「♪ウチらヨ〜キな、カッシマッシむっすめぇ〜」
さざなみ寮から、陽気な…というより暢気な歌声が聞こえてくる。
陽もとうの前に落ち、今は満天の星がちりばめられている。
そんな浪漫チックともいえるシチュエーションにもかかわらず、歌声の主は気にしていない様子。
「おう、やっぱりゆうひ嬢は歌が上手い!」
「おおきに。ウチは歌が歌えれば、それで満足やし」
「そうそう、あたしはマンガ書いてる時がおもしろい」
声の主−関西弁の娘とちょっと早口な娘は屋根の上に腰掛け、笑いあった。
ひとり、関西弁の娘は椎名ゆうひ。世間で(世界で)名の知れはじめたシンガー。
ひとり、早口な娘は仁村真雪。ある方面で有名な漫画家。
そんなふたりが屋根の上で月見酒と洒落こんでいたのだった。
酒の肴は……
written by kazu
「まま、もう一杯」
「あのぉ、ウチそんなに飲めんやけど」
「そんなに、なだけで飲めるんだろ? いいから飲め」
そういって、グラスにとくとくと日本酒を注ぐ真雪。
その表情は、咥えタバコを落とさないように器用に笑っていた。
逆に困った表情なのはゆうひ。
「もしかして、酔わして……ウチの身体を? いややぁ〜、ウチはノーマルや」
「笑いながらいってるから、無視」
「あう。そこでノッテくれな〜」
「というか、飲め」
真雪がゆうひの手にあるグラスをゆうひの口元へ強引に運ぶ。
「堪忍や〜……んぐっんぐぅ」
「お〜、いい飲みっぷりだ。……ゴクッゴクッ」
ひとり満足して自分も酒を煽る。
「あんまり飲ませないでくださいよ、真雪さん」
と、そこへやってきたのは大皿を持ったさざなみ寮の管理人兼コックの槙原耕介。
「あ゛〜、耕介遅いぞ」
「あのねぇ。ここまで大皿持ってくる俺の苦労を考えてくださいよ」
「んなことぁ、しらん!」
「肴以下の耕介であった……」
「ゆうひまでいうか」
がっくりする耕介。
乙女(?)ふたりにいいように扱われていた。
「夜風が気持ちいいな」
「そーやね」
耕介もふたりの輪に加わり、秋に近づく風を感じていた。
隣に座るゆうひも少し強く吹いた風に髪を押さえて相槌を打つ。
そして、ふたりの視線がぶつかった時、ゆうひが微笑む。
「なんか、しあわせいっぱいだな。おまえら」
ツマミを頬張りながら少し冷めた真雪の一言。
しかし、ゆうひは真雪のほうへ向き直ると−
「いいやろ〜。ウチのいい人なんよ」
と、耕介を抱きしめて宣言。
みごとあてられてしまった真雪は「へいへい」とつぶやき日本酒をグラス一杯、飲み干す。
そして耕介は抱きしめられたまま「あはは」と笑っていた。
「お、そうだそうだ」
思い出したように、手を叩く真雪に耕介とゆうひの視線が集まる。
「前から聞こうと思ってたんだよ」
「なにを?」
これはゆうひ。
「は?」
「最近、よく千堂がここに来るが…なんでだ、耕介?」
言われてギクッとなる耕介。
そんな耕介をゆうひは見逃さなかった。
「なんや、いまのギクッちゅうのは! ウチというもんがありながら、まさか!?」
「ちょっと待て、すっごい思い込みしてるだろ」
「なにもないのなら、すぐ否定するはず、がそれをしない。なにかあること確定」
「真雪さん、なんてことを!」
「ゆっくり、お話ししよか。耕介くん?」
三角眼でゆっくりと言葉を紡ぐゆうひに、あとずさる耕介。
(……怖すぎる)
それをみてニシシと笑っている真雪。
「あの日、ウチのはじめてを耕介くんに捧げたのに……」
「わ〜、コラコラ! こんなとこでなにをいい始めるんだ」
「痛い痛いゆうてんのに、『大丈夫だからって』……あんなおっきいのを」
「だ〜〜〜っ、ゆうひ! いいかげんにしろっ!」
「! 耕介くんが怒ったぁ」
「泥沼だな」
「あんたのせいだぁっ!」
泣いてしまったゆうひの肩を抱きながら、こうしてしまった張本人の真雪を怒鳴る。
が、そんなことも気にしてないのか、当の本人はゆうひをなだめる耕介を見ながらおいしそうに酒を飲む。
「やっぱ、酒の肴は男女の色恋沙汰に限るな。……くぅ〜っ」
おわり
あとがき
二日連続でかいてしまいました、kazuです。
今回はホスト役にまゆ姉を迎えてみました。
が、まゆ姉はなんか書くのが難しかったです。台詞回しとかね。
(この際、ゆうひ嬢の関西弁は無視)
もはや、とらハ的なにもない日シリーズと化してきた感がある『ゆうひな1日』
……なんだ、この身を締めてる発言は?(笑)
さて、次は猫娘かな?
オチてるのかよーわからんSSに付き合って頂いてありがとうございました。
注:ゆうひ嬢の関西弁はかなりあやしいのでつっこみはしないでください。(お約束♪)
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