第4章
午後3時の列車の切符の発売時間の30分前に駅へ着くと既に30人程度の列ができていた。
徐々に列が長くなり、途中からちゃっかり横入りしようとする人などいると、おばちゃん達が大きな声
で怒鳴りだす。
列を一度離れて戻って来た人が、前に並んでいた場所へ入ろうとすると、周りの人が大騒ぎでケンカとな
る。
列から一度離れた人が、また列に入ろうとすると後ろから抗議の声が聞こえ、私はさっきまでここにいたと
その人は主張する。
周りに同意を求めるが、わたしゃー知らないよっとさっきまで一緒にその人と話していた人までが知らん顔
をする。
列に無理矢理入ろうとするが、あばちゃん達は私の前には入るなと怒る。
入ろうとしているおばちゃんも必死で、列の中に体を何とか入れようとがんばる。
そんな口論や格闘が続き、そのおばちゃんは無事に列へと戻った。その後は何もなかったかのようにまた
その周囲の人々と世間話をして順番を待っている所は南米らしかった。
切符が売られているのだが、一向に列は進まない。
一人10分は確実にかかっている。何にそんなに時間がかかるのか分からないがとにかくじれったい。
結局2時間30分待ってようやく切符が買えた。
列の後ろの方に金髪の旅行者らしき女性がいたが、外国人は俺と彼女の二人だけのようだ。
列車が出発する当日、昼食を食べていたら偶然レストランで切符売り場に並んでいた、その金髪の女性と
一緒になった。
昨日は切符は無事に買えましたか?っと話しかけると、なんとあの後販売は終ってしまい、早朝の3時か
ら5時間並んでようやく買えたのだそうだ。
この切符争奪線は想像以上にすごい物であったようだ。
彼女はスイス人で現在半年間ボリビアに住んでいるそうだ。
俺と同じボランティアで、サンタクルスのサマイパタという地方の福祉施設で、個人のボランティアとして活
動していると話してくれた。
ベジタリアンらしくレストランで野菜だけを注文していたので、ボリビアで生野菜のみは、細菌やウィルスな
どでかなり危険ではないですかと言うと、アメーバー赤痢にはやはりなった事があるそうだが、ボリビアの
生活に慣れなければならないから、病気はしょうがないと彼女。
彼女との話しはとても面白かった。
個人のボランティアなので、生活費などは実費で、ビザも3ヵ月しかないので、3ヵ月毎に一度ブラジルに
出てまた再入国しなければならないらしく、今回もそのためにこの町まで来たのだという。
彼女との話しで一番印象的だったのは「経済的にも、健康的にもボリビアでの生活は大変だけど、私はボ
リビアがとっても好きだから・・・。」という言葉であった。彼女にボランティアとしての原点を教えてもらった
気がした。
15時30分列車はキハロの駅を出発した。時速40Km程度。下手をすれば自転車の方が早い程の速度。
列車は右へ左へ、上へ下へと大揺れ。
しかしジャングルの中を進むこのアマゾン特急は、2時間半切符を買うために並んで良かったと思える刺
激的な列車であった。
列車が急ブレーキをかけて止ると、後ろの車両が浮き上がって前の車両ににぶつかってくる。
脱線でもして事故なのかと思えば誰かが駅でもない場所で下車しただけだった。
夜暗くなれば、列車の中には蚊やトンボや蛍まで光っている。
駅に着けば、食料やジュース売りの子供達の活気ある声。
やっぱり列車の旅は面白い。
隣のおじちゃんと世間話をしたり、どこまでも続くジャングルを見たり、小さな駅に着けば列車が通る事が
村一番のイベントのようで、子供達が列車が通過するのをずっとみていた。
こんなアマゾン特急の旅も24時間後には無事サンタクルスに到着したのであった。
顔中ほこりと汽車からの煙で真っ黒になっていた。
終わり