主人公「赤碕翔」のモノローグです。
役得なのか、文章は質、量ともに圧倒的。芸術の域に達しています。
冗談にしか見えねえが……
シナリオライターは本気のようさ……
ゲーム界の極北に燦然と輝くモノローグを、ここに一挙掲載!
伝説が蘇る夜…か
…くだらねえ
俺はなにひとつわかってなかった
今夜、ベイラグーン埠頭に
集まってる奴らが
なにを待っているのか
なぜこんなに熱くなってるのか
そうさ…… もてあました時間を
埋めるために来てるのは
俺ひとりだけ…みたいだった
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……嘘みたいだった……
俺の手が震えてるんだ
ステアリングが汗ばんでる
俺はゴールするだけで
精一杯だった
窓を開けて、風を入れる
熱くなった空気を冷やさなきゃ
どうかなっちまいそうだった
聞こえてくるのは
風の音にまじったエンジン音と
藤沢先輩を讃える声……
ギャラリーしてた奴らが
口々に…………
ざわめいてやがる
「勝ったのは
BayLagoonRACINGの
藤沢だ!!」
「辻本をあんなに離すなんて
どうなってるの!?」
「これで何連勝じゃ!?
不敗神話も生きてるのう!」
「たしかに
10年前の最速の男よりも
速いかもね」
「『横浜最速の男』…藤沢一輝
新たな伝説の始まりだなっ!!」
………熱い風に
溶けてく…………
……伝説の始まりを告げる……
……夜を讃える声の群が……
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これが……
新たな伝説の生まれた夜の話だ
誰もが浮き足立ってた
もしかして 俺も……
……冗談じゃねえ
何一つ見えなかった
藤沢先輩の走り……
………テールランプすら
俺の視界に入ってなかったんだ
俺は………
ただ身体の震えが止まらなかった
……こんなのは
はじめてだった……
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……俺は渇いていた
理由が欲しかった
昨日の興奮…
身体を襲った震えの理由
ここへくれば
わかるような気がしたんだ
だけど消えちまってた
人も車も
たった一晩で
あれは夢だったのか?
俺はたしかに覚えてる
ヘッドライトの狂騒と
エンジン音の共鳴を……
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…電話は苦手さ…
電話番号なんて面倒なもの
覚えちゃいないし
番号メモリの仕方も知らない
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目の前で吠えてる奴がいる
負け犬の遠吠え
取るに足らない罵りの言葉
俺はひたすら思ってた
得体の知れない興奮が
どこからくるのか?
喧嘩まがいの売り言葉に
買い言葉で
公道レースははじまる
だが、それは馴れ合いの
儀式みたいなもんさ
俺の探してるのは
そんなものじゃない
……シンプルな理由……
……この身体を襲う震え……
…こいつの理由を
知りたいんだ……
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South YOKOHAMA……
……俺たちのSTREET……
……醒めちまったこの街に……
………熱いのは………
俺たちのDRIVING……
「藤沢先輩が、俺をTEAMに
誘ったときの言葉さ
…………いまじゃ
BayLagoonRACINGの
謳い文句になってる
街を流せば、わかるはずさ……
……走りの熱さってやつが……」
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…BayLagoon埠頭……
BLR…俺達……
BayLagoonRACINGの
BasePointさ
「夜を走りはじめる時……
走り疲れ、眠りにつく時……
俺はここで
エンジンを休ませ、シートの感触を
確かめる……
「BayLagoon埠頭……
走りはここから始まり……
ここで終わるんだ」
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「ダッシュボードに山田からもらった
『Beginner’sManual』が
放り込んである
重要なPAGEは、あいつの手垢に
まみれて、何度も読み返した跡がある
このPAGEには、暗記用の下線と
汚い字の書き込みが隙間なく
記されている……
山田には、少なくとも
このManual分の
借りはある……
助けるのも仕方ないか」
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「……冗談じゃねぇ……
来やがった……
弾丸のようなSPEED……
PASSINGの閃光……
……BATTLEの合図……
STREETを流してると
REWARDS目当ての走り屋が
PASSINGしかけてくる
腹を空かしたハイエナども……
売られたBATTLEから
逃げるわけにはいかねえんだ
従うしかねえ走りの掟……
速いヤツも遅いヤツねえ
どいつもこいつも平等にな」
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BayLagoonRACINGの
bQ 難馬さんがバイトしてる
GS MIRAGE
BayLagoonRACINGの
TEAMメンバーは
元はこのGSのバイト仲間だった
時給が安くて、みんな…
すぐにやめちまったけど
人のいい難馬さんは
いまでは次期店長候補さ
難馬さんは口ぐせのように言ってる…
いつでもそばにいたいんだって
オイルの匂いや車のパーツに
かこまれていたいんだって……
…………暑い夜だった
オイルと汗で汚れちまった
つなぎを脱ぎすてながら……
難馬さん……こいつは
おれのレーシングスーツだって
楽しそうに笑ってた
だけど……俺は……
冷たいシャワーで
洗い流そうとしてた
……身体に染み込んだ油の匂い……
難馬さんの言葉で、俺……
このオイルの匂いも
悪くないなって
思いはじめたんだ
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高速入口のすぐ下の
板金屋ムラオカ
車のBODYをいじりたければ
この店が最高さ……
職人肌の気さくな親父が
立ち退きの誘いにも屈せず
小さな工場を守ってる
高速工事に合わせたリニューアルとかで
BODYSHOP MURAOKAなんて
気取った店名に変えたばかりだけど……
名前を変えたところで
夜通し聞こえる車の騒音と
長年使い込まれて汚れた作業服は
変わりばえしねえ
そうさ……変わらねえ
深夜になっても消えることない
作業所の灯りと
YOKOHAMA一だって評判の
親父の腕………
俺たちがいつまでたっても
板金屋の親父って呼ぶことに
御立腹らしいけど……
それは最大限の『R』……
Respectの証だってことにも
気づいちゃいないのさ
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……MARINE TOWER……
走り屋たちのStreetRACE
START&GOALの目印に
おあつらえ向きの道標さ
「STREETの走り屋と
バトルしたけりゃ
勝負の合図はPASSING
細かいことは
わすれちまったけど
速そうなヤツを見つけたら
追いかけて、PASSINGする
それがルールだって
山田から聞いた」
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……ChinaTown……
路地裏の迷宮の袋小路から聞こえる
北京…上海…広東…入り交じった
嬌声が家路につく……
人待ちのタクシー…割り増しの列が消え
残飯狙いの鴉が襲う夜明け前までの
わずかな時間
眠らないのは、不夜城を冠した
原色のネオンサインと
中華街DragRaceを
目当てに集まる走り屋たちさ
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KANNAI STATION前の高層マンション…
俺の知らない国の言葉で名前がついてる
舌をかみそうな建物名は
『月光浴の丘』って意味だって
聞いたことがある
このマンションの最上階に
藤沢先輩が住んでるのさ
俺の部屋にはないものが
そこにはふたつある……
……ウォーターベッドと……
……同棲中の彼女……
「同棲なんて、関係ないな……
藤沢先輩はこの時間、たいてい留守だ
夜は走り屋のステージだから
NightRACERSの
石川の行動は
俺が解決しなきゃならない……」
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BLR行きつけの
TuneSHOP
SPENCER
金持ちのオーナーの道楽で
YOKOHAMA唯一の
RacingCircuitまで
造っちまった
SPENCERでTuneした車を
目の前のCircuitで
TestDriveする……
それが走り屋の基本だって
難馬さんが教えてくれた
SPENCERの雇われ店長は
10年前から走り屋を
やってるって噂の人だ
昔話をはじめたら
夜が明けちまうってくらいの
マシンガントーク
自称…俺たちの気さくな兄貴分だけど
ディスカウントしてくれたことは
一度もないのさ……
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……紅レンガ倉庫……
この辺り……
新港埠頭AREAは
再開発地域ってやつで
立ち入り禁止になってる
そんな場所に集まる連中は
『危ない』の形容詞を称す人種と
相場が決まってる
……倉庫街に黒塗りの
LIMOUSINEか……
三流のFilmNoirの
世界さ
「あそこに俺が近付いたら……
わかるだろ
……CASTは決まってる……
俺には不釣合いの役しか
残されていない
……俺にはまだ
明日があるんだ……」
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「昨日のBayLagoon埠頭にも
LIMOUSINEが止まってた
山田が、いつかはあの手の車を
買うんだって息巻いてた
そうさ……
Driver'sSEATは特注の……
BABY’S SEAT
……お似合いだな」
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初心者に優しい銀行……
WAKABA BANK
困ったことがあったら
ここを訪れるといいって
山田から聞いたことがある
バトルに負けて
オケラにならねえためにも
貯金しとくといいらしいが……
冗談はやめてくれ……
俺の趣味じゃない
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フロントガラスに反射する
遠くの街の明かりに
誰かの顔がかすんで
浮かぶ……
そんなとき……
俺たちはこの店に
車を走らせる
走り屋の集うファミレス
JOHNNY’S
一杯のコーヒーと
お決まりのMENU
噂好きの走り屋たちの
とりとめもないヨタ話
……同じ夜を走る……
ただそれだけのことで
俺たちはつながっている
ここに来れば……
なんとかなる
冷めちまった
コーヒーだって
自分以外の誰かの
温度は伝わるから
JOHNNY’S……
そんな店さ
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BayLagoonTower……
この街に纏わる
おとぎ話の金字塔さ
BayLagoonの建設は
10数年前から行なわれた……
時代は、あぶくのような繁栄を
憑き物につかれたように
追いかけてたあの頃の話さ
建設は急ピッチに進んだっていう
昨日はそこになかったものが
いつのまにか存在してる
……このTOWERは
FANTASYの具象……
幻想の果ての夢の塔さ
夢が夢でしかなく
現実と違うってことに気がついたとき
目の前の泡は消えてなくなってた
…………そのまま…………
BayLagoonTowerも
成長をやめちまったんだ
こいつは夢を食い物にしてた
化け物だったのかもしれねえ
……GhostTower……
バベルの塔を夢見たって
天に届く道はない……
……未来への廃墟……
……BayLagoon……
……サーチライトの筋は
届くことない虚空への階段
……蒼穹の夜空に……
……星はたしかにある……
………俺たちは………
ただ見上げるだけさ……
「ここには誰も立ち寄らねえ……
いつものことさ……
…………道端の屑鉄の中に
まだ使えそうなPARTSが棄ててある
GetREWARDSでいらねえPARTSでも
もらっちまったやつが棄てちまったのか?
誰のものでもない
REWARDSがわりにもらっておくさ」
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……第2氷川丸……
対岸の氷川丸は、役目を終えた旧船だが
こいつの中身は、最新鋭だって噂さ
たとえ、こいつが精巧な
張りぼての船だとしても
そんなことを気にする奴は
ここにはいない
…永遠に未完成なこの都市
……BayLagoon……
……象徴する虚栄の船……
……目の前の海は伊達じゃねえ……
だけど、航海に出ることもなく
この船は置かれてる……
……そうさ、こんな船でも
とがめることなしに
許しちまうのは……
……どこか、俺たちに似てる……
……そんな気がするから……
「ここには……
誰もいない…………
車がないんだ……
わかってはいたけどな……」
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NightRACERSの
溜まり場…本牧埠頭……
米兵がたむろしてた昔から
HONMOKUは、道の先の街だった
ここから、なにかはじまる
そんな胎動の予感をはらんだ
特別な場所だったっていう
この埠頭は本牧の歴史を
見てきたんだ
YOKOHAMAの走り屋は
それぞれ、チームの拠点となる
場所に潜んでる
たまり場で繰り返される
チーム同士の対抗戦
チーム内部での
走りの腕のせめぎあい
今の俺たちも、歴史の……
時の流れの一端にいるに
すぎないのかもしれねえ
そうさ……いつか俺たちも
昔話になる時がくるのさ
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……RevengeRace……
……復讐戦……
大げさな物言いだが……
奴らは本気のようさ……
……めんどくせえな……
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俺が石川に追いつくその時……
NightRACERS沢木の車が
うしろから現れたんだ
……一瞬だった……
俺が抜くのに苦労した車を
一瞬にして抜き去る
NightRACERS沢木の
本気の走り……
……速かった……
……道の彼方にかすんでく……
とてもじゃないけど
追いつけねえ
鈴木に言われたことが
少しだけわかった気がした……
速くなることの
すごさってやつが……
……それが震え……
走りの興奮となって
俺を襲うってことが…
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鈴木は無事に戻ってきた
茶番劇にふさわしい
ハッピーエンド…
なにもなかったなら
それでいいさ
……俺は……
……戸惑ってる……
……無理にでも
そう思おうとしてるのか?
……どうにもならねえ……
鈴木の心の中までは
わからないから
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たくさんの言葉を聞いた……
いまは疲れて眠ってる
隣の席のこいつから
なにが嬉しいのか、よくしゃべる
俺はただ聞いてるだけさ
落ち着いて眠ってるなら
大丈夫……
……朝がくれば
すべて元通りになる
俺ははじめて知ったんだ
『ありがとう』って言葉が
こんなに気持ちの
いいものだったってこと
どうかしてる……
俺がこんなことを思うのも……
……この言葉の
魔法のちからなのかも
しれねえ
俺が一度も使ったことのない
魔法の言葉の…………
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