Original Works 『Kanon』
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『早く早く、待ちきれないよう…』
白い大きなリボンが微妙にふわふわ動いている。
目線はどっか遠くを見て、ホームルームの先生の声等全く入ってきてないようだ。
キンコーンカンコーン♪
「よしっ以上!!、それじゃ皆気をつけて帰るんだぞ〜」
「「「はーーーーいっ」」」
先生の言葉に生徒達が一斉に返事をし、ホームルームが終わった。
「やったーー、終わったよぉ♪」
放たれた弓のように席を飛び出すと、真っ赤な鞄を背負い満面の笑みで駆け出す少女がいた。
たったったった…
一直線に教室の出口を目指して走る。
「えっ? あっ!? あぁぁぁっあぶ」
ごい〜ん
言うより早く爽快な音が辺りに響く。
「う、うぐぅ… 痛いぃ…」
額を擦りながら前を見ると、目を回しながらフラフラするロングヘアーの女の子がいた。
「ん〜クラクラするよ〜、あゆちゃん危ないって言ったのに…」
「うぐぅ、ごめんねちーちゃん」
「うん良いよ別に、…いつもの事だし」
「うぐっ、今度から気付けるね」
「うん」
何故か不幸にもいつもいつもぶつかってしまう、ちーちゃん事千歳は苦笑いで答えた。
「ところでさこれから遊びに来ない、今日はお母さんが居ないからゆっくり遊べるよー」
ふわふわと跳ねる様に階段を降りていたちーちゃんが、長めのスカートをふわっと靡かせて振り返る。
「えっと…ごめんね、今日お母さんが久しぶりに早く帰ってくるから…」
「あっ…… そっか、それでさっき嬉しいそうにしてたんだ」
「うん♪ それにねー今日お料理教えてもらうんだぁ」
「わぁ いいなぁ♪」
「えへへへ…ボクがお料理出来るとお母さんも少し楽になるし、それにお手伝いしたいだもん」
「わーあゆちゃん、偉いなぁ…」
「えっそんな事無いよ」
慌てて頭を振るけど、ちーちゃんはお構いなしに続ける。
「うん、偉い」
ニコニコとあゆを見つめるちーちゃん。
流石に今は碁石のようなクッキーしか作れないとは言えなかった。
「それじゃ明日にしよ、土曜日だし早く帰れるから一緒に遊ぼうよ」
「うん♪」
「じゃ明日ねー!、約束だよー」
「うん約束、バイバーイ」
二人は仲良く校門まで帰ると手を振り合いながら別れた。
Kanon Short Story 【Unforgettable memory】
Presented by 瀬戸ぎわ
2001.07.30
トントントン… アパートの階段を昇る。
「今日はどんなお料理作るのかな〜♪ 楽しみだよーっ♪」
いつもは長く感じる帰り道も今日はとても短く感じた。ずっとお料理の事を考えていたからだ。
「えへへへ、お母さん待ってるかな…」
早る気持ちを押さえてノブを回す。
「ただいまー!!おかーさ…」
ガチャ、ガチャ!!
「うぐっ…?」
ガチャ。
「開いてない…」
寂しそうに肩を落とすと、ゆっくりと郵便受けから鍵を取り出そうと手を差し込んだ。
『今日は早く帰れるって言ってたのに…ただいまって言いたかったな』
ふとそんな事を思ってしまう。
ガサ、ガサガサ…。
手にはいつもと違い紙のような音がする
「あれ? なんだろ」
郵便受けには、鍵の他に二つ折りにされた手紙があった。
いつもならあゆの為に鍵が磁石でくっ付いているだけなのだが、今日は手紙も貼りつけてあった。
首を傾げながら手紙と鍵を取り出すと、早速手紙を読み始めた。
短く一文しか書いてない手紙だったが、その瞬間パッと晴れた様に笑うと居ない母に向かって話しかけた。
「ただいまお母さん♪、もう少し待ってるね」
手紙で聞きたかった一言が聞けたあゆは、元気よく扉を開けて入った。
足早に真っ赤な鞄を片付けると、あゆは台所に来て見る。
いつも見慣れたと思っていた場所は、これから始まる事に思いを馳せると違う世界に見えた。
「あー早く始めたいよ〜」
そわそわと居ても経っても居られない様子で台所を眺める。
「そうだっ、お母さんが帰るまでに少しでも用意しよかなっ♪」
少しでも早くやりたいのか腕捲りをして用意にかかる、そこはもう小さな戦場だ。
「んしょ、んしょ」
食器棚から取り出したお皿を気を付けて運ぶ…。
「えっと後は〜、お茶碗置いてー …そうそうお箸も置かないと」
カチャカチャカチャ。
水切り場から取り出して、小さなテーブルに飾るように並べる。
「…………うん♪、こんなもんかな」
二人分しかないので、思ったよりかなり早く終了。
「えっと…次は、お料理道具かな」
まず目に入ったのが干してあるまな板そして包丁、思わずごっくと唾を飲み込んでしまう。
ドキドキしながら手を伸ばしかけたが腕がびっくと引っ込む。
包丁の刃が此方に向いてる気がする。
「あっ危ないよね… やっぱりお母さんと一緒じゃないと」
小指を見ながら幼稚園の時にした指きりを思い出した。
『内緒でおまま事に使ってこっ酷く怒られたんだよね、もう二度としないって指きりしたし』
「うん、後はお母さんが帰ってからにしよっ♪」
少しの間台所を眺めたあゆは、少し名残惜しそうにしながら居間に戻った。
部屋に入ると日が傾いてきた為か、ちょっと寒くなりかけてた。
ぶるっと体を振るわせたあゆは壁際まで歩くと、近くにあったコンセントを差し込んむ。
「おこたーおこたー♪」
スイッチを入れて炬燵に入ると心地良い暖かさが広がる。
「あたっかーい」
ふわふわした布団がとっても気持ち良い、思わず顔を埋めてし頬擦りしてしまう。
「うんーーーん用意も終わったし、後はお母さんが帰って来るだけだね」
暖まってきた炬燵にお日様の香りを感じながらあゆは玄関を見つめ続けた。
「どう、彼女の様子?」
内装の綺麗な部屋でベットに横たわりる女性、それを心配そうに見ていた小柄な女性にそっと声が掛かる。
「あっ社長、お疲れ様です」
突然気配もなく現れた女性に驚く事も無く答える。
社長と呼ばれた人はまだ二十代といっても通じそうな程若く、とても会社を経営をしているとは思えない雰囲気だった。
入社当事はその若さと、尋常じゃない洞察力・判断力・包容力に驚きもしたが今は憧れるひとだ。
「今は随分落ち着きました。その…ちょっと前までかなりうなされてましたけど…」
「…そう」
心配そうだった顔が少し和らいだ。
「綾乃さん、悪いけどもう少し看ててくれる?」
「はい、仕事の方はなんとでもなりますし……それは構いませんけど」
「…何かあるの?」
歯切れの悪い言葉に心配そうに聞く。
「月宮さんうわ言で、急がなきゃ急がなきゃって…」
「確か今日は娘を待たせてるって言ってたんです、電話した方が良いじゃないでしょうか」
職場で席の近い綾乃は事情を聞いてた。
「いつも夜遅く帰ってるから、今日は半日休とって娘の為に使うって…」
「そうだったの、…分かったわ私から電話しておくわね」
「お願いします」
頭を思いっきり下げると、優しげに声が掛かる。
「じゃ、後お願いしますね」
「はい」
目配せをしてそっと仮眠室を出ようとする背中に微かに声が掛かる。
「ぁ……、秋子っ待って…」
「了承」
「……」
振り返る事無く了承されてしまう。
「………もぅ… 昔からそう…なんだから…」
苦しそうに息を上げながらも、苦笑いをしながら背中を見つめる。
「ふふふ♪、解ったからもう少しゆっくりしなさい」
「…うん」
心底安心したように顔が和らぎ、暫くすると寝息を立て始めた。
こっくり・こっくり…。
既に日も傾き夜になっていた。
炬燵の上には料理の本や折り紙、勉強道具等が散乱している。
「眠い…」
目を擦って何とか耐えようとするあゆだが炬燵の温かさにつれ…。
ガツン!!
なんとも心地良い音がアパートに響き渡る。
「またあゆちゃんだね〜」
直下に住んでいる大家さんは苦笑いをしていた、まぁ本人はそれどころじゃないようだが。
「うぐっ!? !! っ……痛ぃ…」
赤くなった額を擦りながらよーやく寝てしまった事に気付く。
カチ・カチ・カチ。
時を刻む時計の音が静かな部屋に虚しく響き渡る。
「……………お母さんまだかな」
見上げると時計は10時を指そうとしていた。
暫く時計を眺めていたあゆは、ゆっくり立ち上がるとテーブルに置いた食器を片付け始めた。
ブロロロロロ…、キキーーィッ。
町の灯から遠い、静かなアパートの前で車が止まる。
「着いたわよ」
後部座席に目を移すと、苦しげに横たわる女性。
「ありがと…う…秋子、態々…家まで……送ってくれ…て」
「…いいのよ、それより本当に平気なの」
「うん、只の風邪だし…ちょっと疲れ…ちゃったみたいだけだから…」
額を拭い、ゆっくりと起きあがる。
「2.3日はお休みしておいたから、ゆっくり休んでちょうだい」
「………何から何まで…ごめんね、私…迷惑掛けてばっかり」
「いいのよ、それよりあゆちゃん待たせてるでしょ」
「…ありがとう」
車を降りてフラフラする姿に、慌てて車を降り体を抱きとめる。
「はぁ……はぁ…ごめん」
「上まで付き合うわ」
肩を組もうとする腕をやんわりと手がかかる。
「もう平気だから、ほら♪」
ゆっくりだが、確実に歩いて見せる。
膝は笑ってるし、明らかに強がりに見えるが、昔から言い出したら聞かない親友…。
「…つぎ、次ふらついたら」
「うん、わかった」
小さく頷くとゆっくり・ゆっくりと、手すりに手を掛け昇りだす。
「ふぅ…」
どちらとなく吐息が漏れる。
数分掛け2階まで昇りきると上から親指を立てて微笑む。
大きく息をつくと苦笑いをしながら頬に手を添えて返す。
「強情なんだから」
小さく声が聞こえた。
ガチャガチャ…。
「あゆ、ただいま」
「あっ!! お母ーーーーーさんお帰りぃぃーーー♪」
台所の隅で膝を抱えて座っていたあゆは満面の笑みで玄関に走り寄った。
「ごめんね、お母さんお仕事急に入っちゃって、お料理…」
「うんん、いいよ気にしないでっ」
話しを途中で切ると、お母さんのバックを両手で抱かかえる様に持つ。
「ありがとう…あゆ」
ふわっと頭に手を載せて撫でると、あゆは綿の海に包まれるような感覚を味わいながら酔った様に笑った。
「えへへへ、それでねー今日ねー……」
「うん」
抑えていた気持ちが溢れるように、次々と言葉が飛び出す。
「でね〜」
「うん」
話しかけるあゆの顔が突然暗くなる。
「…………お母さん、顔色悪いよ」
「えっ!?ちょっと、お仕事で疲れちゃったかな…」
居間に歩きながら悟られないように誤魔化すように答えるが、突然あゆが背伸びしておでこに手を伸ばす。
「わっ 熱い!、おかーさん風邪じゃないの」
「平気大丈夫よ、それよりお腹空いたでしょ、何か作るわね」
エプロンを取り出そうとする母に、あゆは慌てて首を振った。
「いいよ、いいよ、お母さんボクさっき待ちきれなくてご飯食べたから、早く寝たほう…」
く〜
「…………」
「…………」
タイミング良くお腹が鳴る。
「…あゆ」
「……」
ゆっくりと膝を着き、身体を優しく抱きしめると、微笑ながらあゆに語り掛けた。
「お料理とはいかないけど、一緒におにぎり作ろっか」
嬉しい言葉に心揺れるが、あゆは困ったように俯いていしまう。
そんな様子感じたのか、背中を撫でながら言葉を続ける。
「あゆ」
話し掛ける母に上目使いに見る。
「…でもお母さんびょーき…」
「ねっ」
少し間をおきあゆは笑って答えた。
「…………うん♪」
続く
どもー始めまして、瀬戸ぎわと申します。
【Unforgettable memory】を読んで頂きありがとうございます。
ご覧の通りまだ母親が生きてる時の話ですが、後編では祐一君と出会うまでになります。
えー小説は始めて書いたものなんで、何とも読みにくい部分があると思いますが許して下さい。
結構必死になって書いてるのですが、文章能力が低いもので…(^^;;
いつかはじろ〜さんみたいな小説が書きたいですねー。
ではこの辺で、宜しければ感想など頂けると嬉しいです。
ではでは…。