が宿っていた。
「テメエ」雅治がセシリアに氷の如き視線を投げ掛ける。
「雪の中に埋葬されてえか……クソガキ。ここで決着付けてやっても良いんだぜ」
「そっちこそ、春まで氷の彫像にしてあげるよ」
 頬を引き攣らせた雅治が、長く、細い指先を揃えた右手を開く。セシリアも小さな手を雅治に向けていた。普通の人達から見りゃあ意味不明だけれど、二人の事を少しでも知っている者が見れば、緊急警報発令の大事態だ。
「おい」朋一が溜め息を吐く。
「止めろって。……寒いんだよ。俺も」
 朋一が二人の間に割って入り、セシリアの手を掴む。
「あ……っ」
 小さく声を上げ、セシリアが前のめりに崩れる。不機嫌そうな雅治を正面から見た朋一が、溜め息を吐いて苦笑いする。
「……朋一」
「寒いし、取り敢えずは急ごう?」
「……判った」
 朋一の言葉に、雅治は素直に頷いていた。二人とも、朋一の言葉には比較的素直らしい。第一、朋一が止めなければ、この雪の町が、廃墟か氷のオブジェと化してしまう。
 この3人、放って置けば、無愛想な長身の美青年に、天使のような美少女、レザーバッグを背負った男と、かなり人目を引く存在であるのは間違いない。朋一は自分ではあまり目立たないようにしているかも知れないけど、本人も結構目立っているし、他の二人は目立ち過ぎる。
「どこだよ、ホテルって……」
 朋一が恨めし気に冷気を吐き続ける空を見上げた。空の色さえ白く見えてきそうなこの街の天候は、ここに着いてから変わる様子すら見せない。冗談抜きに、どうにかして欲しかった。朋一の呟きに、セシリアが声を上げていた。―「ねえ」
「ホテルって……どこの?」
「いや、どこでも良いけど」
「地図位なら、判るよ」
 事も無げに言うセシリアに、朋一と雅治が目を見開いていた。
「嘘!?」
「……どう言う事だ、オイ」
 背に負った、ダークグリーンのリュックに手を伸ばしたセシリアが、思い直したようにコートの中に手を突っ込んだ。
「……ホラ、これ」
 かなり小さなノートPC―ホントに小さくて、少し大きなポケットになら入る―は、モバイルやパームでもないらしい。睨み付ける雅治を尻目に、朋一の手を引くと、セシリアは何とか雪の凌げそうなビルの入り口の下に歩いて行った。
「……うん、これ」
 セフィロト特製ノートPC。OSから何から、HDDまで特製だが、その能力は、単機でペンタゴン他、軍事施設、世界の主な企業の全スパコンを上回る。かなり弄ってあり、初心者に親切なOSではない為、使いこなすのにはかなりのスキルを必要とするが、それ以外ではほぼ完璧だった。
 やたらと起動の早いノートをこれまたあっという間にネットに繋ぎ、セシリアはぱぱっとお目当ての地図を引き出していた。
「……なんでもっと早く出さなかった。クソガキ」
「うるさいなー。なら、今すぐ帰れば良いじゃない。だって、朋一君、どこか決まったホテルに行くと思ったんだもん」
「あー、だから、もう良いって。早く行こう。ここは寒くてもう嫌だ」
 尤もな朋一のセリフに、二人とも頷いていた。

 遡る事数時間前。
 深夜4時。真っ当な学生だろうが、真っ当で無い学生だろうが、既に寝入っている時刻だ。
 恐らくはそのどちらにも分類されないであろう朋一は、まだ睡魔に身を任せてはいなかった。
 コタツの上に名にやら分厚げな本を置いて、ぼんやりとそれを眺めている。学生さんなら明日に備えて寝たほうが良いんだけれど、そうでもない朋一は、ンな事をする必要が無いのだ。
 外では雪でも降りそうな冷機が吹き荒れていて、暖房器具はコタツ一つの朋一の家は、それでもかなり寒かった。
 戸を叩く音に、朋一ははっと気付いたように本から顔を上げていた。こんな時間に家を訪ねて来るような非常識なヤツは、ホントならあまり居ないのが普通だろうけど、朋一にはその心当たりが多過ぎた。―「誰だよ、くそ……」
―鋭一か?
 朋一の脳裏に、知り合いの中でも、最も非常識に分類される大男の顔が思い浮かぶ。
 戸を開けたと同時にその想像は砕かれたが、それ以上に朋一は驚き、首を傾げていた。
「宗一?」
「夜分遅く、すまんな」
 知り合いの中で、最も理性的で常識を弁えた美青年が、黒いロングコートを寒風に靡かせて立っている。暫く思考を中断していた朋一が、思い出したようにドアを全開させ、宗一を招き入れる。
「……取り敢えず、入れば? 俺も寒いし」本心だ。寒い。
「ああ。すまん」宗一の身長は183cm、自然と見上げる形になった朋一が、ドアを閉めて吹き荒ぶ風をシャットアウトする。
 コタツの上に置かれたPCのディスプレイを挟むようにして、宗一が朋一と向かい合った。宗一がコンビニの袋を朋一に差し出す。
「土産だ。……コンビニしか開いてないが」
「当然だろ? ……何だよ。こんな時間に」朋一がビニールを開け、中から肉まんを取り出す。
 朋一の知っている宗一は、理知的で冷静で、少なくともこんな時間に尋ねて来るようなヤツじゃない。
 宗一がコンビニの袋からコーヒーを取り出す。
「仕事の帰りでな」
「仕事?」朋一が壁に掛けた時計を見る。「―大変だな」
「まあ、な。……ちょっと、問題が起きた」
「問題?」聞き返す朋一の口には、既に肉まんが押し込まれていた。
 宗一が長い指先を組み合わせ、溜め息を吐く。
「……なあ、朋一」
「何だよ」
 間近で見る宗一の顔は、やはり大人びていて美しく、朋一の目にもそれは判った。コンビニの店員が女性なら間違い無く見惚れて、お釣りでも間違えたのではないか。ガイアの本社でも、2月14日は、女性職員が大変だと―鋭一から、聞いた。何でも一部屋全部がチョコレ−トで埋まったらしい。喫茶店ではウエイトレスが見惚れて転びそうになり、医者では看護婦が仕事にならないほど騒ぐ。それが全て誇張ではないのが凄い所だ。アジア系の美男子。その言葉を的確に表したのが宗一だった。加えて、性格も良いのだから、人気が出ない方がおかしくもある。
 宗一が組んでいた手を解き、ブラックコーヒーのプルタブを押し上げた。
「仕事、受けないか?」
 唐突に言った。
 思えば、ここが失敗だった。そう、朋一は後で思う事になった。
「仕事?……急に来たと思えば。どう関係あるんだ?……いや、どんな仕事だ?」
 宗一が溜め息を吐く。
「お前と陽子の得意分野」
「俺と……?」陽子さん? ……共通点?
 朋一が思い浮かべたのは、眠たげだけどやたらと万能な美少女だった。共通点を考え、唸る所に宗一が分厚い本を摘み上げる。
「これ以外に有るか?あの女とお前の共通点が」
「ねえ……っちゃねえな」当然だ。MIT卒業、NASAの研究員を上回る科学者と、共通点なんてあるわきゃない。
 肉まんを飲み込んだ朋一に、宗一がビニールからホットココアを放った。
 日本語訳されたオカルト本を宗一から引取り、朋一が聞き返す。
「で……何だよ。仕事」
―悪くは無い。丁度、酒屋のバイトがオシャカになったばかりだ。
 朋一に、擁護してくれる親は無い。当然、稼がにゃならん訳で、この申し出は願っても無かった。
「まあ……少し厄介だ」
「頭を使わないなら、別に」
―失敗だった。
「明日、朝霞の所に来てくれ。詳しい事は、その時話す」
―失敗だったのだ。

朝8時。Himinn。雀がちゅんちゅん鳴く―とは言い難い。まだ寒いのだ。来る途中で見た猫が、黒猫でなかった事を祈ろう。
「……何で?」
 朋一の言葉の続きは、目の前で宗一の隣に座る少女に向けられていた。
「んーと、ね、会ったの。そこで」
 セシリアが天使の微笑を浮かべる「ね、おはよ」
「おはよう……まあ、良いけど」朋一が宗一を見る。宗一は苦笑いの表情を浮かべていた。
 ボックス席の片側には朋一が、向かいには宗一が座る。セシリアは朝霞の作ったチョコレートパフェが目の前に有るからか、結構ご機嫌だ。
「で、何だよ。仕事」
 朋一が宗一から手渡された封筒に目を通す。
「……調査? ……これだけで良いのか?」
―経費使って遊んじまおっかな……。
 朋一の想像を打ち砕くかのように宗一が言い放つ。
「原因究明もな」
―そう来るかよ。
「無茶言うなよ」朋一が溜め息を吐く。
―原因の究明? 出来る訳が無い。これでも、年齢的には学生なのだ。相手を倒すだけならまだしも、面倒事は、ゴメンだ。
「そう言うな。俺も手が離せないんだ。……本当なら、俺がお前に手を貸すんだが」
「……けど、ホントに無理だ」
「まあ、かもな。……大丈夫だ。もう一人、お前に着いて行って貰う」
 頼りになるヤツだ、と付け加える宗一に、朋一は渋々ながら頷いていた。
「ね、どっか行くの? 朋一君」
 セシリアが口に加えたスプーンを揺らしつつ言う。宗一がその表情から読み取った危険性に、早々と席を立っていた。
「連絡は後から入れる。……長くなるかもしれんから、準備をしてから天船駅に来てくれ」
 宗一が3人分の支払いを朝霞に拒否されながらも無理矢理払い、店を出る。見送る朋一は、その2時間後、嫌な予感を思い知る事になった。

 天船駅、肩には眺めのレザーバッグ、足元に置くは膨らんだリュック。かなり目立っていると言って良い朋一は、その場で頭を抱えていた。
「雅治……どうしたんだ?」
 長身の美男子が、ザックを肩に駅のホームに立っていた。JRだけにこの時間帯は、かなりの利用者がある。朋一を視界に入れた雅治は、足早に距離を縮めた。
「朋一……」
「あ、ああ」
―な、何だ? 俺、何かしたか?
 雅治の身長は186cm、朋一とは10センチほどの身長差がある。ここ数日雅治に会っていない朋一が、見上げる形で雅治を見る。
 暫くの沈黙の後、雅治が呟くかのように言った。
「俺も、行く」
「行く……ってどこに?」
「仕事……宗一に、聞いた」
「宗一に?」朋一の頬が引き攣った。
―ヤロウ……頼りになるヤツって……雅治の事か!?
 同じタイプのヤツを寄越して、どうする気だ!? スラム街の支配者、雷を操る殺戮者は、手加減という言葉を知らない。朋一は朋一で、戦闘能力に掛けてはそれ以上だ。絶対的に足りないのが知的戦力、戦闘以外の状況判断に優れた者が、絶対に必要なのだ。
 先ほどから、遠巻きに女性の数が増えてきている。雅治の容姿は、整い過ぎているだけに、どこに居ても目立つ。日本でなく、アメリカでもそれは変わらなかった。どこに居ようと、埋没するという事の無い個性の持ち主、それが雅治だった。
「……迷惑か……?」
 トーンの落ちた雅治の言葉に、朋一は首を横に振っていた。「いや」
 年齢は一つ違い、少しでも多い方が心強いかも知れない。
「別に、俺は良いけど。少し、遠いらしいけど?」
「構わない」
 即答した雅治には、迷いの一つも無かった。雅治にしてみれば、朋一が居るならば、そこがゲヘナだろうが、地獄の最下層だろうが知ったこっちゃない。ジュデッカだろうとトロメアだろうと、嬉々として進んで行くだろう。事実そう考えている男であり、それを出来るだけの力を持っていた。少しでもその気があれば、一国を制圧する位、一日も掛からないのだ。
 軽く溜め息を吐いて肩を竦めた朋一の両肩に、急に重みが圧し掛かる。
「だーれだっ」
「うわっ」
 ダッフルコートの袖口が視界に入り、そのまま首元に移行される。高いアルトの声の持ち主は、朋一の背後に体重を預けていた
「ちょ、ちょっ……やめ、止めろ、セシリア!!」声はそのまま問に対する答だった。
 セシリアの身長は170近く、大してウエイトは40を少し越える辺りと、かなり軽い。首元に掛かる重心より、背中に密着して来るセシリアのコート越しの体温が問題だった。人目は、かなり多い。知っている者にすれば兄と妹のようでも、―セシリアはそうは思っちゃいない―他人から見ればアレな関係だ。幸いな事とすれば、外見上では18近く、整った顔立ちと長身で、実年齢の14にはあまり見られない事だ。
「ふざけろ。クソガキ」
 横合いから伸びた雅治の右腕が、セシリアの首元を掴み―ぶんっ!!―近くの時刻表に振り投げていた。
「きゃあっ!?」
 時刻表に右手を付き、野球のボールでも投げるかのような速度で飛ばされたセシリアは、上手く両足で着地していた。
「何するのよ、バカ!!」
「黙れ、ガキ」
「私、あなたに何もしてないじゃない!! 何、やきもち!? みっともないわよ、バカ!!」
「殺すぞ……ガキが。バカしか言えねえのか。クソガキ」
「そっちこそ、ガキってしか言ってないよ!! 何よ、バカ!! バカバカバカ!!」
 間で見ている朋一は被害者の気分だった。―俺が、何かしたのか!?
 口喧嘩のレベルは園児か小学生レベルだ。バカとガキの応酬は、放って置けば1時間でも続きそうだった。雅治か、セシリアのどちらかが手を出すのが早いかもしれない。そうなった日には、駅のホームは炎上、もしくは氷のオブジェと化すか、落雷によって謎の消失を遂げる事になりかねない。
 幸いな事といえば、遠巻きな人だかりには恐らく口喧嘩の内容は聞えないか、理解出来ていないだろう事だろうか。
「はいはい、もう止めてくれ。……電車、来るんだけど」
 朋一はセシリアの肩を抑えて引き寄せていた。雅治にそうしなかったのは、単純に身長差からだ。
 頬を赤らめたセシリアが―あっ……―自分の真上に着た朋一の顔を見る。
 目で合図をした朋一に、雅治も頷き、それ以上の言葉を投げ掛けるのを止めていた。セシリアが、くるんと一回転、朋一に向き直る。
 黒のダッフルコートに、下は青のトレーナー、足は活動的なジーンズに包まれていた。大人びたような印象のあるセシリアだが、顔の造りその物はむしろ少女の印象を強く残し、―実際、14の少女だ―「可愛い」と言う印象を与えていた。
「けど……どうしたんだ、セシリア?そのザック」
 朋一の視線は、セシリアの体を覆ってしまいそうなリュックに注がれていた。外見ではなく、機能性を重視した無骨な代物だ。
「だって、私も行くよ。朋一君だけじゃ、心配だし」
「お前まで?」
―冗談だろ、おい。二人。……二人!?
 同じタイプが3人集まって、どうしようって言うんだ!? セシリアの事は良く判っているつもりだ。外見とは正反対、雅治に匹敵するほど攻撃的な能力。敵意を持った吐息は、全てを甘美で残酷な死へと誘う絶対零度の息吹であり、悪意を持った炎は、地上のいかなる物さえ焼き尽くす地獄の獄炎だった。細く白い手に撫で付けられれば、瞬時に久遠の氷結へと誘われる。
 朋一の知り合いであるこの二人が、ひとたび悪意を持って3対の翼を開けば、国の一つなど、簡単に滅ぶ。―今は、さる理由から、翼を開く事はないが。まして朋一が6対の翼を開いた時など、下手をすれば一気にハルマゲドンに直行だ。
―レミエルだけでもアレだってのに、カマエルまで来て、一体、何する気だよ!?
 自分の危険性を完全にタナに上げた、朋一の思考に浮かぶ絶世の美青年の微笑が、悪意を持っていたように思い返される。
「どうして、セシリアが?」
「ん、宗一に聞いたら、行っても良いって」
―ヤロウ……。
 朋一は額を抑えていた。セシリアが心配そうに朋一を見返す。
「もしかして、迷惑だった?」
「……いや」
 朋一は苦笑いするしかなかった。雅治が20センチほど高い位置からセシリアを見下ろす。
「迷惑だ。帰れ」
「うるさいな……バカ」
 蒸し返されかける応酬に、朋一は頭を抱えたくなった。
―知的戦力はどうなった!?
 早い話、事件解決の為の探偵役は無く、ただ敵を排除する為だけの戦力で固められてしまったのだ。
―考えるヤツを寄越せよ、オイ……。
 知的戦力として想像出来たのは、旧知の友である砥波宗一、神楽姉妹、美袋弥生だった。オカルト的な知識、もしコトが呪術の類であるなら、最近知り合った陰陽道の使い手、聖瞳も頼りになる。
―宗一は理由を聞いた。NGだ。陽子さんが来てくれれば一番良いけど、何も聞いていない。杏那も……同じか。弥生さんは……会い辛い。誠一さんや誠二さんに連絡を入れるのは気が引けるし、瞳さんも葵ちゃんも学校だ。後の連中は……呼び出すだけ、無駄か。
 連絡先の判らない連中が多い上、むやみやたらと自分に付き合わせるのにも気が引けた。結局、こういうヤツなのだ。
―……待てよ、凛香ちゃんなら……。
 最後に浮かんだのは、セシリアの、事実上の保護者になっている少女だった。年は15歳、セシリアより一つ上だが、判断力など、その場その場に応じた力は、能力で言えばどんな諜報員を味方に付けるより心強い。
「セシリア」
「ん? 何?」
「凛香ちゃんは、どうした?」
―一緒に住んでるんだ。知らない筈が無い。今からなら間に合うかもしれない。
 セシリアは首を横に振った。
「……言わずに来ちゃった」
「なら、連絡を……」
 入れてくれ、と言おうとして、朋一が動きを止める。セシリアが寂しげに朋一を見上げた。
「迷惑? やっぱり……」
 朋一が軽く肩を竦める。「いや、何でもない」
―何とか、なるだろ。
 JRの快速列車が駅に到着する。タイムリミットだ。
「やるしかねえよな……」
 最悪の旅路になりそうな気がしたが、両脇の二人は楽しそうだ。
 これも良いかもしれないと、そう思ったのは、やっぱり甘かった。




一頁目、終了


 後書き

 ウチで書いている、「万神殿から愛を込めて」「万魔殿からの恋文」「神々の魂」の番外編でしたが……。長いですね、すみません。まだ完成してませんし……。キャラクターが判り辛くてすみません。SSでなく、ノベルですので、本来なら最初から作り出したキャラクターを使うべきなのですが……。使い慣れたキャラクターを持ち出してしまいました。まだ、未完成ですが……読んで頂ければ、幸いに思います。
 尚、息抜きに楽しんで書かせて頂いたので、文体のアレさには目を瞑って頂けると嬉しいです。
 高校……現在、時間が。その内、修正させて頂くなりしたいです。


 設定は、基本的にウチの物と同じです。……が、一応、簡単に。

 メインキャラクターの殆どは、「ナンバー」と呼ばれる特殊な存在です。天使、或いは悪魔の名を付けられて呼称されるナンバーは、通常、1〜と数字で呼ばれる者ですが、メインメンバーは全員が特殊な存在で、「ロストナンバー」と纏められ、天使、悪魔その物の名で呼ばれます。戦闘能力は非常に高く、通常兵器での殺傷は不可能、力を開放する場合、その背に名を象徴する大きさと枚数の羽が現れます。
 ほぼ全員が、幼少より、或いはいつからか、特殊な力を持つに至り、その力を殺戮に向けることを強制されていました。主に施設で育て上げられる者と、拉致される者に分けられます。戦闘のプロとして育て上げられたものがナンバーとなった場合、手の付けられない強力さを発揮しますが、そうでない者も多く、朋一や杏那、陽子はそれに当たります。ただ、3人は戦闘に関しては未熟でも、能力の強大さ、素質から、朋一は全能力者中最強、陽子、杏那もトップクラスの力を誇ります。鋭一、宗一、雅治は先頭のプロとして創り上げられた能力者で、それぞれが各国の特殊部隊すら上回る軍事知識を持ち、尚且つナンバーとしての強力な身体能力と特殊能力を備えています。
 本編での主人公は作中の「朋一」ですが、本編、第1部では単独行動が多く、今回の方が目立っているかもしれないという有り様です。今回の主人公は第1部から登場している「神楽陽子」で、様々な術を操り、その身に慈悲と愛、水を司る熾天使を宿しています。
 詳しい説明を書くとかなり長いので、もし、気になりましたら、ウチに。1部の途中まで、しかも修正中という有り様ですが。
尚、星すら吹き飛ばす本来の力は3部終了後に封印されており、能力は人間を遥かに上回る、という程度になっています。番外編は、出来るだけ人間が相手にしたいので。何だか、ウチの番外編と違って、能力中心になってしまいましたが。

 良ければ、感想など頂ければ幸いです。


今回の連中。

神楽陽子 番外編である今作の主人公。1999年現在、18歳。MITを卒業済みの天才であり、サモンを中心に、世界中のあらゆる術方を使いこなすマジックマスター。非常に整った外見をしており、夏でも白いままの肌は、常に人目を引く。
 その身に「ガブリエル」を宿すナンバーとして、数え切れない戦いを潜って来た為、戦闘能力はデタラメに高いが、現在は「力」を封印中。あらゆる「水」を操り、長江の水を全て逆流させる事すら容易い能力を持つ。全能力を開放すれば、地球上の海全ての水を丸ごと操る事も出来る。
 サイキッカーとしても強力で、ほぼ全ESP能力とPK能力を使いこなし、サイコキネシスは30トンの巨岩すら安々と浮かせ、テレパスは、相手の思考を深層意識の奥より深くへ潜り込む。プレコグニションを主に戦闘に応用し、テレパスで相手の精神を粉々にする事すらやってのける。異常に強いテレパスは、その気にさえなれば、一国の人間、全員の精神を完全に破壊する事すら出来る為、本人はあまり好んでいない。

神楽杏那 陽子の妹。17歳。同大学を10で卒業、同じく科学者。姉とは違い、オカルトにはさほど興味を持たないながら、天性のセンスは、何をやらせても瞬時に学習、完璧にこなす。ハーブ栽培を趣味にしており、料理に使うのは全て自分が栽培した物。外見はまるで陽子と区別が付かないが、双子ではない。
 姉と同じくナンバーであり、「ミカエル」を宿す者として、幾多の人間離れした修羅場を戦い抜いて来た。その能力は全てを焼き尽す火炎、ノヴァクラスの力を持ち、太陽のフレアすら上回る火炎を発する。気さえあれば、エネルギー的には星ごと消滅させる事すら容易い。また、姉程ではないがESP能力を持っており、プレコグニションを使用する。スピードを信条とした戦い方を得手としており、その速度は、ロストの中でもトップ、捕捉は不可能。

朋一 陽子、杏那の友人(?)。17歳。本来なら高校に通う年齢だが、そういう状況でもなく、もし街をブラついてて本人曰く「生温い学生のクソガキ」が喧嘩を売って来よう物なら、迷う事無く半殺しにするタイプ。ただ、本気でやれば殴るだけで相手が死ぬ為、手加減はしている。趣味が非常に似通っている為、陽子とは仲が良い。好き嫌いは無いが、チョコレートを中心とした、甘い物をよく携帯している。
 過去、テロリストとして、数え切れないほどのナンバーを殺害した張本人。曰く、「天使と悪魔の狩り手」。その身に「ルシファー」、「メタトロン」を宿す異質にして最強最悪のナンバー。その能力は破壊と消滅、ルシファーの光は存在する全ての物質、霊質を問わず「破壊」、メタトロンが生み出す闇は、何とは問わず、全てを「消滅」させる。羽の数が、ロストナンバーの中でも群を抜いて多く、その羽ばたきは一つで全てを消し飛ばす。日本刀を好んで使用する。伊達に殺しまくっていた訳ではないらしく、戦い振りは激しい。
 剣術は上手い、と言う訳でも無いが、その力によって凄まじい物となっている。

八道雅治 朋一の友人(?)。18歳。朋一以外の誰を信用する事も無く、常に他人を寄せ付けない空間を作り出している。凍て付くような雰囲気を漂わせ、雰囲気そのまま、朋一と自分に危害を加える物は容赦無く「排除」する。長身の美形。
 最強クラスのナンバーの一人であり、「レミエル」を宿す。戦闘経験は群を抜いて高く、物心付く前から鮮血を浴びていた。その能力は全てを排除する「雷」、体に纏わせる、周囲に降らせる、などだが、思考がそのまま攻撃に転化するという特異能力であり、筋肉への思考伝達よりも遥かに攻撃が早い。気付けば相手は消し炭と化している。

ゼロ(セシリア) 朋一の友人(?)。14歳。過去の事情から、朋一と、陽子、杏那他、数人にのみ心を開いている。外見的には長身で、非常に整った外見をしており、18歳位にも見える。が、精神年齢は10歳前後でしかなく、善悪の区別が非常に曖昧。朋一に着いて回るのが本人は好きだが(その為)、雅治とは仲が悪い。また、雅治から見ても、ゼロは苦手。
 最強クラスのナンバー。「カマエル」をその身に宿しており、絶対零度と火炎を自在に操る。元々名前すら氷結から来ていた為、氷結能力は非常に強力、意思一つで大気中の成分を凝固させる他、生み出す冷気は命あるもの全てを滅びの眠りへと誘う。瞬時に夏を冬に変え、周囲を氷河期に変える事も厭わない。また、火炎を操る能力は杏那にすら匹敵、最強クラスのナンバーとして、申し分無い戦闘能力を誇る。力を発動する際、冷気を操る時は瞳と髪が蒼に、炎を呼ぶ時は赤に変わる。暑いのと寒いのが苦手で、暖かいのと涼しいのは好き。

凪葉鋭一 宗一の友人で、朋一の友人(?)でもある。19歳。朋一とはかなり古くの仲だったが、朋一が行方を晦ましてからは、自らも傭兵となり、各地を転々としていた。戦闘経験、戦闘技術は、宗一を除けばトップクラス。生まれ、物心付く前から戦っていた。全銃火器、全車両を自在に使いこなし、射撃の腕はオリンピック選手すら凌駕する。性格的には雅治と非常に似通っており、朋一と自分に危害を加えようとする物には容赦が無い。
 パワータイプ、最強クラスのナンバー。「レヴィアタン」をその身に宿し、重力を自在に操る。パワータイプの能力者でもあり、その身を魔獣へと化す事が出来る。通常の状態でも破壊出来ない物は無いが、爪を変化させた時の破壊力は、一振りで空間ごと大地を断ち割り、高層ビルを倒壊させるのも容易い。やたらと固くて強くて早い。ちなみに、「重力」関連の能力は、完全に制御できる。ナンバーの中で、朋一と並んで羽の似合わない男。

砥波宗一 高天市最大の企業、「ガイア」会長。24歳。戦闘経験は仲間内でも最も高く、最古のナンバーの一つでもある、「ウリエル」を宿す。精神的、真理的に強く、理知的で非常に頼りになる。現在では様々な仕事を効率良くこなす、良き会長となっている。アジア系の絶世の美男子で、女性であれば必ず振り向くほどの容姿を持っている。
 バランスの取れた能力で、攻撃にも防御にも転じられるが、その力は大地の全てに干渉し、地球その物を鳴動させる。局地的な大地震や、地割れを引き起こす事も出来るが、周りへの被害も甚大となる為、本人はあまり好まない。ウインナコーヒーが好物。


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