SSのコーナーへ   第五話へ


枷(第四話)

 

 

「ただいま」

 

路地裏を出て、どこも寄ることもなく屋敷へと帰ってきた。

 

「おかえりなさい、兄さん」

 

・・・何で秋葉が此処に?

 

時間は5時半・・・7時前には帰ってきているはずだから特に問題もないと思うのだが。

 

「あぁ、ただいま。秋葉」

 

「・・・・・・・・・」

 

秋葉の様子がどことなく、おかしい・・・というか元気がない。

 

・・・そうか。

 

お墓参りに行くって言って出ていったから、一応心配してくれているわけか。

 

「秋葉・・・」

 

「何ですか」

 

「特に落ち込んでるとかないからそんなに心配しなくてもいいぞ」

 

「なっ・・・心配なんかしてません。どうして私が兄さんの心配をしなくてはいけないんですか」

 

顔を真っ赤にして怒鳴る秋葉・・・それじゃ説得力ないぞ。

 

「じゃあ、何でこんなところにいるんだ?」

 

「これはたまたま通りかかっただけです・・・別に兄さんを待っていたわけじゃないんだから」

 

・・・自分で言ってるし。

 

「志貴さん、おかえりなさい」

 

スタスタと琥珀さんがやってくる。

 

「ただいま、琥珀さん」

 

「駄目ですよ、秋葉さま。そんなことおっしゃっては。ずっと窓から正門の方見て志貴さんが帰ってくるの見ていたじゃないですか」

 

「琥珀!!」

 

秋葉が顔だけでなく、髪までも真っ赤に染めて怒鳴る。

 

「それでは、私は仕事に戻りますね」

 

琥珀さんは逃げるように、行ってしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

何か気まずい・・・。

 

秋葉は視線を逸らしたままだし、俺も正直どうしていいか・・・。

 

「あの、兄さん・・・」

 

「ん・・・何」

 

「兄さんが出かける時は言いませんでしたけど・・・あの時の兄さんの目、いつかの時と同じ目をしていました」

 

いつかの時・・・あの時か。

 

俺が弓塚を消してしまって、抜け殻のように帰ってきた日。

 

「正直兄さんを行かせたくはなかったです。今度こそ戻ってこない気がしたので」

 

「戻ってこないって・・・別に危ないことしに行ったわけじゃないんだから」

 

「わかっています、それでも・・・」

 

「現にほら、帰ってきただろ」

 

「えぇ・・・そうですよね」

 

秋葉は自分を安心させるように言う。

 

「で、秋葉にちょっと話があるんだけど」

 

「話し?何でしょうか」

 

「いや、ここではちょっと・・・」

 

と言って、指をある方向に指す。

 

その視線の先には・・・琥珀さんが顔だけ覗かしてこちらを見ていた。

 

「・・・わかりました。では、夕食後私の部屋で・・・」

 

「あぁ。じゃ、俺は部屋に戻るよ」

 

「はい」

 

部屋に戻って一度考えを整理した方がいいかな。

 

何年も会えなかった人か・・・。

 

・・・・・・・・・。

 

「どうしたんですか?私の顔に何かついてます?」

 

「いや、何でもないんだ。じゃあ、後で」

 

・・・・・・部屋に戻って考えを整理してみる。

 

常に舞台の中心にいるから、だから物事を客観的に見れない・・・か。

 

確かにそうなんだろうな。

 

舞台に立っているよりも観客席にいるほうがよくわかるってことなんだろう。

 

でも、今の俺にはまだ弓塚の気持ちはわからない。

 

半分はシエル先輩に言われたことで分かった気がする。

 

確かに弓塚のあの笑顔は本物かもしれない。

 

結局救った、救われたというのはその本人が思うことで今さら俺が考えても仕方ない・・・ある意味割り切るしかないかもしれない。

 

ただ、わからないのは何故そのくらいのことで幸せになれるかってこと。

 

それは、今からわかろうとしていることなのだが。

 

秋葉に聞けば・・・本当にわかるのだろうか。

 

・・・いや、わからなければいけない。

 

そうでないと、また同じことを繰り返すだけだ。

 

今度こそ終止符を打たないと。

 

今度は俺の方から笑って弓塚に会いに行かないといけないしな。

 

コンコン

 

「はい」

 

ガチャ

 

「志貴さま、お食事の用意が出来ました」

 

「あぁ今行く」

 

・・・・・・・・・。

 

翡翠もずっと待っていたのかな・・・いやそんなわけないか。

 

翡翠・・・俺を籠の中から連れ出してくれた人、昔はお姉さんみたいな感じだったな。

 

「志貴さま、どうしました?」

 

「え・・・何で?」

 

「いえ、私の顔をずっと見ているものですから」

 

翡翠は少し顔を赤らめながら言う。

 

「あぁ、ごめん。そういうわけじゃないんだ。行こうか」

 

「はい」

 

・・・食卓に行くと既に秋葉がいた。

 

そして、無言の夕食が始まる。

 

これだけはいつになっても苦手なんだよな。

 

俺と秋葉が無言で食べて、翡翠と琥珀さんが無言で控えている・・・。

 

昼食は皆で食べるんだから夕食も皆で食べればいいと思う。

 

翡翠あたりは『使用人が雇い主と一緒に夕食をとるわけにはきません』とか言いそうだけど。

 

この現状をどうするかはまた後で考えるとして・・・。

 

・・・夕食を終え、部屋に戻る。

 

いろいろ考えようかと思ったがシエル先輩の言われた取り、今の俺では答えなんか見つけ出せるわけがない。

 

考えれば考えるほど、思考がマイナスになる。

 

だから考えない方がいいという結果に行き着いた。

 

秋葉を待たせるわけにもいかないし、そろそろ行くか。

 

部屋を出て秋葉の部屋へ・・・。

 

コンコン

 

「はい」

 

「秋葉・・・俺だけど」

 

「兄さんですか、どうぞ」

 

ガチャ

 

入ると同時に、紅茶の香りがする。

 

「そろそろだと思いましたので、先に紅茶の用意をしておきました」

 

「あぁ・・・ありがとう」

 

相変わらず準備がいいというか何というか。

 

「先ほど話しがあるといっていましたけど」

 

「あぁ・・・」

 

といいつつも言葉が詰まってしまう。

 

このこというと秋葉怒るんだよな・・・多分、いや間違いなく。

 

「兄さん?」

 

「えっと、このこと言うと秋葉怒るかもしれないけど、答えて欲しい・・・俺と離れて暮らした八年間のことを・・・教えて欲しい」

 

「・・・・・・・・・」

 

やっぱりちょっと怒っている・・・。

 

「兄さんはまた嫌なことを私に思い出させたいんですか? 

 

「いや、そういうつもりで・・・」

 

「じゃあ、何なんですか?」

 

「単純に秋葉がどう過ごしてきたのか知りたいだけだよ」

 

「だから・・・私1人がお父様に・・・」

 

「ごめん待った・・・」

 

「何ですか?」

 

「俺から話そうか。あの後、秋葉が手紙送ってくれたり、会いに来てくれたのも知ってる。本当に嬉しかった」

 

「・・・・・・・・・」

 

「今は全て理解している。俺が本当は遠野の人間じゃなくて、親父に暗示をかけられていたことも」

 

「兄さんその話は・・・」

 

秋葉が悪びれたように言ってくる・・・そんな秋葉を制して。

 

「頼むから最後まで話を聞いて欲しい。暗示かけられていたとしても、自分の感じた思いとかまでは暗示をかけることはできないはずだろ。だから本当に嬉しかったんだよ」

 

「兄さん・・・」

 

「今さら弁解するつもりはないよ。手紙を返さなかったのも秋葉から会いに来てくれたのに会わなかったのも本当だ」

 

「複雑だったんだよ。秋葉に会いたかったけど、遠野家から外れた人間だと思っていたしもう関わりあいたくなかったから」

 

「だから戻って来いって言われても、今さら戻る気もなかった。でも、秋葉がいたから戻ってきたというのが理由かな」

 

「だから改めて聞かせて欲しい・・・。秋葉がどんな風に過ごしてきたのかと何で俺を呼び戻したのかを・・・」

 

前に聞いたときは・・・俺は何も知らなかったから。

 

今はある程度自分のことや遠野家のこととかもわかってきて・・・その上で知りたい。

 

「私・・・私は・・・」

 

秋葉がポツポツと語り始める。

 

「私は・・・兄さんのこと忘れたことはありませんでした。あの事件以来・・・何もかもが壊れてしまって・・・」

 

あの事件・・・俺がシキに襲われたときのことか。

 

確かにあの時から全てが壊れてしまったのかもしれないな。

 

「兄さんに救いを求めていたのかもしれません。だからお父様が亡くなって、全権が私に移ったとき真っ先にやったことは兄さん呼び戻したこと」

 

「そっか」

 

そうだったのか

 

「はい・・・」

 

「でも、八年ぶりに秋葉に会ったとき・・・何かすっごい冷たい感じがしたんだけどあれは?」

 

というか思いっきり嫌われていると思ったし・・・。

 

「あ・・・あれは・・・その・・・」

 

視線を逸らしたりしてモジモジしている。

 

「単刀直入に聞くけど・・・あの時秋葉怒ってたのか?」

 

「そんなわけないじゃないですか!!」

 

・・・いや、でもあれは誰がどう見ても。

 

「その割にはすごい痛い言葉を突かれた気がするんだが・・・」

 

「あれは・・・その、遠野家の当主として毅然と振る舞わなければいけないと思っていましたし・・・ちょっと・・・」

 

「ちょっと?ちょっと何だよ?」

 

「・・・素直になれなくて、自分の気持ちとは反対のことを・・・ごめんなさい」

 

・・・・・・・・・。

 

「今までずっと会えなくてやっと会えたんです。それで自分でもどうしていいかわからなくて。もしかして・・・怒っています?」

 

「いや・・・」

 

シエル先輩が言っていた・・・ずっと向かい合うことが出来なくて、それが出来たときの人の気持ち・・・。

 

それが今、朧げながら見えてきたような気がした。

 

これから語られるであろう秋葉の言葉によって・・・。

 

 

 

 

続く

 

 

 

 

あとがき

今回秋葉ルート後にかなり近い形になっていますね。実際それを意図して書いていたのですが。メルブラMエンドはアルクェイド出てきませんし(戦うのは偽アルク)。前回と比べて結構すらすらと書けてしまったのですがただちょっと強引な感じがしますね締め方が・・・。本来ならこのようなところで締めるべきではないのですが、ここで締めとかないといつUPできるかわからないような気がしましたので、まだまだ続きそうですし。・・・結局志貴は答えを見つけることが出来るんでしょうか。それは現段階では作者の私にもわからない・・・これを現実逃避というんでしょうか♪♪ ではまた次回でお会いしましょう。

 

SSのコーナーへ   第五話へ