ACE COMBAT V electrosphere
ANOTHER STORY
翼を持つ者
第五話 「帰還」
作戦が終了して3日が過ぎたが、ホークは未だに帰ってこなかった。
充分とは言えないが捜索も打ち切られ平常通りの勤務に就いた隊員たちだが、みんな雰囲気は明るくはなかった。
作戦行動で人的被害はこれが初めてだったことも追い打ちをかけていた。
その中でもレナの表情が一番痛々しかったのは誰もが知るところでもある。
実際、ホークと最後に話したのはレナ自身であり、しかも彼女を助けるために敵機と戦闘したである。
その結果が未帰還と言う最悪な事実が、彼女の心を締め付けて離さなかった。
「レナ」
「フィー、なに?」
「その元気出して・・・ね」
「ありがとう、私は大丈夫だから・・・」
「そう・・・」
「それじゃ偵察任務が有るから」
「気をつけてね、レナ」
「うん」
そのまま、滑走路の方に歩いていくレナの後ろ姿を見つめながらフィーは呟く。
「ホークのバカっ、あんなレナ見てられないよ」
「まったくだな」
「エリック? いつからいたの?」
「俺が声をかけようとしたけど誰かさんに先を越されちまったからなぁ」
「そう・・・」
「でもなぁ、なんかあいつがひょっこり帰ってきそうな気がするんだ」
「えっ?」
怪訝な表情でエリックの顔を見るフィーは、今の発言にちょっと驚いてしまった。
「どうしてそう思うの?」
「ん〜、まあ感みたいなものかなぁ・・・それに」
「それに?」
「あいつって絶対死にそうにないだろ? ひょっこり帰ってきそうだしな・・・」
「言われてみればそうかもしれないわね」
「だろ?」
レナを見送りながら話す二人の心の中ではそう思わずにいられない思いがあった。
定刻通り偵察任務に出たレナは予定のコースをレーダーに注意しながらフランカーを飛ばしていた。
どこまでも広がる青空、それはあたかも水の中にいるような気持ちをレナは感じていた。
しかし、無意識の内に視線は乾いた大地の方にいってしまった・・・。
「ホーク・・・」
その、ホークのことを考えていた所為なのかもしれなかった。
だから気づかなかった・・・ゆっくりと高度が下がっていることに。
ピーッ。
後部警戒レーダーが反応して警告音を鳴らす。
酸素マスクを引き寄せてレーダーを確認するとミサイルが機体に接近していた。
「くっ」
パイロンに付いている燃料タンクを外すと、アフターバーナーを全開にして機首を上げて
一直線に加速した。
「迂闊だわ・・・」
自分のミスに唇を噛みしめながらレナは近づいてくるミサイルから逃げていた。
しかし段々とミサイルが機体に接近してきて、近接信管が作動する直前にスティックを倒して
急旋回を行う。
「くぅっ」
かなりのきついGに耐えながらそれでもしっかりと前を見てレナは歯を食いしばった。
ドカンッ。
同じようにミサイルが機体を追って旋回したが、途中で急に爆発して砕け散った。
「ふぅ・・・」
一応素早く辺りを確認して危険が無いことを理解したらレナの口から安堵のため息がこぼれた。
彼女が実戦の中で気が付いた事だがミサイルは細い為、横からのGに耐えられずに爆発していた。
「ふぅ・・・」
ピーッ!
「何?」
ミサイルをかわしてほっとしたレナに、レーダーが無粋にもレンジ内に入ってきた者の存在を知らせる。
「所属不明機? いったい何者なの・・・」
その事をレナが考えようとしたが、明らかに自分に対して戦闘行動を取っているので仕方無しに
スティックを握りしめた。
「全部で四機ね・・・機種はラファール!?」
形はミラージュ似てデルタ翼で機体下部には大型エアインティクが開いている。
そしてフランカーに引けを取らない性能でもあり、しかも四機が相手だと残るは自分の腕次第だった。
「私は・・・負けない!」
レナの目に生き延びると言う意志が光になって現れた。
正対してくる四機に向かってアフターバーナー全開で向かっていくフランカーは矢のように鋭く
すれ違いざまにバルカン砲で叩き落とす。
「一機」
呟きながらスロットルレバーを戻しエアブレーキも開いて減速しながらすぐに反転すると、再び
フルスルットルで敵の後方について次のターゲットに狙いを定める。
高機動が可能な戦闘機なら可能な技でもあるヘッドオンセットパスと言う技である。
三機のうち二機は同じ方向に旋回して逃げてしまい残りの一機に的を絞ってレナはトリガーに指をかける。
サイトの中で敵機がふらふらと必死になっている姿がロックした瞬間、躊躇いもせずにバルカン砲をの弾を
浴びせかけるレナの心の中に有るのはただ一つ、生き延びることだけだった。
「二機」
その意志に揺らぎはない、信念に近い思いがレナを支えている。
「ホークが・・・ホークが言ったの、生き延びるんだって・・・だからっ」
呟きも終わらないまま残りを片づける為に、獰猛な獣と化したフランカーが逃げまどう獲物に鋭い爪を突き立て
顎を開いて牙で引き裂いた。
優位にいたはずの敵機は仲間があっという間に撃墜されて戦意が喪失したのか逃げまどうばかりで反撃すらしない。
だが、レナは一機たりとも逃がさない気迫で相手から張り付いて離れない。
感覚が研ぎ澄まされて敵機の動きが手に取るように解るレナは相手が逃げる方向を先読みしてぴたりと
射程距離から逃さなかった。
「だから・・・やられるわけにはいかない!」
心は熱く、でも頭の中は冷静に判断して油断することなく正確に目の前にいる敵機を落としていった。
戦闘を終えて基地に戻る間、なにも問題は無かった。
「お帰りなさい、無傷なのでほっとしました」
「ただいま戻りました、後お願いします」
機体を駐機スポットに停止させると近寄ってきた整備員に後を任せて、汗を流すためシャワールームに
歩いていった。
新しい服に着替えて司令室に行き、先ほどの戦闘について報告をした。
「今回の不明機はラファールでした、フランカーでなければ危なかったかもしれません」
「ゼネラルでも無くニューコムでも無い第三の勢力か・・・」
「使用している戦闘機からもかなりの組織ではないかと推測できますが?」
「ふむ・・・とにかく無事に帰ってきてくれてなによりだ、充分休息してくれ」
「はい」
さっと敬礼をして司令室を出ていくレナを見送った司令は椅子に深く座り込んでため息をついた。
「奴らも本気と言う事か・・・」
その呟きはこれから起こりうる事を暗示するかのように暗く重たい言葉だった。
「お〜い、レナ!」
「レナ、大丈夫だった?」
「エリック、フィー・・・うん」
「で、敵は?」
「ラファールが四機だったわ」
「げっ、嫌だなぁ・・・」
「正体は不明なんでしょ?」
「うん、でもパイロットはそんなにいい腕じゃ無かったから助かったわ」
「それにしても凄いな、四機も相手にして・・・」
「そうね、私だったら危なかったかもしれない」
レナは心配してくれた二人に微笑んで、嬉しそうに話した。
「ホークがね・・・言ったの、『無事に戻ることが大切だって』ね・・・」
「レナ・・・」
「だから私は信じている、きっとあの人は帰ってくるって」
「そうなんだ・・・」
「そうだな、あいつは殺したって死ぬ玉じゃないさ」
「うん、私もそう思う・・・エリック、フィー、心配掛けてごめんなさい」
「気にするなって」
「そうよ、私たち仲間じゃない」
「うん」
この時、レナは二人の笑顔を見ながら空を飛んでいたときの気持ちを思いだしていた。
あの空で私は感じた・・・ホークの存在を。
だから信じられる、あの人はきっと生きているって・・・。
だから私も死なない、生き延びてみせる。
NEXT 翼を持つ者 第六話 ディジョン
かなり間が空きましたが第五話です。
まだホークの生死は不明のままですが、どうなんでしょう?
まあ主人公だからこのままじゃまずいんだけどね(^^;
さあ、次はレナがパイロットになるきっかけになった人物が登場します。
いい人か悪い人か・・・さてさて。
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