第2章  新たな出会い


「ふう、ご馳走様」
「お粗末さまでした」
母の答えに思わず微笑んでしまう。
「みさき、美味しかった?」
「うん、美味しかったよ」
「みさきがあまりにも美味しく食べるから見ていて飽きないわ」
ひどいことを言う。
「う〜、お母さんそれ誉めてないよ」
「ごめんごめん」
笑いながら母は言う。
「早く着替えてらっしゃい、部屋に用意しておいたから。そしたら髪をといてあげる」
何時も楽しそうに、私を元気つけてくれる母。
「うん、着替えてくるね」
私は浩平君のことで落ち込んだ姿を見せないように、笑顔で答える。
でも、知っている。
母は私の笑顔が仮面であるということを………。
部屋を出て2階へあがる。
部屋には今日私が着て行く服が用意してあった。
確認すると、私はベットへ腰掛ける。
その時手に触れるものがあった。
あの人と最初に外でデートしたときに着た服だ。






手紙を受け取ったあと私は日記を読むことが出来ずにいた。
その時は大学の入学を待つだけの暇な毎日をすごしていたので時間だけはあった。
そんな日常の中で私は一人で、どうにかして点字にする方法を探していた。
そんなある日、私は雪ちゃんから電話をもらった。
「みさき元気? 今日さあ大学へ行ってみようよ」
4月から私たちが通う大学へ行って見ようとの誘いだった。
毎日自宅で思い悩んでいる日々を過ごしていた私だったが気分転換にもと思い行くことにした。
駅前で待合わせ。
大学までは電車で4駅という近さだったが、電車に乗るのもあの事故以来始めてなので緊張したが、
雪ちゃんが何かとサポートしてくれたおかげでスムースに行くことが出来た。
「雪ちゃん、ありがとう」
「みさきの場合なれないと大変だもんね」
当然の事をしたような顔で言ったが、にやりとすると
「天然もあるからね、みさきの場合」
ひどいことを言った。
「うー、雪ちゃんひどいよ」
すねたように言う私。
「さあ行くよ」
私の手を引っ張って大学の正門に向かった。
「ちょっと、ちょっと待ってよー」
よろけながらも何とか雪ちゃんについていく。
「みさき、さっさと行くよ」
「待ってよー」
気が付いたときには今までの憂鬱な気分は無くなっていた。
(雪ちゃんありがとう)
大学に着く、構内に入ると風が変わる。
「良い風が吹いてるね」
「私は同じように思うけど」
雪ちゃんにはわからないかな。






お母さんが用意していてくれた服を着る。
最近お母さんからよく言われることがある。
「みさき、そろそろ誰か服を選んだり髪をといてくれる人を見つけないとね」
と楽しそうに言う。
浩平君が帰ってきたら服を選んでもらおうかな。
でも、あの人だと変な服を選んだりしそうだから………。
そう考えるとつい顔がほころんでしまう。
着替え終わり、立ち上って下へ降りようとしたが足を止めて机の上から一冊のノートを取り出す。
点字で書かれた本、あの人の日記を点字にしたノート。





大学の構内を雪ちゃんと散歩していたとき、賑やかな楽しそうな声が聞こえてきた。
「あかり、早く行くぞ」
「まって浩之ちゃん、マルチちゃんがまだ来てないよ」
「ったく、しょうがねーな」
仲が良さそうな声。
あの人が帰ってきたら私達もあんな感じなんだろうなと考えてしまう。
その時後ろから、「浩之さーん、待ってくださいー」
女の子が泣きそうな声で走ってくる声が聞こえて………そして私にぶつかった。
「みさき、大丈夫?」
雪ちゃんが心配そうに声をかけてくる。
「いたたた、あの大丈夫ですかぁ」
優しそうな柔らかい声、澪ちゃんが話せたらきっとこんな声。
「マルチ、大丈夫か」
さっきの男の人の声。
私は雪ちゃんに助けられてようやく起き上がった。
「大丈夫ですか」
さっきの男の人が声をかけてきた。
「ほらマルチ、ちゃんと謝れよ」
「は、はい。ごめんなさい、大丈夫ですか」
「大丈夫ですよ」
と私が答える。
それからお互いに自己紹介となった。
藤田裕之さん、神岸あかりさんと私達と同学年になるHMX−12マルチさん。
藤田さんの話によるとマルチさんは自己学習能力を持つアンドロイドだそうで、経験をつませるために会社の方から長期にわたってテストを受けているそうらしい。
「変な会社だよな、大学にまで通わせるんだもんな」
と、藤田さんの話。
でも実際マルチさんと話してみると、とてもアンドロイドとは思えない、感情が豊かで言われなければ解らないほどだった。
その後お茶でもということになり、向かったのは喫茶店じゃなく部室。
藤田さんたちはマルチさんの影響もあってボランティアを行う部を作っているらしい。
今日は待望のマルチさんが無事(?)高校を卒業してこの大学に入学するということで早い歓迎会を兼ねて大学を案内するとのことらしい。
「マルチは早くから慣れさせておかないととんでもない事をするから…」
「浩之ちゃんその言い方は可愛そうだよ」
苦笑気味に神岸さんが言っていたと後で雪ちゃんが言っていた。
私もボランティアには多少興味があったので何をしているのか聞いてみた。
「特には決めていないけど、今年は点字本を作ってみたい」
と藤田さんは言った。
「本屋で本を選んでそれを点字にしても良いんだけど、何か他のがあればと思っているんだ」
と言った。
私は突然のことで声も出ずにいたが、「川名さん、どうかしましたかぁ」とのマルチさんの声で気がつき、今までも出来事を話した。
驚いたのは藤田さん達で、どうやら私の目が見えないことを気が付かなかったらしい。
で、浩平君の日記を練習も兼ねて点字本にすることになり、私と雪ちゃんもサークルにはいることになった。
「春休みで来ていない連中もいるけど、今日は歓迎コンパといくか」
とのことで、突然のコンパとなってしまった。
そして次の日から春休みを返上して日記を点字本へ訳す作業になった。
完成したのは、私達が大学に慣れて夏休みに入るころ、7月に完成したのだった。
ただ、マルチさんはまだ慣れないみたいだけど・・・。
楽しい日々だった。新たな出会い、雪ちゃんがあの日誘ってくれなければ、マルチさんとぶつからなければこの出会いはなかった。
でも、楽しいときの間でも私の心の中には穴が一つあいていた。
どんなに楽しいときでも、私の中にはさめて悲しんでいる私がいた、浩平君がいないことを悲しんでいる私がいた。





私は日記から手を離すと下へ降りるために部屋を出た。
そして下へ降りると、洗面所へ入り顔を洗う。。
顔を洗いながらつくづく目が見えないことの不便さを感じる。
そしてお母さんに髪をとかしてもらい、玄関に向かう。
すぐ近くだけど卒業以来近寄ったこともないし、意識したこともなかった場所、意識しないようにしていただけかもしれなかった。
気がついてみたら高校は、私にとって近くて最も遠い場所になっていた。
…………。
高校を意識した瞬間に浩平君がいない現実を突き付けられるような気がして怖かった。
私はそこまで避けていた高校へ向かおうとしている。
私の卒業式に来てくれて私を送り出してくれた浩平君、その浩平君の卒業式だもの私一人でも心から卒業をお祝いしてあげたい。
私は玄関ドアに手をかけて高校へ向かう、浩平君のいないあの場所へ………。





日記が点字になって、改めて読んでみた。
あの人の日々が手に取るように解る。学校帰りに立ち寄る店、日々の夢に出てくる女の子とそして旅、募る不安感………。
それらのことが淡々と書かれていた。
私は次の日からこの日記に書かれている場所へ出かけていくことにした。
あの人のことを忘れたくなかった、覚えているのは私だけだったし。
クレープ屋、本屋、公園、そして喫茶店。
夏休みのある日私と雪ちゃんが大学からの帰り道(サークルは夏休みにもあった)二人で商店街を歩いていると後ろの方から服を引っ張られた。
澪ちゃんだった。雪ちゃんが入っていた演劇部にいたしゃべれない子。
私達3人は近くに在った喫茶店に入った。
入って、雪ちゃんからこの店の名前を聞くまではここがあの人の日記に出てくる喫茶店だと気づきもしなかった。
その時「澪がね、ここに前誰かときた事があるんだって。でもそれが誰だかわからないっていってる」と雪ちゃんが伝えてくれた。
私は、そのことが日記に書いてあることに気づき澪ちゃんに聞いてみた。
「折原浩平って人じゃない?」
「その人の名前聞いたことがあるの。でもわからいの」
との事だった。
皆が思い出してきたのかもしれなかった。
その後も私の散歩は続いた。
一人のこともあったし、雪ちゃんと一緒のこともあった。
10月を過ぎるころから時々見られているような気がするときがあった。
優しく懐かしいような感じがした。
12月が過ぎたころ、雪ちゃんが「折原浩平って知っているような気がする」と言い出した。そのころからは外を散歩しているとき一人のときも誰かの気配を常に感じていた。
その気配は私にとっても懐かしく安心できるものだった。
そして、3月に入って1年が過ぎようとしていたとき雪ちゃんがこう言った。
「みさきと何時も一緒にいた折原浩平君、最近見かけないけど元気にしているの」と。





私は1年ぶりに高校の敷地に入った。小さいときからよく来ていた場所だからまだよく覚えている。
ここを右に行くと体育館、私が足を向けたとき呼び止められた。
「川名さん? 川名さんですよね…?」







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