主人公「赤碕翔」のモノローグです。
役得なのか、文章は質、量ともに圧倒的。芸術の域に達しています。
冗談にしか見えねえが……
シナリオライターは本気のようさ……
ゲーム界の極北に燦然と輝くモノローグを、ここに一挙掲載!
難馬さんは代表決定戦以後
行方をくらましてた
難馬さんの行動……
代表決定戦の前夜
NRの石川との密会………
……俺を刺すように
にらみつけてた、あの視線……
……気になっちゃいたけど……
男はいつだって見栄で生きてる。
同情されるのはまっぴらだ……
難馬さんの口癖だった……
難馬さんの気持ちがわからないでもないから
俺たちは、無理に
捜すことはできなかった
……答の出ることない疑念の数々……
……ろくに走れやしないまま
俺は予選前夜を迎えてた……
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フロントガラスに映る
街のネオンが色を変え
流れてく……
馴染んじまったいつもの情景……
……SouthYOKOHAMA……
……この夜が明けたら……
……戦場に変わる……
……走り慣れたこの路が……
……俺たちの運命をわける……
……JUDGMENT……
……横浜GP予選……
……執行猶予は……
……朝日満ちるまで……
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横浜GP予選前、最後の調整さ。
十分に走り込んでおきたい
わかるだろ?
横浜GPのメインコースは
NorthYK……
今夜中に一度、感触を
確かめておきたいんだ
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…………胸騒ぎがする…………
……沢木…………
どうしたんだ……?
ひんまがっちまったガードレールに
おまえの車の塗料がこびりついて
残ってる
そうさ……消えない傷は
簡単には癒えやしない
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嫌な音だ……
この激しいスキール音……
異常なGripPower…………
並のマシンの力じゃない……
どこだ…………?
どこにいる……?
……俺の神経を逆撫でするこの音……
すぐ近くに潜んでる…………
……俺を……
もてあそんでるのか……?
…………来る…………
化け物だ…………
あの車……
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……さっきの車……
獣の咆吼のようなスキール音……
耳について離れやしねえ
嫌な音…………金属片…
無理に爪で引き裂くような……
俺の意識を逆なでする音……
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名もなき走り屋……
走りはじめたばかりの頃の
俺のように……
自分より速い奴らに勝って
名をあげる
誰もがそうやって
STREETに生き残っていくのさ
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…………横浜GP…………
ここへ来ると思い出すのさ
走り屋・夢の舞台……
明日に迫ってる……
店に来てる奴らは………
OverRevLimit
興奮にまかせて、騒いでる
(客同士の会話)
……俺の気になった話は
それくらいだった……
……石川の『ショータイム』……
……アイツが、次に
なにを企んでいるのか……
JOHNNY'Sに集まる奴らも
いつの間にかショーの上客に
なっちまってたんだ……
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ウエイトレスから
横浜GPのポスターに
サインを頼まれちまった
この店にとっては
俺もそれなりの
商品価値があるってことさ
Johnn'sの店内では
横浜GP予選のTV生中継が
特設モニタで放送されるっていう
……明日も店の喧騒はやむことは
ないだろう……
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あれは……NR石川の新車……?
こんな場所に何の用がある?
NightRACERSは
今夜、代表決定戦のはず…………
桜木町GT……川崎のCANCER……
石川圭介も同じ車…………
……ふたり仲良く……
何の相談だ……?
……ただの車談義……?
まさかな……
あの2人…気になるタッグ………
⇒追いかけてみるか……
……時間の無駄さ
CHINA TOWNコーナーを抜けると
石川たちの車は細い路地に消えちまった……
STARTに出遅れた……
見失ったのも仕方ないか…………
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あのCANCER……
桜木町GTの川崎鉄史
……停まってたのは
NightRACERSの石川圭介
代表決定戦の前に
こんなところで何の相談なのか?
石川圭介と川崎……
やっかいな組み合わせ…………
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……COSMIC BIGWHEEL……
この観覧車の見えるCORNERは
横浜GPの難所のひとつに
数えられてる
観覧車が、視界に入ってきたら
FULL BRAKING……
それぐらいは覚えておいてもいい
確かめるのは、明日……
QUALIFYのテストラン
身体にタイミングを叩き込むのさ
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こんな時間に訪ねるほうが
非常識かもしれないけど
葵さんとしばらく会ってない
藤沢先輩が言ってた……
あいつの仕事が急に忙しくなって
すれ違いの生活だって……
ふたりの生活時間帯……
どうなってるのか俺には
わかりゃしねえ
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……沢木……おかしいよな……
今夜もここに来ちまったんだ……
俺とあんたは
ただ数度……
ともに走った……
……それだけの
関係にすぎねえのに……
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……沢木が戦ってる……
……この夜を越えるために……
……俺がここで
立ち止まっても……
なんにもなりゃしねえ
……俺たちは
走るしかねえんだ……
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……藤沢先輩のRSと
辻本のX1800……
藤沢先輩の場所………
目眩を誘う階段を登り切ると
二人の声をひそめた話が
耳に入ってきちまった……
……ここはJOHNNY'Sじゃねえんだ……
……俺は立ち去るべきだったのか……
聞かなかったことにすればよかったのか……
……聞こえてきたのは
そんな種類の話だった………
(藤沢と辻本の会話)
……夜が更けてった……
……眠れそうにない
俺たちの夜が……
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沢木……
この夜を越えたら……
……横浜GPさ……
おまえに話して聞かせる……
俺たちの戦いの記録を……
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……今夜は雰囲気が違う……
BayLagoon…
YOKOHAMA
横浜GP前の
意識の高揚なのか……?
ちがうさ……
……そんなんじゃない
そうさ……
感じるのさ
この街のどこかに
難馬さんは……
きっと潜んでる……
すぐ近くで……
俺を見てる……
そんな視線を感じる
あのレース前の
うつろな視線……
……どうしちまったんだ?
…………難馬さん…………
……何故、姿を見せてくれない……
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…………難馬さん…………
なにかが俺の中で引っかかってる
……BLRのbQだった
難馬さん……
GSのウンチク話……走り屋の心得……
得意になって聞かせてくれた……
いつだってな……いい人さ……
………横浜GP………
チームの代表は一人だけ
……人が変わっちまったみたいに
虚ろな視線で俺をにらみつけてた……
……あの代表決定戦の前夜……
……NRの石川圭介と
会ってたっていう……
性格も走りも
正反対の石川兄と難馬さん……
不自然な組み合わせ……
なんのつながりもないはずさ
……あの夜から……
俺たちは難馬さんとは
言葉を交わしてない
……空白の時間……
……石川との密会……
深夜の本牧埠頭で……
なにが行われたのか?
俺が気にかかってるのは
そのことだ……
……石川の『ショータイム』……
…………難馬さん…………
巻き込まれちまったのか?
……仮にそうだとしたなら……
……とめなきゃならねえ……
……なにかが起きる前に……
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本牧NightRACERSの
横浜GP代表は、辻本アキラ……
番狂わせは起こらなかった
沢木の突っ込み重視の
コーナリング走法を取り入れた
辻本の走り……一段と速くなってた
石川兄が、新車に変えたところで
実力の差は歴然としてた
だけど……石川兄は、最初から
勝つ気はなかったんじゃないか?
本気で勝つつもりなら
なにも、ZOKKYエアロの
CANCERを選ぶ必要ない
だとしたら、アイツの目的は何だ?
新車に変えたことを目立つ車で
アピールする……自分のようにすれば
いくらでも新しいパーツや車が
手に入る……遅いヤツでも……
GetREWARDSよりも簡単に……?
石川の走り……
そう思わせるのが目的だとしたら……
今夜、本牧に集まったギャラリーたちには
十分な宣伝効果があったはずだ
最初のバトルの頃には
パーツをとられることを人一倍
悔しがっていた石川兄
いまのアイツにはあの頃の
意地汚いせこさのようなものがない
それがいったい何を意味してるのか?
俺にはわからなかった
ただ……嫌な感じが残ってた……
………割り切れない
違和感だけが残ってたんだ
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元町Queen's
横浜GP代表決定戦
CHINATOWNの
曲がりきれない路地裏に
悲鳴のように響きわたる
Wagon660のヒステリックな
ドリフトのスキール音が
バトルの開始を伝えてた
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元町Queen'sの
横浜GP代表は、立河唯
順当にリーダーの
勝利に終わった
三原の走り……
どこか迷いがある
……走りに対する戸惑い……
…………今ここが…………
自分のいるべき場所でない
………そんな………
自分に対する違和感
沢木の事故のこと……
ふっきれてないのか
……あいつは俺と似てるところがある……
……そんな気がした……
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元町Queen'sのメンバーが
残ってる……
道に広げた布…
ぶちまけた蛍光色の文字……
でっけえ横断幕をつくってる
『炎の姉御・元町QUEEN’S 立河唯!!
RUN FOR WIN! 風になれ!
RACING SPIRIT』……
横浜GrandPrix……
応援もTEAM一丸ってわけか
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……俺たち……走り屋は
いつまでもガキのままか
……横浜GP……
いまの俺の気持ち……
これもガキの証か
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……エンジンを休める時……
バケットシートに埋めた
俺の身体に…エンジンの残響が
吸い込まれてく
身体の中で響いてる余韻を感じる
車と一体になるこの感覚……
鼓動がゆっくりと夜を刻む
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あのTUNED CAR……
SEVENベース!?
ナンバーは……1969…
難馬さんのSEVEN…!?
SpecialTuned…?
見たことのないAeroだ……
……俺を誘ってるのか……
…………ついてくしかねえ
SEVENがハザードを出して
停止した…………
そこは、沢木の事故った
……BayLagoon
最終コーナーだった……
……ゆっくりと明滅を繰り返してる
SEVENのハザードの光が
俺を不安にさせてた………
SEVENのパワーウインドウが
降りていく……
ドライバーズシートには
俺の見たことない……
難馬さんが座ってた……
……げっそりと肉が削げ落ちて……
……輝きの失せちまった
闇色の目をした難馬さんが……
(赤碕と難馬の会話)
空ぶかしのエンジン音が
俺の耳をつんざく……
……難馬さんの声は
とぎれとぎれにしか
聞こえなかった……
ウインドウ越しに見えた……
難馬さんの目は………
なにかを覚悟しているようで……
…………それでいて
なにもかもあきらめてるような……
…………何故だろう?…………
…………俺は知ってる気がした…………
…………あの視線…………
俺はどこかで……
同じ目を見たことがある……
…………冗談じゃねえ…………
……俺は止めなきゃならねえ……
……難馬さんを止めるために
俺は走らなきゃならねえ……
このまま……
行かせちまうわけには
いかねえんだ……
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……止めることはできなかった……
……難馬さんのSEVEN……
……MONSTER MACHINE……
……CRAZY DRIVER……
……そんな言葉が脳裏をかすめた……
……難馬さんの走りは
以前とは別物だった……
……俺は相手にされなかった……
…………なにひとつ…………
確かめることもできなかった
そのまま……
難馬さんは夜の闇に
消えちまったんだ
…………残ったのは…………
…………俺の中に…………
なにかが挟まってるままの異物感
……それだけだった……