私立遠野高等学校(課外授業3)
やっとのことで外にでることが出来た・・・。
自分が関与していないところで勝手にリスクを背負わされながら・・・。
「兄さん、行き先は決まっているんですか?」
「え・・・行き先?特に決まってないよ」
「な・・・じゃあ、兄さんは私達を何処に連れて行こうというんですか?」
いつも目的を持って行動している秋葉にとっては、今の俺の発言は理解しがたいものだったろう。
「ん〜、とりあえず繁華街に行って、適当に見て回って、食事してって感じかな」
「行き当たりばったりということですか?」
「まぁそうともいうかな」
「兄さんは、学校帰り・・・まっすぐ屋敷に帰らないでそんなことばかりしてるんですか?」
いや、そんなことって・・・これが普通の高校生の姿かなって思うんだけど。
お嬢様学校に通っている秋葉には到底・・・。
「そんなことって・・・そうかもしれないな。大抵は自分の目的より有彦やシエル先輩の用事に付き合うってことのほうが多いかな」
だって・・・金ないし。
「何か必要なものがあるのなら言っていただければこちらで用意すると何べんも言っていますと言ってるのに兄さんは何も言ってはくださらないじゃないですか。ということは何も要らないということなんですよね」
・・・・・・来た秋葉の名台詞。
「そう、そこなんだよ」
「え・・・」
「俺さぁ・・・いつか言おうと思っていたんだけど、要は俺が欲しいものは秋葉に言わなくちゃいけないってことだろ」
「えぇ・・・まぁそうなりますね」
「それって俺のプライバシーが完全にないってことなんだけど」
親ならまだしも妹である秋葉にこれ欲しいから買ってくれとはとてもじゃないけど言えない。
中には言えないようなものもあるし・・・。
「秋葉だって自分の買ったもの全部俺になんか言えないだろ」
「当たり前じゃないですか」
・・・予想通りの反応してくれる秋葉、この反応を待っていたりする。
「俺だって同じだよ。子供だって親からお小遣いもらって物を買うときわざわざ何買ったなんて報告しないだろ、ましてや俺はもう高校生なんだから」
「黙ってお金をよこせとでも言いたいのですか、兄さんは」
あ・・・ちょっと怒っている、何でそういう解釈の仕方になるのだろうか。
普段は切れ者の秋葉でもたまにこういう時がある。
「いや、親から貰うんだったらまだいいけど、秋葉からなんて貰えないよ。だから・・・」
「アルバイトをしたいと言うんですか?」
「そう・・・って何でわかったんだ?」
さっきまで変な解釈をしていたのに急に鋭くなるからこちらも驚いてしまう。
「そこまで言ったのなら私だって兄さんが何を言いたいのかわかります。そして・・・アルバイトはしてはいけません」
「じゃあ、俺はどこからお金を工面すればいいんだよ」
「ですから、以前と同じように私に言ってくだされば・・・」
だから、それじゃ一緒じゃないか。
結局俺の願いは秋葉には届かないようだ・・・。
前と同じように昼飯代を少しずつけずって貯めるしかないのかもしれない。
「大丈夫だよ、志貴・・・お金なんてなくても私に言ってくれればいくらでも上げるよ」
「え・・・何言ってんだアルクェ・・・が!!」
いきなり後ろから締め付けられる。
アルクェイドにしてみたらただ単に抱きついただけなのかもしれないが・・・こいつの馬鹿力を考えたら締め付けているようにしか見えない・・・。
本当に自分が吸血鬼という自覚があるのかたまに不安になる。
「と・・・とにかく・・・は、離れろ。く・・・苦しい・・・」
「もう・・・志貴ってば軟弱なんだから・・・」
ぶつくさ言いながら離してくれば・・・いや俺が軟弱というよりお前の力が強すぎるんだって・・・。
「で・・・何?」
「だから、私に言ってくれればお金なんていくらでもあげるよ。私、お金持ちだもん」
いや、そういう問題じゃなくて・・・。
「何言ってるんですか、兄さんはあなたに恵んでもらうほど落ちぶれていません」
いや、ある意味では落ちぶれているかもしれないぞ秋葉。
「え・・・だって、志貴落ちぶれてるよ・・・いっつもお昼代節約してるの知ってるもん・・・」
・・・また余計なことを・・・。
「・・・どういうことか説明してもらえますか、兄さん」
「・・・・・・・・・」
言えるわけないっての・・・。
「だって、いつもかけそばだったりするじゃん・・・」
何でお前が知ってるんだ、アルクェイド。
「えっと、遠野君が買ってきたカレーパンと私のお弁当を交換することもありますから、お腹が減るということはないんですけどね」
シエル先輩まで・・・。
「・・・・・・・・・私の知らないところでそんなことが・・・」
何か・・・すごい展開になってしまっているのは気のせいだろうか。
「・・・・・・・・・急用を思い出したので少々失礼します」
そんな言葉を残し、秋葉は再び屋敷に戻ってしまった・・・なんなんだ一体。
「妹いっちゃったよ、どうするの志貴? 私こんな日差しの強い中待っている嫌なんだけど」
「いや、どうするって言っても」
どうすれば、いいんだ。
「この際秋葉さんを置いていくのはどうでしょう」
「駄目です」
たまにシエル先輩もさらっと恐ろしいこと言ってくれるよな。
「あらあら、駄目ですよ。秋葉さまならすぐに戻ってきますから少しあいだ待っていてくださいな」
・・・と琥珀さんは2人をなだめてくれる。
もしかしたら、琥珀さんは秋葉の用事を知っているのかもしれない。
「そっか、じゃあ待っていようか・・・ちょっと暑いけど」
「あぁ、それでしたらいいものがありますよ」
琥珀さんは怪しげな薬の瓶を取り出す。
「これを、一口飲むとあら不思議♪♪ 暑さも寒さも感じなくなっちゃうんですよ♪♪」
「・・・・・・・・・」
「いえ、いりません」
「そうですか、残念です」
ちょっと残念そうに薬の瓶をしまった・・・。
いや、暑さも寒さも感じなくなったらやばいでしょう。
「志貴さま・・・これをどうぞ・・・」
翡翠が出しのは日傘だった・・・。
「ありがとう、随分準備がいいね」
「はい、ありがとうございます。でも・・・3本しかないんです」
「そっか・・・」
そうだな屋敷には俺、秋葉、琥珀さん、翡翠の4人しかいないし俺は日傘なんて使わないからな。
うーん、5人で日傘3本か・・・。
「じゃあ、私は志貴と〜♪♪」
「何言ってるんですか、遠野君との相合傘をするのは私です」
まぁた、お馴染みの展開になってしまっているなぁ。
「ほら・・・翡翠ちゃん」
「・・・姉さん、私は別に・・・」
アルクェイドとシエル先輩が争っている横で琥珀さんがぐいぐいと翡翠の背中を押している。
「どうしたの?」
「いえ・・・何でもありません」
「駄目よ、翡翠ちゃん。そんなだから出遅れちゃうんだから」
・・・う〜ん、話しの筋が見えないな。
日傘は3本で、1人1本使うことは出来ない。
で、2人1組で傘を使ないといけないわけだが・・・アルクェイドとシエル先輩はあんな調子なわけだしな。
・・・そうか、なるほど。
「翡翠・・・一緒に傘に入ってくれるかな・・・狭くて悪いけど」
「・・・え」
「琥珀さん悪いけど、あの2人のどちらか一方と傘に入ってもらえるかな」
「はい、わかりました・・・翡翠ちゃん良かったね♪♪ はいはい、お2人とも喧嘩は駄目ですよ」
琥珀さんは2人をなだめに行った。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
会話がないな・・・。
「そうだ、翡翠は秋葉の用意って知っているの?」
「秋葉さまのですか。いえ、知りませんが何となくわかります」
「そうなんだ・・・俺には見当もつかないんだよな」
琥珀さんも知っている感じだったし、翡翠も察しはついてるようだ。
「急だったからな、何か重要なことなのかな」
「はい、そうだと思います・・・」
・・・心なしか、翡翠の口調が強くなった気がした、もしかして俺が気付いていないというか見当もついていないからだろうか。
「そのうちにわかると思います」
「そうか・・・」
「でも、皆さん羨ましいです・・・」
「え・・・何が?」
「皆さんは自分の考えをちゃんと表現することが出来て・・・私にはとても・・・」
そうかなぁ・・・。
「そんなことないと思うよ・・・」
「そうでしょうか」
そりゃ、普通の人はなかなか気付かないかも知れない・・・事実最初のころは俺もわからなかったし。
でも、長く暮らしてきて、微妙な感情の変化とかはわかるようになった。
翡翠が伝えたいことも・・・。
「うん、わかるよ。アルクェイドやシエル先輩と比べたら、そうかもしれないけど・・・俺には翡翠の伝えたいこと・・・ちゃんとわかるよ」
「志貴さま・・・」
・・・やばい、このまま抱きしめてしまいそうだ。
「あら、私の言いたいことも理解していただけたら、とても嬉しいんですけど」
「・・・・・・・・・」
日差しが強く、暑いのに背中がぞっとした。
「あぁ、秋葉、用事は済んだのか?」
「えぇ勿論、それにしても私がいないうちに、兄さんは相合傘ですか」
「・・・う、勘違いするなよ、これは・・・」
「えぇ、私だってこの状況を見ればわかります。良かったわね、翡翠・・・」
「・・・・・・・・・」
う・・・秋葉のやつここぞとばかりに翡翠のこといじめ始めた。
「それより、お前だって散々こっちを待たせたんだから、何か一言あるだろ」
体よく話を切り替える。
「え・・・えぇ、お待たせしてすいませんでした」
「・・・で、何しに言ってたんだ?」
「私の知らないところで兄さんがよからぬことをしないための処置です」
「・・・言ってる事が全然理解できないんだけど」
「大丈夫です、新学期になればわかりますから。さぁ、改めて行きましょうか」
何となくわかってしまった・・・八割方当たっていることだろう。
秋葉は多分、うちの学校に編入する気だ。
でも、こっちとしてもそれは望むところだったのかもしれない。
家でしか秋葉と話ことなかったから・・・。
でも、それは俺の個人的なことであって、秋葉のことを考えたら必ずしも良いとはいえないのかもしれないな。
複雑な気分だな・・・とりあえず、秋葉もすごい満足だし良い方向に向かってくれればいいんだけど。
秋葉もこっちの学校に来るんだったらいろいろと教えないといけないこともあるから・・・今回が良い機会かもしれないからな。
「あぁ・・・じゃ、行こうか」
続く
あとがき
一体何日経ってしまったのやら・・・すごい久しぶりになってしまった気がしますね。それにしてもなかなか出かけることが出来ませんね。何処に行く?からなんでアルバイトの件を経て秋葉の編入・・・。滅茶苦茶に見えるかもしれませんが、自分では辻褄はあっていると考えたいです。アルバイトのことは一度やってみたかったり・・・これなら秋葉を納得させることも出来るかなと自分なりに考えたのですが、結果・・・却下ということで。それにしても志貴君は相変わらずのラブラブハンターですね・・・自分で書いといて何なんですが、あんなだから他の人はやきもきするんでしょうね。本人にはあまりそんな意識がないというのがまた罪なのでしょうけど・・・。さてさて次こそ繁華街に行ってそこからの本当に志貴君の授業を始めたいと思っています。では、次回またお会いしましょう。