センチメンタル・グラフィティ Another Story








 Missing with 七瀬 優

 

 

 

 Presented by じろ〜

 

 




 こしょこしょ。

 「う、う〜ん・・・」

 こしょこしょ。

 「う、うう〜ん」

 「ふっ」

 先ほどからなにやら彼女は寝袋で寝ている彼の顔をくすぐっている。

 こしょこしょ。

 「んんっ・・・ゆ、優?」

 「ふっ・・・おはよう、もう朝だよ」

 優は極上の微笑みを浮かべて彼に朝の挨拶をする。

 「おはよう優」

 「あっ」

 擽られたお返しと朝の挨拶の意味を込めて、彼が優の腕を取って引き寄せると

 そのまま彼女にキスをする。

 「・・・ん、もうっ」

 怒ったように言葉では抗議しても優は頬を赤く染めて微笑んでいる。

 「さてと・・・今日はどこまで行こうか、優?」






 再開を果たしてから同じ大学に進んで、もう二年の月日が流れた。

 今ではどこに行くにも大切な人が側にいて、更に自分と同じ気持ちでいることが優には嬉しかった。

 以前は大切な何かを探す旅だったけど、今は心の底から楽しんで二人旅をしている。

 そんな気持ちが表れるのか、歩きながら優の視線は周りの風景を楽しみながらも時々少年の顔に向いてしまう。

 「ん、何優?」

 「ううん、何でもない」

 少年が視線を感じて優に聞くとニッコリ微笑んで見つめると、さっきからそれの繰り返しだった。

 それを何回も繰り返した時、不意に少年が立ち止まり優の手を握ると再び歩き出した。

 「ごめんね、鈍くて」

 「えっ?」

 いきなり手を繋いだので、ちょっとだけ驚いて少年の横顔を見つめていたけど優の顔にすぐに幸せな

 微笑みが浮かんだ。

 優としては横にいる少年の顔を見つめていただけなのだが、それが手を繋いで欲しいと言う意思表示に取られて

 しまったのである。

 結果的には自分に取って幸せな状況に成ったからそのまま何も言わずに少年の手をそっと握り返した。

 (ふっ、これって役得って言うやつかな・・・)

 そう思うと同時にすぐ側に大好きな人がいる安心感が得られた事の方が、優には嬉しかった。

 中学生時代、それも夏休みの間だけしか会えなかった時を考えると今こうしている事自体が奇跡に思える。

 でも優は信じていた、少年と初めて会ったあの時の気持ちを。

 そして勇気を出して少年に手紙を書いたことを。

 もしそうしていなければ、少年はここにいなくて自分はまだ大切な物を探す旅をしていたんじゃないかと・・・。






 夏とはいえ日が傾いてくると少し涼しくなってきた。

 二人は今日の目的地でもある宿に着くと荷物を置いて一息付くことにした。

 ここは小さな宿で、おじいさんとおばあさんが切り盛りしており知っている人以外はほとんど来ないと言う

 穴場で今日の宿泊客は少年と優だけだった。

 夕飯を食べると浴衣に着替えた二人は腹ごなしの散歩に出かけた。

 誰もいない竹林の中を二人は手だけをしっかりと繋いでゆっくりと歩いている。

 会話もなくただ静かに葉っぱの擦れる音や虫の声を聞きながら・・・。

 「ふっ」

 優が歩みを止め、くるりと振り返ると少年の顔をじっと見つめた。

 「なに?」

 「なんでもないよ」

 目を細めて微笑む優の顔は少年が見とれるほど綺麗で、本当に幸せそうに見える。

 そしてまた歩き出そうとした優を背中から抱きしめると、二人はそのまま動かなかった。

 「さっき、いや今日ずっと気になっているんだけど・・・」

 「な、なに?」

 少年に抱きしめられて耳元で囁かれると、優の胸は動悸が激しくなって顔もさっきよりも熱くなってきた。

 「ずっと僕の顔を見ていたよね? 何か付いているの?」

 「違うよ・・・そうじゃないの」

 自分の体を抱きしめている少年の腕にそっと手を添えると優は目蓋を閉じて静かに語りだした。

 「キミが私の側にいるのが不思議でこれは夢何じゃないのかなって・・・」

 黙って聞いている少年の体温を感じてこれが夢でもなく現実だと感じながら言葉を続けた。

 「でも、それが夢じゃなくて現実なんだと思うとつい嬉しくってキミの事見ていたんだ」

 優の告白を聞き終えた少年は抱きしめている優の体を少しだけ力を入れて更に抱きしめる。

 「夢じゃないよ、僕はここにいるよ・・・優の側にずっと」

 優が確かめるように首だけを動かして背後の少年の姿を見ようとしたその顔に、少年の顔が重なると優の体から

 力が抜けて少年にゆだねるように体を預けた。






 お互いに顔を赤くして少し俯き加減に歩いていたけど、散歩に出かけた時と違って優は少年の腕に寄り添うように

 抱きついていた。

 部屋に戻ってからも何となくすることも無く、お茶を飲んでいたけど不意に少年が優に話しかけた。

 「お風呂でも行こうと思うけど、優はどうする?」

 「うん、そうだね・・・」

 手ぬぐいを持って露天風呂に向かうと入り口でそれぞれ別れる。

 「それじゃ後でね」

 「うん」

 浴衣を脱いで湯船に体を沈めると散歩で冷えた体が暖まっていくの感じながら、優は夜空を見上げる。

 「ふぅ・・・星が綺麗・・・」

 手足を軽く解した後、ちょっとだけ広い湯船を移動していくと湯気の向こうの岩陰に誰か居る感じがしたので

 そっと声を掛けてみた。

 「あの、こんばんわ」

 「えっ?」

 振り向いた人の顔を見て優も、そしてその人も暫し固まってしまった。

 なんとそこにいたのは入り口で別れたはずの少年だった。

 しばしお互いを見つめて固まっていたが、急に少年の顔が真っ赤になったかと思うと慌てて後ろを向いた。

 何で少年がそんな行動を取ったか一瞬解らなかった優だったが少年が湯船に浸かっているのに対して、

 自分がたったままだと気づいてクスッと笑ってゆっくりと体を湯に下ろした。

 「ねえ、どうしてそっち向いているの?」

 「あ、いや〜その・・・」

 「ふっ・・・別に恥ずかしがらなくてもいいじゃない」

 「あ、うん、そうなんだけどね・・・」

 「それとも・・・見たくなかった?」

 「そ、そんなことっ」

 振り向いた少年の目に口元を押さえて笑っている優の顔が写った時、自分がからかわれたんだと解りちょっとだけ

 悔しかったので優の肩に手を掛けるといきなり抱きしめた。

 「えっ!?」

 少年に抱きしめられてその首筋に自分の顔を付けていた優は、今度は自分がどきどきしてしまい始めた。

 「さてと・・・優」

 「な、なに?」

 耳元で囁かれる少年の言葉に多少上せていたのかも知れないが、益々顔が赤くなり胸の動機も激しく高鳴りだした。

 「優から誘ってくれるなんて初めてだね?」

 「えっ、あ、さっきの事は・・・」

 「僕はどうしたらいいのかな、このままここで抱いても良いのかな?」

 「ちょ、ちょっと待って・・・」

 「待てないって言ったらどうする?」

 そう言ってぎゅっと優を抱きしめている腕に力を入れてもっと肌を密着させてきたので、夜なのに優は顔から首筋にかけて

 真っ赤に染まってしまった。

 でもよく見ると少年の肩が小刻みに震えているのを見て逆にからかわれたんだと気づいて、少年の首にキスマークを付けると

 言う反撃に出たので慌てて離したが後の祭りだった。

 「ふっ」

 「・・・やったな〜優?」

 「キミがからかうからだよ」

 「そっちが先にからかったくせに!」

 「知らない」

 「優!」

 湯船の中を逃げながらくすくす笑っている優を捕まえると、少年は優の首筋に顔を埋めるとそのまま自分もキスマークを

 付けて仕返しをしてあげた。

 「あっ」

 「これでおあいこだよ」

 「う、うん」

 よしと言う顔をして少年は優を見つめたが、彼女の顔は恥ずかしさ半分嬉しさ半分の様な笑顔を浮かべて

 少年を見つめ返していた。

 なんだかんだ言って結局いちゃついていたんだと少年と優も自覚すると、その後はおとなしく湯船に身を沈めるとお互い

 肩を並べて夜空に浮かんでいる星を眺めていた。

 「ねえ優・・・」

 「ん?」

 「また・・・来年もここに来ようよ」

 「うん」

 お互いの肩を寄せて、湯船に沈めた手と手をしっかりと握り合って、今この幸せな時間が流れていった。






 かなり長湯をして出てきた二人が部屋に戻ると、布団が並んで敷いてありそれを見たら何となく照れくさい二人だった。

 「な、なんか新婚旅行みたいだね?」

 「あ・・・うん」

 布団の上に座って何となく呟いた少年の言葉に、優も頬を染めながら答えて少し俯きモジモジしてしまった。

 別に二人で旅するのも初めてじゃないし一緒の部屋やテントの中で寝たことも何度も在った。

 そして普段ならそんな事言われても軽く流してしまう優だったが、風呂で出来事があったので何となく意識してしまった

 「それとも本当にそうしちゃおうか?」

 「えっ?」

 その言葉に顔を上げた優の瞳に、顔を赤くして笑ってはいたが真面目な目で見つめている少年がそこにいた。

 「なんかその、気が早いかも知れないんだけどね」

 「いいよ」

 「えっ?」

 「私も・・・キミとだったらいいよ」

 「優・・・」

 真っ赤な顔ではにかんだ笑顔と一緒に少年に答える優の周りには本当に幸せな雰囲気が漂っていた。

 そんな優を見て固まったままの少年に対して優はクスッと笑うとおもむろに三つ指をついて頭を下げた。

 「ふつつか者ですがよろしくお願いします」

 「えっ、あ、うん、こ、こちらこそよろしく」

 「ふっ」

 「くすっ」

 慌てて少年も座り直して頭を下げると、顔を上げた優と目が合うと二人で吹き出して笑い合った。

 ひとしきり笑った後、ふと無言になると見つめ合いどちらともなく手を掴むと指を絡めてお互いの体を引き寄せた。

 おでこを軽くぶつけて鼻を擦り合わせたりして、啄むように何回もキスを交わす。

 「好きだよ、優」

 「私も・・・好き」

 しっかりと抱き合ってキスを交わしながら、そっと倒れ込んでいく二人の思いは一つだった。






 チチチチチッ。

 小鳥の囀る声が朝靄の中に聞こえる。

 まだ寝ている少年の横顔を見ながら優は微笑みを浮かべて見つめていた。

 少年とこうしたことは今までに何回もあったけど、今日はいつになく心がどきどきしていた。

 「ふっ、何かおかしいな?」

 指先で少年のほっぺたを軽くつんつんしながら、呟いた。

 「昨日のキミの言葉かな、やっぱり」

 「う、う〜ん・・・」

 「くすっ」

 優はうつ伏せになって頬杖ついて、まだまだ起きそうにない少年のほっぺたを引き続き突っついていた。

 「これからは・・・キミの事なんて呼んだらいいのいかな?」

 「ぐ〜」

 「・・・ねぇ、起きて・・・あなた」

 それとなくそう言ってはみたが、あまりの恥ずかしさに優の耳まで赤くなってしまう。

 「う〜ん、そう言われたら起きなきゃだめだよね、ねぇ奥さん?」

 「あっ!?」

 どうやら少年は狸寝入りしていたらしく、してやったりとニヤリと笑うと優の顔を見つめた。

 口元を押さえて固まっている優を抱きしめると、少年はその瞳を覗き込むように見つめる。

 「ねぇ、もう一度言ってくれないかな、優?」

 「・・・」

 「優?」

 「もう言わないよ・・・今は、ね」

 「そっか、それは残念だなぁ」

 「でも・・・」

 「うん?」






 「いつかね」






 そして今までとは違う、最初のキスを交わす二人だった。






 終わり


 長らくお待たせしたセンチSS第四弾、優です。

 ちょっと優らしくないかと思われる人もいると思いますが、お許しを。

 少し話もHっぽいかも知れませんが流れでそうなってしまいました。

 でも、結構好きな感じに仕上げたつもりですがどうでしょうか?

 さて、次は晶かほのかか?

 もっと早く更新できるようにがんばります。


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