<俺の取るべき道は>



「この頃あずさちゃん、笑ってくれないな・・・」

今日、俺はあずさちゃんとデートだった。
ホントは大好きなあずさちゃんとデートができた なんて涙がでるくらいうれしかったんだけど、 俺はそれを素直に喜ぶ事ができなかった。
今日のあずさちゃんは、俺に対して明るく振る舞おう としてたみたいだけれど、俺にはそれが無理をして いるものだっていうことがわかったんだ。
そう、笑顔をみせていたけど、その奥ではとても悲しげ なものを感じたんだ。
たぶん、その原因は・・・

『トゥルルルル・・・トゥルルルル・・・』

そう思った時に電話のベルがなった。

「こんな遅く誰だ・・・?」

そう思いながら俺は電話に出た。

「よう、真士。」
「なんだ耕治か。こんな時間にどうしたんだ?」
「ん、・・・ああ、ちょっと・・・いや、大切な話が あるんだ。もし良かったら今から・・・」

そう耕治が言いかけた時、直感的に耕治の言いたい 事を悟った俺は先に耕治に言った。

「なあ、今日はもう遅いから明日にしないか? ちょっと俺今夜は用があるんだ。」
「えっ・・・そうか。悪かったな。 じゃあ明日の朝、お前の家に行くけどそれでいいか?」

俺の家・・・耕治のいる寮から俺の家に来るには、 電車を使わないといけない。
つまり駅前を通るという事だ。
それだけは避けなければならない。

「いや、俺が寮の方へ行くよ。」
「え?それじゃ真士に悪いな。 頼んでいるのは俺だし、俺がおまえのとこに行くよ。」
「いや、いいんだ。俺もその方が都合がいい。」
「そうか?悪いな。じゃあ、夜遅く悪かったな。」
「別に構わねえよ。じゃあ明日な。」

そう言って俺は受話器を置いた。

「やっぱり来たか・・・」

俺はさっきの電話でのいつもと違う耕治の態度から、 電話がかかってくる前考えていた事を確信した。
正直な話、いつかはこうなるんじゃないかって なんとなく思っていたんだ。

「俺はどうしたらいいんだろう。」

俺はあずさちゃんと付き合いはじめたんだ。
そう、大好きなあずさちゃんと。
あずさちゃんが俺の告白にOKをしてくれた時は、 夢かとまで思った。
俺は誰にもあずさちゃんを渡したくはない。
でも・・・

「!」

その時、俺の頭の中に、笑顔を浮かべた、本当に楽しそうな 笑顔を浮かべたあずさちゃんの顔が頭をよぎった。

「・・・そうだ。そうだよ。俺がやらなきゃ行けない 事は・・・俺の取るべき道は・・・!」

俺は固く決心し机に向かうと便箋を手に取った。

そして次の日。
俺は一通の手紙を持って、家を出た。
電車を乗り、Piaキャロット2号店のある駅に着く。 俺は電車を降り、改札から出ると、駅前の噴水の前で 人を待っているあずさちゃんの姿が見えた。
なにか悲しげなオーラをただよわせている、そんな感じがした。

「とても、恋人をまってるような雰囲気じゃないよな・・・」

そんなあずさちゃんを見て、俺は胸が痛んだ。
俺じゃ、あずさちゃんを幸せにできないのが無性に悔しい。
でも、だからこそ、俺にはやらなきゃやらないことがある。
俺にしか出来ない事を。
俺はあずさちゃんに見つからないよう気をつけながら駅を出て、 耕治の住む寮に向かった。
寮につくと、耕治は既に寮の入り口からちょっと離れた所に立っていた。
表情は、俺の今までに見た事もないような深刻なものだ。
とりあえず、俺はいつものように声をかける事にした。

「よっ、久しぶりだな。昨夜急に呼び出してきて、話ってなんなんだ?」
「ああ・・・」
「あ、そうそう、これからあずさちゃんとデートなんだ。 ははは、なるべく手短に頼むな。」

俺はこれから耕治が言いたい事をわかってる上で敢えてそう言った。

「真士・・・俺、やっと気がついたんだ・・・」

下に視線を向けていた耕治が俺の方に視線を向ける。

「お前の気持ちを知っている上で正直に言う。聞いてくれ・・・」
「耕治・・・」
「俺、日野森が好きだ・・・。たぶん、初めて会った時からずっと・・・」

俺の予想していた事が現実になる。
わかっていた事とはいえ、目前で実際に言われるととてもつらい。

「そっか。昨日の夜に電話があった時、なんとなく、そんな気がしていたんだ。 ・・・いや、だいぶ前からわかっていたのかもしれない・・・。」

耕治は、ふと驚くような表情を浮かべる。
そう、耕治の性格から、俺にはその事をひた隠しにしてきたのだろう。
俺があずさちゃんが好きだという事をしっていたが故に。
おそらく、今日の今まで、俺の事で必死に悩んで来たに違いない。
そんな耕治が、今俺に、自分のあずさちゃんに対する想いを告白してきたんだ。
半端な決心じゃないはずだ。
でも、ここで、俺が素直に足を引くことはできない。
なんらかの形でけじめをつけないと、俺はあずさちゃんの事をふっきれそうに はないからだ。

「実は、俺からも聞いてもらいたいことがあるんだ。 ・・・歯を食いしばって聞いてくれ・・・。」

『ドカッ!!』

俺は力いっぱい耕治の頬を殴った。

「うぐっ・・・!!」

殴られた耕治は苦痛の表情を浮かべた。

「どうしたんだよ!?殴り返してこいよ!!」
「くっ・・・」
「ハイそうですかって、諦めるかと思ってたのかよ!? オマエ、あずさちゃんを渡したくはないんだろ!? だったら、力ずくで奪ってみろよ!!」
「すまない・・・」

黙って聞いていた耕治が口を開く。

「俺がはっきりしなかったから・・・。 卑怯だと思われても構わない。俺は日野森に・・・。」

そこで言葉が途切れた。
でも、耕治のその言葉からは、あずさちゃんに対する想いだけではなく、 あずさちゃんの事を想う気持ちの強さも十分に伝わってきた。
俺も今、あずさちゃんの事を想って身を引こうとしている。
そんな事を考えると、俺は自然と表情がゆるんだ。

「おまえ・・・バカだな・・・。 あずさちゃん、おまえの話をすると笑顔になるんだ・・・。 くやしいよな、ほんと・・・。 俺もバカだから、おまえの昔話をしちゃうんだよ・・・。」
「彼女の笑顔を見ていたかったから・・・。 楽しそうに笑う彼女が好きだったから・・・」
「真士、俺・・・」

耕治が俺に何か言おうとしたが、身を引く事を必死に決心している 俺は、これ以上、同情の言葉をかけられたりしたものなら 今の自分を保っていられなくなってしまう。

「もう、何も言わないでくれ・・・。 俺が気持ちを伝えたように、おまえも正直に話して来いよ。 駅前で待ち合わせてるんだ・・・」

耕治はまたも驚いたような表情を浮かべた。

「でも、告白するのは、この手紙を渡してからにしてくれないか。」

そう言って、俺は昨夜書いた手紙を耕治に渡す。

「真士・・・すまないな・・・」
「はは、謝るのはOKをもらってからにしろよ。 俺だって、まだ諦めたわけじゃないんだからな。」

俺は、心ではそんな事はありえないとわかっていながらそう言った。
耕治を励ますため・・・いや、ありえない現実を受け止めるのがつらいが故に 出た言葉かもしれない。

「じゃ、行って来いよ。ちょっと待ち合わせを過ぎてるんだ。 急がないと、彼女、いなくなっちゃうそ。」
「真士、スマン。」

そう言って、耕治は駅の方へ走って行った。

「は〜、ついにやっちゃったな〜・・・ これで、あずさちゃんとは縁が切れちゃった訳だ・・・。 うう、考えてるだけでつらい・・・」

俺が感傷にひたっていると、突然後ろから声をかけられた。

「真士さん・・・」

俺は、びっくりして振り向くと、そこには、悲しげな表情をした 美奈ちゃんがいた。

「み、美奈ちゃん!?・・・なんでここに・・・もしかして、今までの事を!?」
「す、すいません。見るつもりはなかったんです。 昨日、お姉ちゃんからかかってきた電話の様子がおかしかったので、 心配になってここにきてみたら真士さんたちがいて・・・ ホントにすいません!!」

美奈ちゃんはが必死に謝ってきた。
別に美奈ちゃんが悪い訳ではないのに必死に謝る美奈ちゃんを見て、 俺は急いでそれを止めた。

「そんな、謝らないでいいよ。 美奈ちゃんは何もわるくないんだから。 でも・・・そっか、俺達のやり取りを見てたのか。 ・・・俺ってバカみたいだっただろ?」
「そ、そんなことないです。あの時の真士さん、すごくかっこよかったです。 もし、美奈が同じ立場なら、とても真士さんの真似なんかできません。 自分から身を引くなんて、悲しすぎてできません。」

涙を溜めながら、美奈ちゃんは俺を励ましてくれた。

「はは、そう言ってくれると、少しは楽になるかな・・・。 俺、今は気丈にしているけど、本当は悲しみで押しつぶされそうなんだ・・・」
「真士さん・・・」

「ねぇ、美奈ちゃん。俺ってこれから楽しい事ってあるのかな・・・」 「あります、絶対にありますよ! こんなにお姉ちゃんの事を想ってくれて、お友達思いの真士さんなら、 いつか必ず幸せになれすはずです!」

美奈ちゃんの心のこもった言葉は、いくらか俺の心を温めてくれる。

「う〜ん、そうかな。」

俺は、そんな美奈ちゃんの言葉を素直に受け止めてみた。
すると、美奈ちゃんは、何か思いついたような顔をすると 俺にしゃべりかけてきた。

「そうだ!真士さん、9月からPiaキャロットで一緒にバイトしませんか? キャロットにいる人達ってみんないい人達ばっかりだし、 みんなと一緒にバイトをしてると楽しいですよ?」

突然出てきた「Piaキャロット」の言葉を聞いて、 俺は1ヶ月前の事をふと思い出す。

「Piaキャロットか。 そういえば、夏休みはコミケで忙しくて面接落ちゃったんだよな。」
「でも、たしかそのコミケってもう終わったんですよね。 丁度、耕治さんとお姉ちゃんも辞めちゃって、人手不足になっちゃうから、 もう1回面接を受ければ、今度はきっと受かりますよ。」

美奈ちゃんは、しきりにキャロットでバイトをする事を薦めてくる。
少しでも悲しい事を忘れさせようとする、美奈ちゃんの心使いがとても 身にしみた。

「そうだな。もう一回面接受けてみるか!」
「決まりですね☆」

この後も、美奈ちゃんのおかげで、俺は1番悲しくてつらい時を 乗り切る事ができた。

そして、数日後・・・

「いや〜、前田君が辞めてしまってどうしようかと思っていたんだが、 こうして矢野君がバイトとして来てくれるなんて、私はもう、 嬉しくて仕方が無いよ。」

キャロットの面接を受けて無事受かった俺は、今、店長さんと一緒にいる。
なぜか倉庫で・・・

「さあ、今日中にこの荷物を片づけよう! 人知れず、倉庫の重たい荷物を整理する・・・う〜ん、これこそ 男の浪漫!!」

店長さんは、意気揚々と荷物整理をしている。
俺の青春って・・・
でも、ここでくじける俺ではない。
いつかきっと、俺も最高の恋愛をGETしてみせるぜ!

「よ〜し、俺はやるぞ〜!!」
「そうだ、矢野君!その意気だ!!」

そして、俺は、まず男の浪漫から学ぶ事になるのだった。


Fin


後書き


こんにちは、OCT7です。
じろ〜さん、この度はホームページ公開おめでとうございます!!
公開記念としてこのSSを送らせてもらいました。
これからの発展を期待しています。
ところで、初めて短編書いてみたんですが、どうだったでしょうか?
実は、OCT7はPia2で一番好きなシーンは 真士が耕治に殴り掛かるシーンだったりします。
あの時の真士の男らしさには、ぐっとくるものがありましたね。
それで、SSにしてみたわけですが・・・
最後は話の重さに耐え切れず、あんなオチになってしまいました。(笑)
あと、この話には真士が知っている人ということで 美奈ちゃんに登場してもらいました。
真士一人ではあまりに可哀相だったからですね。
「俺の取るべき道は」を読んでいただいて、OCT7は大変感謝しております。
もし、感想等をメールで送ってもらえると嬉しい限りです。

OCT7のメールアドレス : 98ke117@ed.cck.dendai.ac.jp

それでは、またどこかで会いましょう。



by OCT7


Makiさんに続いてOCT7さんからももらえるなんてうれしくって北海道までツーリングしたくなっちゃった!

主人公以外のキャラクターの話って作るのが大変だと思います。

それをこのように書いてしまうなんて流石ですね。

でも真士って良い奴だからきっと可愛い恋人ができると思うな・・。

現実だったらこういう友達って少ないと思う。

これからもOCT7さんのSSを楽しみにしています、お互いにがんばりましょう。

それでは。

 

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