7題難問ってなんですか?

 1900年にパリで行われた国際数学者会議で、ヒルベルトは23の問題を提起しました。彼がこの具体的な問題を提示したことで、大きな反響が生まれ、その後の数学の発展に少なからず影響を与えたのでした。

 それから100年を経た2000年の5月24日、同じパリで開かれたクレイ数学研究所の年会で、「ミレニアム賞問題」7問が発表されました。

発表されたのは、

 1.P=NP?問題
 2.ホッジ予想
 3.ポアンカレ予想
 4.リーマン予想
 5.ヤン・ミルズ理論とmass gap
 6.ナヴィエ・ストークス方程式とsmoothess
 7.バーチとスウィナートン・ダイアーの予想 です。

 【解けたら賞金100万ドル。期限はなし、何を見ても、誰と相談してもいい。 これほどの難問になると、本当に解けたかどうか、その判定もまた難問です。 そこで、解けたと思う者はまず数学の専門誌に発表します。2年たってどこからも文句がなかったら、顧問委員会がつくられます。詳しく調べ、間違いなしと判定されて、初めて賞金にたどりつけます。】


P=NP?問題

問題の難しさのクラス P と NP

 問題を計算機で解く場合には、まず具体的な問題 (instance) を何らかの形で入力しなければなりません。その入力に必要なビット数を N とします。このとき、ある多項式 P(x) に対して、計算量が O(P(N)) となるような、この問題を解くアルゴリズムが存在するとき、この問題はクラス P に属するといいます。

 もう少し難しい問題のクラスとして、NP があります。ある問題とその答えが与えられた時に、その答えが正しいということを確認するのに必要な計算量が多項式オーダーとなりますこの問題のクラスが NP です。NP の N は Nondeterministic(非決定性)の N なのですが、それについての説明はここでは省略します。

 あきらかに、ハミルトン閉路問題と巡回セールスマン問題は NP のクラスに属します。答えが与えられれば、それがちゃんと問題の解になっていることを確かめるのは簡単であるからです。また、クラス P の問題はすべてNP にも含まれています。

 なお、NP 問題では与えられた問題に指定された解がない場合についての規定はありません。与えられた問題に指定された解がないという判定を行う問題は、これらの問題の双対問題と呼ばれます。NP 問題の双対問題がつくる問題のクラスは co-NP と呼ばれています。

例えば

1,3,5,7,13,14,17,18,23,29

という数字があったとしますよね。これらの数字を組み合わせて(使わない数字があってもよい),『足し算するとちょうど 50 になるような組合せはあるでしょうか?』,『あるとするとそのような組合せは何パターンありますか?』という問題です。

 この問題は数字がたかだか10個しかありませんから,しらみつぶしに調べればいずれ答えがあるかどうか,何パターンあるかということは分かるでしょう。しかし,一般的にこの問題はこれといった決定的な解法がなく,総当たりで調べるしか方法がありません。だから,数字が100個,1000個と多くなると途方もない時間がかかってしまいます。

 昔,高校の頃『解の公式』を習いましたよね?。

 の解は

 というものでした。このように一般的な解法があるものはあらかじめ計算にどれくらいの時間がかかるのか見積もることが出来ます。これを「多項式時間(Ploymonial-time)で解ける」といいます。

 これに対して「素因数分解」や「ナップサック問題」のような問題は決定的な解法が知られておらず,考えられるすべての場合をしらみつぶしに調べなければなりません。このような問題を「多項式時間で解けない(Nondeterministic Polynomial-time)」といいます。

 でも,「素因数分解」や「ナップサック問題」は我々がうまい計算の方法を知らないだけで,ひょっとするとうまい方法があるのかも知れません。

 そこで P 問題(Polynomial つまり多項式時間で解ける問題)と NP 問題(Nondeterministic Polynomial つまり多項式時間で解けない問題)については

  1. P≠NP (世の中には一般的な解法がある問題と,総当たりでしらみつぶしに調べるより他に手がない問題と二通りある)
  2. P=NP (あんたの頭が悪いだけで,一生懸命考えればどんな問題でも一般的な解法があるはず)
のいずれなのだろうという疑問が生じています。たぶん,数学者に限らず頭が良い人々がよってたかって考えても「素因数分解」や「ナップサック問題」のうまい解法を見つけていないので P≠NP なのであろうとは予測されているのですが,まだ証明した人はいません。


ハミルトン閉路問題
与えられたグラフの、同じ辺を通ることなくすべての頂点を通る閉路を求めよ。

巡回セールスマン問題
N 個の都市があり、各都市間の道のりが与えられているとき、すべての都市をめぐる合計の道のりが K 以下となる巡り方を求めよ。


ホッジ予想

複素多様体と微分形式

 ホッジ予想は複素代数多様体に関する予想ですから、複素代数多様体とは何か、ということを説明していきます。

 代数多様体で基本的なものはアファイン多様体というものです。それは複素数体のk個の直積の中の有限個の代数方程式系 f1=…fm=0 で定義される集合のことです。Xをアファイン多様体、xをXの点とするとき、複素解析的に多重円盤と同型な近傍を持つときXは非特異であるといいます。このようなものを複素多様体といいます。
 この多様体という言葉は貼り合わせでできる幾何学的対象を表す言葉です。

 複素多様体では双正則な写像を使って貼り合わせましたが、その代わりに何回でも微分可能な関数、すなわち可微分関数を使って貼り合わせたものを考えることもでき、それは可微分多様体といわれます。可微分多様体の特徴は、その上で多変数の微積分が定義されていることです。

 微分をすることは局所的な操作であり、さらに一変数でいう定積分、多変数でいう多重積分に対応することは大域的な操作であります。その局所的な操作と大域的な操作がうまく貼り合わされるために考えられるものが微分形式と特異鎖です。うまく張り合わされる、ということは積分の座標変換の公式が微分形式の定義のなかに内包されるということです。
 これを述べるには外積代数の言葉を使うのですが、外積代数を考えることにより微分形式には次数なるものが定まってきます。また、一変数でいう代数学の基本定理に対応するものについて考えるために、微分形式に対して外微分なるものが定義されます。

 可微分多様体を考えることの利点は微分形式、特異鎖による積分、外微分等の概念がワンセットになって考えられるということです。Xのi次の微分式全体のなす一般には無限次元のベクトル空間を Ai(X) と書きます。このとき外微分は Ai(X) から Ai+1(X) への線形写像となります。ちなみに、特異鎖に関しては位相空間の構造にしかよらないので、複素多様体でも可微分多様体でも考えるものは同じです。

 複素多様体は自然に可微分多様体の構造を持つので、それによって複素多様体にも可微分形式が考えられますが、複素多様体の複座標 z1,…,zn を使って考えると、微分形式は一次の正則微分形式 dz1,…,dz,dzn および d@1,…,d@n によって外積代数として生成されます。これからi次の微分形式は dzi1∧…∧dzip∧d@j1∧…∧d@jp なる形の元で生成されます。ここで p+q=i であり、p,qをひとつ決めて、前記の形の元で生成されるi次微分形式を(p,q)形式といいます。(p,q)形式の全体のなす Ai(X) の部分空間を Ap,q と書きます。
 この二重の次数付けは、ホッジ予想を述べるときに重要な役割を果たします。


ホモロジー代数の手法

 ここまでで可微分多様体に対して正則微分形式が定義され、さらに複素多様体に対しては(p,q)形式が定義されることを説明しました。複素多様体Xに対して  Ai(X),Ap,q(X) なるものが考えられますが、これは無限次元のベクトル空間となります。
 Ai(X) の空間部分 Zi(X)={ω∈Ai(X)|dω=0} をi次閉微分形式、 Bi(X)={dω∈Ai-1(X)} をi次完全微分形式といいます。外微分に関しては、dod=0なる関係が示せますので、 Bi(X) は Zi(X) の部分ベクトル空間であることがわかります。ここで、閉微分形式 ω12 が同値であることを、 ω12 が完全微分形式となっていることによって定めます。この同値関係に関する同値類をHA(X)と書き、ド・ラム コホモロジーとよびます。これは有限次元ベクトル空間であることがわかります。これを定義するのにXの可微分多様体の構造を使っているので、HA(X)は可微分多様体の不変量である、ということがわかります。
 加法群Ai(i=0,…,m)と加法群の準同型 d:Ai(X)→Ai+1(X) でdod=0をみたすものからHA(X)なるベクトル空間を得ましたが、そのような手法をホモロジー代数的な手法といいます。


射影多様体とホッジ分解

 多様体の位相的性質としてコンパクトという概念がありますが、ケーラー多様体がコンパクトであるとしますと、微分形式の正則、反正則に対応して定まる(p,q)形式への分解がド・ラム コホモロジーにも引き継がれます。このことと、ド・ラムの定理とあわせて考えると、特異コホロジーHB(X,Q)は複素数体まで係数拡大すれば、ホッジ分解 HB(X,Q)FCGCDHp,q(X) をもちます。アファイン代数多様体はコンパクトにはなりませんが、射影多様体というものを考えると、それはコンパクト・ケーラー多様体となります。これは複素射影空間のなかで同次式の共通零点として表される代数多様体のことです。

 Xの余次元iの代数的閉部分多様体が定める特異サイクルから生成されるHE(X,Q)の空間部分を代数的サイクルの空間といいます。

 予想(ホッジ) Xを非特異な射影多様体とすると HE(X,Q)∪Hi,i(X) は代数的サイクルの空間と一致します。


モチーフとホッジ予想

 ホッジ予想の考え方を一歩進めて、代数的対応に対する予想にいいかえることもできます。ホッジ分解を抽象的に定義したものをホッジ構造と呼びます。Xが複素射影多様体であればHi(X,Q)はホッジ構造をもつということができます。
 いまX,Yをそれぞれ n,m次元の射影多様体、ZをX*Yの余次元mの部分閉代数多様体とするとZのコホモロジー類 cl(Z)∈H2m(X*Y,Q) はコホモロジーの写像 Hi(Y,Q)→Hi(X,Q) を引き起こしますが、これはホッジ構造を保つ写像となっています。ZはXからYへの代数的対応と呼ばれ、種々のコホモロジー理論においてコホモロジー間の準同型を誘導します。
 このようなものを踏まえて、代数的対応を射とするような圏、モチーフの圏が考えられました。こうすると、モチーフの圏からホッジ構造の圏への関手がえられます。こうするといくつかの仮定のもとでは、モチーフの圏からホッジ構造の圏への関手が忠実充満関手であることとホッジ予想とは同値であることが示されます。


だからホッジ予想って何なのさ?

 以上からモチーフに関して知りたいことがあったら、ホッジ構造さえ見れば事が足りることを主張している予想がホッジ予想であるといえます。


ポアンカレ予想

ポアンカレ予想と平行線の公理

 ”平行線の公理は定理ではないか” という、解決に二千年かかった疑問とポアンカレ予想は似ています。
 非ユークリッド幾何の発見により定理でないことが示されるまで多くの数学者が挑戦し、誤って定理であるとした研究もありましたが、それらの業績が幾何の進歩に大きく貢献しました。

 ポアンカレは19世紀の終わりに一つの予想を提起しましたが、その反例をみずから発見し改めて予想をたて直しました。20世紀を通して多くの研究が積み重ねられ、間違いも多かったのですが、トポロジー(位相幾何)の発展の推進力となりました。
 二つの問題の難しさは、ともに無限と連続に深くかかわらざるを得ない点にあります。数学はつねに無限と有限、連続と離散の間を揺れ動きます。科学や技術におけるアナログとディジタルの関係と同じです。直線は無限に延長できるとか、直線上には点が連続的に隙間無く並んでいるという事実(?)なしにはユークリッド幾何は成立しませんし、微分や積分など社会におおいに役立つ数学も無限と連続を出発点にしています。

 ポアンカレ予想は高い次元から順に5次元まで解決し、4次元はほぼ解決して、3次元だけが残りました。高次元の空間は余裕があるので、その中の低い次元の図形は自由に動かせることが高次元から解けてきた理由の一つであります。


高次元ポアンカレ予想

 n-ポアンカレ予想はSnとホモトピー同値な閉n-多様体MnはSnと同相である。 でありますが、最初の予想ではホモトピーをホモロジーとしました。誤りには違いないのですが、当時としては卓抜な発想でした。n≧5で解決しています。その主役なるのがMnハンドル分解です。微分多様体でもできますが、ここはPL多様体で説明します。

 Mnのi-単体ξiのふち(bdξi正則近傍)を削ってHiとし、Hiに厚みをつけてn-球としたものがi-ハンドルλiです。0-ハンドルから順にハンドルをその接着面で貼りつけてMnを作ることができます。SnからMnへの非退化PL写像fがあれば、Snのi-ハンドルλiの像μi=f(λi)が定まります。SnとMnがホモトピー同値であること、Mnが単連結であること等から、Mnのハンドルの間の幾何的条件を導き、Mnのi-ハンドルと(i+1)-ハンドルをキャンセルしてゆき、最後に0-ハンドルとn-ハンドルが一つずつ残るとMnはSnと同相であることが示されます。

 これからPLトポロジーの立場で話を進めます。
 Sn⊃Si(n>i) のときSiをSnの中の結び目と呼びます。Snの(i+1)-球Bi+1があって bdBi+1=Si となるとき結び目Si自明であるといいます。n-i≠2を除いて結び目は自明です。ただし、n-1=1のときはシェンフリーズ予想と呼ばれていましたが、n=4でほぼ自明、それ以外では自明となることが示されました。

 結び目の問題はポアンカレ予想と深く関係し、n=3,4でポアンカレ予想が困難にぶつかる原因となっています。Mnの単連結性を使うと、n≧5ではMn内のS1には2-球B2が張れるので、B2を一点につぶすPL的操作を行うと、Mnと同相なn-多様体を得ます。この性質を巧みに利用したホイットニーの手品や、もっと一般化したカラップスという強力な手法が高次元ポアンカレ予想に役立ちました。


低次元ポアンカレ予想

 4-ポアンカレ予想はほぼ解決されましたが、3-ポアンカレ予想は未解決です。低次元の空間は迷路が多くて迷いやすいのが理由ですが、予想を解決するには二つの場合があります。

 a) 予想を証明する
 b) 予想の反例をみつける

 b)を示すにはSnとホモトピー同値ですが同相でない閉n-多様体Mnをつくると同時にSnとMnで異なる位相不変量(同相性をはかるものさし)を発見しなければなりません。


リーマン予想

リーマン予想って何だろね

 リーマン・ゼータは、複素変数sの関数であり右半平面Re(s)>1における絶対収束積あるいは絶対収束級数として

で定義されます。リーマンは、ζ(s)が全複素平面 s∈C 上に有理型接続可能であり、S=1に一位の極を持つ他は正則であること、および関数等式

 π-s/2Γ(s/2)ζ(s)=π-(1-s)/2Γ((1-s)/2)ζ(1-s)

が成立することを証明しました。(Γはガンマ関数)。
 彼は1859年の論文にて、素数の個数をζ(s)の複素零点によって表す公式を証明しました。そこでは s=1/2+it とおいたうえで関数

ξ(t)=1/2s(s-1)π-s/2Γ(s/2)ζ(s)

を導入し、ξ(t)がtの偶関数であり、零点が -1/2≦Im(t)≦1/2 の範囲にあることを証明しました。

 そして彼はξ(t)のすべての零点は実数であろうと予想するに至りました。これはζ(s)に戻して考えると

ζ(s)の零点は、Γ(s/2)の極と一致して打ち消し合うか、または Re(s)=1/2 上にある

となります。

自然数のべき乗の逆数の無限和

 次のような無限級数の和は容易に求められます

1 + r + r2 + … = (1-r)-1、 |r|<1

(1・2)-1 + (2・3)-1 + (3・4)-1 + … = 1

 これに対して,次の無限級数の和はそうはいきません。
1-2 + 2-2 + 3-2 + …

この和を最初に求めたのは,オイラーでした。オイラーは1735年に

1-2 + 2-2 + 3-2 + … = π2/6

であることを発見しました。この不思議な公式を発見したとき、オイラーはその喜びを次のように述べています
 「私は何度試みても、それらの和に対する近似値しか得られませんでした...しかるに、今回まったく思いもかけず、この和に対する優雅な公式が発見できました。それは円周率に関係しているのです。」
左辺をいくらながめても影も形もない円周率がどうして右辺に現れるのでしょうか?オイラーがどのようにしてこの等式を発見したかを説明しましょう。

 まず,三角関数 sin xは次のようなテイラー展開を持ちます


sin x = x - x3/3! + x5/5! - x7/7! + …

また、xのn次多項式f(x)がx= a1, ... ,anで0になれば、

f(x) = b(x - a1) … (x - xn)

と因数分解できます。sin xはxの多項式ではないですが、x= nπ, n=0, ±1, ±2, ±3, ...で0になりますから、無限積

bx(x - π)(x + π)(x - 2π)(x + 2π) …

として表せないでしょうか。しかし、この無限積は収束しないことは容易にわかります。そこで、少し修正して

bx(1 - x/π)(1 + x/π)(1 - x/(2π))(1 + x/(2π)) …
= bx(1 -x22)(1 - x2/(2π)2) (1 - x2/(3π)2) …

を考えます。これは収束して、x= nπ, n=0, ±1, ±2, ±3, ...で0になる関数を表します。この関数をg(x)とします。 もし、sin x=g(x)になったとすれば、

1 = limx → 0 sin x/x = limx → 0 g(x)/x = b

より、b=1です。実際に、

sin x = x(1 - x22)(1 - x2/(2π)2) (1 - x2/(3π)2) …

が成り立つことが証明されます。これをsin x の無限積展開といいます。オイラーは sin x の無限積展開のかけ算を展開して得られる級数とsin xのテイラー展開のx3の係数を比較することによって、自然数の平方の逆数の無限和の値が π2/6であることを発見しました。さらに、オイラーはx5,x7, ... の係数を比較することによって、

1-4 + 2-4 + 3-4 + … = π4/90,
1-6 + 2-6 + 3-6 + … = π6/945,
1-8 + 2-8 + 3-8 + … = π8/9450,
1-10 + 2-10 + 3-10 + … = π10/93555,
1-12 + 2-12 + 3-12 + … = 691π12/638512875,

を求めました。一般にkを正の偶数とすれば、

ζ(k) = 1-k + 2-k + 3-k + … = (有理数)πk

であることがわかります。このようにして、オイラーは等式(*)を発見しましたが、多項式の因数分解をsin xのような関数にも適用してしまうオイラーの大胆な発想は当時の数学者達からも疑念を持たれました。しかし、オイラー本人はこの議論によって結論されるこれらの和の値が以前に数値計算して得られたものとぴったり合っていることから、それらの値が正しいことを確信していました。発見から10年後の1745年にオイラーは無限積展開についても証明を与えています。

 正の偶数kに対するζ(k)の公式に現れる有理数は、ベルヌイ数を用いて表すことができます。それは、円分体の類数と密接に関係して、フェルマー予想に関するクンマーの仕事において重要な役割を果たしました。また、kが3以上の奇数のときには、この和がどんな数であるかはほとんど知られていません。アペリーによって、k = 3のときの和が無理数であることが証明されたのは、1978年のことでした。

 実数s>1の関数ζ(s)を収束する無限級数


ζ(s) = 1-s + 2-s + 3-s + …

によって定義します。これは1以外のすべての複素数sの関数に拡張されます。これをリーマンのゼータ関数といいます。リーマンのゼータ関数の解析的性質は、素数の分布と密接に関係しています。リーマンのゼータ関数の自明でない零点はすべてsの実部=1/2という直線上にあるという主張が、「リーマン予想」と呼ばれる未解決の大問題です。
ヤン・ミルズ理論とmass gap

はじめに

 1950年代にヤン(Yang)とミルズ(Mills)によって提唱されたいわゆるヤン・ミルズのゲージ理論はその後大きな発展をとげ、現在では一般相対性理論と並んで自然界を記述するもっとも重要な基礎理論としてその地位を確立しています。

 自然界には4つの異なる力、すなわち電磁気力、弱い力、強い力、重力が存在しますが、このうち電磁気、弱い力、強い力の3つの力は種々のヤン・ミルズ理論によって記述され、一方、重力はアインシュタイン(Einstein)の一般相対性理論によって記述されると考えられています。

 ヤン・ミルズ理論は、素粒子の強い力(strong force)を記述するゲージ理論で、通常カラー・ゲージ理論あるいはQCD(quantum chromodynamics,量子色力学)と呼ばれています。素粒子の強い相互作用に関しては、よく知られているように

 @) 物質の基本粒子であるクォークの間には強い引力が働きこのためクォークは3つずつ集まって核子を作る。
 A) 同様にクォークと反クォークは引きあって中間子を作る
 B) さらに核子と中間子が結合して原子核を作る

 など数多くの事実が知られています。このように物質の根幹である核子や原子核を構成する力が素粒子の強い力で、現代の素粒子論ではこの強い力をゲージ理論によって説明できると考えています。
 素粒子の強い力のもつうちでもっとも著しいものはいわゆるクォークの閉じ込めです。すなわちクォークは単独では自然界には存在せず、必ず核子や中間子の中に閉じ込められているという仮説です。クォークの閉じ込めは、まず実験的に遊離したクォークが今まで一つも見つかっていないこと(クォークは2/3や1/3のような半端な電荷を持つので実在すれば実験的に検出可能と考えられる)。さらに、QCDを格子上で定義した格子ゲージ理論の数値計算がクォーク閉じ込めを強く示唆していることなどから、現在素粒子の標準模型の一部として研究者の間で広く信じられている仮説です。

 クォークの閉じ込めを解析的に示すため過去20年以上にわたって多くの試みがなされてきましたが、満足すべき結果は得られていません。現在の場の理論や超弦理論の技術の範囲ではクォークの閉じ込めを示すことはきわめて難しいとされ、その証明には何らかの概念的、技術的なブレークスルーが必要と考えられます。このためにはここ数年で発展してきた超対称性ゲージ理論の非摂動的手法などがおおいに役に立つ可能性があります。

参考) クォークの閉じ込めとハドロンの性質

 クォークはハドロンの中に完全に閉じ込められています。このことはこれまで経験してこなかった現象ですが、原子核の構成粒子である核子の描像をとらえるには不可避の問題です。

 クォークと反クォークの系を考えます。実際にはクォークは色電荷を持ちますが、話を分かりやすくする為にクォークが正、反クォークが負の電荷を持つと考えて、その正と負の電荷を適当に離して置いてみます。通常は正電荷から負電荷に向かって、電気力線は空間内を自由に広がって分布し、クーロン力を生じます。もし、我々の真空が電気力線を排除する性質を持っていれば、図に示す様に、電気力線の数は保存するので、電気力線は二つの電荷間を直線的に結ぶ様に分布せざるを得なくなります。この現象は超伝導体でのマイスナー効果に似たものでありますが、電場と磁場の役割が反対になっているので、双対マイスナー効果と呼ぶにふさわしいのです。格子QCDでもこの性質が確かめられております。

図 正電荷と負電荷の間に作られる電気力線の様子
(上) 真空が電気力線を排除する性質をもっている場合は、電気力線が絞られる。
(下) 通常の真空の場合はクーロン力を与える。

(大阪大学核物理研究センター要覧より引用したものを引用)

クォーク閉じ込め

 クォークの閉じ込めを示すには、強く相互作用する赤外領域でカラー・ゲージ理論を正確に解き、その振る舞いを決定しなければならず、摂動論を超えた理論の解析が必要となります。

 今、クォークの閉じ込めが起きている場合を仮定すると、クォーク間のポテンシャル・エネルギーはその距離Rに比例して増大する必要があります。 V(R)ITR 実際この場合、ポテンシャル・エネルギーは距離Rとともにいくらでも大きくなり、クォークを引き離して閉じ込めを破るためには無限大のエネルギーが必要になります。式の因子Tは質量の2乗の次元を持つパラメータでストリング・テンション(string tension)と呼ばれています。

 カラー・ゲージ理論のラグランジアンには質量の次元を持つパラメータは存在しません。このためstring tensionは摂動論の各次数では零になり、クォークの閉じ込めが起こらないことが容易に分かります。
 実際、摂動論の各次数では閉じ込めのポテンシャルのかわりに電磁気でよく知られたクーロン型のポテンシャルが得られます。クーロン力ではもちろん閉じ込めは起こりません。

次元転移とマス・ギャップ

 質量の次元を持つパラメータがもともと理論の中に存在しないにもかかわらず、量子化された理論を非摂動的に調べることによりTのような質量の次元を持つパラメータが出現する可能性を考えてみましょう。これは場の理論で次元転移(dimensionaltransmutation)と呼ばれる現象です。このためにはラムダ・パラメータと呼ばれる次の量

Λ=μexp(-(12π2/11g(μ)2))

 を定義しましょう。繰り込み群を用いて計算すると

dΛ/dμ=exp(-(12π2/11g(μ)2))(1+μ(24π2/11g(μ)3))dg(μ)/dμ)=0

したがってΛはスケール・パラメータμによらない物質量(繰り込み群の不変量)になっています。
 また、Λは定義から質量の次元をもつため、次元を持たない量g(μ)から次元を持つ量Λへの変換(次元転移)を表すと考えられます。
 したがって、QCDにもしクォークを閉じ込めるポテンシャルが現れるとすれば、右辺の因子TはΛ2に比例し、

V(R)=定数*Λ2R=定数*μ2exp(-(24π2/11g(μ)2))R

の形を持たなければならないことになります。

 閉じ込めポテンシャルの結合定数に対する依存性は、繰り込み群の考察から非摂動的な形 exp(-const/g(μ)2) に定まっています。閉じ込めが起きるかどうかは、上記式の定数が零か零ではないかという問題に帰着します。

 閉じ込めが起きる場合には、結合定数g(μ)はラムダ・パラメータに”化けて”理論全体の質量のスケールΛを産み出すことに費やされており、このような状況では理論にΛのオーダーのマス・ギャップ(mass gap)が生じています。すなわち、閉じ込めが起こっている場合は理論の相関関数は一般に指数関数的 (Iexp(-ΛR)) に減衰する振る舞いを持ち、素粒子理論的にはゲージ場に質量(Λ)が生じた状況に相当します。粒子が質量Λを持つと、そのエネルギーEはアインシュタインの関係から E≧Λ となり、0とΛの間の値をとれなくなります。これをマス・ギャップと呼んでいます。すなわち、閉じ込めをしめすのはマス・ギャップの存在をしめすことと等価になります。


ナヴィエ・ストークス方程式とsmoothess

 ナヴィエ・ストークス方程式の研究は今世紀の非線形解析の発展に大きな影響を与えました。無限次元空間での写像度と不動点の理論や偏微分方程式の解の分岐の理論の構築、微分方程式の解のさまざまな近似計算法の開発等は、この方程式への応用を強く意識してなされたものです。

 また現在、研究の活発な数学の分野で流体の物理に起源をもつものは数多い。その一方、流体の基礎方程式の解について、肝心なことは何も分かっていません。
 ルレーの研究以来70年近くを経た今日まで、多くの著名な数学者がこの問題の解決に取り組みましたが、解析学の現在の到達点と最終目標との間には、どうしても埋められないギャップが存在するようです。

 現在では多くの数学者は、たぶんこの問題は解析学の在来の手法だけでは解決できず、何か新しい概念や新しい発見が必要だろうと考えています。

方程式の由来

 ナヴィエ・ストークス方程式は、水に代表される非圧縮流体の運動を古典物理学の立場から記述する偏微分方程式です。古典物理では物体の運動はニュートンの第2法則に従って、それは

@) 運動量の時間変化率=対象に働く力

 と表現されます。物体の運動をどんな変数で記述するかによって両辺の形が決まりますが、通常それは、質点系や剛体の場合には常微分方程式で、流体(液体や気体)や弾塑性体等の変形する物体の場合には偏微分方程式で表されます。

 水の運動に@)を適用してみましょう。水は水の分子の集合ですが、古典的には連続体と見なしてその運動を記述します。n次元空間の点を x=(x1,…,xn) で表します。ただしn=2またはn=3とします。ある時刻tに点xをよぎる水の微小部分を与え、その密度を ρ(x,t), 速度を u(x,t)=(u1(x,t),…,un(x,t)) で表します。またこの微小部分が時間の経過とともに描く曲線を x(t)=(x1(t),…,xn(t)) で表すと、速度の定義により

dxj/dt=uj(x(t),t), j=1,…,n,

 が成り立ちます。水の密度を一定と見なして@)の左辺を運動量の各成分ρujについて計算すると、合成関数の微分法則により

d/dt(ρuj)=ρ(d/dt)uj(x(t),t)=ρ(Jdxk/dt∂uj/∂xk+∂uj/∂t)=ρ(Juk∂uj/∂xk+∂uj/∂t)

が得られます。

次に@)の左辺ですが、水の微小部分に作用する力としてまず考えられるのは、いわゆる外力と圧力でしょう。外力は文字通り遠方から作用する力で、たとえば重力、あるいは水が帯電していれば電磁気力等が考えられます。それを ρf(x,t) と記します。次に圧力ですが、これは対象としている微小部分に対して、周囲の水が接触面に垂直な方向に及ぼす力です。結論だけ述べると、圧力 p(x,t) はスカラー関数で、その勾配ベクトル

-∇p=-(∂p/∂x1,…,∂p/∂xn)

が@)の右辺に現れます。以上の考察により、@)から次式が得られます。

A) ρ(∂u/∂t+u・∇u)=ρf-∇p
(u・∇u=u1∂u/∂x1+…+un∂u/∂xn)

方程式A)は未知関数uとpに関する連立方程式ですが、n+1個の未知関数に対して方程式の数がn個しかありません。それを補うのが質量保存則ですが、今は密度一定の仮定があるので、それは非圧縮性条件といわれるものになり、具体的には

B) ∇・u≡∂u1/∂x1+…+∂un/∂xn=0

と書くことができます。A)とB)を連立させれば未知関数の数と方程式の数が一致し、連立方程式として辻褄の合う形のものが得られます。

 方程式系A)-B)を非圧縮流体に対するオイラーの方程式といい、18世紀以来流体の基礎方程式として用いられてきましたが、やがてこの方程式の解は必ずしも現象を正しく反映しないことが明らかになりました。
 有名な例としてダランベールの逆理があります。それは、定常な流れ(uやpが時刻tに依存しない流れ)の中の物体には流れからの抵抗が働かないことを主張します。これは明らかに現象に反します。
 したがってオイラー方程式は信頼できないことになりますが、オイラー方程式を導く上記の方法に反省を加え、@)の右辺において粘性力を考慮し、実際にその具体系を導いたのは、フランスのナヴィエでありました。1823年のことです。流れの中で隣接する水の微小部分相互の間に働く力は圧力だけではありません。水に限らず、手近にある流体は多かれ少なかれ粘性を持ちます、アルコールがサラサラしているのは粘性が小さいからであり、グリセリンの動きが鈍いのは粘性が大きいからです。粘性は、流体の微小部分の間の摩擦により互いの運動が妨げられて生じると考えられます。ナヴィエはそれを数式化して、A)の代わりに

C) ρ(∂u/∂t+u・∇u)=ρf-∇p+μ△u
(△u=∂2u/∂K+…+∂2u/∂L)

を提案しました。μは粘性係数と呼ばれる正の物理定数で、粘性の大きさを表す尺度です。方程式C)はナヴィエとは独立に、1845年にイギリスのストークスによっても提案され、方程式系B)-C)は(非圧縮粘性流体の)ナヴィエ・ストークス方程式と呼ばれるようになりました。

 物理学に現れる他の方程式と同じように、ナヴィエ・ストークス方程式にも付帯条件が課せられます。通常は、初期条件(初期時刻における速度場uの指定)および境界条件(物体との接触面での速度場の指定)になります。境界条件としては、固定物体の境界面Sに接触する流体がSに付着したままであることを要求する粘着条件 u|s=0 を採用することが多いです。他にも状況に応じてさまざまな境界条件が考えられます。

 さて、n次元空間Rnになめらかな境界Sをもつ領域Dを固定し(D=Rnでもよい)、その中を水が流れているとします。この状況下で、初期条件・境界条件を付したナヴィエ・ストークス方程式を書き下しておきます(Dが全空間のときは境界条件は”無限遠でu=0”となる)

D) ∂u/∂t+u・∇u=f-1/ρ∇p+υΔu,
∇・u=0,
u|s=0, u|t=0=a.

ここでaは与えられた初期速度場であり、 υ=μ/ρ は動粘性率と呼ばれる正の定数です。 u=u(x), p=p(x) の場合にはこれを定常解と呼び、対応する流れを定常流と呼びます。その方程式は

E) u・∇u=f-1/ρ∇p+υΔu,
∇・u=0,
u|s=0.

ただし外力fは時刻tによらない関数とします。

 方程式系D)あるいはE)はいずれもu・∇uなる項を持つ非線形の方程式であり、線形方程式と違って解の重ね合わせができません。このため一般的な状況下で方程式を解いて現象と比較するのが容易ではありません。ただ定常解についてはさまざまな状況下で厳密解がかなり知られていて、流体力学のどの教科書にも載っています。厳密解に対応する定常流は、少なくとも動粘性率υが十分大きいと見なされる状況の下では自然界に実現されることも知られています。
 ところが、実験装置を操作してυを小さくしていくと、ある値を境にして厳密解に対応する流れが現れなくなり、代わりに別の定常流が現れます。しかし、この場合でも厳密解が方程式系E)の解であることに変わりはありません。

 これは数学的に次のように証明されます。

υがある値より大きい場合E)の解は唯一であり(これは証明される)、その解に対応する流れが実現される。しかしυがその値より小さくなると定常解の一意性が崩れて新しい定常解が現れ(これは証明を要する)、それに対応する流れのみが物理的に実現されます。このことは解の安定性という概念を用いて次のように理解されます

「υが減少してある値を超えると、安定だった解が不安定になり、別の安定な解が現れる。」

 この現象は「解の分岐」と呼ばれ、非線形振動論等で古くから研究されていたものです。安定性と分岐の数学理論は近年急速に進歩していますが、流体の運動全般を扱うにはほど遠い段階にあります。

 さて、υをさらに小さくするとどうなるでしょうか。生起する現象は状況によりさまざまですが、υのいろいろな値を境にして定常解や時間周期解が次々に分岐した後、ついには特定のパターンを伴わない非定常流に落ち着きます。非定常流とは方程式系D)の解のことで、υが小さい場合、流体力学では乱流と呼ばれます。これに対し、特定のパターンを持つ流れを層流と呼びます。層流はかなりの程度ナヴィエ・ストークス方程式の解で記述されることが知られていますが、乱流についてはどうでしょうか。

 河川の流れ、海流、気流等、我々の周囲の流れはほとんどが乱流であり、層流は特殊な環境の下でしか実現されません。このことから、一般的な外力と初期条件の下で方程式系D)の解法を論ずることの意義が理解できましょう。そもそもD)は一般に解けるのでしょうか。解くためには解にどんな制約条件が必要でしょうか。また得られた解はどのような意味で乱流を記述しているのでしょうか。

 こうした問いに答えるべく、方程式系D)の解の存在、一意性、微分可能性、データに対する解の連続依存性等の研究が始まりました。20世紀前半のことです。

ルレーの仕事と未解決問題

 ナヴィエ・ストークス方程式の数学的研究はルレーの一連の仕事に始まり、事実上それに尽きるといっても過言ではありません。初期値・境界値問題については、ルレーは2次元流と3次元流を扱いましたが、そこにはこの問題にまつわる種々の困難とその打開策についての貴重な示唆が見られます。

 ルレーの仕事はその後拡張され、結果も現代的手法によって改良・精密化され、未解決問題もいくつかは解かれました。しかし偏微分方程式論でもっとも基本的な「解の存在・一意性・なめらかさ」について、物理的にもっとも重要な3次元流の場合に本質的進展が見られません。ルレーは時代に先駆けて弱解(超関数解)の概念を導入し、エネルギーが有限な任意の初期速度に対して、弱解がすべての時間に渡って存在することを示しました。2次元流の場合には、弱解は与えられた初期速度に対して一意に定まり、初期時刻を除けば、外力のなめらかさに応じて弱解のなめらかさも増していくことが知られています。つまり2次元問題ではなめらかな解の一意存在が確立されています。しかし3次元問題では、弱解一意性もなめらかさも、ルレーの研究以来相当の進展はあったものの、υが大きい場合(層流に対応する)を除いて依然未解決のままです。

 ルレーは全空間R3における問題を扱い、υの大小に関わらず、なめらかな初期速度に対し、初期時刻の近傍でなめらかな解が唯一存在することを示しましたが、同時にまた、この解が有限時間内になめらかさも一意性を失うであろうこと、そしてその時点以降ナヴィエ・ストークス方程式は流体の方程式は流体の方程式として意味を失うであろうことを予言しました。乱流とはそんなものだ、というのが彼の哲学だったようです。しかし彼の予想を支持する人は少ないのです。

 事実「乱流の物理学」ではナヴィエ・ストークス方程式を理論の基礎に置きますが、それで特に重大な支障はないようです。だからこの方程式は何らかの意味で乱流をも記述しているのでしょうが、その「意味」を明らかにしようとすると、紆余曲折の末に、結局は3次元空間におけるD)の解の一意性となめらかさの問題に立ち戻ることになるのです。


バーチとスウィナートン・ダイアーの予想

 バーチ、スウィナートン・ダイアー予想(以下BSD)をひとことで言うと、楕円曲線のゼータ関数が有理点などの数論的な情報を含んでる、という予想です。一般に、ゼータ関数が重要な数論的対象の情報を含んでいるというのは、数論人間の信仰に近く、そのもっともわかりやすく典型的な場合の一つが楕円曲線の場合、すなわちBSD予想なのです。

楕円曲線のL-関数

 ここでは、有理数体上に定義された楕円曲線だけを考えることにします。楕円曲線の方程式は適当に変数変換すれば

y2=f(x)
(f(x)=0 は重根を持たない3次式)

と書けます。有理数体上に定義されているとは、多項式f(x)の係数が有理数だということです。Eを y2=f(x) なる有理数体上に定義された楕円曲線とします。このとき、Eのゼータ関数 ζE(s) は、

ζE(s)=ζQζQ(s-1)/L(E,s)

という形に分解します。ここに、L(E,s)はEのL-関数、ζQ(s)はリーマンのゼータ関数 ζQ(s)=Mn-s

です。つまり、Eのゼータ関数の主要部は、L-関数L(E,s)なのです。L(E,s)はほぼ次のように定義されます。Δを多項式f(x)の判別式、2Δを割らぬ要素pに対して、

ap=p-(合同式y2≡f(x) (mod p)の Fp(=Z/pZ)の中での解の数)

と定義します。このとき、L(E,s)はほぼ

L(E,s)=N(1-app-s+p1-2s)-1

で定義されます。ここで「ほぼ」とかいてのは、本当のL-関数を得るにはΔを”最小”になるようにとらねばならず、そのためには方程式の形も y2+axy+by=f(x) の形を考えねばならず、またそれでもΔを割る素数p(このような素数pをEにとっての”悪い素数”といいます)に対しては、pの性質によって、右辺に1±p-sをかけなければならない場合があるからです。

 さて、L(E,s)は上記の形だと実部が3/2より大きいところで絶対収束し正則な関数となりますが、全平面で正則な関数に解析接続できることが分かります。そこで、L(E,s)のs=1でのテイラー展開が考えられますが、その様子についての予想がBSD予想です。

楕円曲線の有理点

 上に出てきたような方程式 y2=f(x) にどれだけ有理数解があるか、ということは非常に古くから問題とされてきており、古代ギリシャのディオファントスまでさかのぼるといってもよいでしょう。 (x,y) が y2=f(x) の有理数解、つまり曲線 E:y2=f(x) の上の点でxもyも有理数であるものとするとき、(x,y)をQ-有理点といいます。ここでは、Q-有理点を単に有理点とします。

 さて、Eは3次曲線だから、PとQをEの有理点とすると、PとQを結ぶ直線は(y軸と平行でない限り)必ずEと再び交わります(ただし、接するときは重複度もこめて考える)その点をRとするとRも有理点です。x軸に対し、Rと対称な点をR'とすると、R'も有理点です。PとR'を結ぶ直線は再びEと有理点Sで交わります。Sと対称な点をも有理点だし、これらのたくさんの有理点から二つとってそれらを結ぶ直線を作り、その直線が楕円曲線と再び交わる点を構成していけば、いくらでも有理点が得られるように思います。

 しかし、それは正しくありません。例えば、y2=x3+x2-x という楕円曲線上には、(0,0),(-1,1)という二つの有理点がありますが、上の操作を繰り返しても結局(±1,±1),(0,0)という5つの点しか得られません。

 一方、y2=x3+17 という楕円曲線の2つの有理点(2,5),(4,9)に対して、上の操作を繰り返すと無限個の有理点が得られます。与えられた楕円曲線が有限個の有理点しか持たないか、それとも無限個の有理点を持つかということを判断することは、最初の重要な問題です。

 楕円曲線の有理点(Q-有理点)は、無限遠点を加えて有限生成アーベル群をなすことが知られています(モーデル・ヴェイユの定理)演算は上の状況において、P+Q=R' で与えられます。Q-有理点に無限遠点を加えて群と見たものを普通E(Q)と書きます。E(Q)は有限生成アーベル群なので、

E(Q)GZrOE(Q)tors

の自由部分とねじれ部分とにわかれます。アーベル群E(Q)の階数rを知ることはもっとも基本的で重要な問題です。

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