枷(第二話)
何故シエル先輩が此処に・・・。
「お花・・・お供えしてもいいですか?」
「あ・・・はい」
シエル先輩は座って、花を供えてじっと壁の方を見つめていた。
・・・俺は、シエル先輩が何故ここに来たのか考えながらもその光景をただ見つめていた。
「さて・・・と」
シエル先輩が立ち上がる・・・。
「何で私が此処に来たのかさっぱりという顔をしていますね、遠野君」
「えぇ、そりゃまぁ・・・」
ここに来るのは俺以外いないと思っていたし・・・。
「今日此処に遠野君が来る気がしただけです」
「今日なんですか?」
「はい、今日です」
“今日”ということを強く強調される。
・・・今日此処に?
昨日でも明日でもない・・・今日。
それは・・・つまり。
「シエル先輩・・・」
「何ですか?」
「昨日、あそこにいましたね」
「はい、いましたよ」
あっさりと答えてくれる先輩・・・いましたよって・・・。
「何で、あそこにいて助けてくれなかったんですか。おかげでこっちは・・・」
「あらあら、だってシオンのことは遠野君にお任せしますと言ったじゃないですか」
「それは、そうですけど」
それでも、ただ見てるだけなんて・・・やっぱり怒っていたのかな。
「もし、あそこで遠野君が負けてしまったら助けてあげようかなと思っていたんですけどね」
「はぁ・・・」
俺が勝っていたから助けに入らなかったと・・・。
「それに、私では彼女を拘束することは出来ても、救うことは出来ませんでしたから」
・・・・・・。
「結局貴方だけだったんですよ、彼女を救うことが出来たのは」
「じゃあ、もう1つ・・・何故シオンを捕まえにこなかったんですか? タタリがなくなったのならシエル先輩の優先順位はシオンの拘束なんじゃないですか?」
「あぁ、それですか。だって遠野君また邪魔するじゃないですか」
「え・・・」
それは・・・目の前でシオンが捕まえられるのは黙ってられないけど。
「彼女は自分で院に戻るって言っていたので・・連行されるより自身で戻る方が本人にとっても良いじゃないですか」
「あぁ・・・そうだね」
「本音を言ってしまえば、私が協会のものとあまり関わりあいたくないというのもあるんですけどね。遠野君も知っているように協会と教会は仲が悪いんです」
「はい」
「だから、いくら恩を売る形になったとしても接触したくないんですよ」
そうなると、協会から教会への要請というのも形だけのものなのかもしれない。
「シオンのことはわかりましたが・・・」
「何ですか?」
「俺に話しがあるんですよね?」
「はい、ありますよ」
「話してくれませんか?」
「・・・・・・・・・」
・・・さっきまでの笑顔は消え、真面目な顔になる。
「遠野君はもうわかっていると思いますけど・・・自分のしたことというのは取り消すことは出来ませんよ」
「私達は・・・それを背負いながら生き続けるしかないんです」
・・・私達!?
シエル先輩が俺のことを心配してくれているのはわかる。
でも、今の言葉は納得できない。
シエル先輩に何がわかるっていうんだ・・・。
自分の見知った人を・・・自分のことを好きといってくれた人のことを・・・。
自らの手で・・・消してしまった気持ちを・・・。
「遠野君?」
「先輩に・・・」
「・・・え」
「先輩に・・・俺の気持ちがわかるんですか?」
「先輩は教会の人で・・・処罰べき人を絶対悪と決め付けて処理してきた先輩に俺の気持ちがわかるんですか?」
わかっている・・・自分がおかしなことを言っていることは。
だが・・・何故だか、言わずにはいられなかった。
「そうですね、遠野君の言うとおりです。私には遠野君の気持ちはわかりません」
「だったら・・・」
「でも、似たような気持ちならわかりますよ」
シエル先輩は一瞬とても悲しそうな顔をして・・・。
「私は・・・この手で・・・両親を殺しましたから」
「・・・・・・」
言葉が・・・出なかった。
シエル先輩が・・・自分の親を・・・。
「あのアーパー女から何も聞いていないんですね。私は遠野シキの前のロアだったんですよ」
・・・そんなこと、アルクェイドからは何も。
「あの女は私なんてどうでもいいようですから、話さなかったんでしょうけど・・・」
「話を戻しましょうか・・・ロアの事はもう知っていますよね?」
「はい・・・自分があらかじめ決めておいた、社会的に地位のある家柄の子供に憑依して転生を繰り返していったんですよね」
「えぇ・・・遠野家の場合は、社会的にも地位もあり、人在らざるものの血が混ざっていて選ぶとしては最適なものでした」
・・・確かに。
「私の家は・・・特に社会的にも地位があるというわけではありませんし、遠野家のように特別な力があるというわけではありませんでしたが、格別魔力というものに優れていたようですね」
「そして・・・私が15歳の時・・・ロアが覚醒し、私の身体は乗っ取られました。・・・あの時の感覚はよく分かっています、自分の身体に違うものが入ってきて、支配されていく感覚が」
それは・・・俺の反転するのと同じ感じなんだろうか。
あぁ、でも七夜のそれは違うものとはいい難い・・・人格が変わるだけなのだから。
シエル先輩のは違う・・・完全に自分の感じとは違うもの。
「自分の中に違うものがあると感じた時、もう普通の生活は送れないと思い、一人部屋に閉じこもって過ごす日々が続きました」
「何日か続いて、もう大丈夫と思い部屋から出たときお父さんが迎えてくれました。でもそこで私の身体は終わりを迎えました」
「完全に・・・ロアに?」
「えぇ、その瞬間私の身体は完全にロアのものとなり・・・お父さんをこの手で・・・殺しました」
・・・・・・・・・。
「皮肉なものですよね、乗っ取られるなら全て取られてしまえばいいのに、自分の意識と手の感触だけは残っているんです」
・・・もう・・・もういい。
「その後・・・お母さんを殺し、その血を吸い・・・」
「もう・・・いいです」
その続きはもう聞きたくない。
「はい」
「ごめん、先輩。そんなこと知らずに自分だけが不幸みたいに勝手なこと言ってしまって」
「いえ、いいんですよ」
そう言って、シエル先輩は笑ってくれる。
でも、その笑顔はいつものものとは少し違う、やはり思い出したくないものだったんだろう。
「私は遠野君ではないですから、遠野君の気持ちが全部分かるわけではありません。でも、相談くらいには乗ってあげることは出来ますよ」
・・・・・・・・・。
「みんな・・・変ですよ」
「何がですか?」
「シエル先輩も琥珀さんも・・・自分のことで辛いのに。何でこんなにも、他人のことを心配してくれるんですか」
何で・・・俺なんかのために。
「あらあら・・・遠野君はおかしなことを言うんですね。そんなの決まっているじゃないですか」
おかしい?・・・おかしいのは・・・。
「自分の知っている人が辛い目にあっているのに、それをただ傍観なんて出来るわけないじゃないですか・・・それは遠野君も同じじゃないですか」
「俺が・・・俺のどこが・・・」
シエル先輩は・・・はぁとため息とついて・・・。
「そんなだから、みんながやきもきするんですね・・・。遠野君はもう少し自分のことを把握した方がいいですよ。じゃあ聞きますけど・・・何で最後までシオンに付き合ったんですか? 関わろうなんて思わなければ出来たはずじゃないですか」
「それは・・・シオンに・・・」
ここまで言ってようやく気付く・・・。
そっか・・・そういうことか。
「わかってくれましたね・・・。結局はそういうことですよ」
でも・・・これでは、解決にはならない。
「シエル先輩や琥珀さんが俺のことを心配してくれる理由はわかりました。でも、これじゃ・・・」
結局は・・・何も変わらない、事の始まりに行き着いていしまっただけ。
「シエル先輩が言うように、自分が犯した罪を背負い続けながら生きていかないというのもわかります」
そして、琥珀さんが言ってくれたように、そればかりを引きずっていても確かに辛い・・・だから心の引き出しにしまってあげればいいというのもわかる。
「でも、それで・・・何が解決するのか・・・何が分かるのか」
弓塚が・・・笑っていた理由・・・ありがとうと言ってくれた理由がわからない限り俺は前に進めない・・・また同じことを繰り返す。
「遠野君」
「何ですか」
「弓塚さんが最後に笑っていた理由・・・知りたいですか?」
「・・・え?」
いくら考えても出なかった答え・・・それをシエル先輩は知っているというのか。
そんなことあるわけないと思いつつも心のどこかで、シエル先輩の次の言葉を期待している遠野志貴がここにいた・・・。
続く
あとがき
最初・・・前編と書いたのに終わらない、終われない・・・結局私の文章力なんてこんなものなんでしょうか。でも、この疑問をそんな簡単に解決させてはならないと思い、もう少しだけシエル先輩との会話を続けることにしました。シエル先輩のことは、本編でも語られていますけど、それはあくまでシエル先輩ルートでアルクルートや、秋葉ルートでは語られてないということで、志貴は知らないという設定で書いています。今回のSS、かなり志貴がネガティブな思考ですけど・・・一応メルブラMエンドに限りさっちんのことが中心ですから、とことんさっちんのことについて考えてみてもいいのでのはと思っています。さて、いよいよ語られる、さっちんの「ありがとう」の意味・・・一体どんななんでしょう♪♪ ではでは、第三話でまたお会いしましょう。