センチメンタル・グラフィティ Another Story









 
Missing with 綾崎 若菜


 

 

 Presented by じろ〜

 

 

 



 京都にある大きなお屋敷に何人かの人が集まっていた。

 そのうちの一部屋で二組の家族が向かい合って座っている。

 若い男女を挟んで年輩の夫婦らしい人がそれぞれの脇に座っている。

 「エー、本日はお日柄も良くて本当に・・・」

 どうやらお見合いの席らしい・・・。

 若い男は凄く嬉しそうににこやかな顔をしているが、女の子の方は俯いてどこか

 悲しげな表情をしている。

 膝の上に置かれた手は何かを我慢しているようにきつく握られていた。

 なにやら仲人の人がいろいろと話をしているが、彼女の頭の中は別の事を考えて

 いて上の空だった。

 『わたくしは・・・わたくしはどうしたらいいの・・・』






 先日、彼女は断り続けたお見合いの話をとうとう押しきられてしまった。

 「若菜、今回の相手はなかなかの人物でな・・・」

 「おじいさま・・・若菜はまだ・・・」

 「ふむ、それでは誰か好きな者がいるのか?」

 「そ、それは・・・」

 若菜は顔を伏せて黙り込んでしまう。

 「とにかく今度の日曜日に日取りを決めたからよいな」

 そう言い席を立ち綾崎老は若菜の部屋から出ていった。

 後に残された若菜は縁側の障子を開け、庭を眺めながら一人の少年の姿を浮かべていた。

 「わたくしはどうしたらいいのでしょう・・・」

 小学生の時、転校してきた少年は友達と遊ぶこともなくいつも一人で帰る若菜を

 遊びに連れて行ってくれた事があった。

 迎えの運転手の中島を困らせてしまったが、若菜にとっては凄く楽しかった。

 それからは中島の協力もあり二人は時間の許す限りいろんな処に行った。

 しかしそれは長くは続かなかった。

 少年が引っ越しをしてしまうことになったからである。

 そして、引っ越しの前に若菜が気に入ったオルゴールの話で二人で蔵の中を探していると

 綾崎老に見つかってしまい、少年は追い出され若菜は罰として蔵に閉じこめられてしまった。

 しかし、一人寂しく蔵の中で泣いていた若菜の元に少年が会いに来てくれたのだ。

 しかも自分で作ってくれたおにぎりを若菜に差し出した。

 嬉しくて涙を浮かべながらも若菜は一口ずつゆっくりと大切に食べた。

 それからオルゴールの話をしている時に、少年が入ってきた窓から月明かりが一つの古い木箱

 を照らしているのに若菜は気がついた。

 それは若菜が少年に見せたかったオルゴールだった。

 少年がネジを巻き若菜が蓋を開けると、そこから美しく綺麗なメロディが流れ始めた。

 若菜は少年の寄り添い、飽きることなくその音色を聞きながら最後の夜を過ごした。






 そしてあれから数年が経ち、美しく成長した若菜の元に再び少年が現れた。

 あのころと変わらない瞳と笑顔で若菜を見つめてくれた。

 その時、若菜の心の中に一つの気持ちが固まり始めていた。

 『わたくしはやはりあなたのことが好きです・・・』

 それから幾度となく少年と会い、いろんな処に遊びに行ったりはしたもののなかなか自分の気持ち

 を伝えることができずにいた。

 そしてとうとうお見合いの話を断る事ができずに今日に至ることになってしまった。

 もちろん少年にはお見合いの話しも知らせることができずに沈んだ気持ちで今日を迎えてしまった。

 若菜の心の中には半ば諦めにも似た気持ちが漂い始めていた。

 そんな若菜の気持ちとは別にお見合いの話は盛り上がりを見せていた。

 俯いて瞼を閉じたその目からは涙がこぼれそうになったその時、縁側の障子が勢いよく開かれた。






 「若菜!!」






 そこには肩で息をして真剣な表情で若菜を見つめている少年がいた。

 「どうして!?」

 若菜は手を口元に当て驚いていた。

 ここにいるはずのない少年が目の前にいる・・・。

 「なんじゃおまえは?」

 綾崎老の言葉を無視して、少年は息を整えると若菜に問いかけた。

 「若菜・・・本当に良いの?」

 「わ、わたくしは・・・」

 「若菜、僕は若菜のことが好きだ!」

 「!?」

 思いがけない少年の告白に若菜の心の中は波立っていた。

 自分の求めていたことを少年はみんなの前で言ってくれた・・・。

 そんな若菜を優しい眼差しで見つめながら少年は言った。

 「若菜、自分のことは自分で決めるんだ」

 少年が何を言いたいのか若菜には解った。

 若菜は静かに瞼を閉じ、再び開いた瞳は自信に満ちあふれていた。

 「わたくしもあなたが好きです!」

 そう言って若菜は少年の胸に飛び込んだ。

 「ゆ、ゆるさんぞ若菜!」

 怒りだし二人に詰め寄ろうとした綾崎老の膝に、隣に座っていた祖母がお茶をこぼした。

 「あちちちちちっ」

 膝に掛かったお茶をふき取る綾崎老を後目に祖母が笑顔で小さく頷いた。

 「お祖母様・・・」

 若菜は少年と視線を交わすと祖母に向かって二人は頭を下げた。

 「行こう!」

 「はい!」

 二人は手を取り合って部屋から抜け出した。






 玄関まで来ると、門の処に中島が車のドアを開けて待っていた。

 「どちらに行きましょうか?若菜お嬢様」

 いつもの様ににこやかに若菜に問いかけた。

 二人は車に乗り込むと一路京都駅に向かった。

 走り出してから中島が口を開いた。

 「どうやら上手くいったようですね」

 「ありがとう中島さん、どうやら間に合いました」

 二人のやり取りを見て若菜はようやく事態が飲み込めた。

 「もしかして中島さんが・・・」

 中島はバックミラー越しに若菜に笑いかけた。

 「はい、お嬢様がひどく落ち込んでいましたもので・・・」

 「ありがとう中島さん・・」

 若菜は中島の気持ちが嬉しくて頭を下げて礼を述べた。

 「いえいえ、若菜様はわたくしにとっても可愛い孫みたいなものですから・・・」

 そお言う中島は満面の笑顔を浮かべてハンドルを握っていた。

 「任せてください、若菜を幸せにします!」

 少年が若菜の手を強く握りながら言った。

 「嬉しい・・・」

 そう言って若菜は少年の肩に自分の頭をあずけて涙ぐんだ。

 「頼みましたよ・・・」

 「はい」

 少年の答えに若菜の小さな鳴き声が車内に響いていた。






 京都駅に着くと二人はすぐに車を降りた。

 「それじゃ中島さん、ありがとうございました」

 挨拶をしてから立ち去ろうとする二人に中島が思いだしたように声をかけた。

 「おっと忘れていました、これを・・・」

 「これは?」

 「お祖母様から若菜様にとお預かりしました」

 中島は懐から取り出した一通の封筒を若菜に手渡した。

 「それでは行ってらっしゃいませ・・・」

 「行ってきます」

 頭を下げてお礼をしてから二人は手を取り合って改札の中に消えていった・・・。

 二人の姿が見えなくなると中島は車の中から電話をかけた。

 「もしもし中島です・・・はい、今駅までお連れしました」

 「はい・・・いえそれほどでも・・・はい・・・それでは」

 電話を切り中島は車を走らせた、その顔には満足そうな笑顔を浮かべて・・。

 「上手くいったみたいですね・・・幸せになりなさい若菜・・・」

 電話の相手だった若菜の祖母は幸せそうな若菜と少年の姿を思い浮かべて微笑んだ。






 東京に向かう新幹線の車内で二人は祖母からもらった封筒の中身を見ていた。

 その中には一枚の便せんと通帳と印鑑が入っていた。






     若菜、これを読んでいるということは上手くいった様ですね・・・

     あなたに好きな人がいることは私には解っていました、しかしお祖父様の事だから

     彼のことを話せば反対されるのだろうと考えていましたね・・・。

     若菜、自分の気持ちに嘘をつくと必ず後悔しますよ。

     自分の生きたいように生きなさい、あなたは人形ではないのですから・・・。

     ただし、彼に頼りすぎてはいけませんよ・・・自分のことは自分で決めるのです。

     そうすれば彼もきっと若菜・・・あなたに協力してくれますよ・・・。

     幸せになりなさい若菜、それから彼にもよろしくと伝えておいて下さい。

     私はいつでもあなた達の味方ですから・・・。

     同封してある通帳と印鑑はあなた名義になっています、遠慮なく使いなさい・・・。

     ささやかですけれど私からあなた達二人の門出に贈るちょっとしたお祝いです。

     それではまた会える日まで元気でいて下さいね・・・。

     

     

     追伸

     できたら早く曾孫の顔を見せて下さいね・・・。

                                       祖母より






 「お祖母様・・・」

 その手紙を両手に抱きしめながら若菜は瞳から嬉し涙がこぼれ落ちた・・・。

 少年は若菜の肩に手をまわして、自分の胸に優しく若菜の頭を抱き寄せた。

 「よかったね・・・若菜」

 「はい・・・」

 そのまま少年の胸の中で暫く泣いていた。

 落ち着いたのか若菜は顔を上げて自分の席に座り直した。

 「すみません・・・取り乱しまして・・・」

 「ううん、若菜の泣き顔も綺麗だったよ・・・」

 「もう・・・知りません」

 優しく見つめる少年に若菜は困ったような嬉しいような笑顔で笑った。

 少年は若菜の手を優しく握ると真剣な表情になって自分の気持ちを伝えた。

 「えっと、改めて言うのも照れちゃうんだけど・・・僕と結婚して下さい!」

 そう言って若菜の左手を持ち上げてその薬指に銀色に光る指輪をはめた。

 「こ、これ・・・」

 「そんなに高い物じゃないんだけど・・・」

 若菜は顔を横に何度も振り潤んだ瞳で少年を見つめると自分の気持ちを伝えた。

 「嬉しい・・・」

 そう言って若菜は自分の左手を大事そうに抱きしめた。

 「若菜・・・」

 呼びかけに若菜は顔を上げるとすぐ目の前に少年の顔があった・・・。

 少年が頬に手を当てると、若菜はウットリとした表情になり目を閉じた。

 そして二人はこれからいくつも交わす初めてのキスをした・・・。






 長い長いキスの後、二人は離れた。

 「ねえ若菜・・・」

 「はい?」

 若菜は頬を染めて嬉しそうな表情で少年の方を向く。

 「剣道教えてくれないかな?」

 「どうしてですか?」

 少年は頭に手を当てて苦笑いをしながら言った。

 「あのお祖父さんがこのまま黙っている訳がないからね・・・」

 「まあ、でしたら遠慮はしませんよ」

 「お手柔らかに頼みます・・・」

 「はい」

 若菜は幸せいっぱいの笑顔で答えた・・・。






 そして月日は流れて・・・。






 「ぱぱーままー、はやくはやく!」

 「前を見ないと転びますよ、春菜」

 母親の注意も聞かず、小さな女の子が元気に走っていた。

 「あ、ひいばあちゃんこんにちわー!」

 「今日は春菜ちゃん」

 そう呼ばれた老婆は優しく少女の頭を撫でた。

 「春菜、ワシには挨拶はなしか?」

 「ううん、ひいじいちゃんもこんにちわー!」

 「そうかそうか・・・」

 こちらの老爺もしわくちゃな顔で笑って少女の頭を撫でた。

 その様子を離れて見ていた若い夫婦は仲良く寄り添うように立っていた。

 「全く子供ができたら急に態度が変わるんだもんな・・・」

 「良いではありませんか・・・幸せそうですから・・・」

 夫の方は仕方がないかという顔つきになった。

 妻の方は幸せそうに自分の娘を見つめていた。

 「幸せかい、若菜?」

 「はい、もちろんです」

 そう言って二人は微笑みながら見つめ合う・・・。

 「あー!またぱぱとままがちゅーしてる〜!」

 少女は両親の方を指さして叫んでいた。

 「こら、春菜!」

 「春菜ちゃん!」

 「あはははは」

 春の京都にある広いお屋敷の庭を、元気な笑い声が満たしていた・・・。






 おわり。


 どうもじろ〜です。 

 Missingシリーズ第一段どうでしたか?

 基本的には小説の方が元になっています。

 センチの話で頭に浮かんだのはこの話でした。

 私は明るくて幸せな話が好きなのでこうなりました。

 ほかのキャラクターのネタもあるのですが話に書こうとするとなかなか良い言葉が

 浮かばなくて困っています。

 まあ、才能がないのは仕方がないので精一杯がんばって書くしかないかな・・・。

 それでは第二段の間までしばしのお待ちを・・・。

 


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