うさぎVr1.00

writen by ボンド


第1章 出会い



雪が降っている。
街灯に照らされて次から次へと。
静かにまるで妖精が舞っているかのように。
しんしんと誰もいない通りを白いベールで隠していく。
辛いことも楽しいことも全てを隠してしまうかのように。
雪が降っている。
川の流れが止まることがないように雪が次から次へと静かに降っている。
音も雪が隠してしまったように静かに降り続いている。
北の大地に雪が降り続いている。



俺は雪が降り続く中、1軒のバーに向かって歩いている。
街灯に雪が照らされるだけで人の気配もない通りを1人歩く。
これでも旭川の中心街なのだから…。
きゅきゅと雪を踏みしめる音だけが聞こえてくる。
その音さえも降り続く雪が消してしまう。
周りの店から灯りがもれ、多分その店を開けると人であふれているに違いない。
北の冬の日常。

バーで会うのも定例となった感があるが、俺は待ち合わせ場所に急ぐ。
こうやって裕一と会うのも3ヶ月ぶりだろうか。
高校2年のとき裕一が此方へ来てからもう10年以上の付き合いとなる。
裕一は高校卒業後もこっちに残って地元の某国立の医科大学に進学した。
最初はあれほど東京に帰りたがっていたが。
俺の方は東京の大学に進学したので立場が逆となった。
その時以来俺たちは場所を決めて定期的に会うようになっていた。

ぼんやりとした灯りに照らされてトレードマークの幌馬車の車輪が見えてきた。
俺はその車輪の脇の狭い階段を上がり狭いドアを開ける。
よく磨かれた木製のカウンターが自慢の雰囲気のいい店だ。
カウンターに置かれたリキュール類が照明に照らされてまるで宝石のように輝いている。

「いらっしゃい」
マスターが微笑みながら俺に声をかけてくる。
このマスター太平洋航路の客船でシェーカーを振っていたという人で、
結構な年のはずなのだが、今でも元気にシェーカーを振っている。
腕も一向に衰えないという恐ろしい人でもある。
「やぁ、マスターお久しぶり。 相沢来てるかな」
俺は暖気にほっとしてコートを脱ぎながら答えた。
自慢じゃないが、酒の飲み方からカクテルの種類まであらゆることをこのマスターから教わった。
酒の師匠になるのかな。
「来てるよ」
マスターは顎で合図する。
その方を見ると裕一が苦笑しながら俺を見ていた。
「元気だったか?」
俺は相変わらずにやけている祐一に言った。
「まあな。 相変わらずバカやっているんじゃないだろうな」
祐一は楽しそうだ。
「ふん、お前ほどじゃないさ」
俺はぶっちょうずらで答えた後、俺達は同時に笑い出してしまった。

「香里から聞いたんだが裕一、結婚するんだって」
俺は早速、今日の目玉となっている話題を振ってみた。
「名雪だな…」
裕一は今でも水瀬家の厄介となっているらしい。
いいかげん独立すればといつも思うがその度に「事情があるからな」という。
香里にそれとなく聞いてみても「知らないわ」としか答えない。
つまり自分で聞けということだ。

「なに飲んでいるんだ」
俺が裕一に聞くと。
「バーボン」
「じゃあ、マスター俺もいつもの…」
「これだろう」
マスターは笑いを堪えながら青い宝石のようなカクテルを俺の目の前に置く。
俺は裕一のほうに小声で「変なこと言ったかな」と聞くと、こいつも背中を丸めて笑っていた…。
「お互いに成長せんな」
裕一は笑いがら俺に言う。
「まあな、お互い様さ」
俺も答える。

「ところで、おまえが結婚する相手って誰なんだよ」
俺は話を元に戻した。
「うん…」
「高校のときから付き合っていたんだってな、俺ぜんぜん知らなかったぞ」
その時、裕一は一瞬辛そうな顔をした、まるで嫌な夢を思い出したかのように。
そして苦笑いをしたと思ったら定期入れを取出し俺に1枚の写真を見せた。
「こいつだよ、腐れ縁でな、最初に会ったのは俺が…どうかしたか」
見覚えがあった。
大きな優しそうな目、肩に軽やかにかかった髪、表情豊かな顔からこぼれるような笑顔。
「…あゆ。この娘の名前、月宮あゆって言うんじゃないか」
俺は思わず呟いた。
裕一は驚きを隠そうともせず「どうして…」と呟いている。
「やっぱりそうなんだな。まさか彼女が待っていたのがお前だったとは」
俺はグラスを眺めながら答える。
記憶という引出しが今開かれようとしている。
「北川、お前があゆのことを知っているとは・・・」
俺は裕一の顔をまっすぐ見ると、
「彼女、病院に入院していただろう」と聞く。
裕一は頷きながら真剣な顔で「あゆのことをどうして知っている」と俺を見つめながらつぶやく。
俺はグラスの中身を一口で飲み干すと、マスターにグラスを振って次を頼んでからゆっくりと聞いた。
「聞きたいか」
裕一がただ頷くのを確認してから、俺は今では遠い彼方へ過ぎ去ってしまったと思っていた記憶をたどり始める。
「最初に彼女を目にしたのは中学のころだったと思う」俺は楽しくもちょっと悲しい記憶を語り出す。



秋も深まったある日、いつもの様に香里に急かされながら学習塾へ通う。
「北川君、遅いわよ!」
香里がむっとした顔で俺の方をにらみつける。
「遅くなったのは俺のせいじゃないぞ、香里が遅れたんだろう」
俺は香里の背中へ向かって言う。
「私が悪いんじゃない…栞が…」
香里は急に立ち止まってつぶやく。
すぐ後ろを歩いていた俺は当然…。
「うわ!」
「きゃぁ!」…
「痛いわねー」
香里が俺の方を見て叫ぶ。
「俺のせいじゃないぞ」
当然だ、突然立ち止まったのは香里の方だし。
「うふ、早く行くわよ」
香里は俺の顔を見ると落ち着いた顔で微笑ながら言った。
「お、おい、待てよ」
俺は普段は見る事が出来ない、香里の大人びた表情にちょっと心臓の鼓動が早くなった。「何照れてるのよ」
見透かされていた。
「うるせ」
俺が照れ隠しに横を向いた時だった。
駅前のベンチに一人座っている少女の姿が目に入った。

その娘は白いリボンをカチューシャの様に結び、白いワンピースの姿で寂しそうに一人ベンチに座っていた。
もう夕日が沈みかけ会社帰りのサラリーマンや高校生で混雑していたが誰一人その娘に気が付かないのか見向きもしないのが印象的だった。
俺はしばらくその娘を見ていることにした。
なに、受験は来年だったし今から行っても遅刻だった。
一人寂しそうに足元を見つめている、時々気が付いたかのように辺りをきょろきょろ見渡したかと思うと又寂しそうに足元を見つめる。
そんなしぐさが可愛くもあり可哀想でもあった。
俺はそんな彼女が気になって待ち合せをしている振りをしながら彼女を見つめつづけた。辺りは夕日がほとんど夜の闇に飲みこまれようとしていた。

どのくらい時間が経ったのだろう相変わらず彼女の待ち人は現れる気配はなかった。
さすがに可哀想になって俺が声をかけようと足を踏みだそうとした時肩をたたかれた。
香里だった。
肩にかかるやわらかそうな髪の中に大人びた優しげな微笑みをうかべた香里。
俺は突然肩をたたかれた事より香里がそこにいる方に驚いてしまった。
「授業とっくに終わったわよ」
どうも俺の考える事はお見通しらしい。
「何やってるの?」
「ったく、びっくりさせるな。 あそこに女の子がいるだろ」
俺が香里に言うと、
「ん? 女の子って…誰もいないわよ」
そんなばかなと思いながら俺は振り向くとベンチには誰もいなかった。
「戻って来た時から誰もいなかったわよ」
香里がそんな事を言っているのを聞きながら俺は香里に引っ張られるようにして家へ帰った。
結局その日はあの寂しそうに誰かにすがるような表情がいつまでも気になって眠れなかった。

「顔色悪いけど大丈夫?」
次の日寝不足で憮然とした顔の俺に香里が聞いてくる。
「ああ、ただの寝不足だからな」
「ふぅん、早く寝たほうが良いと思うよ」
「なぁ、香里」
「何?」
「昨日…」
「ん?」
「…いや、何でもない…」
怖かったのかもしれない「きっと夢だよ」そう言われることが。

今になってよく考えてみるとなぜあそこまでむきになったのか良くわからない。
もしかしたらあの娘のことが好きになってしまったのかもしれない。
でもあの時の俺にはそんなことを考える余裕もなかった。
昨日あの場所で香里が言った事が気になって俺は授業が終わった後そのまま駅前に駆けつけた。
夢でないようにと思いながら。

駅前に近づくにつれ胸の鼓動が激しくなる。
その角を曲がると駅前を見渡せる場所まで来た。
角にあるデパートの壁にもたれて呼吸を整える。
「落ち着け」と何度も言い聞かせながら。
こんなに興奮したのは初めてだった。
これから楽しい事が起きる予感がした。
俺は息を整えるとその角を曲がって顔を上げ昨日のベンチを見た。

あの娘は昨日と同じ姿で座っていた。
誰も振り向こうとせず、一人寂しそうに誰かを待っているかのようだった。
うつむいて肩を落とし座っている、時々思い出したかのように辺りを見渡す。
俺は昨日と同じく誰かを待つふりをしてそっと彼女を見ていた。
昨日は薄暗くて良く分からなかったが、肩にふわりとかかる髪の毛をカチューシャ代わりのリボンでとめて、少したれた感じの目が印象的な娘だった。
「あの娘と話したい」俺はそう思うようになっていた。
しかし、きっかけが無くただ眺めているだけの日々が続いた。

青かった空もオレンジ色に変わり始めていた。
北の大地は急激に秋から冬へと変わってきていた。
日が射している間は暖かいものの日が沈むと急激に気温が下がって来る。
寒さに体が震える。
「うう…」
俺は急激に下がってきた気温に耐えかねて悲鳴をあげた。
「うぐぅ…」
ほとんど同時にに彼女も声を出した。
「え…」
「え…」
思わず俺は彼女の方へ目を向けると、
驚いた様に俺を見つめる彼女の目があった。
「さ、寒いね」
俺は引きつった顔に無理矢理笑顔を作りながら答えた。
「う、うん」
照れたかのように下をむきながら答えた。
「………」
こんな時の沈黙は気分が悪くていけない。
「待ち合せしたのに何故かこなくてさ…」
俺は沈黙を討ち破るかのように言った。
「同じ…」
つぶやくように言った。
「君も誰かを待っていたの?」
「ここで待ち合せしていたのに…ぼくずっと待っているのに…」
あかい目だった、いつも泣いていたのかもしれない。
そんな感じの目だった、その目に涙をいっぱいためて俺の方を向いていた。

「あ、自己紹介がまだだったね」
俺は慌てていった。
まったく女の子の涙ほど見たくない物はない。
「僕、北川ッて言います。北川 潤、よろしく」
俺は笑顔で言った、けど引きつっていたかもしれない。
「ぼ、ぼく月宮あゆ…」
頬をちょっと赤く染め照れたように彼女は言った。
「あゆちゃんか、よろしくね」
「うん、北川君だよね」
微笑みながら言った。笑顔がかなり可愛かった。
「来る気配は無いし、お腹すいたし喫茶店でも行かない? それともリクエストある?」
「うぐぅ……えっと……たい焼きが良い」
恥ずかしそうにいう。
それにしてもたい焼きかぁ…。
寒くなってきたこの季節に暖かいたい焼きもまた捨てがたい。

「商店街に美味しいたい焼き屋があるから行こうか?」
俺が言うと彼女は心の底から嬉しそうな顔をして
「うん!」
と元気良く肯いた。
こうして、俺と彼女は出会い、付き会う事になった。

「うぐぅ……美味しいよぅ……」
涙を流して喜んでいた…。
「ぼ、僕の分もいる?」
思わず言ってしまった。
言わずにいられない迫力が彼女にはあったんだ。
「ほんとぅ? ありがとう北川君、うれしいよぅ…」
夕焼けの中、赤く染まったあゆが嬉しそうに大量のたい焼きを抱えているのが印象的だった。
たい焼きが食べられなかったのが残念だったがあそこまで喜んでくれると満足した気分になる。
「あのぅ…北川君、いる?」
一人でパクついていた事に気が付いたのか、あゆちゃんがきいてきた。
「あ、もらって良いのかな…」
俺は遠慮がちに答えた。
「うぐぅ…北川君いじわるだよ…」
どうやら抱えているたい焼きを全て取られると思ったらしい。
「あはは、じゃあ1
個もらって良いかな」苦笑しながら俺は言った。
「うん! 一緒に食べようね」
真っ赤な夕焼けの下で食べた、たい焼きはいつもよりはるかに美味しく、ちょっと涙の味がした。



「知らなかったよ…」
裕一がつぶやく。
「誰にも話た事が無いからな。それにしても俺も知らなかったよ。」
「何が…」
「まさか、あの娘が待っていたのがお前だったとは…」
「ふふふ」
「俺あの娘を待たせていた奴に会ったら…」
「会ったら?」
裕一は笑顔で答える。
「いや…やめた。…お前は彼女を迎えに来たんだし」
俺も笑顔で言う。
「話はそれで終わりか?」
「いや、まだまだある。時間は大丈夫か」
「ああ、たっぷりとある」
俺達の夜はまだ終わりそうに無い。

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