ふたりのある1日(朝〜昼)
written by kazu

 さがなみ寮の朝、管理人の耕介はTシャツに七分丈のズボンを履いて、いつものようにキッチンに立ち朝食の準備をしていた。
「今日は、みなみちゃんと知佳が学校だったよな。……と、下ごしらえも出来てるし」
 確認しながら今日のスケジュールを簡単に確認している。
 そこへ欠伸ひとつ、ダイニングのドアを開けながら誰かがやってきた。
「ふわぁ〜〜〜あ……。おはよ、耕介くん」
 声の主はそのまま歩いて耕介のとなりに並んで立つと、近くのグラスを手にする。
「お、まだ寝ててもいいのに。どうした、ゆうひ?」
 蛇口をひねり水を出してあげて、耕介は隣に立つゆうひに疑問を投げかけた。
 それにゆうひは水を一口飲んで、「いや〜、あつぅて眠れんかったわ」と空いた手でパタパタと仰ぎながら答えた。
 みると、パジャマの胸元はいつもより大きく開いていた。
「ん〜、なに見とんの耕介くん? まったく、えっちなんやから」
「だったら、そんな格好するなって。男だったら誰だって見るって」
「そやかて、夜に生チチみとるやないの」
 にこっと言って、ぱしっと耕介の胸元へ手の平のツッコミを入れる。
 このへんのタイミングは朝からばっちりだった。
「…で、朝ご飯なにつくってくれるん?」
「いや、簡単な物さ。あと知佳たちの弁当を別に作るくらいかな」
「ならウチも手伝うわ。ひとりよりもふたりってな」
 そういって、グラスを流しに戻すとゆうひは半袖のパジャマなのに腕まくりの仕草をする。
 ま、気分の問題という事だろう。
 それからゆうひは知佳がつかうエプロンを手に取ると、エプロンを後ろ手に縛って準備完了。手を洗ってから耕介の指示のもと弁当作りがはじまった。

「なんか、新婚夫婦だよね」
「はやや〜」
 しばらくしてふたりが朝食とお弁当を作っていると、そんな声が聞こえてきた。
 じつに的を得た科白だったのか、慌てて振り返るゆうひの顔がほのかに赤い。
「な、なにゆうてんの、知佳ちゃん! それにみなみちゃんは赤くならんの!」
「いや〜、あはは」
「耕介くんまで……みんなして、ウチをいじめて遊ぶんやね。かなしいわぁ。よよよ…」
「んにゃ、ゆうひ。いじめてるんじゃないさ、おもちゃにしてるんだよ。な、知佳」
「ん〜、それはいいすぎだよ」
「けっきょく、どっちも変わらんやんか!」
 どっと笑いに包まれるキッチン。
 耕介はサラダを用意しながら笑い、ゆうひは菜箸を振り上げるようにして一応怒っているという意思表示。
 知佳は笑っちゃいけないと思いながらも小さくわらい、みなみはどうしたものかとオロオロしていた。

 朝食も終わって、さざなみ寮は散開とする。
 学生組は学校へ、社会人組(一部除く)はそれぞれの持ち場へと……。
 ここにいるのは耕介と、
「みゃ〜」
 子猫のようだ。
「ん、大虎か。じろー達はどうした?」
 耕介が足元に寄ってきた大虎を持ち上げ、視線を合わせて聞いてみる。
 もちろん、言葉が通じるわけではないがコミニュケーションとはこういうもの。
「みゃぁぅ」
「なんだ、いないのか。お前以外とのんびりしてるからな。おいてかれたかもな」
「みゃう」
「そこでうなずくな」
 ソファにすわり、膝の上に大虎を下ろすと頭をがしがし撫でてやる。
 それを気持ちよさそうに目を閉じて撫でられている大虎。
「おーいたいた」
「ん?」
 どこか人を引きつける声。
 耕介が声のする方に顔を向けると、ブラシと白のヒモ、手鏡を持ったゆうひが立っていた。
 大虎もその声が気になったのか、立ちあがり耕介の頭の上によじ登っていった。
「あ、こら。ツメ立てるな、いたいから」
「あはは」
 それを見て笑うゆうひ。
「ゆうひ〜」
「まぁまぁ、いいやん。子猫の戯れとでも思て、なぁ大虎ぁ」
「にゃ〜」
「おまえら……。で、不良大学生さん。なにかご用で?」
「そうやった。はい、これ」
 そう言って、ゆうひはブラシを手渡すと耕介のとなりに腰掛けた。
「もしかして、髪を梳かせと? お姫様」
「だってぇ耕介くんにやってもらうのって、気持ちええんやもん」
「へいへい。では、じっとしててくださいね」
 耕介はゆうひの髪を手に取るとゆっくり、ブラシを当てて行く。
 長い髪がまっすぐに、さらっと流れていく。
 その間、ゆうひは耕介の頭の上から持ってきた大虎の前足を持って遊んでいる。
「ほら、おおとら〜。肉球ぐりぐり〜」
「みゃみゃみゃぁ」
「ん、気持ちええんか?」
「みゃぁぁ」
「どことなくいやがってるようにも見えるけど」
「でも、ウチは気持ちえ〜し」
「をいをい」
 うれしそうに答えるゆうひをみて大虎がかわいそうになる耕介。
 返す言葉は飽きれていた。
「……と、こんなんでいいか?」
「おお、ありがとう。あと、ポニテにしようと思うんやけど……耕介くんはどれくらいがいい?」
「どれくらいって?」
「根元の高さ」
 ああ、とうなずく耕介。
「やっぱり、お笑い担当のゆうひ嬢にはパイナップルに……」
「いや、それはそれで面白いんやけど」
「冗談は置いといて、普通でいいんじゃない」
「これくらい?」
 ゆうひが両手で髪をまとめると、後頭部にしっぽを作る。
「う〜ん、もっちょい上」
「こんなん?」
「お、いいかんじ」
「じゃ、あとは〜耕介くんまとめてる髪をもう1回ブラシ当ててくれる? で、きれいにまとめてからリボン結んで」
「いいけど、リボンは結べないから自分でやってくれよ」
「お〜けい」
 そして、耕介はゆうひのまとめた髪の根元を左手で持ちながら再び、ブラッシングを開始する。
 するとよれていたりした髪がきれいに纏まって、ポニーテールの形が様になっていく。
「ほい、こんなんでいいか」
「じょうできや〜。あとはリボンを結んで……かんせー」
「おー、キレイだなゆうひの髪は」
「そおか?」
 結んだリボンがどこかネコの耳のようにピンと立っていてかわいい。
 ゆうひが首を左右に振ると、つられてしっぽも右へ左へ。
 それをみた大虎がしっぽの先に前足でじゃれつく。
「それに……若返った」
「ってことは、ウチは今までおばはんに見えてたんかーーっ!」
 ビシッっと素早い切り返し。
 言葉はきついが顔は笑っているので、本人としても怒ってはいないのだろう。
 むしろ、こういうやりとりが好きなんだろう。
「ほんと、ゆうひといるとあきないよなぁ」
「ウチも……。朝起きてぇ、耕介くんがご飯作ってて、ウチが頼んだらなんでも買ってくれて……」
「なんか最後がおかしいです」
「あら?」
「ったく」
 ちいさくつぶやくと耕介は横抱きにゆうひを抱きしめる。
「あ」
 ちいさく驚くゆうひ。しかしすぐに耕介に身を預けるように寄りかかる。
「人が誉めようとするとすぐ茶化すんだよな、ゆうひは」
「う〜ん、根っからの芸人なもんで」
 と、ちろっと舌を出してゆうひは苦笑い。
「そんな明るいゆうひが俺は好きなんだけどな」
「あ、ありがとう」
 短く答えるゆうひの顔は照れてほのかに赤くなっていた。
 それを隠すようにうつむく。
「今日、大学は?」
「もう少ししたら行かなあかんかったけど……自主休校」
「そっか。じゃ、お昼まで時間あるし……もう少しこうしてるか」
「うん」
 ふたり目を閉じて、お互いに抱きしめる。
 そのふたりのあいだで大虎が伸びをして身を丸めていた。

 そして、ふたりと一匹は遅く起きてきた真雪に見つかるまですやすやと眠っていた。
 もちろんその日1日、真雪にからかわれたことは云わなくてもわかるだろう。


   おわり

   あとがき
 ども、はぢめてとらハ2のSSを書いてみたkazuです。
 自分じゃ知る限り、お知り合いのとらハSSしか見たことないんですよね。
 これって、あんまり人気ない?
 かという自分もゆうひ以外はどうでも……はっ、殺気が(笑)

 と、とりあえず今回はいつもと変わらず、な〜んの落ちもない日常SS。
 冒頭の意味のない前振りは無視してください(爆)
 1日を書こうかなと思ったんですけど、長くなりすぎる。
 (本人はこれでも長いと思ってるんですけど…他の作家さんに失礼か?)
 まぁ、最後まで読んでふたりの雰囲気でも感じてもらえればいいかなと。
 でわ〜。

 注:ゆうひ嬢の関西弁はかなりあやしいのでつっこみはしないでください。



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