Pia・きゃろっとへようこそ!!2 After Story






 Pia・キャロットへようこそ!!2 DASH






 Menu9 その瞳にうつる者は






 「えっとですね〜、今耕治お兄ちゃんがキャロットにいるんです」






 美奈の何気ない一言は美樹子を納得させたが真士はぼけっとしていた。

 「なるほどね、やっぱりそうだったんだ・・・」

 「なにが?」

 「真士くん、それマジで言ってるの?」

 「へっ?」

 「はぁ〜・・・」

 机に突っ伏した美樹子を怪訝な表情で見る真士はいまだに理解していないようである。

 「あ、あの〜」

 「美奈ちゃんは解っているよね?」

 「もちろんです、だって美奈のお姉ちゃんだから」

 自信を持って胸を張り言い切る美奈を顔を上げて見た美樹子は腕を組んでうんうんと頷いた。

 「美樹子さん?」

 「真士くん、私から一つ課題を出すから勉強するように!」

 「課題って・・・」

 「別に難しい事じゃないわよ? いい、今からあずさちゃんの姿・・・特に表情を見ているのよ」

 「表情?」

 「そう、そこにどんな変化が現れるのかちゃんと見ておきなさい」

 「それって何か意味があるの?」

 「い・い・か・らっ! 黙って言う通りにしなさい!」

 「は、はいっ」

 美樹子にぎろりと睨まれて縮こまった真士は、食事をしながら言われた通りに店内で接客しているあずさの目を

 注意深く見ることにした。

 「いらっしゃいませ、ピアキャロットへようこそ! お客様は何名様ですか?」

 あずさの明るい声に導かれお客さんが席に着くと、取って返してすぐにコップとお手拭きを差し出す。

 「こちらがメニューになります、お決まりになりましたらお声をお掛けください」

 メニューをテーブルの上に広げてからお辞儀をすると、近くのテーブルの上を片づけて綺麗にする。

 カウンターの方に戻ると出来上がった料理を慣れた手つきでトレイに載せるとお客様に笑顔と共に

 テーブルに並べていく。

 「ご注文は以上で宜しいでしょうか? ごゆっくりどうぞ♪」

 真士の目から見てもその優雅な仕草と笑顔はキャロットでも1、2を争う人気が有るのも解った。

 「う〜ん」

 「どうしたの真士くん、何か解った?」

 「いや〜相変わらずあずさちゃんの笑顔って可愛いなぁ〜って・・・いてててっ〜!」

 「誰が笑顔に見とれろなんて言ったかしら?」

 「ご、ごめんよう〜」

 「はぁ・・・男ってほんとにもうっ」

 真士の耳を引っ張りながら美樹子はやっぱりダメかな〜なんて思ったが、もう少し様子を見ることにした。

 意外と言っては失礼だがこれでも美樹子は真士の事を結構気に入っているのだ。

 まあ・・・有り体に言えば一応好意とも呼べる物を持ってたりもする。

 でなければいくらアシスタントだからって男の子を部屋に泊めたりはしない彼女である。

 しかし悲しい事かな、そんな美樹子の気持ちに全然気がつかない所は耕治とためをはる鈍感だった。

 ちなみ耕治と大きく違うのは自分が気になっている女の子に集中してしまうから鈍いのである。

 だからあずさに振られてもまだちょっとだけその気持ちが残っているのか、美樹子はあくまでも漫画

 仲間で止まっていたりする。

 どうして私の知っている男の子は鈍いのばっかりなんだろう・・・はぁ〜。

 ここ最近、恋愛漫画を描いているから余計に男の子の心理なんかも考えてみたりもしているが、目の前にいる

 真士を見ていると果たしてそれが正しいのか疑問に思えてしまう。

 「・・・ふぅ、まだまだ私も勉強不足なのね」

 「ん、何か言った美樹子さん?」

 「別に何にも・・・私はいいからあずさちゃん見てなさい!」

 「へ〜い」

 一頻り考えて納得したのかいつものようにスケッチブックを取り出すと鉛筆片手に店内を見ながら

 美樹子は黙ってスケッチを始めることにした。






 それから閉店近くまで真士はあずさの姿を見続けていたが、特に気になるような所は見受けられなかった。

 その間何回もお代わりしたコーヒーで腹がちゃぷちゃぷ言いそうだったが、時たま美樹子がじっと睨むので

 仕方無しに言われた通りにするしかなかった。

 故に、半分以上だらけていた真士と今だにスケッチを取り続ける美樹子の所にスマイルを浮かべた潤が

 コーヒーを持って現れた。

 「コーヒーのお代わりは如何ですか?」

 「うん頂戴、あといちごのショ−トケーキも追加してくれる?」

 「はい」

 「まだ食べるの美樹子さん?」

 「いいでしょ、自分で払うんだからっ」

 とは言う物の、すでに美樹子は今までに五皿以上も食べていたのである。

 「くすっ、えっといちごのショートケーキで宜しいのでしょうか?」

 「笑ったわね潤さん、せっかく人が漫画のヒロインに使おうと思ってたのに・・・」

 「えっ、それってどんな漫画なんですか?」

 「笑顔が素敵なウェイター『耕治』に恋するちょっと内気でボーイッシュな可愛いウェイトレスの

 女の子『潤』のラブストーリーだったんだけど・・・没ね」

 「ああっ、ちょ、ちょっと美樹子さん、良い話じゃないですか〜!」

 「ほ〜んと、残念だわ・・・」

 「ううん、そんなこと無いわよ美樹子さん」

 キッ!

 今まで浮かべていたスマイルが瞬時に変わった潤は振り返った所にいた人物を冷ややかに睨みつけた。

 「どう言う意味かしら、留美さん?」

 「別に・・・そんなことよりねえ美樹子さん、留美が良いお話知っているんだけど聞いてくれるかな?」

 「聞くだけ無駄ですね」

 きっ!

 今度はそう言われた留美がジト目になって平然とした顔で何でもないようにしている潤を睨み返した。

 「どう言う意味かしら、潤くん」

 「別に・・・そんなことよりねえ美樹子さん、さっきの話をもっと具体的に聞きたいんだけど・・・」

 「没になったんだから聞く意味無いよ」

 「留美さんの話より絶対良いと思います」

 「何ですって?」

 「何ですか?」

 「むーっ」

 「うーっ」

 「・・・ふ〜ん、今度は女の子の漫才コンビが活躍するギャグ漫画にしようかしら?」

 「「美樹子さん!!」」

 「じょ、冗談よ、そう睨まないでったら・・・」

 さすがの迫力に美樹子も腰が引けてスケッチブックを盾にして二人の視線から逃れた。

 「こらこらっ、お店の中で大きな声を出さないの」

 どこからともなく颯爽と現れた葵が騒いでいた彼女たちにウィンクしながら注意をする。

 「留美ちゃんも潤くんもお仕事中なんだからお店の中では騒いじゃダメよ」

 「は〜い」

 「はい、すいません」

 「ふふっ、解ってくれれば宜しい♪」






 そんなムードメーカーの葵の登場ですっかり場の空気が軽くなった所に真士の情けない声が響く。

 「だ〜ぜんぜん解らないよ、美樹子さ〜ん」

 「はぁ、ま〜それが解れば真士くんも一歩前進出来るんだけどね・・・」

 ため息を付いてしょうがないなぁって顔を浮かべる美樹子にと真士を交互に見てから葵が話に加わった。

 「何やっていたの真士君?」

 「いや〜それがあずさちゃんの事なんですけど・・・」

 「あずさちゃんがどうかしたの?」

 「どこが変わったのか全然解らなくて・・・はぁ〜」

 「なるほどね・・・じゃあお姉さんがちょっとだけ手を貸してあげましょう♪」

 一人意味有りげに笑う葵は側に来た美奈を手招きして呼んだ。

 「なんですか、葵さん?」

 「あのね、倉庫に行って耕治君を呼んできてくれないかしら?」

 「耕治お兄ちゃんですか?」

 「そう、しかも大至急♪」

 「解りました」

 とてとてと小走りで倉庫に走っていく美奈を見送りながら真士の方に振り返って葵はウィンクする。

 「さあ真士君、あずさちゃんの表情を見逃しちゃダメよ?」

 「は、はぁ・・・」

 暫くして耕治が美奈に手を引かれてフロアにやってくると、留美と潤が我先にと近寄る。

 「お疲れさま耕治くん♪」

 「お疲れさま、耕治♪」

 「えっ、まだ終わりじゃないけど?」

 困惑している耕治をよそに両腕にしがみつく二人は幸せそうに顔をすりすりしている。

 「相変わらずもてもてなのね、耕治くん」

 「あ、久しぶりだね美樹子さんと・・・真士」

 「おうっ久しぶりだな耕治、ところで・・・」

 「な、なんだ?」

 まじめな顔で詰め寄る真士に耕治は幾分緊張した顔で動かない。

 両肩に手を置いた真士は急に涙顔になって耕治に泣きついた。

 「水くさいじゃないか耕治〜俺達親友だろ?」

 「はぁ?」

 「自分だけ女の子達と仲良くするなんてずるいぞ〜」

 「あ、あのな真士・・・」

 「俺にも一人ぐらい分けたって損しないだろう〜」

 「な、何言ってんだ・・・!!」

 そこまで言って口をつぐんだ耕治は、真士の背後に沸き立つ黒い炎を見たとその時は思った。

 「真士くん」

 「うっ」

 漸く己の犯した間違いに気がついた真士だったが、それは遅すぎたようだ。

 「ご、ご、ご・・・」

 「ん? どうしたの真士くん、そんなに怯えて・・・ねぇ?」

 美樹子は笑っていた、そう確かに笑っていた・・・が、額に浮き出た血管と口の端が微妙に引きつっている

 その笑顔は間違いなく子供が泣くであろう。

 「もうみんなっ、何遊んでいるんですか?」

 「あらあずさちゃん、でももうすぐ終わりだから良いじゃな〜い♪」

 「葵さん・・・んんっ?」

 少し怒った表情で近寄ってきたあずさは、両手に女の子を掴まらせている耕治をジト目で睨んだ。

 「相変わらずでれでれしちゃって・・・」

 「ひ、日野森っ、そんなんじゃないって!」

 「どうだか?」

 「日野森〜っ」

 「ねえ耕治、今日はこの後食事に行こうよ♪」

 「ねえ耕治くん、留美良いお店知っているの♪」

 「ちょ、ちょっと二人とも離れて・・・」

 「あ〜ら、それのどこがでれでれしてないって言うのかしら?」

 「だからそれはっ」

 フンと横を向いて耕治の弁解を無視しているあずさだが、その目は笑っていた。

 あの夏と変わらない風景がそこには在った。

 だけどその中で真士の表情が微妙に強ばった事に気がついたのは、あずさを見ているように言った

 美樹子ただ一人だけだった。






 キャロットからの帰り道、普通なら漫画の話とかしながら歩く方が多い美樹子と真士だったが

 今日は珍しく会話が無かった。

 そして美樹子と歩いている真士は独り言のようにぽつりと呟いた。

 「美樹子さんの言った意味がやっと解った気がする・・・」

 「そう・・・」

 あずさが好きだった真士にはちょっと残酷だったかなと思う美樹子に気がつかないまま真士は話を続ける。

 「耕治が鈍い奴だなんて思ってたけど俺も結構鈍いんだなぁ・・・」

 「そうね」

 「美樹子さんはいつから気がついていたの?」

 「何となくだけどね・・・同じ女の子だし」

 「そっか・・・」

 真士がそう言って見上げた夜空に浮かんだ月はなぜか温かい光を降り注いでいるようだった。

 「バカだよな、あいつ・・・」

 「そうね、好きな女の子より親友を取っちゃうんだからっ」

 「人が良すぎるのも考え物だよなぁ・・・」

 「でも、そこが耕治くんの良いところなんだけどね」

 「言えてる」

 「でしょ♪」

 そしてゆっくりと歩いていた二人だったが、真士がぴたっと止まって前を睨んだまま呟く。






 「あのばか野郎・・・」






 真士が拳を握りしめてそう呟いた姿を見た美樹子は心にさざ波が立つのを感じていた。






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 どうも、遅くなりましたが第九話でした。

 耕治の思いに気がついた真士は何を思うのか?

 そして耕治は潤と留美に答えを出さなければなりません。

 もちろんあずさにも・・・。

 クライマックスを迎えた物語の先に待っているものは・・・。

 Menu 10でお会いしましょう♪

 2000/11/16 初版


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