戦史参考資料 解説

公刊 戦史叢書
防衛庁防衛研修所 戦史室 編纂

終戦時の史料の消滅と散逸などの困難を克服し、1万5千名にも及ぶ歴戦関係者を招聘、12万余の戦時資料を使い3千数百回の合同審議を重ね、述べ134名が編纂に携わった、厳密なる考証に基づく大東亜戦争の真実を究明した膨大な戦争史書。

昭和41年8月から昭和55年1月までの延べ14年、同戦史室創設から準備期間を含めると25年もの歳月を費やして刊行され、陸軍68巻,海軍33巻,共通1巻 全102巻(当初刊行予定は全96巻)から構成され、『公刊戦史』 あるいは 『大東亜戦争 戦史叢書』とも言われる。 終戦後GHQに提出せずに秘匿された多数の資料を基に、国家事業として、我が国における唯一の公的戦史研究機関である「防衛研修所戦史室」(現 防衛研究所戦史部)によって編纂されたもので、史料の厳密な考証と史実の紹介を中心に考察・史観を控え、客観的に事実を伝えることを本旨としている。

初代戦史室長 西浦 進 元大佐 軍務局軍事課長−支那派遣軍作戦課長 陸士34期
同 海上班長 小田切 政徳 元大佐 海兵教官兼監事−支那方面艦隊先任参謀 海兵52期

現在すべて絶版で復刊の見込はなく、大規模な図書館などを除き全巻すべてを閲覧することは難しい。古書店にて個別に入手は可能で比較的購入しやすい号がある一方、巻番号の後半刊行分の入手は困難である。
なお、陸軍と海軍の対立は本書の刊行方針にも影響を及ぼし、結局は陸軍中心のものと海軍中心のものが併存することになり、内容において多くの重複が生じることとなった。また元軍人(作戦参謀)や自衛隊の戦史教官が中心になって記述・編纂を行ったため、作戦の表面が重視され、戦術戦史となったという構成上の問題も残る。 しかしながら我が国の戦史資料としては空前にして絶後のものであり、二度と再びこのような刊行事業を行うことは不可能である。

公刊戦史叢書

  

大 東 亜 戦 争 全 史
服部 卓四郎 著

参謀本部の大東亜戦争機密文書を基に記述した政治と戦略統合の戦争史。戦史研究のための基本書。

服部卓四郎大佐は昭和16年7月から昭和20年2月まで参謀本部作戦課長(途中陸軍大臣秘書官)を勤め、戦後復員省史実調査部長−復員局資料整理部長として大東亜戦争の資料収集と整理を行った。その後、講和条約発効と相前後して公的機密書類が集まりはじめ、昭和28年4月に史実研究所を設立と同時期に「大東亜戦争全史」を出版した。別名『服部戦史』とも言われ、服部卓四郎と上記・初代戦史室長 西浦進とは陸士同期である。 (陸大も42期同期で西浦は首席、服部が恩賜優等 史実研究所の設立も協同してあたった) その後、史実研究所の史料はすべて防衛研修所に移管された。即ち服部卓四郎の資料は西浦進によってそのまま引き継がれ、「戦史叢書」の基礎となったのである。
「公刊戦史叢書」出現以前はこの本が戦史本として最高権威であった。陸軍の作戦課長であったため海軍の記述が少なく、その史観には海軍側からは不満の残るものとなったが、 米国の戦史研究所で全訳されたのを始め、仏、伊の公的研究機関でも翻訳出版され、資料として第一義的価値を持つ総合戦争史として国内外から激賞された。昭和28年に全4巻として刊行されベストセラーとなり、昭和40年に終戦20周年を記念して原書房より合本1冊として復刻改訂、今日でも入手は可能である。
実際の著者は各戦域ごとに以下の担当者が分担執筆し、稲葉正夫元中佐がまとめている。

西浦 進 元陸軍大佐 34期   堀場 一雄 元陸軍大佐 34期
秋山 紋次郎 元陸軍大佐 37期   水町 勝城 元陸軍中佐 41期
稲葉 正夫 元陸軍中佐 42期   藤原 岩市 元陸軍中佐 43期
原 四郎 元陸軍中佐 44期   田中 兼五郎 元陸軍中佐 45期
橋本 正勝 元陸軍中佐 45期   山口 二三 元陸軍少佐 49期

宇垣一成元陸軍大将と野村吉三郎元海軍大将が序文を寄せており海軍側の協力者としては大前敏一元海軍大佐があたった。なお海軍の視点に立ったものとして、高木惣吉著「太平洋海戦史」が本書に相当する。

大東亜戦争全史、陸戦史集

 

陸 戦 史 集
陸上自衛隊幹部学校 戦史教官執筆

陸上自衛隊幹部学校(旧陸大)の戦史教育に携わる教官によって構成された、『 陸戦史研究普及会 』が編纂。 校長・竹下正彦陸将(阿南陸相義弟 元中佐 軍務課内政班長 42期)らが中心となって設立された。同普及会はのちに『 陸戦学会 』(戦史部会)となり、「近代戦争史概説」「現代戦争史概説」「史伝−ソ連軍の建設と独ソ戦」等を刊行した。

昭和41年から昭和48年にかけて刊行され、軍事史上主要な陸上作戦史全26巻(第20巻のみ幹部学校修親会編)から構成される。
戦史を研究する目的の一つは、過去の史実を通じてその状況の中に身を置き、事の因果関係を検討し教訓を得ようとするところにある。従って大東亜戦争に限定されず、著名で特色があり、かつ教訓に富む古今東西の陸上作戦史を主な対象としており、時代・地域・戦争区分などを考慮して集成したもので、日露戦争、朝鮮戦争、中国古戦史なども題材となっている。 編集にあたっては、参考文献として権威ある史料を選択するとともに、興味本位のいわゆる戦記物とは異なり、軍事的な立場で史実を中心に叙術し、客観性を保持するに努めている。
当初の刊行目的は、国土防衛を職とする自衛官にとって、数多くの戦訓を学び取る好資料となり得るよう戦術的かつ軍事専門的であり読者対象は陸上自衛官である と、その専門性を強調していた。しかしその後は広く部外の方にも理解し易いような一般的な表現へと代わり、平易で手頃な内容となった。

当研究室 之以外の参考資料紹介